北海道大学大学院理学研究院 助教公募のお知らせ

北海道大学大学院理学研究院 生物科学部門 多様性生物学分野 助教公募のお知らせです。
https://www.hokudai.ac.jp/introduction/recruit/koubo/

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応募概要

募集人員:
助教(任期あり)1名
専門分野:
個体群生態学・行動生態学・群集生態学・進化学・分類学分野
職務内容:
大学院理学院および理学部に係る教育・研究に従事するとともに、全学および理学研究院等における各種委員会委員等の管理運営業務に従事していただきます。(また教育・研究において英語を用いる場合があります。)
応募資格:
博士号を有するか、採用時までに取得見込みの方で、野外における脊椎動物(特に鳥類)の個体群を長期的に追跡する研究に理解を持ち、個体群生態学、行動生態学・群集生態学・進化学・分類学分野の研究、教育に熱意のある方。高度な研究能力と優れた研究実績を有し、着任後は髙木昌興教授と協力し、学部、および大学院生等の教育・研究に熱心に取り組むことができる方。
提出期限:
令和7年11月14日(金)必着
採用時期:
令和8年4月1日以降

問合・書類提出先等、詳細は下記公募情報(PDF)をご確認ください。
https://www.hokudai.ac.jp/introduction/recruit/koubo/pdf/01_1_rigaku_jyokyou_R070717_R071003_JPN.pdf

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事務局(2025年10月9日)

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日本鳥学会2025年度大会自由集会報告 - W10 危機対応自由集会(対動物編)

黒沢令子(NPOバードリサーチ嘱託研究員)

野外での調査中にトラブルに出会う確率が増しているので、2024年度に行なった対人編に引き続き、2025年は危険な野生動物に対する対応を知る集会を行なった。そして、それぞれの動物の基本生態と、それに即して人間側が留意すべき対処法、さらに共存を探る方法などを語っていただいた。

会場の様子

話題提供者として、以下の講師を招聘した。(敬称略)

哺乳類(ヒグマ): 大石智美(北海道大学文学院)
昆虫(スズメバチ):丹羽真一 (さっぽろ自然調査館)
節足動物(マダニ):大杉祐生(北海道大学国際感染症学院)
鳥類(カラス):  中村眞樹子(NPO法人札幌カラス研究会)
大陸の状況紹介: 姜雅珺・盛雄杰(NPO法人バードリサーチ、雲南大学生物多様性研究院)

また、江指万里(北海道大学理学院)・姜雅珺に主催側のスタッフとしてお世話いただいた。この場をお借りしてお礼申し上げたい。

当日の参加者は20名前後で、アンケートの結果、講師を含め23名から回答を得た。参加者の内訳は、年代が、10~20代(人数:6)、30~40代(3)、50~60代(12)、それ以上(1)、未回答(1)だった。属性は、学生・大学院生(2)、研究者や指導者(6)、自然環境調査従事者や自然愛好者(13)、未回答(2)だった。性別は、男性(11)、女性(11)、未回答(1)、ふだんの活動地域は、九州以南(0)、四国九州(3)、中国近畿(5)、中部関東(7)、東北(2)、北海道(4)、未回答(2)だった。

このように、日本各地から幅広い年齢層の多様な立場の参加者を得た。特に男女比が同じであり、立場も多様だったのは、ジェンダーや立場を問わず活発である日本鳥学会のあり方を表しているといえるかもしれない。

集会では、まず付箋を使って参加者の経験や情報を書いてもらい、それを読み上げて全員で共有した。写真はその内容を紹介しているところ。ホワイトボード上に挙げられた主な分類群(件数)は、左からイノシシ(3)、カラス(0)、ハチ(8)、ダニ(6)、クマ(10)。2群以上にまたがる場合もあった。

アンケートの回答。

(1)これまでに野外で出会った危険な動物(見かけただけの場合も含む)
クマ類(13)、ハチ類(15)、ダニ類(7)、カラスや他の鳥類(1)
今回取り上げた以外で危険性のある動物
毒ヘビ(7)、イノシシ(7)、ヒル(3)、ブユ(3)、トビ、ムカデ、ネズミ、サシガメ、野犬、カモシカ

(2)これまで未知だったことや、興味を惹かれた内容
・クマの生態(類似5件)。糞や足跡、食痕の新しさを判定して、新しい場合は引き返す判断の材料とする方法など。
・スズメバチの中でもリスクの高い種類がいること。スズメバチの生態(2)
・オオスズメバチやクロスズメバチの巣は見つけにいこと。
・ハチアレルギーを事前に調べられること。
・マダニ媒介感染症の解説はためになった。(3)
・マダニによる感染症が多いのに、驚いた。(2)
・マダニの生態。マダニが宿主を変えること、鳥類がマダニやTBPなどの感染症を媒介・拡大させる可能性と、分散への寄与は初めて知った。(5)
・脳炎ウイルスのワクチンがあること。(2)
・カラスの行動の知識を再確認した。威嚇への対応は興味深かった(6)
・中国での危険生物(ヒルなど)の紹介は参考になった。野外活動時に、林床を枝等で探りながら歩けば、潜んでいた毒ヘビを先に逃がすことができること。
・事後の再検証を行うのは大切だと思った。

(3)今日の集会を経験して、行動に移そうと思ったこと
・ヒグマ対策。クマスプレーを買う(3)。EPA認証をクリアしている物を選ぶ。複数人で行動する。いざという時、身を伏して頭を守る防御姿勢をとる。(2)
・ハチ対策。皮膚科に行って、アレルギー検査をする(3)。ポイズンリムーバーを持参する。
・ダニ対策。ディートなどの虫よけを使う。Tick Twisterを持参する。(2)
・ハチ、ダニ対策。服の色で避けられる危険があるようなので、明るい服を選ぶ。(2)
・カラス対策。攻撃に対して、腕を真上に上げる、傘をさすなど(2)。威嚇されるような場面があれば、刺激をしないようにする。
・鳥について。神奈川県ではトビが大変危険。
・動物の本能を理解した上で対応を行なっていきたい。
・危険性のある生物の情報を把握する。注意する(3)。なるべく遭遇を避ける行動をとる。無理をしないで、危険回避を優先する。やばそうな時期を避ける。
・経験を共有することが重要だと思った。
・夏場の調査では熱中症対策が必要なので、ナイロン生地を使用しなければならないため、両立できるよう工夫をしていきたい。
・慣れすぎることは危険なので、油断しないようにしたいと思った。

(4)講師に伝えたいこと
・カラス対策(2)。自転車に乗る時は、ヘルメット着用が努力義務になったので対策として勧められるのではないか?
・オジロワシでは、繁殖つがいがヒナを防衛する際に、通常攻撃はしない。警戒声、警戒行動のみである。(←種や生態によって違いがある件)
・近所の公園の木がカラスが営巣するという理由で伐られてしまった。仕方ない部分もあるが、共存を模索して欲しい。
・昨年の対人防御の話は実践する必要がなく済んでいる。
・「生息域にお邪魔している」という意識が大切というのに同意。
・皆、けっこう色々な動物に出会っていて、驚いた。
・各専門家の話をまとめて伺う良い機会だった。ためになった。面白かった。(3)
・正しい知識こそ危機対策だと思った。正しい理解が大切で、思い込みはよくない。(3)


〇質問

Q1:国産のクマスプレーの効果について質問。
A(大石): 「熊一目散 公式サイト | 安心の国産熊スプレー」は国産だが、成分濃度・噴射距離・噴射時間などEPAのガイドラインに準拠して製造されているため、EPA認証製品と同等の効果があると考えられる。従来の製品と比較して噴射までの手順が短いのも特徴である。自身が操作し易いものを選ぶとよいと思う。

Q2:ヒグマ対応。仕事上だと新しい食痕があっても引き返せないことが多く、悩ましい。
A(大石): ←基本の行動(音を出す、複数人で動く、クマ撃退スプレーを携帯する)などを抑えることが最も大切。クマによる攻撃は首から上が多いため、万が一に備えてヘルメットの着用もお勧め。また、食痕を見つけた際は周囲で足跡も探してみるとよい。足跡は雨が降ったり他の動物に踏まれたりして消え易いので残る時間が短い(私自身も足跡を見て、引き返すかどうかの判断基準としてきたことが多い)。危険性が高い場合 →明瞭な足跡がある、自分たちが進む方向に続いている、親子である場合(大きさの異なる足跡が一緒についている)。

参考
「秋田県庁HP」 クマに関するQ&A
「ヒグマの会HP」 ヒグマの生態や歴史
「知床財団HP」 ヒグマへの対処法(世界自然遺産「知床」にある公益財団法人)

 

Q3:スズメバチに襲われそうになったら、その場に静止しているのがよいだろうか?
A(丹羽): ←状況判断がすべて。
状況1)「まとわりつき飛翔」の場合。スズメバチは、飛翔動線上に見慣れないものがあったり、大型動物がいたりすると、点検するように飛び回る。基本的に単独の行動。
対応:←人間がじっとしていれば、数十秒から数分で立ち去る。ただ、袖口や襟元に入り込んでしまうと高い確率で刺される。こういう偶発的な事故的な刺傷を避けるためには少しずつ移動し、スズメバチから離れるようにするのがよい。

状況2)「襲われそう」なのが確かな場合。
対応:←巣が近くにある可能性が高いので、刺されなくても速やかにその場を離れるのが鉄則。
〇アゴをカチカチ鳴らすなど威嚇の段階だと、すぐには刺してこない場合もあるが、警報フェロモンに触発された働きバチが次々と集まってくるので、時間とともに危険度が増す。
対応: ←ゆっくり後ずさりしながら離れる。
〇地中の巣を踏んでしまった場合は、一斉に働きバチが飛び出してきて、腕や頭部を狙って刺そうとする。
対応: ←非常に危険度が高まっているので、直ちに走って逃げる。

スズメバチの行動パターンを実地で知っておくためには、実際のスズメバチの巣を使って、人間が近づいた時の反応や攻撃の仕方を体験するような、観察会(体験会)を開くとよいかもしれない(専用の防護服を用意しておく)。

参考文献
・『スズメバチはなぜ刺すか』(松浦誠 1988年)
『フィールド調査における安全管理マニュアル』(生態学会 2025)

 

Q4:ハチアレルギー対策の薬エピペンの使用法について質問
A(丹羽):エピペンは、緊急対応用に特別に認可される薬なので、専門医に相談するのがよい。

参考文献
「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン《令和元年度改訂》」
エピペンの公式サイト

 

Q5:ダニに刺されて病院に行った際に処方される抗生物質は、何に対して、どの程度の効果があるのだろうか?
A(大杉):
1)細菌性(ライム病や紅斑熱)←抗生物質が有効
2)ウイルス性(SFTSやマダニ媒介性脳炎)←抗生物質は効かない
マダニ刺咬後、(発熱や皮膚)症状が出た場合 → 皮膚科を受診し抗生物質を処方してもらう。
症状が出ていない段階で予防的に投与するべきか?という問題。
←医師間でも意見が別れる。
←北海道や本州中部でシュルツェマダニに刺されたのが明らかで、しかも発見時のマダニが飽血状態だった時は、ライム病の感染リスクがかなり高いので、予防的に抗菌薬を投与してもよいかもしれない。

参考文献
『マダニの科学』(朝倉書店) 2024 マダニの分類・生態から近年の研究、感染症やその対策まで、詳細かつ一般向け
国立健康危機管理研究機構HP : マダニ対策、今できること
厚生労働省HP: ダニ媒介性感染症

★マダニのサンプル募集中
鳥類につくマダニを入手したら、連絡下さい。
<ohsugi.yuki.b8@elms.hokudai.ac.jp>

 

要望1:カラス対策について。媒体を問わず、対策などを発信して欲しい(四国九州の調査者)。
カラスの攻撃行動の段階や、攻撃されそうになった時、人ができる対処法などが紹介されている。
札幌カラス研究会のサイト

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第39回日本鳥類標識協会全国大会(岩手大会) 開催記念公開シンポジウム 「鳥を調べ、鳥に学ぶ」のご案内

第39回日本鳥類標識協会全国大会(岩手大会) 開催記念公開シンポジウム 「鳥を調べ、鳥に学ぶ」のご案内

第39回日本鳥類標識協会全国大会実行委員会事務局
作山宗樹

今年の11月に岩手県盛岡市で、日本鳥学会津戸基金の助成を受けて開催する公開シンポジウム「鳥を調べ、鳥に学ぶ」をご紹介させて頂きます。

鳥類の生態や行動、進化などを調べる際に、鳥類を捕獲・標識して初めて分かることがたくさんあります。今回北東北で初となる日本鳥類標識協会の全国大会開催を契機として、鳥類の生態研究を通じて、鳥を調べる面白さや興味深さをお伝えする場を用意しました。多くの一般の方々にご参加いただき、演者の方々には調査研究を広く分かりやすくお話いただきます。

できるだけ多くの方々に足を運んでもらうため、会場は盛岡駅に隣接する県営の300人収容可能な会議場としました。会場が駅に接している利便性から、県内はもちろん、近隣県の生態学・野鳥・自然観察に関わる複数の団体に後援をお願いし、広く宣伝頂いております。
なお、本講演企画は地元や隣県などの日本鳥類標識協会会員および日本野鳥の会もりおか会員によるボランティアで運営されます。翌11月9日に行われる標識協会会員向けの一般口頭発表会や標識協会総会とは切り離した形で行います。

開催概要およびプログラム

1.開催日時 2025年11月8日(土)13:50~16:30(13:20開場)

2.会場 いわて県民情報交流センター(アイーナ) 804会議場
(住所:〒020-0045 岩手県盛岡市盛岡駅西通1丁目7番1号)

3.主催 第39回日本鳥類標識協会全国大会実行委員会

4.入場料、申し込み方法および定員
 入場無料、事前申し込み不要、定員300名

5.講演者および講演タイトル
・三上かつら氏(NPO法人バードリサーチ)
  下北半島のイスカ―その形態と生態-
・成田章氏(ウミネコ繁殖地蕪島を守る会(青森県立八戸聾学校))
  1966年から2024年までの標識調査からわかるウミネコの年齢や移動について
・菅澤颯人氏(岩手大学獣医学部)
  鳥についてる変な虫:シラミバエの生態と病原体保有状況について
・高橋雅雄氏(岩手県立博物館)
  個体標識から分かったオオセッカや草原棲小鳥類の生態

6.後援団体
青森自然誌研究会/秋田自然史研究会/岩手県立博物館/岩手生態学ネットワーク/
環境省東北地方環境事務所/公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団/
自然観察指導員ネットワーク岩手/東北鳥類研究所/
特定非営利活動法人おおせっからんど/日本野鳥の会青森県支部/
日本野鳥の会秋田県支部/日本野鳥の会北上支部/日本野鳥の会弘前支部/
日本野鳥の会もりおか/日本野鳥の会宮城県支部/日本野鳥の会宮古支部

7.シンポジウム特設webサイト
https://birdbanding-assn.jp/J04_convention/2025/2025taikaisympo.htm

本シンポジウムは日本鳥学会津戸基金の助成を受けて実施します。

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長尾自然環境財団「アジア・大洋州の自然環境研究助成」のご案内

長尾自然環境財団から「アジア・大洋州の自然環境研究助成」の案内がありましたので掲載します。
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・応募締切:2025年11月25日(火)午後5時(必着)
・援助金額
 応募資格A(一般研究者):上限200万円
 応募資格B(博士後期課程の大学院生):上限150万円
 (現地共同研究者の国内旅費や主指導教員の渡航費などは別申請可)
・助成期間:2年以内
・お問い合わせ
 公益財団法人 長尾自然環境財団
 日本人研究者支援事業(J-プロ)研究助成プログラム事務局
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(2025年10月1日 事務局)
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環境省の洋上風発事後調査案に対する意見について

風力発電等対応WGはこの度、環境省「洋上風力発電所の環境影響に係るモニタリングガイドライン(案)」に対するパブリックコメントを提出しました。

https://ornithology.jp/materials/Windfarm/MOE_Offshore_PostMonitoring_PubComm_WindPowerWG_20250717.pdf

当WGが策定した「日本鳥学会洋上風力発電建設にかかる環境アセスメントガイドライン(https://ornithology.jp/materials/Windfarm/gudeline_v1.pdf)」に沿って、手法上の問題点等について指摘しました。

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(2025年7月17日 風力発電等対応ワーキンググループ)

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ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

企画委員会 本多里奈

2016年の創設以来、毎年多くの方にご応募いただいているポスター賞。これまで、ポスター賞は30歳以下の若手会員を対象にしていましたが、昨今の研究情勢を鑑み、より多くの方の研究を奨励することを目的に、2025年度大会からポスター賞の参加資格を変更し、賞を増設することにいたしました。今回は、ポスター賞がどう変わったか、ポスター賞に応募する上で何を意識すればよいかを紹介します。

★参加資格:応募条件が緩和され、より多くのキャリア初期の研究者が応募可能となりました!
大会年の4月1日時点で、以下のいずれかの条件に当てはまる方がポスター賞に応募できます。
・30歳以下である
・博士号未取得で、学部学生、大学院生、研究生のいずれかとして大学に所属している
・博士号取得後3年以内である
昨年度までの条件ではポスター賞の対象になりづらかった社会人学生や再進学の方も応募が可能になっています。

★賞の増設:受賞のチャンスが倍になりました!
昨年度は「繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用」「行動・進化・形態・生理」「生態系管理/評価・保全・その他」の3部門で受賞者は各1名でしたが、今年から受賞者は各部門最大2名(最優秀賞・優秀賞)となります。

今回の変更を受けて、初めてポスター賞に応募する方もいるのではないでしょうか。ここで、ポスター賞の審査方法について見ていきましょう。ポスター賞は、毎年各部門数名の審査員が手分けして全ての応募発表に目を通しています。通常、一次審査と二次審査を行っており(大会スケジュールによっては二次審査を実施しない場合もあります)、一次審査では講演要旨とポスターをもとに「研究のオリジナリティ」「妥当性」「学術的・社会的な重要性」「研究テーマの将来性」「ポスターのわかりやすさ」をもとに受賞者候補を絞り込みます。二次審査では、絞り込んだ受賞候補者のプレゼンテーションを聞いて、一次審査と同じ審査項目に加えて「プレゼンテーションのわかりやすさ及び簡潔さ」にも注目して審査を行います。プレゼンテーションで、時間をかけてとりくんできた研究を全て伝えたい!という気持ちはとてもよく分かります。しかし、全てを伝えようとするとどうしても冗長になりがちです。説明の時間も長くなり、限りある審査時間の中で、審査員があなたの発表を最後まで聞ききれないという事態にもなりかねません。発表の際は、「研究の意義、方法、結果、考察、今後の展望」という研究のエッセンスを5分程度にまとめて話してみましょう。審査員だけでなく、より多くの人に発表を聞いてもらえることにも繋がります。

さて、応募資格の変更と賞の増設により、応募者が例年よりも増加することが予想されます。このような状況で、公正な審査を円滑に行うために、みなさんに気を付けてほしいことがあります。それは、申し込みです。まず、応募部門がご自身の研究にマッチしていなければ、正しく評価してもらうことはできません。また、申し込み時に不備があれば、そもそもポスター賞に応募できなくなる可能性もあります。私はそそっかしい質で、慌てているときにとんでもない凡ミスをしてしまうことが多々あります。みなさんにはそのようなことがないように、落ち着いて申し込みをしていただければと思います。そのときに一緒に意識してほしいことは、「講演要旨」が一次審査の対象に含まれているということです。講演要旨作成時には、是非以下の記事を参考にしていただければと思います。
https://ornithology.jp/newsletter/articles/633/

みなさんの情熱が詰まった研究を楽しみにしています。それでは、たくさんのご応募をお待ちしております!

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日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。74巻1号の注目論文をお知らせします。

著者: 吉川徹朗

タイトル: 植物の種子散布者としての鳥類:鳥類-植物間の相互作用が駆動する植物の生態, 進化動態

DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.74.1

私が吉川さんと初めてお話ししたのは、たしか15年ほど前の大会時の懇親会?だったように思います。植物生態学の分野で世界的に有名な菊沢先生の指導を受けながら、植物の専門家として鳥を見るというお話を聞かせてもらい、鳥屋さんがちょっと植物をかじったのとは異なる、重厚な研究が展開される日を近い将来目にするのだろうと感じたことを、今も覚えています。
多くの方が感じていたでしょう、この予感はやはり的中し、2019年度の黒田賞に選ばれた吉川さんが、本総説という形で、みごと"結実”させてくれたことを、長く鳥学会に関わってきた一人として、とても嬉しく感じています。
本総説は、非常に幅広い視点からまとめられた内容で、どこを切り取っても大変勉強になるのですが、特に私がオススメしたいのは、海外誌であればレビュー論文のPerspectivesに相当する"課題と展望”です。様々なテクノロジーが進む中でも、研究の根幹をなす自然史知見を最重要に考えられてきた吉川さんの姿勢がひしひしと伝わってきます。
それでは以下、吉川さんからいただいた解説文です。

注目論文に選んでいただき、ありがとうございます。この総説は鳥類による種子散布に関する知見をまとめたものです。種子散布は動物・植物の双方の関わり合いを介して植物の空間移動がもたらされる魅力的な現象ですが、和文の新しい教科書や解説書が乏しい状況でした。黒田賞の受賞の総説を書くにあたって考えたのは、種子散布の基本から最新研究まで、その全体像を見渡すための手引きとなるものが書けたら、ということです。そんな気負いが仇となって、完成に大変時間がかかってしまいましたが、鳥類研究者だけでなく、植物生態に興味を持つ人にも読んでもらえるものになったのではないかと思います。昨年出版された「タネまく動物 体長150センチメートルのクマから1センチメートルのワラジムシまで」(小池伸介・北村俊平編集、文一総合出版)も、日本の多くの種子散布研究者がさまざまなトピックを紹介する書籍で、この分野の入門に最適です。併せて読んで、種子散布研究の道しるべとして活用してもらえたら、とても嬉しく思います。

(吉川徹朗)

写真1 ヘクソカズラの液果を食べるシチトウメジロ(写真:服部正道氏)

 

写真2 スイカズラの液果

 

写真3 シラカシの堅果

 

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2025年度プロ・ナトゥーラ・ファンド助成募集のご案内

プロ・ナトゥーラ・ファンド助成からのお知らせです。
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プロ・ナトゥーラ・ファンド助成では、国内外の自然環境の保全に資する調査・研究、および市民活動に対し助成を行っています。
今年度も、以下の通り募集を行います。小規模団体が申請しやすい国内活動助成地域型市民活動枠や、最長3年間の助成が可能な継続申請専用の国内長期研究・活動助成を新設いたしました。

是非、ご応募をご検討いただけますと幸いです。

◆募集期間:2025年6月2日(月)~7月10日(木)18:00

◆助成対象カテゴリー

A.国内研究助成・・・日本国内における自然保護の基礎となる調査・研究

B.国内活動助成・・・日本国内における自然保護のための保全・普及・啓発活動

(新)国内活動助成地域型市民活動枠・・・地域に根差した団体による自然保護のための保全・普及・啓発活動

C.海外助成・・・開発途上地域における自然保護のための調査・研究、および教育・普及・啓発活動

D.特定テーマ助成・・・「シカ類による自然環境への影響・被害、対策等に関する生態系保全のための研究・活動」(テーマは毎年変わります)

E.(新)国内長期研究・活動助成・・・採択されたことのあるプロジェクトのうち、長期的な視点で継続することが必要だと思われる研究・活動

◆応募資格:3人以上のグループ

◆助成期間:2025年10月1日から1~3年間(カテゴリーにより異なる)

◆助成金額:50~200万円(カテゴリーにより異なる)

◆募集要項:https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:AP:839454fb-6b98-5d22-928c-f44a7818b949

◆応募方法

https://www.pronaturajapan.com/foundation/pronatura_fund.htmlをご確認ください。

◆問い合わせ先:office@pronaturajapan.com

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(2025年5月23日 事務局)

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2024年度日本鳥学会津戸基金助成シンポジウム開催報告

風間美穂(きしわだ自然資料館)

 

日本鳥学会津戸基金シンポジウム「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ! 」が2024年12月7日に開催されました。多くの方にご参加いただきありがとうございました。

「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ!」

開催目的:
都市近郊の海である大阪湾は、長年の埋め立てなどにより自然海岸が少なく、また、海に近づける場所が限られているため、自然観察を行う地域住民から「近いようで遠い海」と称されることもある。しかし、研究者や地域のバードウォッチャー、日本野鳥の会大阪支部や地域の自然史博物館によって、大阪湾内では多様な鳥類が記録されており、また、大阪湾と別の海域を行き来する鳥類も確認されている。
今回は、近いようで遠い海である、大阪湾の自然環境を、鳥の視点から考えるきっかけとするとともに、鳥類研究の最前線を学ぶ機会とする。また、翌12月8日は、岸和田漁港や阪南2区埋立地、木材コンビナートで見られる鳥の観察会を行い、実際の大阪湾の環境とそこで見られる鳥類を確認する。

開催:シンポジウム:2024年12月7日(土)
観察会:2024年12月8日(日)
会 場:岸和田市立公民館(12月7日)
阪南2区人工干潟・木材コンビナート・岸和田漁港(12月8日)
参加者数:44名(12月7日)、12名(12月8日)、合計 56名

主 催:岸和田市教育委員会郷土文化課 きしわだ自然資料館
担 当:きしわだ自然資料館 風間 美穂(日本鳥学会会員)
協 力:日本鳥学会(津戸基金)、船の科学館海の学びミュージアムサポート、合同会社 結creation

開催内容・要旨
第1部
大阪湾の海鳥を見よ(日本野鳥の会大阪支部長 納家仁氏)
瀬戸内海の東端に位置し、渡り性の水鳥の飛来コースのひとつとなっている大阪湾は外洋に面していないこと、又、府域には自然の海岸がほとんど残っていないことなど、海鳥が観察できる場所も限られる。外洋性の鳥の飛来は極めてまれであり、台風などによっての迷行記録が主で、保護されたり、落鳥するケースが多い。5~6月のハシボソミズナギドリや11月のオオミズナギドリの幼鳥の観察などの機会がまれにある程度である。今回は、主に大阪湾岸で見られるカモやカモメ、アジサシの仲間なども海鳥に含めて、合計41種を画像で紹介した。2023年9月に泉佐野市で救護したセンカクアホウドリの話題、大阪湾の海上での鳥類調査の結果や日本野鳥の会が取り組んでいる海洋プラスチックごみの問題、日本野鳥の会大阪支部が取り組んでいる大阪湾岸で干潟や湿地を取り戻す活動に触れ、岸和田貯木場を新たな干潟造成の候補地と考えていること、ネイチャーポジティブや30by30などにより生物多様性の損失を食い止め回復させることが大きな課題であることを紹介した。

目で追えない時はロガーで見よ(千葉県立中央博物館分館海の博物館研究員 平田和彦氏)
鳥の行動や生態を研究するうえで、直接じっくり観察することが最も大切なのは、今も昔も変わらない。しかし、どうしても目で追えないこともある。例えば、海鳥の潜水行動や、渡り鳥の移動を観察し続けるのは困難である。そこで役立つのがバイオロギングの技術である。研究の目的に応じて、位置情報や水圧や温度などを記録できるデータロガーを鳥類に装着して、個体レベルの行動を連続的に記録することができる。本講演では、バイオロギングの利点と欠点について概説したうえで、GPSデータロガーを用いて世界で初めてウミウの渡りを追跡した2羽の例を紹介した。このうち1羽は、本シンポジウムの会場からほど近い大阪湾を通過した。これまで大阪湾ではウミウは少ないと思っていた多くの参加者とこの新知見を共有する機会を持てたことで、これからは注意深く観察する人が増え、正確な飛来状況が解明されることが期待された。

ウミウも見よ・新海鳥ハンドブック増補改訂版も見よ(科学イラストレーター・新海鳥ハンドブック著者 箕輪義隆氏)
一般的にウミウは岩礁海岸、カワウは内陸の河川や湖沼、内湾を主な生息環境としており、千葉県では太平洋側の岩礁海岸にウミウ、東京湾沿岸にカワウが多く生息する。しかし、両種はしばしば同所的に見られ、カワウが優占する東京湾にも少数のウミウが渡来する。東京湾で見られるウミウの個体数は近年増加傾向にあり、特に湾奥部では普通に見られるようになってきた。また、2024年には人工物を利用した複数の集団塒が湾奥部で確認されている。
ウミウとカワウの生息状況を把握するためには正確な識別が不可欠であるが、両種の姿形はよく似ているため、混同されることも多い。また、遠距離や逆光などの悪条件では識別が一層難しくなる。2024年に出版された「新海鳥ハンドブック増補改訂版」には両種の識別点が詳述されているので、観察の際にはぜひ活用して頂きたい。

大阪湾の人工干潟・阪南2区人工干潟の鳥も見よ(きしわだ自然資料館 風間美穂)
阪南2区人工干潟は,大阪府岸和田市の沖合約1kmにある埋立地「阪南2区」内に造成された人工干潟(北干潟1ha,南干潟5.4ha)で, 2004年5月から毎月1回,ラインセンサス法およびスポットセンサス法による鳥類調査を継続して行っている.
調査では,2004年5月から2024年2月までの約20年間に30科89種の鳥類が確認され,2005年度から2023年度(2024年2月)までの期間に確認した鳥類はのべ60,622個体である. 近年は,公園で確認される鳥類が新たに確認されているが,これは干潟近隣の緑化がすすんでいるからと考えられる. その一方で,シギおよびチドリ類の飛来種数は覆砂事業が行われた2017年をピークに減少している.2023年夏は2008年以来15年ぶりとなるコアジサシの繁殖が確認され,2羽のヒナが巣立った.阪南2区人工干潟は小規模な干潟ではあるが,鳥たちの生息場所あるいは繁殖場所として利用されている.

第2部 質疑応答・シンポジウム
シンポジウムでは、大阪湾内ではあまり見られないとされているウミウについての質問や知見が多く出された。長年大阪の鳥を見ている方からは、大阪湾南部にある「友ヶ島」では、ウミウがよく見られるなどの情報提供があった。また、近年の大阪湾の埋め立て事業等の開発が鳥におよぼす影響なども話し合われた。


12月8日(日)海の鳥の観察会
午前9時より、マイクロバス1台をチャーターして、岸和田市周辺の大阪湾の海岸線の鳥を観察。人工干潟のある阪南2区ではスズガモの群れが見られると予測したものの、見られなかったが、カンムリカイツブリやセグロカモメ、また、ミサゴが魚をとり、食べている下で落ちた肉片を食べようと待ち構えるハシボソガラスなどが確認できた。そのほか、埋め立て中の土地から真水が噴き出しているのも確認。岸和田市の古老によると、埋め立て前の岸和田の海岸線は遠浅で、海の中を泳ぐと時々水が噴き出しているところがあり、そこでは貝類が豊富に見られたので、漁師は場所を把握し、保護していたとのこと。埋め立て事業が行われている現在でもなお、そのような場所があるのだと実感した。
次に、大阪府内最大の漁獲高を誇る岸和田漁港の船だまりでは、オオセグロカモメなどのカモメ類を確認のほか、オオバンなども見ることができた。
最後に、現在、埋め立てが予定されている、木材コンビナートに行くと、ハマシギの大群やダイゼンなどを確認することができた。埋め立て事業が推進されている大阪湾岸の現状を参加者には知ってもらえたと思う。

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