86年ぶりに小笠原諸島のメジロの起源を調べた

2016年8月9日
独立行政法人 国立科学博物館
植物研究部多様性解析・保全グループ
杉田典正

小笠原諸島は、東京から南に約1000 kmから1200 kmの南の海上に浮かぶ小さな島々の集まりである(図1)。小笠原諸島は、父島、母島などを有する小笠原群島と北硫黄島、硫黄島、南硫黄島の3島から成る硫黄列島の2つの群島から構成される。小笠原諸島へは、およそ週に一度東京から出港するおがさわら丸に乗って24時間かけて行く方法しかない。母島へ行くには、父島で船を乗り換えてさらに2時間半かかる。もっと南の硫黄列島へは旅行で行くことはできない。小笠原諸島は日本で一番遠い場所のひとつかもしれない。

鳥学通信図1杉田.png

小笠原諸島は、海洋島である。海洋島は、島が出来てからほかの地域と一度も繋がったことがない島のことをいう。海洋島は、独自の生態系がつくられる。小笠原諸島も、他の地域では見られない独特の海洋島生態系ができている。例えば、オガサワラオオコウモリは小笠原諸島唯一の固有哺乳類で、小笠原で独特な行動と生態を進化させてきた。小笠原は、独自の生態系と進化を観察できることが評価され、2011年には世界自然遺産に登録された。

小笠原群島と硫黄列島は、どちらも海底火山に由来する。しかし、島の形成時期が全く異なる。小笠原群島は、約4500万年前の海底火山を起源にする古い島である。一方、硫黄列島は、数万年内に噴火した海底火山と隆起により形成された新しい島である。小笠原群島は、伊豆諸島やマリアナ諸島など周辺の島嶼地域の中でもっとも古い。

小笠原諸島で繁殖する陸鳥の数は少ない。10種の陸鳥が繁殖するのみである。過去にはオガサワラマシコやオガサワラガビチョウ、オガサワラカラスバトなど小笠原諸島固有の陸鳥が生息していたが、絶滅した。メグロは、母島列島で生き残っているが、父島列島と聟島列島で絶滅した。現在、小笠原群島と硫黄列島の両群島に共通して繁殖する陸鳥は、カラスバト、ヒヨドリ、ウグイス、カワラヒワ、トラツグミ、イソヒヨドリの7種類に過ぎない。カラスバトとカワラヒワは、本州の個体群と大きな遺伝的差異があり、ミトコンドリアDNAで別種レベルの深い分岐がある。ヒヨドリとウグイスは、日本列島の個体群のミトコンドリアDNAと比べて数塩置換の違いである。これら5種の小笠原諸島個体群は、亜種に分類されている。トラツグミは、1930年に初めて小笠原諸島で発見され、1960年代頃から増え始めた。ミトコンドリアDNAのCOI領域では、遺伝的差異は見つからなかった。モズは父島で1980年代から繁殖していたが、2000年代の中頃に絶滅したとみられる。

小笠原諸島の陸鳥は、大陸から遠く離れた島であるため個体群間の交流が少なく遺伝的に分岐が進んだ。一方、面積の小さい海洋島では、環境が不安定であり、人口学的要因などによって定着しにくいという特徴もある。小笠原諸島の陸鳥の鳥類相の変遷は、海洋島の特徴をよく表している。

問題のメジロである。日本鳥類目録第7版(2012)によると、小笠原諸島のメジロの分布は、硫黄列島のみresident breederとなっている。父島や母島に行ったことのある方は、「おや?」と思うかも知れない。小笠原諸島の父島や母島でメジロをたくさん見たはずだと。確かにメジロは、現在の小笠原群島にたくさん生息している。もっとも目に付きやすい鳥だ。しかし、今から約百数年前、1900年以前には小笠原群島にはメジロは生息しなかった(図2)。過去の記録でも明らかである。1827年イギリス軍艦ブロッサム号で父島に上陸したBeechey艦長は、ヒトを恐れない黄色いカナリアの様な鳥(おそらくメグロ)を観察したが、メジロは記録していない。1890年の研究でも、小笠原群島でメジロは採集されなかった。ところが1930年になると、メジロは父島で最もよく見られる鳥になっていた。籾山徳太郎は、1930年に発表した論文で、島民に聞き取り調査を行い、1900–1910年頃に硫黄列島と伊豆諸島からメジロが持ち込まれたと考えた。同時に、彼は、小笠原群島のメジロの形態形質に亜種イオウトウメジロとシチトウメジロの中間的特徴があることから、小笠原群島個体群は両亜種の交雑個体群であると示唆した。日本鳥類目録第7版では、小笠原群島のメジロはintroduced breederとされている。しかし、小笠原群島のメジロが本当に硫黄列島と伊豆諸島から持ち込まれたのか、DNA分析による証拠はまだ無かった。

鳥学通信図2.png

DNA分析に使える血液サンプルが硫黄列島のメジロで採られていなかった。硫黄列島は、北硫黄島と南硫黄島は無人島、硫黄島は自衛隊基地のために上陸調査が難しい。特に、南硫黄島は、原生自然環境保全地域に指定されていること、島の全周が切り立った崖で出来ており上陸しにくいことから、学術調査隊が長い間立ち寄っていなかった。だが、一連の硫黄列島の学術調査に参加してきた川上和人博士(森林総合研究所)によって、硫黄3島すべてからメジロ個体群の血液サンプルが得られた。小笠原諸島のメジロの遺伝分析と他の地域との比較が可能になった。

この記事では、小笠原諸島のメジロのミトコンドリアDNAを分析してその起源を調べた研究を紹介する。この記事は、Zoological Scienceで発表された小笠原諸島のメジロとヒヨドリのミトコンドリアDNA分析を行った研究内容にもとづく(Sugita et al. [2016] Zoological Science 33: 146–153)。小笠原諸島のヒヨドリのDNA分析の解説については、BIRDER 2016年7月号(文一総合出版)と森林総研プレスリリース資料をご覧頂きたい。本研究のすべての分子実験は、国立科学博物館の実験室で行った。

独自に進化した硫黄列島のメジロ

硫黄列島のメジロの解析のために、ミトコンドリアDNAのチトクロームオキシターゼcサブユニット1(COI)遺伝子のDNA配列を使用した。ミトコンドリアDNA多型をハプロタイプという(異なるハプロタイプ同士は配列が異なるということ)。図3に赤色で示されている部分が硫黄列島のメジロ個体群のハプロタイプで、4種類見つかった。硫黄列島のメジロ個体群のハプロタイプは、小笠原群島のメジロ個体群を除いて(後述)、他の地域から見つからなかった。硫黄列島の3島を詳しく見ると、南硫黄島の個体群のハプロタイプは他のどの島からも見つからない南硫黄島固有のハプロタイプであった(図4)。

鳥学通信図3.png

鳥学通信図4杉田.png

これらの結果は、硫黄列島のメジロ個体群は、伊豆諸島や琉球諸島のメジロと近縁の関係であることを示している。硫黄列島のメジロは、独自のハプロタイプをもった遺伝的に分化した個体群であることも示している。南硫黄島の個体群は、他のどの島とも遺伝的な交流のないもっとも孤立した個体群であることがわかった。硫黄列島のメジロは、祖先集団が硫黄列島に定着した後、それぞれの島で移動性を低下させて、交流のない独立した集団になったと考えられる。生物進化の見本として、小笠原諸島の世界自然遺産としての価値をさらに高める研究成果となった。

生物多様性は、外来種と在来種との交配などによって容易に低下する。硫黄列島で独自に進化したメジロ個体群は、小笠原諸島の海洋島生態系における取り替えの効かない重要な要素である。特に南硫黄島のメジロ個体群は、他のどの島とも遺伝的に異なる。硫黄列島のメジロの保全は、島単位で考えるべきだ。

連れてこられた小笠原群島のメジロ

小笠原群島のメジロ個体群に固有のハプロタイプは無かった(図3)。小笠原群島のメジロ個体群から3つのハプロタイプが発見されたが、これらは琉球諸島と伊豆諸島、硫黄列島の個体群と共通のハプロタイプであった(図5)。硫黄諸島では、固有ハプロタイプが見つかったことと対照的である。この結果は、メジロが小笠原群島に自然分布していたのではなく、近年外部からメジロが小笠原群島に移入されたことを示唆している。自然分布していたのなら、小笠原群島にも硫黄列島のメジロのように固有ハプロタイプが発見されるはずだ。この見方は、過去の記録とも一致する。

鳥学通信図5杉田.png

伊豆諸島のメジロ個体群は琉球諸島個体群の一部と同じハプロタイプを共有していたものの、籾山の聞き取り調査の結果などを考慮すると、籾山が1930年に発表した仮説の通り、小笠原群島のメジロ個体群は硫黄列島と伊豆諸島から来たと考えるのが妥当だろう。ただし琉球諸島のメジロの関与も否定できない。今回、籾山の仮説以来86年間謎であった、小笠原群島のメジロの起源を現代のDNA分析技術により検証することができた。籾山は、小笠原群島のメジロがシチトウメジロとイオウトウメジロの交雑個体群であるという仮説も提唱した。これについては、今後、核DNAによる詳細な研究が必要である。

様々なルートでやって来た小笠原の陸鳥

小笠原諸島の陸鳥の起源や島間の遺伝的関係性は種ごとに異なる。いくつかの種で小笠原群島と硫黄列島間の遺伝的関係が知れられている。ヒヨドリは、小笠原群島と硫黄列島の個体群でそれぞれ異なる起源をもつ(図6)。ウグイスは、琉球と伊豆諸島以北の個体群から小笠原群島に進出した。その個体群の一部が、さらに南の硫黄列島に進出したようだ。アカガシラカラスバトは、カラスバトと別種レベルの遺伝的差異がある。しかし、小笠原諸島内では、アカガシラカラスバトは、小笠原群島と硫黄列島を行き来している。小笠原群島のヒヨドリは八重山諸島を起源にする。一方、硫黄列島のヒヨドリは本州などの個体群を起源にする。それぞれ時間的にずれて小笠原諸島に定着した。その後互いに交流しなかったようだ。これらの研究結果は、島の形成時期、定着時期、生態的特性、島の群集構造などの違いにより、島によって異なる生物相が成立することを示している。

鳥学通信図6杉田.png

小笠原諸島の世界自然遺産への登録以来、自然再生事業が行われている。小笠原諸島では、鳥のような飛べる動物であっても、島や列島ごとに鳥類相や遺伝構造が異なることがわかった。この結果から、島や列島を単位とした保全計画が必要と言える。

参考文献
Ando H, Ogawa H, Kaneko S, Takano H, Seki S, Suzuki H, Horikoshi K, Isagi Y (2014) Ibis 156: 153–164.
Beechey F (1832) Narrative of a Voyage to the Pacific and Beering’s Strait, to Co-operate with the Polar Expenditions: Performed in His Majesty's Ship Blossom, under the Command of Captain F. W. Beechey, R. N. in the Years 1825, 26, 27, 28. Carey & Lea, Philadelphia, USA.
Emura N, Ando H, Kawakami K, Isagi Y (2013) Pacific Science 67: 187–196.
籾山徳太郎 (1930) 日本生物地理学会会報 1: 89–186.
日本鳥学会(2012)日本鳥類目録第7版, 日本鳥学会, 三田.
Seebohm H (1890) Ibis 32: 95–108.
Seki SI, Takano H, Kawakami K, Kotaka N, Endo A, Takehara K (2007) Conservation Genetics 8: 1109–1121.
森林総合研究所(2016)絶海の孤島、小笠原の鳥はどこから来たのか?2016. Apr. 7. URL: www.ffpri.affrc.go.jp/press/2016/20160407/
杉田典正(2016)BIRDER 30(7): 34–35.
Sugita N, Kawakami K, Nishiumi I (2016) Zoological Science 33: 146–153.

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海鳥の体の大きさの種内地理変異

2016年7月11日
名古屋大学大学院環境学研究科
日本学術振興会特別研究員PD
山本誉士

はじめに、私は主にバイオロギングという手法を用いて動物の行動・生態を研究しています。バイオロギングでは、動物に小さな記録計(データロガー)を取り付けることにより、その個体の行動や周囲の環境などを測定・記録します(詳しくは、高橋 & 依田 2010 日本鳥学会誌 59, 3–19「総説・バイオロギングによる鳥類研究」をご覧ください)。大学院ではオオミズナギドリCalonectris leucomelas(写真1)という海鳥の渡り行動を調べるため、北は岩手から南は西表島まで、日本各地の繁殖地で野外調査をおこないました。その過程において、なんだか繁殖地によってオオミズナギドリの体の大きさが違うような気がする、、、ということを感覚的に思っていました。データロガーを装着するため鳥を捕まえるのですが、北に位置する繁殖地では両手でしっかりと鳥を持ちますが、南に位置する繁殖地では片手で楽々持つことができました。

一般的に、動物の体の大きさは寒い高緯度域では大きく、暖かい低緯度域では小さいことが知られており、このような地理変異をベルクマンの法則と呼びます(種内変異はネオ・ベルクマンの法則、Renschの法則、ジェームスの法則などと呼ばれます: Meiri 2011 Global Ecology and Biogeography 20, 203–207)。ベルクマンの法則やジェームスの法則は体温維持に関わる適応であり(体が大きいほど体重あたりの体表面積が小さくなるため熱を逃がしにくい)、多くは陸上動物で検証されてきました。一方、海洋動物、特に海鳥類や海棲哺乳類の繁殖地の多くはアクセスが困難な僻地や断崖に形成されるため、繁殖地間で体の大きさが異なることは経験的に知られていましたが、繁殖分布域を縦断して種内変異傾向を調べた研究はありませんでした。

そこで、2006〜2013年にかけてメイン調査の合間に成鳥の外部形態を測り(写真2)、8箇所の繁殖地(図1)から合計454羽の計測データを集めました(苦節8年!)。そして、主成分分析により体の大きさの総合的指標(PC1)を算出し、オオミズナギドリの体サイズと繁殖地が位置する緯度・経度・気温(1981〜2010年の7〜9月の平均気温:本種の抱卵・育雛期)との相関を調べました。

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写真1. オオミズナギドリは日本や朝鮮半島、台湾などの東アジア周辺の海域で繁殖する海鳥で、平均的な大きさはカラスより少し小さいくらいです。繁殖期には地中に掘った長さ数メートルの巣穴で営巣し、一夫一妻で1羽の雛を育てます。主な餌はカタクチイワシなどの魚で、洋上では多くの時間を滑空(羽ばたかずに飛ぶ)して移動します。非繁殖期にはパプアニューギニア北方海域、アラフラ海、南シナ海まで移動・滞在します(Yamamoto et al. 2010 Auk 127, 871–881; 2014 Behaviour 151, 683–701)。

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写真2. 繁殖地での調査風景(『生物時計の生態学〜リズムを刻む生物の世界〜(文一総合出版)』に海鳥の野外調査の様子を書いておりますので、よろしければご覧ください)。露出嘴峰長、鼻孔前端嘴高、全頭長、翼長、ふしょ長を計測。成鳥の体重は雛への給餌前後および採餌トリップに費やした時間で大きく変動するため、体重は主成分分析から除きました。

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図1. 調査を実施した繁殖地の位置。オオミズナギドリの主要繁殖地の北限から南限にかけて網羅的に調査を実施しました(北緯24¬–39°、東経123–142°)。

データを解析した結果、オオミズナギドリの体サイズは緯度と正の相関を示し(図2)、北の繁殖個体群ほど体が大きいという「感覚」が支持されました。なお、気温は緯度および経度と負の相関を示しました。つまり、北に位置する繁殖地ほど気温が低いため体が大きいという、ベルクマン(ジェームス)の法則に従うということです。全体的にみると高緯度ほどオオミズナギドリの体サイズは大きくなる傾向がある一方、いくつかの個体群間では、低緯度に位置する繁殖地の方が大きいという逆の傾向も見られました(例えば、御蔵島MIと男女群島DA、宇和島UWと冠島KA:図2)。

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図2. 各繁殖地のオオミズナギドリの体サイズと緯度の関係。青はオス、赤はメス。実線は一般化線形モデルで推定した回帰直線、破線は個体群の中で特に小さい仲ノ神島個体群NAを除いた場合(極端に小さい値に回帰が影響されている可能性を考慮)。北から、FO岩手県船越大島、SA岩手県三貫島、AW新潟県粟島、KA京都府冠島、MI伊豆諸島御蔵島、UW瀬戸内海宇和島、DA長崎県男女群島、NA南西諸島仲ノ神島。

海鳥では、形態的特徴が採餌行動と関連していることが報告されています。例えば、翼面荷重(つまり、翼の面積に対する体重の割合)が小さいと、長距離もしくは広範囲を移動する場合にエネルギー消費が少なくてすむと考えられています。相似の場合、体の大きさがa倍に拡大されると、体積はa3倍になるのに対し、表面積はa2倍になります。つまり、体が大きくなるほど、表面積に対する体積の割合(翼面荷重)が大きくなるということになります。先行研究により、御蔵島(MI)のオオミズナギドリは繁殖地から採餌域まで数百〜千kmも移動し、宇和島(UW)のオオミズナギドリは主に瀬戸内海内の狭い範囲で採餌することが知られています。この仮説に従えば、あまり移動しない宇和島の個体はより大きく、長距離移動する御蔵島の個体はより小さくなることになります。このことから、各繁殖地が位置する海洋環境と関連した採餌行動の特徴が、彼らの体サイズに影響している可能性が示唆されます。

本研究の結果は、体の大きさの地理変異傾向は海洋動物にもあてはまることを示しました。一方、形態的特徴の地理変異において、生息環境に適応した(採餌)行動的特徴を考慮する必要性を新たに提唱しました。野外調査では作業とデータまとめに追われる日々ですが、その合間に対象種やその生息環境をよく観察することで、研究アイデア(科学の芽)はフィールドに沢山転がっていることを実感しました。

【論文】Yamamoto T, Kohno H, Mizutani A, Yoda K, Matsumoto S, Kawabe R, Watanabe S, Oka N, Sato K, Yamamoto M, Sugawa H, Karino K, Shiomi K, Yonehara Y, Takahashi A (2015) Geographical variation in body size of a pelagic seabird, the streaked shearwater Calonectris leucomelas. Journal of Biogeography 43, 801–808.

論文の中では外部形態の性差強度(Sexual Size Difference)についても議論しております。その他の研究についてはhttps://sites.google.com/site/takasocegle/1をご覧頂ければ幸いです。

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ボランティアのススメ

2016年7月11日
日本鳥学会企画委員会 佐藤望

 企画委員では鳥学研究の促進を目的として、鳥類調査に関するボランティア募集の情報を収集し鳥学会のHPで公開しています。
http://ornithology.jp/volunteer.html
まだ始めたばかりの企画なのでご存じでない方もいらっしゃると思いますが、全国で調査を経験する事ができる場所を掲載しています。

この活動を始めた背景には、鳥の研究に興味があっても研究できる研究室や調査をする場所がなかなか見つからないといった状況があります。また、卒業研究で鳥類の研究をしたいと思っても、限られた期間のなかで一人で調査を0から覚えて実行するのはなかなか簡単ではありません。このような状況下にある鳥の研究を志す人にとって、ボランティアとして野外の鳥類調査に参加することは大きな意味があります。また、所属した研究室が鳥類の研究をしていない場合でも、調査地があってテーマがあれば、鳥類をテーマに卒業研究ができるかもしれません。

私はニューカレドニアなどで鳥類の野外調査をしてきましたが、その間、国内外の学生が参加してくれました。一部の国ではインターンとして海外の調査を経験することが博士課程に進学するために必要らしく、欧州や南米から問い合わせが来て、実際に何人かの学生を受け入れました。彼らは調査に参加することで調査能力や研究の方法を習得できたと思いますが、それだけではなく、毎日の生活の中で多くの議論をすることで受け入れた側にも新しい発見やモチベーションの向上などがありました。

鳥学用.jpg
ドイツからニューカレドニアにインターンで手伝いに来てくれました(著者は向かって右)

海外の若手研究者に負けないよう、特に日本の若手の皆さんにも是非このような場所に飛び込んでもらえればと考えています。もちろん、もう若手じゃない…という人も、きっと受け入れてくれると思いますので、老若男女問わず、積極的にこのボランティア募集情報を活用してもらえればと思います。

また、全国で鳥の調査をしている皆さま、ボランティアを受け入れてはいかがでしょうか。受け入れが可能であれば、佐藤(nozomu ATMARK liferbird.com)まで連絡を頂ければ幸いです。

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日本鳥類標識協会誌のご紹介

2016年6月29日
日本鳥類標識協会編集委員会
森本 元・齋藤武馬

日本鳥学会誌をはじめ、日本国内には数多くの学術誌が存在しますが、「日本鳥類標識協会誌」もそんな雑誌の一つです。現在発行されている、鳥類学関係の他誌に比べると、最もマイナーな存在という印象を持たれる方もいるかもしれませんが、学協会発行のれっきとした学術誌です。掲載から2年を経過した論文はJ-Stage上にてどなたでも読むことが可能ですので、ぜひ一度、中身をご覧になっていただけると嬉しいです。また、会員内外のどなたでも投稿可能ですので、どんどんご投稿ください。

図・日本鳥類標識協会誌紹介用(jbba2015_vol27.jpg)枠.jpg
表紙は毎年変わります。上記は2015年のもの。

当誌の特徴といいますと、これまでの掲載論文の内容から、鳥種の形態や識別に関するものが多い雑誌であるといえます。日本鳥類標識協会誌は、誌名に「標識」とついていることからもわかるように、鳥類標識調査に関する団体である日本鳥類標識協会が発行しています。みなさん、鳥類標識調査はご存知でしょうか?鳥類標識調査(通称バンディング)は、鳥に足環や発信機等の標識を装着し、鳥の移動や寿命、個体数変動を調べる調査手法です。現在、世界中でこの標識調査は行われており、毎日のように、それら標識個体の情報が国内・国際的にやりとりされて、移動情報が蓄積されています。日本では環境省が事業を主導し、山階鳥類研究所が受託者となって実施されています。この活動を支えているのが、通称「バンダー」と呼ばれるボランティア調査者の方々です。日本鳥類標識協会の会員の大半はこのバンダーであり、それゆえ、鳥類の識別や移動に関する話題が多い雑誌となっているわけです。日本鳥学会の雑誌(和文誌・英文誌)や、バードリサーチ発行の「Bird Research」誌、日本野鳥の会発行の「Strix」誌、どれも鳥類の生態を扱った研究内容が掲載されることが多いと思いますが、日本鳥類標識協会誌は、それらとはちょっと毛色が違う、鳥学の中でも特定分野に特化した学術誌という印象を持っている方もいるかもしれません。

実は、日本鳥類標識協会誌はこうした分野のみに特化した雑誌というわけではありません。鳥学に関わることなら何でも投稿を受け付けており掲載しています。本誌は、バンディング関係の論文しか載せない雑誌という誤解を受けることがあるのですが、そんなことはないのです。例えば、生態研究でも構いませんし、寄生虫など鳥に関わる周辺的なテーマ、鳥類に関わる文系的テーマもOKです。和文論文が主ですが、英文論文も受け付けており、和英混合誌であるといえます。

本誌の編集委員の一部は鳥学会発行の雑誌の編集にも関わっている立場なので、申し上げにくいのですが、本誌への投稿も選択肢の1つとしてご検討していただければと思います。また、観察記録の公的な記録にも力を入れており、県初確認等の記録も積極的に掲載しています。さらに、論文の執筆相談も受け付けており、執筆経験が浅い方であっても、気負わずにご相談いただければと思います。学生やアマチュア研究者の方々が論文を執筆する手助けができれば幸いです。

さらに、持ち込みでの特集企画も歓迎です。若手研究者の方々の中には、何かやってみたいが、雑誌の敷居が高いと尻込みしてしまったり、足がかりが無くて困った思いを経験した方もあるかとおもいますが、本誌をうまく利用してください。日本鳥類標識協会誌の編集委員会は、30代を中心に若い編集委員で構成されており、カラー図表の多用や、カラー表紙、表紙付き別刷り、Editor’s choice、オンラインファースト(電子版の先行出版)等、他誌に無い様々な投稿者・読者サービスを試み、実践しています。新しい事柄に挑戦したい、論文執筆をチャレンジしてみたいとおもっている、学生、アマチュア、若手研究者の発表を行う場を拡げ、その手助けをしたいと私達は考えています。投稿してみたいとおもう方々は、ぜひ、お気軽にご相談くださればとおもいます。

日本鳥類標識協会誌ホームページ
http://birdbanding-assn.jp/J03_bulletin/index.html
日本鳥類標識協会誌J-Stageウェブページ
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jbba/-char/ja/

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シリーズ「鳥に関わる職に就く」:最後は起業って手も

2016年5月9日
NPO法人バードリサーチ 代表 植田睦之

シリーズ「鳥に関わる職に就く」では,嶋田さん,川上さん,濱尾さんがいろいろな立場から,研究者として就職するコツについて話してきました。でも「そうはいっても,そもそも自分に向いた公募が少ないんだよね」って思ったりしてません? そんな人にも最後の手があります。「職に就く」ではなく「職をつくる」起業です。ここは自由の国ジパング。誰でも社長になる自由があります。そして社長になれば自分のやりたいこと,好きにできます。でも,もちろん自由はただ(無料)ではありません。「社長という名の失業者」になりかねないリスクがもれなくついてきます。そうならないために,ぼくの経験を少し書きたいと思います。

ぼくが働いているバードリサーチは10年ほど前に3人でたちあげたNPOです。全国鳥類繁殖分布調査などの独自研究や環境省のモニタリングサイト1000カワウの保護管理や風車の影響や対策の委託研究などを行なっています。現在は,常勤スタッフ8名にまで増え,順調に活動しています。とは言っても小さい団体ですので,もちろん自転車操業。先はどうなるかはわかりません。

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バードリサーチの事務所。雑然としていますが,中央の机にはお菓子が,冷凍庫にはアイスが常備され,福利厚生もバッチリ。

こうして自転車をこぎ続けていくために,ぼくが重要だと思うことがいくつかあります。それは人脈,楽しんでもらうこと,そして楽しむことです。

起業して最初の壁が「最初の仕事」をとることです。下請け仕事をとるのは,それほど難しくはありませんが,将来を考えると役所や研究所など公的な機関から,1つ仕事をとって,それを実績に仕事を広げていきたいところです。けれども実績のない団体へ公的機関が最初の仕事を発注をするのは容易ではありません。かなり発注側の担当者が骨を折ってくれないと,難しいのです。ぼくらの場合は,当時某研究所にいたN田さんや某省のS木くんが最初の仕事を発注してくれたのがきっかけで,今があります。起業を目指す人は,「○○くんが起業したのなら,仕事任せてみようか」と思ってもらえるような人脈をつくっておくことが必要です。そのためには嶋田さんが書いたような普段からの姿勢が大切なような気がします。

さて,1つめの仕事ができました。そしてそれを継続したり広げていくためには,どうしたらよいでしょう。「植田くんに頼んで正解だったね」と次の仕事も発注してもらえるように「一芸を持つ」ことも重要ですし,新しい仕事を開拓していくためには「受け身の達人」であることも重要だと思います。そしてそれに加え,調査の関係者に楽しんでもらうこと,楽しく仕事することが重要な気がします。

新しいことをするために,そして調査を続けていくためには,たくさんの外部の人の協力が必要です。糸目をつけずに謝礼を払える身分ではありませんから,その分,楽しんで調査してもらわなければ続きません。得られた成果をみんなに知ってもらって「やってよかった」と感じてもらえるようにしたり,調査中には下ネタをちりばめたり,そんな工夫をしています(ぼくの話は,ただ幼稚なだけではないのです)。そしてやはり自分自身が仕事を楽しむこと。辛気臭いのと一緒に調査したくないですよね。そして仕事を頼む側だって同じするなら楽しく仕事したいものだからです。

さあ,自分も起業したいなと思ったあなた。人生の選択肢として悪くないですよ。多くの人と関わり,そんな人の喜ぶ顔も見られ,やりたい研究もできる。こんな楽しい仕事なかなかないです。

といっても未経験でいきなり起業してうまくいく人はわずかでしょう。「いつかは一国一城の主」。そんな野望をいだいている方は,ご相談ください。バードリサーチでインターンでもしてもらって,ノウハウを身に着けてもらうこともできるかもしれません。「安い労働力を確保しようなんてブラックなこと考えているでしょ」なんて思いました? 鋭いですね。あるかもしれません。

お風呂.JPG

お風呂もあります。事務所に入居するときに大家さんにお願いして造ってもらいました。自分が必須と思うものを事務所に組み込めるのも起業の良いところ。

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鳥の研究が出来る大学と大学院(Part-2)

2016年5月7日
上田恵介

前回の私の投稿に、「白木さん(東京農大)や岡ノ谷さん(東大)、藤田さん(東大)のところも鳥の研究できますよね?」というコメントがありました。すっかり忘れてた!白木さん、岡ノ谷さん、藤田さん、ごめん!ついでに(じゃないですが)江田さん(北大)、相馬さんと松島先生と和多先生(北大)、三上さん(北海道教育大)、森さん(酪農学園大)のところも鳥の研究室ですので、紹介します。

東京農大オホーツクキャンパス(生物生産学科) 白木彩子(さいこ)先生
北大の院生時代からオジロワシの研究を続けて来られた白木先生の研究室です。白木先生は知る人ぞ知る山女で(マッターホルン単独登頂)、ばりばりのフィールドワーカーです。最近はワシばかりではなく、ヒバリの分子系統研究も手がけておられます。網走の自然豊かなキャンパスで卒業研究をしたいという人にはおすすめ。

東京大学総合文化学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系(認知行動科学グループ) 岡ノ谷一夫先生
岡ノ谷先生の専門は「コミュニケーションの生物心理学」で、言語の起源、情動の進化、動物コミュニケーションなどをテーマに、ジュウシマツやキンカチョウを使って、鳥の囀りと脳の研究をしておられます。さらには鳥の囀り研究だけにとどまらず、人間の言語の進化までを視野に入れた、スケールの大きな研究者です。一般向けの本も多く、『言葉はなぜ生まれたのか』、『さえずり言語起源論』、『「つながり」の進化生物学』ほか多数があります。研究室の陣容(設備もスタッフも)整っており、世界的な鳥の研究室です。鳥の飼育が苦でなく、緻密な実験が得意という人にはおすすめです。東大は学部入試は難しいので、他大学で十分に学んでから、大学院入試で入学するという手もあります(が、研究する力がないとだめです)。

北海道大学総合博物館 江田真毅(まさき)先生
専門は考古動物学, 動物考古学, 系統地理学など。筑波大学人文学類で考古学を、東京大学大学院農学生命科学研究科で生態学を、九州大学大学院比較社会文化研究院で分子生物学を学び、就職した鳥取大学医学部では解剖学教育に携わるというマルチな研究者。大学に入るとき、恐竜の化石を研究したくて、考古学を専攻したら、考古学は化石は研究しないとわかってがっかりしたとか。しかしそれがきっかけで縄文遺跡のアホウドリの骨を調べることになり、DNA解析の手法を駆使して、アホウドリには2つの遺伝的に異なる集団があるなど、アホウドリについて面白い発見をたくさんしておられます。

博物館なので組織としての学部・大学院はありませんが、北大の他の研究室に所属して,指導を受けることはできます。

北海道大学理学部生物科学科(生物学) 相馬雅代先生、松島俊也先生、和多和弘先生
相馬先生は行動生態学、比較認知科学が専門です。先生の研究対象はスズメ目(鳴禽類)カエデチョウ科の鳥(セイキチョウやキンカチョウ)です。相馬先生のホームページのメッセージです。「鳥類の生活史特性,社会性,そしてそのコミュニケーション能力は,動物行動の多様性を考える上で極めて興味深い題材です.たとえば身近な世界に目を転じてみた時,なぜ私たちは特定の人を好きになり伴侶とするのでしょう? 恋人にはどのようにアプローチしますか? もうける子の数はどのように決まりますか? 息子と娘どちらが欲しいでしょうか? このような一見素朴にも見える問いを鳥類の生態に当てはめ,普遍的解を探すことによって,動物の社会行動の進化の真髄に迫りたいと考えています」。

同じ学科の行動神経科学研究室の松島先生はヒヨコや鳴禽(ヤマガラやハシブトガラも対象)を実験に用いて、採食のリスクを鳥たちが主観的にどう評価するか、資源をめぐる競争が意思決定にどのような影響を与えるか、研究しています。研究室として、認知脳科学と行動生態学をひとつのものとして、行動の進化を理解することがゴールのひとつだそうです。

分子神経行動研究室では和多先生が、動物が生成する行動に関して、遺伝と環境が具体的にどのようなタイミングでいかに脳内の遺伝子発現に影響を与えるのか?また発達過程の個体の行動そのものが脳内分子基盤にどのようにフィードバックされるのか?音声発声学習とその学習臨界期研究の動物モデルである鳴禽類ソングバードを用いて研究を進めています。立教の私の研究室の卒論生のF君は、カッコウのヒナが宿主の卵を巣外に押し出す行動の遺伝的基盤を解明しようと、大学院で和多先生の研究室に進学しました。

東京大学農学生命科学研究科(農学部)生物多様性科学研究室 藤田剛先生
かつて樋口広芳先生がおられた研究室で、今は宮下直先生(もともとはクモの研究者)が教授ですが、ツバメの研究をしていた藤田剛先生がおられます。研究室のテーマと目的は、「生態系のバランスの維持機構や崩壊機構を、生物と環境の相互作用の観点から説き明かす研究に取り組んでいる。その学問的基盤となるのは生態学である。生物の個体数、種数、食物網の構造、さらにそれらに関わる物理的・化学的要因が、どのような時間・空間スケールで変化(維持、崩壊)しているかについての仕組みを解明し、予想する研究に挑んでいるのである。こうした成果は、学術論文等を通して世界に発信するとともに、生態系や生物多様性の保全・管理のための具体的な提言として広く社会に発信している」そうです。

北海道教育大函館校国際地域学科 三上修先生
専門は鳥類の行動生態学 で、最近は都市における緑地の重要性の問題に取り組んでおられます。東北大から九大の大学院へ、そして立教大学で日本学術振興会の特別研究員をされていました。そのときのスズメ研究で、すっかり日本のスズメ研究の第一人者になってしまいましたが、数理生物学者としての一面もあり、数学、統計に強い研究者です。また学会の改革にも積極的に発言し、若い人には頼りがいのあるお兄さん先生かな。最新刊は筑摩書房からの「身近な鳥の生活図鑑」。
ツイッターは

酪農学園大学動物生態学研究室 森さやか先生
帯広畜産大学の修士を修了して、JICAの青年海外協力隊員としてマダガスカルへ。そのあと東京大学大学院農学生命科学研究科の樋口先生のところで博士課程を修了。一貫して、アカゲラの研究。現在はカササギも追いかけている。酪農学園大学に就職して今年で3年目(かな?)

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鳥の研究が出来る大学と大学院

2016年5月6日
上田恵介

3月で立教大学を定年退職しましたが、大学にいた頃は、私のところに全国の高校生,時には中学生、小学生から、鳥の研究をしたいがどの大学に行けばいいかという問い合わせが多くありました。私がずっと勤めていられたら、「立教にいらっしゃい」と言えるのですが、そういうわけには行きません。数年前からは、希望を聞いて、その都度、希望に添うようなところを紹介して来ました。

しかしこうした情報は学会のサイトに掲載しておけば、便利かと思い、とりあえず私が把握している範囲で、鳥の研究ができる(できそうな)大学,大学院を紹介します。古い情報,間違いもあるかと思うので、これだけを鵜呑みにせずに、必ず自分で調べて、志望が固まってきたら、直接、その先生に問い合わせてください。どの先生も、問い合わせには快く答えてくれると思います。

北海道大学理学研究科・生物地球系専攻(自然誌機能生物学)高木昌興(まさおき)先生 
高木先生は北大大学院の東先生の研究室の出身。立教大学の研究員をへて大阪市大で、琉球諸島の鳥の生物地理を研究し、多くの学生・院生の面倒を見てきた先生です。北大でも院生の指導をされるので、鳥の研究をしたい人にはおすすめの研究室です。

海鳥の研究がしたいなら、北海道大学水産学部海洋生物科学科海洋生物資源科学部門(函館) 綿貫豊先生
北海道周辺の離島で繁殖するウトウやオオセグロカモメなど。ペンギンの研究も極地研といっしょに出来るかも。ホームページには先生が今取り組んでおられるテーマが乗っています。
1. 対島海流の年変化に対する海鳥の反応
2. ウミネコはなぜ2卵を産むのか?
3. 潜水性の海鳥はいかにして浮力に逆らってうまく潜るのか?
4. 伊豆のオオミズナギドリはなぜ北海道沿岸まで採食に来るのか?

東京都市大学環境学部環境創成学科 北村亘(わたる)先生 
東大の樋口先生の研究室出身。千葉県でツバメのつがい外父性や東京湾のコアジサシの保全研究をしていた。私学なので条件は良くない(先生1人あたりの卒論生が多い)。大学院生はまだない(?)。

長崎大学環境科学部 山口典之先生
九大の生態科学(江口先生のところ)の出身。ポスドクで立教大学に在籍。伊豆諸島でヤマガラの研究をおこなう。立教大学のあと、横浜国大の松田裕之先生、ついで東大の樋口広芳先生のところで,ポスドク。サテライトトラッキング研究(カモ類、ハチクマ)。統計や理論生物学にも強い。若くて熱心、面倒見のいい先生(だと私は思う)。現在の研究テーマは、

(1) 衛星追跡データを利用した渡り行動研究
鳥類を対象とし、人工衛星を利用した遠隔追跡法により、以下のような研究項目に取り組む。 [1] 主要な渡り経路が風況・降雨などの気象条件にどの程度依存しているのか、外部形態や飛翔法の種ごとの違いにより、渡り経路が気象の影響をどの程度受けるのかを明らかにする。[2] 個体数の減少が懸念されているにも関わらず、繁殖地となる島嶼以外の生息(海)域がほとんど分かっていない海鳥が、どこを利用しているのかを調査する。

(2) 島嶼個体群の進化生態学研究
島嶼個体群には、それぞれ独自の選択圧や集団遺伝効果が働き、ユニークな形態、行動がもたらされる。本研究では、多くの島嶼を持つ九州という地域特性を活かし、以下のような調査、研究を展開する。[1] 島嶼に生息する動物、とくに鳥類個体群に現在みられる行動、形態、生活史形質を比較し、進化的意義を明らかにする。[2] 個体数が少ない島嶼個体群や海鳥コロニーなど島嶼繁殖地の基礎情報を収集する。

北大(環境科学院)小泉逸郎先生。動物生態学コース。
かつての東正剛先生の研究室。小泉先生は鳥の研究者ではないが、鳥の研究も歓迎とのこと。

研究室の紹介文は、「北海道の自然を舞台に野生動物の生態を研究しています。魚類、鳥類、哺乳類など様々な生物を対象に数の変化や分布を決める要因、地域の環境に応じた適応進化、繁殖行動や配偶システム、人間活動による個体群の絶滅、外来生物の影響といった基礎的・応用的テーマを幅広く扱っています。森や川の中で生物がどのように生きているのか。実はまだまだ謎だらけです。どんどん忙しくなる世の中。山の中に入ってちょっと自然に戻れる時間。これほど贅沢で、何が本当に大事かを教えてもらえる機会はあまり多くないと思います。野生動物に学ぶフィールド生態学は本当に魅力的な学問です」ということです。

名城大学農学部環境動物学研究室 日野輝明先生と新妻靖章先生
北大でカラ類の生態をやっていた日野輝明先生。専門は鳥類の群集生態学的研究、最近は森林生態系における生物間相互作用に関する研究、里山ランドスケープにおける生態系間相互作用に関する研究がメイン。

新妻先生は北大の綿貫先生のところで海鳥の研究をやっていた。アザラシの研究も。海鳥類のエネルギーダイナミックスに関する研究がメイン。ツキノワグマもあり。ハードなフィールドワークが好きな人にはおすすめ(かな?)。

弘前大学農学生命科学部生物学科 東信行先生
専門は動物生態学・生態工学。研究室のサイトには「水田・水路・ため池・二次林を含む農耕地生態系は,深山を除く日本の自然環境の典型である。これに河川や汽水・沿岸域を加え,野生動物の生息場所の保全や創出に関する基礎的な研究を行っている。鳥類・魚類を主な対象動物としている。例として,鳥では農耕地にいるフクロウや人為的に管理されている葦原にいるオオセッカ(立教を出た高橋雅雄さんがポスドクでいる)など。博士課程まで進学できるはずです。

先生のメッセージは「自然の中にはまだたくさんの発見があります。それを認識し理解することで,野生の生き物と人間との共存が可能になります」とのこと。

岩手大学農学部共生環境課程(保全生物学研究室) 東淳樹(あつき)先生
かつての里山は目高、蛍、源五郎や殿様蛙、秋の七草の桔梗など、日本人なら誰でも知っていて普通に見ることができた生き物の宝庫でした。しかし、メダカが絶滅危惧種に指定されたことに象徴されるように、里山から「ふつう」の生き物がどんどん姿を消しつつあります。里山の生き物たちが減ってきている原因は、ひとつに開発や耕地整備などのような、人の強い関わりによる生息地の破壊、ふたつに耕作放棄などのような、人の関わりがなくなることによる生息地の変質があります。私の研究スタイルは、はじめに、保全したい、あるいは保全しなければならない土地自然のイメージを強く持ちます。土地自然とは地域の土地的自然要素の集まりとしてとらえられます。土地自然の類型としては、一般的に地形と潜在自然植生が用いられます。つまり、保全対象とする地形や植生を含めた生態系(=景観)を選抜することが第一歩です。次に、その生態系の中に生息地を持つ主要な野生動物を選び、その動物にとってそこの土地自然がどのように利用され、また重要なのかを明らかにしていくのです。保全生物学研究室では、里山をおもな生息地としているサシバという猛禽類やメダカを対象に、その生態調査を通じて、その種と里山の保全に関わる研究を行っています。

筑波大学 生命環境系 (八ヶ岳演習林) 藤岡正博先生
アマサギの行動生態学研究で有名。オクラホマ大学のMock教授の研究室に留学。日本に戻って、農水省・中央農研を経て、現在、筑波大学教授。水田環境のサギ類等の群集生態学的研究。藤岡先生は長野の野辺山演習林の林長をされているので,月曜から金曜までは、野辺山勤務です。

新潟大学農学部、及び朱鷺・自然再生学研究センター 関島恒夫先生と永田尚志先生
農学部の生産環境科学科(大学院は自然科学研究科)には動物生態学の関島先生がおられるので、この大学院に院生として入学すれば博士課程までいけます。ここは以前はフクロウ研究で有名な阿部学先生の研究室だったので、伝統的に鳥類研究を扱っています。最近ではDNAバーコーディングを用いたトキの食性(修士)やオオヒシクイの食性(現D2)の研究が鳥学会で発表されていました。また、現在は風発とバードストライクの研究も行っており、樋口研出身の森口紗千子さんが特任助教として在籍しています。

永田先生のいるのは、新潟大学の研究推進機構 朱鷺・自然再生学研究センターという組織です。センター長が山村則夫先生(数理生物学)です。センター独自では学生・院生は受け入れできないようですが、他学部に入学して、ここの先生がたの指導を受けて鳥の研究はできます。副センター長の箕口秀夫先生、また組織は別ですが、農学部生産環境科学科の紙谷智彦先生は植物生態学が専門ですが,種子散布など鳥との共生関係にも理解があるので、相談に乗ってもらえるかもしれません。

新潟大学の組織とは別に佐渡には環境省のセンターもあり,私のところを卒業した岡久雄二さんがアクティングレンジャーとして勤務しています。

兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科 江崎保男先生と大迫義人先生
地域資源マネジメント研究科は、地球科学(ジオ)・生態学(エコ)・人文社会科学(ソシオ)という三つの学問分野を基盤としています(ホームページより)。研究科長は兵庫県立コウノトリの郷公園の所長を兼ねる江崎保男先生。江崎先生は来年定年ですが、ほかに鳥関係では大阪市大動物社会学研究室出身の大迫義人先生がいます。最近、博士後期課程の学生も取れるようになりました。

金沢大学大学院自然科学研究科生命科学専攻生物多様性動態学講座 大河原恭祐先生
鳥の研究室ではありませんが、アリ研究者の大河原恭祐先生を中心とした、広く動物生態学の研究室です。先生がOKと言うなら鳥の研究もできます。過去には高橋雅雄さん(現、弘前大)が修士時代にケリを研究していましたし、日本野鳥の会自然保護室にいる田尻浩伸さんはトモエガモ研究で学位を取りました。サギ類の研究も行われているそうです。大河原先生は種子散布の研究にも興味を持っておられ、毎年、環境省のバンディング1級ステーションの福井県織田山に来て,ツグミ類などの糞を集めて解析されています。

石川県立大学 北村俊平先生
北村先生は京大の院生時代からずっとタイの熱帯雨林でサイチョウの研究をしてきたフィールドワーカーの先生です。

北村俊平先生談:こちらでも大学院生(修士・博士)は受け入れ可能です。が、植物生態学研究室なので植物との相互作用に関連したテーマ、もしくは石川県と強く結びついたテーマ(?)なら、受け入れやすいかなと思います。ちなみにこちらの卒業研究で鳥を希望する学生には、卒研を開始する段階でわたしと一緒に調査地を歩いて、見かけた(聞こえた)鳥が瞬時に判別できるかどうかを受け入れの基準にしています。ただ、地方の超小規模大学かつ生態学系の教員も少ない大学院で学生生活を送るデメリットは大きいので、それを超えるメリットがある研究テーマを提案できるかになると思います。

九州大学大学院比較社会文化研究科国立科学博物館・動物研究部、西海功先生)。
国立科学博物館の西海先生は九州大学大学院比較社会文化研究院の客員准教授も兼任されているので、この大学院に入学すれば科博で鳥の研究ができます。

上越教育大修士課程(教科・領域教育専攻)自然系教育実践コース(理科) 中村雅彦先生
上越教育大は中高校の教員向けに開設された修士課程の大学院大学ですので、学部から入学することはできません。もし中高校の生物の教員になって、修士課程もおさめたいという希望があれば、それぞれの勤務先の教育委員会経由で入学できます。中村先生はイワヒバリの研究で有名で,現在はマダガスカルでの海外調査を精力的にこなしておられます。ここで修士号をとって、他大学の博士課程への進学という道はあります。

京都大学大学院農学研究科森林科学専攻森林生物学研究室 井鷺裕司先生
井鷺研究室では生態学的・遺伝学的な手法を用いて、動植物の生態や行動様式、 相互作用に関する研究を行っています。院生の中には鳥の研究を行っている院生もいます。これまで
安藤(現在,国立環境研):アカガシラカラスバトの保全
山崎:鳥と哺乳類とミズキの種子散布
吉川(現在,森林総研):イカルの種子散布などがあります。
井鷺先生が植物、保全、遺伝の先生なので、これらのテーマに関連した研究なら、分子生態学と絡めて鳥の研究が出来ると思います。http://www.forestbiology.kais.kyoto-u.ac.jp

鳥の研究が出来る大学と大学院Part 2はこちら

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海外のジャーナルに投稿して

2016年4月6日
北海道大学大学院環境科学院
生物圏科学専攻動物生態学コース
博士課程3年 乃美大佑

北海道大学環境科学院所属の乃美(のうみ)といいます。北大苫小牧研究林でシジュウカラの繁殖を研究しています。今回このような機会をいただきうれしく思っています。先日海外のジャーナルに投稿した論文が掲載されたのでその報告をします。

脚立をのぼって雛を捕獲する作業の様子です。.jpg
脚立をのぼって雛を捕獲する作業の様子です。

僕が修士課程に入った当時、研究室にはシジュウカラの婚外交尾(浮気)の研究をされていた油田さん(現新潟大)がおり、共同で研究をすることになりました。油田さんの研究に触発されて動物の行動や進化に興味を持ち修士論文のテーマを探したところ、鳥類では雌雄の産み分けを行うらしいことを知りました。

性比の問題は進化生物学における魅力的なテーマで今日までに数多くの生物で研究がなされています。特に鳥類の場合、性染色体が雌ヘテロ型であるため、雄ヘテロ型の哺乳類などと比べると、雌親が雌雄の産み分けをしやすいといわれています。分子生物学の技術の進歩により、浮気の研究と時を同じくして、鳥類の性比調節に関する研究も盛んに行われるようになりました。中でも縄張りの質により子の性比を調節するセーシェルヨシキリの例は有名ですね。

油田さんのこれまでの調査で苫小牧のシジュウカラは複数回繁殖率が高く、繁殖シーズンが長い(5~8月)という特徴がありました。4年分の調査で得た、合計191巣1500羽の雛を性判別した結果、1回目の繁殖でのみ、一腹卵数が多くなるほど雄の割合が低くなるという傾向を発見しました。

シジュウカラの1回目繁殖における一腹卵数とオスの割合の関係
シジュウカラの1回目繁殖における一腹卵数とオスの割合の関係。

これまで性比の研究は数多くされてきましたが、「繁殖の一時期だけ性比調節を行う」という例はありませんでした。これには雛の性的二型と巣立ち雛の生存率が関係していると考えています。巣立ち雛の生存率は巣立ち日が早いほど高いことが知られているので早い時期に多くの雛の育てるのが適応的です。しかし、餌要求量の大きい雄の雛が多くなると繁殖のコストが増すため一腹卵数の大きい巣で性比が雌に偏っていたのではないかと考えています。一方で繁殖の後期に巣立った雛は生存率が低く、繁殖の価値は低いため多くの雛を育てる利点は少ないと考えられます。雛数が少ないと餌要求量に応じた性比調節は必要なくなるため、この傾向が見られなかったのではないかと考えています。

孵化して13日目のシジュウカラの雛。.jpg
孵化して13日目のシジュウカラの雛。

せっかくやってきた修士論文の研究を残る形にしたいという思いから国際誌に投稿することにしました。そこで、鳥類を研究対象としたジャーナルを探しました。その時目にとまったのがポーランドのジャーナル、Acta Ornithologicaでした。このジャーナルはいろいろな分野を扱っており、過去にも性比を扱った研究が載っていたので、ひょっとするとチャンスがあるかもと思い投稿してみました。

DNAサンプルケースの山。調査が終わった後もデータ収集は続きました。.jpg
DNAサンプルケースの山。調査が終わった後もデータ収集は続きました。

初投稿から約1年半、Editorが何度も丁寧に見てくれたおかげで時間はかかりましたがなんとかアクセプトされました。しかし、過去の他の論文を見てみてもほとんどの論文が投稿日から採択日まで1年以上かかっていました。なので、急ぐ場合にはこのジャーナルは正直オススメしません。とはいえ、特に時間は問わないという方や、自分の研究分野を扱ったジャーナルが少ない、でもなんとか載せたいという方にはいいかもしれません。補足をすると、Acta Ornithologicaでは特に巣材を扱った研究が多いように思います。この手の研究を行っている方、オススメしますよ(笑)。

論文についての詳しい内容は原著をご覧下さい。
Nomi D., Yuta T., Koizumi I. 2015. Offspring sex ratio of Japanese Tits Parus minor is related to laying date and clutch size only in the first clutches. Acta Ornithologica. 50: 213–220.

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シリーズ「鳥に関わる職に就く」:一芸を伸ばす

2016年4月5日
独立行政法人 国立科学博物館動物研究部 濱尾章二

本シリーズ執筆者の中で(多分)最年長の私ですが、40歳を過ぎて学位をとり公募落選を繰り返したので、人並みの苦労をしています。大学によって異なる書式で業績をまとめ(なぜ出版年、査読有無などを一つ一つ別のセルに入れさせるのだ?)、職務に就いた場合の計画を作文することを繰り返しました。そのあげく、大学改組が認められなかったから公募を取り消すとの連絡を受けたこともあります。不合理、不公平と思えるしくみに落胆させられることがしばしばでした。

それでも、高校教員からの転職だったので、食べていけなくなるという心配はせずに済みました。定職に就いていない若手の方にとって、求職活動のストレスはたいへんなものと思います。ここでは、そういう方が少しでも気を楽に、元気に頑張ることができるようにと、研究職に就いてしばらく経った私が思い返して気付いたことを書いてみたいと思います。

選考では論文業績が優れていることが何と言っても一番重要、落選するのは業績や能力が不足しているからとお考えの方もあると思います。大講座を率いて博士課程の院生をガンガン指導していくポストではそうかもしれません。しかし、広く「鳥に関わる職」を考えると、そうではない場合も結構あるように私は感じます。それは、良くも悪くも、採りたい人について採用側の思惑があるからです。採用者に望む専門分野・活動履歴・年齢層などのいわば本音は、組織としては合理的な理由があるのでしょうが、公にする公募要項には書かれていないことが多いものです。

私が当初採用された国立科学博物館の附属自然教育園も、その名の通り教育活動が重要な仕事でした。また、同僚となった研究員の皆さんは一回り以上年上という年齢構成でした。多くの公募でマイナスだった(と思う)私の教員経験や年齢がプラスにはたらいたのではないかと思っています(想像ですが)。

自然教育園観察会_濱尾.jpg
自然教育園の観察会で解説する筆者(左)

ですから、不採用になっても、その理由は研究の実力の不足とは限りません。年齢など本人にはどうしようもない点で、相手の思惑を外れたからかもしれません。応募し続ければ、そのうち自分のもっているものが先方の思惑に合うという場合が出てくる可能性があります。

思惑と関係して、若い方には一芸を伸ばすことをお勧めしたいと思います。ある研究分野、ある研究手法、あるいはある地域、分類群については人に負けないものがあるというのは、公募で思惑に合う可能性を高めるでしょう。環境教育に強い、保全に明るいなどということも、公募によっては求めている人間像に合う可能性があります。よい論文を量産する研究能力とは別に一芸に秀でているというのは、公募で有利になるためというだけでなく、長い人生での研究生活を考えると、研究者のあり方としても意味があることだと思います(最後にあげる文献、サイトもご参照下さい)。

本稿が、鳥に関わる職に就こうという皆さんを少しでも励ますものになっていると幸いです。

(参考)
伊藤嘉昭 (1986) 大学院生・卒研生のための研究法雑稿.生物科学 38: 154-159.
lumely (2016) 学生に伝えたい,勉強・研究への取り組み方.ブログ図書の網

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シリーズ「鳥に関わる職に就く」:受け身の達人

2016年2月17日
森林総合研究所 川上和人
バイクにまたがる筆者.jpg
黒いのがバイクで、赤いのが著者。

「このジョルノ・ジョバァーナには夢がある!」
彼は夢に向けて進み、見事ギャングのボスになる。海賊王、天下一武闘会、主人公達は熱い目的意識で未来に向かっていく。

しかしそんな明確で壮大な夢に突き進む主役級の人材は、現実には一握りだ。主人公への視線は憧憬であって共感ではない。私も大それた野望もなく、破廉恥なことばかり考えながら受動的で器用貧乏な半生を過ごしてきた。

受動的も器用貧乏も、ニュアンスは悪口である。しかしこれも処世術と心得たい。中途半端な受け身は身を滅ぼすが、とことん受けて立てばいつか達人の域に達し、器用大富豪になるはずだ。

大学三年の私は、恩師となる樋口広芳先生の研究室の門を叩いた。
「鳥類について學びたく、何卒御指導賜りたい」
「では君、小笠原でメグロを研究してみ給へ」
名前も場所もとんと聞いたことがない地名だったが、大志を抱かぬ私にとって師の導きは宇宙の真理である。
「仰せのままに」

さも自らの意志であるかのような顔で小笠原の土を踏み、以来20余年間そこで研究を続けている。同じく小笠原で研究を進める森林総合研究所のスタッフと出会うまで、長い時間は要しなかった。
メグロ.jpg
メグロ。この鳥のおかげで,今の私がある。

「君、森林総研で小笠原の研究をする気はあるかね」
3年ほど経った頃である。大学院在学中の私には、就職なぞまだ現実感のない2001年宇宙の旅のようなもので、とっくりと考えたこともない。
「それはもちろんでございます」
突如の質問にはとりあえずイエスで答える。ノーと言えない由緒正しい日本男児の姿を確と見よ。

急遽公務員試験を受け博士課程を中退し、現職に至る扉を開く。森林総合研究所は林野庁傘下の研究開発法人である。爾来、世のため人のため林野庁のため自分のため、鳥学に身を委ねる毎日である。
「君、カタツムリの調査をしてくれ給へ」
「君、予算をとってきてくれ給へ」
「君、恐竜の本を書いてくれ給へ」
「君、バイク雑誌の原稿を書いてくれ給へ」

依頼や勧誘を承諾し続けると、経験値も選択肢も拡大する。断り続けると縮小する。鳥学分野での就職難は最近始まったことではない。選択肢の拡大は重要な戦略だ。私が現職に誘われたのも、何でもやりますと二枚舌と八方美人を駆使していたからに他ならない。

今もって具体的な目標はない。しかし、具体ではないが明確な目標がある。長期的に明るく楽しく鳥学に励むことだ。その経路もゴールも問うつもりはない。汚名も謹んで拝命しよう。

大志の成就を目論む者は、賢明にその道を進むがよかろう。しかし流され人生も恥じ入る必要は皆目ない。私と同じく破廉恥で自堕落な、ただし鳥学をこよなく愛する後進達には、受け身の達人を目指して八方美人な鳥学道を歩んでほしい。

そしていつか、上手に断れずにこんな原稿を引き受けてもらいたい。

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