活動探訪 「軽井沢のホントの自然 〜現在・過去・未来〜」に参加してきました!

広報委員 遠藤幸子

みなさん、こんにちは!鳥たちのさえずりが聞こえる今日この頃。今回は、寒いなかにも春の気配を感じる長野県軽井沢町よりお届けいたします。

軽井沢町は、観光地や探鳥地としてメディアで紹介されたりすることから、来たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。ここで昨年11月に「軽井沢のホントの自然〜現在・過去・未来〜」というイベントが開催されました。こちらのイベントでは、鳥類をはじめとする生物関連の著書を出版されている石塚徹さんが軽井沢町の自然の歴史や現在の状況などについてお話しされました*。

国設軽井沢野鳥の森からみた浅間山(2023年12月3日に遠藤が撮影)

軽井沢町は、浅間山という活火山の麓にあります。浅間山の噴火の影響により、昔は町の南部に湿原や草原が広がっていたそうです。そうした草原環境が開発により失われていった一方で、農地として開拓され、その後使われなくなった場所が草原になっていったのだそう。このようにしてできた草原では、以前は繁殖期にオオジシギもみられていたとのことでした**。残念ながらオオジシギは近年確認されていないとのことですが、こうした場所では草原を生息環境とするさまざまな生物が今もみられるのだそうです。石塚さんは、軽井沢に残る草原環境は、火山や人のかかわりの歴史を反映した「自然史遺産」であるとお話されていました。

当日の会場の様子。左が講師の石塚徹さん。

こちらのイベントでは他にも、軽井沢で近年増えた・減った生き物のこと、多様な環境が存在することの重要性などの色々なお話がありました。長年この地域で観察と調査をなさってきた石塚さんだから知っている、貴重な内容が盛りだくさんでした。

地域の自然の成り立ちを知ることは、自然環境の保全や再生を考えるうえでも大切なことです。このイベントの約3週間後、当日参加した人や後日動画をみた人が集まり、軽井沢の自然について一緒にお話するという「おしゃべり場」というイベントが開催されました。そこには、この地域の自然の歴史、科学的な知見、さまざまな立場の人々の想いとともに町の自然のこれからについて考える、人々の姿がありました。

*石塚さんは、軽井沢町の自然に迫る『軽井沢のホントの自然』(ほおずき書籍, 2012)、少年とともに自然を探検している気分になれる物語『昆虫少年ヨヒ』(郷土出版社,2011)、『歌う鳥のキモチ 鳥の社会を浮き彫りに』(山と渓谷社, 2017)などの鳥類関連の書籍など、さまざまな著書を出版されています。

**オオジシギは、環境省レッドリスト2020にて準絶滅危惧種に指定されています。

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鳥学通信が新しくなりました

(広報委員長 上沖正欣)

鳥学通信の前身は1975年12月から2001年12月(No. 81)まで発行されていた鳥学ニュースです(当初は「鳥学会ニュース」、1983年のNo. 11から「鳥学ニュース」に改名)。和文誌のフォーラムが開始されてからはしばらく休刊となっていましたが、2005年に広報委員会が新設されたのを機に日本鳥学会ウェブサイト上で「鳥学通信」として再開されました。2015年10月からは「さくらのブログ」で配信してきた鳥学通信ですが、利便性の向上を目的に、今後は再び学会ウェブサイト内で新たにWordPressを導入して配信することとなりました。

「さくらのブログ」旧記事については既に移行済みです。旧ページへリンクされている方がいらっしゃいましたら、更新をお願い致します。

現在では個々人がウェブサイトやSNSを使って自由に情報発信をおこなうのが当たり前の時代となっています。しかし、そうしたプラットフォームは検索されにくかったり古い情報が埋もれてしまうことが多々あります。鳥学通信は事務連絡だけでなく、鳥学会会員の皆様の情報発信や交流の場として、研究に関すること以外にもイベント告知や参加報告、便利道具の紹介など、鳥学に関する情報を幅広く扱う、有益なプラットフォームにしていきたいと考えています。何かネタをお持ちでしたら、気軽に広報委員会 koho[at]ornithology.jp まで記事を書いて送って下さい。

来年2025年には50周年を迎えます。引き続き、宜しくお願い申し上げます。

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国際生物音響学会に参加して

五藤花(北海道大学環境科学院)
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秋の北海道大学札幌キャンパス。銀杏並木が有名で毎年多くの観光客が訪れる。ちょうど学会期間の中日に紅葉がピークを迎え、主催者である相馬雅代先生の完璧なスケジュールに脱帽。

 

2023年の10月27日から31日にかけて、北海道札幌市の北海道大学にてInternational Bioacoustics Congress (通称IBAC、アイバックまたはイバック、呼び方に個人差あり)が開催された。世界の20以上の国々から、200人を超える学生や教員、専門家が参加した。

そもそもBioacousticsすなわち生物音響学とは何かというと、ざっくり言えば生き物の音をひろく扱う学問である。その懐の広さたるや、仏様もびっくりレベルである。分野で言えば、遺伝子から神経生理、解剖学、行動、生態系まであつかう生物学、音の物理的性質、機械学習、録音機材を扱うような工学寄りまで。音の周波数で言えば、ゾウのような低音から、コウモリやネズミ、イルカ等の超音波まで、ヒトの可聴域を優に超える範囲の音を扱う。ちなみにこれはIBACを運営しているInternational Bioacoustics Societyによる生物音響学の紹介文からかいつまんでご紹介している。ご興味のある方はこちらを読んでいただけると嬉しい。

私にとってこれが初めての国際学会だったのだが、いち参加者としても、そして北海道大学の運営側としても学会に携わらせてもらった。準備段階から皆が帰るまで、わくわくのとまらない非常にエキサイティングな学会だった。私がインコだったなら、終始瞳孔を収縮させながら頭を振っていたことだろう(※補足情報)。

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学会初日の朝。皆でポスターボードを用意中。

 

準備期間には、発表要旨を読んでプログラムを組んだり、ポスター賞の投票箱を段ボールから作ったりと、学会運営の苦労の一部を味わった(主催の先生方はもっと大変だったに違いないので”苦労の一部”としておく)。しかし何せコロナ禍で実地の学会経験も浅く、国際学会が初めての学生である。すべてが新しい挑戦だったが、先生方が適宜助言してくださったおかげで、なんとか仕事をこなしていたように思う。そしてその傍ら、自分のポスターも並行して行っていた。多忙を極めていたが、その分ポスターが刷り上がった時の達成感はひとしおであった。そんななか、夜にふらふらになって研究室のデスクに帰ったら、後輩からチョコの差し入れが。「ごとはなさん、おつかれさまです、チョコでーす」と書かれた付箋が添えられていた。実際こういうのが何より心温まる。素敵な研究室メンバーに恵まれているなとありがたく思った。

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左:前日の夜に撮った看板の写真。

 

そしてやってきた当日。北大のキャンパスは紅葉真っ盛りでゲストの皆様をお迎えするには絶好の季節だった。早朝からぞくぞくと集まってくる外国人の方々に若干の緊張を覚えたが、国際学会初心者にとってありがたかったのは、なんといってもそのフレンドリーな雰囲気だった。

口頭発表では、対象種の鳴き声を紹介するときに実演してみせる人が続出。初日から会場にサルやら鳥やらの鳴き真似が飛び交い会場は大盛り上がり。口頭発表のタイムキーパーを担っていた私は、盛り上がっている時ほど、楽しそうにお話されているところで発表を打ち切らなくてはならないのが非常に心苦しかった。私だってコーラスに加わりたい。

自分が参加したポスター発表では、論文で名前を拝見した研究者の方々と実際に議論することができ、とても刺激になった。論文には出てこないような日々のちょっとした気づきやアイデアまで含めて、国境や立場を超えて議論できるというのは大変貴重な機会だったと思う。ポスターセッションが終わってもまだまだ喋り足りないと思うくらい時間はあっという間に過ぎていった。

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ポスターは刷って貼っておしまいではない。刷ってからが勝負。 割り箸と画用紙で自作した小道具まで使ってプレゼンに挑んだ。その効果もあってか、ありがたいことに皆様からの投票でポスター賞をいただいた

 

毎朝の招待講演にも、鳥を扱っている研究者が数名登場した。ヨウムのアレックスで知られているペッパーバーグ博士の講演は、まるで彼女の本を読んでいるかのように興味深いエピソードでいっぱいだった。南アフリカでミツオシエの研究をされているスポティスウッド博士の講演は研究内容が面白過ぎて朝の眠気が全て吹っ飛んだ。どれもタイムキーパーの特権で最前列の席から聴けたことを非常にうれしく思う。

最終日の最後まで、参加者の皆さんが楽しそうに過ごしているのをみて運営側としては非常に嬉しかった。会場を閉じますよといっても、皆名残惜しそうに会話を続けていてなかなか出て行かない(こういうとき日本人だったら蛍の光でも流せば出ていってくれそうなのに、などと妄想した)。施錠を任されている運営側としては早く閉めてしまいたいが、それだけ参加者の皆さんにとって良い議論や交流の場になっていたと思えば頑張った甲斐があるというものだ。おかげで、初めての国際学会参加と運営をとても温かい気持ちで終えることができた。

次のIBACは2025年、開催場所はデンマーク。鳥を含めた生き物がつくりだす音に興味のある方は、ぜひ参加を検討してみてはいかがだろうか。

- 受賞されたポスター賞のインタビュー記事はこちら(英文。PeerJのサイトに移動します)
- 五藤さんの海外留学シリーズの記事はこちら
- 補足情報:ディスプレイの際に頭を振るインコ目の例(Youtube: キバタンワカケホンセイインコ
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鳥の学校「ガンカモ類研究のための捕獲技術実習」を受講して

近畿大学 神野寛和

 今回、日本鳥学会金沢大会に伴って行われた、片野鴨池での鳥の学校に参加させていただきました。自分は高校生の頃からカモ類に対して興味を持っており、今後もカモ類をはじめとした水鳥類に関連した調査・研究がしたいと考えていたため、今回の鳥の学校への参加を決めました。

 まず、鴨池観察館のレンジャーである櫻井さんに片野鴨池についての講義を行っていただきました。片野鴨池がトモエガモやマガンなどをはじめとしたガンカモ類の主要な越冬地であるということや、オオタカやクマタカなどの猛禽類の生息地にもなり、鳥類の重要な生息地だということを教えていただきました。また、ラムサール条約やEAAFPに登録されていることや、片野鴨池の成り立ちなども知ることができました。

 次に、坂網猟師の方々から、坂網猟が武士のみに許可されて構え場まで行くことなどによる足腰の鍛錬のために藩が奨励していたなどの歴史や、実際の猟の仕方やカモが坂網に捕まった時にどうなるかなどを教えていただきました。その後の坂網漁の実習では、実際に坂網を組み立てるところを見せていただき、里で簡単に手に入る材料を用いた猟具であるということを初めて知りました。実際に投げさせていただきました。個人的には見た目以上に軽く、持ちやすく感じました。しかし、実際に投げてみたところ、真上にまっすぐ投げるのは思っている以上に難しかったです。また、薄暗い時間にカモの風切り音でその飛来を知り、狙えると判断した高度を飛んでいる時にカモが飛んでくるところに投げるということを実際に行うと考えると、自分には到底できないことで猟師の方々の技術に感銘を受けました。

 また、実習後に日本野鳥の会の田尻さんのお話がありました。その中にあった、片野鴨池周辺の農家さんたちと協力して、越冬期にカモ類が採餌できる環境を整えるために“ふゆみずたんぼ”や“あまみずたんぼ”を行うことで、水がある環境での採餌を好むカモ類が飛来する環境を作ったというお話がとても印象に残りました。

 最後に、山階鳥類研究所の澤さんが使っておられる、ガンカモ類を捕獲するために使う(講師の先生がコクガンを捕獲する用の)くくり罠を作りました。その際、捕獲対象となる鳥類が罠にかかった後に負傷しないようにする工夫と、かかった鳥類が暴れたり一度落ち着いたのちに緩んだりしないような工夫が両立されている罠の作り方を教えていただくことができました。

 全体を通して最前線で活動しておられる先生方のお話を聞くことで、普段の生活では知ることや体験することのできないような事に触れることができて、大変勉強になりました。これからさらに水鳥についてもっと学びたいとさらに思うきっかけとなりました。

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2023年09月15日 鳥の学校「ガンカモ類研究のための捕獲技術実習」への参加報告

古園由香

 当日は、少し雨の予報が出ていたものの、良い天候に恵まれました。
加賀市鴨池観察館において講師と参加者の自己紹介後、講演と実習が始まりました。毎年楽しみにしている鳥の学校。今回は片野鴨池の話、坂網猟について、ガンカモ類の捕獲について学びました。

 「片野鴨池と坂網猟」櫻井佳明さん(加賀市鴨池観察館)
 片野鴨池の成り立ちや坂網猟の歴史についてのお話でした。片野鴨池は昔は谷で、海から運ばれた砂が堆積してできたそうです。300年前くらいから大聖寺藩がトンネルを掘って水を抜き、水田化されました。1999年以降、田んぼをやる人がいなくなり、湿生遷移が進んでしまうと鴨が池に入らなくなるため、坂網猟の漁師さんたちが草刈りや池の水の管理を続けて坂網猟を続ける環境を維持されていることなどを教えていただきました。ガンカモ類の越冬する環境を維持するためには、人の手が不可欠なのだと思いました。坂網猟はもとは大聖寺藩の武士の鍛錬のために始められたそうで、明治時代まで武士しか猟をすることが許されなかったそうです。そんなことを知るのもおもしろかったです。

 「坂網猟の紹介、体験」山下範雄さん、世川馨さん(大聖寺捕鴨猟区協同組合)
実際に鴨を捕獲している猟師さんのお話です。坂網猟よもやま話(みんなが平等に猟をするためくじ引きを2回行うなど)を臨場感たっぷりにお話していただきました。その後野外に出て、坂網をどのように投げるか実演していただきました。さっきまで面白おかしく猟の話をしてくださっていた山下さんだったのですが、坂網を持ったとたん猟師さんの顔になり、その網さばきや手つきはとてもかっこよかったです。その後、参加者も網の持ち方から教えてもらいながら坂網を投げました。その後も、組み立て方から仕舞い方までみっちり教えていただきました。坂網の道具としての機能性や美しさも堪能することができて、良い経験になりました。

 「今日も調査ができるのは、地域の皆さんのおかげです」田尻浩伸さん(日本野鳥の会)
 300年近く水田での稲作と坂網猟に利用されていた鴨池ですが、ラムサール条約などに登録され、観光や学校活動としても利用されるようになり、その中で鴨池にかかわっている人も複雑、多様化しています。カモが来る環境を守り、坂網猟を続けるためにトモエ米を作ったり、無形文化財に指定できないか考えてみたり、「なるべく邪魔にならないように、少しでも負担が少なくなるように」研究を組み立てて結果を活用していく過程を話してくださいました。始めはやる気がなかった農家の方が、最近は「カモが来るようになってうれしい」と話されている、というのがとても素敵だなと思いました。

 「ガンカモ類の捕獲と発信機装着実習」澤祐介さん(山階鳥類研究所)
 ガンカモ類の捕獲方法いろいろ、そのメリットとデメリット、注意点などを詳しく教わりました。捕獲を開始して5年の間にくくり罠の作り方が改良されていった過程を見るのはとても勉強になりました。くくり罠を作成する実習も行いました。その後、発信機についての話を聴いて、ぬいぐるみに装着する実習を行いました。同じ重さの発信機でも、着ける位置によっては鳥の動きを悪くしてしまうことなど、気を付けなければいけないなと思いました。発信機が鳥の動きを妨げないようによく観察、確認することが大切なのだということを学びました。
 
 どの話も実習も興味深く、とてももりだくさんの講習会でした。参加できてとてもよかったです。講師の先生方、準備などお世話してくださった森口さん、会場となった加賀市鴨池観察館のスタッフのみなさま、本当にありがとうございました。

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鳥の学校「ガンカモ類研究のための捕獲技術実習」開催報告

澤祐介((公財)山階鳥類研究所)

 日本鳥学会2023年度大会の鳥の学校のテーマは「捕獲技術実習」でした。鳥の生態研究を進める上で、個体識別や機器装着が必要なシーンは多々あるかと思います。そのために鳥を捕獲することになるわけですが、研究対象種によって捕獲方法は様々で、さらにはあまり表には出てこない細かなノウハウ、技術がたくさんあります。今回の鳥の学校は、ガンカモ類を対象に、捕獲技術と発信器装着の基礎を学ぶ実習で、私は講師陣の一員として参加しました。

 石川県での開催ということで、実習の実施場所は片野鴨池。ご存知の通り、坂網猟という伝統猟法が受け継がれており、ここで捕獲されたトモエガモの衛星追跡によりその渡りルートや生息地選択の研究などが行われてきました。当日は、片野鴨池レンジャーの櫻井氏による片野鴨池や坂網猟の歴史・成り立ち、地元猟師の山下氏、世川氏による坂網猟の現場でのリアルな話・網投げ体験、日本野鳥の会田尻氏による地域との連携の重要性などについてお話がありました。
 私は、捕獲を成功させるために、①道具を扱う技術と、②捕獲に関するTPOを見極める技術が必要と考えています。①は、道具の特性を理解し安全に、適切に使えることが必要で捕獲を実施するための大前提の技術です。②は、実際にフィールドで鳥がどのような動きをするのかを見極め、その鳥の行動に応じてどの罠が有効か、どの時間帯、どの場所で捕獲ができるのかを考えることです。特にガンカモ類の捕獲を実施するにあたって、②は地域との連携が重要になります。その地域のガンカモ類の行動の特徴、定期的に来る場所の把握、罠を仕掛けたい場所での地主との調整など、地域の協力者がいないとできないようなことも多々あります。まさしく、片野鴨池での協力体制はこれを具現化した内容で、地域の猟師さんと研究者が一体となって成り立った研究フィールドであることを実感しました。猟師さんからは坂網の仕組み(網をまっすぐ投げるためのバランスの調整、鳥が網に入って逃げないようにする構造など)、①に関する技術もお聞きすることができ、非常に勉強になりました。

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 さて、私からは、ガンカモ類の捕獲について一般的な方法を紹介した後、これまでコクガンやハクガンなどの捕獲に使用してきたくくり罠を作成する実習を行いました。2017年から現在までコクガンの捕獲を通して、トライアンドエラーを繰り返し、罠の改良を重ねてきました。現在使用しているくくり罠の構造となぜそのような構造にしたのかを解説し、実際に作成してもらいました。この罠をすぐに皆さんがフィールドで使えるかは、対象種や場所によって異なるのでわかりませんが、鳥の安全のために実施している工夫、罠にかかった鳥がすぐに逃げないようにするための工夫など、どのような視点で捕獲技術を考えていけばよいのかをお伝えすることはできたのではないかと思っています。また、発信器の装着実習では、装着時に気にしなければならない項目の説明とともに、鳥のぬいぐるみを使って発信器を装着する手順を学んでいただきました。また装着後についても、装着した影響がないか注意深く観察し、常に改良を考えることが重要であることを、コクガンのこれまでの実績をもとに解説しました。

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 近年は、発信器やロガーが小型化、低価格化してきたことで、これらの機器を使った研究は急速に拡大しています。一方、機器の選定、装着方法、装着技術によって、追跡成功率が大きく左右されることも多々あります。そのような失敗事例、成功事例がもっと共有できれば、日本の追跡研究はさらに発展すると考えています。ガン類では、これまでの私たちの経験をもとに、捕獲のノウハウや発信器選定・装着に関するガイドラインを公開しています。一般公開用に伏せているページもありますが、ご希望の方はご連絡をいただければ完全版を送りますので、お気軽にご相談ください。日本の追跡研究の発展のため、これからも様々な方と技術交流、情報交換ができればよいなと考えています。今後ともよろしくお願いします。

関連リンク
EAAFPガンカモ類作業部会 国内科学技術委員会 
→ガンカモ類捕獲ガイドライン(第1版)(2023年3月公開) を参照
https://miyajimanuma.wixsite.com/anatidaetoolbox/awgstcjapan

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鳥の学校第13回「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

中村晴歌(北海道大学)

 空撮や農薬散布、荷物運搬まで幅広い分野で活躍するドローンを、鳥類研究に応用するための入門講座となる「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」が、鳥学会2022年度の鳥の学校で開催されました。私自身は特にドローンを使った研究をしているわけではなく、ドローンの操縦体験に惹かれて参加を決めました。
 
 今回講座を担当してくださったのは、酪農学園大学農食環境学群環境共生類准教授の小川健太先生です。先生のご専門はリモートセンシングによる環境モニタリングで、北海道ドローン協会会長も務めておられます。

 講座は室内での講義パートと屋外での操縦体験パートがあり、午前中の方が天気が良いとのことでまずは操縦体験から始まりました。

ドローン操縦体験
 経験者と初心者に分かれ、東京農業大学網走キャンパスの広大な学生用駐車場で操縦体験を行いました。私はもちろん初心者チームに入り、PHANTOM RRO V2(図1)という白くて比較的小型の機体を数分間操縦させていただきました。短時間ではありましたが、参加者全員がドローン操縦を体験できました。

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図1 PHANTOM RRO V2 右が機体で左がコントローラー。コントローラーについた液晶でドローンが撮影している動画を確認できます。

操縦した率直な感想としましては、

・スティックの操作が複雑で慣れるまで時間がかかる
 私が操作したモードでは、右スティックで上昇・下降・横移動、左スティックで前進・後退・回転ができるのですが、これを正確に把握して操作するのは初心者だとかなり難しかったです(逆に、普段からシューティングゲームなどでゲーム機のコントローラーを握っているような人はかなり得意かもしれません)。

・奥行きの正確な感覚が必要
 地面に置かれた直径1mほどのシートから離発着をしたのですが、このシートの中に着陸させるのが難しかったです。左右のブレはそこまで出ないのですが、シートよりだいぶ手前や奥に着陸させてしまう方が私含め多い印象でした。

 経験者チームはINSPIRE2 X5S(図2)という黒くて大きな機体を使って駐車場側の畑の撮影を行っていました。途中カラスがそばを飛んだりしていましたが、目立ったモビング行動などは取らず。操縦体験前にはオオワシが2羽上空を飛ぶところを観察できるという嬉しいサプライズもありました。

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図2 INSPIRE2 X5S 経験者チームが操縦体験をしていた機体。機体が大きい分、近づかれた時の威圧感や飛行中の音がPHANTOM4より大きいような気がしました。調査環境や対象種によって適した機体は違ってきそうですね。

ドローンについての講義
 午後からは北海道ドローン協会が作成したドローン教科書基礎編を用いた講義をしていただきました。操縦する際の天候や機体の管理方法から2021年航空法の改正、操縦に国家資格が必要になったことなどまで幅広く学ぶことができました。

 印象に残ったのは実際の研究への応用例です。以下興味深かった部分を簡単に紹介します。

・広大な面積をもつ湖沼などでの水鳥のモニタリング
水鳥のドローンへの反応は種によって、また水面か陸上かで反応性が異なり、例えば水面での垂直接近の下限高度はカモ類>ハクチョウ>マガンの順で大きく、単純に鳥の大きさで決まるわけではない。
(詳しくは2019年に公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団より発行されたドローンを活用したガンカモ類調査ガイドラインhttp://izunuma.org/pdf/drone_gideline.pdfを参照)

・鳥の捕獲に使用できるかもしれない
 実際にドローンに捕虫網を取り付けて昆虫を捕獲して調査研究を行った例がある(Madden et al. 2022)。飛行能力が高い種では難しそうですが、地上性で長距離を飛べないような種では可能だったりするのでしょうか。

・送電線鉄塔の鳥の巣モニタリング
 ディープラーニングを用いて自動的に鳥の巣を発見できる(Dong et al. 2022)。送電線鉄塔だけでなく、人が直接アクセスしづらいような場所で繫殖する種のモニタリングがドローンによってどんどん可能になっていくのでしょう。すごく楽しみです。

全体を通しての感想
 今回の鳥の学校でドローンについて事前に学習したおかげで、鳥学会を聴講する際ドローンを用いた多くの研究発表をより深く理解することができました。そしてとても便利なように思えるドローンですが、実際はバッテリーの持続時間や天候の問題、高度な操作技術の必要性など鳥の研究に応用する上でまだまだ難しい点がたくさんあることを初めて知りました。発想次第ではまだまだ新しい応用方法がこれからいくらでも出てきそうなので、今回のようなそれまでドローンに触れたことのない人でも気楽に操縦体験ができる機会が今後もっと増えていくことを願います。

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鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」に参加しました

中島京也(日本ワシタカ研究センター)

 日本鳥学会2022年度大会は新型コロナウイルス対策に配慮しながら3年ぶりの現地開催となり、13回目となるテーマ別講習会「鳥の学校」も「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」として実施されました。2014年に日本鳥学会大会と同時に開催された国際鳥類学会議ではRound Table DiscussionでDr. David BirdとDr. Juan José Negroから鳥類調査への無人航空機の利用例が紹介されましたが、その後国内でも高画質の映像が撮影できるマルチコプター型ドローンの普及が進み、鳥類の調査や研究に空撮画像やそれらの解析データが利用されるようになってきました。近年はドローンが小型化して携帯性が向上し、機体の価格も下がってきましたので、撮影用機材として利用される機会はさらに増えると思われます。このような状況の中で「鳥の学校」としてドローンに関する講座が企画され、酪農学園大学環境共生学類環境空間情報学研究室の小川健太先生から専門的な内容を学べる機会が得られたのは効果的だと感じました。

 講座ではドローンを飛行させる際の注意点や関連する法律などの基本的な事項から撮影した画像の処理方法などの具体的な事項まで紹介され、これからドローンを使用する事を検討している参加者にとっては大変参考になったと思います。また、大きさの異なる3種類のドローンの実機も用意され、参加者による屋外での操縦体験の他に事前に設定した範囲を自動で飛行するドローンが地上の画像を連続撮影する様子やその撮影画像をデータ解析に利用する過程も確認することができ、座学だけではない「鳥の学校」の特色が活かされていました。既にドローンを調査等で使用している経験者の方も参加者に含まれていたため、冬期にドローンを使用する際のバッテリー保温方法など製品のマニュアルには載っていない具体的な対策例が参加者側から紹介されたのも参考になったと思います。

 講座で使用する参考資料のご準備の他にドローンの実機展示と多数の参加者による操縦体験にもご対応いただいたので、機体の運搬や複数の予備バッテリーの準備など小川先生と環境空間情報学研究室の皆様には通常の講義よりもお手数をおかけしたと思います。そのご協力に対しまして改めて厚く御礼申し上げます。また、「鳥の学校」の開催にご尽力いただいた日本鳥学会企画委員会の森口紗千子様をはじめとした関係者の皆様、講座終了後に路線バスを利用して公開シンポジウム会場へ向うと開始時間に間に合わないのでご自身の車両に関係者を乗せて移動していただいた参加者の皆様にも感謝申し上げます。

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鳥の学校(第13回テーマ別講習会)「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」報告

企画委員会 森口紗千子

 
 鳥の学校-テーマ別講習会-では,専門家を講師として迎え,会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っている.第13回は,2年ぶりに対面で開催された2022年度大会と連結して,大会初日の11月3日に大会会場である東京農業大学網走オホーツクキャンパスで行われた.近年,鳥類の野外調査でも使用され始めたドローンを使う上で,ドローンを鳥類調査に用いるために必要な知識と技術を養ってもらうため,機種,法令,安全管理,データ解析,鳥類への影響等に関する座学と,操縦実習まで,小川健太氏(酪農学園大学)を講師にお迎えし,26名の会員が参加した.

 天候が午後から悪化する予報であったため,講師の紹介と簡単な説明の後,さっそくドローンの野外実習を大会会場の駐車場で行った.講師らによる2種類のドローンの操縦や撮影の実演に加え,経験者と初心者にグループ分けされた参加者も操縦を体験した.

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図1_座学風景

 後半は座学で,ドローンの一般的な知識や使用方法,国家資格化の動向などの最新情報に加え,鳥類の調査研究のための水鳥類の自動カウントなどの実践的な手法を学んだ.さらに,野外実習で撮影した画像データを用いた解析のデモンストレーションへと続いた.座学では,ドローンの使用経験のある参加者と講師の間をはじめ,活発な情報交換が行われ,低温下でのバッテリーの保管方法など,使用時のポイントが議論された.

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図2_参加者のドローン操縦体験

 事後アンケートによると,参加者のうちドローン経験者からは,悩みの共有や新しい知見の情報交換ができた,ドローン初心者からは,操縦体験だけでなく新しい技術にも触れられた,ドローンを用いた研究発表への理解が深まったなどの感想が寄せられ,質問できる機会が多くてよかったなど,参加者の満足度も高かった.ドローンの準備から始まり,幅広い内容にわたる座学と,参加者との相互のやり取りを重視して講義を進めてくださった講師,野外実習を補助していただいた助手の方々,コロナ禍の大会開催という困難の中,会場準備にご尽力いただいた大会実行委員会の方々,そして円滑な進行にご協力いただいた参加者の方々に,深くお礼申し上げる.

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図3_ドローンからの撮影

 鳥の学校-テーマ別講習会-は,今後も大会に接続した日程で,さまざまなテーマで開催する予定である.鳥の学校の案内は,大会ホームページや学会誌に掲載する.

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日本鳥類目録第8版の編集について

西海 功(目録編集委員長)

 日本鳥類目録は1922年の初版発行以来10年毎の改訂を目指してきた。第3版までは目標通り10年おきに改訂できたが、第4版以降は短い時でも12年、長い時には26年も改訂に年月を要した。最新の第7版は2012年に発行されたので、次の第8版は10年後の2022年、つまり今年の発行が目標であった。2018年に第8版編集のための目録編集委員会が組織され、今年の発行に向けて準備が進められてきた。第8版では新たな試みをいくつか取り入れたが、特に大きな試みとして次の2つを実施した。一つはパブリックコメント(以下、パブコメ)の実施、もう一つは海洋分布の追加である。不運なことに、この編集の後半の追い込み時期にコロナ禍に見舞われた。新たな試みが予想以上に時間を要したことにコロナ禍による作業の遅延が重なり、2022年中には発行ができなくなり、2023年9月まで発行を延期せざるを得なくなっている。会員はもちろん、出版関係者や行政など関係する諸機関にも多大なご迷惑をおかけすることをお詫びし、来年9月の発行をお約束したい。
 パブコメの実施もあり、今回の目録の編集にあたっては多くの方々から意見が寄せられている。第一回のパブコメは、採用種・亜種とその学名と和名に関して2021年2月から4月まで行われた。第二回のパブコメは分布も含めて全体のことについておこなうが、11月の網走大会までにリストを提示して、来年1月末まで意見を募りたい。これまでにいただいた意見のうち比較的大きなこととの関りで説明を要すると思われることを以下にご説明したい。

1.日本鳥類目録とは?
 鳥類目録(Checklist)とは、ある地域(または世界全体)の種・亜種の分類学的な包括的リストで、分布地やそのステータス(留鳥、越冬、通過、迷鳥など)が示されているが、通常、形態情報や写真、生態情報は示されていないものである。その日本地域版が日本鳥類目録であり、日本鳥学会が発行する日本鳥類目録は幸か不幸か現在では唯一の日本鳥類目録となっている。しかし歴史的には20世紀初頭まで複数の日本鳥類目録が存在した(森岡, 2012)。また世界の鳥類目録はIOC World Bird ListHoward and Moore Complete ChecklistBirds of the World, Cornell LaboratoryClements Checklistなど多数ある。日本鳥類目録が現在1つしかないことで、日本の鳥類フィールドガイドや行政が日本鳥学会の目録に沿って鳥の種の分類や呼び名(和名や学名)を使うことが通例となっている。
 しかしBrazil (2018) のように、IOC Listを基本にして著者の判断も加えながら独自の分類でフィールドガイドを作ることもできる。このような図鑑を良く思わない人もいるが、私はむしろ歓迎したい。鳥の正しい分類というものが自然界には存在していると私は考えているが、その正しい分類を人が完全に認識しつくせるとは思っていない。全ての目録は仮説であって、その時点での科学的知見から見て、最も妥当と思われる分類を編集者が組み立てて提唱しているのが目録ということになる。図鑑の編集者は分類を特定の目録に依拠して編集することもできるし、気に入った分類がどの目録にもないなら独自の分類をおこなって図鑑を編集することもできる。例えばオーストンヤマガラが日本鳥類目録では種ヤマガラの一亜種として扱われているのに、Brazil (2018)では独立種として扱われているというように、異なる分類が採用されることで、一般のバードウォッチャーもその種・亜種の分類が定まっていないことが理解できる。
 日本鳥類目録は日本産種の選定を文献主義に基づいておこなっているが、「目録は分類も含めて文献主義を取るべき」と考える人もいる。ある分類を示唆する結果が論文で示されたなら無条件でそれを全ての目録が採用すべきで、もしそれに異論があるなら反論を学術誌に投稿すべきという。これは無理難題というもので、理想としてはあり得ると思うが現実的ではない。もしそれが現実的であるなら世界の鳥類目録が多数存在することはなく、どの目録も同じ内容になるだろう。しかし、目録第8版の出版後には、できるかぎり分類の根拠についても説明していきたい。
 日本鳥学会の目録は、幸いにも現在では唯一の日本鳥類目録で、多くの図鑑や日本の行政がその分類を採用しており、その結果、鳥の分類や呼び名についての混乱は日本ではそれほど大きくないと思う。不幸な側面としては、利用者には選択の権利が用意されていないことであり、また上記のとおり、分類が定まっていない場合でも、それを知ることが少し難しい面があることだろう。

2.和名について
 鳥の標準和名を定着させることについては、歴史的にも日本鳥類目録が大きな役割を果たしてきたといえる(森岡, 2012)。その点からも日本鳥類目録は鳥類和名について大きな責任を負っている。鳥類和名の規則や慣習については別稿に譲るが(西海, 2018)、和名について日本鳥類目録は慎重な検討をおこなってきたし、第8版の編集でもいくつかの大きな検討が行われている。目録第6版「はじめに」で詳しく説明されているように、主要な亜種の和名は種和名と一致させるという原則を日本鳥類目録は採用してきた。ただ、第8版ではそうすることで不都合が生じる場合には例外を躊躇なく設けることとした。ニシセグロカモメの亜種をホイグリンカモメとし、メグロの基亜種をムコジマメグロとすることがその例外に該当する。
 オリイヤマガラやオガサワラカワラヒワなどこれまで亜種として扱われてきたものを種に格上げする場合には、オリイガラやオガサワラヒワと短い和名に変更することにした。このような和名の変更には、大きな危惧を表明される方も複数おられたが、短くする利点を優先させていただいた。ウチヤマセンニュウがかつてシマセンニュウの亜種とされていた時にはウチヤマシマセンニュウという亜種名で呼ばれていたが、種に格上げされた際に短い和名にしたことなど日本鳥類目録の伝統を継承したことになる。ただ、リュウキュウサンショウクイとホントウアカヒゲは同様に亜種から種に格上げされるが、適切な短縮ができず和名の変更はない。
 逆に種サンショウクイは、リュウキュウサンショウクイが独立種となることで、単形種(亜種がない種)になるが、その和名を変えてほしいという要望があり、検討することになった。IOC Listの英名は、Ashy Minivetと元々呼ばれており、Ryukyu Minivetが独立種となった後も変わっていないが、このように種の枠組みが変わる場合、IOC Listでの英名はより適切と思われるものに変わることがある。例えば、メジロの英名はJapanese White-eyeだったが、中国南部の亜種simplexhainanusが別種として独立し、フィリピンからインドネシアに分布するmontanusが加わることで、Warbling White-eyeという英名がIOC Listなどでは与えられている。対照的にこれまで日本鳥類目録は種の枠組みが変わることでは種和名を変えたことはないが、今回は例外的に狭義の種サンショウクイには新たな和名ウスサンショウクイを充てることが検討されている。
 第8版への改訂に向けた検討の中で、最も大きな検討が行われたのは、アホウドリの和名についてだった。この和名を蔑称と感じ、不快感を表明し、和名の変更を求める意見を複数いただいた。この件は目録委員会だけでなく、評議員会でも討議された。生物和名の蔑称に関する自然史系関連学会での扱いを調査したところ、差別的用語を理由に動物標準和名を改称したのは、関連学会の中で魚類学会の2007年の改称のみだった。メクラウナギをヌタウナギに、バカジャコをリュウキュウキビナゴに改称するなどした(松浦, 2007)。その際の目的として「人権に対する配慮」と「言い換えや言い控えによる混乱を収めること」の2点が挙げられた。現在までのところ「言い換えや言い控えによる混乱」が生じていない動物名については差別的用語を含むものでも改称せず、和名の安定性をより重視するというのがこの問題の扱いの標準となっていると判断された。アホウドリの和名については今回の指摘で人権の観点から不快に感じる人が少なからずいることははっきりしたと思うが、この呼称による「混乱」の例は今のところ知られていない。もしも鳥学会がアホウドリの和名を「人権配慮」を理由に改称すると、関連学会への影響も懸念され、事前の説明と議論が不可欠となる。少なくとも第8版の改訂に間に合わせることはできないし、改称の方向で学会が動くことも少なくとも当面は難しいという判断となった。

3.まとめ
 パブコメなどを通して諸方面からいただいたご意見は、当然ではあるが委員全員が理解するように努めた。どれも理解できる意見ばかりだったと私は感じている。しかし、「こちらを立てればあちらが立たず」ということが起きてどちらかを選択せざるを得ないことが多くあった。また現実と理想とのギャップや私個人も含む鳥学会の力量不足から第8版で取り入れられない意見も少なからずあったことは率直にお詫びしたい。ただ、労力を割いて意見を提出したことが無駄だったと無力感を感じる方がもしおられれば、それは違うと申し上げたい。すべての意見が少なからず当委員会や各委員の認識の向上に役立ったと思うし、今後の鳥類目録に多少なりとも影響していくことになるとご期待いただきたい。
 今年は日本鳥類目録初版が出版されてからちょうど100周年にあたる。この記念の年に改訂第8版が出版できず、来年に延期になるのは誠に残念で、かつ申し訳なく思うが、パブコメの意見を検討できた(第2回についてはこれから検討できる)ことと海洋分布情報が追加できることはこれまでの日本鳥類目録にない大きな進歩であり、来年9月の出版に大いにご期待いただきたい。

引用文献
Brazil, M., 2018. Birds of Japan. Christopher Helm, London.
松浦啓一, 2007. 差別的語を含む標準和名の改名とお願い.
森岡弘之, 2012. 日本鳥類目録の変遷. 日本鳥学会誌, 61 (Special Issue): 74-78.
西海 功,2018. 鳥の和名.海洋と生物, 40(2): 139-141.

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