遅い思考「システム2」を意識せよ!意思決定にひそむバイアス-男女共同参画シンポジウム参加報告-

大阪市立自然史博物館 堀江明香(企画委員)

2002年、プリンストン大学の名誉教授ダニエル・カーネマンは心理学者でありながらノーベル経済学賞を受賞した。ダニエル・カーネマンの専門は意思決定論および行動経済学である。彼は、我々が日常的に下している意思決定のしくみを、直感的・感情的な「速い思考(システム1)」と、意識的・論理的な「遅い思考(システム2)」という比喩を使って説明した。大変面白いので、2012年に邦訳された彼の一般向け著書「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(早川書房)」の一読をお勧めするが、かいつまんで言うと、我々は通常、直感的な「システム1」を自動運転させて意思決定を行っており、違和感や熟慮を要する事態になると「システム2」が論理的思考を開始するらしい。本書に載っている、以下の問題を考えてみてほしい。

・バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
・バットはボールより1ドル高いです。
・ではボールはいくらでしょう。
即座に10セントという答えがひらめくのは「システム1」のおかげだが、もちろんその答えは間違っている。本書に記載された「システム1」の重要な特長は以下のようなものだ。
*認知が容易なときにそれを真実だと錯覚し、心地よく感じ、警戒を解く
*信じたことを裏付けようとするバイアスがある
*感情的な印象ですべてを評価しようとする
*手元の情報だけを重視し、手元にない情報を無視する
*難しい質問を簡単な質問に置き換えることがある

最後の項目は例えば、難しい質問「応募者に賞を与えるべきか」という問いの代わりに、簡単な質問「応募者に好感が持てるか」という問いに答えることで難しい質問の答えとしてしまう、といった置き換えである。

「システム2」は、この便利だけれど少し困った「システム1」の行動や決定を監視して制御することができる。ただし、その思考にはより多くの労力を要するため、基本的に「システム2」は怠け者らしく、往々にして「システム1」の決定を安易に承認してしまう。少し「システム2」を働かせれば、バットとボール問題の答えが5セントであることはすぐ分かるのだが、我々は往々にして頭に浮かんだ10セントという答えで満足してしまう。特に、認知的に忙しい状況(考えねばならないことが多いような場合)、空腹時、疲れているときには「システム2」を十分に働かせることが難しい。その結果、思い込みや安易な結論への飛びつき等、無意識のバイアスが我々の意思決定に混入する。

ダニエル・カーネマンの本は、主に企業の経営陣に向けたものだが、大企業のCEOでなくとも、すべての組織は日々、多くの意思決定に追われている。特に、優良な人材確保はどの組織でも最重要課題であり、研究の分野でも、大学や研究機関での採用人事、大きな共同研究の公募、学会では評議員や会長の選定や各種の賞の受賞者決定など、枚挙に暇がない。2018年に私が参加した第16回男女共同参画学協会連絡会シンポジウムのタイトルは「今なお男女共同参画をはばむもの」、テーマセッションでは意思決定にひそむ「Unconscious bias(無意識のバイアス)」について講演が行われた。

男女共同参画に絡む「無意識のバイアス」については、男女共同参画学協会連絡会のHPで公開されている「無意識のバイアス-Unconscious Bias-を知っていますか?」というリーフレットに詳しい例が出ているし、すでに企画委員(当時)の藤原宏子さんが、このリーフレットの紹介記事を鳥学通信に書いておられるので、詳しい内容は割愛するが、私の印象に残った事例は、「シンポジウムのオーガナイザーが男性だけだった場合、招待講演者は男性に偏る」という事実であった。これは日本の学会での例である。慣れ親しんだものや、自分に似たものに好感を抱くのは人として当然である。しかし、それが雇用や受賞の機会、研究の評価等に偏りを生じさせてしまっては、組織の健全な成長にブレーキをかけることになる。少数派が全体の選択に影響を与えられる人数構成の目安は3割なのだそうだ。評議委員会、教授会、賞や新任採用の選考委員会のみなさま、構成員の女性比率は3割に届いていますか?

テーマセッションを通して伝えられたメッセージの中で最も重要だと感じたのは、「バイアスは誰もが持っているもので、無意識であるがゆえに取り除くことが困難であり、組織がそのバイアスを排除できるようなルールを作ることが重要である」ということであった。これはいわば、思い込みを取り除き、「システム2」を呼び起こすためのルール作りである。組織のトップに女性を含む企業のほうが、男性ばかりの企業よりもリーマンショックからの立ち直りが早かったという事実もあり、大きな企業ではダイバーシティ戦略を組み込んだ経営ルール作りが当たり前になってきている。一方、大学や学会ではそのような対策が遅れがちであり、取り組みの濃淡は各大学・学会によって大きく異なる。

2018年の男女共同参画シンポジウムでは、学協会連絡会のロゴマークの発表も行われた。地球の上に立つ男女が手を取り合い、同じ組織で共に交じり合いながら科学の屋根を支えている、という意味を持つマークで、素敵なものだった。大規模アンケートで「自身で研究室を主宰したい」と答える女性研究者は増えてきており、男女問わず、研究者の意識は確実によい方向へ変わってきている。学会にせよ大学・研究機関にせよ、この流れを受け止めるためのルール作りが進むことを切に願っている。最後に、バイアスを排除するためのルール作りに役立つ情報をふたつ紹介する。後者に関してはいずれ書籍紹介の記事を書きたいと思っている。

  • 北東北ダイバーシティ研究環境実現推進委員が作成した、研究者採用ガイド「ダイバーシティの観点からの研究者採用を実施するために」
  • Iris Bohnet 2016. WHAT WORKS: Gender Equality by Design. The Belknap Press of Harvard University Press. (イリス・ボネット(著), 池村千秋(訳). 2018. WORK DESIGN: 行動経済学でジェンダー格差を克服する. NTT出版).
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日本鳥学会2019年度大会自由集会報告:大規模太陽光発電施設の鳥類への影響を考える

佐藤 重穂(森林総合研究所)*
北村 亘(東京都市大学)
金井 裕(日本野鳥の会)
浦 達也(日本野鳥の会)
北沢 宗大(北海道大学)
*E-mail: shigeho@affrc.go.jp

*本報告は同タイトルのフォーラムの記事(日本鳥学会(69(1):130-132)に画像とリンク先を追加したものである。

はじめに
 近年,大規模な太陽光発電施設の建設が国内各地でみられているが,それに伴い,環境保全上の問題も生じている.持続可能な社会の構築に向けて,再生可能エネルギーの利用の促進は必須だが,環境破壊や生態系への負の影響はできる限り回避する必要がある.しかし,太陽光発電施設が鳥類をはじめとする生態系にどのような影響を及ぼすのか,十分に解明されていない.
 そこで,鳥類保護委員の佐藤,北村,金井が中心となって,大規模太陽光発電施設が鳥類に与える影響をテーマに自由集会を企画した.本集会では,これまでの知見を総括するとともに,環境アセスメント制度の中での扱いについて情報を共有して,論点を整理し,さらに研究者にどのような研究が求められるかの意見交換を図ることを目的とした.

話題1: 集会の趣旨説明と鳥類保護委員の活動

佐藤重穂

 2019年7月に環境影響評価法施行令が一部改正され,太陽光発電施設も環境アセスメント制度の対象となることが決定した.しかし,一定規模以上の施設が対象となるため,それに該当しない施設は対象とならない.2019年6月に日本鳥学会鳥類保護委員会は環境省に対して,太陽光発電施設に関する意見書(鳥類保護委員会2019)を提出した.要望内容は,次の3点である.

1)太陽光発電施設のもたらす自然環境への影響の調査・研究の実施
 大規模太陽光発電施設の設置が,鳥類をはじめとする生物の生息および自然環境に対してどの程度の影響を及ぼすか,予測・評価をできるようにするために,調査・研究を推進すること.

2)鳥類への影響の回避措置の実施
 大規模太陽光発電施設の設置を行う場合,予防原則に基づき,鳥類への影響を回避もしくはできるだけ低減させるための措置を講じるようにすること.

3)環境影響評価法等の法制度の整備
 50ha以上の開発面積を伴う太陽光発電施設計画については,環境影響評価法の規制の対象とすること.50ha未満の計画についても,事前届出制度や公表の義務付けなど,必要な制度を早急に整備し,トラブルに繋がりそうな計画を早期に把握するとともに,行政指導を行うこと.

 以上のように,環境影響評価制度の対象となる発電施設の規模要件を厳しく設定することを求めるとともに,鳥類や生態系への影響調査,および予防原則に基づく影響の回避措置を求めている.
 なお,国の環境影響評価法施行令改正では,出力が4万kW以上である太陽電池発電所の設置の工事の事業を第一種事業とし,出力が3万kW以上4万kW未満である太陽電池発電所の設置の工事の事業を第二種事業とすることとなっているが,出力4万kWは100haに,3万kWは75haに相当する.大規模太陽光発電施設については,2020年から環境影響評価を義務づけることが2018年に閣議決定されたが,その際に対象となる事業の規模要件として100ha以上とされた.しかし,2019年現在,条例で太陽光発電事業を環境影響評価の対象としている自治体では50ha以上とするものがもっとも多かった.環境影響評価法の対象は埋め立て,干拓について50ha以上を第一種事業の対象としていることから,委員会の要望書では,太陽光発電事業についても50ha以上を規模要件とすることを提言した.

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自由集会での発表の様子.

話題2: 大規模太陽光発電施設が野鳥をはじめとする自然環境に与える影響

浦 達也

 気候変動の原因である温室効果ガスの排出量を大幅に削減することが喫緊の課題である.温室効果ガスの削減策の一つである再生可能エネルギーのうち,国内では太陽光発電の導入が進み,多くの大規模太陽光発電施設の運転が開始されている.近年,太陽光パネルの設置のために森林や草原が伐開されたり,太陽光パネルを池や沼の水面を覆うように設置するなど,野鳥の生息場所への影響が懸念される事例が多数みられ,各地で自然保護上の問題が発生している(環境省(2019)太陽光発電施設等に係る環境影響評価の基本的考え方に関する検討会報告書参照).そこで,大規模太陽光発電が,どのように自然環境に影響を与えるのかについて課題を整理した(浦(オンライン)大規模太陽光発電施設が野鳥をはじめとする自然環境に与える影響~問題点・課題・対策~参照).
 太陽光パネル設置が野鳥へ与える影響として,直接的な生息地の喪失,生息地の改変や分断,利用場所からの閉め出しの主に3つが挙げられる.設置場所が野鳥にとって魅力的ではない場所(例:都市環境,集約的な耕作地,整備された工業用地など)では,影響が小さいが,保護区やその近くなどに太陽光パネルが設置される場合は,野生生物にとって貴重な生息場所である可能性が高く,野鳥へ悪影響を与える可能性も高まる.放棄耕作地や生産力の低い農地,長期間放置された工業用地などでは,太陽光パネルの設置用地とされることが多い.しかしこれらの場所では,すでに希少な動植物種が生息するなどの理由で自然保護上の重要な場所になっていることがあり,太陽光パネルの設置によって希少な動植物へ悪影響を及ぼす可能性が高い.
 また,水鳥が光を反射する太陽光パネルを水域と間違い,衝突する可能性もある.カゲロウ,カワゲラのように水中に卵を産む昆虫は,光を反射する太陽光パネルを水域と間違えて太陽光パネルの表面に卵を産むことが確認されている.設置場所やその周辺が,そういった昆虫を重要な食物資源としている野鳥の生息地である場合,野鳥の繁殖成功度と食物入手の機会を減らす可能性がある.さらに,太陽光発電所を囲んでいる防護柵やフェンスは,野鳥の衝突の危険性を高める可能性がある.
 なお,太陽光パネル設置による環境や生態系へ及ぼす影響として,次のようのものがある.太陽光を地表が反射する割合が変化し,大気の温度に影響を与える.地表面温度と大気境界層の状況が変化する.土地利用や土地被覆の変化が生じる.外来植物の侵入や生物相の変化を促す.
 以上のように,さまざまな影響が生じることが考えられるので,それを避けるために,設置前に詳細な環境影響評価を行うことが必要である.

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採餌場所が減るチュウヒ(写真:日本野鳥の会岡山県支部).

話題3: 太陽光発電事業に係る環境影響評価について

森田紗世也(環境省環境影響評価課)

 令和元(2019)年の環境影響評価法の施行令改正により,令和2(2020)年4月から,100ha以上の太陽光発電施設が環境影響評価法による評価対象となる(環境省(オンライン)環境アセスメント制度:令和元年政令改正関係(太陽電池発電所の追加)参照).太陽光発電については,すでに日本国内の累計で43GWの発電施設が導入されている.日照条件が良ければ,どこでも設置できるという利点もあるが,建物の屋上などだけでなく,森林伐採のような開発行為を伴う事例も多い.また,地域住民に対する説明が不十分な事例もある.
 100ha以上(4万kW)が第1種事業,75ha以上(3万kW)が第2種事業となり,それよりも小規模な事業は自治体による条例での評価対象となることがあり得る.さらに規模が小さいものは,環境への影響に関するガイドラインを環境省が設定して,それに沿うように促すことを考えている.その場合は,自主的な簡易評価をしてもらうことになる.事業規模の要件については,他の種類の事業案件と同等にする必要性がある.
 太陽光発電事業はさまざまな場所に設置されることが想定されるので,地域特性を考慮すべきと考える.第1種事業は必ず環境影響評価をするが,第2種事業でのスクリーニングにあたっては,森林伐採,土地の安定性(土砂流出),水の濁りなどが懸念される場合に評価の対象とすることを想定している.

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林地に設置された太陽光パネル(写真:佐藤重穂).

話題4: 太陽光発電施設は鳥類の生息地として機能しているか? 北海道勇払平野での検証

北沢宗大

 生物多様性に対する脅威として,土地利用の変化と気候変動はどちらも重要な要因である.しかし,気候変動への対策である再生可能エネルギーの導入には,多くの土地が必要なものもある.大規模太陽光発電はその一つであり,野生生物の生息地の保全との間にトレードオフの関係が生じる.
 太陽光発電施設における鳥類の生息地としての価値は,これまで知られていなかったので,こうした施設を建設した場合,どの程度,価値が低下するかを正確に評価できなかった.そこで,鳥類の生息地としての価値を他の土地利用方法と比較するための研究を行った.
 調査地は北海道南部の勇払平野であり,22haないし62haの太陽光発電施設が3カ所建設されている.太陽光発電施設,湿原,耕作放棄地,牧草地,畑の5種類の土地利用について,鳥類の繁殖期の生息状況を調査した.その結果,種数,個体数は湿原や耕作放棄地に比べて太陽光発電では少なく,牧草地や畑と同程度であった.例えば草原性の種であるノビタキでは,繁殖成績と餌資源になる昆虫のバイオマスは,太陽光発電と他の土地利用との間で差はなかった.ただし,太陽光発電施設の中でも除草の場所を限定した施設では,生息する鳥類の個体数が多かったので,こうした配慮によって生息地の価値を多少高めることは可能かもしれない.
 この研究では北海道の一地域だけのもので,全国的な評価をするためには,広域かつ多地点の調査が必要である.また,今回の調査では草原性の鳥類を対象として扱ったため,森林性の鳥類への影響は不明である.今後のさらなる研究が求められる.

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太陽光パネルにとまるノビタキ(写真:北沢宗大).

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場所を限定した除草(写真:北沢宗大).

 以上の4名の演者による話題提供の後,企画者の一人である北村が,再生可能エネルギーの導入目標が政府によって示されている中で,今後も太陽光発電施設の増加が見込まれること,しかしながら,千葉県の山倉ダムでは水面に太陽光パネルが設置されたために水鳥の飛来数が減少した事例や,太陽光パネルを設置するために林地が伐採されたことで土砂崩れなどの問題が生じている事例などがあることを紹介した.その上で,研究者としては,効率的な調査手法や評価手法の確立,鳥類の生息地の視点から保全の優先順位の高い場所の提示,発電施設の望ましい管理方法などに取り組めるのではないかと提案した.
 これを受けて,会場の参加者との意見交換を行った.時間が不足して,討議が不十分だった感があるが,100名余りの参加者の方々が熱心に聞いてくれたことは,持続可能な開発と環境保全の両立という困難な課題に興味を持つ人が多いことの表れとも言える.研究活動が持続可能な社会の構築に役立つよう努力したい.

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自由集会の会場の様子.

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日本鳥学会2019年度大会自由集会報告:幕田晶子さんのイラスト作品の水鳥と湿地保全への貢献

呉地正行*・須川 恒 (日本雁を保護する会)
*E-mail: gan.g.kurechi@gmail.com
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*本報告は同タイトルのフォーラムの記事(日本鳥学会(69(1):128-130)に画像とリンク先、集会後の参加者からのコメントを追加したものである。

はじめに
 JOGA(注)の自由集会は,ガンカモ類の研究者と,その重要生息地ネットワークに関わる人々との仲立ちをする目的で始められ,1999年以降,鳥学会大会時に毎回開催されてきた.集会のテーマは,毎回ガンカモ類の生息地のネットワークを活性化し,現場での活動を支援するという視点で設定されてきた.しかし重要ではありながら,これまで項目から抜けていた課題がある.それは,水鳥とその生息環境である湿地の価値と保全活動・研究活動の重要性を普及啓発する活動である.その活動には,鳥学的な成果を文章や数値を用いずに可視化し、多くの人々が体感できるメッセージとして伝えるイラスト等の道具が不可欠となる。JOGAの関係者も多くのデザイナーやイラストレーターと連携して作成した道具を用いて,普及啓発を行ってきた.その中でも東北の地にあって,ガン類の最大級の越冬地である宮城県大崎市蕪栗沼のほとりに仙台市から移住し,「心地よい風景」の中で20年以上にわたり,心に響く多くの作品を手掛けてきたデザイナーの幕田晶子(1959—2018)さんの役割は大きかった.幕田さんは,残念なことに2018年12月に若くして亡くなられた.この功績を偲び,地域に広く周知する「幕田晶子回顧展」が2019年7月9—27日に,地元の田尻さくら高校さくらギャラリーで開催された.本集会は「水鳥と湿地保全への貢献」という切り口で,幕田さんの功績を関係者で共有することを目的に開催し,約20名が参加した.
 本集会では,冒頭に須川が趣旨説明を行い,次いで呉地が幕田さんの作品誕生の背景とその経過,及びその効果について,代表的な作品をスライドで紹介しながら以下のような講演を行った.
 なお,幕田さんの人となりの紹介および主要な10作品についてはJOGA23のサイトにファイルをリンクしてあるのでぜひごらんいただきたい.

幕田さんの作品について
 幕田さんの作品は,微生物から宇宙まで多種多彩で膨大な数に及び,その思いの中核には,まず雁がいて,さらに雁が住む風景が残されている蕪栗沼がある.幕田作品の特徴は,雁のいる風景の中に住み,湿地とその生き物の鼓動を肌で感じながら,それをデザインして可視化していることだ.この現場へのこだわりが,普遍性があるメッセージとなっている.それを象徴しているのが,幕田さんが活動を開始する際にまとめた「theかぶくりサークル」の図である.そこには蕪栗沼を中心に,世界や宇宙にまで広がる円環と調和の幕田さんの世界観が示され,それがその後の全ての作品の底流となっていた.
 幕田さんは立ち上げから関わってきた地元環境保護団体(NPO法人蕪栗ぬまっこくらぶ)のためだけでなく,ゴールを共有する関係諸団体や機関のニーズに基づき,生き物の息吹と現場感覚を感じられる作品を発信してきた.その連携先は,地元の農家,NGO,企業,市町村,県,国,大学など多岐に及び(一覧図),それらの作品は今も地域の自然資源を可視化する道具として様々な場所や場面に登場している.その一方でそれが幕田作品であることを知る人は多くはなく,優れたデザイナーの重要性について更なる周知が必要である.このことも本集会を企画した理由の一つである.

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 これらの作品の中には,地元NGOが編集し,環境省東北地方環境事務所から発行された「ふゆみずたんぼ」のパンフレット(図ふゆみずたんぼ)のように,未だに需要が多く,初版発行以来4回版を重ねているものもある.「ふゆみずたんぼ」という言葉は,冬期の水田に水を張り,新たな水鳥の生息地を創出するとともに,生き物の力を活かした持続可能な水田農業を可能にする農法で,宮城の蕪栗沼から全国へ発信し,現在は全国に普及した取り組みだが,その啓発普及の道具としてこのパンフレットは大きな力を発揮した.またふゆみずたんぼ農法に対応した3年間使える「生きもの3年カレンダー」を地元NGOと東北地方環境事務所と協働して作成したが,これもふゆみずたんぼの取り組みを後押しする大きな力となった.

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 またラムサール条約湿地関連では,地元NGOと大崎市が協働し,「化女沼,蕪栗沼・周辺水田」のパンフレットを発行したが,これらはすべて幕田作品である.
 また1983年以来その個体数回復事業を行っているシジュウカラガンに関しても多数の作品を残している.仙台市八木山動物公園,日本雁を保護する会が編集発行したパンフレット「COME BACK GEESE-仙台の空に再び」は同事業の普及啓発に大きく貢献した.
 また近縁種で特定外来種のオオカナダガンと,国内希少種のシジュウカラガンとの混乱を整理するために,環境省生物多様性センターと日本雁を保護する会が協働して作成した「似ているけど,違うのです」は,全国ガンカモ生息地調査関係者に配布され,その後,両種はきちんと分離して記載されるようになった.またこれと関連した「ふやそう四十雀雁,へらそう加奈陀雁」(図タペストリー)は稀少亜種であるシジュウカラガンと特定外来種のカナダガンを表裏1枚のチラシとすることで,その違いを明確に伝えるとても有効な道具となった.

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集会を開催してわかってきたこと
 呉地の講演後に参加者全員との質疑と意見交換を行い,また集会の参加票に多くのコメントを書いていただいた.参加者からは,これまで幕田さんの諸作品に接していたが,それらが幕田さん一人の作品であったことに驚いたというコメントが多くあった.
 幕田さんはどのように依頼者とやりとして作品をつくっていたのかとの質問が会場であった.幕田さんが依頼者の希望を直感的に理解してその場でラフスケッチを描いたやりとりが始まること,依頼内容が漠然としている場合は,納得できるまでやりとりが続くことや,慣れていない素材が対象の場合は,現場を見て自分なりのイメージを得てから作業を進めたことなどが紹介された.
 デザイナーが芸術家と異なるのは,自らの思いではなく,依頼者の思いを作品として可視化することだ.幕田さんが一人で多様な作品を多数生み出すことができたのは,様々な依頼者の思いを依頼者以上に深く理解し,それを多くの人の心に届く作品に仕上げる能力に長けていたからであろう.
 本集会では,ねらいであった湿地保全や水鳥保護の諸活動において,能力のある意識の高いデザイナーとの連携・協力がどれだけ大切なのかを再確認できたと思う.

おわりに
 幕田さんが亡くなって1年たつが,今でも幕田さんの作品と出会わない日は殆どない.そのたびにその作品作成のために議論をしていた当時の光景が思い浮かぶ.幕田さんの命は天に召されていったが,多様な幕田作品が発するメッセージは,今も多くの人々の心の中に生き続けている.集会後に参加者の一人が「デザイナーっていいなあ」とポツリと言った.この言葉を天上の幕田さんに送り,この報告を終えたい.

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=JOGAとは,Japan Ornithologist Group for Anatidae Site Network in the East Asian Flywayの略称.1999年に設立され,当時の日本語名称は,その支援対象のフライウェイの枠組みが,「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」と呼ばれていたため,「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク支援・鳥類学研究者グループ」と呼ばれた.その後,2006年にその枠組みが変更され,「東アジア・オーストラリア地域フライウェイパートナーシップ」となったため,現在,JOGAの日本語名称を「東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ」と変更した.詳細はここを参照されたい。
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●集会参加者コメント一覧
・素晴らしい作品群を見せていただきありがとうございました。
・あらためてデザインの大切さがわかりました。ありがとうございます。
・作品の説明を見て思うのですが、幕田さんの作品ということは知りませんでした。とても、よくわかりやすいデザインで、一般の方にもわかりやすい目に見える化することは、とてもりっぱなことと改めて思いました。
・様々なグッズが普及に役立ったことがわかった
・デザインは、もちろん配色レイアウトは、どれをみてもデザイナーさんの仕事だということはわかります。そんな方がガンも描いていることはたいへん貴重な存在だったのがわかります。こういう方がまたあらわれてくれることを願っています。
・とても幸せな例だと思いました。人に伝えることは、デザイン・イラストの使命ですが、幕田さんと呉地さんの出会いは必然だったのですね!!と思いました。
・幕田さんの表現力に改めて感動しました。また、皆様のこれまでの活動を呉地さんの解説で振り返っていただき、大変勉強になりました。今後の活動の参考にさせていただこうと思います。
・幕田さんの作品は、シンプルで人に伝わりやすい絵を描かれていましたね。現場で実物をみているからこそ、多くのポーズを生き生きとえがけたかなと思いました。
・よくみたことのあるパンフレットやチラシをすべて同じ方が作っていたのを初めて知りました。
・専門の人も専門外の人もわかりやすいと思える良いデザインが普及啓発によく役立つのだろうと思いました。地図などの多くの人が見るものに環境や生物系のイラストが説明を入れることで、多くの人に関心をもってもらうことができたと思いました。環境や生物への理解や愛があったからこそクオリティーの高い良いデザインが出来上がったのだと強く思いました。
・幕田さんの多様な作品 もっとこれからも見たかったです。
・イラストデザインで、一人でも多い方に手に取っていただける、興味を持ってもらえることが各湿地には重要で、でも難しいことなので、幕田さんの活動は、とてもうらやましく感じました。

以上
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科学・技術分野の次世代育成と環境づくりにおいて男女差をなくすために ―第17回男女共同参画学協会連絡会シンポジウムの内容を読んで―

上沖正欣(日本鳥学会企画委員)

 日本鳥学会は、自然科学系分野の男女共同参画を進めるために2002年に設立された男女共同参画学協会連絡会にオブザーバーとして参加しており、毎年開かれるシンポジウムに出席している。私は今年のシンポジウムに企画委員として出席予定だったが、2019年10月12日にお茶の水女子大学で開催予定だった「第17回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム-科学・技術分野の次世代育成と環境づくり」は台風の接近に伴い中止となり、参加予定者への講演要旨集の送付と発表ポスター等の公開のみとなった。そのため、公開された資料についての所感を述べることで今年度の報告に代えたい。
 男女共同参画の実現が21世紀日本社会の最重要課題と位置づけられ、1999年6月に「男女共同参画社会基本法」が公布施行されてから20年以上経過しているが、日本における研究分野における女性研究者比率は15%程度と、30%を超える諸外国と比較して最低水準となっている。特にSTEM分野(Science, Technology, Engineering, Mathematics)と称される科学・技術・工学・数学分野において、学力や業績に男女差はないにもかかわらず女性研究者の比率が低いことが指摘されており、政府や大学、学会は採用方法の見直しや女性向け支援制度の創設、ワークショップ開催など様々な取り組みを進めている。女性比率の向上は、単純に性比が平等になるというだけではなく、女性をはじめとする多様な人材の活躍を推進し、社会構成や意思決定のダイバーシティが創出されるというメリットにもつながる。実際、企業においては、男性ばかりの均質な人材の組織よりも、女性がいる組織のほうがリスク管理能力や業績が向上し、イノベーションが起こりやすいという調査結果がある。
 発表資料を読んでいる中で、九州大学の女性枠採用のデータに目が留まった。年齢層の高い役職である教授は既婚率が高い(86%)反面、子供がいる割合が少ない(14%)が、准教授や助教クラスでは既婚率が50~70%程で子供がいる割合は50%前後ということだった。若い世代の職場環境やワークライフバランスが改善傾向にあることが指摘されていたが、恐らく社会的抑圧の緩和や女性自身の意識変化も関係しているだろう。その他、いずれの大学・学会の発表結果においても女性比率は年々増加する傾向が見て取れた。こうした流れは素直に喜ばしいし、今後も続いて欲しいと思う。しかし、全体の増加率は年1%前後とごく僅かであり、連絡会が掲げる2020年に女性研究者の比率を30%とする目標には遠く及ばず、更に10年以上かかってしまう計算になる。
 最大のボトルネックとなっていると思われるのが、大学院への女性の進学率の低さだ。科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2019」によると、学部生の男女比はほぼ半々なのだが、そのうち修士課程に進学する男性が15%なのに対し、女性は7.6%と約半数になっている(その後の博士課程への進学率や職業選択に顕著な男女差はない)。つまり、研究職の女性比率を増やしたいのであれば、学部生のうちから対策を考える必要があるということだ。ただ、男女平等社会が実現されるほど、女性は科学や数学の道を選ばなくなるという「男女平等パラドックス」という問題もあり、科学分野で性比の偏りを解消することはそれほど簡単ではない。
 鳥学会が過去に「科学技術系専門職の男女共同参画実態調査」へ提供した2006~2010年のデータを見ても、この傾向が見て取れる。つまり、鳥学会学生会員の男女比はほぼ半々であるのに、一般会員における女性会員の割合は1/4程度と明らかに少ないのだ。対象年内で継続して会員になっている割合も、男性会員はほぼ100%であるが、女性会員は65%と4割近くが退会してしまっている。これは2015年の同シンポジウム報告でも、川上和人氏が問題点として挙げている点である。鳥学会としても、退会する際にアンケートを取ったり、将来の人生設計や職業選択をテーマに女性同士の意見交換会などを実施したりするのもよいかもしれない。鳥学会においても、より積極的に女性に働きかけなければ、男女差を縮めることは難しいだろう。
 また、個人的に気になったのは男女の意識差である。連絡会のウェブサイトで閲覧することのできる過去の大規模アンケート結果を見てみると、男女共同参画のために今後必要なこととして、男女共に「男性の意識改革」と回答した割合が一番多くなっており、女性では「育児介護支援策等の拡充」「男性の家事育児への参加の増大」がそれに続く。いずれの項目においても男性の回答割合は約5~10%低く、特に「男性の家事育児への参加の増大」は男性49%・女性63%で、差が15%と最も大きくなっており、男女間の温度差が感じられる。仕事と子育ての両立に対する苦労や不安が女性側にだけ偏るのは明らかに不公平だが、私自身男性として、そして身近な人の話を聞いていても、職場における男性への期待や家庭における男性の「甘え」があるように感じている。女性の社会進出を促すのであれば、まずは男性の意識改革をおこなって無意識のバイアス等を排除し、職場の育児支援制度を充実させ、男性が積極的に家庭進出するという、男性側の働きかけが何よりも必要であると思う。
 近年、働き方改革や男性の育休取得、ワークライフバランスが頻繁に叫ばれるようになっているが、こうした社会潮流との相乗効果により、研究職に限らず様々な社会において男女差が今後益々改善され、「次世代育成と環境づくり」への大きな推進力となることを期待したい。そして近い将来には、男性だから女性だからと言われない、個々の能力が真っ当に評価される、真の意味で偏見の無いジェンダー平等・公平な社会が実現されればよいと、切に願う。

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68巻2号の注目論文は江田さんの「考古鳥類学」の総説に

和文誌編集委員長 植田睦之

2019年10月発行の日本鳥学会誌68巻2号の注目論文は江田さんの「考古鳥類学」の総説になりました。

江田真毅 (2019) 遺跡から出土する鳥骨の生物学,「考古鳥類学」の現状と展望. 日本鳥学会誌 68: 289-306.

黒田賞受賞の総説であるこの論文は,遺跡から出土する骨により,人がどんな鳥を利用していたかということだけでなく,過去からの鳥の分布,形態,集団構造や遺伝的多様性などがわかること,そして今後の研究の展望についてまとめたものです。鳥学の新しい分野を開き,発展を促す論文と考え,注目論文とし選定しました。

論文は以下のURLより,どなたでも読むことができます。
http://doi.org/10.3838/jjo.68.289

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日本鳥学会津戸基金シンポジウム開催報告

宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
嶋田 哲郎

 日本鳥学会津戸基金シンポジウム「 新技術をもちいた鳥類モニタリングと生態系管理 」(主催:嶋田哲郎、山田浩之、牛山克巳)が10月26日に北海道大学で開催されました。多くの方にご参加いただき、活発な議論が交わされました。報告の詳細は下記をご覧下さい。
https://miyajimanuma.wixsite.com/anatidaetoolbox/post/report-osj-tsudo-fund-symposium

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日本鳥学会ポスター賞を受賞して 

岡山理科大学 中原多聞

 この度2019年度大会でポスター賞をいただくことができ、大変嬉しく思っております。まだまだ実感がなく、だんだんと賞の重みを感じ始めているところです。

 今回発表させていただいた私の研究は、できるだけ多くの標本を観察し、分析する必要のあるものでした。また、観察や分析を行う前に解剖を行う必要があり、作業1つ1つに非常に時間がかかりました。私1人で行うとしたら何年かかるか分かりません。そんな研究をこの半年で行うことができたのは、施設で亡くなった動物を快くご提供頂いたことや、先生方から手厚いご指導を頂けたこと、友人が時間を作って作業を手伝ってくれたこと、母がずっと応援してくれていたことなど色々な要因が全て揃う恵まれた環境にいたからだと思います。研究に関わってくださった方に心から感謝申し上げます。

 これからも、多くの方々に助けられた上でこの研究が成り立っていることを忘れず、研究を深めていきたいと考えております。
 最後になりますが、鳥学会の運営の皆様、ポスター審査員の皆様にこの場を借りてお礼申し上げます。研究をする学生として大きく成長させていただけた学会でした。

ポスターの概略
ペンギン類は骨内部を緻密化している事が先行研究によって知られています。このような骨内部の緻密化は哺乳類では体系的な研究が行われており、水中生活への適応であると考えられています。

そんな中で、先行研究ではペンギン種間や成長段階で内部構造に違いは確認されませんでした。また、他の水鳥(ウミスズメ科)においては骨の緻密度と潜水能力は相関しないという結果が示されていました。

しかし、このような骨内部構造の変化が水中への適応であると考えるならば、潜水深度の異なる種や遊泳開始前後で変化が確認出来るはずだと考えると共に、そもそも多くの鳥類がどのような骨内部構造をしているかを明らかにしなければ、内部構造の変化について評価することは難しいと私は考えました。

そこで私はCTスキャナーを用いて、鳥類18目24種の内部構造の観察をするとともに、ペンギン類9種での種間比較を行いました。さらに、レントゲンを用いて日齢の明らかな個体での成長観察を行いました。

ペンギン類と他の鳥類との比較の結果、多くの鳥類の四肢骨は骨密度の低い管状骨をしている一方で、ペンギン類のみ極めて緻密な構造をしていると分かりました。また、ペンギン類は四肢骨だけでなく全身の骨を緻密化しているとわかりました。

ペンギン種間での比較の結果、骨全体を緻密化している種とそうでない種が存在することが明らかとなりました。

成長観察の結果、ペンギン類の骨内部構造は成長段階で変化し、緻密化は遊泳開始前後で完了することが確認されました。

以上の結果から、ペンギン類は種間や成長段階で内部構造を変化させていることが明らかになりました。

また、他の鳥類との比較やペンギン種間の比較の結果から、ペンギン類の骨の緻密化は水中生活への適応の結果であり、その緻密度の違いは潜水能力の違いを反映している可能性が高いと推察されました。

今後はペンギン種間での内部構造の違いを比較するための要因を増やして分析していくと共に、化石種のペンギンを観察することも視野に入れて研究を進めていきたいと思います。

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観察したキングペンギン
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第4回日本鳥学会ポスター賞受賞の感想

大阪市立大学理学研究科 西田有佑

この度、日本鳥学会2019年度大会にてポスター賞を頂くことができました。ありがとうございました。過去の受賞者の方々をみてみると、毎年おもしろい研究発表をされている若手の方がずらっと並んでいて、私の研究も少し認められたのかな?と思っています。これからも調査・研究がんばるぞ!

モンベル様からは超豪華なレインパーカーを記念品としていただきました。ありがとうございます。調査での着心地も良さそうで今年の調査が楽しみです。

ポスター内容の概略
今回の受賞ポスターのテーマは「餌資源の豊富ななわばりで冬を越せた個体は、その後の繁殖が上手くいくのか?」というものです。越冬環境がもたらす繁殖パフォーマンスへの影響のことを、専門的には「キャリーオーバー効果」と呼びます。あたりまえの現象のように思えますが、野生動物で調べた例はかなり少なく、まだまだ分かっていないことの多い生態学的現象の1つです。

私はとくに「越冬環境がもたらすオスの繁殖成功へのキャリーオーバー効果」に興味がありました。オスの繁殖成功はメスと交尾できるかでほぼ決まるのですが、上手に求愛できたオスほどメスにモテます。そして栄養状態が良く元気なオスほど上手に求愛できることが多くの鳥類で知られています。もし餌資源の豊富ななわばりで冬を越したオスほど、繁殖開始時の栄養状態が良くなり、求愛行動の質も高くなってメスにモテることを示せれば、オスの繁殖成功へのキャリーオーバー効果の存在を確かめられそうです。

そこで注目したのがモズです。エサをなわばり内の木々の枝先に突き刺す「はやにえ行動」で有名な小鳥です。はやにえはエサの少ない冬に備えた保存食で、たくさんのはやにえを食べた個体は繁殖開始時の栄養状態が良くなることが知られています (Nishida & Takagi, 2019, Anim. Behav.)。また、繁殖期になると、オスは歌をつかってメスに求愛します。栄養状態の良いオスほど魅力的な歌をもつことができて、メスにモテることが私の先行研究で分かっています(Nishida & Takagi, 2018, J. Avian Biol.)。

ということで、次のような仮説を立てて検証しました。「良い越冬なわばりをもつオスは、たくさんはやにえを貯えられて、そのはやにえを食べることで繁殖期の歌の魅力を高められて、メスにモテるようになる?」という仮説です。詳しい結果は省きますが、この仮説を強く支持する証拠が、観察と実験の両方で集めることができました。

つまり、モズのオスでは、越冬環境がはやにえの貯蔵・消費を介して、繁殖期の求愛行動の質・配偶成功にまで影響していたのです。性選択の文脈でキャリーオーバー効果が生じることを示したおそらく初めての研究です。生き物の生態をちゃんと理解するには、繁殖期だけじゃなくて越冬期にまで目を向けないといけないようです。

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カエルの仲間のはやにえ
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第4回日本鳥学会ポスター賞 西田さんと中原さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会
中原 亨

 若手の独創的な研究を推奨する目的で設立された日本鳥学会ポスター賞は、厳正なる審査の結果、今年は西田有佑さん(生態・行動分野)と中原多聞さん(保全・形態・遺伝・生理・その他分野)が受賞しました。おめでとうございます。
 ポスター賞は今回が4回目となり、今年の応募は42件(生態・行動が26件、その他が16件)と、過去最多となりました。ポスター賞は30歳になるまで何度でも応募できますので、あと一歩だった方も、2次審査に残れなかった方も、是非再挑戦してください。
 最後になりますが、ポスター賞の審査をご快諾して頂いた6名の方々、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル、大会実行委員のみなさまにこの場をお借りして御礼申し上げます。

2019年日本鳥学会ポスター賞
《生態・行動》分野

「モズの越冬期の生息地利用が、はやにえ貯蔵量や求愛歌の魅力に与える影響」
西田有佑(大阪市大)・髙木昌興(北大)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
「骨内部構造から考察するペンギン類の水棲適応」
中原多聞・林昭次・奥田ゆう・皆木大生・小平将大・知花宇晃・亀崎直樹(岡山理大)・進藤英朗・久志本鉄平・上原正太郎(下関市立しものせき水族館)・村上翔輝・恩田紀代子(ニフレル)・石川恵・伊東隆臣(海遊館)・毛塚千穂・樋口友香(須磨海浜水族園)・安藤達郎(足寄動物化石博物館)

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左から,中原さん,西田さん

次点
《生態・行動》分野

「琉球列島の島間で異なる音響環境に適応したさえずりによる生殖隔離」
植村慎吾(北大)・髙木昌興(北大)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
「飛行特性を反映させた大型水禽類4 種のセンシティビティマップ」
佐藤一海・向井喜果・鎌田泰斗・佐藤雄大・山田新太郎・関島恒夫(新潟大)

一次審査通過者
《生態・行動》分野

「繁殖上手なつがいはどのように侵入者に対処する?:なわばり防衛行動と繁殖成績の関係」
小野遥・澤田明・村上凌太・髙木昌興(北海道大)

「ハシブトガラスの画像認識能力に関する研究」
小原愛美(宇都宮大院)・青山真人(宇都宮大)・杉田昭栄(宇都宮大・東都大)

「樹洞営巣性鳥類の営巣環境をめぐる闘争行動―ニュウナイスズメとスズメの種間比較―」
佐々木未悠(弘前大)・高橋雅雄(弘前大)・蛯名純一(おおせっからんど)・東信行(弘前大)

「サンコウチョウにおける遅延羽色成熟の適応的意義」
能重光希(北大院・理)・植村慎吾(北大院・理)・大井紗綾子(元大阪市大・院理)・髙木昌興(北大・院理)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
「小さな島にも遺伝構造、亜種ダイトウコノハズクは血縁者同士が近くに分布する」
澤田明(北大)・岩崎哲也(大阪市大)・髙木昌興(北大)

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2018年度日本鳥学会新潟大会 高校生ポスター賞のご報告

長岡技術科学大学 山本 麻希

 2018年度日本鳥学会事務局 高校生ポスター担当の長岡技術科学大学の山本です。
ご報告が遅くなり、大変申し訳ございませんでした。

 2018年度日本鳥学会新潟大会におきまして、高校生ポスター発表が行われ、以下の4つの団体、個人に高校生ポスター賞が授与されました。

最優秀賞
「四日市西部丘陵で繁殖するフクロウの給餌食物」
松永雄貴・大西一生・丹下浩(三重県立四日市西高等学校 自然研究会)

表現賞
「鳥取県大山におけるジョウビタキの繁殖についてⅡ」
楠ゆずは(米子市立福米中学校)・楠なずな(米子市立福米西小学校)

科学賞
「群馬県のスズメは減っているのか」
深井こるり(群馬県前橋女子高等学校)

努力賞
「多摩川中流におけるカモ類の個体数推移と生息時期及び分布」
亀岡太郎(東京都立西高校)

 2018年度は、12のテーマでポスター発表の応募がありました。2019年度は東京大会ですので、是非、たくさんの高校生からの発表申し込みがあることを楽しみにしております。

 最後になりますが、ポスター賞の審査をご快諾して頂いた審査委員の方、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル、大会実行委員にこの場をお借りして深く御礼申し上げます。

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受賞後の記念撮影の様子

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最優秀賞を受賞した生徒たち

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ポスター発表の様子

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