企画展「山階芳麿博士の作った図鑑」の紹介
小林さやか(山階鳥類研究所)
連日暑い日が続いておりますが、猛暑の中でも楽しめる企画展をご紹介いたします。
現在、我孫子市鳥の博物館では、山階鳥類研究所(山階鳥研)我孫子移転40周年を記念した企画展「山階芳麿博士の作った図鑑 —『日本の鳥類と其の生態』ができるまで—」を開催中です。
山階鳥研の創設者・山階芳麿博士は、1934年と1941年に『日本の鳥類と其(そ)の生態』全2巻を出版しました。この図鑑は「山階図鑑」と呼ばれ、日本の鳥の三大図鑑のひとつと称されています。出版から90年が経った現在でも鳥類の研究をする多くの人達に活用されています。本展示では、山階図鑑の原稿、原画、この図鑑の挿し絵に使われた木口木版(こぐちもくはん)画の版木や摺り見本など、普段は公開していない山階鳥研の資料の展示や、山階博士をはじめ図鑑制作に関わった人達を紹介しています。
本展示は見る方の関心によってさまざまな楽しみ方ができます。日本の鳥類図鑑の歴史を紹介している点、山階図鑑の制作過程を資料で紹介している点、山階博士と同世代に活躍した鳥類学者を紹介している点などが挙げられますが、私がお勧めしたいのは、博物画家の小林重三(しげかず)や、山階壽賀子(すがこ)夫人の原画やスケッチ、それと、現在では希少となった技法の木口木版画の紹介です。
小林重三は、鳥類図鑑の制作を計画していた鳥類学者の松平頼孝(まつだいら・よりなり)に雇われ、松平邸で標本や飼育の鳥の写生をして腕を磨いていましたが、松平家の財政が厳しくなったことで、小林は失業してしまいました。しかし、小林の鳥類画の腕の良さから、山階博士はじめ、黒田長禮(くろだ・ながみち)、鷹司信輔(たかつかさ・のぶすけ)、蜂須賀正氏(はちすか・まさうじ)、清棲幸保(きよす・ゆきやす)など多くの鳥類研究者が小林に鳥類画を頼みました。日本の三大鳥類図鑑と言われる、通称、黒田図鑑、山階図鑑、清棲図鑑の絵は小林が手がけています。
本展では、小林の紹介のところに、蜂須賀正氏の著書「The Dodo and Kindred Birds」(1953)のために小林が描いた絶滅鳥モーリシャスインコの原画が展示されています。この原画は今回が初公開となります。
蜂須賀は「The Dodo and Kindred Birds」の原稿をイギリスの出版社に送った後、出版された本を見ることなく急死してしまいます。このような事情もあり、この絵は出版後、所在不明となっていましたが、熱海の蜂須賀別邸に勤務していた方から2018年に熱海市立図書館に寄贈されていたところ、2021年に小林重三研究の第一人者である園部浩一郎さんらが小林の原画であることを見出しました。本展示のため、熱海市立図書館へ絵をお借りしに伺ったのですが、なんと、小林が小林館長から小林の絵をお借りするという事態が起こりました。蜂須賀はエピソードの多い人生をおくった人でしたが、こんなところにもエピソードを作ってくれたのかしら、と思ってしまいました。
また、山階図鑑の特徴のひとつである木口木版画は、とても精密な線を再現できる技法で、小林の原画を版画で忠実に再現しています。原画と版画を比較できるように並べて展示していますので、今はもういない彫り師という職人がいた時代の、その技術の高さをぜひ間近で見ていただきたいです。
そして最後のお勧めポイントは、記念スタンプの鳥ちゃんです!山階図鑑の背表紙に描かれた鳥のデザイン画がおしゃれなので、どこかに使ってほしい、と希望したところ、博物館で記念スタンプを作ってくださいました。展示を見終わったところに置いてありますので、忘れずにスタンプを押して帰ってください。
本企画展は、11月4日まで開催しています。1カ月ごとに原画類を入れ替えますので、何度も足を運んで見てもらえれば嬉しいです。展示品は鳥の博物館のサイトから出展目録をチェックしてください。8月16日まではあちこちに「カンムリツクシガモ」が展示されているので、ぜひ探してみてください。
開催中のイベントなどは我孫子市鳥の博物館のサイトをご覧ください。