【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(2)子連れ家族の鳥見事情
熊田那央(バードリサーチ嘱託研究員)
皆さま、こんにちは。カワウを愛する熊田です。この連載は片山さんがオーストラリアに留学するにあたってその体験を綴るようにと依頼されたものですが、せっかく家族で渡っているのだからと、私も記事を書く機会をいただきました。研究の話は片山さんがたっぷり書かれると思いますので、私からは主に鳥好きの家族が子連れでブリスベンに行ったら、どんな暮らしをしているのかということを紹介させていただきます。
その前に、前回の記事の中で片山さんから渡航を決断するにあたって葛藤があったのでは、との話題が振られていましたのでそちらについてまず回答します。結論から言うと、特段の葛藤はありませんでした。片山さんのように職場の審査があるわけでもなく、ただついていけば海外で鳥見ができる、そんな美味しい話ですから、一も二もなく賛成です。私の雇用形態や職場の理解という面での状況的幸運はもちろんありましたが、それ以外の子供たちのことやお金のことといった心配事については、我が家の真面目に考える係(もちろん私ではありません)がいろいろ検討するでしょうしなんとかなるでしょ、という適当さです。海外旅行も数えるほどしか経験がなく、特に南半球には行ったことがなかったので、いくつかの留学先候補を聞いてはそこではどんなウや鳥たちが見られるかを夢想するくらいでなんとも気楽なものです。
そんなお気楽な人間ですので、自分1人だけ、もしくは大人だけの留学でしたら思いっきり現地の暮らしを適当に満喫していたのかな、と思いますがなにせ7歳と3歳の子供たちとの暮らしです。突然連れてこられた彼らにはできるだけストレスなく過ごしてほしいと考えています。鳥のこととは少し離れてしまいますが、彼らの暮らしについても少し紹介します。
7歳の長女は徒歩で通える地元の小学校に通っています。多様な人種が暮らす町にある学校のため、英語が話せない子の対応も慣れており、英語補習クラスの実施や、週に1度の日本人の先生のサポートなど手厚く対応してくださっています。とはいっても本人には大きな試練で、入った当初はほとんどの時間は全く理解できずぼーっと時がたつのをまっていたとのことでした。幸いにもクラスの友達が大変親切にしてくれ、学校にいる間はずっとついて回って面倒をみてくれているようです。数ヶ月がたった今では単語を少しずつ覚え、友達と遊ぶのを楽しんでいます。親としては日本と大きく違う点は毎日お弁当を持参する必要があることです。なんと、昼食の時間の前後におやつの時間があり、3食分用意する必要があります。こちらの学校の登校時間は日本の時より1時間遅く、帰ってくるのは早いので、学校にいる間の半分くらいは食べている時間なのでは、と疑いたくなりますが、1回の食事の時間は日本の給食に比べて圧倒的に短いらしいので、そこまでではないようです。そのため持っていくものはおにぎりと簡単なおかず、といった昼食におやつとして果物やお菓子を追加するといった適当弁当です。とはいっても日本の完全給食に甘やかされてきたので毎朝ひいこら言いながら用意しています。おかずが何品も入って、しかも日替わりで違う種類が詰められていたお弁当を当然のように毎日用意してくれていた親につくづく感謝、というかどういう修行をすればそうなれるのか。子供が日本で必要となってもとても用意できる気がしません。
次女はクイーンズランド大学の敷地内の保育園に通っています。日本の公立の保育園はどこも値段は共通でしかも大変安価に通わせていただいていましたが、こちらの保育園はそれぞれの園によって値段が違い、かつ短期間の滞在の外国人ということで全く補助がない我が家の場合、保育料はどんなに安くても1日1万円以上となかなかのものです。とても毎日預けるわけには行かないものの、次女は1人で遊んでくれるタイプではなく保育園に行っていただかないことには大人が仕事をする時間がとれないですし、こちらの暮らしにも慣れてもらいたい。葛藤の末現在は週3日通ってもらっています。大学内の保育園ということで先生が話せる言語の幅が広く、日本人の先生も何人かいらっしゃる恵まれた環境ですが、日本の保育園でもなかなか慣れず苦労した彼女にとっては大した助けにはならないようで、数ヶ月たった現在でもほぼ毎朝泣いてしがみついているのを先生に引き剥がされています。とはいうものの、少しずつ順応してきてはいるようです。登園するとすぐに最初のおやつの時間があるのですが、そこでは彼女の大好きな様々な果物が提供されることがよくあります。逆に全く食べたくない蒸し野菜がおやつの日もあり、好きなものはたくさん食べたい、いらないものは自分のお皿に乗せられたくない、という思いから、果物、野菜の名前はバッチリ覚えておかわりも要求しているようです。
自分で望んだわけでもなく、英語が全くわからないまま小学校、保育園に放り込まれて頑張っている娘達。行っていない日や週末はストレスなく暮らしてもらいたいとは(実際はともかく)気持ちの上では思っています。そのため基本的に子供がいる時間は子供優先に対応し、残りの可処分時間を、まず現地の人との会話機会、次に日本から持ってきた仕事、最後が鳥見、という優先順位で振り分けています。これだと真面目に仕事をしているとなかなか鳥見にいけないので、仕事はほっておいて鳥見に行くのですね。というのは冗談としても(本当か?)、工夫しないとなかなか鳥見のチャンスがありません。
さて、小さい子供がいて両親とも鳥見が趣味の方達、どうやって鳥見していますか?各家庭でさまざまな葛藤や綱引きをしながら工夫されていらっしゃることと思います。是非その話題で盛り上がりたいところですが、キリがないので、現状我が家がオーストラリアでどうしているか結論だけいうと、基本的には全員で行けるところに子供と一緒に行くという方法で落ち着いています。それだと長距離を歩く場所や、早朝や夕暮れといった鳥見のゴールデンタイムでの実施は難しいですが、1年しかない滞在期間、少しでも見る機会を増やすには選り好みをしている場合ではないですからね。子供達にはお出かけして楽しく遊んだと思っていただきつつ、大人は鳥見ができる場所をいつもgoogle mapと相談しています。
ということで、以降は「超ニッチ!特に鳥に興味のない子供といくブリスベン近郊鳥見スポット3選」をお送りします。マニアックなようですが、子供2人をつれてのハンデ戦は、基本的に真っ昼間、時間を短く、大して歩かず、トイレがある、といった条件となるので、旅行にきて少しだけでも鳥見をしたい、といった人にも最適な場所選びになるのではないでしょうか。我が家があるToowongの街からどの場所も車で20分前後の距離にあり、公共交通機関を使ってもアクセス可能な近場の鳥見スポットです。
Sandy Camp Road Wetland Reserve
私はまずここから紹介しないといけないでしょう。ウが見たいというと必ずおすすめされる場所です。海辺の工業地帯の中にある小さな保護区ですが、いくつかの池と、その周りの草地やユーカリ林に囲まれた多様性の高い環境のおかげで少し歩くだけでたくさんの種類の鳥が見られます。池とその周囲の木ではブリスベン近郊でみられるウとヘビウの5種全てが見られるだけでなく、サギ類、トキ類、バン類、カモ類やトサカレンカクなど多くの水鳥をみることができます。池にはベンチが置いてあり、運が良いとモリショウビン、ヒジリショウビンがすぐ近くにとまります。子供にそこで昼食やおやつを食べさせている間に親も鳥見の時間が稼げる素晴らしい場所です。体サイズの大きい水鳥は子供でも見つけやすく、鳥にあまり興味がない彼らもそれなりに楽しんでくれるようです。周囲の林では森林性の小鳥も数多くみられるので、普通種でよいからとにかく短時間でたくさんの種類を見たい場合にはとてもおすすめの場所です。
Oxley Creek Common
小川沿いに広がる放牧地と林、湿地からなる場所で、行くとなんとなく日光戦場ヶ原を思い出します。広大な放牧地のほとんどは立ち入りできないのですが、草地を横に見ながら林の中のトレイルを進むと様々なミツスイやハト、カッコウの仲間を見ることができます。林を抜けた先には放牧地と池が広がり、数多くの水鳥に加えてこちらのアイドル的立ち位置のオーストラリアムシクイの仲間が多い時で3種類見ることができます。オスが鮮やかな青や赤の装いで動きもかわいい小鳥達は(カワウびいきの私としては悔しいですが)人気があるのも納得です。草地、林、川、池と様々な環境が揃っているため多様性が高く、我々にウチワヒメカッコウの場所を教えてくれたおじいさんはこれで今日は70種目だと特別多いと思っている風でもなくおっしゃっていたので、しっかり早朝から見ればさぞかし充実した鳥見ができる良い場所だと思います。ただ、子供と行くには少々歩く距離が長く、知らずに行った初回は折り返し地点で疲れ果てた30kgと15kgをそれぞれずっと肩車して帰ることとなりなかなかハードな鳥見となりました。それでも何度も再訪しているくらい魅力的な場所です。
Mt. Coot-tha Reserve
標高300m弱の山とその周辺の保護区では、多くの森林性の鳥を見ることができます。バスでも行ける山頂はブリスベン全体が見渡せる眺望の良い場所で、売店やカフェもある観光地です。近くにねぐらがあるのかキバタンの群れが大声で鳴きながら上空を飛ぶのをみたり、ワライカワセミの笑い声を聞いたりしながらトレイルを下っていくと、ヒタキやミツスイの仲間の混群とところどころで会うことができます。山の小鳥は子供達にはなかなか難易度が高いのですが、ワライカワセミは声も存在感も大きくコミカルで、人をあまり恐れないのか近くに来ることもよくあるので喜んで見ています。この周辺はコアラの生息域でもあり、地元の人によるとトレイルが通っているようなところはほぼみられないとのことではあるのですが、もしかしたらいるかもね?という話をしながらの山下りはそれなりに子供も頑張ってくれるのがありがたいところです。降りた先にはおあつらえむきに遊具のある公園もあり、子供達に満足いただきながらも山で鳥見ができる良い場所です。
まだまだ子連れ鳥見の良い場所を開拓していきたいと思っているので、他にも耳寄り情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら是非教えていただけるとありがたいです。