日本鳥学会2016年度大会自由集会報告:チュウヒ研究の〝今〟

2016年10月11日

企画者:多田英行(日本野鳥の会・岡山)、先崎理之(北大院・農)、高橋佑亮(伊豆沼・内沼環境保全財団)

(文責:多田英行)

チュウヒはヨシ原を代表するタカの仲間で、生態系の豊かさを象徴する生き物です。しかし、繁殖地が限定的であることなどから、これまであまり生態研究が行われてきませんでした。一方で、近年はメガソーラー開発などの新たな課題が発生しており、チュウヒの保全のためにも生態の解明が急がれています。
今大会は国内最大級のチュウヒの繁殖地である北海道での開催ということで、チュウヒの自由集会を開催するには最適な機会となりました。当日は60名を超える参加者に訪れていただき、みなさんのチュウヒへの関心の高さを感じることができました。

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【各講演の概要】
1.日本のチュウヒの生態~地域や季節による多様性~(多田英行)
 これまでに報告されている文献を基に、チュウヒの採餌環境や餌動物などが季節によって異なることや、行動圏の広さや営巣環境などが生息地によって異なることなどが紹介されました。

2.勇払原野のチュウヒ(先崎理之・河村和洋)
北海道勇払原野での営巣環境や繁殖成功率について発表されました。営巣地周辺の採食地や人工構造物の多さが、チュウヒのペア数や巣立ち雛数に影響するとの研究内容も紹介されました。

3.北海道のチュウヒの営巣環境について(一北民郎)
北海道で見られる営巣環境について、ササ環境の事例も含め、営巣地の植生や水深などのデータが発表されました。また、これまでの観察経験からチュウヒの営巣環境の選択に関する考察も紹介されました。

4.秋田県八郎潟干拓地のチュウヒ(高橋佑亮)
本州以南最大の繁殖地である八郎潟干拓地での繁殖状況や営巣環境、採食生態などが発表されました。また、遷移の進行によるヨシ原の衰退がチュウヒの繁殖を脅かしていることが紹介されました。

【まとめ】
 本集会では主に繁殖期のチュウヒについて最新の知見が報告され、チュウヒの生態を参加者と共有することができました。一方で、チュウヒの生息個体数や繁殖成功率などの基礎的な情報が未だに把握されていないことを再認識しました。チュウヒの生息地の減少要因として自然開発以外にも遷移の進行が課題であることが指摘され、チュウヒの保全のためには生息に適した代替環境を創出していく必要も議論されました。
各地のチュウヒについてまとまった形で情報交換がされる機会はまだまだ少ないので、本集会が今後のチュウヒの研究と保全に繋がる一助になれば幸いです。

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