日本鳥類目録第8版出版予定の延期について

※本記事は鳥類目録委員会Webページからの転載記事です.<https://ornithology.jp/iinkai/mokuroku/index.html#20230810>
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目録編集委員長

 今春の第2回パブコメと今年9月の目録出版を目指して来ましたが、それらが予定通り実施できず、また見通しを今日までお示しできずにいたことをまずはお詫び申し上げます。

 国内の種・亜種についての分類と生息分布・記録について、それぞれ鳥類分類委員会と日本産鳥類記録委員会で各委員が情報収集、検討、整理を行うとともに、随時Web会合やメールで審議をおこなってきました。目録編集委員会ではWebでの会合を今年度は既に4回開催して検討を続けております。しかし、世界での分類成果とリストの精査、全国各地の協力員から寄せられた分布記録の整理、ともに情報量が膨大であり、委員各自がそれぞれの仕事を抱え、また研究・調査を行いながらの作業でもあるため、予想以上に時間がかかってきました。

 第2回パブコメの開始について、上記の理由によりこれまで見通しを立てられずにおり、会員と関係者の皆様には大変ご迷惑をおかけしてしまいました。しかし、作業の進展により、ようやくリスト化の目途が立ってきました。この9月の金沢大会での自由集会において、目録のリスト案を示すとともに編集の状況と第2回パブコメについて説明し、参加者との意見交換をおこないます。そして、9月中に日本産種・亜種の和名・学名リストを公表し、10月中には分布を含む暫定リストを公表して第2回パブコメを開始し、パブコメで寄せられたご意見と情報によって原稿を修正して2024年9月の出版をおこなうことを決定しましたのでお知らせさせていただきます。

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2023年度黒田賞、内田奨学賞の受賞者が決定しました

基金運営委員会の学会賞選考報告が発表されました。選考報告を、鳥学通信にも再掲します。今年度の黒田賞は澤田明氏(国環研)、内田奨学賞は溝田浩美氏(兵庫県立人と自然の博物館)と伊関文隆氏(NPO希少生物研究会)に決定致しました。この度の受賞、誠におめでとうございます。
https://ornithology.jp/iinkai/kikin/prizes.html
報告:基金運営委員会委員長 川上和人
2023年度日本鳥学会黒田賞選考報告

基金運営委員会で規定・運営指針に則して研究内容のオリジナリティ,鳥類学における重要性,将来性などについて検討,審査の上,受賞候補者を評議員会に推薦し,下記の通り決定された.

受賞者:澤田 明
(国立研究開発法人国立環境研究所 生物多様性領域)

澤田明氏は,南西諸島の鳥類,とくに南大東島のリュウキュウコノハズク個体群を主な研究対象とし,地道な野外調査と緻密なデータ解析により配偶者選択を中心に生活史進化について明らかにしてきた.研究テーマは,個体群内の遺伝構造解析,近親交配回避や同類交配メカニズムの解明,個体群動態解析,さらには分散距離に関する新たな解析手法の提案など多岐にわたる.南大東島では対象種の個体標識データが長期蓄積されているが,澤田氏はこれらの既存データを解析するだけでなく,自ら個体標識や繁殖モニタリング調査を精力的に実施することで当地の長期個体群研究を大きく発展させてきた.博士学位取得後わずか2年であるにもかかわらず,鳥学に関する研究成果は合計14編の論文として国内外の査読付き学術誌に掲載されている.そのうち11編は筆頭著者として英文で発表されており,国際的な成果の発信に大きく寄与している.書籍や一般向け雑誌において研究成果を広く発信しているほか,調査地においては観察会や講演会の実施,多数の地域行事参加など地元社会への貢献に対して非常に積極的である.澤田氏のこれらの業績が高く評価され,黒田賞受賞者として選定された.今後は学会運営にも参画し,日本の鳥学をさらに発展させる原動力となることが期待される.

なお,受賞内容は総説として日本鳥学会の学会誌に掲載予定である.


2023年度日本鳥学会内田奨学賞選考報告

基金運営委員会で規定・運営指針に則して検討,審査の上,受賞候補者を評議員会に推薦し,下記の通り2名に決定された.

受賞者:溝田浩美
(兵庫県立人と自然の博物館 ひとはく地域研究員)

推薦根拠論文:
溝田浩美・布野隆之・大谷 剛 (2020) 育雛期間の進行に伴うアオバズクNinox scutulata japonicaの給餌内容の変化.日本鳥学会誌 69: 223−234.

溝田浩美氏はひとはく地域研究員として猛禽類に関する地道な調査と普及啓発活動を行っている.溝田ら(2020)では夜行性のアオバズクを対象として,雛の成長に伴い給餌内容を変化させていることを1,400個体以上の内容物を含む多数の食痕の分析と食物となる昆虫の捕獲調査を組み合わせることで明らかにした.観察の難しい夜行性鳥類の生態を明らかにしただけでなく,保全への貢献からも重要な内容である.溝田氏はこれまで多くのアウトリーチ活動を続けてきており,本賞の受賞により基礎的で地道な活動が評価されることは本人の大きな励みとなり,今後の次世代育成や市民科学活動へのより大きな貢献へとつながることが期待される.

受賞者:伊関文隆
(NPO希少生物研究会)

推薦根拠論文:
Iseki F, Mikami K, Sato T (2021) Unique and complicated wing molt of the Japanese Sparrowhawk Accipiter gularis.山階鳥類学雑誌 53: 3−23.

伊関文隆氏は長年猛禽類の渡りや繁殖の調査を行い,Iseki et al. (2021) ではこれまで10年以上にわたり蓄積した写真や剥製等の200例を超える情報から,ツミの換羽様式についてその独特な特徴を示した.本研究で呈された換羽様式と生態の関連性を示唆する成果は基礎科学としての価値が高く今後の発展性が期待されるだけでなく,英語論文として発表していることから国外への波及効果も期待できる.アマチュアとして研究を行う中で長年蓄積した情報を英語論文として発表することは大きな成果であり,これが評価されることにより今後のさらなる研究活動の発展が期待される.


2023年度日本鳥学会中村司奨励賞選考報告

今年度は本賞の応募がなかったため,該当者がなかった.

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英文誌ペーパーレス化の検討のための学会員へのアンケートのお願い

ウェブサイトに7月3日に掲載したお知らせを、鳥学通信にも再掲します。アンケートの回答数が少ない状況ですので、鳥学会員の皆様は7月31日までにご協力をお願い致します。アンケートの回答は下記のリンクから(Google formに移動します)。
https://forms.gle/AKSnXgqqJgZ2PZRS7

日本は紙の消費量が非常に多く、国民1人あたりの年間消費量は世界6位となっています。生物多様性の保全を含む、環境負荷の低減において「ペーパーレス化」は重要な取組のひとつです。しかしながら、鳥学会においても、その取り組みはまだ十分とは言えません。例えば学会誌等の印刷物は、和文誌・英文誌ともに年間2800部(合計5600部)に相当します。例えば英文誌は、1部あたりの平均ページ数が125ページのため、年間35万ページの紙が使用されています。学会誌をペーパーレス化することで、こうした紙資源の印刷製本および郵送に関わる環境負荷の低減が期待できます。

さらにペーパーレス化は、学会会計における支出の削減にも貢献します。現在、学会誌の印刷製本・郵送に関する支出額は年間約430万円(うち印刷製本が350万円、郵送が80万円)となっています。これは全支出額の1/3を上回る額です。近年の会員数の推移を踏まえると、今後も大幅な収入増は見込めない一方で、さらなる支出増の可能性も考えられます。学会誌のペーパーレス化によって支出を大きく抑えることで、今後も年会費をできるだけ維持するなど、学会員へのサービス維持・向上に努めることができます。

上記の理由から、鳥学会では英文誌「Ornithological Science」のペーパーレス化に向けた検討グループを立ち上げました(メンバー:事務局および英文誌・和文誌・広報委員会の各委員長)。なお、和文誌は今回はペーパーレス化の対象外です。英文誌のみを対象とした理由は、海外の他の雑誌同様、ペーパーレス化へのハードルが比較的低いためです。しかしながら、英文誌のペーパーレス化によって生じうる様々な問題を慎重に検討した結果、学会員に確認が必要な項目が複数あるという結論に達しました。

そこで学会員の皆様にアンケートを行い、その結果を踏まえ、鳥学会全体としての英文誌のペーパーレス化の方針を決定したいと考えております。回答期限は2023年7月31日(必着)とさせていただきます。お手数ですが、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

なおメールアドレス未登録の会員には、アンケート資料を郵送で配布いたします。回答方法はそちらの資料をご覧ください。

内容に関するお問い合わせ先:
日本鳥学会事務局 片山 直樹 (会計幹事)
メール: katayama6@affrc.go.jp
電話 : 029-838-8253

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(2023年7月3日 英文誌ペーパーレス検討グループ)

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鳥の位置情報を記録するのに便利なスマホアプリ

広報委員 三上修

調査をするのはいいけれど、それをデータとして起こすのはなかなか気が重い作業です。私も、録音したものや、録画したもの、紙に記録したものがたまりがちです。

以前よりも楽ができることは増えています。たとえばICレコーダーで記録した音声を文字起こしソフトを使って書き出すとか、録画した画像を動きのあるところだけ抽出するとか。

ですが、なかなかそれができなかったのが、地図上に記録をしたものです。たとえば、観察した鳥や巣の位置を地図に記録したものです。

鳥の位置情報アプリ紹介サムネイル.png

どうにかできないかと、これまでいろいろなアプリを試してみたのですが、どうも自分のやりたいことができるものがなく、結局、野外で紙に記録して、それを持ち帰ってからパソコンに入力していました。何人か同じようなことをしている知人に相談したこともあるのですが、結局、みな紙に記入して、それをPCに入力するとのことでした。

しかし、今回紹介するスーパー地形というアプリは、良い機能がどんどん追加され、今のところ私のやりたいことが全部できるアプリになってくれています。

このアプリで何ができるかを話すために、仮に、都市部でカラスの巣の調査しているとします。これまでであれば、事前に調査する場所の調査地図を印刷し、現地に行ってその地図に記入し、巣の写真を撮っていました。そして後で、調査結果をパソコンに入力し、写真については何らかの方法で紐づけておかなければなりませんでした。これが面倒なのです。

しかし、今はスマホを持って行って、
 ・スーパー地形を起動
 ・地図上の場所をタップして、ポイントを記録する
 ・備考欄に、ハシボソガラスの巣 マツの木、と記入
 ・スマホで写真を撮る
これで、終わりです。

つまり、調査日(時刻)、位置、メモ、写真すべて一括で管理できるのです。そしてそれを保存用に外部に出力してPCで管理できます。ArcGISやGoogle Earth Proなどに表示することもできます。

もし複数の調査項目を記入したい場合は、備考欄に、項目ごとにスペースか何かで区切って記入すれば解決です。たとえば、先ほどのカラスの巣について、種、樹種、高さ、巣材、繁殖ステージの5項目について書くのであれば「ボソ マツ 15 人工物あり ヒナあり」とでも書いておいて、あとでエクセルか何かで取り込んでスペースごとにセルを分割してしまえばよいのです(gpxファイルをエクセルで無理矢理開いてしまい、スペースでデータを区切り複数のセルに分割する、など)。

データが一括管理できたり、PCへの入力の手間が省けるのはもちろんですが、このアプリを使ってみてよかったなと思うことが他にもあります。
 1.事前に調査地図や調査用紙を作る必要がない
 2.現在位置が分かるので、初めての場所でも迷わず記入できる
 3.天候が悪くても使える

3は思ったよりも便利でした。霧とか朝露で調査用紙がぐしゃぐしゃになった経験があるかと思いますが、そういうことを気にせずできます。

オフラインでも使えますので通信料の心配もいりません。ただし、オフラインの場合は、事前にネット環境下で、調査地する場所の地図を一度眺めておく必要があります。そうするとオフラインにしても地図が残っているので、それが表示されます。

私の場合は、電池の消耗を避けるためもあって、野外ではオフラインで調査をして、Wi-Fi環境のある場所に行ってから取ったデータをGoogle Driveに保存しています。これは写真があるからで、写真がなければファイルサイズは軽いので100地点の記録でも0.1 MBくらいですから通信料もほとんどかかりません。なおデータを掃き出す際のファイル形式は汎用性のあるものなので、万が一に、このアプリのサービスが終わっても問題ありません。

スマホの画面や文字が小さくてつらいという方もいるでしょう。私もアラフィフなので、老眼が少し入ってきました。そういう方はモバイル通信機能のないAndroidタブレットやiPadでもいけます。

問題はお値段ですが、なんと必要な機能は無料で使えてしまいます。ルートセンサスくらいならば無料でも問題ありません。ただし、有料のほうが制限なく使えてストレスがありません。しかも960円で買い切りです(毎年960円ではなくて1回課金すればよいだけです)。それに課金をすることで、アプリ製作者の方を応援することにもなります。もっと改善してくれるかもしれません。

授業でも使えるかもしれません。野外実習などで、それぞれ学生が撮影した動植物の写真を全体で一つの地図に表示したりすることもできるでしょう。いろいろ楽しみが多いアプリです。

紙での記入のほうが早くて便利な場面ももちろんあるので、結局は使い分けです。ですが、自分の記録方法に合うか、まずはお試しになってみてはどうでしょうか?

なお、普通にバードウォッチングの記録をしたりする場合は、バードリサーチが提供してくれているフィールドノートも便利です。

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ポスター賞応募のいろは ~講演要旨は大事~

企画委員会 中原 亨

6月1日から、日本鳥学会石川大会の申し込みが始まりました。現地での発表を検討されている方も多いのではないかと思います。若手会員の中には、ポスター賞へ応募される方もいらっしゃることでしょう。今回は、ポスター賞について、少し書かせていただこうと思います。

日本鳥学会ポスター賞は、若手の独創的な研究を推奨する目的で設立されたものです。2016年度から常設の賞となり、2023年度大会で第7回を迎えます。30歳以下の若手会員が対象となっており、毎年学生を中心とした多くの方々が応募しています。以前は2部門で募集を行っていましたが、内容の多様化や応募者の増加に伴って2021年度から審査部門を再編し、現在は「繁殖・生活史・個体群・群集」「行動・進化・形態・生理」「生態系管理/評価・保全・その他」の3部門で募集を行っております。

さて、ポスター賞は、どのように審査されているのでしょうか?
ポスター賞は毎年、前もって企画委員会からお願いをし、ご承諾いただいた方々によって審査が行われています。各部門数名の審査員が、手分けしてすべての応募発表に目を通しています。多くの場合は一次審査と二次審査を行っており(大会スケジュールによっては二次審査を実施しない場合もあります)、一次審査では講演要旨とポスターをもとに「研究のオリジナリティ」「妥当性」「学術的・社会的な重要性」「研究テーマの将来性」「ポスターのわかりやすさ」について評価して受賞候補を絞り込みます。二次審査では、絞り込んだ受賞候補者のプレゼンテーションを実際に聞いて、同様の評価項目について再度検討し、受賞者を選出しています。喫緊2回(2021年と2022年)のポスター賞の審査状況を見てみると、応募総数が33件と48件、一次審査通過が11件と13件で、そのうちそれぞれ3件がポスター賞を受賞しています。

ここで1つ、注目してほしいことがあります。それは、参加申し込み時に提出する「講演要旨」が一次審査の対象に含まれているということです。つまり、審査はポスター賞応募と同時に始まっているのです。皆さんの中に、講演要旨をただの「予告」と考えている方はいませんか?それは大きな間違いです。講演要旨は論文のabstractと同様に、発表内容を要約したものである必要があります。つまり、要旨の中にも「緒言、材料・方法、結果、考察」が端的にまとめられているべきなのです。しかし講演要旨の中には、最後が「~について報告する予定である」や、「~について検証する」のような形で終わっていて、ほぼ緒言に終始していて方法・結果・考察が書かれていないものが散見されます。こうしたものは、講演要旨としては不十分であると言わざるを得ないでしょう。要旨を読んだだけで研究の全体をつかめるようにすることは重要です。結果がまだ出ていないからという理由で予告めいた形で書く方もいらっしゃいますが、少なくともポスター賞に応募する方々には、論文のabstractを書く時と同じだと考えて、整った講演要旨を作成していただきたいところです。ちなみに私は学生時代に指導教員から「要旨の中で結果を述べるときは具体的な数値も書いたほうが良い」とアドバイスを受けました。サンプル数や解析値などを記述することで、具体性を高める効果が期待できます。

さて、ここでは講演要旨に注目してみましたが、ポスターの内容をわかりやすく他人に伝えるためには、様々なノウハウがあります。近年はポスタープレゼンの指南書が発売されていたり、気を付けるべきポイントがWEBサイトで紹介されていたりします(ぜひ検索してみてください)。また、百戦錬磨の先生方や先輩方からの教えもあるかもしれません。こうした資料や意見を参考にしつつ、ポスター賞に応募される皆さんは、見た目にもわかりやすいポスターの作成を目指してください。研究の魅力や面白さをわかりやすく他人に伝えることは意外と難しいですが、伝えようとする努力を怠らなければ、内容に注目してくれる方々も増えることでしょう。たくさんのご応募、お待ちしております。

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2022年度日本鳥学会大会自由集会報告:W07 個体群行列モデルと集団的思考

森元良太(北海道医療大学)・島谷健一郎(統計数理研究所)

1.序 
 個体数のカウントデータを伴う研究発表は本学会で毎年多数見られる.ところが,個体数の増減を扱う基本的手法の一つである個体群行列モデルを用いる研究はほとんど見られない.このような現状を鑑み,その普及を図る目的で,生育段階と生活史,個体群行列の固有値という数学,行列成分のデータからの統計的推定という三つの基本概念を解説する自由集会を企画した.また,集団内変異や個体差という生態学の概念について,科学哲学の視点からダーウィンの進化論を起源とする集団的思考に関する解説も行った.20–30名の参加者のほぼすべてが若手会員だった.3つの話題について数学や哲学の話を聞くことは初めてに近い人が多く見えたので,これからのデータ解析や野外調査現場とつながりやすい話題も混ぜるよう意識した.

2.生残・成長・繁殖を表す個体群行列 
 鳥類に個体群行列モデルを適用した研究の多くは,個体を幼鳥や成鳥,または幼鳥,亜成鳥,成鳥という生育段階に分ける.幼鳥が生残すれば翌年,(亜)成鳥に成長する.成鳥は繁殖し幼鳥を生む.この過程を,各生育段階の個体数をベクトル,生残,成長,繁殖を個体群行列と呼ばれる行列で表し,ベクトルと行列の積という数学で表現するのが個体群行列モデルである.もっとも,これだけなら,数学は単に個体数の変化を計算させる便利な道具でしかない.ところで,個体数がある生育段階では増え,別な生育段階では減ったりすると,個体群全体として増加傾向にあるのか減少傾向にあるのかよくわからない.ところが,線形代数学の定理を用いれば,同じ個体群行列による個体数の変動が続くと,次第にどの生育段階の個体数も同じ率で変動するようになり,その率(個体群成長率)は個体群行列の固有値で与えられることが示される(高田・島谷,2022,3章参照).さらに,例えば稀少種の保全を図るうえで,営巣地の保護と成鳥の生残のどちらに重点を置くべきかの一つの指標として,感度分析という手法も確立されている(高田・島谷,2022,5章参照).
 2000年代に入り,複数の個体群を局所個体群と捉え,全体を一つの個体群とみなし,各個体が属する局所個体群を生育段階に組み入れ,局所個体群間の移出や移入を生育段階の推移として個体群行列の中で扱う研究が盛んに行われている.特に,局所個体群として渡り鳥の越冬地や巣箱を設置した地域を用いることにより,もし移出が移入を上回れば,その越冬地や巣箱はその個体群の維持,成長に貢献するsourceとして働き,移入が上回ればsinkとなっていると判断する.生育段階のアイデア次第で,様々な斬新な研究を実践できるのである.
 ところで,生育段階とは,基本的には個体差や集団内変異に基づく個体のカテゴリー分けである.この最初のステップの理解を深めるには,集団的思考というキーワードについて科学哲学の視点から学習することを推奨する.

3.集団的思考と誤差論的考え方 
 チャールズ・ダーウィンは自然選択説を唱えたことで有名だが,自然選択が働くための条件は,生物集団に変異があり,その変異が適応度の違いをもたらし,変異が遺伝することである.このように,集団内変異が自然選択の条件の根底をなしている.集団現象を捉えるときに,集団を構成する個々の対象の振舞いを積み上げていくのでなく,集団内変異に焦点を当て,集団自体を基礎的なものとする思考の枠組みを,エルンスト・マイアは「集団的思考(population thinking)」と呼んだ.現代進化論はこの集団的思考に依拠しており,マイアは集団的思考の生物学への導入をダーウィンの偉業として讃えた.
 集団的思考を精緻にしたのは,ダーウィンの従弟フランシス・ゴールトンである.ゴールトンはダーウィンの『種の起源』に感銘を受け,進化論を数学的に表現する先駆的な研究をはじめた.その際,参考にしたのが,社会学に誤差論を導入した社会学者アドルフ・ケトレーの研究である.ここで誤差論とは,測定値から誤差を取り除いて真値を求めるための理論である.測定において本来知りたいのは真値であるが,測定値には誤差が不可避的に含まれるため,真値を直接測定できない.同じ対象を繰返し測ると測定値はばらき,真値は一つだけのはずなのに,測定値は誤差によりずれてしまう.だが,測定回数を増やしていくと,測定結果の分布はしだいに釣鐘型に近づいていく.この釣鐘型の分布は「ガウス分布」と呼ばれ,誤差論ではガウス分布の平均は真値とされ,真値と測定値のずれは誤差とみなされる.ケトレーはこの解釈をもとに,人についても平均を典型的な特徴として捉え,その平均的特徴をもつ架空の人を「平均人」と呼んだ.このように,ケトレーは分布を扱ったが,集団内変異を重視せず,あくまで平均に注目した.誤差論では,集団内変異は単なる誤差にすぎず,真値が推定されれば誤差は用済みとされる.
 一方,集団内変異に注目し,分布の捉え方を大きく変えたのが先述のゴールトンである.人の身体的特徴や精神的特徴を測定することが人間の本性の理解につながると考え,さまざまな人種や階級の人を測定した.その結果,例えば身長や知能は,どの人種や階級で測定してもガウス分布になることを実証し,釣鐘型分布がどこにでも見られる現象であることを確信した.誤差論では,ガウス分布の平均を真値として,測定値のばらつきを誤差とみなす.実在の特性は真値である平均のみで,ばらつきは誤差にすぎず,実在の特性を表してはいない.それに対し,ゴールトンにとって,同じ釣鐘型分布はもはや単なる測定誤差ではなく,分布自体に法則が働くような集団の特性を示すものであった.ゴールトンにとって,釣鐘型分布の平均は実在する真値ではなく代表値の一つであり,分布のばらつきは誤差ではなく実在する集団の特性を表す.実際,フランス議員たちの身長やスコットランド兵たちの胸囲の測定値のばらつきは実在する.同じ釣鐘型分布でも誤差論とゴールトンでは解釈が異なるのである.そこでゴールトンは,ガウス分布と呼ばれている釣鐘型分布に,集団が示す「正常」で当たり前の現象という意味で「Normal Distribution」という新しい名前を与えた(日本語では彼の意図が反映されず,「正規分布」と訳される).誤差論は誤差を取り除いて真値を推定することが目的であるが,ゴールトンにとって,正規分布の有するばらつきこそが失われないよう残したかったものである.ゴールトンの分布の捉え方はその後,ロナルド・フィッシャーたちを通じて,現代の進化論や統計学に受け継がれている.
 さて,個体群行列モデルに話を戻そう.生育段階ごとの繁殖率や生残率など行列の各要素を,データと統計モデルからなるべく正確に推定しようとするのは(次節参照),誤差論的考え方である.一方,生育段階に分け,それらの個体数のばらつきが個体群の特性を示すというのは,集団的思考に依拠している.すなわち,個体群行列モデルには誤差論的考え方と集団的思考の二つが混在している.
鳥類研究の現場においても,この二つの見方が混在している.例えば,鳥の体サイズを測るとき,なるべく正確に測ろうと二回計って平均をとるのは誤差論的考え方,体サイズの分布をみるのは集団的思考である.おそらく,鳥学会会員の多くはこの二つの見方を区別しないで実践してきている.分布についての二つの捉え方を意識して区別することで,数理モデルや統計モデルに関する概念的理解は深まるにちがいない.

4.行列成分の統計モデルによる推定 
 個体に標識を付け,毎年,発見調査を行う.発見できれば,その個体は生残していたことがわかる.一方,発見できなかった場合,それは,その個体が死亡したからか,生残していたのに発見に失敗したかを判断できない.しかし,発見調査を繰り返し,発見できたか,できなかったかというデータに統計モデルを適用すれば,生残率と発見率を分離して推定できる(高田・島谷 2022,4章参照).
 大切なのは,生残率と発見率の推定は,標識調査を繰り返すだけではできず,一回こっきりの発見調査データに統計モデルを適用してもできず,両者を併用することではじめて可能になる点である.生育段階が齢の場合,幼鳥は生残したら(亜)成鳥へ推移し,繁殖調査と合わせて個体群行列の成分が推定される.なお,限られたデータからの推定なので,その不確かさも明示しておくことが望まれる.ベイズ統計により,行列成分とそこから計算される固有値(個体群成長率)を事後分布という確率分布で不確実さを明示できる(高田・島谷 2022,6章参照).

5.結語に代えて:
 標識調査のすすめ 個体群行列モデルを用いる研究の実践において,個体識別して経年的に追跡したデータは一つの出発点である.概して動物に標識を付ける作業は,捕獲技術や動物倫理など,解決すべき問題は多い.幸いなことに,鳥類では足環という個体識別技術が確立されており,国内においても膨大な標識調査データが蓄積されている.
 標識調査は動植物問わず野外生物調査の一つの基本であるが,それだけからからわかることは,移出と死亡の区別をつけられないなど,決して多くない.標識データを基盤に置き,そこに本学会で見られるような独自仕様の様々なオリジナルデータと複合させることで,二種類のデータは相互作用し,得られる成果は大きく膨張するのである.
 ところが,標識調査データを踏まえた研究発表が,鳥学会では驚くほど稀少である.本自由集会を企画する際,鳥学会会員の大半は標識データをダウンロードし保有しているものと思い込んでいた.どうして蓄積されているはずの標識調査データが共有され活用されていないのか.何人もの会員に尋ねたが,理由はわからないままである.

<参考文献>
高田荘則・島谷健一郎 (2022) 個体群生態学と行列モデル:統計学がつなぐ野外調査と数理の世界.近代科学社,東京.
森元良太 (2015) 集団的思考:集団現象を捉える思考の枠組み.哲學 134: 33–54.
森元良太・田中泉吏 (2016) 生物学の哲学入門.勁草書房,東京.

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日本鳥学会誌72巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。

さて、72巻1号は「ペンギン特集」。そして、注目論文も特集論文のひとつが選ばれました。

著者: 高橋晃周
タイトル: 気候変動がペンギンに与える影響
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.72.3

ペンギンなど極地方にくらす生きものたちは、「地球温暖化」とよばれる気候変動の影響を受ける生物の中でもとくに象徴的な存在ですよね。この総説は、そのペンギンたちが体験している気候変動の影響を、著者高橋さんならではの視点で、複雑な研究成果が分かりやすい形に按配された力作レビューです。ペンギンファンでないあなたにも、ご一読をオススメします。

以下は、著者である高橋さんの言葉です。心洗われるようなすばらしい写真と一緒にお楽しみください。

エディターズ・チョイス論文に選んでいただきありがとうございます。私は南極昭和基地近くで繁殖するアデリーペンギンを対象として、気候変動がペンギンに与える影響を研究しています。自分自身が関わる一つの調査地の結果だけで、気候変動の影響の全体像を捉えるのは難しいことを常々感じており、2019年の鳥学会大会シンポジウムで気候変動とペンギンについて講演させていただいたことをきっかけに、今回の総説論文に取り組みました。もっとも苦労した点は、「気候変動がペンギンに与える影響は、時と場合によって正でも、負でも、非線形でもある」というわかりにくい内容を、いかにわかりやすく整理して伝えるか、という点です。最初の投稿から改訂稿の受理まで1年以上もかかってしまいましたが、もしなんとかうまく整理できていたとしたら、厳しくも的確な査読者や編集委員の方々のコメントのおかげです。和文誌に総説論文を書かせていただいたのは今回で3回目となりますが、毎回執筆を通じて私自身が一番勉強になったと感じています。他の研究者の論文を読むのは大分「お腹いっぱい」になりましたので、また気持ちを新たにアデリーペンギンのデータ解析に取り組んでいます。

(高橋晃周)
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写真1.南極昭和基地近くのアデリーペンギンの繁殖地

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写真2.アデリーペンギンの親子

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写真3.氷の浮かぶ海へエサ取りに出発

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第13回日本学術振興会育志賞を受賞して

本学会推薦により育志賞を受賞された北沢さんに研究紹介の記事を寄稿していただきました。今年度の推薦受付は2023年4月28日(金)までとなっています。推薦を希望される方、候補者をご存じの方は事務局までご連絡ください。(広報委員 上沖)
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授賞式は東京都日本学士院にて秋篠宮皇嗣同妃両殿下御臨席のもと行われました。

 

この度は、日本鳥学会からのご推薦を経て、日本学術振興会育志賞という身に余る賞を戴き、畏れ多くもありながら大変嬉しく思っております。改めて、これまでに研究や野鳥観察の場でお世話になった皆様に深く感謝申し上げます。

育志賞では、博士課程の一連の研究が審査されました。私は博士課程期間を通して「農地景観における鳥類多様性の広域・長期評価:農地の拡大と放棄に着目して」という課題に取り組みました。この場をお借りして、私の研究概要について軽く紹介いたします。

農地は陸地の3分の1以上の面積を占めるため、農地景観における生物多様性保全策を検討することは、陸上生態系の保全を進める上で必要不可欠です。特に私は、「湿原や森林を農地に転換したことで、鳥類の種数・個体数がどの程度減ったのか?」「人口減少によって拡大している耕作放棄地は、鳥類の生息地として機能しているのか?」「圃場整備されていない水田には、圃場整備された水田と比較して、どれほどの鳥類が生息しているのか?」といったテーマに着目して研究してきました。その結果、湿原や森林が広がっていた1850年頃の北海道石狩平野には、200万個体近くの鳥類が生息していたものの、農地への開拓によって、現在では50万個体近くまで減少してしまったことを明らかにしました。また、長崎県から北海道までの日本全国199地点の農地を調査して、耕作放棄地や圃場整備されていない水田が鳥類の重要な生息地として機能していることを明らかにしました(写真1)。

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写真1. 棚田での調査風景 繁殖期と越冬期に、2年間でのべ1000回以上の調査を実施しました。

 

さらに、これらの研究と並行して、アカモズ(写真2)やシマクイナなどの絶滅危惧種の保全研究・活動を行ったほか、日本野鳥の会茨城県支部の方々と一緒に草原性鳥類の保全に関する研究も実施しました。特にアカモズについては、繁殖地で行われている開発行為に対して、行為実施者に対して配慮のお願いに伺ったり、複数の行政担当者に対して、情報共有や森林管理策のご提案に伺ったり、また森林保護に関連する委員会に、新たな保護策の提案などを行ってまいりました。このような、研究と保全活動を両立してきた点を、賞審査にあたり評価して頂いたのかもしれません。保全活動を「研究者の業績」として評価頂く機会は多くないため、この観点からも今回の受賞を嬉しく思いました。

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写真2. アカモズ 学部2年から博士課程3年まで継続して研究を続けてきた種です。

 

今後の生物多様性保全を進めるためには、農地における取組の重要性が更に増すだろうと思っています。農地における鳥類の研究については、国内で既にたくさんの蓄積があるところではありますが、より保全を効果的に進める上では、更なる研究の蓄積が必要です。例えば、農地に生息している鳥たちの個体数はどの程度減ってきたでしょうか。和田(1922)は青森県のヒクイナについて、「極めて多く分布し、水田稲株間に営巣するが故に小児等のため卵を捕らわるること多し」と記述しています。兼常(1922)もヒクイナについて、「稲田にてふつうにみる種類なり。常に稲田の間に在り。」と述べています。1920年代には、東京都羽田で200-300個体のチュウサギや、ヨシゴイが繁殖していたようです(黒田 1915; 1920)。現在の青森ではヒクイナを、羽田ではヨシゴイを、繁殖の確認どころか観察することすら難しいでしょう。バンやオオヨシゴイ、クイナ、ウズラなどもこの期間にきっと個体数を大きく減らしたはずです。

保全を進める上での第一歩は、「個体数がどのように変化してきたか」を定量化し、その原因を明らかにすることだと考えています。トキやコウノトリでは、個体数変遷や減少原因について詳しく整理されており、それらが農地景観における保全活動にむすびついています。私たちの研究グループでは、日本の繁殖鳥類ほぼ全種の、過去170年間の個体数変化を全国規模で定量化することを目指しています。現在、そして未来の鳥を守るためには、過去の情報が欠かせません。そのために、「過去の鳥類の記録」を集めるプロジェクトを現在計画しております。

最後になりますが、博士課程研究を様々な方に評価頂ける形までまとめ上げることができたのは、特に指導教官の山浦悠一氏、中村太士教授、そして先輩の先崎理之さんと河村和洋さんのおかげであると考えています。私は考えていることや感情を言語化することが苦手だったのですが、山浦さんは私がどんなにしょうもないことを考えている場合でも、私の発言内容を正確に理解できるまで何度も何度も聞き取って頂き、私の考えを尊重して頂きました。「相手の考えを理解することに可能な限り努め、それを尊重する」―至極当たり前のことではあるものの、この姿勢を山浦さんに学んだことで、研究や保全の重要な場で物事を前に進めることができた場面が多くありました。わたし一人で研究をどんなに頑張ったところで、生物多様性保全を進めることは難しいでしょう。様々な分野や立場の方々の意見や考えを汲みながらともに研究・活動する仲間を増やすことが保全のために欠かせないと思っています。

また、育志賞の授賞式ではほかの受賞者の方々と交流する機会もあり、中には臨床医を続けながら研究をされている方もおりました。このような方の存在は、研究と保全活動のどちらも続けたい自分にとって、大きな刺激となりました。他の受賞者や日本鳥学会の皆様をはじめとして、今後も様々な方々に教えて頂きながら、研究を進めて参りたいと思います。

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ヨーロッパの大学に留学してみた④ 研究の話

(前回の③ドイツでの生活はこちら)
よくハリーポッターになった夢を見てしまう私にとって、マックスプランク鳥類学研究所はホグワーツ城と言ってもいい(ちなみに悪夢では、7割方ヴォルデモートにアバダケダブラされる)。建物の形こそ違えど、迷子になるほどの広さ、湖のほとり、フクロウ小屋ならぬ数々の鳥小屋、第一線で活躍する研究者の先生方、世界からやってくる人々。研究を志すひとにとって素晴らしい環境であることは間違いない。

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ラボの皆で鳥を見に行ってナベコウを見つけたとき。ドイツでは珍しいらしい。

私が所属していた研究室はHenrik Brumm先生のグループで、動物のコミュニケーションと都市の生態学をメインに研究している。メンバーは、先生、ポスドクの方、研究アシスタントの方と私のなんと4人だけ!というミニグループだった。つまり学生より指導者の数のほうが多い。おかげでそれはそれは手厚い教育を受けさせてもらっていた。

閉じた狭いコミュニティでは人間関係の円滑さが気になるところだが、私がここにきて最初の日に先生が「少しでも不快なことがあったら何でも言いなさい。全部解決しよう。」と言ってくださったのが本当に心強かった。言葉通り先生は違う文化圏からきた私のことを非常に気遣ってくださり、そして同時に素晴らしい指導者であり研究者であって、非常に尊敬できる人だ。来た時から私は先生のことを密かにダンブルドア先生のようだと思っている(というと先輩にそこまでお爺さんではないでしょうと言われてしまうのだが)。

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ドイツに熱波が来た日。皆で隣町まで行ってアイスクリームを食す。南ドイツは札幌並みに涼しいので、名古屋出身の私にとってはそれほどでもない。

さて、私がBrumm先生の元に来たのは、車や飛行機など都市の騒音のなかで、鳥がどのように音声コミュニケーションを行っているのかに興味があったからだ。きっかけは、留学前に『都市で進化する生物たち “ダーウィン”が街にやってくる』(メノ・スヒルトハウゼン著,草思社,2020)という本を読んだことである。

その本の第16章は「都市の歌」。2003年の研究によると、都市にすむヨーロッパシジュウカラのさえずりは、そうでない場所のものとは異なっているらしかった。街の騒音は、車の音に代表されるように、音程が低いことが多い。都市にすむシジュウカラは、自分のさえずりの音程を高くすることで街の低音ノイズにかき消されないようにしているとのことだった。

その辺にいるシジュウカラでも、実はその辺に「いられる」理由があってのこと。自分が住んでいるまちの周辺だからこそ面白い動物の現象が転がっているかもしれない。その章を読んでいた私の顔は、ハリーがはじめて箒に乗った時のようにキラキラしていたに違いない。あるいは最近のマイブームで例えるならば「アーニャ、わくわくっ!!」顔である。

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ヨーロッパシジュウカラ。日本のシジュウカラとは特にお腹の色が違う印象。

修論では騒音に対する歌行動の変化を研究することにした。カナリアを対象に、次々と離着陸する飛行機や往来する車をラフに模した断続的なノイズを聞かせてみた。予想としては、彼らはノイズが途切れるタイミングを学習して・あるいはノイズは待っていれば途切れるということを学習して、ノイズとノイズの間の静かな時間に歌うようになる、と考えていた。

ところが、ことごとくカナリアが予想に反した行動を示した。グラフを描き全体像としてはっきりとその結果を見たときには、俄かには信じがたいものがあった。驚いたと同時に、私は絶望した。ああ、はやく一本目の論文が欲しかったけど、これでは書けないのだろう、と。しかしBrumm先生は言った。「論文化しよう!」

ということで現在はその結果を絶賛投稿中である。レビュアーからの厳しいご指摘を読んでいると凹んでしまうこともあるが、大好きな共著者のみなさん、つまりマックスプランクの研究室メンバーに支えられてなんとか持ちこたえている。どうにかそのうち世に出せることを祈っている。

(続く?)
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イベント紹介 〜インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』〜

広報委員 遠藤 幸子

みなさん、こんにちは!
春が感じられる日々ですが、いかがお過ごしでしょうか。

私は先日、現在開催中の「インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』」に行ってきました。こちらは、東京駅から徒歩で行ける、KITTE の2・3階にあるインターメディアテク(IMT)において2023年1月20日から開催されています。

鳥の標本、絵画、そして鳥をモチーフとした宝石などがコラボレーションして展示されているという、とてもユニークな展示でした。自然や科学、文化などの様々な観点から「鳥」をみつめることができ、鳥に秘められた、新たな魅力に気づくことできました。また、ひとつずつをとってみても、とても綺麗に輝く鳥のかたちのブローチや、尾の長さに圧巻されるオナガドリの標本など、魅了される展示がたくさんありました。

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とても素敵な展示のパンフレットもいただけました。

こちらの特別展示の開催期間は2023年5月7日までで、入館料は無料だそうです。期間中には、研究者の方々のレクチャー・トークも開催されています。4月に開催される回には、カラスの研究でお馴染みの松原始さんもご登壇されるようです。
いつもは野外で鳥を観察されている皆さんも、屋内でいつもとは違った視点から鳥を眺めてみませんか?

展示に関する詳しい情報は、下記のインターメディアテクさんのHPをご確認ください。
インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』
http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0257
レクチャー・シリーズ『極楽鳥展を巡って』
http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0258

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