W01 切っても切れない古生物学と鳥類学
〜古生物学者が見ている鳥の世界〜

青塚圭一(立教大学・東京大学総合研究博物館
E-mail: 5575391@rikkyo.ac.jp)
石川弘樹(東京大学総合研究博物館)
宇野友里花(東京大学)
多田誠之郎(福井県立大学)

1996年以降,羽毛の痕跡を持つ恐竜化石が相次いで発見されたことにより,恐竜と鳥類が極めて近い関係であることが明らかになった.今日では鳥類が恐竜から進化したとする学説は揺らぎのないものとして,広く知られるようになっている.しかしながら,恐竜が羽毛を持っただけで鳥類になるわけではない.恐竜から現生鳥類に至るまでの間には骨格形態はもちろん,機能的構造や生理面を含めた進化も起こっていたはずである.

この疑問を明らかにするために古生物学分野では日夜,様々な手法で研究を行なっているが,化石記録だけからそれらの疑問を説くことは不可能である.そのため,恐竜の直系の子孫である現生鳥類の生態,行動を理解することは古生物学的な疑問を解く上で欠かせないものであり,鳥類研究者と足並みを揃えて研究を行うことは,学際的な発展をもたらすものになると確信している.

そこで本集会は恐竜から鳥類への進化に関する古生物学研究の事例紹介をすると共に,鳥類研究の視点を含めた学際的研究の必要性を説くことを目的として企画した.本集会では趣旨説明を行った後,前半で中生代の鳥類に関する概要と古生物学研究における“鳥類”の定義に関する講演を行い,後半は演者自身の研究結果に基づいて,鳥類の翼を構成する前翼膜の進化に関する研究と,鼻腔構造から推察する恐竜の生理機能を推定した研究の紹介を行った.


中生代の鳥類の多様性

青塚圭一

中生代の鳥類というと始祖鳥が“最古の鳥類”として知られているものの,その他の鳥類の存在は一般的にあまり知られていない.しかし,これまでの化石記録から少なくとも白亜紀には鳥類の多様化が起こっていたことが明らかになっている.そこで,本発表では中生代の鳥類の種類や骨格的特徴について紹介を行った.

中生代に繁栄した鳥類には基盤的なものから順に孔子鳥,エナンティオルニス類,真鳥類などが代表的なものとして知られている.これらの鳥類化石はその骨格的特徴から現生鳥類とは異なる分類群のものとして扱われており,初めは長かった尻尾の骨が癒合して尾端骨を形成し,飛翔に向けた胸帯の発達,翼を構成する前肢の発達,そして大きな竜骨突起の形成へと徐々に現生鳥類と共通する骨格構造を進化させてきたものと考えられている.これらの鳥類の化石は世界中から報告されており,陸上性,潜水性のものも含まれていることから,中生代において鳥類は既に繁栄していたことが明らかである(図1).

図1

しかし,化石として残るのは骨の一部のみということが殆どであり,その生態の復元は極めて難しい.このため,化石として残されている骨格構造を現生鳥類のものと比較し,その骨格的類似に基づき,行動や生態を推定するというのが一般的である.その研究例の1つとして,白亜紀の潜水鳥類であるヘスペロルニスの水掻きがアビのような蹼足であったのか,カイツブリのような弁足であったのかについて足根中足骨の特徴に基づき推定した研究内容を紹介した.

昨今の鳥類進化の研究の大きな疑問として,現生鳥類のグループ(新鳥類:Neornithes)がいつ出現したのか?ということが挙げられる.現在のところ新鳥類は白亜紀末期には出現していたことを示す化石が知られているが,なぜこのグループだけが恐竜を滅ぼした大量絶滅事件を生き残れたのかについては大きな謎であり,今後の更なる研究が必要であると言える.

 

中生代の鳥類と現在の鳥類は同じ鳥?

石川弘樹

我々は日常的に「鳥類」という言葉を使っているが,実はその定義や範囲は様々である.“現在”という1つの時間面にのみ言及している限りは問題にならないが,長い進化の歴史を辿っていくうえでは混乱のもとになる.そこで,本講演では「鳥類」の定義を題材に,系統的な分類群の定義法や「鳥類」的な特徴の獲得の歴史を紹介した.

系統的な分類群の定義には主に2つの方法がある.1つは,特定の分類群との系統関係に基づくもので,たとえばイエスズメとトリケラトプスの最終共通祖先を基準に「恐竜類」を定義する意見がある.「鳥類」の場合,ドロマエオサウルス類やアーケオプテリクス(始祖鳥)などを基準に定義したものを「アヴィアラエ類(Avialae)」,現生鳥類のみを基準に定義したものを「新鳥類(Neornithes)」と呼ぶ.基本的には,中生代の「鳥類」はアヴィアラエ類を,新生代の「鳥類」は新鳥類を指す.しかし,化石種は系統関係が不確定な場合も多く,アヴィアラエ類では系統仮説によって「鳥類」の範囲が大きく変わってしまうこと,現在では始祖鳥は必ずしも最古の「鳥類」とは見なされていないこと,あくまで系統的な定義であるため初期の「鳥類」がどの程度「鳥類」的だったかには注意が必要なことなどを紹介した(図2).

図2

分類群は特定の派生形質によっても定義でき,例としては「伸長した薬指」による「翼竜類」の定義などがある.鳥を鳥たらしめる特徴として羽毛や翼が考えられるが,これらの特徴は化石にはほとんど残らない.しかし,例外的に保存状態の良い化石の発見により,羽毛のような繊維状の構造が多くの恐竜類(ひょっとすると翼竜類)にも見られることが判明し,現生鳥類の羽毛の相同物がどこまで遡れるのかは議論が続いている.翼に関しても同様だが,少なくともマニラプトル類の一部の化石では翼状の構造が確認できる.

現生種だけ見ていれば「何が鳥か?」と迷うことはないだろう.しかし,鳥類らしい特徴が化石に残りにくかったり,連続的に変化していたりするせいで,誰もが納得する形で明確な指標を持って「鳥類」を定義付けることが難しいのが現状である.

 

恐竜はどのようにして翼を持ったのか?

宇野友里花

本講演では鳥類を特徴づける行動の1つである“飛翔”に関係する軟組織を化石の姿勢から推測した研究事例の紹介を行った.

鳥類は翼を羽ばたかせることで飛行時に揚力と推進力を得ているが,現生鳥類の翼の前縁を見てみると「前翼膜」と呼ばれる,肩から手首まで伸びる膜状構造が存在している.この前翼膜は羽ばたきの際,揚力を生み出す役割を果たしており,肘と手首の連動もサポートし,飛行において重要な役割を担っている.これまでの化石の研究から,現生の鳥類の翼を特徴づける多くの形質(例えば,前肢の指が3本であること,手首の骨や中手骨が癒合していること,風切羽を持つことなど)は,恐竜の段階で獲得されていたことがわかっているが,軟組織である前翼膜は化石として保存されにくいため,恐竜から鳥類への進化の過程でこの構造がいつ獲得されたものなのかは明らかになっていなかった.

図3

そこで,前翼膜が肘の角度を制限する構造であることに着目し,前翼膜を持つ鳥類では,肘が大きく伸びて化石化することはないと予想した.そして,新生代の爬虫類と鳥類の化石を調べ,肘関節の角度を測定し比較したところ,鳥類化石では,肘が優位に小さい角度で保存されていることがわかった.さらに恐竜化石の肘の角度を測定したところ,鳥類に近縁なグループになるほど化石として保存されている肘関節の角度が小さくなっており,特にマニラプトル類では,現生鳥類と同様の肘の角度が保存されていることが明らかになった.マニラプトル類は鳥に近縁な恐竜ではあるが,しばしば爪を使って狩りをしていたと考えられる陸上性の肉食恐竜である.つまり,現在の鳥の飛行において重要な役割をもつ前翼膜もまた,鳥の飛行の起源よりも前の恐竜の段階で獲得されていたと考えられるのである(図3).

 

恐竜の代謝能力は鳥か?爬虫類か?

多田誠之郎

一般的に爬虫類は外温動物であるのに対し,鳥類は内温動物である.恐竜は爬虫類であるが鳥類へと進化したとすれば,代謝に関わる生理機能の進化を伴っていたはずである.そこで,鳥類の祖先である恐竜類の代謝状態を推定するために,内温性の鳥類・哺乳類が独立に獲得した呼吸鼻甲介と呼ばれる構造についての研究を紹介した.

呼吸鼻甲介は,鼻腔内に突出する渦巻き状の突起構造であり,鼻腔の表面積を大きくして熱交換効率を上げることで,内温動物が持つ大きな脳の温度維持に役立っていると考えられている.今回紹介した研究においても,内温動物が本構造を鼻腔内に包含することで,外温動物よりも大きな鼻腔サイズを持つことを示した.また,このパラメータに基づき非鳥類恐竜類に注目してみると,鼻腔サイズは現生鳥類ほど大きくなっておらず,鳥類程度に発達した脳の熱交換機能は有していなかったことが明らかになった(図4).

図4

代謝状態を含む生理学的特性を化石記録から直接明らかにするには難しい点が多いが,それらを形態の変化にすりかえてアプローチする方法は古生物学特有のものであるため,研究紹介を交えて本自由集会で紹介した.


4つの講演を終えた後,最後に総合討論として参加者との意見交換の時間を設けた.その中で,鳥類の骨学的進化や古生物研究に関する大変好意的な意見を頂くことができ,本集会で意図したことを参加者に伝えることができたと実感している.上述の通り,化石から読み解ける情報は過去の生物の残した証拠の一部に過ぎず,まだまだ検討の余地を多分に残しているというのが実情である.しかし,鳥類の遺体資料や行動データは外部形態や生態,行動の見えない古生物学研究にとって非常に意義のある情報をもたらせるものであり,鳥類研究者と共同で研究を行う機会を設けることは,双方にとって新たな知見を生み出す可能性を秘めている.本集会を機に今後,学際的な研究の発展に繋がっていくことを大いに期待したい.

(注:本記事に掲載されている図の著作権は各作者に帰属します。無断使用・転載を禁じます。)

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日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W09 野鳥観察をとりまく現状と課題 2024年大会versionサブタイトル『エコツーリズムと鳥類の保全』

日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W09 野鳥観察をとりまく現状と課題 2024年大会versionサブタイトル『エコツーリズムと鳥類の保全』

板谷浩男(日本気象協会)
富岡辰先(公益財団法人日本野鳥の会)
中原一成(環境省自然環境局国立公園課 国立公園利用推進室)
早矢仕有子(北海学園大学)
須藤明子(株式会社イーグレット・オフィス)
菊地直樹(金沢大学)
守屋年史(バードリサーチ)

 昨年度大会で野鳥観察をとりまく現状と課題というタイトルで自由集会を開催した.野生生物などの観光資源の利用は地方において経済的に期待が高まっていた.一方で,撮影や観察が鳥類の生息に負の影響を与えている可能性が示唆されていた.今年は,「エコツーリズムと鳥類の保全」を課題とし,4人のスピーカーから話題提供を経て,総合討論では社会的な観点も含めた議論を実施した.

 

野鳥の会が実施したアンケート調査結果報告
板谷浩男(日本気象協会)・富岡辰先(公益財団法人日本野鳥の会)

 エコツーリズムや地域による資源利用として,鳥取県のキャンプ場で利用客を集客している事例を紹介した.この事例では,フクロウの巣箱を設置し,巣箱をライトトラップすることで利用客を呼び寄せているが,これのことを問題提起として紹介した.また,(公財)日本野鳥の会普及室による2023年のマナー問題事例の報告をおこなった.問題事例は,12の支部・連携団体からの延べ31件であった.問題報告の内容としては,音声による誘引や営巣放棄等,鳥に対する問題は7件,三脚による一般の方への交通妨害,多数の自動車による交通障害やマナー違反を注意した人とのトラブル等,人に対する問題は16件,両方に関わるものが3件だった.その他としては,小川を堰き止め水場を作ったり,小屋を設置したり,枝を折る,止まり木を設置する等の環境改変が4件あった.問題を起こしている人は,カメラマンが22件,観察者が1件,両方が4件と,圧倒的にカメラマンの問題が多くなっていた.

 

自然環境保全と地域経済活性化の両立を目指して
中原一成(環境省自然環境局国立公園課 国立公園利用推進室)

 国立公園における保護と利用の好循環,エコツーリズム政策概要,アウトドアガイド事業者向けの「国立公園における自然体験コンテンツガイドライン」,ガイド育成事業,米国のアドベンチャートラベル(AT)事業社のサステナビリティへの取組等を紹介し,自然環境保全と地域経済向上の両立を考察した.
 国立公園における保護と利用の好循環として,2016年より環境省が取り組む国立公園満喫プロジェクトを紹介した.本プロジェクトは,日本の国立公園のブランド力を高め,国内外の誘客を促進し,利用者数だけでなく,滞在時間を延ばし,自然を満喫できる上質なツーリズムを実現させるものである.また,地域の様々な主体が協働し,地域の経済社会を活性化させ,自然環境の保全へ再投資される好循環を生み出すことを目指している.これまで,受け入れ環境の磨き上げとして,景観改善,廃屋撤去,公共施設へのカフェ等導入,自然体験コンテンツの充実等を図っている.さらに,国内外へのプロモーションを,日本政府観光局サイト内国立公園一括情報サイト,国立公園公式SNS及びウェブサイト,国立公園オフィシャルパートナーシップ等民間企業との連携を通して実施している.令和3年の自然公園法の一部改正では,地域主体の自然体験アクティビティ促進の法定化・手続きの簡素化として,地域協議会が自然体験活動促進計画を作成できるようになった点等についても共有した.
 エコツーリズム政策概要では,エコツーリズム推進法,エコツーリズム推進全体構想,エコツーリズム推進単体構想認定地域について,説明した.また,特定自然観光資源の指定による立入り制限制度の事例として,阿寒摩周国立公園内のアトサヌプリ(硫黄山),西表石垣国立公園内の西表島を紹介した.アトサヌプリでは,人数制限(年間5万人以内,1日130人以内)を導入し,また,認定ガイド同行が条件,参加料金は13,000円~/人となっており,保護と利用の好循環事例とも言える.
 国立公園における自然体験コンテンツガイドラインは,全国の国立公園で提供される様々なコンテンツ(アクティビティや体験など)について,コンテンツを提供する事業者自らが「コンテンツ造成」,「安全対策・危機管理」,「環境への貢献・持続可能性」の3つの観点から,その質を確認することができるガイドラインとなっている.環境省では,多くの事業者の皆様に本ガイドラインの主旨をご理解いただき,より質の高い国立公園ならではのコンテンツの提供ができるように,国立公園のさらなる活性化を皆さんとともに進めていきたいと考えている.
 ガイド育成事業として,令和6年度自然を活かす上質なツーリズム人材育成・地域作り支援事業による研修を紹介した.本研修は,地域社会の持続的発展を目的として,自然を活かし,社会や経済の課題も同時に解決するような“地域が元気になる”上質なツーリズムの実現を目指す人材育成と地域作りを支援するものとなっている.
 最後に,米国のAT事業者のサステナビリティへの取組について,カリフォルニアを拠点とするリバーアウトフィッターである,OARSの取組等を紹介した.OARSは2000年にフィジーのUpper Navua River 周辺に自然環境保全地域を設立した.地域の土地所有者,村,企業,政府等ステークホルダーと協働して設立された.この取組はツーリズムを通して,自然環境保全と共に,地域発展にも貢献している.このユニークなパートナーシップは,これまでにリース支払い,旅料金,ガイドへの支払い等を通じて,100万ドル以上提供されている.ATTA(Adventure Travel Trade Association)によると,2019年時点でAT産業界では32%のAT事業者がB Corp等,サステナビリティ資格を有していたり,取得手続きを進めていたりしており,これらの資格は企業評価を高めているとも言え,AT事業者による自然環境保全への取組は必要不可欠である.

国立公園における自然体験コンテンツガイドラインについて

 

シマフクロウ保全とツーリズム
早矢仕有子(北海学園大学)

 北海道の個体数が微増を続けているシマフクロウだが,観光利用と保全事業の軋轢が緩和できる兆しは無い.絶滅危惧種に対する営利目的の私的な餌付けに関しては,国も中止を呼びかけているが状況は一向に変わりそうにない.保護事業者(国)と事業に関わる研究者が声高に正論を叫ぶだけでは,経済的利益をシマフクロウから享受している人々の行動を変えることは困難である.道内で分布域の復元が進行しているタンチョウでは,とくに札幌圏で市民の見守り活動が活発化し,不適切な観察や撮影行為防止に貢献しているが,生息地を公開していないシマフクロウでは,地域住民の自発的な保護行為を促進することができないのも悩みの種である.
 そこで,やや現実逃避の感はあるが,まだシマフクロウの分布域が復元していない札幌周辺でシマフクロウファンを増やし,保全活動への良き理解者と協力者を涵養することを目的とした普及啓発イベントに力点を置くことにした.とくに,子供たちと両親を仲間の輪に加えることで,次世代の力を借りて,かつての分布域である札幌や函館までシマフクロウの分布が復活する日を目指したい.

 

イヌワシを見せて守る作戦
須藤明子(株式会社イーグレット・オフィス)

 滋賀県と岐阜県の県境にある伊吹山(標高1377m)では,1990年代からイヌワシの撮影を目的としたカメラマンによる問題が続いている.伊吹山ドライブウェイ沿いの歩行禁止区域への侵入,国定公園内での樹木伐採や餌付けなどの問題が続いている.さらに近年,一部のカメラマンが巣に接近するなど深刻化したことから,苦肉の策として「見せて守る作戦」を開始した.2023年4月〜9月には,「見守りによる監視効果」と「イヌワシを身近に感じることで保全の意識を育むこと」を目的として,イヌワシの営巣のようすをYouTubeでライブ配信し,地元米原市も「イヌワシ子育て応援プロジェクト」として協働した.さらに10月からは,ルールを守った観察会を定期的に開催している.これらの取り組みにより,多くの人がイヌワシの保全に象徴される生物多様性保全について考える貴重な機会となった.
 2024年は,米原市と伊吹山ドライブウェイの協力を得て,ガードレールに侵入防止柵を設置してカメラマンを排除することに成功した.その結果,これまでカメラマンが占拠していた場所をイヌワシがハンティングの場所として利用するようすがたびたび観察された.このことが功を奏したのか, 6月にはイヌワシの雛が無事に巣立つことができた.11月には,伊吹山のカメラマン問題がテレビ放映され,大きな反響があった(毎日放送ニュース特集「特盛憤マン」).テレビ放映の数日後には,市民からの通報を受けて,はじめて米原警察(パトカー1台と警官2名)が現場を確認し,カメラマンを退去させた.
 30年にわたるカメラマン問題が解決へと向かい,伊吹山のイヌワシが安心して営巣できる環境がもどることを願っている.

イヌワシに関連する問題行動に加えて、希少植物の踏み荒らし、ごみのポイ捨て、注意喚起看板の破壊などの行為が確認されている.
イヌワシと希少植物の保護のためにガードレールの外に出ないよう注意喚起する看板も設置された(伊吹山を守る自然再生協議会:滋賀県・米原市・環境省近畿地方環境事務所).

 

野鳥観察「問題」へ順応的に対応する-対話的アプローチのススメ
菊地直樹(金沢大学)

 野鳥の保全と利用のあり方は,ある解決策を実施しても別の問題が生じてしまう「やっかいな問題」といっていいかもしれない.やっかいな問題の解決とは正解を出すことではない.バードウォッチャー,カメラマン,観光関係者,保護関係者,地域住民といった多様な人びとが試行錯誤を続けながら,早期発見や適切な対応ができる創造的な学びのプロセスを動かすことが重要である.

 菊地が参加した兵庫県・豊岡市で実施されたコウノトリの野生復帰プロジェクトでは,コウノトリを中心に添えることで,農業の活性化,地域の経済効果,自然再生,文化の創造のネットワークといった多様な価値が同時多発的に生じている.コウノトリを害鳥と認識していた人たちにも,新たな価値観が生まれてきた.

 野生復帰での経験を踏まえ,やっかいな問題となっている野鳥観察とマナーの問題を解決するためには,どうようなアプローチが必要かを模索してみた.そもそも野鳥観察「問題」は何が問題なのか?問題解決とは何か?そうした問いに対して,『やっかいな問題の解決とは,問題が起きても,多様な人びとが早期発見や適切な対応ができるという創造的な「学びのプロセス」を生み出すことである』と考えた.
 次に,餌付けが問題となっているシマフクロウについて地域の関係者への聞き取り調査の結果から,以下のような問題が確認された.

<整理された問題点>
①地域住民が保全の担い手であると保護関係者が必ずしも認識していないこと
②地域の主体性が必ずしも担保されていないこと
③外部からの批判は地域生活に大きな影響を与えること

 これらをふまえ,野鳥観察における問題を社会の問題としてとらえるならば,野鳥には多義的な「意味」が付与されており,関係する様々な人たちが,相互に理解し,相互に学び,お互いに関係を持ち合うことが重要だと考えられる.
 すなわち,鳥の知識を習得してもらうだけでなく,保護や保全についての理解を得るだけでもなく,まずは地域社会に入っていって,地域社会が抱える問題や課題の一つとしてとらえ,多様な人々の考え方を知ること,学ぶことが重要であると考える.
 多様な人びとが多様な考えをすることは,当然複雑である.複雑さは問題であると同時に解決のための資源でもあり,問題を解決していく順応性が問われている.誰からも納得される回答を用意することではなく,可能な限り調べて考え「こうではないか」という暫定的な提言をする,それを実行する,そしてまた調べて考える,というプロセスを対話的に進めることで複雑さの糸を解くことが出来ると考える.
 現在,石川では,いしかわ生物多様性カフェを主催し,市民と専門家が「対話」する場をつくり,社会における課題を話し合う場を設け,地域の課題と生物多様性の保全に寄与する取り組みをはじめている.

 

総合討論
守屋年史(バードリサーチ)

 総合討論では以下の話題が会場からも出され,自然保護と観光利用の両立,ガイドラインの有効活用,そして関係者間の協力の重要性が討論された.

1.モラル・マナーの普及と法律の役割
 環境省では法律で対処しにくいモラルやマナーに関して,ガイドラインや啓発活動を通じて普及を図る方針を採用している.公園ガイドの教育が重要とされるが,ルールから逸脱する者への対応には課題がある.

2.絶滅危惧種の保護とガイドライン
 種の保存法や特別保護区を利用することで,イヌワシやシマフクロウの保全が可能である.他に特別鳥獣保護区や国立公園の特別保護地区などの保護区を利用して制限を行うことも可能.

3.エコツーリズムの発展とマナーのガイドラインと対象の設定
 離島やツル観察など,ガイド付きのエコツーリズムは自然保全に寄与すると考えられる.バードウォッチングにとどまらない,多面的なガイドライセンス制度の構築が求められる.故意にルールを無視する人ではなく,初心者を対象にした啓発が現実的.
 カメラマン対策にはメーカーとの連携が有効.シマフクロウの例では,関係者同士の対話と役割分担が重要であり,地域の特性に応じた対応が効果的.

4.観光と保全のジレンマ
 公共施設の利用増加が経済には良いが,保全には負担となるジレンマが存在.
 国立公園では計画の見直しや点検を通じて,利用と保全のバランスを模索している.
 ガイドは,見せる・見せないといった判断や観光客の期待に対する対応が難しい.
 環境省のパンフレットでは「そっと離れる」行動を推奨しているが,具体的な距離や人数制限の設定は難しい.

<総括>
 中原さんからは,国立公園における保護と利用や,エコツーリズム政策について,外国のエコツーリズムの事例なども示し,自然を守り地域活性をどう考えるかといった観点を重要視している国の姿勢を分かり易く示していただいた.
 バードウォッチングの観点から見ると,ツル類の越冬地や離島での渡り鳥観察,イヌワシや,シマフクロウなどの特定の観光資源の利用可能性は大きいと考えられる.ただし,不用意な接近による繁殖妨害,保護方針とは関係ないのない餌付け,オーバーユース等の課題も多数存在していた.解決の方向性として,早矢仕さんは,研究者側からの発信により,関心と共に科学知見を普及していく活動に重点を置き,未来世代を育て増やす,須藤さんは,あえて生息地を公開することで監視効果とともに,身近に感じることによる関心や理解の醸成を図っていた.ただ,親近感を持ちすぎることへの危険,SNS上での中傷などのデメリットも新たに認識され,効果をどう判定するかといった検証は必要と考えられた.また継続することで大きな効果が得られるため,その体制づくりも課題と考えられる.しかし,長期的な啓発による取組みは,お二人のその手ごたえもあって,希望が持てる手法と考えられる.
 また,現在進行中の課題に対応するため,ガイドラインの整備や法的な規制も視野に入ると考えられる.科学的な知見を積み重ねるとこで,ルール化を検討することが理想と考えられるが,現実的な問題として,生業の一部(宿泊業やガイド業など)として既に地域住民が関わっていることが解決を難しくしている.菊地さんからは,順応的な解決プロセスとして,地域に飛び込んだ対話的アプローチの話題を提供していただいた.その中で,地域主体を担保すること,外部の批判が地域に大きい影響を与えることなど,自然への影響だけを見ていると見落とす可能性の高い課題があることが認識できた.地域住民が最終的な保全の担い手であることを考えると,自然環境,地域社会,経済効果の良い循環を構築することは重要と考えられる.ただ,持続的な保全への投資も発生し続けることは,自然観光資源の付加価値を上げ続け,環境への負荷も上がり続けないだろうかといった心配の質問も会場からあった.
 一足飛びに課題の解決は難しく,地域経済規模や地域の将来なども加味した順応的な検討が必要になると考えられる.ある程度のゆるさやあいまいさを許容し地域社会との関係を続けながら,長期啓発の効果につなげる過程が必要ではないかと感じた.

会場
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君はハリオアマツバメの針を見たか?まだの人は上野に急げ! ~「特別展 鳥」のご紹介

君はハリオアマツバメの針を見たか?まだの人は上野に急げ! ~「特別展 鳥」のご紹介

平岡考(山階鳥類研究所)

国立科学博物館(以下「科博」)で開催中の「特別展 鳥」(以下「鳥展」)は、多くの方が訪れているようです。私も出かけてとても面白く、参考になったので、鳥好きの仲間に参考になるかなと、軽い気持ちで、適当に撮影した写真をつけて個人的にFacebookで紹介したところ、それを見た広報委員の某氏から、同じようなものでよいので鳥学通信に書いてくれないかという依頼をいただきました。改めて自分の文章を読み返してみて、いやしくも日本鳥学会の公式のメディアのひとつである鳥学通信で載せられる場所としては、編集後記しかなさそうなレベルと思われましたが(とはいっても鳥学通信に編集後記はないみたいですが)、せっかくのお声がけですので、あまり気張らずに、適宜直した文章をお送りすることにします。

鳥展の入口

冒頭の、鳥の進化と鳥とはどんな生き物かを示した展示(第一章「鳥類の起源と初期進化」)は、鳥の教科書には必ず書かれている内容が最新の研究でアップデートして説明してあり、ちょっと難しく感じるかもしれませんが、鳥学会会員として、ざっとでもよいので勉強しておかれるとよい内容だと思います。特に、鳥学会会員の皆さんの中にも、地域の鳥のサークルなどでリーダーをおつとめの方もいらっしゃることと思います。そういう方には参考になる情報満載だろうと思います。

そのあとは、DNAの研究(ゲノム解析)の成果にもとづいた分類に沿って、グループごとの展示が多数の剥製標本でされていて見応えがあります(第2章「多様性サークル」、第3章「走鳥類のなかま」~第7章「小鳥のなかま」)。ここで示された目と科の分類は、その多くは日本鳥学会の鳥類目録でいうと、2012年の改訂第7版に反映されていたものですので、必ずしもほかほかのホットニュースということでもないですが、まだまだ多くの方にとってびっくりな内容だろうと思いますし、鳥学会の目録は日本産鳥類だけしか掲載されていませんので、鳥類全体を見渡して類縁関係を説明している今回の展示はやはり改めて見る価値があると思います。

たとえば、カイツブリ科とフラミンゴ科は形態がこんなに違わなければ、ひとまとめの目にされてもよい程とか、昔は全蹼足といって、4本の趾(あしゆび)の間全部にみずかきがあることでひとまとまりと考えられていたペリカン目が、今や、ネッタイチョウ科だけのネッタイチョウ目と、カツオドリ科、グンカンドリ科、ウ科、ヘビウ科からなるカツオドリ目、そして、ペリカン科に、昔はコウノトリ目にいた、全蹼足の特徴のないサギ科、トキ科、ハシビロコウ科、シュモクドリ科をあわせたペリカン目の3つに分かれてしまい、一方、昔のコウノトリ目からは、サギ科、トキ科、ハシビロコウ科、シュモクドリ科が脱退して今はコウノトリ科だけになってしまったとか、おそらく多くの方にとってへええという内容なのじゃないかと思います(白状しますと、私は2000年代の初めに、全蹼足の鳥が複数のグループに分かれてしまうなんて、DNAの研究はまだまだだなと、形態の分類研究者はひややかに見ていますといった趣旨の解説を書いたことがあります)。

カツオドリ目の展示(森さやか 撮影)

上に述べた展示の合間に、大きめのスペースを使ったトピックとして「特集」が5つと、コンパクトなスペースを使ったトピック「鳥のひみつ」が23あり、いずれも標本や映像を使って解説されています。「特集」のテーマは「絶滅」「翼」「ペンギン大集合」「猛禽大集合」「美しいフウチョウ」です。そして「鳥のひみつ」では、「卵の大きさ」「新しく認められた日本固有種」「カッコウの托卵で宿主は滅びないのか」「都心緑地での大型猛禽類の繁殖と都市の生態系」「なわばりを張る損とトク」「日本列島は鳥の種多様性の起源地!?」など、生態から進化、分類に至るさまざまなテーマが取り上げられています。

「卵の大きさ」ではたとえばキーウィの卵が親鳥の体の大きさに比較してびっくりするほど大きいことが示されており、「新しく認められた日本固有種」では、昨年9月に日本鳥類目録の改訂第8で独立種に扱われることになったキジ、オリイヤマガラ、ホントウアカヒゲ、リュウキュウキビタキ、オガサワラカワラヒワの5種が標本を使って紹介されています。「日本列島は鳥の種多様性の起源地!?」では、ユーラシア全体に広く分布するカケスが、分子系統分析の結果、奄美群島のルリカケスから種分化し、日本を起源に大陸に分布を広げたことが示唆されていることが説明されています。びっくりなのはこのカケスの例は特殊というわけではないらしいことで、DNA分析を進めてみると、日本起源と考えられる種が多数いることがわかったそうです。「鳥のひみつ」にはイラストレーターのぬまがさワタリさんの、ちょっと脱力な(失礼!)漫画が添えられており、多くのお客さんが読んでいました。堅苦しくなりがちな展示を親しみやすくする効果が上がっていたと思います。

カケスの本剥製(森さやか 撮影)

こういった展覧会では、巨大な展示品があると展示のシンボルになります。科博で昨年開催された特別展「昆虫MANIAC」ほどではないにせよ、鳥も巨大なものがいないので、展示を企画された方はどんなものを目玉にしようか、苦慮なさったと思います。鳥展では、「史上最大の飛べる鳥」という、ペラゴルニス・サンデルシの生体復元がこの目玉に当たるのでしょう。 ペラゴルニスは、顎の骨に歯のような偽歯という突起をもち、全体の形態はミズナギドリ類を思わせる鳥で、ペラゴルニス類全体としては新生代の暁新世から更新世まで汎世界的に分布していました。2000年代に入ってからの骨学形質にもとづく分岐分析の結果、キジカモ類に属するという仮説が提唱されており、これによればミズナギドリ類との類似は収斂進化によるものということになっているそうです。会場の天井から吊り下げられた、翼開長7mの立派な生体復元と、それをただの空想ではなくて、現状の知見による、根拠ある復元にするためにどんなことをしたかの解説が、パネルと動画で見られます。生体復元を見ての私の個人的な感想としては、翼角から肩までが連続した弧を成しているように見え、それは翼角から肩をつなぐ翼膜(patagium)の表現として理解できなくはないとしても、翼のこの部分はもう少しはっきりと肘の関節があることがわかるように作って、上腕と前腕というふたつの直線的な構造の組み合わせでできていることを表現したほうが、いっそうリアルな感じになったのじゃないかと思いました。

ペラゴルニスの生体復元

最後になりましたが、忘れてはならないのは600点以上という、主に剥製を中心とした鳥類標本の、実物のもつインパクトでしょう。タイトルに書いたように、バードウォッチャーや鳥類研究者は多くても、ハリオアマツバメの尾の「針」をまじまじと見たことのある人は、たくさんはいないはずです。同じような趣向で言えば、ケアシノスリの足の「毛」(跗蹠の羽毛)も見なくちゃいけません。そのほか、思いつくままに標本を順に挙げてゆけば、日本のヤンバルクイナによく似ていて、フィリピンやセレベス島などに棲む近縁のムナオビクイナ、幼鳥の翼に爪があって、シソチョウはこんなだったのではと言われることもあるけれど、類縁関係があるわけではない、南米産で一目一科一種のツメバケイ、堂々たる大きさで、日本でも記録があるので日本の野外で見る可能性があるわけだけど、これが日本の野外にいたらどんな感じだろうと想像してしまうノガン、ニューギニアの毒のある鳥ズグロモリモズなどきりがありません。

ご存知のように剥製は、「でき」や保存状態によって見栄えがいろいろなのはある程度我慢しなければいけないですし、特に600点という数を集めると、たしかにちょっと残念なものもあることは否定できませんが、もちろん素晴らしい標本もたくさんあります。会場のいちばんはじめ、特集「絶滅」の先頭をかざるキタタキは、日本では100年以上前に絶滅しており、朝鮮半島でも減少していて、私自身は状態のよい標本に出会った記憶がないので、素敵な状態の標本が出ていて驚きました。また、南極の海に棲む全身純白のミズナギドリ類、ユキドリの剥製が2点出ていますが、すばらしいできで、ほれぼれしました。目にとまった標本のうちごくわずかを挙げましたが、600点の標本のどれが印象に残るかは、見る方によって千差万別でしょうから、皆さんがそれぞれ楽しんで見ていただけることと思います。

メインの第1会場から階段と廊下を通ってゆく第2会場は、第8章「鳥たちとともに」の展示で、足環を装着して渡りや寿命について調査する鳥類標識調査、特別協賛のサントリーホールディングスの愛鳥活動の紹介や、学校が所有している鳥類標本の廃棄をせずに保存していただけるように呼びかける展示などがあります。第2会場につながる廊下では、特別協賛のキヤノンによる啓発活動のカードが配布されており、また後援団体として、日本鳥類保護連盟、日本野鳥の会、山階鳥類研究所とあわせて、日本鳥学会のポスターが展示されています。

後援団体のポスター

見応えのある展示で熱心な人は2回行かれる方もいらっしゃるようです。また見てきたあと、買ってきた図録で勉強しますとおっしゃっている知り合いもいました。終了間際になってだいぶ混雑してきているようですが、まだ見に行かれてない方は時間を見つけて見にゆかれてはいかがでしょうか?(そうそう、ショップでは、本展の図録が購入できるのはもちろんですが、鳥学会の鳥類目録改訂第8版も販売してくださっているそうです。)3月15日から3か月は名古屋で少しだけ規模を縮小した巡回展が見られるとのことです。

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日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W13 風力発電施設が渡り鳥に与える影響と累積的影響について考える

日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W13 風力発電施設が渡り鳥に与える影響と累積的影響について考える

浦 達也1*・澤 祐介2・風間健太郎3・中原 亨4・葉山政治1
1 (公財)日本野鳥の会
2 (公財)山階鳥類研究所
3 早稲田大学人間科学学術院
4 北九州市立自然史・歴史博物館
*E-mail: ura@wbsj.org

 複数の風力発電機を設置するウインドファーム(以後WF)は,鳥が衝突したり(バードストライク),渡り鳥がWFを避けるためにルートを変更したり,WF建設のための大規模開発で鳥類が生息を放棄するなどの懸念がある.渡り鳥が一つのWFを避ける場合には飛翔エネルギーなどへの影響は小さいが,複数のWF施設を避けて飛ぶ場合,累積的な影響評価が必要となる.累積的影響の対象は、繁殖期であれば鳥の行動圏内に存在する開発行為すべてを,渡り鳥であれば日本列島の出入り口から越冬地の間に存在する開発行為すべてを含める.後者については、複数のWF事業による鳥衝突確率の計算だけでなく,渡り期間中の生存率や,越冬期および次の繁殖期までの生存率や繁殖成功率への影響まで計算することが理想とされている.
 今後,日本各地でWF建設が増えていくと考えられるため,事業ごとにアセスを行うのではなく,複数の事業や計画が鳥類に与える影響を総合的に評価していくことが,今後の生物多様性保全上も重要と考える.本集会では,5名の演者がWFの建設が渡り鳥に与える影響について,それぞれの立場から報告した.

1.鳥類保護委員会における近年の決議案件の動向
澤 祐介

 鳥学会鳥類保護委員会では,主要な活動として学会員の提案に基づき,鳥類の保護や生息環境の保全などに関する意見書や要望書等を学会決議,もしくは保護委員長決議として発出している.風力発電に関する案件は,2011年に初めて環境省宛に意見書を発出した.昨今,風力発電の導入が加速するなか,鳥類への影響が大きい事業も散見され,2017年以降,再生エネルギー導入に関連した意見書を9件発出している.これらの現状を踏まえ,学会として,鳥類への影響を回避した風力発電の導入に向け,より迅速,適切な対応を行うため,2022年2月には「日本鳥学会風力発電等対応ワーキンググループ」が鳥類保護委員会内に立ち上がった.風力発電の導入には,累積的影響も含め課題が多いが,適切な導入が進むよう学会としても働きかけを継続したい.

2.風力発電施設による鳥類への障壁影響事例と累積的影響評価手法の紹介
浦 達也

 日本野鳥の会が行った調査結果から,国内ではハチクマ,ノスリ,サシバ,マガン,ヒシクイ,ハクチョウ類で,WFを避けてルートを変更する障壁影響が生じていることが示唆されている.海外でもガン,ハクチョウ類や猛禽類の他,洋上ではホンケワタガモなどの海ガモ類やアジサシ類で障壁影響が多く発生することが確認されている.
 渡り鳥に対するWF建設の影響を評価するには,渡りルート上に存在する複数のWFの影響を累積的に評価すべきであると考える.環境省は「一定の地域内で複数の事業が平行して行われる際(中略)相加的・相乗的に影響を評価すること」と累積的影響評価を定義付けているが,国内にはガイドライン等は存在せず,日本の事業者はどのように累積的影響を評価すればよいかが分からない状況である.海外の事例では累積的影響評価の手法として,1)定性的記述,2)単純加算モデル,3)単純個体群動態モデル,4)複合的個体群動態モデル,5)個体ベースモデルの5つがあるが,後に行くほどモデル計算に使うパラメータが複雑になっていく.一方,非常に簡単な手法の1)定性的記述は,評価者が主観的に影響の有無や強度を評価できるため,推奨されていない.少なくとも2)単純加算モデルを行うこと,また,繁殖速度などの情報があれば3)単純個体群動態モデルを実施することが推奨される.なお,累積的影響評価を実施すべき地理的範囲および時間軸は,評価者の適切な判断に委ねられるため,客観的かつ適切な設定が求められる.

3.カモメ類の越冬・中継地利用と洋上風力発電の潜在的脅威
風間健太郎

 日本において洋上風力発電の海鳥へのリスク評価や予測は,とくに非繁殖において不十分である.本発表では,日本沿岸におけるカモメ類の越冬や中継地における洋上風力発電の潜在的脅威について説明した.
 再生可能エネルギー(再エネ)は有力な気候変動対策の一つであるが,健全な運用がなければ再エネ自体が生物多様性喪失要因となることは,現在共通認識になりつつある.風力発電が鳥類個体群に及ぼす累積的な影響評価のためには,事前,事後,対照区影響評価(BACI)デザインが有効である.BACIを実施するには建設前のベースラインデータが不可欠である.しかしながら,日本の洋上においては,海外に比べ海鳥の分布データが圧倒的に不足している.国や自治体主導による洋上の海鳥生息情報の蓄積が必要である.
 近年,GPS追跡調査による海鳥の非繁殖期の移動や環境利用の解明が進みつつある.北海道で繁殖するカモメ類の渡り中継地や越冬地は洋上風力発電の「促進区域」やその候補区域と重複することがわかってきた.とくに北海道や東北の日本海側,陸奥湾,千葉,福井,北九州などの海域はではカモメ類へのリスクが懸念されるため,洋上風力発電の導入に際しては適切な影響評価と影響軽減策が必要である.
 海鳥の通年の移動追跡データを用いれば,海鳥の渡りルートと既設風車との重複(脆弱性)だけでなく,将来の導入予定風車との重複(感受性)を評価できる.こうした評価を通じ,国土や大陸スケールにおいて鳥類個体が渡り期間中にどの程度風車の衝突リスクに晒されるかなど,個体レベルでの累積的影響評価が可能となる.海外ではこうした影響評価がすでに実施されている.日本でも,海鳥の移動追跡データベースを活用することで,こうした評価が進むことが期待される.

4.渡りをする猛禽類に対する累積的障壁影響の潜在的コスト推定
中原 亨

 渡り鳥の移動経路上にある風力発電施設は移動の障壁となり,その回避のために鳥は余分なエネルギーを消費する.しかし,渡り鳥が複数の風車近傍を通過する際に生じる累積的な障壁影響については,渡り期間全体での風車接近数のカウントや回避行動の観察が難しいため,見過ごされてきた.本発表では,長期間にわたる個体の遠隔追跡によってこの課題に取り組み,国内移動中の猛禽類が接近する風車の数の把握と,風車を回避すると仮定した際に生じる累積的なエネルギーコストの程度の検討を試みた.まず,ノスリ17個体,ハチクマ8個体,サシバ2個体の渡りをGPSロガーで追跡し,2017年春と秋,または両方の国内の渡り経路情報を入手した.次に,これらの経路の両脇2km以内にあった風車または風車群の数を調べた.さらにそれらの近傍100-2,000mを水平に回避すると仮定した複数のシナリオを用意し,航空力学的手法に基づいてシナリオ毎に各個体のエネルギー消費を推定した.その結果,最大で42の風車または風車群の近傍を通過していること,これらの近傍2,000mを迂回すると仮定した際に32.0km,75.7分の追加距離と時間が生じることがノスリにおいて推定された.その際に生じるエネルギー消費は,国内移動中に生じるエネルギー消費全体の2.5%に相当した.この結果は,猛禽類の渡りにおいて風車回避時に累積するエネルギーコストが比較的軽微であることを示唆した.将来的には,GPSロガーの測位頻度の増加によって,より正確な回避行動の把握とエネルギーコストの推定が可能になるだろう.一方で,地形,気象,飛行高度,垂直方向への回避,さらには国外移動時の累積影響等を考慮する必要性や,エネルギー消費の推定に多くの仮定を重ねているという問題への対応の必要性も課題として残った.本発表は,国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の再委託事業として実施した研究の一部を紹介したものである.

5.国境を超えて移動する渡り鳥と風力発電
葉山政治

 長距離を移動する渡り鳥への風力発電施設の影響の評価は,渡りの経路全体をとおした累積的な評価を行うべきである.その種が国境を越えて移動を行う場合には,統一的な基準による評価が必要となる.洋上風力発電に関して国内では排他的経済水域(EEZ)内の案件については,国連海洋法条約(UNCLOS)に準拠して,環境影響評価を行う方針が示されている.渡り鳥の経路である東アジア・オーストラリア地域フライウェイを見ると,洋上では各国のEEZが隣接する状況にあり,各国で協調した取り組みが必要である.移動性の動物種を守る仕組みとしては,移動性の野生動物種の保全に関わる条約(ボン条約)があるが,東および東南アジアでの同条約への締約国はフィリピンのみであり,日本も批准していない.二カ国間渡り鳥保護条約等の仕組みもあるが,当事国間に限定されており,不十分である.唯一,日本を含む地域で可能性のあるものとしては東アジア・オーストラリア地域フライウェイネットワークでの取り組みが考えられる.なお,ボン条約には再生可能エネルギーのタスクフォースがあり,加盟国に限らず事業者や金融機関,研究者なども参加して議論を行っており,フライウェイ事務局もメンバーであり,ここでの議論がフライウェイでの活動に反映される可能性は大きい,英国のRSPBやBTOなどの自然保護団体等も議論に参加しており,日本鳥学会からの積極的な参加が期待される.

 講演後,会場からは「事業者が環境影響評価を行う際には,重要種のバードストライクの発生確率の計算を行うが,WFが渡りルートの障壁になることをほとんど評価していないのはなぜか」,「累積的影響評価が実施されないのは、その手法が分からないこと以外の要因はあるのか」,「国などが渡り鳥のルートの調査を行い,全国的な渡り鳥の情報収集や整理を行わないと,事業者が単独で累積的影響評価を行うのは難しいのではないか」などの質問や意見が出された.
 今回の集会を通じて分かったことは,渡り鳥等における障壁影響の存在や累積的影響評価の実施の必要性を広く学会員や行政機関、事業者などに知ってもらうことである.また,累積的影響評価を実施すべき地域や時期を示すことも含め,累積的影響評価の定義付けを国や学術団体が行う必要があることも認識できた.そして,事業者が累積的影響評価を行う際に,計画地だけではなく渡り鳥の経路全体が知れるデータの利用が求められている.

 

図1. 自由集会での話題提供の様子(演者:葉山政治 氏)

 

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日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W15 アルバトロス類の将来にわたる保全に向けて -現状と課題-

日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W15 アルバトロス類の将来にわたる保全に向けて -現状と課題-

山本 裕1,5*・鈴木康子1,3・油田照秋1,4・長谷川 博1,2

1 世界アルバトロスデー&シーバードウィーク実行委員会
2 東邦大学名誉教授/NPO法人OWS会長
3 バードライフ・インターナショナル
4 (公財)山階鳥類研究所
5 (公財)日本野鳥の会
*E-mail:y-yamamoto@wbsj.org

 海鳥は現在,急速に個体数が減少しており,世界の海鳥個体数の約19%をモニタリングしたデータの解析から,1950-2010年の60年間で全個体数の約7割が減少したと推定されている(Paleczny et al. 2015).IUCNのレッドリストでは,全世界の海鳥362種のうち絶滅のおそれのある種は31%の113種(CR 19種,EN 36種,VU 58種)にも及ぶ.中でも大型で卓越した飛翔力をもつアルバトロス類は鳥類の分類群のうち絶滅リスクが高いグループの一つで,全22種のうち15種(68%)が絶滅危惧種で,準絶滅危惧種(NT 6種)を含めると95%にもなる.
 2019年5月,ACAP(The Agreement on the Conservation of Albatrosses and Petrels:ミズナギドリ目鳥類の保全に関する国際協定)は,本協定が調印された日にちなんで,6月19日を「世界アルバトロスデー」と定めて,世界のミズナギドリ目鳥類が直面している危機的な状況と保全活動の緊急性を呼びかける活動を開始した.
 日本では,長谷川 博氏の呼びかけに賛同した6団体(NPO法人OWS,(公財)日本野鳥の会,(公財)山階鳥類研究所,(一社)バードライフ・インターナショナル東京,NPO法人リトルターン・プロジェクト,NPO法人小笠原自然文化研究所)が,2020年以降,アルバトロス類を含む日本の絶滅危惧海鳥類の現状と保全について普及啓発活動を進めている.その一環として,本集会では,4名の話題提供によって,アルバトロス類の保全活動の現状と課題を共有し,課題の解決に向けた議論を行うことを目的に開催した.

鳥島個体群の回復とエコツアーの可能
長谷川 博

 大型海鳥オキノタユウ(アホウドリ)は,19世紀の終わりごろから,羽毛を目当てに乱獲され,個体数が激減して1949年には地球上から絶滅したと信じられた.しかし,1951年に伊豆諸島鳥島で約10羽の生存が確認され,再発見された.その後,鳥島測候所の人びとによって最初期の保護活動が行われたが,1965年に鳥島で火山性地震が群発し,噴火を警戒して気象観測所が閉鎖され,繁殖状況調査と保護活動は途絶えた.
 それから11年後の1976年に繁殖状況(営巣つがい数と巣立ちひな数,繁殖成功率)の調査が再開,継続された.その結果に基づいて,この種を再生へと導くための積極的保護計画が立案,実施されてきた.その第一は,植生が後退した営巣地への植栽による好適な営巣地の造成で,1981-82年に実施された.これによって,繁殖成功率は44%から67%に引き上げられ,巣立ちひな数は20羽前後から50羽台へと急増した.
 第二は,営巣地のある急斜面で1987年に発生した土石流への緊急対処で,砂防,植栽工事によって従来営巣地を保全管理して繁殖成功率を従来の水準に回復,維持し,並行して,そこから巣立った個体を,デコイと音声を利用して,鳥島の北西側に広がる土石流発生の恐れのない安全な斜面に誘引し,新営巣地を形成することを目的とした.これは1992年に始められ,2004年に新営巣地が確立した.
 これらの保護計画の成功によって,2018年に鳥島個体群の総個体数は推定で5,165羽になり,2026年には10,000羽に達すると予測される.個体数増加にともない,伊豆諸島海域から三陸沖で確実に観察されるようになった.今後,エコツアーが広がると期待される.

アルバトロス類に漁業混獲が起こる理由とその対策
鈴木康子

 漁業による混獲は,アルバトロス類が直面している主な脅威の一つである.なぜアルバトロス類が混獲されやすいかは,その生態に関係している.飛翔距離が長く行動範囲がとてつもなく広いため,漁船の操業域と被ることが多々ある.また,鋭い嗅覚によって20-30㎞離れた餌を感知できるので,遠くからでも漁業で使われる餌におびき寄せられる.混獲率が改善されなければ,今後数十年の間に絶滅する恐れのある種がいるほど深刻な問題である.
 特にアルバトロス類が混獲されやすい漁法はトロール漁とはえ縄漁であるが,どちらも効果的な対策が既に確立されている.はえ縄はマグロ漁でも使われる漁法で,マグロ漁業を管理する国際組織では,海鳥混獲回避に関する規則を定めている.具体的には,マグロはえ縄船がアルバトロス類の生息域で操業する際は,定められた混獲回避策(トリライン,加重枝縄,夜間投縄など)を使うことが義務付けられている.しかし,未だに混獲されてしまうアルバトロス類が後を絶たない.その理由として,混獲回避策が漁業者によってきちんと使われていないことが考えられる.その背景には,規則遵守のモニタリングが不足しているため,規則自体が守られていない場合が散見されている.また,規則を守っていても,混獲回避策を効果的に使えていないという技術的問題の可能性もある.
 混獲削減に向けた課題の克服には,包括的なアプローチが必要である.漁業者への働きかけとサポート,国際機関や行政による規則とモニタリングの強化の他に,水産物を扱うサプライチェーンとの協働や,消費者による混獲問題の理解と水産業の透明性を求める声など,垣根を超えた連携が重要である.

アルバトロス類保全の最前線 -移住事業の進捗とモニタリングの必要性
油田照秋

 2024年現在,アホウドリ(センカクアホウドリを含む)の繁殖地は世界に4つある.最大の繁殖地であり,全体の9割近くが繁殖しているとされる伊豆諸島鳥島と,政治的な問題により20年以上調査がされていない尖閣諸島,そしていずれも過去10年以内に新たに(再び)繁殖地となった小笠原諸島聟島と米国ハワイ州ミッドウェー島である.
 伊豆諸島鳥島には島内に3つの繁殖コロニーがあるが,いずれの場所でもつがい数は増加傾向にある.特に比較的新しく形成された2つのコロニーは増加率が高い.2024年3月の調査では,雛の数は計1,173羽であった.また,鳥島全体の個体数は約8,600羽と推定された.近年個体数は安定した増加傾向にあるが,鳥島は活火山であり,大規模噴火が起こると繁殖地が壊滅する可能性もある.また繁殖成功率が安定しないコロニーもある.
 小笠原諸島聟島では,2008年から5年間雛の移送飼育をし,かつての繁殖地の再生を試みた結果,2016年から繁殖に成功し,現在聟島で生まれ帰還した個体を含む少数の繁殖個体群が形成されつつある.2024年は初めて3つがいが繁殖に成功した.鳥島で新しいコロニーが形成された時,つがい数が安定して増加するまでに10年以上を要した.聟島では今後どのように推移するかは予想が難しく,まだ安定した繁殖地が形成されたとはいえない.
 野生動物の管理には,順応的管理が欠かせない.これは,長期的に未来予測の不確実性を伴う対象を扱う場合,継続的に現状把握をしながらそれまでの計画や活動を評価し,見直しながら柔軟に管理する方法で,その中で特に現状を把握するためのモニタリングが非常に重要になる.アホウドリの保全事業は,鳥島では40年以上,聟島では繁殖地の再生プロジェクトが始まった2008年以降毎年のモニタリングによって支えられている.しかし,予算的な問題により近年この調査の継続が難しくなっている.
 本講演後は,モニタリング継続に向けて山階鳥類研究所が始めた取り組みを紹介し,参加者とモニタリングの継続に向けて今後どのような手段が考えられるかなどを議論した.

アルバトロス類を取り巻く現状と課題
山本 裕

 アルバトロス類は,今,大きく減少しており,IUCNのレッドリストでは約7割の種が絶滅危惧種とされている.その減少要因として,繁殖地では,ネズミ類やノネコによる捕食,人の攪乱,病原菌,土壌侵食等で,洋上では,はえ縄漁やトロール漁業等による混獲の割合が高く,この他に油汚染,プラスチックの誤飲や誤食,有害化学物質等による汚染がある.
 国内では,アホウドリ(センカクアホウドリを含む),クロアシアホウドリ,コアホウドリの3種が繁殖する.個体数の現状把握は,鳥島,聟島列島でしっかりとされており,学術的な研究も鳥島,聟島列島でされている.モニタリングは鳥島,聟島列島で,現在は十分な体制で実施されているが,関係省庁等の予算削減によりその存続が危ぶまれている.尖閣諸島は領土問題のため立ち入りができず,情報が不足している.保全上の課題の解決には,混獲問題では,混獲回避策に対する漁業者の理解,及び消費者,サプライチェーンとの連携が必要である.
 アホウドリの鳥島繁殖個体群は順調に個体数が増加しているが,火山噴火や外来植物の繁茂,土壌流出,混獲,プラスチックの誤飲や誤食が懸念されている.聟島繁殖個体群は現在定着しつつあるが,繁殖集団の確立にはまだ時間がかかる.これらの繁殖地での基礎的な生態調査とモニタリング,環境整備などの保全活動が重要で,そのための継続的な体制作りが必要である.

 会場には,高校生も含め30名を超える参加があった.話題提供後の質疑応答では,はえ縄漁における混獲回避策の漁業者への周知や,漁業認証を消費者にどのように伝えるか等についての議論がされ,モニタリングの継続が不透明になっていることに対しては,モニタリングの重要性の再確認と,継続に向けての取り組みの紹介,協力の呼びかけがされた.今回の集会が参加者のアルバトロス類への関心をさらに高め,保全活動につながることを主催者一同願っている.

引用文献
Paleczny M, Hammill E, Karpouzi V. & Pauly D (2015) Population Trend of the World’s Monitored Seabirds, 1950-2010. PLoS ONE DOI:10(6): e0129342.
doi:10.1371/journal.pone.0129342.1371/journal.pone.0129342.

 

図1. 東京港野鳥公園での海鳥保全をテーマとした展示の様子

 

図2. 日本鳥学会自由集会での話題提供の様子(演者:長谷川 博 氏)

 

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日本鳥学会 2024年度大会自由集会報告 - W05 鳥類の渡り追跡公開と市民科学

嶋田哲郎(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)
E-mail: tshimada0423[at]gmail.com
※ 送信の際は[at]を@に変えてください

 近年,衛星用送信機,ジオロケーター,レーダーなどの機器の発達により,渡り鳥の移動追跡は飛躍的に進展した(樋口 2021).鳥の姿そのものは見えないものの,移動の様子はコンピュータ上に明確に表すことができる.また,鳥たちの渡りは研究者だけでなく,一般の人も含めて多くの人が知っている.春に渡ってくるツバメ,秋に渡ってくるハクチョウなど季節の風物詩となっているものもある.幼い頃にスウェーデンの童話「ニルスの不思議な旅」に胸躍らせた人もいるだろう.

渡り追跡の成果は,これまで論文や書籍などをはじめとするさまざまな媒体を通して一般の人に伝えられてきた.一般の人に伝える媒体もSNSなどの普及により,大きく進展している.すなわち,鳥の渡り追跡を一般の人に広く,すみやかに伝える環境が整いつつある.多くの人の関心のある渡り追跡を広く公開することは,一般の人が鳥や鳥類学に関心をもち,市民科学に貢献するきっかけを提供することにつながる.

この自由集会では,これまでの鳥類の渡り追跡研究のレビューと国内初の鳥類の渡り追跡公開プロジェクトとなった「ハチクマプロジェクト」について紹介し,次いでリアルタイムの位置情報に加えて画像取得が可能となったカメラ付きGPSロガーによる「スワンプロジェクト」について現状報告を行った.カメラ付きGPSロガーを開発したドルイドテクノロジー社(中国)の今後の新技術展開についても話題提供した.そして鳥類の渡り追跡公開によって見えてきたことを共有し,今後の展望などを議論した.

 

ハチクマプロジェクト
樋口広芳(慶應大)

 1990年代初めから今日まで衛星用送信機やジオロケーターなどを用いて,ツル類やカモ類,タカ類など25種以上580個体以上の鳥の渡りを追跡研究してきた.マナヅルやタンチョウでは,渡り追跡によって朝鮮半島の非武装地帯が重要な生息地であることがわかった.また,ハチクマの春秋の渡りでは,東アジアのすべての国を一つずつめぐって移動したことが明らかになった(図1).そして春と秋で渡り経路は異なるものの,年による変化は少なく,春秋での経路の違いを生み出す要因が東シナ海の風況にあることがわかった.こうした数多くの渡り研究は,渡り鳥に国境はなく,遠く離れた国や地域の自然と自然をつないでいることを明らかにした.そのことは渡り鳥が遠く離れた国や地域の人と人をもつないでいることを意味し,世界各地で渡り鳥を介した人と人とのさまざまな交流,保全に向けてのいろいろな国際協力が行われている.こうした中,ハチクマ渡り衛星追跡公開プロジェクト「ハチクマプロジェクト」が始まった(図2).鳥類の渡り追跡を公開する初めての試みである.2012年秋から2013年夏,4羽のハチクマを衛星追跡し,追跡状況をほぼリアルタイムで一般公開した.ハチクマプロジェクトには東アジアを中心に世界中の人々がアクセスし,推定で延べ10万人ほどの人が参加して情報交換などを行い,それによって追跡個体の詳細な渡り経路,中継地や越冬地,渡りの経過などを多くの人と共有することができた.渡り追跡の一般公開を通じてわかったことは,1)多くの人に渡りの具体的な様子を伝え,理解と感動を与える,2)生息地の具体的なつながりを示すことにより,保全上の問題点などを示唆することができる,3)鳥が渡りを通じて遠く離れた国や地域の自然と自然,人と人をつないでいることを実感してもらえる,4)渡り鳥とその生息環境の保全には国際協力が不可欠であることを伝えることができる,ことである.そして,追跡している鳥たちが見ている景色が見られたら,渡りの様子をもっと具体的に実感できる.このことが10年後,次に紹介するスワンプロジェクトにつながった.

ハチクマの秋(左)と春(右)の渡り経路図.衛星追跡の結果.1本の線が1個体の渡り経路.春の渡り経路中, 〇印はハチクマが1週間以上滞在した地点.Higuchi (2012) J. Ornithol.153 Supplement 1: S3-S14. にその後の情報を加えて作図.
図1.ハチクマの秋(左)と春(右)の渡り経路図.衛星追跡の結果.1本の線が1個体の渡り経路.春の渡り経路中, 〇印はハチクマが1週間以上滞在した地点.Higuchi (2012) J. Ornithol.153 Supplement 1: S3-S14. にその後の情報を加えて作図.

 

ハチクマプロジェクトの紹介.
図2.ハチクマプロジェクトの紹介.

 

スワンプロジェクト
嶋田哲郎

 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団と浜頓別クッチャロ湖水鳥観察館,ドルイドテクノロジー社が主催し,樋口広芳東京大学名誉教授を顧問とする「スワンプロジェクト」が2023年12月にスタートした.これはオオハクチョウとコハクチョウにカメラ付きGPSロガー「スワンアイズ」を装着し,渡りを追跡するとともに位置情報や画像を公開することで,市民によるハクチョウ見守り体制を構築する国際共同プロジェクトである.宮城県伊豆沼でオオハクチョウ10羽,北海道クッチャロ湖でコハクチョウ10羽にスワンアイズを装着し,すべての個体に愛称を付けた.位置情報と画像が定期的に取得され,1日に3回,それらの情報を取得することができる.タイムラグがあるものの,ほぼリアルタイムにハクチョウのいた場所を知ることができ,ハクチョウが見た景色を目にすることができる.位置情報と画像は多言語(日本語,中国語,英語)のホームページで公開されており(https://www.intelinkgo.com/swaneyes/jp/),だれでもアクセスできる.また,スマホのアプリも準備されており,スマホによる道案内でハクチョウのいた場所までたどり着くことができる.観察記録はX(旧ツイッター)に投稿することで,記録が蓄積されていく仕組みになっている(#SwanEyes).スワンアイズは位置情報と画像がセットになっているため,ハクチョウがいつどこで何をしているのかをよく理解できる(図3).また,画像から飛行場所を特定できる場合があり,飛行位置が位置情報を結んだ推定上の移動経路と異なることがあることがわかった.さらに,カメラには他種,他個体も写るため,時期や地域に応じて異なった,鳥同士の関係性も見える(図4,5).Xではフォロワー数や観察記録の掲載が増え続けており,市民の関心の高さが伺える.2024年11月,プロジェクトは継続中であり,今後も市民とともにハクチョウを見守り続け,市民科学の底上げにつなげたい.

オオハクチョウ目線の伊豆沼・内沼周辺での暮らし.
図3.オオハクチョウ目線の伊豆沼・内沼周辺での暮らし.
コハクチョウ・トワがロシア北極圏で8月8日に撮影した画像.トワは幼鳥メスで繁殖に参加しないため,非繁殖鳥の仲間と一緒にツンドラで夏を過ごした.
図4.コハクチョウ・トワがロシア北極圏で8月8日に撮影した画像.トワは幼鳥メスで繁殖に参加しないため,非繁殖鳥の仲間と一緒にツンドラで夏を過ごした.
オオハクチョウ・ナツキが6月12日午前1時に撮影した白夜のロシア北極圏.
図5.オオハクチョウ・ナツキが6月12日午前1時に撮影した白夜のロシア北極圏.

 

デジタル化技術は革新的なテレメトリー技術,人工知能,市民科学によって鳥学を促進する
李国政(ドルイドテクノロジー) 通訳:姜雅珺(バードリサーチ)

 デジタル化技術の進展は収集できるデータの構造と量を変化させた.個体の移動から分布,ビックデータまで,さらに通信技術の発達により,収集可能な情報の幅が大きく広がった.現在では,個体,群集,生態系,生物圏までさまざまな情報がデジタル化され,これらのデータを基盤として生物ユビキタスネットワーク(いつでもどこでも利用可能なネットワーク)を構築することが可能となった.私たちは生物ユビキタスネットワークと独自開発した行動を識別する人工知能技術を,Cellular,Intellink,Ubilinkの3つのインターネット技術を用いた通信手段によって,市民参加型のプラットフォーム「IntelinkGO」を新たに構築した(図6).これによって,個体ごとのリアルタイムのデータの収集や個体周辺の環境情報の収集,複数地点でのサンプリングを実現できた.この技術がスワンプロジェクトに活用されている.さらに,DEBUT VISION-5D Sensing Technologyの開発も進行中であり,これによって飛翔中のさまざまな音声(鳴き声や心拍数など)や渡り中の映像を記録することができるようになる.これらの革新的なテレメトリー技術,人工知能,市民科学を駆使することで,鳥学研究がさらに進展することを期待する.

図6.IntelinkGOの仕組み.

 

 これらの発表を踏まえ,シマフクロウの巣にカメラを設置し,市民で監視を行う取り組みをしている早矢仕有子氏よりコメントをいただいた.

 

コメント
早矢仕有子(北海学園大)

 市民科学をすすめるときに重要なことのひとつは,科学的事実を市民にわかりやすく伝えることである.ハチクマプロジェクトもスワンプロジェクトも学術研究が背景にあるため,科学的事実を説明できる根拠がある.そして研究者がその事実を的確に伝えることで,正しい情報が市民にわかりやすく伝わる.両プロジェクトはこの点でオリジナリティが高い.今後,プロジェクトがすすむことで市民の意識がさらに高まり,市民との協同が深化すれば,より素晴らしいものになるだろう.

 

まとめ

 1990年代から樋口広芳氏が先駆的かつ精力的にすすめてきた鳥類の渡り追跡は,位置情報だけでなく,鳥目線の画像情報の公開という新しい段階を迎えた.人は共有した体験が多い人ほど深くつながれる.ハクチョウ目線の画像を見ることは,かれらの体験を共有することにつながり,それは人とハクチョウとがより深くつながれることを意味する.市民の高い関心はこのことに関係していると考えられ,市民科学として,市民との協同が今後も進展するだろう.たとえば,これまでにないハクチョウ目線の画像は,見ているだけでも楽しく,鳥を知らない人でも好奇心がそそられるだろう.位置情報や画像をもとに標識ハクチョウを追っている観察者がすでに多数いるが,追跡する中でハクチョウの生態への関心が高まり,位置情報と画像を組み合わせることで新たな発見が生まれてきている.また,そうした観察記録をXに投稿し,他のハクチョウの記録と比較することも行われている.最終的には,スワンプロジェクトを活用した市民と研究者との共著による科学論文が出版されることで,鳥類学への貢献が期待される.さらに,だれでも情報を閲覧できるため,風力発電施設やメガソーラーの設置をはじめ,鳥類の渡りに脅威となるような開発行為を検討するときなど,保全に役立つ有用なデータベースにもなる.将来的にはこうしたデータベースをもとに鳥類の渡り予報のようなものができると面白い.鳥類の渡り追跡公開は,研究,保全,普及啓発,どの観点をみても,それらが大きく進展する可能性を持っている.

 

参考文献
 樋口広芳(編)(2021)鳥の渡り生態学.東京大学出版会,東京.

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鳥の学校第15回テーマ別講習会:仮剥製作りに挑戦!学んだことと展望

浅井美紅(東邦大学)

山階研究所で行われた鳥の学校、仮剥製作りに参加させていただきました。私は幼い頃から鳥類に興味を持っており、地元で軽いバードウォッチングを楽しんでいました。大学に入ってからは、友達と泊まりがけで島の鳥を観察したり、学会やバンディングに参加したりするなど、活動が学術的な方面にも広がり、鳥を学ぶ楽しさをさらに知ることができました。また、自分や友人が鳥の亡骸を採集する機会も増え、それを有効活用する技術を身につけてサークルの仲間に広めたり、博物館のボランティア活動で活かしたりしたいと思い、今回の鳥の学校に参加しました。

まず、山階研究所の岩見さんから、剥製の製作や活用についての講義を受け、剥製が後世に貴重な資料として残される重要性を学びました。この講義を通じて、仮剥製作りのモチベーションがさらに高まりました。そしていよいよ、今回の検体であるウミネコを手に取り、測定を開始しました。カモメの仲間を手元で詳しく見るのは初めてで、貴重な経験となりました。小鳥に比べて羽毛がしっかりしており、開腹してみると、脂肪がしっかりと付いていることも海鳥ならではの特徴で、非常に勉強になりました。

仮剥製作りは、マニュアルや岩見さんの手元モニターを見ながら進めました。岩見さんの技術には感銘を受けました。皮を剥く作業や鳥の体を慎重に処理していく様子を見て、その技術の高さを実感しました。しかし、いざ自分でやってみると、その難しさに驚かされました。特に皮を剥く際は力加減が非常に難しく、皮を破かないように細心の注意を払いながら作業を進めました。このような繊細で集中力を要する作業であることを改めて痛感しました。

さらに、鳥の内部構造を直接観察できたことは非常に貴重でした。骨や筋肉の配置、関節の外し方などを実際に見ながら学べたことで、鳥の構造への理解が一層深まりました。この知識は、今後バンディングで鳥を扱う際にも活かせると思います。仮剥製作りには、除肉や洗浄など多くの工程があり、体験できたのはその一部でしたが、全ての作業をこなすにはかなりの労力が必要であることを実感しました。

今回の体験で得た知識と技術は、今後さらに磨いていきたいと思います。博物館などで仮剥製作りを何度も学び、技術の精度を高めていくことが目標です。そして、サークルの後輩たちに今回学んだ技術を伝えるとともに、博物館のボランティア活動を通じて、剥製作りに貢献していきたいと考えています。

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鳥の学校第15回テーマ別講習会:「標本製作講習」参加報告

坂井充(北海道大学理学部)

この度、鳥の学校2024にて鳥の仮剥製作りを体験してきました。
私自身も鳥を研究している人間なので、鳥の死体などには馴染みがありました。しかし、剥製作りとなるとハードルが高いように感じ、今まで手を出せずにいました。そこに、運良く鳥の学校で剥製の作り方を教えてくださるというので、応募し、参加することができた次第です。
当日は、一人一羽の割り当てで、ウミネコの仮剥製作りを学びました。最初は解凍されたウミネコの形態計測をし、お腹から裂いて、皮をはぐ作業をしました。さらに、生殖腺を見て、性判定を学びました。この時点で既に、開始から2時間ほど経過していたのですが、先生方は同じ作業を10分程でするのだとか。熟練の技というのはそれほどまでに早いのかと驚きました。時間の関係上、自分で解剖したウミネコとはここでお別れをし、続きは先生方が事前に用意してくださったウミネコの皮を使いました。仮剥製への綿の詰め方や支柱の付け方、仕上げの方法などを教わりました。実際に自分で剥製の形を整えていると、翼を適切な位置に持って行くと、スッと収まるのが面白かったです。
時間が限られているなか、剥製作りの全ての行程を経験することが出来たわけではありませんでしたが、先生方が、できるだけ沢山学べるようにと工夫し、事前に準備をしてくださったおかげで、全体の流れを通して、可能な限り多くのことを学ぶことが出来たと思います。独学で何かをはじめるときは、往々にして何が正解で、何が間違いなのか分からないものです。今回、剥製作りの正解の一つを自分で体験しながら学ぶことが出来たのは、とても貴重な体験でした。
これから、剥製作りが身につくかどうかは僕の頑張り次第ですが、剥製を作ることは僕自身の研究や調査地での教育活動の幅を大きく広げると思います。この経験を最大限活かしていきたいと思います。
最後に、今回の鳥の学校を企画・運営してくださった全ての方に、貴重な経験を与えてくださったこと、感謝申し上げます。

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鳥の学校第15回テーマ別講習会:標本製作講習 開催報告

澤祐介(企画委員)

2024年度の鳥の学校は、9月17日に山階鳥類研究所で標本製作講習が行われた。岩見恭子氏(山階鳥類研究所)を講師に迎え、10名の受講者が参加した。講習でははじめに、標本製作の意義について説明があった。標本はその時代の生物相・自然史を反映した貴重な記録であること、過去に遡って標本を集めることはできないこと、そして大きな博物館だけでなく、各地の博物館や大学などで、地域の生物を集めて標本として保存する価値などについて説明があった。また標本製作時には、仮剥製の他、胸筋からのDNAおよび安定同位体用サンプルの取得、胴体部分の骨標本作成など、ひとつの鳥体を余すことなく活用されており、鳥学の発展の基礎を支えていることを強く感じた。
講習では、ウミネコを材料に、受講者1人につき1羽の仮剝製を製作した。限られた時間内で全工程を学ぶため、前半と後半にパートをわけて講習が進められた。前半は、半解凍にしてある鳥の外部計測、性別判定、皮むき、肘関節・膝関節の取り外し、尾椎の切断、大まかな除肉、頸椎の切断と頭骨内の処理、胸筋サンプルの採取までを行った。この後、本来であれば、脂肪除去、精密な除肉、羽毛の洗浄と乾燥となるが、この工程は時間がかかるため、講師による実演と解説が行われた。
後半では、講師陣があらかじめ洗浄乾燥まで済ませた別個体の「皮」が受講者1人につき1羽配られ、これを仮剥製に組む作業を行った。講師をはじめ、3名の講師補助によるサポート体制がとても充実していたため、受講者全員、仮剝製の組み上げまで無事に完成することができた。その後の質疑応答でも各工程の詳細な内容、技術についての質問が飛び交い、内容の濃い講習となった。参加者の事後アンケートでも、「これまで仮剥製を作っていて、曖昧だったことが明確になった」「本やネットには載っていないような標本づくりのコツや工夫を教えていただけた」などの感想があり、有意義な講習となったことが覗えた。
今回の鳥の学校のために、事前の冷凍鳥体、作業工程途中の鳥体等を準備し、会場や作業道具等を提供いただいた山階鳥類研究所の皆さまに深く御礼申し上げる。今回製作した標本は、製作者として受講者の名前を記録し、山階鳥類研究所に保管されるとのことである。未来の鳥類研究者がいつかこの標本を活用する時がくると思うと、感慨深いものがある。今回の受講者は全国各地の大学や博物館、自然観察施設などの関係者が多く参加されていた。各地での標本の蓄積に、今回の鳥の学校の内容が少しでも貢献できれば幸いである。

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日本鳥学会2024年度大会公開シンポジウム 「野生鳥類と高病原性鳥インフルエンザ:大規模感染に立ち向かう」を終えて

日本鳥学会2024年度大会公開シンポジウム 「野生鳥類と高病原性鳥インフルエンザ:大規模感染に立ち向かう」を終えて

森口紗千子(日本獣医生命科学大学 獣医学部 野生動物学研究室

餌付け場所に集まるオナガガモやユリカモメ

日本鳥学会2024年度大会の公開シンポジウムでは、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)をテーマとしました。日本で2003-2004年の冬、79年ぶりに発生したHPAI以降、日本鳥学会大会では、HPAIに関する口頭発表やポスター発表、自由集会、鳥の学校はあるものの、公開シンポジウムのような大きなイベントは初めてのことでした。

本シンポジウムを企画したきっかけは、北海道網走市で開催された2022年度大会の折に、本シンポジウムの講演者でもある外山雅大さん(根室市歴史と自然の資料館)から、根室市でHPAIによるカラス類の大量死が発生した際の対応について伺ったことです。HPAIによる大量死に初めて遭遇したにもかかわらず、地元の方たちで協力して監視体制を整備し、希少鳥類を守るための注意喚起まで実施した流れは、日本全国にあるカラスのねぐらを対象としたHPAIサーベイランスの見本となるだろう、と直感しました。その時一緒に話を聞いていた、本シンポジウムのコメンテーターでもある金井裕さん(日本野鳥の会)に、翌年(2023年)の金沢大会で自由集会でも企画しませんかと提案したところ、HPAIをテーマにするなら、ウイルスの専門家(獣医学者)も呼んだ方がいいからシンポジウムでないとね、と(いい意味で)一蹴されました。自由集会の講演者には、自腹で来てもらうしかありません。非会員の獣医学者をご招待するならば、交通費や謝金を支払えるシンポジウムを企画するしかない、ということです。

日本獣医学会野生動物医学会獣医疫学会などの獣医学系の学会では、毎年のようにHPAIに関するシンポジウムが開催されています。日本鳥学会でHPAIをテーマにする意義は、野生鳥類の観察や捕獲だけでなく、死体を拾い標本を作るような、野生鳥類に触れる機会の多い学会員の方々に、HPAIの問題や実際にHPAIサーベイランスに関わっている人たちの取り組みについて知ってもらうこと。そして、被害を受ける野生鳥類や、家きんや、動物園の鳥たちを少しでも減らすために、HPAI発生時の対応で大変な思いをする人を減らすために、力を貸してほしいという思いからです。幸い、その次の2024年度東京大会で大会実行委員となり、実行委員の皆さんにHPAIに関するシンポジウムの企画を受け入れてもらえたことで、実現に向けて始動することになりました。

本シンポジウムを開催することが決まり、もう一人のコーディネーターである牛根奈々さん(山口大学)に声をかけました。牛根さんは、私が所属する日本獣医生命科学大学出身の獣医学者です。彼女が博士課程の大学院生だった4年間、私が雇用されていた鳥インフルエンザと鉛汚染に関する環境研究総合推進費のプロジェクトで、野生鳥類専門の獣医師として支えてもらった仲です。大会実行委員に加わることも、二つ返事で承諾してくれました。そして、同プロジェクトでご一緒させていただいた、獣医学者の迫田義博先生(北海道大学)と山口剛士先生(鳥取大学)を講演者として招待しました。お二人は、環境省による野鳥HPAIサーベイランスで、ウイルスの病原性や亜型を確定する検査機関の責任者です。迫田先生からは、鳥インフルエンザの基礎について、ウイルスの特徴から北海道大学構内でのHPAIサーベイランス、HPAIに感染した希少鳥類の治療にいたるまで、様々な視点でやさしく解説していただきました。曝露されるウイルスが一定量に満たないと感染が成立しないため、感染防止にはウイルス量をいかに減らすかが大事であることを教えていただきました。山口先生からは、家きん農場に侵入するネコ、イタチ、スズメなど、養鶏場でHPAIを防ぐことが難しい現状について発表いただきました。HPAIウイルス(HPAIV)は、ニワトリに対して病原性が高いことで定義される、家きんの病気であることを強調されました。そして、野生鳥類の大規模なHPAI発生現場の声として、シンポジウム企画のきっかけとなった外山雅大さんに根室での取り組みを、そして以前より地域ぐるみでツル類をはじめとする野生鳥類のHPAIサーベイランスを続けている原口優子さん(出水市ツル博物館クレインパークいずみ)より、鹿児島県出水市における取組みと、出水市で発生したツル類の大量死について報告していただきました。私は、獣医学者と野生鳥類関係者をつなぐ役割として、鳥類生態学による鳥インフルエンザ研究事例について講演しました。総合討論では、鳥類学者代表として樋口広芳先生(慶應義塾大学)、野生鳥類関係者として鳥インフルエンザに精通する金井裕さん(日本野鳥の会)、家きんの鳥インフルエンザを担当されている唯野剛史さん(農林水産省)、過去に出水市でツル類の大量死が発生したシーズンに現場の環境省職員として対応にあたり、現在は本省で野生鳥類の鳥インフルエンザを担当されている木富正裕さん(環境省)もコメンテーターとして加わり、活発な議論が繰り広げられました。しかし、総合討論は当初予定していた30分では収まり切らず、1時間に及びました。それでも伝えきれなかったことがたくさんありましたので、この場を借りて残しておきます。

オオワシ

総合討論では、出水市のツル類の餌付けが大量死の引き金となったのではないか、根室でもワシ類が観光目的で餌付けされているため、禁止できないのかということが話題の中心でした。出水市におけるツル類の大量死の前年に、イスラエルで発生したHPAIによる10,000羽ともいわれるクロヅルの大量死も、ツル類が餌付けされているフラ湖で発生しました(Lublin et al. 2023)。フラ湖で越冬するクロヅルの個体数は約50,000羽なので、越冬個体群の約20%が死亡したことになります(Pekarsky et al. 2021)。餌付けは過度に群れを集中させ、HPAIなどの感染症まん延のリスクを高めます。希少鳥類が大量に集まるほどの餌付けは避けるべきですが、出水市のツル類の餌付けは、観光目的だけでなく、周辺の農地における農業被害を防ぐ役割もあると考えられており、長年中止できなかった経緯もあります。一方で産・官・民・学の連携により、毎日ツル類を監視し、迅速に死亡鳥や衰弱鳥を回収し、ねぐら水の検査を定期的に実施するなど、ツル類の生息地を維持し、カラス類やトビをはじめとする腐肉食性の鳥類等への感染拡大を防止するとともに、多くのシーズンで周辺に散在する養鶏場でのHPAI発生を抑制してきたことも事実です。大量死が発生したシーズンに出水市のツル類から検出されたHPAIVの特徴として、ツルからツルへと感染が広がりやすかった可能性も指摘されています(Okuya 2023)。そして、同時期に出水市とその周辺地域の養鶏場で続発したHPAIのウイルス株は、当時出水市のツル類で大流行していたウイルス株とは異なっていました(高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム 2023)。

カモメ類

趣旨説明で紹介したとおり、近年世界中でHPAIによる野生鳥類の大量死が発生しています。被害を受けている種は、越冬期のガン類やツル類だけでなく、真夏の海鳥の集団繁殖地や海獣類にまで拡大しています。大きな被害が報告されているのは、海鳥類ではカツオドリ類、トウゾクカモメ類、ウ類、アジサシ類、ペンギン類、ペリカン類、ウミスズメ類、海獣類ではオタリアやゾウアザラシの仲間など、多様な種の数百~数万単位での大量死が発生しています(CMS FAO Co-convened Scientific Task Force on Avian Influenza and Wild Birds 2023)。大量死が発生した海鳥には、カツオドリ類、ウ類、アジサシ類、ウミスズメ類など、日本に生息する分類群も含まれています。また、大量死の報告が少ないカモメ類は、カモ類と同様にHPAIに感染してもほとんど症状を示さず、遠くまでHPAIVを運び、他の海鳥類に感染を広げていると考えられています(Hill et al. 2022)。しかし、日本における海鳥類の鳥インフルエンザウイルス全般に関する研究事例は、ユリカモメなどごくわずかです(Ushine et al. 2023)。加えて、日本に生息する海鳥類の集団繁殖地の多くは無人島です。海鳥類を調査研究する鳥類学者が気づかなければ、HPAIによる被害があったのかどうかもわかりません。国内で繁殖する海鳥類の感染状況を明らかにするためには、海鳥類の調査に携わるみなさんに、対象種を注意深く観察し、調査していただくことが大切になります。また、カモメ類をはじめとする海鳥類の抗体検査を実施し、鳥インフルエンザウイルス全般がどの程度浸潤しているのか調査することも大切です。ご理解とご検討をお願い申し上げます。

人、動物、環境の健康を一つとみなす理念に基づくOne Healthアプローチでは、人獣共通感染症や薬剤耐性菌などの問題に取り組むため、関係各所が連携し、協力して対応にあたることが必要不可欠になっています。その第一歩として、関係者が同じ場所に集まり、顔を合わせて対等な立場で話をしていくことだと私は考えています。本シンポジウムも、獣医学者、鳥類学者、鳥類生息地の管理者、農林水産省、環境省という、HPAIの問題に実際に携わるそれぞれの現場の人たちが集まり、議論する場を作るべく、開催しました。登壇いただいた講演者やコメンテーターの方々はじめ、大会実行委員など多くの方々にご協力いただき実現できたことは、それだけでも一つの成果と思っています。

会場では229名、オンラインでは262名、合計491名にご参加いただきました。そのうち、234名(47.7%)よりアンケートの回答をいただきました。アンケート回答者の122名(52%)は非会員の方々です。そして223名(96.6%)の方から、本シンポジウムが有意義だったと回答いただきました。

総合討論では会場からの質問時間が十分にとれなかったため、大会ウェブサイトに、アンケートに記入いただいた参加者の質問に講演者らが回答したQ&Aを公開いたします。本シンポジウムが、野生鳥類にまつわるHPAI問題について理解を深め、得た知識をだれかに伝えたり、サーベイランスに協力するなど、HPAI問題の解決に向けた活動を始める一助となりましたら、これほど嬉しいことはありません。

本報告を執筆するにあたり、牛根奈々さんには多くの助言をいただきました。厚くお礼申し上げます。


引用文献

  1. CMS FAO Co-convened Scientific Task Force on Avian Influenza and Wild Birds (2023) Scientific task force on avian influenza and wild birds statement on: H5N1 high pathogenicity avian influenza in wild birds - unprecedented conservation impacts and urgent needs.
  2. Hill, N. J., Bishop, M. A., Trovão, N. S., Ineson, K. M., Schaefer, A. L., Puryear, W. B., Zhou, K., Foss, A. D., Clark, D. E., MacKenzie, K. G., Gass, J. D., Jr., Borkenhagen, L. K., Hall, J. S., Runstadler, J. A. (2022) Ecological divergence of wild birds drives avian influenza spillover and global spread. PLOS Pathogens, 18: e1010062.
  3. 高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム (2023) 2022 年~2023 年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書.
  4. Lublin, A., Shkoda, I., Simanov, L., Hadas, R., Berkowitz, A., Lapin, K., Farnoushi, Y., Katz, R., Nagar, S., Kharboush, C., Perry Markovich, M., King, R. (2023) The history of highly-pathogenic avian influenza in Israel (H5-subtypes): From 2006 to 2023. Israel Journal of Veterinary Medicine, 78: 13-26.
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