2023年度日本鳥学会内田奨学賞を受賞して(溝田浩美)

溝田浩美(人と自然の博物館地域研究員)

 この度は、2023年度内田奨学賞をいただけたことを大変うれしく光栄に思います。長い年月を要してしまいましたが、多くの方々のお力をお借りし論文にできたことを心より感謝いたしております。鳥学の世界に導いてくださった江崎保男先生、研究をご指導いただいた大谷剛先生や布野隆之先生、鳥の学校でお世話になった濱尾章二先生、査読や選考に携わっていただいた皆様に、この場をお借りしお礼申し上げます。

 アオバズクの調査は六甲山の北部で行いました。田畑が広がり、雑木林が残る自然豊かな地域です。2004年のことでした。同地域で動物病院を開業されている八百先生から、病院の裏にあるエノキの木に毎年アオバズクが来ていると聞き、その場所を見に行ったことが研究の始まりでした。アオバズクが止まるエノキの枝の下には餌となった昆虫の残骸が多数落ちており、この残し餌からどのような餌を食べているのかを調べることにしました。

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図1 エノキの枝に止まるアオバズクのオス

 翌年(2005年)の4月末にアオバズクの声が聞こえ、エノキの枝に止まるオスを確認した日から本格的に調査を始めました。はじめは、アオバズクの巣がどこにあるのかもわからず、日が落ち、上空をカラスの群れが塒に戻る姿を眺める日々が続きました。しかし、カラスが塒に入った後、アオバズクのオスが“ホウホウ”と鳴くと、どこからともなくメスが現れたので、私は納屋の陰に隠れ、息を殺しながらそっとアオバズクを観察しました。そして、八百先生の助言をもとに、樹洞ではなく民家の屋根裏の営巣地を見つけることができました。また、アオバズクの夜間観察から、ヒナへの給餌は両親で行い、甲虫や蛾などの頭胸部や翅などをむしり取って与えることも分かりました。

 残し餌の回収は、ヒナたちが巣立ち、この地を離れるまでの約2か月間、保育関係の仕事の合間にほぼ毎日行いました。藪蚊襲撃の中、上から見下ろすアオバズクの視線を感じながら黙々と残し餌を集めたことは、今でも忘れられません。回収した残し餌は種類別に分け、頭や胸、翅をカウントし、捕食された昆虫類などの頭数を調べました。翅だけで同定をすることが難しい昆虫類は、顕微鏡で拡大し、種による違いを一つ一つ見つけていきました。
 
 調査の結果は、「第1回 共生のひろば」で発表しました。「共生のひろば」はアマチュアの調査成果・活動内容の発表会であり、2004年以降、兵庫県立人と自然の博物館が毎年、2月11日に開催しています。博物館の研究員からの助言や他の参加者との交流はとても刺激になり、その中で新たな課題も見つかり、翌年の営巣環境での昆虫相の調査につながりました。

 調査2年目は営巣地周辺の昆虫相を調べるため、ライトトラップを用いて明りに集まる昆虫類を捕えました。昆虫類の採集は、白い布を向かい合わせて立て、ブラックライトを吊るし、虫まみれになりながら行いました。大谷家と溝田家が家族ぐるみでおこない、子どもたちは手に網を持ち、夜の遠足のようで、とても楽しい思い出となりました。

 捕えた昆虫類は、大谷先生に教わりながら、展足や展翅を行い、触角や足1本に至るまで形を整えていきました。乾燥させたのちラベルを付けるのですが、美しく整えられた昆虫はまるで芸術品でした。採集した昆虫類555個体を全て標本にした後、種名を調べました。作業をする中で大谷先生からお聞きする話は昆虫愛にあふれていて、昆虫に対する多くのことを学ばせていただきました。

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図2 種の同定のために作成した昆虫標本

 これらの調査から、コウチュウ目を主な餌としているアオバズクが、雛の孵化直後には体の柔らかいチョウ目をわざわざ選んで与えていることがわかってきました。しかし、それを学術論文に取りまとめるとなると、自然の中に身を置き、昆虫や鳥たちに囲まれた調査とは違い、私にとってはとても大変なことでした。自分の力のなさを痛感し、あきらめかけた時、鳥の学校の「論文を書こう」に誘われ、何とか頑張ることができました。論文投稿後は、査読者の方々が丁寧に助言してくださるのですが、それに応えられず、直せば直すほど混乱した時期もありましたが、大谷先生、布野先生に助けていただきながら、修正することができました。布野先生は最後まで手直ししてくださり、原著論文を完成させてくださいました。その論文で賞までいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。
 
 今後は、アオバズクが捕食した餌昆虫のカロリーや栄養成分に着目し、研究を発展させていきたいと思っています。2021年と2022年にライトトラップを徹夜で行い、分析に必要な昆虫類のサンプルは十分に集まりました。これらの昆虫類の同定と分析はとても大変ですが、楽しみながらコツコツと進めていくつもりです。

 あきらめずに続けてきたこと、一つ一つの地道な調査が楽しみだったこと、多くの人に支えられたこと、共に歩める素敵な人との出会いに恵まれたことが受賞へとつながったのかもしれません。投稿先がアマチュアに対し広く門戸を開いている日本鳥学会だったことも私にとっては幸運でした。
 
 これからも、鳥の世界に恩返しするため、小さな子どもたちやお母さんたちを虫好き、鳥好きにすべく、日々奮闘していきたいと思います。

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2023年度日本鳥学会黒田賞を受賞して

国立環境研究所・学振PD 澤田明

 この度は2023年度の日本鳥学会黒田賞を賜り、誠にありがとうございました。これまでのリュウキュウコノハズクに関する研究活動全体が評価対象となりました。私を研究者として育て上げていただいた研究指導者の方々、一人では行えない研究を共に形にしていただいた共同研究者の方々、離島での長期滞在を可能にすべくご尽力いただいた研究機関事務職員の方々、毎年半年におよぶ過酷な調査をともにやり遂げてきた学生の方々、調査生活を日々支えていただいた島の方々に深くお礼申し上げます。たくさんのデータをとらせていただいたリュウキュウコノハズクの方々にも感謝を申し上げます。この受賞報告では受賞記念講演では伝えきれなかった背景や思いを綴ることにいたします。

 約10年になるリュウキュウコノハズクとの付き合いは、2014年度に大阪市立大学の教員だった高木昌興氏に出会ったところから始まりました。当時学部3年の私は大学院から行う研究として高木先生の沖縄での野外研究に興味を持ちました。そこで学部4年の夏に、宮古島と南大東島の調査を見学しました。それぞれの調査地の特徴を実際に見ることで、自身により合っていると感じた南大東島のリュウキュウコノハズク研究を選択したのでした。
 
 島の標識個体群の長期研究は、進化学や生態学における古典であり最先端でもあります。進化の実験場としての強みを生かした島の長期研究が、何十年も前からトップジャーナルを飾る革新的知見を生み出し続けているからです。私が携わる南大東島のリュウキュウコノハズク研究も約20年研究が続く島の鳥類標識個体群の長期研究です。

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図1:南大東島のサトウキビ畑と防風林

 私は、配偶者選択を中心テーマに据えつつ、南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を様々な視点からとらえた基礎研究を行ってきました。その内容は、形態の記述のようなものから、個体数変化の解析のようなものまで多岐にわたります。その背景には個体から個体群の各過程は関係しており、配偶者選択を理解するには配偶者選択以外の要素にも目を向ける必要があるという考え方がありました。博士号取得後は波照間島を新たな調査地として加えました。複数の島で調査することで、島で行われてきた進化の実験の繰り返しデータを得るためです。こうした基礎研究を積み重ねることでより応用的な研究に取り組んでいく狙いもあります。しかし、検証する仮説の普遍性や掲載雑誌のインパクトファクターの高さが評価される世の中で、個々の基礎記述が評価を得ることには常々難しさを感じています。それゆえに、これまでの基礎の積み重ねが今回の黒田賞という形で評価を得たことを大変嬉しく思います。

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図2:波照間島のリュウキュウコノハズク

 受賞記念講演では具体的な研究成果の話に加えて、アウトリーチ活動についても話しました。調査地に長期滞在しながらの研究になるので、私の研究成果は地域の方々の支えのもと得られているものです。調査地への恩返しの気持ち、研究者としての責任感、さらには長期滞在型研究者だからこそできる何かがあるはずという使命感のもと、島でのアウトリーチ活動に力を入れてきました。

 アウトリーチの重要性を説いた受賞記念講演をお聞きになった方の中には、野外調査には高いレベルのコミュニケーション能力が要求され、私はその力を備えていると思われた方もいるかもしれません。しかし、実際の私はむしろそのような活動に苦手意識を持っています。南大東島の研究系の先輩方は地域交流を特に上手に行なっていました。それゆえに、そのようにできない自分は今後島で研究を続けていくのは無理かもしれないと思っていた時期もありました。頻繁に飲み会に参加すれば明らかに目先の調査時間は削られます。とはいえ、調査だけして地域と交流を全く持たないのがよくないことも分かります。おそらくちょうどいいバランスがあり、その最適なバランスはきっと研究者の性格や研究スタイルによって変わってくるはずです。調査の年数を重ねてこれに気付いたことで自分のペースで素直に調査地に向きあえるようになり、この先も調査を続けていけそうだと思えるようになりました。これから野外調査を行なう学生には地域交流に不安を覚える学生もいるかもしれません。私はそういう学生には「素直に向き合っていけば大丈夫」と伝えたいです。

 最後に、日本の島の長期研究についても思いを記します。豊富で多様な島を擁する日本で島の長期研究が盛んに行なわれないことは、非常にもったいないことだと思います。進化生態学の視点での長期研究は歴史的に欧米で盛んに行なわれてきました。時間がものを言う分野であり、新規参入した場合の数十年の時間差はどう頑張っても埋められないことは事実です。しかし、ではやる意味はないのか?というと、そうでもないはずです。たとえ研究期間が欧米より短くても研究者の工夫と着眼次第で、その時間差に負けないくらいの独自性や意義を見出すことが出来ると考えています。現在の我が国の研究環境は、地道な基礎研究を続けやすい環境とは決していえません。それでも、私は沖縄のリュウキュウコノハズク研究系の存続を諦めず、島の長期研究の価値を世に発信し続けていきたい所存です。

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2023年度日本鳥学会内田奨学賞選考報告(伊関文隆)

伊関文隆

 この度は、内田奨学賞を頂き大変光栄に思います。論文の共著者、協力者、査読者の方々、賞の選考者の方々のおかげであり、深く感謝申し上げます。

 私は猛禽類調査の仕事をしており、休日も春秋はタカの渡り、夏はサシバの繁殖モニタリング、冬は越冬ノスリなど、年中猛禽類の観察・調査をしています。今回は渡りの時にピンときたツミの換羽についての論文で受賞しましたので、その内容についてご紹介いたします。

 鳥類にとって換羽は、繁殖および渡りと並ぶ重要なイベントですが、それらに比べ研究が進んでおらず、基礎的な情報にも未解明な部分が多く残されています。タカ科とハヤブサ科は換羽様式が異なると図鑑等にも記載されていますが、今から18年前に撮影したタカ科のツミがハヤブサと同じく初列風切の中央が最初に換羽していたのを見つけ(通常タカ科は内側が最初に換羽する)、これは面白い!と、その換羽様式を解明すべく研究を始めました。

 換羽の順番を推定するにはいくつかの方法がありますが、1つ目の方法として個体の換羽状況を継続して記録していく方法があります。飼育されている個体の各羽根に印(今回は部位の番号)をつけて、毎日、抜けていく羽根をチェックしていきます。単純ですが非常に手間のかかる作業です。これは共著者の佐藤達夫さんと行徳野鳥観察舎友の会の方々のご尽力により、傷病鳥として保護されていた幼鳥の換羽を追跡することができました。幼鳥の前に成鳥にも同様の調査を行っていたのですが、上手く羽根が収集できず解析困難という失敗を乗り越えてのものでした。結果は期待に反して一般的なタカ科と同じ換羽をするというものでした(ツミが一般的な換羽をしている証明はされて無かったので、これはこれで重要な結果)。
 

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5月に渡るツミの若鳥。褐色の羽根はまだ換羽していない幼羽、青みのある羽根は成鳥羽へと換羽した羽根であり、この個体は初列風切の中央6枚(P3-8)が換羽している。一般的なタカ科は初列風切を赤矢印の1方向へ順番に換羽するが、一部のツミは越冬期に緑矢印のように中央から外側と内側の2方向へおおむね交互に換羽していく。

 2つ目の方法として、捕獲や撮影された個体等からその時点での換羽状況を記録し、集計していく方法があります。ただし、この方法は1個体から少しずつしか情報が得られないため、多数の個体から換羽状況を読み取る必要があります。捕獲は非常に困難であるため、今回は写真と標本からデータを収集しました。標本では十分なデータが得られず、協力者の方々に写真をお借りしたり、撮影数を増やすことでデータを収集していきました。しかし、撮影も比較的困難であり、データを収集するのに10年以上かかりました。得られたデータを全てごちゃ混ぜにして解析すると上手くいきませんでしたが、時期別に分けることで上手く解析できました。冬に(越冬地で)換羽を行った個体はハヤブサ科に似た換羽を(途中まで)行い、冬に換羽せず夏に(繁殖地で)換羽を行った個体はタカ科と同じ換羽をしていると推測されました。つまり、ツミは全ての個体が同じ換羽をするわけではなく、個体によって異なる2種類の換羽をしていたのです。種内で複数の換羽様式があるのは稀ですが、アカモズなどスズメ目でも見つかっています。なぜ複数あるのかはよくわかっていませんでしたが、ツミでは生態(換羽の時期や場所)が関係していることが示唆されました。ツミの換羽は更に複雑な可能性がありましたが、これは情報不足で本報では解明できませんでした。他にも面白い点があったのですが、長くなりますので論文を読んでいただけると幸いです。

 実は論文が受理されるまで非常に困難な道のりがありました。データが揃ってようやく論文が完成した矢先に、先行論文が出て内容の一部について先を越され、大ショックを受けました。その論文で解明されていない部分もあったので、急遽、この論文を引用して形を変えて提出しましたが即席だったこともありリジェクト(却下)されました。続いて、先行論文には問題点があったのでその部分をどう扱うべきか悩ましく、それを指摘せずに避けて引用して再提出するも却下。3度目は文章構成が悪く査読されるまでもない、と却下。4度目の提出では先行論文の問題点を指摘しながら引用するという形で、ようやく論文が受理されました。

 今回、世界的にも稀な例であるため共著者の三上かつらさんを頼りに英語論文にしました。しかし、私は国語が不得意で英語はなおさらなので①日本語で論文作成、②とりあえず英語化、③三上さんによる内容と英語の修正、④プロによる英語修正、という工程があったため、3度のリジェクトと相まって、論文作成に膨大な時間と手間がかかりました。もう英語論文はこりごりでしたが、今回、英語化が評価されたということでやって良かった、報われた感があります。いつか国外の方に引用してもらえたなら、なお嬉しく感じるでしょう。

 換羽は研究の穴場で、生態や分類などと組み合わせて研究されていくと面白い発見につながるように思います。また、ツミ自体も換羽だけでなく渡りのルートや遺伝子解析などが研究途上で、かなりの謎が残された題材だと思います。私もツミの換羽の研究を続けますが、興味を持たれた方によって研究されることも強く望んでいます。

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第13回日本学術振興会育志賞を受賞して

本学会推薦により育志賞を受賞された北沢さんに研究紹介の記事を寄稿していただきました。今年度の推薦受付は2023年4月28日(金)までとなっています。推薦を希望される方、候補者をご存じの方は事務局までご連絡ください。(広報委員 上沖)
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授賞式は東京都日本学士院にて秋篠宮皇嗣同妃両殿下御臨席のもと行われました。

 

この度は、日本鳥学会からのご推薦を経て、日本学術振興会育志賞という身に余る賞を戴き、畏れ多くもありながら大変嬉しく思っております。改めて、これまでに研究や野鳥観察の場でお世話になった皆様に深く感謝申し上げます。

育志賞では、博士課程の一連の研究が審査されました。私は博士課程期間を通して「農地景観における鳥類多様性の広域・長期評価:農地の拡大と放棄に着目して」という課題に取り組みました。この場をお借りして、私の研究概要について軽く紹介いたします。

農地は陸地の3分の1以上の面積を占めるため、農地景観における生物多様性保全策を検討することは、陸上生態系の保全を進める上で必要不可欠です。特に私は、「湿原や森林を農地に転換したことで、鳥類の種数・個体数がどの程度減ったのか?」「人口減少によって拡大している耕作放棄地は、鳥類の生息地として機能しているのか?」「圃場整備されていない水田には、圃場整備された水田と比較して、どれほどの鳥類が生息しているのか?」といったテーマに着目して研究してきました。その結果、湿原や森林が広がっていた1850年頃の北海道石狩平野には、200万個体近くの鳥類が生息していたものの、農地への開拓によって、現在では50万個体近くまで減少してしまったことを明らかにしました。また、長崎県から北海道までの日本全国199地点の農地を調査して、耕作放棄地や圃場整備されていない水田が鳥類の重要な生息地として機能していることを明らかにしました(写真1)。

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写真1. 棚田での調査風景 繁殖期と越冬期に、2年間でのべ1000回以上の調査を実施しました。

 

さらに、これらの研究と並行して、アカモズ(写真2)やシマクイナなどの絶滅危惧種の保全研究・活動を行ったほか、日本野鳥の会茨城県支部の方々と一緒に草原性鳥類の保全に関する研究も実施しました。特にアカモズについては、繁殖地で行われている開発行為に対して、行為実施者に対して配慮のお願いに伺ったり、複数の行政担当者に対して、情報共有や森林管理策のご提案に伺ったり、また森林保護に関連する委員会に、新たな保護策の提案などを行ってまいりました。このような、研究と保全活動を両立してきた点を、賞審査にあたり評価して頂いたのかもしれません。保全活動を「研究者の業績」として評価頂く機会は多くないため、この観点からも今回の受賞を嬉しく思いました。

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写真2. アカモズ 学部2年から博士課程3年まで継続して研究を続けてきた種です。

 

今後の生物多様性保全を進めるためには、農地における取組の重要性が更に増すだろうと思っています。農地における鳥類の研究については、国内で既にたくさんの蓄積があるところではありますが、より保全を効果的に進める上では、更なる研究の蓄積が必要です。例えば、農地に生息している鳥たちの個体数はどの程度減ってきたでしょうか。和田(1922)は青森県のヒクイナについて、「極めて多く分布し、水田稲株間に営巣するが故に小児等のため卵を捕らわるること多し」と記述しています。兼常(1922)もヒクイナについて、「稲田にてふつうにみる種類なり。常に稲田の間に在り。」と述べています。1920年代には、東京都羽田で200-300個体のチュウサギや、ヨシゴイが繁殖していたようです(黒田 1915; 1920)。現在の青森ではヒクイナを、羽田ではヨシゴイを、繁殖の確認どころか観察することすら難しいでしょう。バンやオオヨシゴイ、クイナ、ウズラなどもこの期間にきっと個体数を大きく減らしたはずです。

保全を進める上での第一歩は、「個体数がどのように変化してきたか」を定量化し、その原因を明らかにすることだと考えています。トキやコウノトリでは、個体数変遷や減少原因について詳しく整理されており、それらが農地景観における保全活動にむすびついています。私たちの研究グループでは、日本の繁殖鳥類ほぼ全種の、過去170年間の個体数変化を全国規模で定量化することを目指しています。現在、そして未来の鳥を守るためには、過去の情報が欠かせません。そのために、「過去の鳥類の記録」を集めるプロジェクトを現在計画しております。

最後になりますが、博士課程研究を様々な方に評価頂ける形までまとめ上げることができたのは、特に指導教官の山浦悠一氏、中村太士教授、そして先輩の先崎理之さんと河村和洋さんのおかげであると考えています。私は考えていることや感情を言語化することが苦手だったのですが、山浦さんは私がどんなにしょうもないことを考えている場合でも、私の発言内容を正確に理解できるまで何度も何度も聞き取って頂き、私の考えを尊重して頂きました。「相手の考えを理解することに可能な限り努め、それを尊重する」―至極当たり前のことではあるものの、この姿勢を山浦さんに学んだことで、研究や保全の重要な場で物事を前に進めることができた場面が多くありました。わたし一人で研究をどんなに頑張ったところで、生物多様性保全を進めることは難しいでしょう。様々な分野や立場の方々の意見や考えを汲みながらともに研究・活動する仲間を増やすことが保全のために欠かせないと思っています。

また、育志賞の授賞式ではほかの受賞者の方々と交流する機会もあり、中には臨床医を続けながら研究をされている方もおりました。このような方の存在は、研究と保全活動のどちらも続けたい自分にとって、大きな刺激となりました。他の受賞者や日本鳥学会の皆様をはじめとして、今後も様々な方々に教えて頂きながら、研究を進めて参りたいと思います。

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第6回日本鳥学会ポスター賞「生態系管理・評価・保全・その他」部門を受賞して

徳長ゆり香 (日本獣医生命科学大学)

 この度は、日本鳥学会2022年度大会において、「生態系管理・評価・保全・その他」部門のポスター賞に選んでいただき、誠にありがとうございます。研究の指導をして下さった先生方や共著者の皆様に良い報告ができたことを嬉しく思います。

 初めて発表者として参加した鳥学会でしたが、沢山の参加者の皆様から様々な意見をいただいたりディスカッションをしたりすることができたため、自身の研究を多角的な視点で捉え直すきっかけとなりました。コロナ禍が続く中、対面開催の準備・運営をしてくださった大会関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。貴重な機会をいただきありがとうございました。今後も良い研究成果が得られるよう、研究に邁進してまいります。

ポスター発表の概要
 マイクロプラスチック(MPs)による汚染問題は地球規模に広がっています。大気中マイクロプラスチック(AMPs)は、MPsの中でも小さく、都市部だけでなく自由対流圏、さらに、ヒトの肺からも検出されており、MPsを吸入することによる健康被害が懸念されています。鳥類は哺乳類よりも呼吸効率が良いため大気汚染の影響を受けやすいことで知られていますが、これまで鳥類がMPsを吸入し、それが肺に到達・蓄積するかどうかは解明されていませんでした。
本研究では、野生鳥類の肺における MPs の存在を明らかにするため、日本国内で有害鳥獣として捕獲され安楽死させられたカワラバト、ツバメ、トビの肺サンプルを、顕微フーリエ変換赤外分光光度計のATRイメージング法で分析しました。

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感染症対策を講じて検体を解剖し肺を採材する

 その結果、3種22羽のうち、2羽のカワラバトと1羽のツバメから計6個の破片状MPsが検出されました。MPsのポリマー材質はレジ袋、ラップ、バケツなどの原料であるポリエチレン(PE)、ストロー、医療器具、自動車部品などの原料であるポリプロピレン(PP)、スニーカーやランニングシューズのソール、クロッグサンダル、建築資材にも使われるエチレン酢酸ビニル(EVA)の3種類であり、いずれも日本の大気から検出事例のあるポリマーでした。日本においてカワラバトは留鳥であり、ツバメは夏鳥ですがMPsが検出された個体は幼鳥であったことから、いずれのMPsも日本で吸入されたものであることが判明しました。

 本研究は、一部の野生鳥類が摂食だけでなく吸入によってもMPsに汚染されていること、吸入したMPsが肺に到達することを初めて証明しました。MPsは有害な化学物質を含んでいたり吸着したりしている場合があるだけでなく、小さなMPsは肺から血流に入り全身臓器に到達する可能性があるため、摂取量が少なくても重大な健康影響を及ぼす恐れがあります。今後は、気嚢を含む呼吸器系や循環系におけるMPs の汚染実態と健康影響を解明するために研究を続けていきたいと考えています。

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第6回日本鳥学会ポスター賞「行動・進化・形態・生理」部門を受賞して

姜雅珺(千葉大・院・機能生態研究室)

 この度、日本鳥学会2022年度大会において「行動・進化・形態・生理」部門のポスター賞を授与して頂き誠にありがとうございました。

 終始熱心なご指導を頂いた千葉大学機能生態研究室の村上正志教授に感謝の意を表します。また、実験の実施にあたり、千葉大学生物機械工学研究室劉浩教授、日本野鳥の会十勝支部室瀬秋宏様、行徳野鳥観察舎友人会佐藤達夫様、久米島ホタル館佐藤文保様、山階鳥類研究所山崎剛史様に大変お世話になりました。ありがとうございました。とくに、風洞実験を指導して頂いた千葉大学生物機械工学研究室・D3村山友太様に感謝の意を表します。

 そして、わたしのポスターをご覧にいただき、たくさんの有益なコメントを頂いた皆様に感謝しております。また、鳥学会の運営の皆様、記念品をご提供いただいたモンベル様に感謝の意を表します。今大会を通じて、多くの示唆と刺激を得ることができました。皆様から頂いた貴重なご意見を踏まえて、今後研究を進めていきたいと思っています。
 
 本研究はJST奨学金の支援を受けて実施しています。

研究の概略
 鳥類の翼は「飛翔」という鳥類にとって最も重要な機能を司っています。その形態は各種の生態学的ニッチと関係し、操縦性能や飛翔速度といった機能に影響を与えると考えられます。先行研究で、羽ばたき飛翔において翼先端部 =hand-wingで生じた揚力と推進力が重要であることが示されており、翼先端の形態が飛翔機能と密接に関連すると考えられます。このような翼先端の形態として、翼端スロットの有無が注目されます。これまで、鳥の翼機能形態と飛翔に関してはたくさんの研究が行われていますが、翼先端の形質に集中してその飛翔性能との関係を解析することで、鳥類種間での翼機能の違いをより詳しく評価できると考え、研究を進めています。
 
 本研究では、91種のさまざまな飛翔行動と生息環境をもつ鳥類について、飛翔性能に関わると考えられる翼先端形質を、Klaassen van Oorschotの提案した指数 E (Emarginate index) とTi (wingtip sharp index) で評価し、さらに、アスペクト比とセミランドマーク法で翼全体の形を評価しました。その上で、これらの翼先端形質、及び翼形質が鳥類の飛翔行動や生息環境と相関を示すことを確かめました。つまり、短距離飛翔の鳥の翼は短く、先端が丸く、スロットのある形である一方、滑空飛翔の鳥の翼は長く、先端が尖って、スロットのない形でした。また、セミランドマーク法によって、翼先端の輪郭において羽ばたき飛翔の翼と滑空飛翔の翼が大きく異なっていることが示されました。これらの結果から、飛翔を特徴づける翼の形態として、初列風切羽分散度合、つまり、翼に占める初列風切羽の範囲が新たな形質指標と提案できます。羽ばたき飛翔と滑空する種では、初列風切羽分散度合が大きく異なっていました。

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 さらに、初列風切羽分散度合が、なぜ飛翔行動と関係するのか、機能的に調べるために、PIV粒子画像流速法によって風洞実験を実施しました。その結果、高迎角の際に、羽ばたき飛翔する鳥の翼は初列風切羽分散度合が小さいにもかかわらず、この部分を含むhand-wingで渦を安定させることで空力性能を維持していることがわかります。一方、滑空飛翔の翼は初列風切羽分散度合が大きいのですが、空力性能は翼全体で保っていることがわかりつつあります。風洞実験については、まだ条件が安定しないなど、課題がたくさんありますが、たくさん実験をして良い結果を得られればと頑張っているところです。

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第6回日本鳥学会ポスター賞「繁殖・生活史・個体群・群集」部門を受賞して

大泉龍太郎(岩手大学農学部森林科学科)

 このたびは日本鳥学会2022年度大会において「繁殖・生活史・個体群・群集」部門のポスター賞をいただき誠にありがとうございます。

 学部4年生でポスター発表を行うということには不安や緊張もありましたが、周りの支えがあり無事発表を行うことができました。背中を押してくださった先輩方、調査に同行してくれた同期、そして研究全般においてたくさんご指導をくださった山内貴義先生に改めて感謝申し上げます。また、大会を運営してくださった皆さま、記念品をご提供いただいた株式会社モンベル様にも感謝申し上げます。

ポスター発表の概要
 コムクドリは本州中部以北で繁殖する夏鳥で、その生息環境は、北海道では市街地・農耕地、本州中部では農耕地の他に落葉広葉樹林や針広混交林の疎林であるという先行研究があります。一方、東北地方での研究は少なく、特に北東北での生息環境については詳細が分かっていません。そこで本研究では岩手県盛岡市においてコムクドリの渡りと渡去の時期を明らかにし、そして繁殖期の生息環境の選好要因を明らかにすることとしました。さらに近縁種であるムクドリとの相互関係についても考察しました。

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調査地(市街地)

 盛岡市にある高松公園で定期調査ルートを設け、両側50m幅でコムクドリとムクドリを記録しました。また、盛岡市を3次メッシュで844区画に分けて「市街地」「農耕地」「森林」「市街地と農耕地(市・農)」「農耕地と森林(農・森)」「市街地と森林(市・森)」という6つのカテゴリーに区分し、その中から177区画を無作為に抽出しました。区画ごとに1kmの調査ルートを設け、両側50m幅でコムクドリとムクドリ及びその他の鳥類を記録しました。

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調査地(農・森)

 調査の結果、5月上旬から個体が発見され、7月上旬には確認されなくなりました。解析の結果、5月、6月に比べ7月の個体数発見が極端に少ないことが分かりました。生息環境に関してはカテゴリーごとと環境面積ごとに分けて解析を行いました。環境面積ごとの解析は、GLMによるモデル選択と、出現区画と未出現区画の面積を比べる古典的な解析の2種類を行いました。カテゴリーごとと合わせた3種類の解析で、コムクドリ、ムクドリともに市街地、農耕地、市・農に出現するが、コムクドリは市街地寄りに、ムクドリは農耕地寄りに生息していることが分かりました。また、森林には全く生息しないことも分かりました。この結果から北東北におけるコムクドリの生息環境が本州中部よりも北海道に近いと考えられました。また、市街地、農耕地ではコムクドリとムクドリの棲み分けが示唆されました。

 本研究及びポスター発表を通じて、多くの学びや課題を見つけることができました。また、発表ではたくさんのご指摘・アドバイスをいただきました。来年は修士課程へと進学するので、今後も引き続きコムクドリの生態について、新たな発見ができるよう努力していきたいと思います。

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2022年度日本鳥学会黒田賞を受賞して

国立環境研究所 生物多様性領域
安藤温子

 この度、日本鳥学会黒田賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。改めて、これまで研究を支えてくださった全ての方に感謝申し上げます。また、今年の鳥学会大会は3年ぶりの現地開催ということで、対面形式での受賞講演をさせていただきました。開始前の緊張感や、会場の皆さんが笑ったり驚いたり、私の講演にさまざまな反応をしてくださることで生まれる一体感は、やはり体面形式の講演でしか味わえない醍醐味であり、そのような場に身を置けたことを大変嬉しく感じました。コロナ禍の困難な状況の中、準備に当たってくださった事務局の皆様にも深く感謝申し上げます。

 私は黒田賞の受賞に当たり、遺伝子解析を用いた島嶼に生息する鳥類に関する一連の研究業績を評価していただきました。私は卒業研究と修士研究において、マイクロサテライトなど種内多型を示す遺伝マーカーを用いて、鳥類の遺伝的多様性や集団構造を評価しました。博士後期課程からは、DNAメタバーコーディングと呼ばれる手法を用いて、鳥類の糞に含まれるDNAの塩基配列を次世代シーケンサー用いて解読することで、対象種の食物を明らかにする研究に取り組みました。修士課程から対象とした、小笠原諸島の固有亜種アカガシラカラスバトについては、対象種自身とその糞両方の遺伝子解析を行うことで、保全に必要な遺伝的多様性や集団遺伝構造、食物利用に関する情報を得ることができました。DNAメタバーコーディングを用いた食性解析においては、手法の精度に関する検証を行い、実験手法の解説などを行いました。当時最新機器だった次世代シーケンサーをいち早く研究に取り入れたことでも注目していただき、多くの方から共同研究の話もいただきました。

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調査地のひとつである伊豆諸島八丈小島の風景

 様々な遺伝子解析に取り組む一方で、私が研究を続ける上で強く意識してきたのは、積極的に野外調査に出ることでした。鳥の研究に伝統のある研究室であれば、野外に出るなど当たり前のことなのでしょうが、私が所属していた研究室に鳥を専門とする教員はおらず、遺伝子解析以外の研究手法については、ほぼ独学で学ばなければなりませんでした。遺伝子解析を行なった対象を野外で実際に見たい、調査したい、というのは鳥学会では一般的に理解してもらえる心理だと思います。しかし、私は鳥に関する野外調査のノウハウも伝手も乏しい環境にいましたので、この当たり前のような目的を達成するためにも、確固たる意思と時間が必要だったのです。

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大学院から対象としてきたカラスバト

 野外調査をするにも、初めのうちは何をどうしたら良いかわからず、とりあえず現地に行こうと、アホウドリの再導入プロジェクトのボランティアに応募したり、遺伝子解析の依頼をしてきたNPOの研修生として調査手伝いをしたりしていました。調査をするためにどうやって計画を立てて、許可申請などどのような段取りを経て現地に行き、データをどうまとめるのか…誰も教えてくれないので、極めて要領の悪い試行錯誤を繰り返していました。捕獲や計測の方法も全く知らなかったので、バンダーさんに師事し、2年かけて技術を身につけました。結局、論文に使える野外データを自分で取ることができたのは、観察データについては博士後期過程に入ってから、捕獲を伴うものについては、就職して3年経った2018年のことでした。

 遺伝子解析技術の確立自体も重要な研究テーマになりますし、何もしなくても分析の依頼がどんどん降ってくるような環境にいましたから、野外に出ず実験室に籠っていた方が、より多くの論文業績を上げていたかもしれません。しかし、自分にはやはり野外調査をベースにした研究がしたいという欲求があり、いわゆる分析屋からの軌道修正をすべく無理やり調査に出続けていました。結果として、自分独自のテーマや研究スタイルにたどり着くことができ、今回の受賞にも繋がったように思います。不安定だった研究者としての軸が、漸く落ち着いてきたという感じでしょうか。効率は悪かったですが、自分の意思で野外調査に取り組む過程で、調査の技術はもちろん、研究のアイディアや現地の人々との繋がりなど、かけがえのない財産を得ることができました。これまで、なんとなく義務感から遺伝子解析を続けていたのですが、一連の研究活動を通して、他者のニーズに応えるよりも自分自身が本心からやりたいこと、面白いと感じることをする方が長続きするし、結果的に自分も周りも幸せになるのではないかと思うようになりました。というわけで、これからは手法にこだわらず、島の鳥の研究を地道に続けていくつもりです。

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第6回日本鳥学会ポスター賞 大泉さん・JIANGさん・徳長さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会 中原 亨

久々に対面形式で開催された日本鳥学会2022年度大会では、前回大会に引き続きポスター賞を実施いたしました。日本鳥学会ポスター賞は、若手の独創的な研究を推奨する目的で設立されたものです。第6回となる本年度は、厳正なる審査の結果、大泉龍太郎さん(岩手大・農)、JIANG YAJUNさん(千葉大・融)、徳長ゆり香さん(日獣大)が受賞しました。おめでとうございます。
 
応募総数はオンライン開催だった昨年度大会よりも15件増加し、その分、受賞は狭き門となりました。

どのポスターも興味深く、甲乙つけがたかったというのが実状です。部門によっては受賞者と次点者の間の差はほんの僅かなものでした。一方で、審査で上位となったものであっても、改善の余地が見られる部分もありました。発表内容をもう一度見直すことで、より魅力的なものとなることを期待しています。ポスター賞は30歳まで、受賞するまで何度でも応募できますので、あと一歩だった方も、2次審査に残れなかった方も、是非来年再挑戦してください。

最後に、ポスター賞の審査を快諾して頂いた9名の皆様、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

2022年日本鳥学会ポスター賞
 応募総数:48件
  繁殖・生活史・個体群・群集部門:12件
  行動・進化・形態・生理部門:19件
  生態系管理/評価・保全・その他部門:17件

【受賞】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
 「盛岡市におけるコムクドリの渡り時期の把握と生息環境の要因解析」
 大泉龍太郎・池田小春・山内貴義

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大泉さん(左)

《行動・進化・形態・生理》部門
 「鳥類の翼先端形質は飛翔特性と生息環境に対応する」
 JIANG YAJUN・村上正志

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JIANGさん

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
 「野生鳥類の肺から検出された大気中マイクロプラスチック」
 徳長ゆり香・大河内博・谷悠人・新居田恭弘・橘敏雄・
 西川和夫・片山欣哉・森口紗千子・加藤卓也・羽山伸一

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徳長さん(画面)

【次点】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
 「都市―農村間の環境勾配におけるツバメの営巣地選択と最適環境の評価」
 天野孝保・山口典之

《行動・進化・形態・生理》部門
 「カワウ・アオサギ混合コロニーにおける非対称な『盗聴』行動」
 本多里奈・末武かや・東信行

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
 「非繁殖地におけるヘラサギ類の干潟と周辺環境利用」
 清水孟彦

【一次審査通過者】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
 「鳥類の共同繁殖の推進力は何か?
         ―リュウキュウオオコノハズクを用いたケーススタディー」
 江指万里・熊谷隼・宮城国太郎・外山雅大・高木昌興

 「佐賀平野におけるハシブトガラスとハシボソガラスの営巣特性」
 新宮 仁大・徳田 誠

 「網走周辺のオホーツク海域に生息する海鳥類の生息状況と分布に関わる要因」
 木村智紀・白木彩子

《行動・進化・形態・生理》部門
 「メスのブンチョウの,聞き馴染みのある求愛歌に対する選好性の検討」
 牧岡洋晴・Rebecca Lewis・相馬雅代

 「千葉県およびその周辺地域に特異的な眉斑の薄いエナガの分布」
 望月みずき・大庭照代・箕輪義隆・平田和彦・桑原和之

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
 「繁殖期に耕作放棄水田を利用するヒクイナの行動圏」
 大槻恒介

 「知床半島における観光船の与える魚類と
         自然の餌生物の海ワシ類による利用実態」
 谷星奈・白木彩子

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2022年度内田奨学賞を受賞して

藤岡健人

この度は、2022年度内田奨学賞をいただけたことを大変光栄に思います。ご指導いただいた共著者の方々や、査読や選考に携わったすべての方々に、この場をお借りして感謝申し上げます。

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網走大会で綿貫会長から賞状を頂く様子

研究紹介

都市は自然が少ない環境です。そのような中で、人は公園などに残された自然に触れることにより、さまざまな恩恵を受けています。たとえば、四季を感じるといった精神的恩恵や、血圧降下などの肉体的恩恵を受けています。また、児童の自然観を育成し、環境教育にも効果があります。世界的に生物多様性が減少するなか、都市の面積は拡大しており、都市においてどのように自然環境を維持するかは重要な問題です。

一方で、都市に動植物が生息することにより、動植物と人との間に軋轢が生じることもあります。その1つとして、カラス類による電柱への営巣があります。カラス類が電柱に営巣すると、停電を引き起こすことがあり、電力会社は、停電を未然に防ぐために、多大なコストをかけて見回りをし、巣を撤去しています。しかし、電気事故の発生は減少しておらず、むしろ巣の撤去数は増加傾向にあります。今後、人口が減少していくなか、少ないコストで、電力インフラをいかに保守していくかは重要な社会的課題です。

そこで私は、都市部で問題となっているカラス類と人間生活との軋轢解消を目的として、次の研究を行いました。まず、電力会社が保有する電柱へのカラス類の営巣記録を提供いただいて、北海道における営巣リスクの高い環境要素の抽出と、撤去費用の推定をしました。次に、函館市において、カラス類はどのような場所にある電柱に営巣しているのかを明らかにしました。

北海道において、カラス類がどのような地域の電柱に営巣しやすいかを明らかにするために、各事業所の撤去巣数に対して、次の6つの変数を解析に用いました:人口、気温、海岸線の長さ、農地面積、年、事業所。一般化線型混合モデルにより解析した結果、人口が多く、気温が高く、海岸線の長さが長い地域において、撤去巣数が多いことが明らかになりました。また、北海道全体で、撤去にかかる人件費は、年間約4000万円であると推定しました。

次に、函館市において、カラス類が営巣しやすい電柱を調べるために、都市緑地との関係に着目しました。なぜなら、カラス類は公園などの都市緑地に好んで営巣をするので、都市緑地があることで、その近くの電柱には営巣しない可能性があるからです。そこで、実際に営巣されたことのある電柱と、その電柱までの都市緑地の距離を調べ、都市緑地の存在が、周辺の電柱への営巣を抑える効果を持つかどうかを解析しました。その結果、カラス類の巣があった電柱は、都市緑地から離れていたことが明らかになりました。

以上の結果から、次のような提言ができると考えています。都市緑地にあるカラスの巣を撤去すると、なわばりの防衛効果がなくなり、周辺の電柱への営巣を助長する可能性があるため、巣を残しておく方が良いかもしれません。しかし、都市緑地にカラス類の巣があると、人が襲われるリスクもあります。そこで、巣を撤去する場合は、人への攻撃性の高いハシブトガラスの巣を優先的に撤去するという選択肢があります。また、撤去により周辺の電柱への営巣を助長する可能性が高まることを、電力会社と共有することが有効だと考えます。

当初の予定では、野外調査も行い研究の信頼性を高める予定でしたが、コロナ禍によってそれが叶いませんでした。修士課程を修了し、現在は札幌市で中学校の理科教員をしていますが、今後も鳥類学とのつながりを続けたいと考えています。そのために、身近に学ぶことができる鳥類学を生徒たちに教え、鳥好き、鳥類学好きの生徒を増やしていきたいと考えています。最近では、「藤岡といえばカラス」という認識が広まっていたり、私に野鳥クイズを挑んでくる生徒が出てきたりしました。ゆくゆくは、鳥学会の大会で生徒たちに発表させて、学問に触れる機会をつくってあげたいと考えています。

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