日本鳥学会2017年度大会自由集会報告:全国で増える都市のムクドリ塒問題を考える

企画:越川重治1・川内 博1・和田 岳2
1 都市鳥研究会,2 大阪市立自然史博物館

 ムクドリは,古くから水田や畑の害虫を食べてくれる鳥として大切にされてきたが,昨今は都市の駅前の街路樹や電線等に集団で塒をとり,その鳴き声の騒音,糞や羽毛などの衛生面などで社会問題化しつつある.住民からの苦情を受けた多くの自治体はいろいろな追い出しの対策を実施し,自分のところからいなくなれば,問題は解決したと考えている.しかし,ムクドリは塒場所を変えて,近くの自治体の駅前に新たな塒を作って移動し,都市塒は全国に拡大してしまった.この問題は,自治体の垣根を超えてより広域的に考えていかなければいけない問題となった.ムクドリの生態や行動を科学的に調べコントロールしていくことが大切だが,多くの自治体の対症療法的な対応は逆に塒場所を増やし,人工物塒への移動等により対応を難しくしている.その中でも特定の自治体は,専門家の話を聞きムクドリ問題に苦悩しながら,解決策を模索している.今回は全国に拡大し,より深刻化しているムクドリ塒の実態と,行政側から問題点をあげてもらい,鳥の専門家の皆さんとその問題点をまとめ,討論により,新たな方向性を見つけ出したいと考えこの自由集会を企画した.

話題提供1 市川市でのムクドリ対策
田中榮一(千葉県市川市環境部自然環境課主幹)

 市川市におけるムクドリの飛来状況は,大きな波として2回ある.最初にムクドリが東京地下鉄東西線の行徳駅周辺に集団飛来したのは2004年である.駅前の街路樹や周辺の電線に,最大で5,000羽近いムクドリが飛来し,夜間を過ごすようになった.これにより駅前周辺では,鳴き声による騒音被害や大量の糞が落下するなど衛生面の問題が発生し,近隣住民や駅利用者から市に相談や苦情などが多く寄せられた.このため市では塒となっている樹木の強剪定,防鳥ネット掛け,職員によるサーチライトの照射や忌避音による追い払い,定期的な道路清掃などを行って対策を講じてきた.また東京電力にも協力を求め,電柱や電線へ「止まり防止の忌避装置」の設置を依頼し,共同で対策を進めたところ,2008年にはムクドリが分散し,塒が解消されたことで一定の成果が得られた.2回目の飛来は,2013年8月頃からで,再び1,000羽近いムクドリが行徳駅前のクスノキに集団塒をとるようになったため,クスノキの強剪定を実施したところ,ムクドリは忌避装置の付いていない電線に移動し,2017年も塒を形成している.
 このような状況により次の課題が見えてきた.ムクドリに対する強い追い払いは,他の人工物へ移動させるだけで,根本的な解決にはなっていない.対策を進める上で,関係課との連携が取れていないため対策が場当たり的になってしまっている.ムクドリの生態を踏まえた対策となっていないことも解決できない課題として捉えている.これらの課題を踏まえ次の3点について検討する必要があると考える.
 1)市川市のムクドリに対する「基本的な考え」を整理し,対策に反映させることが必要である.追い払っても他の場所へ移動するだけで,根本的な解決にはなっておらず,再飛来の恐れがあることから,都市部において,ムクドリと「どのように付き合うのか」を考えなければならない.このため,都市鳥専門家の意見を聞き,共存方法についての棲み分けをどのように進めるのか,具体的に示す必要があると考える.
 2)関係課との連携と段階的な応援体制を整える必要がある.これは対策場所により対応する部署が異なるため,市民からの苦情対応として安易に実施し,塒を分散させている可能性がある.関係課と足並みを揃え,効率的に進めるためにも連携体制は必要であると考える.
 3)現在の塒の追い出し方法と,塒としての居場所への誘導方法を検討し,状況改善の検討を進めることである.ムクドリの生態からどのような追い出し方が有効であるか,また,塒としての受け入れ方法をどのようにすれば良いのかを研究し,ムクドリの誘導を図ることで,適切な場所での人とムクドリとの共存が図れるものと考える.

話題提供2 大阪府周辺のムクドリの集団塒の状況
和田岳(大阪市立自然史博物館)

 2014年9月~2015年2月に,大阪鳥類研究グループによって,大阪府内のムクドリの集団塒の調査が行われた.調査には34名が参加し,ムクドリの集団塒が27カ所で確認された.
 一番規模が大きかった集団塒は,高槻市役所や堺市役所前で10月に確認され,1万羽を超えていた.大部分の集団塒は,樹木に形成されていたが,阪南市には電線に形成された集団塒が確認され,貝塚市では高速道路の高架に集団塒が形成されていた.それぞれの集団塒は,1–2回しか調査しなかったので,正確な季節変化は明らかにできなかった.しかし,10月から11月前半には駅前などのにぎやかな地域に形成された大規模な集団塒が多かったのに対して,11月半ば以降は駅から離れた場所に小規模な集団塒が報告される傾向があった.集団塒が形成された樹も,季節とともに街路樹から竹林にシフトしていた.1990~1991年度に日本野鳥の会大阪支部が実施した大阪府内のムクドリの集団塒調査の結果を見ると,集団塒の数や規模に違いはあまり見あたらないが,駅前の街路樹に形成された大きな集団塒が報告されていないことが特筆される.
 2015年9月13日–2017年9月12日の期間について,Twitterにおける駅前のムクドリの集団塒についてのツイートを調査した.「ムクドリ 塒 駅」「ムクドリ 大群 駅」「ムクドリ 集団 駅」「鳥 大群 駅」「鳥 集団 駅」で検索した結果,具体的な駅前のムクドリの集団塒の観察例と判断できるツイートが267件抽出できた.ツイートされた月をみると,10月がピークで,ついで9月,11月のツイートが多かった.これは駅前にムクドリの集団塒が形成される季節を,おおよそ示していると考えられる.ツイートの中身は,6.7%が肯定的,63.7%が中立的,29.6%が否定的だった.少なからぬ人々が,ムクドリの集団を「怖い・気持ち悪い」と感じていた.
 都市のムクドリの集団塒の問題を考える時,人々がムクドリの集団を「怖い・気持ち悪い」と感じることについての配慮が欠かせないと考えられる.

話題提供3 ムクドリの都市塒の増加と塒の成立要因
越川重治(都市鳥研究会)

 全国の都市塒を把握するため,各自治体へのアンケート調査,インターネット調査,文献調査などにより,確認された都市塒は2017年までに全国で350カ所以上みつかった.1980年代後半より増加しはじめ2000年以降は,新たな塒が急増した.都道府県別都市塒の数は,北海道,東北,四国,九州地方は比較的に少なく,関東,中部,近畿地方に都市塒が多かった.特に多いのは埼玉県,千葉県,東京都,大阪府,神奈川県,愛知県,福岡県,茨城県,長野県である.塒が作られた都市環境は,駅前(53.1%)や繁華街・官庁街(26.0%)が多く,両者で約8割になる.都市塒で使われた樹種は,ケヤキが多く,人工物では電線が多かった.自治体はムクドリを追い出すために樹木の強剪定,ネット掛け,ディストレスコール等の忌避音,忌避剤,爆竹,超音波・特殊波動,鷹匠(ハリスホーク)などにより追い出しを行うが,塒は郊外の林へは移動せず,都市環境に残り,他の自治体の駅前などに移動して小規模の都市塒が全国に拡大してしまった.
 ムクドリが駅前や繁華街に集まる要因はなんであろうか.これを解明するために千葉県,東京都,神奈川県,埼玉県の主な21カ所の塒で,2012年から2017年にかけて塒の明るさ,人通り,交通量,ビル壁の調査を行った.ビル壁とは,塒場所近くに存在する壁のように立ちはだかるビルディングのことである.その結果,明るさ,人通り,交通量ともに塒形成の決定的な要因とはいえなかったが,ビル壁は,調査した21カ所のすべてに存在した.1面だけのものから4面すべてにビル壁が存在する塒もあり,ビル壁により近い街路樹に塒をとる傾向があった.塒のある樹木や電線より高いビル壁が存在している所に都市塒は作られる場合がほとんどであった.
 ビル壁が塒形成の決定的な要因として考えられる例が2例ある.1例目は千葉県船橋市の新京成電鉄高根公団駅前である.ここでは公団住宅が取り壊され,壊されたビル壁沿いにあった塒が消失し,2017年はビル壁が残っている場所のみで塒が存在していた.2例目は千葉県市川市の東京地下鉄東西線行徳駅前である.2017年には,塒が存在するのは6 階以上のビル壁のある電線で,2階以下のビル前の電線には塒は存在していなかった.
 自治体の垣根を超えてより広域的に考えていくため2018年より広域的なムクドリ対策会議を千葉県から開催して行く予定である.

まとめ
 発表者からの「行政の立場だと共存策をとった場合,何羽くらいまで,どこの場所で,どのタイミングでなら共存できるのかを判断するのが難しい」という問いかけに対し,参加者からは「ヒト側の意識を「少しぐらいいてもええやないか」と変化させることを考えても良いと思う」,「問題になっている塒と,問題になっていない塒を比較すると何かが見えてくるのではないか」など,ムクドリの塒との共存を願う意見が多かった.
 全国に拡大しつつあるムクドリの都市塒の問題は,すぐには解決できる問題ではないが,行政の立場からの発表者を交えての討論と意見交換は,自由集会ならではのもので,ムクドリの塒問題の広域的な対策会議に繋がる,意義深いものとなった.

この記事を共有する

2016年度大会から南富良野町への台風災害義援金に対する礼状

日本鳥学会2016年度大会事務局

 2016年度大会の際に,参加者の皆様から,南富良野町における平成28年台風10号大雨被害への義援金として,総額24,000円のご寄付をお預かりしました.昨年12月に配布が完了した旨の報告と礼状が,南富良野町から事務局宛に届きました.礼状が届いてから時間が経ってしまいましたが,ここに書面を公開し,ご寄付いただいた皆様へのご報告とさせていただきます.ご協力ありがとうございました.

この記事を共有する

日本鳥学会ポスター賞を受賞した感想

2017年10月16日
西條未来(総研大)

ポスター賞を受賞できてとても嬉しく思います。
私はまだまだ鳥に関して知らないことが多いので、今回の学会ではたくさんのアドバイスをいただけて、とても勉強になりました。来年の発表に活かしたいと思っています。ありがとうございました。
初めての鳥学会での受賞なので、来年の発表にプレッシャーを感じますが、来年以降も面白い成果を残せるように頑張ります。
副賞として、学会Tシャツとmont-bellのマウンテンパーカーをいただきました!ありがとうございます!去年のポスター賞受賞者で研究室の先輩でもある加藤さんと、うっかり色が被ってしまいました。

ポスターの概略
チドリ目の多くは、河原や砂浜などの開けたところで、地面に巣を作ります。そのため、チドリ目の雛や卵は強い捕食圧に晒されることになります。親鳥は雛や卵を守るために、様々な対捕食者行動を進化させてきました。
チドリ目の対捕食者行動は、大きく2つに分けることができます。1つ目は、モビングなど直接捕食者を攻撃する攻撃行動です。2つ目は、擬傷行動など、捕食者の注意を引き付けるはぐらかし行動です。多くの種は攻撃行動、はぐらかし行動のどちらかの行動をとります。しかし、行動どちらの行動を行うか、その生態学的・進化的な決定要因は明らかになっていませんでした。
本研究では、チドリ目の対捕食者行動の決定要因について、文献調査と系統種間比較を用いて、以下の点を明らかにしました。

① 体サイズ
体サイズが大きい種は攻撃行動、小さい種ははぐらかし行動をとる種が多いことが分かりました。これは、体サイズが大きい種は卵、雛の防衛成功率が高いが、小さい種は防衛成功率が低く、怪我をする可能性があるためだと考えられます。はぐらかし行動は捕食者との距離が保てるので、攻撃行動に比べて安全であると考えられます。

② コロニー性
コロニー性の種は攻撃行動をとり、はぐらかし行動をとらなくなるような進化的推移があることがわかりました。これは、コロニー性の種は集団でモビングが出来るので、効率的に捕食者に攻撃ができるためだと考えられます。

③ 営巣場所
樹上・崖の上に巣を作る種は、攻撃もはぐらかしもほとんどしません。樹上や崖は利用できる空間が限られていますが、地上に比べて捕食圧は低いと考えられます。そのため、樹上や崖に営巣すること自体が一つの対捕食者行動になっていると考えられます。

本研究では、チドリ目の対捕食者行動の種間差を生み出す生態学的・進化的な決定要因について明らかにしました。今後はフィールドに出て、行動観察から新しい発見をしたいと思っています。
来年もよろしくお願いします!

西條.jpg
この記事を共有する

日本鳥学会ポスター賞を受賞して

2017年10月16日
向井喜果(新潟大)

 私は鳥の研究を始めて6年目になりますが、実は日本鳥学会に参加するのはこれで2度目だったりします。ポスター発表のコアタイムでは、研究を聞きに来てくださった方々と議論しているうちに楽しくなってきて、ポスター賞のこともすっかり忘れて話をしていましたが、審査委員の方が現れてポスター賞受賞とのこと、びっくりしました。自身の研究を評価していただけてとても嬉しく光栄に思うとともに、ポスター賞受賞に恥じないように、これからも日々研究に邁進していかなくてはと身を引き締める思いです。最後に、現地調査や実験などにご指導・ご協力していただいた多くの方々にこの場を借りて御礼を申し上げます。

ポスターの概略
 希少種の生息地保全を行う上で、対象種がなにをどのくらい食べているかといった食性情報は必要不可欠となっています。従来の食性解析では、直接観察や胃内容物分析といった形態学的な手法が行われてきましたが、餌内容の大半を不明種が占めていたり、観察者によるバイアスがかかったりといった問題点が挙げられていました。これらの問題を解決するため、近年、対象種の糞に含まれるDNA情報を基に餌種を特定するDNAバーコーディング法という分子学的手法が注目を集めています。しかし、DNAバーコーディング法のみでは植食性動物の餌となっている植物の葉や実などの部位のどこをどのくらい食べているかを特定することが難しいです。そこで、本研究では、準絶滅危惧種オオヒシクイAnser fabalis middendorffiiがなにをどのくらい食べているのか明らかにするため、DNAバーコーディング法によって餌種の特定を行い、さらに特定された餌植物について部位に分けて餌構成割合を炭素・窒素安定同位体比分析によって評価しました。これまで国内で報告されていなかった種を含む60種の餌植物が検出されるとともに、主要餌植物の各部位の炭素・窒素安定同位体比が有意に異なっていたため、餌植物の部位を含めたオオヒシクイの食物構成割合が明らかになりました。

向井.jpg
この記事を共有する

第二回日本鳥学会ポスター賞 向井さんと西條さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会
佐藤望

 若手の独創的な研究を推奨する目的で設立された日本鳥学会ポスター賞。今年は西條未来さん(生態・行動分野)と向井喜果さん(保全・形態・遺伝・生理・その他分野)が受賞しました。おめでとうございます。
 ポスター賞は昨年より設置された新しい賞ですが、昨年に引き続き今年も40名近くの応募がありました。受賞者はもちろんですが、それ以外にも目の引くポスターがたくさんあり、審査員で議論に議論を重ねて賞を決定しました。
 ポスター賞は30歳を超えるまで何度でも挑戦できます。今回、応募した皆さんには来年も是非、挑戦してもらいたいと思います。残念ながらポスター賞を受賞したお二人は応募する事ができませんが、今後は後輩達のお手本となるような研究・発表を期待しています。
最後となりましたが、ポスター賞の審査を担当して頂いた6名の方、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル、大会実行委員にこの場をお借りして御礼申し上げます。

Saijo.jpg
生態・行動分野の受賞者の西條未来さん(総研大)と西海功学会長

Mukai.jpg
保全・形態・遺伝・生理・その他分野の受賞者の向井喜果さん(新潟大)と西海功学会長

この記事を共有する

昨年度黒田賞をいただいて

2017年9月11日
北海道大学水産科学院
風間健太郎

昨年名誉ある黒田賞を受賞いたしましたこと、大変うれしく思います。受賞からおよそ一年が経ってしまいましたが、関係者のみなさまに改めてお礼申し上げます。今年の受賞者は長谷川克さんに決定し、来週に迫った鳥学会(9/17)で受賞講演があります。拝聴するのが今から楽しみです。

さて、私の受賞理由を拝見する限り、私がこのような立派な賞を受賞できたのは、短い研究経歴の中で行動・生理といった基礎分野から生態系サービスや保全といった応用分野に至るまでの幅広いテーマに関わってきたことを、多少なりとも評価していただいたからだと思います。

昨年大会の受賞講演でも述べた通り、私がこのような多様なテーマの研究を展開してきた理由は決してポジティブなものだけではありません。研究テーマ転換の主たる理由は、雇用問題にありました。

私は大学院博士課程までは一貫してウミネコの行動・生理生態学的研究を行っていましたが、博士号取得後しばらくの間は無給の研究生として過ごしました。その後、名城大学の研究プロジェクトにポスドクとして雇用していただいたのですが、そのプロジェクトのテーマは「里山の物質循環と環境調和型農業」という応用研究であり、私のそれまでの基礎ど真ん中の研究とは大きくかけ離れていました。新たな知識や技術習得までには多くの時間を要するため、研究テーマの大きな転換はともすれば精神的にも大きな負担となります。それでもほかに選択肢のなかった私は、なかば仕方なしにこの研究プロジェクトに従事することになりました。

しかし私の場合、性格がひねくれていたおかげもあり、当初戸惑いばかりだった新規研究プロジェクトへの挑戦も、(周囲からの心配や同情をよそに)気づけば好機ととらえていました。結果的には、このプロジェクトのおかげで安定同位体分析手法を習得でき、鳥類の生態系機能や生態系サービス研究への着想に至りました。このように、窮地として訪れた研究テーマの大きな転換も、その後の多様な研究への展開につながる貴重な機会となったため、今ではありがたかったと思っています。

鳥学会でもたびたび議論されている通り、若手研究者の雇用問題は深刻です。一部のきわめて優秀な人を除けば、一貫した研究テーマに長く従事することはもちろん、類似するテーマの短期雇用にありつくことさえ難しくなって来ています。私と同様に、早い段階で研究テーマの大きな転換を強いられる若手も多くなっていることと思います。このような状況においては、研究テーマの転換を前向きにとらえることも大切かもしれません。

もっとも、こうした考え方には賛否あるでしょう。鳥学通信のシリーズ「鳥に関わる職に就く」においても、研究者としてのあり方・考え方について濱尾章二さんが「一芸を伸ばす」ことの重要性について大変説得力のある文章を掲載されています。研究者の価値は、高度に研ぎ澄まされた専門性にほかなりませんから、濱尾さんの文章には深く賛同します。「一芸を伸ばす」ことの妨げにもなってしまう頻繁な研究テーマの転換は、研究者としてはもちろん避けたいものです。

私の場合、「一芸を伸ばす」とは少し異なりますが、短期雇用の研究員を渡り歩く中でも一貫して継続してきたことがいくつかあります。その一つが学生時代から継続して来た利尻島でのフィールド研究に毎年通うことです。私はこれまで、どんな雇用条件の下でも(時に有休を使って)利尻島に毎年必ず通い続け、最低限の野外データをとってきました。そうしたおかげで、どのような研究テーマにおいても毎年得てきたウミネコの基礎生態や生活史に関するデータを活用し、常に中長期的な視点を盛り込みながら研究を展開することができました。短期間な成果が求められるプロジェクトに従事しつつも、自身の研究哲学やスタイルを最低限維持する必要はあるかもしれません。

ところで、今この文章を書いている私の現在の雇用期間も残り半年になり、公募書類と向き合う日々が続いています。半年後、私は研究者としてこの業界に残っていられるでしょうか?この記事では窮地を前向きにとらえることの大切さを偉そうに述べてきた私ですが、まもなく(人生何度目かの)無職という最大の窮地を前向きにとらえるほどの度量はもちろん持ち合わせていません。胃薬が手放せない日々はまだ続きそうです。

祝賀会.jpg

最後は気楽な話題で終わりましょう。昨年の鳥学会では受賞祝賀会を開催していただき、なんと70名を越える方々にご参加いただきました(写真)。本当に多くの方々に祝福していただき、参加者の皆様にはこの場を借りて改めてお礼申し上げます。(私の人望がないことを隠すため、いくつかの自由集会の合同懇親会を兼ねて参加者を水増ししていたことは内緒です。)

この記事を共有する

ポスター賞を受賞して

2016年10月13日
東邦大学生物学科 松下浩也

(1)受賞時の心境
 人生初の学会参加ということもあり、学会がどのような場所なのかわからず、私のように形態学を学んでいる人間が果たして受け入れてもらえるのか不安だった。そのため、学会ではポスター賞のことは何も考えず、学会を楽しむことに専念しようと思っていた。最初にポスター賞の受賞を知った時には、「本当に僕でいいんですか?」と審査委員の方々に聞きたくなった。しかし、今となっては、自身の研究をこれだけ評価していただけたことは光栄であり、人生で最もうれしい出来事の一つであったと実感している。そして、今まで苦手であった人前での発表に対して自信がついた。これを励みにして、これからも新たな発見ができるように日々精進したいと思う。

(2)ポスターの概略
 鳥類の特徴といえば、嘴や翼、羽毛などの形態を想像する人が多いと思う。しかし、鳥類の特徴は足にも見られる。鳥類の足は生息環境や行動に対応して多様な形態が見られるが、多くの水鳥の足は水かきをもち、それは蹼足や全蹼足、弁足などに分類される。蹼足や全蹼足は水かきが趾どうしをつなぐ構造をもつ。一方で、弁足は独立した各趾の縁に弁膜と呼ばれる葉状の膜構造をもつ。弁足は現生鳥類のうちツル目クイナ科のオオバン属(Fulica)の全種、ツル目のヒレアシ科(Heliornithidae)の全種、カイツブリ目(Podicipediformes)の全種、チドリ目シギ科のヒレアシシギ属(Phalaropus)の全種の4系統のみで見られる珍しい形態である。しかし、弁足が形成される仕組みは未だ解明されていない。今回、私は弁足を持つツル目クイナ科のオオバン(Fulica atra)と、その近縁種で弁足を持たないツル目クイナ科のバン(Gallinula chloropus)の胚発生を調べた。趾の外部形態と内部形態を2種で比較し、オオバンの弁足形成で観察された新発見について報告した。

オオバン-IMG_6048.JPG
弁足をもつオオバン
この記事を共有する

ポスター賞を受賞した感想

2016年10月13日
総合研究大学院大学 加藤貴大

 この度は日本鳥学会のポスター賞を頂くことができ、嬉しく思います.私は研究を始めた2010年から鳥学会に参加しており,今大会で7回目の参加となります.その間に,鳥学会での発表を通して色々な方からアドバイスを頂き,お手伝いをして頂きました.学会の皆様のご助力があっての受賞だと思います.

 他の学会にも実質的に学生を対象としたポスター賞などがありますが,鳥学会が公式に執り行うポスター賞はこれまでにありませんでした.今回,鳥学会の変化に立ち会うとともに,第一回の受賞者となれたことが大変ありがたいです.今後,若手の鳥類研究者にとっては,鳥学会のポスター賞こそが最も身近な目標の1つとなるのではないかと思います.さらに,副賞として学会スタッフTシャツを,mont-bellさんからサンダーパスジャケットを頂きました!(写真1)。これほど豪華なポスター賞は鳥学会にしかないと思います.早く寒くならないかと,いつにも増して天気予報を気にするこの頃です.

 嬉しさがある一方で,少し戸惑うこともあります.もちろん賞を頂いたことは大変ありがたいのですが,ややプレッシャーでもあります.今回が第一回ということもあるので,より一層精進しなければと,身の引き締まる思いです.

 最後になりますが,ポスター賞を創設して下さった評議員の方々,2016年度大会を運営された方々,ポスター賞審査員の方々,そして研究協力して下さった方々にお礼申し上げます.ありがとうございました.

DSCN1311.JPG

写真1. mont-bellさんから頂いたレインジャケットを着て野外観察している様子.

発表内容
 スズメ Passer montanusの♂胚死亡率が繁殖条件とホルモンレベルに応じて変化する,という研究を発表しました.スズメの孵化率が6割程度であり,他の鳥類よりも孵化率が低いことが知られています(写真2).この孵化率の低さはイエスズメやスペインスズメなどのスズメ属鳥類でも報告されています.「なぜ,孵化率が低いのだろうか?」という単純な疑問が本研究の出発点です.

 研究を進めていくうちに,多くの未孵化卵は受精卵であり発生初期段階で死亡していること,また,死亡する胚のほとんどが♂であることが分かりました(性特異的死亡).そして,繁殖密度が高い場所や,巣場所競争が激しい場所で繁殖する場合,性特異的死亡が多く見られました.さらに、性特異的死亡の生理的な要因も調べました.性特異的死亡は,♀親や卵黄のステロイドホルモンレベルとの関連が報告されています.そこで,雛の糞中ホルモンなどからコルチコステロン量を測定し,性特異的死亡の関連を示唆しました(前後しますが,繁殖密度などに注目した理由はこれです).

 鳥類では発生段階の他に,巣内雛,巣立ち後段階などでも性特異的死亡が報告されていますが,どのような状況下で死亡率が高まるかについては不明でした.本研究は,繁殖条件に応じて性特異的死亡が起こることを明らかにしました.今後は性特異的死亡の生態学的機能についても調べたいと考えています.

DSC_0030.JPG

写真2. スズメの孵化雛と未孵化卵.多くの巣で,孵化しない卵(胚発生初期に死亡する卵)が見られる.

この記事を共有する

日本鳥学会ポスター賞 初代受賞者は加藤さんと松下さんに

2016年10月13日
日本鳥学会企画委員会

2016年度大会より学会が表彰する「日本鳥学会ポスター賞」が始まりました。これまでにも各大会の実行委員会が主催したポスター賞が不定期に開催されてきましたが,今年からは学会が毎年,若手(30才以下)の優秀ポスターを表彰することになりました。

そして初代の受賞者が総研大の加藤さんと東邦大の松下さんに決まりました。おめでとうございました。受賞者の今後の活躍が「ポスター賞」の価値を決めていきます。プレッシャーをかけるわけではありませんが,今後も良い研究をつづけていってください。

最後になりましたが,審査をしていただいた6名の方,副賞をご提供いただいたモンベル,そして副賞のTシャツとともに,いろいろな事務手間をおかけした大会実行委員会の皆さま,ありがとうございました。
初めての審査ということもあり,審査員の皆さんに多大な負担をかけてしまいましたが,今回の反省をもとに,負担が軽くなるようにして来年以降実施していこうと思います。ポスター関係者,指導教官などを除くと,審査をお願いする人が限られていしまうことが賞実施の上の悩みどころでした。来年以降,審査員のお願いがいきましたら,学会を盛り上げるためにもぜひ,快くお引き受けいただけたらありがたいです。よろしくお願いします。

02写真.jpg

初代受賞者 加藤貴大さん(左)と松下浩也さん(右)。上に着ているのはモンベルから副賞としていただいたジャケット

この記事を共有する

日本鳥学会2016年度大会自由集会報告:チュウヒ研究の〝今〟

2016年10月11日

企画者:多田英行(日本野鳥の会・岡山)、先崎理之(北大院・農)、高橋佑亮(伊豆沼・内沼環境保全財団)

(文責:多田英行)

チュウヒはヨシ原を代表するタカの仲間で、生態系の豊かさを象徴する生き物です。しかし、繁殖地が限定的であることなどから、これまであまり生態研究が行われてきませんでした。一方で、近年はメガソーラー開発などの新たな課題が発生しており、チュウヒの保全のためにも生態の解明が急がれています。
今大会は国内最大級のチュウヒの繁殖地である北海道での開催ということで、チュウヒの自由集会を開催するには最適な機会となりました。当日は60名を超える参加者に訪れていただき、みなさんのチュウヒへの関心の高さを感じることができました。

チュウヒ2.JPG

【各講演の概要】
1.日本のチュウヒの生態~地域や季節による多様性~(多田英行)
 これまでに報告されている文献を基に、チュウヒの採餌環境や餌動物などが季節によって異なることや、行動圏の広さや営巣環境などが生息地によって異なることなどが紹介されました。

2.勇払原野のチュウヒ(先崎理之・河村和洋)
北海道勇払原野での営巣環境や繁殖成功率について発表されました。営巣地周辺の採食地や人工構造物の多さが、チュウヒのペア数や巣立ち雛数に影響するとの研究内容も紹介されました。

3.北海道のチュウヒの営巣環境について(一北民郎)
北海道で見られる営巣環境について、ササ環境の事例も含め、営巣地の植生や水深などのデータが発表されました。また、これまでの観察経験からチュウヒの営巣環境の選択に関する考察も紹介されました。

4.秋田県八郎潟干拓地のチュウヒ(高橋佑亮)
本州以南最大の繁殖地である八郎潟干拓地での繁殖状況や営巣環境、採食生態などが発表されました。また、遷移の進行によるヨシ原の衰退がチュウヒの繁殖を脅かしていることが紹介されました。

【まとめ】
 本集会では主に繁殖期のチュウヒについて最新の知見が報告され、チュウヒの生態を参加者と共有することができました。一方で、チュウヒの生息個体数や繁殖成功率などの基礎的な情報が未だに把握されていないことを再認識しました。チュウヒの生息地の減少要因として自然開発以外にも遷移の進行が課題であることが指摘され、チュウヒの保全のためには生息に適した代替環境を創出していく必要も議論されました。
各地のチュウヒについてまとまった形で情報交換がされる機会はまだまだ少ないので、本集会が今後のチュウヒの研究と保全に繋がる一助になれば幸いです。

チュウヒ1.JPG
この記事を共有する