ポスター賞を受賞して

2016年10月13日
東邦大学生物学科 松下浩也

(1)受賞時の心境
 人生初の学会参加ということもあり、学会がどのような場所なのかわからず、私のように形態学を学んでいる人間が果たして受け入れてもらえるのか不安だった。そのため、学会ではポスター賞のことは何も考えず、学会を楽しむことに専念しようと思っていた。最初にポスター賞の受賞を知った時には、「本当に僕でいいんですか?」と審査委員の方々に聞きたくなった。しかし、今となっては、自身の研究をこれだけ評価していただけたことは光栄であり、人生で最もうれしい出来事の一つであったと実感している。そして、今まで苦手であった人前での発表に対して自信がついた。これを励みにして、これからも新たな発見ができるように日々精進したいと思う。

(2)ポスターの概略
 鳥類の特徴といえば、嘴や翼、羽毛などの形態を想像する人が多いと思う。しかし、鳥類の特徴は足にも見られる。鳥類の足は生息環境や行動に対応して多様な形態が見られるが、多くの水鳥の足は水かきをもち、それは蹼足や全蹼足、弁足などに分類される。蹼足や全蹼足は水かきが趾どうしをつなぐ構造をもつ。一方で、弁足は独立した各趾の縁に弁膜と呼ばれる葉状の膜構造をもつ。弁足は現生鳥類のうちツル目クイナ科のオオバン属(Fulica)の全種、ツル目のヒレアシ科(Heliornithidae)の全種、カイツブリ目(Podicipediformes)の全種、チドリ目シギ科のヒレアシシギ属(Phalaropus)の全種の4系統のみで見られる珍しい形態である。しかし、弁足が形成される仕組みは未だ解明されていない。今回、私は弁足を持つツル目クイナ科のオオバン(Fulica atra)と、その近縁種で弁足を持たないツル目クイナ科のバン(Gallinula chloropus)の胚発生を調べた。趾の外部形態と内部形態を2種で比較し、オオバンの弁足形成で観察された新発見について報告した。

オオバン-IMG_6048.JPG
弁足をもつオオバン
この記事を共有する

ポスター賞を受賞した感想

2016年10月13日
総合研究大学院大学 加藤貴大

 この度は日本鳥学会のポスター賞を頂くことができ、嬉しく思います.私は研究を始めた2010年から鳥学会に参加しており,今大会で7回目の参加となります.その間に,鳥学会での発表を通して色々な方からアドバイスを頂き,お手伝いをして頂きました.学会の皆様のご助力があっての受賞だと思います.

 他の学会にも実質的に学生を対象としたポスター賞などがありますが,鳥学会が公式に執り行うポスター賞はこれまでにありませんでした.今回,鳥学会の変化に立ち会うとともに,第一回の受賞者となれたことが大変ありがたいです.今後,若手の鳥類研究者にとっては,鳥学会のポスター賞こそが最も身近な目標の1つとなるのではないかと思います.さらに,副賞として学会スタッフTシャツを,mont-bellさんからサンダーパスジャケットを頂きました!(写真1)。これほど豪華なポスター賞は鳥学会にしかないと思います.早く寒くならないかと,いつにも増して天気予報を気にするこの頃です.

 嬉しさがある一方で,少し戸惑うこともあります.もちろん賞を頂いたことは大変ありがたいのですが,ややプレッシャーでもあります.今回が第一回ということもあるので,より一層精進しなければと,身の引き締まる思いです.

 最後になりますが,ポスター賞を創設して下さった評議員の方々,2016年度大会を運営された方々,ポスター賞審査員の方々,そして研究協力して下さった方々にお礼申し上げます.ありがとうございました.

DSCN1311.JPG

写真1. mont-bellさんから頂いたレインジャケットを着て野外観察している様子.

発表内容
 スズメ Passer montanusの♂胚死亡率が繁殖条件とホルモンレベルに応じて変化する,という研究を発表しました.スズメの孵化率が6割程度であり,他の鳥類よりも孵化率が低いことが知られています(写真2).この孵化率の低さはイエスズメやスペインスズメなどのスズメ属鳥類でも報告されています.「なぜ,孵化率が低いのだろうか?」という単純な疑問が本研究の出発点です.

 研究を進めていくうちに,多くの未孵化卵は受精卵であり発生初期段階で死亡していること,また,死亡する胚のほとんどが♂であることが分かりました(性特異的死亡).そして,繁殖密度が高い場所や,巣場所競争が激しい場所で繁殖する場合,性特異的死亡が多く見られました.さらに、性特異的死亡の生理的な要因も調べました.性特異的死亡は,♀親や卵黄のステロイドホルモンレベルとの関連が報告されています.そこで,雛の糞中ホルモンなどからコルチコステロン量を測定し,性特異的死亡の関連を示唆しました(前後しますが,繁殖密度などに注目した理由はこれです).

 鳥類では発生段階の他に,巣内雛,巣立ち後段階などでも性特異的死亡が報告されていますが,どのような状況下で死亡率が高まるかについては不明でした.本研究は,繁殖条件に応じて性特異的死亡が起こることを明らかにしました.今後は性特異的死亡の生態学的機能についても調べたいと考えています.

DSC_0030.JPG

写真2. スズメの孵化雛と未孵化卵.多くの巣で,孵化しない卵(胚発生初期に死亡する卵)が見られる.

この記事を共有する

日本鳥学会ポスター賞 初代受賞者は加藤さんと松下さんに

2016年10月13日
日本鳥学会企画委員会

2016年度大会より学会が表彰する「日本鳥学会ポスター賞」が始まりました。これまでにも各大会の実行委員会が主催したポスター賞が不定期に開催されてきましたが,今年からは学会が毎年,若手(30才以下)の優秀ポスターを表彰することになりました。

そして初代の受賞者が総研大の加藤さんと東邦大の松下さんに決まりました。おめでとうございました。受賞者の今後の活躍が「ポスター賞」の価値を決めていきます。プレッシャーをかけるわけではありませんが,今後も良い研究をつづけていってください。

最後になりましたが,審査をしていただいた6名の方,副賞をご提供いただいたモンベル,そして副賞のTシャツとともに,いろいろな事務手間をおかけした大会実行委員会の皆さま,ありがとうございました。
初めての審査ということもあり,審査員の皆さんに多大な負担をかけてしまいましたが,今回の反省をもとに,負担が軽くなるようにして来年以降実施していこうと思います。ポスター関係者,指導教官などを除くと,審査をお願いする人が限られていしまうことが賞実施の上の悩みどころでした。来年以降,審査員のお願いがいきましたら,学会を盛り上げるためにもぜひ,快くお引き受けいただけたらありがたいです。よろしくお願いします。

02写真.jpg

初代受賞者 加藤貴大さん(左)と松下浩也さん(右)。上に着ているのはモンベルから副賞としていただいたジャケット

この記事を共有する

日本鳥学会2016年度大会自由集会報告:チュウヒ研究の〝今〟

2016年10月11日

企画者:多田英行(日本野鳥の会・岡山)、先崎理之(北大院・農)、高橋佑亮(伊豆沼・内沼環境保全財団)

(文責:多田英行)

チュウヒはヨシ原を代表するタカの仲間で、生態系の豊かさを象徴する生き物です。しかし、繁殖地が限定的であることなどから、これまであまり生態研究が行われてきませんでした。一方で、近年はメガソーラー開発などの新たな課題が発生しており、チュウヒの保全のためにも生態の解明が急がれています。
今大会は国内最大級のチュウヒの繁殖地である北海道での開催ということで、チュウヒの自由集会を開催するには最適な機会となりました。当日は60名を超える参加者に訪れていただき、みなさんのチュウヒへの関心の高さを感じることができました。

チュウヒ2.JPG

【各講演の概要】
1.日本のチュウヒの生態~地域や季節による多様性~(多田英行)
 これまでに報告されている文献を基に、チュウヒの採餌環境や餌動物などが季節によって異なることや、行動圏の広さや営巣環境などが生息地によって異なることなどが紹介されました。

2.勇払原野のチュウヒ(先崎理之・河村和洋)
北海道勇払原野での営巣環境や繁殖成功率について発表されました。営巣地周辺の採食地や人工構造物の多さが、チュウヒのペア数や巣立ち雛数に影響するとの研究内容も紹介されました。

3.北海道のチュウヒの営巣環境について(一北民郎)
北海道で見られる営巣環境について、ササ環境の事例も含め、営巣地の植生や水深などのデータが発表されました。また、これまでの観察経験からチュウヒの営巣環境の選択に関する考察も紹介されました。

4.秋田県八郎潟干拓地のチュウヒ(高橋佑亮)
本州以南最大の繁殖地である八郎潟干拓地での繁殖状況や営巣環境、採食生態などが発表されました。また、遷移の進行によるヨシ原の衰退がチュウヒの繁殖を脅かしていることが紹介されました。

【まとめ】
 本集会では主に繁殖期のチュウヒについて最新の知見が報告され、チュウヒの生態を参加者と共有することができました。一方で、チュウヒの生息個体数や繁殖成功率などの基礎的な情報が未だに把握されていないことを再認識しました。チュウヒの生息地の減少要因として自然開発以外にも遷移の進行が課題であることが指摘され、チュウヒの保全のためには生息に適した代替環境を創出していく必要も議論されました。
各地のチュウヒについてまとまった形で情報交換がされる機会はまだまだ少ないので、本集会が今後のチュウヒの研究と保全に繋がる一助になれば幸いです。

チュウヒ1.JPG
この記事を共有する

日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「鳥の巣昆虫:10年の総括と今後の展望」

2016年10月6日
世話人:上田恵介・那須義次

鳥学会の自由集会で今まで我々が取り組んできた、鳥の巣と昆虫との研究について、何がどこまでわかったのか、何がわかっていないのか、今後の課題等について紹介しました。当日は午後6時30分の開始にも関わらず、28名もの方に参加いただきました。感謝申し上げます。以下に発表内容等について簡単に紹介します。

鳥の巣昆虫01.jpg

1.鳥の巣と昆虫:これまでのまとめ 

那須義次・村濱史郎・松室裕之・上田恵介

この10年、我々が取り組んできた鳥の巣と昆虫について、昆虫は鳥の巣を繁殖、越冬および蛹化の場に利用していることを、フクロウ類、カラ類、カワウ、ブッポウソウ、コウノトリなどの巣の事例を紹介した。鳥と昆虫との関係では、昆虫は巣内の糞やペリット、食べ残し、巣材を摂食しており、巣内清掃に一定の役割を果たしていると考えられること、鱗翅類では非常に珍しい幼虫産出性(卵胎生)が見られ、その進化と鳥の巣に生息することとの関係が示唆されること、巣内温度は抱卵・育雛中に外気温よりも高く、このことが巣内共生者に有利に働いていることなどを紹介した。今後は鳥と巣、巣内共生者との相互関係の詳しい解明、幼虫産出性の進化、巣内共生者の適応行動の解明等および共同研究を進める必要性について述べた。

2.先島諸島の巣内昆虫 

村濱史郎・那須義次・上田恵介・松室裕之

石垣島・西表島など八重山諸島には樹上に球型や紡錘型のコロニーを形成するタカサゴシロアリが生息している。コロニーには長径で1メートルを超えるような巨大なものもある。同諸島に分布する亜種リュウキュウアカショウビンiはこのシロアリの巣に穴を穿って営巣する習性がある。一方、珊瑚隆起礁である宮古島にはタカサゴシロアリは生息せず、同島に分布しているリュウキュウアカショウビンは枯木に穴を穿って営巣している。

鳥の巣昆虫02.jpg

筆者らは西表島および石垣島のタカサゴシロアリ巣に営巣するリュウキュウアカショウビンと宮古島の枯木に営巣するリュウキュウアカショウビンの繁殖済の巣の、巣内に生息する昆虫相に違いが見られるか調査を実施した。また宮古島では同じく枯木に営巣するリュウキュウコノハズクと樹上に開放巣をつくり営巣する亜種リュウキュウハシブトガラスの繁殖済巣の調査も実施した。さらに西表島と宮古島の林内に羽毛トラップとウールトラップを設置し両島および鳥類の巣、内外に生息するガ類の分布の違いについても調査を行った。

調査の結果、西表島でタカサゴシロアリの巣43巣を発見しそのうち16箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認した。石垣島では17のタカサゴシロアリの巣から2箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認できた。宮古島では枯木に穴を穿ってつくられたリュウキュウアカショウビン巣9巣、リュウキュウコノハズク巣5巣、リュウキュウマツに架巣されたリュウキュウハシブトガラス巣、1巣の調査を実施している。

これらの巣およびトラップからはガ類に限定して言えば、本州でも広く確認されている、フタモンヒロズコガ、マエモンクロヒロズコガなどのほか、Tinea subalbidella 、Ceratophaga sp.、Erechthias sp.など10種の蛾を確認し、そのうち6種は日本未記録種または新種と考えられるものであった。
今後継続して調査を進めサンプル数を増やし、宮古、八重山両諸島間、そして鳥類の巣の内外の昆虫相の相違を明らかにして行きたい。

3.ルリカケスとオオトラツグミの巣にすむ昆虫

上田恵介・石田健・水田拓

奄美大島には固有種のルリカケスと、固有亜種のオオトラツグミが生息しているが、これらの鳥の巣の昆虫相を調査した。

鳥の巣昆虫03.jpg

オオトラツグミの自然巣は、コケ、土を主体にした清潔な巣で、ミミズ(餌のミミズの生き残り?)が生息していたものの、昆虫は少なかった。また鱗翅類幼虫はいたが、羽化しなかったので、同定できなかった。

ルリカケスの巣箱は,石田が系統的に調査をしている巣箱を調べた。ルリカケスが使用した巣箱の中には大量の枯れ枝が持ち込まれていて、比較的、乾燥した印象であった。出て来た昆虫は鱗翅目では、枯葉食・腐植食のヒロズコガ類、シマメイガ類、シマチビツマオレガ、キチン食もおこなうマダラマルハヒロズコガとキチン食性が考えられるアトボシメンコガなどであった。

鞘翅目昆虫ではリュウキュウオオハナムグリが特筆できる。この種は2005年にルリカケスの巣箱から採集され、本種と確認されたのが最初である。2014年9月の調査では3つの巣箱で50匹もの幼虫が採集され,本種がルリカケスの人工巣箱巣をよく利用していることがわかった。巣箱によって幼虫の大きさが異なり,同じ巣箱では大きさはそろっていたことから、同時期に産卵されたものと考えられた。このときは他に自然巣1個を調査したが幼虫はいなかった。

リュウキュウオオハナムグリがルリカケスの自然巣ではなく、巣箱を利用する理由は観察例数が少ないので断定は出来ないが、自然巣は湿度が高いことが原因している可能性がある。またリュウキュウオオハナムグリの生活史については、成虫は7月に巣箱に飛来し、産卵、幼虫は越冬後6-7月に羽化すると推定された。
ほかに、猛禽類やカラスの巣からはアカマダラハナムグリ、フクロウの天然巣や巣箱からはコブナシコブスジコガネとシラホシハナムグリ、リュウキュウコノハズクの自然巣からはミヤコオオハナムグリが見つかっている。

こうした調査から見えて来たものは、鳥の巣にはコガネムシ類(とくに数が少なく珍しいハナムグリ類)が多く生息していることが分かってきた。これらのハナムグリ類などは、鳥の樹洞巣を好む傾向があると考えられる。これまで鳥の樹洞巣の昆虫相については非常に情報が乏しかったので、これらコガネムシ類は希少と思われて来たのであろう。沖縄本島には樹洞性巣の環境エンジニアとして、ノグチゲラやリュウキュウアカショウビンが生息している。絶滅が危惧されているヤンバルテナガコガネもこうした樹洞を利用している可能性は高い。

4.虫のすみかとしての鳥の巣-まだわかっていないこと 

濱尾章二
鳥の巣昆虫04.jpg

近年、いろいろな鳥の巣から多くの昆虫が見つかり記録されてきた。しかし、生態に関わる情報は不足している。鳥の巣をめぐる生物のネットワークを解明し、生態系における鳥の役割を明らかにするためには、巣から見いだされる昆虫の記録にとどまらない研究が必要だ。濱尾ら(2016,日鳥学誌 65: 37-42)は、シジュウカラの巣箱を用いた調査から、ヒナが巣立った巣で蛾類の発生が多いこと、巣立ち後巣材を採取するまでの日数が長いとケラチン食の蛾が発生しやすいことを明らかにし、昆虫が積極的に鳥の古巣に侵入し繁殖することを示唆した。今後は、鳥の巣が昆虫の繁殖場所としてどれほど重要であるのか(例えば、他の場所と鳥の巣を利用する割合)、また、鳥の巣を利用する昆虫の利益とコスト(例えば、湿度・温度の影響、捕食者・寄生者の影響)を明らかにしていくことが重要だろう。

この記事を共有する

日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「漁業による海鳥混獲の削減をめぐる国際動向と国内での取り組み」

企画者:越智大介・井上裕紀子 (水産研究・教育機構 国際水産資源研究所) ・佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)

2016年10月6日
文責:越智大介

皆さんは「混獲」という言葉をご存知でしょうか。「混獲」とは漁業で本来の漁獲対象生物以外のものが意図せず漁獲されてしまうことを意味します。一部の漁業では、海鳥が混獲されることがあり、しかもその中には絶滅が懸念される種が含まれるため、希少海鳥類の個体群保護の観点から大きなリスク因子となっています。本自由集会では鳥学会員にはあまりなじみがないと思われる「漁業による海鳥混獲」をテーマに、海鳥混獲削減対策に関する国際的な動向や混獲削減のための研究状況を紹介し、さらに現在日本国内で行われている海鳥混獲削減に向けた取り組みについて紹介し、海鳥混獲対策の今後について議論を行いました。

漁業01.jpg

【発表の概要】
1.最近の海鳥混獲をめぐる国内外の動向

越智大介(水産機構・国際水研)

越智からは、漁業による海鳥混獲問題についてこれまでの経緯と現在取られている対策について簡単な解説を行いました。海鳥混獲問題は1980年代ごろからまぐろはえ縄漁業による混獲を起因とする南半球のアホウドリ類繁殖個体群の減少という形で顕在し始め、その後も同様の問題が次々報告されるようになりました。こうした状況を受け、国連総会やFAOの場で規制や対策が打ち出され、その後現在に至るまでは地域漁業管理機関(国際条約により定められた、公海上の漁業を管理・規制する国際機関)や各漁業国において現状調査・混獲削減技術開発・混獲削減措置の順守などの海鳥混獲対策が取られるようになりました。また、希少海鳥の個体群保護については、海鳥混獲対策のみならず、繁殖地の保全・環境整備や、生態情報の調査研究も同様に重要であり、これらの分野と連携し、海鳥個体群保護を目指した包括的なアプローチをとる重要性についても説明を行いました。

漁業02.png

図 希少海鳥保護のための包括的アプローチのイメージ。青は漁業、緑は調査研究、赤は保全関連分野を示す

2.近年導入された混獲削減措置とその評価方法

井上裕紀子(水産機構・国際水研)

井上さんからは、国際海域で行われているまぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減措置について具体的な説明がありました。まぐろはえ縄漁業で用いられている主な混獲回避手法としてトリライン(海に投入されるはえ縄の上に吹き流し付きロープを渡して海鳥の釣り餌へのアクセスを防ぐ)、加重枝縄(釣り糸(枝縄)におもりを付け、釣り餌を海鳥の潜水深度より深い水深に早く沈める)、夜間投縄(海鳥の採餌活動が低下する夜間に操業する)の3種があげられ、この3種から2つの回避措置を選択して使用する規制が新たに導入されたことが紹介されました。また、その評価方法として、混獲率と総混獲数の推定が使用されることが説明されました。さらに、実際の漁船から得られた混獲情報を用いて、夜間投縄、加重枝縄に効果があったことが紹介されました。

3.まぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減手法の研究紹介

勝又信博(水産機構・国際水研)

勝又さんからは、まぐろはえ縄漁業で使われている海鳥混獲回避手法の研究及び実験結果の紹介をしていただきました。まず、海鳥がはえ縄に混獲される経路として、海に投入したはえ縄についた餌を表層や潜水により直接採餌して鈎に掛かる場合とその餌を横取りしようとして鈎に掛かる場合の二つのケースがあることが説明されました.これらの混獲を防ぐ方法として,上記のトリラインと加重枝縄を北半球のまぐろはえ縄漁業に適した形に改善した混獲回避装置を開発し、その効果を検証するために実際に操業を行うはえ縄漁船での実証実験の方法と、その結果が報告されました。

4.刺し網・流し網混獲の国際的な研究動向とバードライフの取り組み

佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)

佐藤さんからは、刺し網・流し網漁業で混獲される海鳥の問題について解説がありました。先に述べたとおり、北太平洋では公海流し網による海鳥混獲が90年代に全面禁止となった一方で、ロシア経済水域内では日本漁船も参加するサケ・マス流し網がその後も続いており、相当数の海鳥(ウミスズメ類・ミズナギドリ類)の混獲が報告されていましたが、昨年操業が全面禁止となったことが紹介されました。さらに沿岸で行われる固定型刺し網でも海鳥の混獲が懸念事項となっており、近年これに対して海鳥の視覚に訴える海鳥混獲回避手法が開発され、その有効性について実験が行われていることについて解説がありました。

5.北海道・天売島における刺し網混獲対策事業の紹介

山本 裕(日本野鳥の会)

山本さんからは、昨年より開始された刺し網海鳥混獲の削減手法に関する実験について紹介がありました。ウミガラスやウトウ、ウミウなどの海鳥の繁殖地となっている北海道の天売島において実施された、先に佐藤さんが紹介した海鳥の視覚を利用した混獲防止網の実証実験に関する説明がありました。実験では、混獲防止網と通常の網を同時に用いて混獲数や漁獲量などのデータ収集が行われており、混獲削減効果についてはまだ十分に情報が集積していないものの、漁獲量や漁業者の使い勝手の問題があるため、さらなる改善が必要であるという説明がありました。

6.総合討論

総合討論では、海鳥混獲の現在の状況や、国内漁業における混獲問題など様々なコメント、意見、情報提供など活発な議論が行われました。特に国内の沿岸漁業での混獲に関しては利害関係者の間で合意形成を根気強く行っていく必要があるという意見が印象的でした。

7.終わりに

本自由集会は初日の早い時間帯での開催であったにもかかわらず、多くの人に参加いただき、終了間際には廊下に人が立つほどとなりました。正直私としましては、比較的マイナーな「海鳥混獲」の話なのでそこまでの人の集まりは予測しておらず、関心のある人の多さに驚き、またうれしく思いました。今後もまたどこかで、海鳥混獲問題を議論する場ができればと思っています。私の発表パートの部分にも書きましたが、海鳥の個体群保護のためには漁業サイドで海鳥混獲対策をとるだけでは片手落ちで、調査研究に基づいた海鳥種の生活史情報をもとに、繁殖地での保護対策と同時に行うことでより有効な対策となるはずですので、今後はこういった包括的な連携をどう形成していくかということも重要になってくるのかな、と個人的には考えています。
最後に、海鳥混獲に興味を持たれた方への参考資料を紹介してレポートを終わりたいと思います。

8.参考資料

FAO (1999) International Plan of Action: Seabirds ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/006/x3170e/X3170E00.pdf
水産庁 (2007) はえ縄漁業における海鳥の偶発的捕獲を削減するための日本の国内行動計画 http://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/bunyabetsu/pdf/umidori_keikaku160315_a.pdf
Žydelis, R., Small, C., & French, G. (2013). The incidental catch of seabirds in gillnet fisheries: A global review. Biological Conservation, 162, 76-88.
Clarke, S., Sato, M., Small, C., Sullivan, B., Inoue, Y., & Ochi, D. (2014). Bycatch in longline fisheries for tuna and tuna-like species: a global review of status and mitigation measures. FAO fisheries and aquaculture technical paper, 588.

この記事を共有する

日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「ドローンを使った鳥類調査」

2016年9月25日
企画者 上野裕介(東邦大学)・時田賢一(岩手大学)
文責 上野裕介

ドローン(UAV)の進歩と低価格化によって,鳥の目線での空撮が身近になった。鳥類学の分野でも,ドローンを使った調査事例が増えつつあり,鳥類学の発展や保全での活用が期待されている。一方,昨年には航空法が改正され,ドローンを活用する上での制約も出てきた。

そこで実際の調査にドローンを活用している演者8名から,鳥類研究における活用法を紹介するとともに,ドローンの特徴や最新機器に関する情報,環境調査の技術,法制度や安全な運用方法などについて紹介する自由集会を開催することとした。

当日は,ドローンに対する期待の表れなのか,約70名の方々にご参加いただくことができ,鳥学会会員の関心の高さがうかがわれた。

写真2.jpg
会場の様子

【各講演の概要】
1.チュウヒの繁殖状況調査におけるドローンの試用例
高橋佑亮(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)

 ドローンを使ったチュウヒの巣内雛数の把握,巣や雛の判読限界高度,ドローンに対する親鳥の反応について報告があった。DJI Phantom2 Vision+を用いた調査では,巣の直上100mからの撮影であれば巣の判読が可能であり,50mからの撮影では巣内雛数の判読が可能であった。親鳥の反応については,飛行高度○mであれば安全であるということは必ずしも言えないが,数十m離せば比較的影響は小さいと思われた。以上の結果から,上記機種を用いてチュウヒの巣内雛数を把握する場合,飛行高度は50m程度が目安であるとの報告であった。
 またドローンは,踏査での調査に比べて省力化できる点や営巣地の植生破壊を伴わない点で有効な調査方法になるとの考えが示された。とはいえ,ドローンはチュウヒにとってストレス以外の何物でもないため,ドローンによる調査の必要性をよく検討し,最小限の使用にとどめるべきとの指摘もあった。

2.ドローンを利用したマガンカウントの試み
神山和夫(NPO法人バードリサーチ)

 マガンのねぐらでのカウントを行うために,ドローンを用いた事例についての報告があった。課題として,出前~日の出直後の照度が大きく変化する時間帯の撮影であること,またマガンがねぐら出を迎えるまでのわずかな時間で撮影を終える必要があることなど,技術的な難しさが示された。

3.保護区域外のツル識別とカウントの試み
時田賢一(岩手大学農学部)

 飛来個体の増加により,保護区域の外(周辺圃場)で採餌する個体の把握に,ドローンを用いた事例の紹介があった。現行行われている総個体数カウントでは誤差の検証ができないため,個体数のカウントや,採餌地などのツルの土地利用の把握を行う上でドローンが役立つとの報告があった。
一方,ツルの群れへの接近は,低空(撮影高度付近)での水平方向からアプローチは避けた方が良く,離陸地点であらかじめ高度を十分に取ってから撮影地点上空に移動した後,ツルの反応を確認しながら徐々に高度を下げたほうが良いとの考えが示された。また,ドローンの音を気にしているようだとの指摘もあった。

4.釧路湿原におけるタンチョウの調査事例
松本文雄(釧路市動物園)・小林功・山田浩行(パシフィックコンサルタンツ株式会社)・上原裕世(酪農学園大学)

 アクセスが困難な湿原内の調査において,個体の発見や雛数のカウントに,ドローンが活用可能であることが示された。特に,ドローンにズームレンズ付きのカメラを搭載することで,より高高度での撮影が可能になり,個体への影響も小さくすることができそうだとの報告があった。

5.湿原性鳥類の営巣植生調査におけるドローンの試用例
中山文仁((一財)自然環境研究センター)
 
 湿原性鳥類の調査における課題として,背丈の高いヨシなどにより見通しが効かないこと,植生に覆われた水域の配置がわかりにくいことが挙げられる。そこでドローンによる空撮を行うことで,営巣場所や周辺環境(水域)を調査した事例が報告された。特に周辺環境(水域)の調査では,空撮画像のRGB情報をもとに簡易な画像処理を施すことで,およその範囲を抽出できることが示された。

6.モニタリングにおけるドローン技術の利用可能性
鈴木透(酪農学園大学)

 鳥類のモニタリングへの空撮の利用可能性を検討するために、飛行高度と画像の解像度による水鳥の判別の可能性を報告した。大小のカモ類の種判定,個体数のカウントを行う場合を想定し,原寸大のデコイを様々な条件で撮影することで必要な高度,画角を計算した結果、種の判別には約1cm程度の高い解像度が必要であることが明らかになった。

7.空撮・測量・環境調査の技術と法制度,安全管理
上野裕介(東邦大学)

 ドローンで空撮した画像は,個体や群れのモニタリングだけでなく,地形測量にも使うことができる。そこで,撮影位置を少しずつずらし連続撮影したオーバーラップ画像から対象物の3次元構造を復元する写真測量技術(Structure from Motion:SfM)と,SfMを用いた立体測量の技術について報告した。また野外での検証結果から,おおむね高さ方向の計測誤差が数cm~5cm程度に収まることを示した。またドローンにまつわる航空法の改正や損害賠償保険,安全な運用方法についてお話しした。

写真1.jpg
講演の様子

8.ちょっと変わったドローンの活用法
山田浩之(北海道大学)

 ドローンとは,そもそも飛行機である。カメラを搭載すれば空撮機となり,気象観測やレーサープロファイラなど他のセンサーを積めば計測機になる。アタッチメントを装着すれば,サンプル採取や運搬が可能になる。その一例として,採水ボトルをぶら下げたドローンによって池の水を採取する方法を報告した。一方,不運にもドローンが墜落することもある。墜落したドローンの再利用法(プロペラ編,カメラ編)を紹介した。

【まとめと感想】
 これまで空撮画像を得るには,高額な航空写真や衛星写真を購入する他なかった鳥類研究者にとって,安価で簡単に空撮を行うことができるドローンは大変便利な道具である。簡単に空撮が行えるようになったことは,調査のために人が鳥の生息地に立ち入る回数を減らすことにつながり,調査圧の軽減に役立つ。一方,空撮による鳥への影響(特に撮影高度や撮影頻度との関係)は十分にわかっておらず,対象個体に十分に注意しながらの手探りでの調査が続けられている。そのため営巣地や塒の空撮などで,必要以上にドローンを接近させたり,頻繁に飛行を繰り返したりすることは慎むべきである。本自由集会のような調査事例や技術情報の共有から,ドローンによる鳥類調査を鳥にとっても人にとっても安全で快適なものにする必要があるだろう。
他方,今回の自由集会では鳥類を専門とする人たちが,個個別別に運用スキルを磨き,調査技術の改良・開発にも取り組んでいる現状があることがわかった。ライト兄弟が1903年に空を飛んでから,既に110年超が経過し,飛行機を用いた空撮や調査技術は大きく進歩している。またドローン調査についても,防災分野などでは10年以上前から実用化が試みられてきた。それらの技術の蓄積を導入することで,ドローンによる鳥類研究を大きく飛躍させることができるだろう。他分野の研究者や技術者と協力することで,鳥類の生態解明や生息環境の把握,保護・保全につながる新たな発見や気づきを,ドローンという鳥の目が私たちに与えてくれる日も近いと感じている。

※ドローンに関するご質問や共同研究のご相談は,随時受付けています。
 ご遠慮なくお問い合わせください。

この記事を共有する

研究オトコと研究オンナの生きざまを考える:ポスター発表のご報告

2016年8月8日
日本鳥学会企画委員会 堀江明香

鳥の研究に限らず、調査・研究は楽しいものです。知的好奇心は調べるほどに膨らんでいき、明らかにできたものの倍ほどの疑問が湧いてくる。そうして続く研究生活は、大変ではあるものの、大きな達成感と充実感をもたらしてくれます。私自身も、迷いを含みつつ、研究者として生きていきたいと希望しているひとりです。

研究者を目指す際に、志を貫くか諦めるか迷う最も大きな理由は「研究者として食っていけるか」分からないことだと思います。しかし、恋愛・結婚などの私生活も、実は研究生活と関連しています。若いうちは研究が最優先課題。自分の繁殖成功度より鳥の繁殖成功度の方が大事、となりがちですが、いざ、結婚や子供を望むようになると、夫婦の同居の難しさや安定収入の問題など、色んな壁が見えてきます。私のように、のんきに構えていて現実に阻まれてから煩悶するのではなく、研究人生を送る上での壁についてあらかじめ知っておけば、少なくとも覚悟をもって人生の選択ができます。

日本鳥学会は「男女共同参画学協会連合会」にオブザーバー参加しており、企画委員が毎年のシンポジウムにも参加していますが、学会員の方への情報提供はまだまだ不十分です。そこで、日本鳥学会2015年度大会において、「ヒト(鳥研究者)における婚姻形態と子育て-忘れられがちなもう一つの人生-」と題したポスター発表を行い、研究者の結婚事情を通して、「研究者として生きる」ことと、その陰に隠れがちな、「一人の男性・女性として豊かな人生を送る」ことの関係性に潜む問題について紹介しました。

DSC06293 (1024x768).jpg
発表時、著者は妊娠8ヶ月。特別に椅子を用意してもらいました(撮影:高田みちよ氏)。

詳細は実際のポスター(下画像をクリック)をご覧いただきたいのですが、内容を大きくまとめると次のようになります。①就職事情には大きな男女差はないのに、既婚率・子供の数には男女差がある、②女性には生物学的な出産リミットがある。研究職についてから出産すれば産休・育休後に職場復帰が可能だが、職より出産が先だと研究に復帰しにくい、③夫婦どちらかに定職がないとそもそも子供をもうけにくい。④性別を問わず、ポストが少ないことが最も根本的な問題。ポストの拡充と出産・育児後の復帰支援が最も重要な課題。

人生と研究者の道のりが山で表されています。


内容が多少刺激的だったこともあり、当日はなんと、98名もの方に聞きに来ていただきました。どんな方が聞きに来てくださったか集計を行ったところ、男性57 名 女性41 名、その内訳は以下のようになりました。

①修士以下の学生で男性:8
女性:8 計16 名
②博士課程の学生で男性:3
女性:2 計5 名
③任期付き研究職の男性:4
女性:2 計6 名
④任期なし研究職の男性:11
女性:3 計14 名
⑤無給の研究員等の男性:1
女性:4 計5 名
⑥普及啓発教育職の男性:3
女性:2 計5 名
⑦調査員等、鳥関係職の男性:18
女性:11 計29 名
⑧その他の職業の 男性:9
女性:8 計17 名

もう少し学生の方に聞きに来て頂きたかったですが、やはり多くの学生は研究の方が大切、という、まっとうな姿勢を持っているようです。また、もっと女性が多いかとも思っていたのですが、意外と男性の方が多く、職業別の人数に関しても、おおよそ学会の構成員からまんべんなく聞きに来ていただいたような気がします。何名かの方からは貴重なご意見を頂きました。以下にご紹介します。

*大変たのしいテーマで異彩を放っていました。日本の科学の発展には女性の力は不可欠。生態学と社会学のリンクは大切です(男性)。

*本人の頑張りはものすごくて、とても大変だと思います。大会時に未就学児以上の子の面倒を見てくれるところも必要だと思います。また、お金ももっと下げるか無料にすべきです(女性)。

*女性研究者(現在求職中)、子供1 人、パートナー同業の者です。このような形で性別をこえて意識改革が進むような研究を応援しています。パートナーフェロー等をどんどん増やして頂ければと思います(女性)。

研究オトコとして、研究オンナとして、どう生きたいか。人生で大切にしたいものは何なのか。尽きない問いだとは思いますが、現実に阻まれてからでは動きが取りにくいものです。これから考えていかねばならない学生さんはもちろん(考えたくないのはよくよく分かりますが)、もう年配の方も、オトコとオンナの問題が学会や鳥学の活性化にも影響することを認識して、みんなでよい研究人生を歩むことを目指せればと思います。

発表時にお腹の中にいた私の娘はもう8ヶ月。未完成のハイハイで部屋を探検している娘の横でこの記事を書いていると、無上の喜びと尽きない希望と、大きな焦燥感と研究への思いとが混ざってとても複雑な心境です。現状では、オトコ・オンナとしてのよりよい人生と研究人生の両立には困難を伴いますが、個人として、学会として、国や地方・研究機関の制度として、できることがきっと色々あるはずです。みなさんも、ぜひ一緒に考えてくださればと思います。

この記事を共有する

日本鳥学会2014年度大会自由集会報告:カモ科鳥類と水草の関係性を探る

2016年4月6日
世話人:渡辺朝一・神谷要

1999年より「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」の活動を支援する鳥学研究者のグループを設立し、毎年の鳥学会大会時に自由集会を開催して参りました。

2014年は、立教大学においてIOCと合わせて開催された大会にて、8月22日、18:00~20:00に「カモ科鳥類と水草の関係性を探る」と題して渡辺朝一、神谷要の2名が企画者となって開催致しました。

当日は20名ほどの皆さまにご参加をいただきました。この集会の要旨は、今までの集会の内容とともに以下のURLに掲載されております。是非ご参照ください。

http://www.jawgp.org/anet/jgprop.htm

演題1:リュウノヒゲモとコハクチョウのもちつもたれつの関係(神谷要/(公益財団法人)中海水鳥国際交流基金財団)
汽水性沈水植物のリュウノヒゲモ(Potamogeton pectinatas L.)については多くの研究があり、水鳥から見た餌資源としてだけでなく、種子分散について鳥類の貢献に関する様々な報告がなされている。特に米子水鳥公園では、水鳥の糞に中にはリュウノヒゲモの種子が含まれており、その種子分散布に水鳥が大きく関与していると考えられている。

種子散布には、風散布、水散布、自発散布、重力散布、動物散布(付着)(周食)などがあり、リュウノヒゲモの種子散布に関しては、動物散布(周食)についての研究が多くある。

鳥類の動物散布(周食) について小鳥の研究では、種子を食べてから排泄までの時間が大変短いことが知られているが、ガンカモ類の場合、体内滞留時間が8時間~20時間程度という報告が多くある。この時間があれば、カモ類は近年の渡りの発信機調査により、100㌔以上の移動を行うことが知られている。

また、リュウノヒゲモの種子は、食べられることによって発芽率の上昇が起こることが知られており、水草の散布にカモ類が貢献していることが予想されている。

watanabe1.jpg

<リュウノヒゲモの結実数と水鳥の糞中の種指数、水鳥の飛来数密度(2007年米子水鳥公園)>


演題2:マコモとガン/ハクチョウ類の複雑な関係(渡辺朝一/さいたま市)

さまざまな水草の種の中にも、特に水鳥に好んで採食される種と、あまり採食されない種がある。その中でイネ科に属する大型の沈水植物であるマコモ(Zizania latifolia L.)は、その地下茎が越冬期のガン・ハクチョウ類の重要な食物となっている。マコモの、ガン・ハクチョウ類の食物としての特徴として、地下茎への被食に対して耐性があること、水深が深い場所では被食を受けた株が流出して群落が攪乱を受けること、水深が浅い場所(渡辺の調査地であった茨城県菅生沼)では被食を受けて地上部が旺盛に成長すること、がある。

watanabe2.jpg

<コハクチョウの食圧を受けたエリア(Outer)と受けないエリア(Inner)のマコモ地上部現存量の差>

水鳥と水草の関係性を巡っては、日本での研究例は少なく、未解明の課題が多いのが現状です。今後の更なる発展が期待されるテーマです。

この記事を共有する

「ポスター賞、始めました」

2016年2月15日
企画委員長 川上和人

2016年、鳥学の新たな歴史が始まります。
新賞「日本鳥学会ポスター賞」の誕生です。

今年は、記念すべき第一回目の賞を得る未来永劫唯一のチャンスです。この栄誉に向け、多数の応募をお待ちしております。

いや、過去にもポスター賞があったではないかというご意見もありましょう。確かにその通りです。しかし、これらは各大会の事務局により独自に運営されたものでした。これからは、鳥学会公認の正式な賞として毎年の募集が決定したのです。

賞の最大の目的は、若手の独創的な研究を奨励することです。ここで鳥学の魅力を語ることは、釈迦に説法、孔子に論語、文明堂にカステラの美味を説くような愚行ですので、あえては申し上げません。賞の新設により、この魅力あふれる鳥学の将来を担う若手を、学会として応援したいと考えているのです。

当たり前の話ですが、賞の主役は授与する側ではなく応募者です。まだ実績が少なくとも、オリジナリティの高い研究を展開する若人の参加をお待ちしております。100年の歴史を持つ鳥学会に未来の歴史を紡ぐのは、他の誰でもない皆さんなのです。

さて申し上げにくいことですが、目的に照らし応募資格を30歳以下に限定させていただきました。この点を平にご容赦下さい。若い若いと思っていても、月日の流れは速いものです。資格のある方はお早めに!

詳細は特設サイトをご覧下さい。
では、鳥学会大会の授賞式でお待ちしております。

この記事を共有する