環境省の洋上風発事後調査案に対する意見について

風力発電等対応WGはこの度、環境省「洋上風力発電所の環境影響に係るモニタリングガイドライン(案)」に対するパブリックコメントを提出しました。

https://ornithology.jp/materials/Windfarm/MOE_Offshore_PostMonitoring_PubComm_WindPowerWG_20250717.pdf

当WGが策定した「日本鳥学会洋上風力発電建設にかかる環境アセスメントガイドライン(https://ornithology.jp/materials/Windfarm/gudeline_v1.pdf)」に沿って、手法上の問題点等について指摘しました。

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(2025年7月17日 風力発電等対応ワーキンググループ)

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ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

ポスター賞が変わります-参加資格の変更と賞の増設-

企画委員会 本多里奈

2016年の創設以来、毎年多くの方にご応募いただいているポスター賞。これまで、ポスター賞は30歳以下の若手会員を対象にしていましたが、昨今の研究情勢を鑑み、より多くの方の研究を奨励することを目的に、2025年度大会からポスター賞の参加資格を変更し、賞を増設することにいたしました。今回は、ポスター賞がどう変わったか、ポスター賞に応募する上で何を意識すればよいかを紹介します。

★参加資格:応募条件が緩和され、より多くのキャリア初期の研究者が応募可能となりました!
大会年の4月1日時点で、以下のいずれかの条件に当てはまる方がポスター賞に応募できます。
・30歳以下である
・博士号未取得で、学部学生、大学院生、研究生のいずれかとして大学に所属している
・博士号取得後3年以内である
昨年度までの条件ではポスター賞の対象になりづらかった社会人学生や再進学の方も応募が可能になっています。

★賞の増設:受賞のチャンスが倍になりました!
昨年度は「繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用」「行動・進化・形態・生理」「生態系管理/評価・保全・その他」の3部門で受賞者は各1名でしたが、今年から受賞者は各部門最大2名(最優秀賞・優秀賞)となります。

今回の変更を受けて、初めてポスター賞に応募する方もいるのではないでしょうか。ここで、ポスター賞の審査方法について見ていきましょう。ポスター賞は、毎年各部門数名の審査員が手分けして全ての応募発表に目を通しています。通常、一次審査と二次審査を行っており(大会スケジュールによっては二次審査を実施しない場合もあります)、一次審査では講演要旨とポスターをもとに「研究のオリジナリティ」「妥当性」「学術的・社会的な重要性」「研究テーマの将来性」「ポスターのわかりやすさ」をもとに受賞者候補を絞り込みます。二次審査では、絞り込んだ受賞候補者のプレゼンテーションを聞いて、一次審査と同じ審査項目に加えて「プレゼンテーションのわかりやすさ及び簡潔さ」にも注目して審査を行います。プレゼンテーションで、時間をかけてとりくんできた研究を全て伝えたい!という気持ちはとてもよく分かります。しかし、全てを伝えようとするとどうしても冗長になりがちです。説明の時間も長くなり、限りある審査時間の中で、審査員があなたの発表を最後まで聞ききれないという事態にもなりかねません。発表の際は、「研究の意義、方法、結果、考察、今後の展望」という研究のエッセンスを5分程度にまとめて話してみましょう。審査員だけでなく、より多くの人に発表を聞いてもらえることにも繋がります。

さて、応募資格の変更と賞の増設により、応募者が例年よりも増加することが予想されます。このような状況で、公正な審査を円滑に行うために、みなさんに気を付けてほしいことがあります。それは、申し込みです。まず、応募部門がご自身の研究にマッチしていなければ、正しく評価してもらうことはできません。また、申し込み時に不備があれば、そもそもポスター賞に応募できなくなる可能性もあります。私はそそっかしい質で、慌てているときにとんでもない凡ミスをしてしまうことが多々あります。みなさんにはそのようなことがないように、落ち着いて申し込みをしていただければと思います。そのときに一緒に意識してほしいことは、「講演要旨」が一次審査の対象に含まれているということです。講演要旨作成時には、是非以下の記事を参考にしていただければと思います。
https://ornithology.jp/newsletter/articles/633/

みなさんの情熱が詰まった研究を楽しみにしています。それでは、たくさんのご応募をお待ちしております!

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日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

日本鳥学会誌74巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。74巻1号の注目論文をお知らせします。

著者: 吉川徹朗

タイトル: 植物の種子散布者としての鳥類:鳥類-植物間の相互作用が駆動する植物の生態, 進化動態

DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.74.1

私が吉川さんと初めてお話ししたのは、たしか15年ほど前の大会時の懇親会?だったように思います。植物生態学の分野で世界的に有名な菊沢先生の指導を受けながら、植物の専門家として鳥を見るというお話を聞かせてもらい、鳥屋さんがちょっと植物をかじったのとは異なる、重厚な研究が展開される日を近い将来目にするのだろうと感じたことを、今も覚えています。
多くの方が感じていたでしょう、この予感はやはり的中し、2019年度の黒田賞に選ばれた吉川さんが、本総説という形で、みごと"結実”させてくれたことを、長く鳥学会に関わってきた一人として、とても嬉しく感じています。
本総説は、非常に幅広い視点からまとめられた内容で、どこを切り取っても大変勉強になるのですが、特に私がオススメしたいのは、海外誌であればレビュー論文のPerspectivesに相当する"課題と展望”です。様々なテクノロジーが進む中でも、研究の根幹をなす自然史知見を最重要に考えられてきた吉川さんの姿勢がひしひしと伝わってきます。
それでは以下、吉川さんからいただいた解説文です。

注目論文に選んでいただき、ありがとうございます。この総説は鳥類による種子散布に関する知見をまとめたものです。種子散布は動物・植物の双方の関わり合いを介して植物の空間移動がもたらされる魅力的な現象ですが、和文の新しい教科書や解説書が乏しい状況でした。黒田賞の受賞の総説を書くにあたって考えたのは、種子散布の基本から最新研究まで、その全体像を見渡すための手引きとなるものが書けたら、ということです。そんな気負いが仇となって、完成に大変時間がかかってしまいましたが、鳥類研究者だけでなく、植物生態に興味を持つ人にも読んでもらえるものになったのではないかと思います。昨年出版された「タネまく動物 体長150センチメートルのクマから1センチメートルのワラジムシまで」(小池伸介・北村俊平編集、文一総合出版)も、日本の多くの種子散布研究者がさまざまなトピックを紹介する書籍で、この分野の入門に最適です。併せて読んで、種子散布研究の道しるべとして活用してもらえたら、とても嬉しく思います。

(吉川徹朗)

写真1 ヘクソカズラの液果を食べるシチトウメジロ(写真:服部正道氏)

 

写真2 スイカズラの液果

 

写真3 シラカシの堅果

 

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2025年度プロ・ナトゥーラ・ファンド助成募集のご案内

プロ・ナトゥーラ・ファンド助成からのお知らせです。
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プロ・ナトゥーラ・ファンド助成では、国内外の自然環境の保全に資する調査・研究、および市民活動に対し助成を行っています。
今年度も、以下の通り募集を行います。小規模団体が申請しやすい国内活動助成地域型市民活動枠や、最長3年間の助成が可能な継続申請専用の国内長期研究・活動助成を新設いたしました。

是非、ご応募をご検討いただけますと幸いです。

◆募集期間:2025年6月2日(月)~7月10日(木)18:00

◆助成対象カテゴリー

A.国内研究助成・・・日本国内における自然保護の基礎となる調査・研究

B.国内活動助成・・・日本国内における自然保護のための保全・普及・啓発活動

(新)国内活動助成地域型市民活動枠・・・地域に根差した団体による自然保護のための保全・普及・啓発活動

C.海外助成・・・開発途上地域における自然保護のための調査・研究、および教育・普及・啓発活動

D.特定テーマ助成・・・「シカ類による自然環境への影響・被害、対策等に関する生態系保全のための研究・活動」(テーマは毎年変わります)

E.(新)国内長期研究・活動助成・・・採択されたことのあるプロジェクトのうち、長期的な視点で継続することが必要だと思われる研究・活動

◆応募資格:3人以上のグループ

◆助成期間:2025年10月1日から1~3年間(カテゴリーにより異なる)

◆助成金額:50~200万円(カテゴリーにより異なる)

◆募集要項:https://acrobat.adobe.com/id/urn:aaid:sc:AP:839454fb-6b98-5d22-928c-f44a7818b949

◆応募方法

https://www.pronaturajapan.com/foundation/pronatura_fund.htmlをご確認ください。

◆問い合わせ先:office@pronaturajapan.com

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(2025年5月23日 事務局)

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2024年度日本鳥学会津戸基金助成シンポジウム開催報告

風間美穂(きしわだ自然資料館)

 

日本鳥学会津戸基金シンポジウム「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ! 」が2024年12月7日に開催されました。多くの方にご参加いただきありがとうございました。

「大阪湾・海鳥っぷシンポジウム この鳥を見よ!」

開催目的:
都市近郊の海である大阪湾は、長年の埋め立てなどにより自然海岸が少なく、また、海に近づける場所が限られているため、自然観察を行う地域住民から「近いようで遠い海」と称されることもある。しかし、研究者や地域のバードウォッチャー、日本野鳥の会大阪支部や地域の自然史博物館によって、大阪湾内では多様な鳥類が記録されており、また、大阪湾と別の海域を行き来する鳥類も確認されている。
今回は、近いようで遠い海である、大阪湾の自然環境を、鳥の視点から考えるきっかけとするとともに、鳥類研究の最前線を学ぶ機会とする。また、翌12月8日は、岸和田漁港や阪南2区埋立地、木材コンビナートで見られる鳥の観察会を行い、実際の大阪湾の環境とそこで見られる鳥類を確認する。

開催:シンポジウム:2024年12月7日(土)
観察会:2024年12月8日(日)
会 場:岸和田市立公民館(12月7日)
阪南2区人工干潟・木材コンビナート・岸和田漁港(12月8日)
参加者数:44名(12月7日)、12名(12月8日)、合計 56名

主 催:岸和田市教育委員会郷土文化課 きしわだ自然資料館
担 当:きしわだ自然資料館 風間 美穂(日本鳥学会会員)
協 力:日本鳥学会(津戸基金)、船の科学館海の学びミュージアムサポート、合同会社 結creation

開催内容・要旨
第1部
大阪湾の海鳥を見よ(日本野鳥の会大阪支部長 納家仁氏)
瀬戸内海の東端に位置し、渡り性の水鳥の飛来コースのひとつとなっている大阪湾は外洋に面していないこと、又、府域には自然の海岸がほとんど残っていないことなど、海鳥が観察できる場所も限られる。外洋性の鳥の飛来は極めてまれであり、台風などによっての迷行記録が主で、保護されたり、落鳥するケースが多い。5~6月のハシボソミズナギドリや11月のオオミズナギドリの幼鳥の観察などの機会がまれにある程度である。今回は、主に大阪湾岸で見られるカモやカモメ、アジサシの仲間なども海鳥に含めて、合計41種を画像で紹介した。2023年9月に泉佐野市で救護したセンカクアホウドリの話題、大阪湾の海上での鳥類調査の結果や日本野鳥の会が取り組んでいる海洋プラスチックごみの問題、日本野鳥の会大阪支部が取り組んでいる大阪湾岸で干潟や湿地を取り戻す活動に触れ、岸和田貯木場を新たな干潟造成の候補地と考えていること、ネイチャーポジティブや30by30などにより生物多様性の損失を食い止め回復させることが大きな課題であることを紹介した。

目で追えない時はロガーで見よ(千葉県立中央博物館分館海の博物館研究員 平田和彦氏)
鳥の行動や生態を研究するうえで、直接じっくり観察することが最も大切なのは、今も昔も変わらない。しかし、どうしても目で追えないこともある。例えば、海鳥の潜水行動や、渡り鳥の移動を観察し続けるのは困難である。そこで役立つのがバイオロギングの技術である。研究の目的に応じて、位置情報や水圧や温度などを記録できるデータロガーを鳥類に装着して、個体レベルの行動を連続的に記録することができる。本講演では、バイオロギングの利点と欠点について概説したうえで、GPSデータロガーを用いて世界で初めてウミウの渡りを追跡した2羽の例を紹介した。このうち1羽は、本シンポジウムの会場からほど近い大阪湾を通過した。これまで大阪湾ではウミウは少ないと思っていた多くの参加者とこの新知見を共有する機会を持てたことで、これからは注意深く観察する人が増え、正確な飛来状況が解明されることが期待された。

ウミウも見よ・新海鳥ハンドブック増補改訂版も見よ(科学イラストレーター・新海鳥ハンドブック著者 箕輪義隆氏)
一般的にウミウは岩礁海岸、カワウは内陸の河川や湖沼、内湾を主な生息環境としており、千葉県では太平洋側の岩礁海岸にウミウ、東京湾沿岸にカワウが多く生息する。しかし、両種はしばしば同所的に見られ、カワウが優占する東京湾にも少数のウミウが渡来する。東京湾で見られるウミウの個体数は近年増加傾向にあり、特に湾奥部では普通に見られるようになってきた。また、2024年には人工物を利用した複数の集団塒が湾奥部で確認されている。
ウミウとカワウの生息状況を把握するためには正確な識別が不可欠であるが、両種の姿形はよく似ているため、混同されることも多い。また、遠距離や逆光などの悪条件では識別が一層難しくなる。2024年に出版された「新海鳥ハンドブック増補改訂版」には両種の識別点が詳述されているので、観察の際にはぜひ活用して頂きたい。

大阪湾の人工干潟・阪南2区人工干潟の鳥も見よ(きしわだ自然資料館 風間美穂)
阪南2区人工干潟は,大阪府岸和田市の沖合約1kmにある埋立地「阪南2区」内に造成された人工干潟(北干潟1ha,南干潟5.4ha)で, 2004年5月から毎月1回,ラインセンサス法およびスポットセンサス法による鳥類調査を継続して行っている.
調査では,2004年5月から2024年2月までの約20年間に30科89種の鳥類が確認され,2005年度から2023年度(2024年2月)までの期間に確認した鳥類はのべ60,622個体である. 近年は,公園で確認される鳥類が新たに確認されているが,これは干潟近隣の緑化がすすんでいるからと考えられる. その一方で,シギおよびチドリ類の飛来種数は覆砂事業が行われた2017年をピークに減少している.2023年夏は2008年以来15年ぶりとなるコアジサシの繁殖が確認され,2羽のヒナが巣立った.阪南2区人工干潟は小規模な干潟ではあるが,鳥たちの生息場所あるいは繁殖場所として利用されている.

第2部 質疑応答・シンポジウム
シンポジウムでは、大阪湾内ではあまり見られないとされているウミウについての質問や知見が多く出された。長年大阪の鳥を見ている方からは、大阪湾南部にある「友ヶ島」では、ウミウがよく見られるなどの情報提供があった。また、近年の大阪湾の埋め立て事業等の開発が鳥におよぼす影響なども話し合われた。


12月8日(日)海の鳥の観察会
午前9時より、マイクロバス1台をチャーターして、岸和田市周辺の大阪湾の海岸線の鳥を観察。人工干潟のある阪南2区ではスズガモの群れが見られると予測したものの、見られなかったが、カンムリカイツブリやセグロカモメ、また、ミサゴが魚をとり、食べている下で落ちた肉片を食べようと待ち構えるハシボソガラスなどが確認できた。そのほか、埋め立て中の土地から真水が噴き出しているのも確認。岸和田市の古老によると、埋め立て前の岸和田の海岸線は遠浅で、海の中を泳ぐと時々水が噴き出しているところがあり、そこでは貝類が豊富に見られたので、漁師は場所を把握し、保護していたとのこと。埋め立て事業が行われている現在でもなお、そのような場所があるのだと実感した。
次に、大阪府内最大の漁獲高を誇る岸和田漁港の船だまりでは、オオセグロカモメなどのカモメ類を確認のほか、オオバンなども見ることができた。
最後に、現在、埋め立てが予定されている、木材コンビナートに行くと、ハマシギの大群やダイゼンなどを確認することができた。埋め立て事業が推進されている大阪湾岸の現状を参加者には知ってもらえたと思う。

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【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(5)素晴らしきオーストラリア

片山直樹(農研機構 農業環境研究部門 農業生態系管理研究領域)
熊田那央(バードリサーチ嘱託研究員)

皆さま、こんにちは。オーストラリア生活についての連載ブログも、いよいよ最終回となります。そこで今回は、片山と熊田それぞれにとって、特に思い出に残った出来事をお話ししたいと思います。いつもより少しだけ長めですが、お付き合いいただければ幸いです。


片山にとって最も印象的だったのは、研究発表と水田視察のために、ニューサウスウェールズ州のリバリーナ(Riverina)という地域を訪れたことです。オーストラリアでも稲作は行われており、その生産量の9割以上をリバリーナとその周辺地域が担っています。ちなみに、オーストラリアで約百年前に初めて稲作を成功させたのは高須賀穣という日本人の方です。詳しくはこちら:https://www.sunricejapan.jp/takasuka.html

リバリーナはオーストラリアの東南に位置し、メルボルンから約450km内陸に向かった先にあります。私はメルボルン空港でレンタカーを借りると、丸一日のロードトリップをスタートさせました。オーストラリアはスピード違反に対して非常に厳しく、あちこちに自動撮影カメラが設置され、制限速度を数キロでも超えると数万円またはそれ以上の罰金となります。私は安全第一で、何度も休憩を挟みつつ運転しました。道中にはエミューがいて、旅に刺激を与えてくれました。夜8時を回ると日が沈みだしますが、同時にカンガルーなどの野生動物が活発になります。彼らが道路に飛び出してこないかどうか、さらに神経を使うことになります。無事に宿に到着した私は、疲れきってすぐに寝てしまいました。

道中にいたエミューたち
道中にいたエミューたち

翌日、私はMatthew Herring博士(以下、マシュー)と再会しました。リバリーナの日中は40度を超えることもあり、涼しくなる夕方に水田地帯を案内してもらいました。この地域の湿地や田んぼには、世界でも約三千個体しかいないとされるAustralasian Bitternが繁殖しています。マシューは、彼らの生態を研究し、保全のために稲作農家と様々な取組みを進めてきました。繁殖に適したタイミングの水張りや、畔の草を刈り残すなどの工夫をしています。彼はなんと、数百件以上の農家の連絡先を知っているそうです! 許可なく農道には入れないため、彼があらかじめ農家の方に電話をして許可を取ってくれました。

夕暮れ、マシューは私をある場所に案内してくれました。そこにはAustralasian Bitternに配慮した田んぼがありました。美しい夕焼け空の下、一羽が田んぼから頭部を少しだけ出して、ボォーっと鳴きました。マシューの論文でしか知らなかった鳥の姿と鳴き声を、この目と耳で感じることができました。こんな美しい光景を見せてくれたマシューと農家の方々に、私は何を返せばよいのだろうかと思いました。

この光景を一生忘れないでしょう
この光景を一生忘れないでしょう

マシューは、現地での研究発表を企画してくれました。リバリーナには、オーストラリアのお米を製造・販売する「SunRice社」のオフィスがあります。そこで講演する機会をいただき、セミナーを通じて社員の方や研究者の方と交流することができました。色々な質問をいただきましたが、特に印象的だったのは「人口が減り続ける日本で、米の生産と生物多様性保全をどうやって維持できるのか?」というものでした。耕作放棄地の湿地化など、いくつかの可能性はありますが、まだ断言できるようなエビデンスは少ないです。私は今後の宿題とさせてもらいつつ、一刻も早く研究を進めなければならないと感じました。

SunRice社で行ったハイブリッドセミナー
SunRice社で行ったハイブリッドセミナー

こうしてリバリーナでの日々は、あっという間に終わりました。私はマシューとハグをして別れを告げると、後ろ髪を引かれる思いで最寄りのグリフィス空港に向かいました。彼と過ごした三日間は、オーストラリアでもっとも思い出に残る日々になりました。

リバリーナには人工湿地もあり水鳥の楽園となっています
リバリーナには人工湿地もあり水鳥の楽園となっています

熊田からは旅先で見られて興奮した鳥3選と大学でのセミナー発表について紹介します。ブリスベンを離れてケアンズ、タスマニア、ラミントン国立公園など、様々な場所を訪れ10年分くらいの旅行を1年で行ってしまった気分ですが、どこも本当に行ってよかったです。11月に訪れたケアンズでは、せっかくだからと現地在住の松井さんにガイドをお願いして1日たっぷりと鳥見に連れて行ってもらいました。子連れであれこれお願いしたにもかかわらずさすがプロ、季節的に少し早いラケットシラオカワセミを始め、鳥のリクエストにもしっかり応えていただいた上に子供たちが喜ぶ場所もおさえて大変充実した鳥見ができました。ありがとうございました。ケアンズで特に印象に残ったのがヒクイドリです。松井さんと別れた翌日、教えてもらったポイントに向かう途中の道で電線に止まるモリショウビンを見つけて車を停めて見ていたところ木陰に動く影が。よく見るとそこに子連れのヒクイドリの雄がいました。縞々模様のヒナ二匹と親が木の実を啄むところを子供達とじっくりと見、その恐竜っぽさにみんなで大興奮しました。

しきりに赤い実をついばんでいました
しきりに赤い実をついばんでいました

タスマニアではどうしても見たい鳥がいました。ムナジロウです。オーストラリア南部だけに生息するこのウを、メルボルンで見ることが叶わなかった私は、タスマニアでなんとしても見なければと意気込んでいました。初日の浜辺でその願いはあっさり叶います。オーストラリアシロカツオドリやミナミオオセグロカモメが遠くを飛んでいくのを眺めていると、海にうかぶウのシルエット。あれは!と思い見ると白黒ボディに黒い顔、間違いありません。その時は距離も遠くほんの短い時間の邂逅となりましたが、翌日にのったクルーズツアーではじっくり見ることができました。風の強い日で舟は大変揺れ、酔い止めを忘れて双眼鏡を覗きすぎてもう船酔いでへろへろではありましたが、だからこそ糞で白くよごれた岩とそこに集う群れは大変印象に残っています。

オーストラリアで見られるウ類最後の1種でした
オーストラリアで見られるウ類最後の1種でした

最後はラミントン国立公園でみたアルバートコトドリです。オスのダンスと鳴き真似が有名な種ですが、私たちが行った2月はあまり活性が高くないようで声もたまに聞こえるぐらい。見るのは難しいかなと思いつつ諦めきれずにトレイルを歩きまわり続けていましたが、旅程の最終日についに見ることができました。なによりも嬉しかったのが最近急速に鳥に興味を持ち出した長女が、宿に飾ってある絵を見てこの鳥がみたい!と言い出し頑張って歩き回り探した鳥を一緒に見ることができたことです。朝の4時から歩き通しても空振りした日の翌日にも、あきらめずにまた早朝からついてくる姿にオーストラリア滞在での成長を感じました。

研究関連の話も1つ。片山さんが昨年5月に行っていたクイーンズランド大のセミナーで、私も2月に発表させていただきました。メインは福島第一原発事故での避難指示区域での鳥類相の変化に関しての紹介をさせていただきましたが、もちろんカワウへの愛もアピール。いまいち伝わったかはわからないですが……。自分の研究で来たわけではないとはいえ、せっかく関連したテーマの研究室なのだからともらった機会。なかなか準備の時間もとれず慣れない英語発表に四苦八苦し、と大変ではありましたが、普段と違う人に聞いてもらい、質問してもらうというのはやっぱり大事だなあとオーストラリアで忘れかけていた研究モードに久しぶりになれ、本当にありがたい時間でした。発表機会を提供してくれ、如何ともし難い質疑応答をフォローしてくれた天野さんをはじめ、準備の時間を少しでも増やそうと家事育児を代わってくれた片山さん、発表練習につきあってくれたピアーズさんとそのご家族、本当に皆さんに感謝です。

大学での研究発表の様子。もちろん勝負服(カワウTシャツ)着用。
大学での研究発表の様子。もちろん勝負服(カワウTシャツ)着用。

振り返ってみると、日本を離れる時には全く想像もしていなかった、たくさんの素晴らしい出来事がありました。美しい自然の中での、鳥たちとの出会い。そして何よりもうれしかったのは、多くの親切な人たちとの出会いです。道ばたで話しかけてくれた、日本好きのピアーズさん。彼のお母さんで、私たちにテニスを教えてくれたペニー。教会で出会ってから、何度も鳥見に連れて行ってくれたウォーウィックとウェンディ。オーストラリアの田んぼを案内してくれたマシュー。そして私たちの研究も生活もサポートしてくれた、天野さんとそのご家族。私たちがこんなにもオーストラリアを好きになったのは、間違いなく彼らのおかげです。日本に帰国してからも、彼らとの日々を思い出すたび、私たちはオーストラリアを恋しく思うでしょう。

もちろん見知らぬ土地での暮らしは、楽しいことばかりではありませんでした。子どもたちには、日本とは全く異なる環境で日本語も通じない中、苦労させてしまいました。最後までがんばってくれて、本当にありがとう。いつかこの日々が、あなたたちの人生の糧になりますように。みんなで過ごしたこの一年は、私たちの人生の宝物です。

最後までこのブログをご覧くださった皆様、鳥学通信担当の皆様、本当にありがとうございました。

 

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第15回日本学術振興会育志賞学会長推薦について(提出先変更のお知らせ)

日本鳥学会事務局から日本学術振興会育志賞学会長推薦の提出先のメールアドレス変更のお知らせです。

変更前:smatsui@tokai.ac.jp
変更後:secretary@ornithology.jp

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優秀な大学院博士課程学生を顕彰することを目的とした、日本学術振興会育志賞の第15回(令和6(2024)年度)推薦募集が始まります。
https://www.jsps.go.jp/j-ikushi-prize/index.html
日本鳥学会で 2名までを学会長推薦できます(ただし推薦が男性のみの場合は1名まで)。推薦を希望される 方は必要書類を下記の要領にてお送りください。尚、応募条件・必要書類等の要項については以下をご覧ください。
https://www.jsps.go.jp/file/storage/j-ikushi-prize/bosyu/R6/r6ikyoukou.pdf

1. 学会事務局への提出締切
4 月 28日(日)(PDFファイル提出)

2. 提出書類
「推薦書」「推薦理由書 A・B」「研究の概要等」の原本を1部ずつ。
※「推薦書」の1ページ目については、様式2(1ページ目)見本を下記URLから入手し、専門分野、候補者欄および博士課程の研究テーマ(和文・英訳)(2から 10までと、推薦理由書作成者2名の欄)を記入してください。
様式一覧: https://www.jsps.go.jp/j-ikushi-prize/yoshiki.html
記入要領:https://www.jsps.go.jp/file/storage/j-ikushi-prize/furoku/R6/r6ikyouryou.pdf

3.提出先
〒005-8601 北海道札幌市南区南沢5条1丁目1-1
東海大学札幌キャンパス 生物学部生物学科
一般社団法人日本鳥学会事務局 松井 晋
E-mail:  secretary@ornithology.jp

4.その他
E-mail等でPDFファイルをご送付ください。

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(2025年4月20日 事務局)

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日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W08 鈴木孝夫と中西悟堂,鳥学会と日本野鳥の会の歴史を語る

日本鳥学会2024年度大会自由集会報告 - W08 鈴木孝夫と中西悟堂,鳥学会と日本野鳥の会の歴史を語る

安西英明((公財)日本野鳥の会参与 E-mail: anzai[AT]wbsj.org)
川﨑晶子(立教大学)

※本文中の文字に下線が引いてあるものは、より詳しい説明のあるサイトなどにつながっています。クリックしてご覧ください。

1.開催の意図

鈴木孝夫(1926-2021)は世界的に知られている言語社会学者であるが,日本鳥学会の永年会員で,1950年代には黒田長久らとともに若手の鳥学研究グループを模索していたこともあった.小学生の時に日本野鳥の会創設者,中西悟堂(1895-1984)の『野鳥と共に』(1935)を読み中西宅に出向いた経歴を持ち,日本野鳥の会最古参会員を自慢にしていた.中西の思想を生活レベルで具現化し,1950年代から今でいうエコライフを始め,「買わずに拾う,捨てずに直す」をモットーにしていたため,没後,膨大な蔵書も捨てることなく活用できるようにと遺族,関係者で奔走している.

主催者は鈴木が所蔵していた鳥学会誌やさまざまな鳥関係の本をお預かりしているので,鳥学会大会の参加者に差し上げる機会にしたいと,本集会を企画した.また,会場に並べた書籍を参加者の興味関心に応じて引き取っていただく前に,鈴木と中西とともに,創設90周年となる日本野鳥の会(1934年創設)の歴史が日本鳥学会(1912年創設)とも関係していることを紹介した.

補助資料として,(1)日本鳥学会誌2021年70巻2号「紙碑 鳥好きで博学の自由人 鈴木孝夫を偲ぶ」(川﨑執筆),(2)日本野鳥の会会誌『野鳥』2024年7・8月号「中西悟堂が未来に示したもの」(原剛と安西の対談),(3)当日のパワーポイントの縮小印刷,を配布し,冒頭では,(公社)日本環境教育フォーラムがウェブで提供している環境教育ラジオ「私の本棚(第7回):日本の感性が世界を変える(鈴木)」で,安西が鈴木の著作とともに鈴木の師匠として中西を紹介したものを聞いていただいた.

集会当日(2024年9月13日)の様子:鈴木,中西の資料を前にして語る安西.(撮影:川﨑)

2.鈴木孝夫と中西悟堂

ある日の野鳥の会中央委員会(1955年12月,中西宅):戦後しばらくして委員会が出来,中西会長を支えるようになった.ここでは前列左に鈴木,後列左から3人目に黒田長久が写っている.(提供:小谷ハルノ.本稿で使用した小谷ハルノ氏提供のものは,中西が保管していた写真で,中西の長女小谷ハルノ氏から安西が一式を預かっている.)

鈴木は慶應義塾大学名誉教授であり,同大言語文化研究所に所属,欧米の大学や研究所で客員教授等も歴任し,多くの著書を残した.岩波新書『ことばと文化』(1973)は増版を重ね,その後の著書でも,既存の学問の枠に収まらない独自の視点で,言語や文化から生態系の構成員である人のあり方まで,示唆に富む発信を続けた.広い見聞と見識を持つ一方で,観察から発見する法則,鳥瞰図的ものの見方などは,幼少から野鳥に親しみ観察を続けて来た経験があるからこそであろう.

明治神宮70周年記念探鳥会(2017年4月)での鈴木:戦前から中西を手伝っていた鈴木は,戦後初の定例探鳥会となる明治神宮探鳥会でも指導役だった.(撮影:蒲谷剛彦)

鈴木は,中西が1939年に若手鳥学者育成のためにつくった研究部に所属,後に「それまでいわゆる公侯伯子男がするものだった鳥の研究に一般人が関わる契機となった」と評している.その著書『世界を人間の目だけで見るのはもうやめよう』(2019)でもわかるように,中西が早くから主張していた人間中心の物質文明の繁栄が人や自然に及ぼす悪影響について,鈴木は追求し続けた.晩年は自らの学問を言語生態学的文明論と呼び,2017年,日本野鳥の会連携団体総会の基調講演「最古参会員の提言」では「野鳥や自然を守るためにも,資源やエネルギーの消費が少なくても幸せになれる道を選択したい」と述べている.

鈴木の最近の著作例:『鈴木孝夫の曼荼羅的世界』(2015,冨山房インターナショナル),『日本の感性が世界を変える』(2014,新潮選書),『世界を人間の目だけで見るのはもう止めよう』(2019,冨山房インターナショナル).(撮影:川﨑)

中西悟堂は僧侶,詩人,歌人,思想家でもあるが,「野鳥の父」とも呼ばれ,鳥は捕って食べる,飼うが当たり前だった1934年に「野の鳥は野に」と日本野鳥の会を創設,会誌『野鳥』を創刊,科学と芸術の融合を目指して文化運動として発展させ,自然保護運動の主軸にもなっていく.その原点は中西自身が『野鳥』誌にも書いていたように日本古来の自然観,自然「じねん」である.ヒューマン(human)と区別されるネイチャー(nature)は自然「じねん」と同義ではなく,「じねん」は「おのづからしかり,あるがまま」という意味で,そこには人も含まれ,生かされているというもので,共存,共生の思想に通じるものであり,生物多様性条約においては2050年ビジョンに反映されている.

「中西悟堂:砧の自宅にて」:八ヶ岳野鳥村悟堂山荘への小谷ハルノ氏寄贈写真額.(撮影:川﨑)

補足資料:
1.紙碑 中西悟堂氏 鳥 33(4) 129-131,1985.
2.NHK映像ファイル あの人に会いたい 中西悟堂,1978,1976年の番組を再構成し2004年制作.
3.すぎなみ学倶楽部 ゆかりの人々 中西悟堂さん,東京都杉並区区民参加型ウェブサイト,西村眞一,2014.

3.日本鳥学会の重鎮の野鳥の会への貢献

日本野鳥の会は中西が私財を投じ,自身の健康や家族をも犠牲にしていた側面もあるが,多くの協力者,支援者がいたからこそ文化運動として広がり,戦後の復興までも成し得たと言える.ここでは鳥学会で重鎮とされる方々がどのような支援,協力をしてきたか,会頭を務めた故人に絞って,事例を記しておく.

(※各氏名リンク先は「日本鳥学会100周年記念特別号」PDFの各歴代会長のページにリンクされています)

1)内田清之助(1884-1976,鳥学会3代会頭,在任期間:1946-47)

中西の思想や生き様に感銘した竹友藻風が,柳田國男らとともに中西に鳥の雑誌の創刊を勧めていた1933年,中西が相談に出向いたのが鳥学会の大御所と言われていた内田で,「学者の書くものは普及性がないので,文壇,画壇の人を通じて一般人に鳥の保護を訴えるには格好の企画である」と賛成し,野鳥の会の発起人,賛助員になり,会の運営,支部の設立にも関わり,経済的な支援もした.

野鳥の会初期の談話会(5周年記念とのメモがあることから1939年):後列左から柳田國男,内田清之助,鷹司信輔,黒田長禮,清棲幸保.前列の右が中西,その左二人目中央が山階芳麿.他は画壇,文壇の重鎮たちなど.(提供:小谷ハルノ)

2)鷹司信輔(1889-1959,鳥学会2代会頭,在任期間:1922-46)

「鳥の公爵」と呼ばれ,野鳥の会創設時は賛助員で,1934年3月,最初の座談会にも参加した.1936年には内田と共に関西支部設立を手伝う.戦後,明治神宮宮司となり,野鳥の会のために内苑を開放したことが,現在も続く明治神宮探鳥会の契機となった.

京都での「野鳥の会講演会」(1936年)檀上の鷹司:関西支部(後の京都支部)設立に至った会で,司会は中西,垂幕には登壇者として柳田國男,新村出,川村多実二,内田清之助らの名も見える. (提供:小谷ハルノ)

3)山階芳麿(1900-1989,鳥学会5代会頭,在任期間:1963-70)

野鳥の会創設時の賛助員で,最初の座談会では「…保護というものは法律とか理屈ではいかぬ.どうしてもやはり鳥を愛するという情操の方面から行かなければ…」などと野鳥の会への支持を述べた.『野鳥』誌には創刊号から度々執筆し,前述した野鳥の会の研究部に協力,支援を続けた.1950年代から日本鳥類保護連盟会長(初代は前述の鷹司)で,同連盟で評議員,副会長,専務理事を務めた中西と共に,かすみ網や空気銃の問題,鳥獣保護法の成立や後述する初の国際会議などに取り組んだ.

なお,日本野鳥の会の事務所は中西宅などを転々としたが,1956年に山階鳥類研究所の一画に机と電話を設置したのが初の本格的な事務所である(鳥学会も1947-75年は事務局を山階鳥類研究所としていた).

山階邸での野鳥の会研究部の会合(1942年):前列中央に山階が座り,右端に中西が立っており,鈴木ら当時の若手達は左手から後方に並んでいる.(提供:小谷ハルノ)
能登のトキ調査(1959年,眉丈山)での中西(左)と山階(右隣の帽子の人):山階の右側は,現在,日本中国朱鷺保護協会名誉会長,石川県トキスーパーバイザーの村本義雄氏(百寿).その右は当時の日本野鳥の会石川支部長,熊野正雄,ベレー帽は高野伸二(当時は山階鳥類研究所所属).(提供:小谷ハルノ)

4)黒田長禮(1889-1976,鳥学会4代会頭,在任期間:1947-63)

「鳥学の父」とも呼ばれ,野鳥の会創設時の賛助員で,最初の座談会にも参加し,『野鳥』誌にも度々寄稿した.葬儀では中西が弔辞を述べている.

初の探鳥会(1934年6月)に続く大規模な行事「鳥に就いて物を聴く会」(同年11月,東京府多摩丘陵百草園にて):前列右端膝立ちが中西でその後ろは尾崎喜八,右端は山下新太郎.後列,左から奥村博史,清棲幸保,北原白秋,山田孝,黒田長禮,松山資郎,山階芳麿,2人おいて鷹司信輔.(提供:小谷ハルノ)

5)黒田長久(1916-2009,鳥学会6代,8代会頭,在任期間:1970-75,1981-90)

父は上記の長禮.日本野鳥の会会長(在任期間:1990-2001)を務めた.

黒田長久 『野鳥』1996年1月号,会長の「新年のごあいさつ」より.(提供:日本野鳥の会)

6)中村 司(1926-2018,鳥学会9代会頭,在任期間:1990-91)

父は中西が野外鳥学四天王と呼んだ一人,中村幸雄(他三人は川村多実二,榎本佳樹,川口孫治郎)で,日本野鳥の会では甲府支部長のほか,財団の理事や名誉顧問も務めた.

中村司(左)と現日本野鳥の会会長上田恵介:『野鳥』2015年12月号より(提供:日本野鳥の会)

補足資料:紙碑 中村司先生を偲ぶ 日本鳥学会誌 68(1) 128-129, 2019

上記の会頭の他,清棲幸保(1901-1975),橘川次郎(1929-2016),山岸哲(11代会長),藤巻裕蔵(12代会長),樋口広芳(13代会長),上田恵介(16代会長)などの方々の野鳥の会への貢献も紹介した.

4.鳥学会の戦後復興,『野鳥』誌での学会の記事

1960年の『野鳥』25周年記念号では,黒田長禮が研究史の総括「過去二十五年の学界の歩み」を書いた中で1945年の鷹司家や黒田家の空襲による被害に触れているが,終戦後,中西は山階から「学会が機関紙『鳥』を発行してゆける経済的基盤を作って欲しい」と頼まれ,「こんどはこちらがお手伝いせねば」と苦手な金策に奔走した(中西は鳥学会から1953年,54年に表彰されている).

戦前から戦後しばらくの『野鳥』誌には鳥学会の動静,報告,行事の紹介などがしばしば掲載されている.前述した『野鳥』25周年記念号では内田清之助の「日本野鳥の会発祥のころ」に続く「学界25年の諸相」という括りで,黒田長禮の「過去二十五年の学界の歩み」,以後,川村多実二,山階芳麿などが書いている.その後「鳥界将来への問題」という括りでは黒田長久「鳥学将来の動向」に始まり,蝋山朋雄「野外鳥類学とは」,浦本昌記「日本鳥学の将来とアマチュア」,橘川次郎「鳥学今後の問題点」,山階芳麿「鳥類保護の将来」まで,現在に通じる議論が綴られている.

5.アジア初の国際会議

1960年に山階芳麿(日本鳥類保護連盟),黒田長禮(日本鳥学会),中西(日本野鳥の会)を代表に,鳥関係の国際会議としてはアジア初となる第12回国際鳥類保護会議(ICBP)が東京で開催された.アジア地域の協力体制についても話し合われ,トキを国際保護鳥に加えるなどした.当時の日本側の分担表には鈴木の名もあり,得意な語学力を使って参加者の家族の世話を担当していたようである.この会議を成し得たことが日本野鳥の会ではその後のアジア各国との連携,国際条約のシンポジウム開催などの国際活動に繋がり,鳥学会としても2014年のIOC(第26回国際鳥類学会議)の誘致,成功に至った原点と言えるのではないだろうか.

ICBP国際鳥類保護会議(1960年)参加者の記念写真:前列右に山階芳麿,黒田長禮(右端)が座っており,中西は中央後ろで立っている.(提供:小谷ハルノ)
ICBPのエクスカーションで解説をしている中西:写真裏に「碓氷峠の見晴台でカナダのロイド氏一家に妙義山の成因を説明する」などのメモ.(提供:小谷ハルノ)

6.まとめ

本集会では上記のような歴史の紹介に続き,質疑の後,まとめとして安西は「未来を見据えるために現在を知るには,過去を知ることも必要.少なくとも私は先達の尽力の延長に自分の仕事があることを自覚でき,先達の想いなどを引き継いでいく責任や誇りを励みにすることができた」,川﨑は「鳥学の発展および鳥類保護への学術的貢献とされる鳥学会の目的に鑑みても,人と鳥の関わりや文化,思想,歴史的な研究にも期待したい」と述べた.会場に並べた数十冊の鈴木蔵書のほとんどは「鈴木の意思を継いで活用いただきたい」とお願いして,参加者に差し上げることができたが,鳥学会誌や鳥学通信などはバラでなく,一括での引き取り手を探すことにした.

本稿をまとめるにあたり,「日本鳥学会100年の歴史」(日本鳥学会誌61巻,2002),及び,日本野鳥の会会誌『野鳥』の主に初期のもの,25周年特集号(1960年3-6月号),80周年記念号(2014年4月号)などを参考にした.

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和文誌オープンアクセスの検討のための学会員アンケートのお願い

現在、和文誌委員会では日本鳥学会誌の「オープンアクセス」化を検討しています。現時点では和文誌に掲載された論文は、刊行1年間は会員のみがJ-STAGEで全文PDFを入手することができます(エディターズチョイスに選ばれた論文を除く)。もしオープンアクセス化が実現すれば、刊行直後からどなたでもJ-STAGEで全文PDFを入手できるようになります。

和文誌がオープンアクセスになることで、学会および学会員に対する様々なメリットがあると考えています。まず、最新の知見が多くの方に読まれることで、引用数の増加や共同研究の拡大、また世間の関心を高めることが期待されます。保全研究であれば、政策への影響力も向上できます。また科研費など資金提供者の要請にも答えることが可能です。

さらに、多くのオープンアクセス雑誌では著者に費用負担が発生しますが、今回のオープンアクセスでは著者の費用負担を「無償」とする方向で検討しています。これにより論文著者の職位や身分を問わず、多くの学会員にとって日本鳥学会誌がさらに魅力的な投稿先となることを期待しています。オープンアクセス化のための鳥学会の追加支出はありません(ただし論文数の増加によって印刷製本費用が増える可能性はあります)。

オープンアクセスにあたっては、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスを定める必要があります。鳥学会では、論文ごとに個別に定めると編集委員会の負担が増加し、手続き上の混乱を招く恐れがあることから「CC BY 4.0」に一律化したいと考えております。これは原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を表示することを主な条件とし、インターネット記事や商用書籍でも論文の文章を引用できる、また図表のデザインを変えて利用できるなど、最も自由度の高いCCライセンスとなります。詳しくは裏面をご覧ください。

なお、今回のオープンアクセスの検討はペーパーレス(冊子の廃止)を伴うものではありません。これまで通り、従来の冊子が皆様のお手元に配布されるという前提で、以下のアンケートにお答えいただければ幸いです。その結果を踏まえ、鳥学会全体としての和文誌のオープンアクセス化の方針を決定したいと考えております。

アンケートの回答期限は2025年5月31日(必着)とさせていただきます。お手数ですが、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

アンケートの回答方法:以下のリンクをクリックしてください。
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSelawtPedrFFodh0NoqlBLthQdviM6qhSZ0WFjJhIO1PsBvFg/viewform

内容に関するお問い合わせ先:日本鳥学会事務局 片山 直樹 (和文誌委員会)
メール:katayama6@affrc.go.jp

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フィールドワークと性暴力・セクシュアルハラスメントに関する実態調査アンケートの報告書

共同研究グループ「フィールドワークとハラスメント(Harrassment in Fieldwork, HiF)」からのお知らせです。日本鳥学会会員の皆様にもご協力いただいて実施された「フィールドワークと性暴力・セクシュアルハラスメントに関する実態調査アンケート」の報告書<第一報>がWEB公開されました。下記リンクよりご確認ください。

https://safefieldwork.live-on.net/survey/report1-jp/

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(2025年4月4日 事務局)

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