日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「鳥の巣昆虫:10年の総括と今後の展望」

2016年10月6日
世話人:上田恵介・那須義次

鳥学会の自由集会で今まで我々が取り組んできた、鳥の巣と昆虫との研究について、何がどこまでわかったのか、何がわかっていないのか、今後の課題等について紹介しました。当日は午後6時30分の開始にも関わらず、28名もの方に参加いただきました。感謝申し上げます。以下に発表内容等について簡単に紹介します。

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1.鳥の巣と昆虫:これまでのまとめ 

那須義次・村濱史郎・松室裕之・上田恵介

この10年、我々が取り組んできた鳥の巣と昆虫について、昆虫は鳥の巣を繁殖、越冬および蛹化の場に利用していることを、フクロウ類、カラ類、カワウ、ブッポウソウ、コウノトリなどの巣の事例を紹介した。鳥と昆虫との関係では、昆虫は巣内の糞やペリット、食べ残し、巣材を摂食しており、巣内清掃に一定の役割を果たしていると考えられること、鱗翅類では非常に珍しい幼虫産出性(卵胎生)が見られ、その進化と鳥の巣に生息することとの関係が示唆されること、巣内温度は抱卵・育雛中に外気温よりも高く、このことが巣内共生者に有利に働いていることなどを紹介した。今後は鳥と巣、巣内共生者との相互関係の詳しい解明、幼虫産出性の進化、巣内共生者の適応行動の解明等および共同研究を進める必要性について述べた。

2.先島諸島の巣内昆虫 

村濱史郎・那須義次・上田恵介・松室裕之

石垣島・西表島など八重山諸島には樹上に球型や紡錘型のコロニーを形成するタカサゴシロアリが生息している。コロニーには長径で1メートルを超えるような巨大なものもある。同諸島に分布する亜種リュウキュウアカショウビンiはこのシロアリの巣に穴を穿って営巣する習性がある。一方、珊瑚隆起礁である宮古島にはタカサゴシロアリは生息せず、同島に分布しているリュウキュウアカショウビンは枯木に穴を穿って営巣している。

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筆者らは西表島および石垣島のタカサゴシロアリ巣に営巣するリュウキュウアカショウビンと宮古島の枯木に営巣するリュウキュウアカショウビンの繁殖済の巣の、巣内に生息する昆虫相に違いが見られるか調査を実施した。また宮古島では同じく枯木に営巣するリュウキュウコノハズクと樹上に開放巣をつくり営巣する亜種リュウキュウハシブトガラスの繁殖済巣の調査も実施した。さらに西表島と宮古島の林内に羽毛トラップとウールトラップを設置し両島および鳥類の巣、内外に生息するガ類の分布の違いについても調査を行った。

調査の結果、西表島でタカサゴシロアリの巣43巣を発見しそのうち16箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認した。石垣島では17のタカサゴシロアリの巣から2箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認できた。宮古島では枯木に穴を穿ってつくられたリュウキュウアカショウビン巣9巣、リュウキュウコノハズク巣5巣、リュウキュウマツに架巣されたリュウキュウハシブトガラス巣、1巣の調査を実施している。

これらの巣およびトラップからはガ類に限定して言えば、本州でも広く確認されている、フタモンヒロズコガ、マエモンクロヒロズコガなどのほか、Tinea subalbidella 、Ceratophaga sp.、Erechthias sp.など10種の蛾を確認し、そのうち6種は日本未記録種または新種と考えられるものであった。
今後継続して調査を進めサンプル数を増やし、宮古、八重山両諸島間、そして鳥類の巣の内外の昆虫相の相違を明らかにして行きたい。

3.ルリカケスとオオトラツグミの巣にすむ昆虫

上田恵介・石田健・水田拓

奄美大島には固有種のルリカケスと、固有亜種のオオトラツグミが生息しているが、これらの鳥の巣の昆虫相を調査した。

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オオトラツグミの自然巣は、コケ、土を主体にした清潔な巣で、ミミズ(餌のミミズの生き残り?)が生息していたものの、昆虫は少なかった。また鱗翅類幼虫はいたが、羽化しなかったので、同定できなかった。

ルリカケスの巣箱は,石田が系統的に調査をしている巣箱を調べた。ルリカケスが使用した巣箱の中には大量の枯れ枝が持ち込まれていて、比較的、乾燥した印象であった。出て来た昆虫は鱗翅目では、枯葉食・腐植食のヒロズコガ類、シマメイガ類、シマチビツマオレガ、キチン食もおこなうマダラマルハヒロズコガとキチン食性が考えられるアトボシメンコガなどであった。

鞘翅目昆虫ではリュウキュウオオハナムグリが特筆できる。この種は2005年にルリカケスの巣箱から採集され、本種と確認されたのが最初である。2014年9月の調査では3つの巣箱で50匹もの幼虫が採集され,本種がルリカケスの人工巣箱巣をよく利用していることがわかった。巣箱によって幼虫の大きさが異なり,同じ巣箱では大きさはそろっていたことから、同時期に産卵されたものと考えられた。このときは他に自然巣1個を調査したが幼虫はいなかった。

リュウキュウオオハナムグリがルリカケスの自然巣ではなく、巣箱を利用する理由は観察例数が少ないので断定は出来ないが、自然巣は湿度が高いことが原因している可能性がある。またリュウキュウオオハナムグリの生活史については、成虫は7月に巣箱に飛来し、産卵、幼虫は越冬後6-7月に羽化すると推定された。
ほかに、猛禽類やカラスの巣からはアカマダラハナムグリ、フクロウの天然巣や巣箱からはコブナシコブスジコガネとシラホシハナムグリ、リュウキュウコノハズクの自然巣からはミヤコオオハナムグリが見つかっている。

こうした調査から見えて来たものは、鳥の巣にはコガネムシ類(とくに数が少なく珍しいハナムグリ類)が多く生息していることが分かってきた。これらのハナムグリ類などは、鳥の樹洞巣を好む傾向があると考えられる。これまで鳥の樹洞巣の昆虫相については非常に情報が乏しかったので、これらコガネムシ類は希少と思われて来たのであろう。沖縄本島には樹洞性巣の環境エンジニアとして、ノグチゲラやリュウキュウアカショウビンが生息している。絶滅が危惧されているヤンバルテナガコガネもこうした樹洞を利用している可能性は高い。

4.虫のすみかとしての鳥の巣-まだわかっていないこと 

濱尾章二
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近年、いろいろな鳥の巣から多くの昆虫が見つかり記録されてきた。しかし、生態に関わる情報は不足している。鳥の巣をめぐる生物のネットワークを解明し、生態系における鳥の役割を明らかにするためには、巣から見いだされる昆虫の記録にとどまらない研究が必要だ。濱尾ら(2016,日鳥学誌 65: 37-42)は、シジュウカラの巣箱を用いた調査から、ヒナが巣立った巣で蛾類の発生が多いこと、巣立ち後巣材を採取するまでの日数が長いとケラチン食の蛾が発生しやすいことを明らかにし、昆虫が積極的に鳥の古巣に侵入し繁殖することを示唆した。今後は、鳥の巣が昆虫の繁殖場所としてどれほど重要であるのか(例えば、他の場所と鳥の巣を利用する割合)、また、鳥の巣を利用する昆虫の利益とコスト(例えば、湿度・温度の影響、捕食者・寄生者の影響)を明らかにしていくことが重要だろう。

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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「漁業による海鳥混獲の削減をめぐる国際動向と国内での取り組み」

企画者:越智大介・井上裕紀子 (水産研究・教育機構 国際水産資源研究所) ・佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)

2016年10月6日
文責:越智大介

皆さんは「混獲」という言葉をご存知でしょうか。「混獲」とは漁業で本来の漁獲対象生物以外のものが意図せず漁獲されてしまうことを意味します。一部の漁業では、海鳥が混獲されることがあり、しかもその中には絶滅が懸念される種が含まれるため、希少海鳥類の個体群保護の観点から大きなリスク因子となっています。本自由集会では鳥学会員にはあまりなじみがないと思われる「漁業による海鳥混獲」をテーマに、海鳥混獲削減対策に関する国際的な動向や混獲削減のための研究状況を紹介し、さらに現在日本国内で行われている海鳥混獲削減に向けた取り組みについて紹介し、海鳥混獲対策の今後について議論を行いました。

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【発表の概要】
1.最近の海鳥混獲をめぐる国内外の動向

越智大介(水産機構・国際水研)

越智からは、漁業による海鳥混獲問題についてこれまでの経緯と現在取られている対策について簡単な解説を行いました。海鳥混獲問題は1980年代ごろからまぐろはえ縄漁業による混獲を起因とする南半球のアホウドリ類繁殖個体群の減少という形で顕在し始め、その後も同様の問題が次々報告されるようになりました。こうした状況を受け、国連総会やFAOの場で規制や対策が打ち出され、その後現在に至るまでは地域漁業管理機関(国際条約により定められた、公海上の漁業を管理・規制する国際機関)や各漁業国において現状調査・混獲削減技術開発・混獲削減措置の順守などの海鳥混獲対策が取られるようになりました。また、希少海鳥の個体群保護については、海鳥混獲対策のみならず、繁殖地の保全・環境整備や、生態情報の調査研究も同様に重要であり、これらの分野と連携し、海鳥個体群保護を目指した包括的なアプローチをとる重要性についても説明を行いました。

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図 希少海鳥保護のための包括的アプローチのイメージ。青は漁業、緑は調査研究、赤は保全関連分野を示す

2.近年導入された混獲削減措置とその評価方法

井上裕紀子(水産機構・国際水研)

井上さんからは、国際海域で行われているまぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減措置について具体的な説明がありました。まぐろはえ縄漁業で用いられている主な混獲回避手法としてトリライン(海に投入されるはえ縄の上に吹き流し付きロープを渡して海鳥の釣り餌へのアクセスを防ぐ)、加重枝縄(釣り糸(枝縄)におもりを付け、釣り餌を海鳥の潜水深度より深い水深に早く沈める)、夜間投縄(海鳥の採餌活動が低下する夜間に操業する)の3種があげられ、この3種から2つの回避措置を選択して使用する規制が新たに導入されたことが紹介されました。また、その評価方法として、混獲率と総混獲数の推定が使用されることが説明されました。さらに、実際の漁船から得られた混獲情報を用いて、夜間投縄、加重枝縄に効果があったことが紹介されました。

3.まぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減手法の研究紹介

勝又信博(水産機構・国際水研)

勝又さんからは、まぐろはえ縄漁業で使われている海鳥混獲回避手法の研究及び実験結果の紹介をしていただきました。まず、海鳥がはえ縄に混獲される経路として、海に投入したはえ縄についた餌を表層や潜水により直接採餌して鈎に掛かる場合とその餌を横取りしようとして鈎に掛かる場合の二つのケースがあることが説明されました.これらの混獲を防ぐ方法として,上記のトリラインと加重枝縄を北半球のまぐろはえ縄漁業に適した形に改善した混獲回避装置を開発し、その効果を検証するために実際に操業を行うはえ縄漁船での実証実験の方法と、その結果が報告されました。

4.刺し網・流し網混獲の国際的な研究動向とバードライフの取り組み

佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)

佐藤さんからは、刺し網・流し網漁業で混獲される海鳥の問題について解説がありました。先に述べたとおり、北太平洋では公海流し網による海鳥混獲が90年代に全面禁止となった一方で、ロシア経済水域内では日本漁船も参加するサケ・マス流し網がその後も続いており、相当数の海鳥(ウミスズメ類・ミズナギドリ類)の混獲が報告されていましたが、昨年操業が全面禁止となったことが紹介されました。さらに沿岸で行われる固定型刺し網でも海鳥の混獲が懸念事項となっており、近年これに対して海鳥の視覚に訴える海鳥混獲回避手法が開発され、その有効性について実験が行われていることについて解説がありました。

5.北海道・天売島における刺し網混獲対策事業の紹介

山本 裕(日本野鳥の会)

山本さんからは、昨年より開始された刺し網海鳥混獲の削減手法に関する実験について紹介がありました。ウミガラスやウトウ、ウミウなどの海鳥の繁殖地となっている北海道の天売島において実施された、先に佐藤さんが紹介した海鳥の視覚を利用した混獲防止網の実証実験に関する説明がありました。実験では、混獲防止網と通常の網を同時に用いて混獲数や漁獲量などのデータ収集が行われており、混獲削減効果についてはまだ十分に情報が集積していないものの、漁獲量や漁業者の使い勝手の問題があるため、さらなる改善が必要であるという説明がありました。

6.総合討論

総合討論では、海鳥混獲の現在の状況や、国内漁業における混獲問題など様々なコメント、意見、情報提供など活発な議論が行われました。特に国内の沿岸漁業での混獲に関しては利害関係者の間で合意形成を根気強く行っていく必要があるという意見が印象的でした。

7.終わりに

本自由集会は初日の早い時間帯での開催であったにもかかわらず、多くの人に参加いただき、終了間際には廊下に人が立つほどとなりました。正直私としましては、比較的マイナーな「海鳥混獲」の話なのでそこまでの人の集まりは予測しておらず、関心のある人の多さに驚き、またうれしく思いました。今後もまたどこかで、海鳥混獲問題を議論する場ができればと思っています。私の発表パートの部分にも書きましたが、海鳥の個体群保護のためには漁業サイドで海鳥混獲対策をとるだけでは片手落ちで、調査研究に基づいた海鳥種の生活史情報をもとに、繁殖地での保護対策と同時に行うことでより有効な対策となるはずですので、今後はこういった包括的な連携をどう形成していくかということも重要になってくるのかな、と個人的には考えています。
最後に、海鳥混獲に興味を持たれた方への参考資料を紹介してレポートを終わりたいと思います。

8.参考資料

FAO (1999) International Plan of Action: Seabirds ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/006/x3170e/X3170E00.pdf
水産庁 (2007) はえ縄漁業における海鳥の偶発的捕獲を削減するための日本の国内行動計画 http://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/bunyabetsu/pdf/umidori_keikaku160315_a.pdf
Žydelis, R., Small, C., & French, G. (2013). The incidental catch of seabirds in gillnet fisheries: A global review. Biological Conservation, 162, 76-88.
Clarke, S., Sato, M., Small, C., Sullivan, B., Inoue, Y., & Ochi, D. (2014). Bycatch in longline fisheries for tuna and tuna-like species: a global review of status and mitigation measures. FAO fisheries and aquaculture technical paper, 588.

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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「ドローンを使った鳥類調査」

2016年9月25日
企画者 上野裕介(東邦大学)・時田賢一(岩手大学)
文責 上野裕介

ドローン(UAV)の進歩と低価格化によって,鳥の目線での空撮が身近になった。鳥類学の分野でも,ドローンを使った調査事例が増えつつあり,鳥類学の発展や保全での活用が期待されている。一方,昨年には航空法が改正され,ドローンを活用する上での制約も出てきた。

そこで実際の調査にドローンを活用している演者8名から,鳥類研究における活用法を紹介するとともに,ドローンの特徴や最新機器に関する情報,環境調査の技術,法制度や安全な運用方法などについて紹介する自由集会を開催することとした。

当日は,ドローンに対する期待の表れなのか,約70名の方々にご参加いただくことができ,鳥学会会員の関心の高さがうかがわれた。

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会場の様子

【各講演の概要】
1.チュウヒの繁殖状況調査におけるドローンの試用例
高橋佑亮(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)

 ドローンを使ったチュウヒの巣内雛数の把握,巣や雛の判読限界高度,ドローンに対する親鳥の反応について報告があった。DJI Phantom2 Vision+を用いた調査では,巣の直上100mからの撮影であれば巣の判読が可能であり,50mからの撮影では巣内雛数の判読が可能であった。親鳥の反応については,飛行高度○mであれば安全であるということは必ずしも言えないが,数十m離せば比較的影響は小さいと思われた。以上の結果から,上記機種を用いてチュウヒの巣内雛数を把握する場合,飛行高度は50m程度が目安であるとの報告であった。
 またドローンは,踏査での調査に比べて省力化できる点や営巣地の植生破壊を伴わない点で有効な調査方法になるとの考えが示された。とはいえ,ドローンはチュウヒにとってストレス以外の何物でもないため,ドローンによる調査の必要性をよく検討し,最小限の使用にとどめるべきとの指摘もあった。

2.ドローンを利用したマガンカウントの試み
神山和夫(NPO法人バードリサーチ)

 マガンのねぐらでのカウントを行うために,ドローンを用いた事例についての報告があった。課題として,出前~日の出直後の照度が大きく変化する時間帯の撮影であること,またマガンがねぐら出を迎えるまでのわずかな時間で撮影を終える必要があることなど,技術的な難しさが示された。

3.保護区域外のツル識別とカウントの試み
時田賢一(岩手大学農学部)

 飛来個体の増加により,保護区域の外(周辺圃場)で採餌する個体の把握に,ドローンを用いた事例の紹介があった。現行行われている総個体数カウントでは誤差の検証ができないため,個体数のカウントや,採餌地などのツルの土地利用の把握を行う上でドローンが役立つとの報告があった。
一方,ツルの群れへの接近は,低空(撮影高度付近)での水平方向からアプローチは避けた方が良く,離陸地点であらかじめ高度を十分に取ってから撮影地点上空に移動した後,ツルの反応を確認しながら徐々に高度を下げたほうが良いとの考えが示された。また,ドローンの音を気にしているようだとの指摘もあった。

4.釧路湿原におけるタンチョウの調査事例
松本文雄(釧路市動物園)・小林功・山田浩行(パシフィックコンサルタンツ株式会社)・上原裕世(酪農学園大学)

 アクセスが困難な湿原内の調査において,個体の発見や雛数のカウントに,ドローンが活用可能であることが示された。特に,ドローンにズームレンズ付きのカメラを搭載することで,より高高度での撮影が可能になり,個体への影響も小さくすることができそうだとの報告があった。

5.湿原性鳥類の営巣植生調査におけるドローンの試用例
中山文仁((一財)自然環境研究センター)
 
 湿原性鳥類の調査における課題として,背丈の高いヨシなどにより見通しが効かないこと,植生に覆われた水域の配置がわかりにくいことが挙げられる。そこでドローンによる空撮を行うことで,営巣場所や周辺環境(水域)を調査した事例が報告された。特に周辺環境(水域)の調査では,空撮画像のRGB情報をもとに簡易な画像処理を施すことで,およその範囲を抽出できることが示された。

6.モニタリングにおけるドローン技術の利用可能性
鈴木透(酪農学園大学)

 鳥類のモニタリングへの空撮の利用可能性を検討するために、飛行高度と画像の解像度による水鳥の判別の可能性を報告した。大小のカモ類の種判定,個体数のカウントを行う場合を想定し,原寸大のデコイを様々な条件で撮影することで必要な高度,画角を計算した結果、種の判別には約1cm程度の高い解像度が必要であることが明らかになった。

7.空撮・測量・環境調査の技術と法制度,安全管理
上野裕介(東邦大学)

 ドローンで空撮した画像は,個体や群れのモニタリングだけでなく,地形測量にも使うことができる。そこで,撮影位置を少しずつずらし連続撮影したオーバーラップ画像から対象物の3次元構造を復元する写真測量技術(Structure from Motion:SfM)と,SfMを用いた立体測量の技術について報告した。また野外での検証結果から,おおむね高さ方向の計測誤差が数cm~5cm程度に収まることを示した。またドローンにまつわる航空法の改正や損害賠償保険,安全な運用方法についてお話しした。

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講演の様子

8.ちょっと変わったドローンの活用法
山田浩之(北海道大学)

 ドローンとは,そもそも飛行機である。カメラを搭載すれば空撮機となり,気象観測やレーサープロファイラなど他のセンサーを積めば計測機になる。アタッチメントを装着すれば,サンプル採取や運搬が可能になる。その一例として,採水ボトルをぶら下げたドローンによって池の水を採取する方法を報告した。一方,不運にもドローンが墜落することもある。墜落したドローンの再利用法(プロペラ編,カメラ編)を紹介した。

【まとめと感想】
 これまで空撮画像を得るには,高額な航空写真や衛星写真を購入する他なかった鳥類研究者にとって,安価で簡単に空撮を行うことができるドローンは大変便利な道具である。簡単に空撮が行えるようになったことは,調査のために人が鳥の生息地に立ち入る回数を減らすことにつながり,調査圧の軽減に役立つ。一方,空撮による鳥への影響(特に撮影高度や撮影頻度との関係)は十分にわかっておらず,対象個体に十分に注意しながらの手探りでの調査が続けられている。そのため営巣地や塒の空撮などで,必要以上にドローンを接近させたり,頻繁に飛行を繰り返したりすることは慎むべきである。本自由集会のような調査事例や技術情報の共有から,ドローンによる鳥類調査を鳥にとっても人にとっても安全で快適なものにする必要があるだろう。
他方,今回の自由集会では鳥類を専門とする人たちが,個個別別に運用スキルを磨き,調査技術の改良・開発にも取り組んでいる現状があることがわかった。ライト兄弟が1903年に空を飛んでから,既に110年超が経過し,飛行機を用いた空撮や調査技術は大きく進歩している。またドローン調査についても,防災分野などでは10年以上前から実用化が試みられてきた。それらの技術の蓄積を導入することで,ドローンによる鳥類研究を大きく飛躍させることができるだろう。他分野の研究者や技術者と協力することで,鳥類の生態解明や生息環境の把握,保護・保全につながる新たな発見や気づきを,ドローンという鳥の目が私たちに与えてくれる日も近いと感じている。

※ドローンに関するご質問や共同研究のご相談は,随時受付けています。
 ご遠慮なくお問い合わせください。

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研究オトコと研究オンナの生きざまを考える:ポスター発表のご報告

2016年8月8日
日本鳥学会企画委員会 堀江明香

鳥の研究に限らず、調査・研究は楽しいものです。知的好奇心は調べるほどに膨らんでいき、明らかにできたものの倍ほどの疑問が湧いてくる。そうして続く研究生活は、大変ではあるものの、大きな達成感と充実感をもたらしてくれます。私自身も、迷いを含みつつ、研究者として生きていきたいと希望しているひとりです。

研究者を目指す際に、志を貫くか諦めるか迷う最も大きな理由は「研究者として食っていけるか」分からないことだと思います。しかし、恋愛・結婚などの私生活も、実は研究生活と関連しています。若いうちは研究が最優先課題。自分の繁殖成功度より鳥の繁殖成功度の方が大事、となりがちですが、いざ、結婚や子供を望むようになると、夫婦の同居の難しさや安定収入の問題など、色んな壁が見えてきます。私のように、のんきに構えていて現実に阻まれてから煩悶するのではなく、研究人生を送る上での壁についてあらかじめ知っておけば、少なくとも覚悟をもって人生の選択ができます。

日本鳥学会は「男女共同参画学協会連合会」にオブザーバー参加しており、企画委員が毎年のシンポジウムにも参加していますが、学会員の方への情報提供はまだまだ不十分です。そこで、日本鳥学会2015年度大会において、「ヒト(鳥研究者)における婚姻形態と子育て-忘れられがちなもう一つの人生-」と題したポスター発表を行い、研究者の結婚事情を通して、「研究者として生きる」ことと、その陰に隠れがちな、「一人の男性・女性として豊かな人生を送る」ことの関係性に潜む問題について紹介しました。

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発表時、著者は妊娠8ヶ月。特別に椅子を用意してもらいました(撮影:高田みちよ氏)。

詳細は実際のポスター(下画像をクリック)をご覧いただきたいのですが、内容を大きくまとめると次のようになります。①就職事情には大きな男女差はないのに、既婚率・子供の数には男女差がある、②女性には生物学的な出産リミットがある。研究職についてから出産すれば産休・育休後に職場復帰が可能だが、職より出産が先だと研究に復帰しにくい、③夫婦どちらかに定職がないとそもそも子供をもうけにくい。④性別を問わず、ポストが少ないことが最も根本的な問題。ポストの拡充と出産・育児後の復帰支援が最も重要な課題。

人生と研究者の道のりが山で表されています。


内容が多少刺激的だったこともあり、当日はなんと、98名もの方に聞きに来ていただきました。どんな方が聞きに来てくださったか集計を行ったところ、男性57 名 女性41 名、その内訳は以下のようになりました。

①修士以下の学生で男性:8
女性:8 計16 名
②博士課程の学生で男性:3
女性:2 計5 名
③任期付き研究職の男性:4
女性:2 計6 名
④任期なし研究職の男性:11
女性:3 計14 名
⑤無給の研究員等の男性:1
女性:4 計5 名
⑥普及啓発教育職の男性:3
女性:2 計5 名
⑦調査員等、鳥関係職の男性:18
女性:11 計29 名
⑧その他の職業の 男性:9
女性:8 計17 名

もう少し学生の方に聞きに来て頂きたかったですが、やはり多くの学生は研究の方が大切、という、まっとうな姿勢を持っているようです。また、もっと女性が多いかとも思っていたのですが、意外と男性の方が多く、職業別の人数に関しても、おおよそ学会の構成員からまんべんなく聞きに来ていただいたような気がします。何名かの方からは貴重なご意見を頂きました。以下にご紹介します。

*大変たのしいテーマで異彩を放っていました。日本の科学の発展には女性の力は不可欠。生態学と社会学のリンクは大切です(男性)。

*本人の頑張りはものすごくて、とても大変だと思います。大会時に未就学児以上の子の面倒を見てくれるところも必要だと思います。また、お金ももっと下げるか無料にすべきです(女性)。

*女性研究者(現在求職中)、子供1 人、パートナー同業の者です。このような形で性別をこえて意識改革が進むような研究を応援しています。パートナーフェロー等をどんどん増やして頂ければと思います(女性)。

研究オトコとして、研究オンナとして、どう生きたいか。人生で大切にしたいものは何なのか。尽きない問いだとは思いますが、現実に阻まれてからでは動きが取りにくいものです。これから考えていかねばならない学生さんはもちろん(考えたくないのはよくよく分かりますが)、もう年配の方も、オトコとオンナの問題が学会や鳥学の活性化にも影響することを認識して、みんなでよい研究人生を歩むことを目指せればと思います。

発表時にお腹の中にいた私の娘はもう8ヶ月。未完成のハイハイで部屋を探検している娘の横でこの記事を書いていると、無上の喜びと尽きない希望と、大きな焦燥感と研究への思いとが混ざってとても複雑な心境です。現状では、オトコ・オンナとしてのよりよい人生と研究人生の両立には困難を伴いますが、個人として、学会として、国や地方・研究機関の制度として、できることがきっと色々あるはずです。みなさんも、ぜひ一緒に考えてくださればと思います。

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日本鳥学会2014年度大会自由集会報告:カモ科鳥類と水草の関係性を探る

2016年4月6日
世話人:渡辺朝一・神谷要

1999年より「東アジア地域ガンカモ類重要生息地ネットワーク」の活動を支援する鳥学研究者のグループを設立し、毎年の鳥学会大会時に自由集会を開催して参りました。

2014年は、立教大学においてIOCと合わせて開催された大会にて、8月22日、18:00~20:00に「カモ科鳥類と水草の関係性を探る」と題して渡辺朝一、神谷要の2名が企画者となって開催致しました。

当日は20名ほどの皆さまにご参加をいただきました。この集会の要旨は、今までの集会の内容とともに以下のURLに掲載されております。是非ご参照ください。

http://www.jawgp.org/anet/jgprop.htm

演題1:リュウノヒゲモとコハクチョウのもちつもたれつの関係(神谷要/(公益財団法人)中海水鳥国際交流基金財団)
汽水性沈水植物のリュウノヒゲモ(Potamogeton pectinatas L.)については多くの研究があり、水鳥から見た餌資源としてだけでなく、種子分散について鳥類の貢献に関する様々な報告がなされている。特に米子水鳥公園では、水鳥の糞に中にはリュウノヒゲモの種子が含まれており、その種子分散布に水鳥が大きく関与していると考えられている。

種子散布には、風散布、水散布、自発散布、重力散布、動物散布(付着)(周食)などがあり、リュウノヒゲモの種子散布に関しては、動物散布(周食)についての研究が多くある。

鳥類の動物散布(周食) について小鳥の研究では、種子を食べてから排泄までの時間が大変短いことが知られているが、ガンカモ類の場合、体内滞留時間が8時間~20時間程度という報告が多くある。この時間があれば、カモ類は近年の渡りの発信機調査により、100㌔以上の移動を行うことが知られている。

また、リュウノヒゲモの種子は、食べられることによって発芽率の上昇が起こることが知られており、水草の散布にカモ類が貢献していることが予想されている。

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<リュウノヒゲモの結実数と水鳥の糞中の種指数、水鳥の飛来数密度(2007年米子水鳥公園)>


演題2:マコモとガン/ハクチョウ類の複雑な関係(渡辺朝一/さいたま市)

さまざまな水草の種の中にも、特に水鳥に好んで採食される種と、あまり採食されない種がある。その中でイネ科に属する大型の沈水植物であるマコモ(Zizania latifolia L.)は、その地下茎が越冬期のガン・ハクチョウ類の重要な食物となっている。マコモの、ガン・ハクチョウ類の食物としての特徴として、地下茎への被食に対して耐性があること、水深が深い場所では被食を受けた株が流出して群落が攪乱を受けること、水深が浅い場所(渡辺の調査地であった茨城県菅生沼)では被食を受けて地上部が旺盛に成長すること、がある。

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<コハクチョウの食圧を受けたエリア(Outer)と受けないエリア(Inner)のマコモ地上部現存量の差>

水鳥と水草の関係性を巡っては、日本での研究例は少なく、未解明の課題が多いのが現状です。今後の更なる発展が期待されるテーマです。

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「ポスター賞、始めました」

2016年2月15日
企画委員長 川上和人

2016年、鳥学の新たな歴史が始まります。
新賞「日本鳥学会ポスター賞」の誕生です。

今年は、記念すべき第一回目の賞を得る未来永劫唯一のチャンスです。この栄誉に向け、多数の応募をお待ちしております。

いや、過去にもポスター賞があったではないかというご意見もありましょう。確かにその通りです。しかし、これらは各大会の事務局により独自に運営されたものでした。これからは、鳥学会公認の正式な賞として毎年の募集が決定したのです。

賞の最大の目的は、若手の独創的な研究を奨励することです。ここで鳥学の魅力を語ることは、釈迦に説法、孔子に論語、文明堂にカステラの美味を説くような愚行ですので、あえては申し上げません。賞の新設により、この魅力あふれる鳥学の将来を担う若手を、学会として応援したいと考えているのです。

当たり前の話ですが、賞の主役は授与する側ではなく応募者です。まだ実績が少なくとも、オリジナリティの高い研究を展開する若人の参加をお待ちしております。100年の歴史を持つ鳥学会に未来の歴史を紡ぐのは、他の誰でもない皆さんなのです。

さて申し上げにくいことですが、目的に照らし応募資格を30歳以下に限定させていただきました。この点を平にご容赦下さい。若い若いと思っていても、月日の流れは速いものです。資格のある方はお早めに!

詳細は特設サイトをご覧下さい。
では、鳥学会大会の授賞式でお待ちしております。

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第6回黒田賞をいただいて~私の垣間見た「考古鳥類学者」黒田長久博士~

2015年11月30日
北海道大学総合博物館
江田真毅

今回、このような名誉ある賞をいただき身に余る光栄です。ことあるごとに「考古学者」をアピールしていろいろなものから逃げてきた私がいただいて良い賞なのか?正直、今でも疑問に思っています。が、日本鳥学会の懐の深さに甘えさせてください。改めて関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。

「考古鳥類学」という言葉は今回の受賞講演にあたって作った造語です。遺跡から出土した鳥骨から鳥類の生態を復原できること、そして復原された生態は分類や保全の研究にも生かしうることを認識していただきたいとの想いからでした。今回、私がこの賞をいただけたのは「遺跡資料を用いた鳥類学」という目新しさに起因するところが大きいものと思います。

しかし、日本における「考古鳥類学」の歴史はそれほど新しいものではありません。実は、黒田賞にお名前が冠されている黒田長久博士は遺跡から出土した鳥骨を分析した論文を執筆されており[1]、日本海におけるアホウドリの分布などについて考察されています。さらに、この論文は日本の考古学にも大きな足跡を2つ残しています。受賞講演でも少し触れましたが、私は黒田博士が逝去された後に畏れ多くもこの2つの足跡を再検討させていただきました。そして、同じ資料を分析することを通じて、黒田博士を垣間見てきました。

足跡の1つは、日本最古のニワトリの骨を同定されたことです。ともに壱岐島に所在する弥生時代中期~後期(今から約2,000年前)の遺跡である原の辻遺跡と唐神遺跡。両遺跡から出土した鳥骨を分析されたのが黒田博士でした。博士はこれらの資料群中にアホウドリやウミウ、オオミズナギドリなどとともにニワトリの骨を見出し、報告していました。

ニワトリの初期の拡散史を研究する中で、私はキジ科の骨標本を多数調査して同定基準を作成し、実際に黒田博士が分析されたニワトリの骨も再検討しました[2]。結果は、哺乳類の肋骨が1点混入していたのを除けば、黒田博士の同定を支持するものでした。
写真1.JPG
再検討した原の辻遺跡および唐神遺跡出土の鳥骨が包まれていた新聞紙

黒田博士が資料を分析された当時、国内の鳥類の比較骨標本は現在よりも著しく少なく、また遺跡からニワトリが出土した例はほとんどありませんでした。このような状況下で、キジ科のごく限られた標本と比較して種間の形態差を見出し、遺跡出土骨をニワトリと同定された黒田博士。その観察眼は目を見張るものがあります。今日では考古学界の定説となっている弥生時代におけるニワトリの日本への導入。その根拠となっているのは、紛れもなく黒田博士の同定したニワトリの骨なのです。

もう1つの足跡は「鵜を抱く女」の「鵜」の同定です。「鵜を抱く女」は山口県下関市豊北町(当時の豊浦郡神玉村)の弥生時代の墓地遺跡、土井ヶ浜遺跡から出土した1号人骨の別名です。この女性人骨が「鵜を抱く女」と呼ばれる由縁は、胸部から出土した鳥骨が黒田博士によってウミウの雛と同定されたことでした。女性人骨は「鵜」を伴って埋葬されたシャーマンとみなされてきました。2013年度末にこの遺跡の発掘調査報告書が刊行されることになったとき、この「鵜」の骨も再検討されることになりました。白羽の矢が立ったのは私でした。

結論から言えば、1号人骨に伴って出土した鳥骨が何の骨なのか、私には特定できませんでした[3]。ただし、ウ科の骨も幼鳥の骨も資料中に含まれてはいないことは分かりました。さらに、動物考古学的なアプローチから、黒田博士が前提とされていた人骨に伴って埋葬された1個体の鳥に由来するという点にも疑問が生じました。

1個体の鳥に由来するという前提と十分な比較標本がないという制約の中、著しく骨表面の風化が進んだ骨を分析された黒田博士。特徴の一致しない骨が資料中に含まれることや比較標本が足りないことなどが論考中に記されており、苦心の跡が読み取れます。その後、結果のみが一人歩きして定着していった女性人骨の「シャーマン」としての位置づけや「鵜を抱く女」という別称。黒田博士はどのようにご覧になっていたのでしょうか。私の知る限り、1959年の論文以外に黒田博士が手がけた考古資料の分析はありません。その意味するところは一人の「考古学者」として今一度考え直すべきことと思っています。

黒田博士が十分な比較標本がない中で考古資料を分析した論文を執筆されてから、すでに55年以上が経過しました。今日までの日本の各博物館における学芸員の皆様のご努力を否定する意図はまったくありませんが、残念ながら鳥類の骨標本のコレクションはアメリカやイギリス、ドイツといった国々のものに比べて非常に少ないこともまた事実です。縁あって、私は大学博物館に職を得ることができました。担当は考古学です(本当です!)が、スタッフの不足のおかげ(?)で脊椎動物のコレクションも管理できる立場にあります。今後、次代の考古鳥類学者が比較骨標本の不足に悩まされることのないよう、精力的に骨標本を収集していきたいと考えています。

・・・そして何の因果か、来年度の鳥学会は北大で開催されます。私は、例によって「考古学者」をアピールして逃げようと画策していたのですが、事ここに至っては逃げ切れそうにないと覚悟しています。黒田賞受賞をお祝いして下さった皆さんからいただいたインディ・ジョーンズ公認のカウボーイ・ハットを被って(!?)、大会運営をお手伝いしていきたいと考えています。
写真2.JPG
お祝いとしていただいたカウボーイ・ハット(インディ・ジョーンズ公認)を樋口広芳先生に被せていただく筆者(三上修氏撮影)

来年9月、皆様の札幌へのお越しを心待ちにしています!!

[1] 黒田長久 1959 「壱岐島及び山口県から出土の鳥骨について」日本生物地理学会会報 21:67-74
[2] 江田真毅・井上貴央 2011 「非計測形質によるキジ科遺存体の同定基準作成と弥生時代のニワトリの再評価の試み」動物考古学28:23-33
[3] 江田真毅・井上貴央 2014 「土井ヶ浜遺跡1号人骨に伴う鳥骨の再検討について」『土井ヶ浜遺跡 第1次~第12次発掘調査報告書 第3分冊 特論・総括編』下関市教育委員会・土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアム、pp137-146

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日本鳥学会2015年度大会自由集会報告:カワウを通じて野生生物と人との共存を考える(その18). - 河川における生息地環境管理 -

2015年11月2日
カワウワーキンググループ  
世話人 加藤ななえ(バードリサーチ)

カワウワーキンググループでは、1998年に北九州大学で開催された鳥学会大会から毎年継続して自由集会を企画し、新しい研究成果も盛り込みながら、カワウの保護管理の現況を鳥学会会員に提供してきました。2010年からは、マネージメントの3本柱である「被害対策」、「個体数調整」、「生息環境管理」をテーマとして取り上げることとしました。当時は鳥類では初めてカワウが対象となった「特定鳥獣保護管理計画技術マニュアル」が作成されてから7年が経ったところで、その後、このマニュアルは「特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン及び保護管理の手引き」として2013年に改訂されました。この企画は、間にいくつかのテーマを挟んだことで5年かかってしまいましたが、今年で完結します。今回はこのシリーズの最後のテーマです。カワウと人との共存を視野に入れた「河川における生息地環境管理」について、山本麻希さんと徳島から浜野龍夫さんをお迎えして、おふたりに話題を提供していただきました。

A:粗朶(そだ)を使った魚の隠れ家とは?
山本麻希(長岡技術科学大学)

「粗朶」とは、広葉樹の間伐材の枝を束ねたもので、北陸地方にはこの粗朶を用いて河川の護岸や河床の洗掘を防ぐ伝統工法があります。

カワウの遊泳速度は多くの川魚よりも速いため、コンクリート護岸されて魚にとって逃げ場のない河川環境下では、カワウによる魚への捕食圧はかなり大きくなります。このため、「魚の隠れ家」の提供は、魚にとってカワウの捕食を免れる機会を増やすことに繋がることから漁業被害の軽減にむけた対策として効果があるのではないかと期待されます。

これらを検証するために、粗朶沈床と木工沈床を組み合わせて作った魚の隠れ家(図)を、新潟県を流れる魚野川中流域に設置し、①隠れ家の物理的な強度や土砂の堆積状況、②魚の利用状況、③バイオマスを増加させるか?について調査をおこないました。

結果です。
①急流では隠れ家が崩壊し、流れが緩いと埋まってしまう。
② 多用な魚種が隠れ家周辺で確認された。
③ 流速の早いところでは底生生物の蝟集効果が高く、隠れ家があることでバイカモなどが繁茂する。
また、カワウの死体を隠れ家の近くを通らせてみると、魚が素早く隠れ家に入ることを観察することができ、魚の忌避反応も確かめられました。
図1.jpg
(図1)魚の隠れ家平面図

B:「水辺の小さな自然再生」でカワウと共存
浜野 龍夫(徳島大学)

「水辺の小さな自然再生」とは、生きものにやさしい水辺づくり活動のことです。ここでは次のような点に留意する必要があります。
(1)自己調達できる資金規模であること。
発案者や実施する団体が資金を調達できる範囲である。メンバーが無理なく(あるいはちょっと無理をして?)供出できる範囲のもの。大富豪がいればラッキーかも。
(2)多様な主体による参画と協働が可能であること。
みんなに発案チャンスがあり、ちょっとだけ手伝う人、がっちり参加する人など多様な関わり方がある。
(3)修理とか撤去が容易であること。

筋書き通りにできないことも多く、やってみないとわからないこともあるので。

たとえば、川底に浅い穴を掘ってそこに石を山のように積み重ねた「石ぐろ」を作ります。もとはウナギを獲るための漁法のひとつなのですが、カワウの食害を防ぐ方法として利用できるのではないかという意見が後押しとなり、平坦な河床に起伏をつける「小さな自然工法」として期待が広がってきました。

このような小さな工法は、地元の関係者を結びつけるだけでなく、すこぶる後味が良いワクワク感を得ることができるのです。
図2.jpg
(図2)水辺の小さな自然再生事例集

山本さんと浜野さんにはそれぞれの現場で多くのご苦労があったはずですが、その語り口からは、「楽しい!」「ワクワクする!」という気持ちがたくさん伝わってきました。
今回の自由集会の参加者は65名でした。なお、私事ではありますが、今回をもって私はカワウの自由集会の企画運営から卒業いたします。これからは若い方々が新しい発想でこの集会を継続されていくことを期待します。今までありがとうございました。
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(図3)会場のようす

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日本鳥学会2015年度大会自由集会報告:砂浜の自由集会を企画して

2015年10月14日
奴賀俊光(NPO法人バードリサーチ)

今回、初めて自由集会というものを企画しました。

砂浜という環境は、その環境自体が少ないこと、波浪や潮の干満、砂の流動等により環境変動が激しいことなどから、研究が盛んではない環境です。実際、鳥も魚もベントスも、砂浜海岸での調査研究例は少ないと思います。修士研究で砂浜のミユビシギの採食生態を調べた時は、文献の少なさに苦労しました。。。

現在、防潮堤建設、海面上昇、砂浜浸食などで、もともと少ない砂浜がさらに失われようとしています。しかし、そんなマイナーな環境でも、シロチドリ、コアジサシといった絶滅危惧種の主な生息環境となっているのに、全然注目されていません。10年以上続いていた環境省のコアジサシ調査もコアジサシの全貌をつかめぬままH23で終了してしまいました。シロチドリについても、激減していることが明らかとなり、現在も減少傾向が続いています。

本当に注目されていないのか、しなくて良いのか、危機的な現状を周知しなくては、ということから、一度、砂浜の自由集会を企画してみようと思いました。

初めての企画、マイナーな砂浜という環境をテーマにして、いったいどれだけ人が集まるのか、話題提供者の中でもビクビク不安に思いながら、準備をしました。学会プログラムが公表されると、なんと同時に8つの自由集会が開催されることを知り、さらに不安になりました。(今回のように自由集会が集中してしまった時には、事務局から、自由集会が少ない別の日に移ってもよい集会があるかどうか呼びかけたりして、可能なら分散させることはできませんか?)

IMGP9167.JPG

とりあえず、30人来れば上出来だと思っていたのですが、始まってみると、参加者36名。後に聞いた情報では、その他の会場はだいたい20名前後が多かったと聞いています。勝った!と思いました(笑)。

シロチドリ、コアジサシ、防潮堤と砂浜についての話で現状の情報を共有し、問題点や今後の展望なども共有、議論できればという目的でした。参加者がどう思っているか知るために、自由集会時に簡単なアンケートを行ったのですが、その結果を以下に掲載します。22名の方から回答がありました。ありがとうございます。

アンケート結果
Qこの集会を何で知ったか?
鳥学会HP:18人
バードリサーチHP:2人
鳥学会要旨:2人

Q興味があるものは?(複数回答あり)
砂浜:6人
シロチドリ:14人
コアジサシ:15人
防潮堤:1人
その他:6人
(奴賀感想:これまで研究例や話題の多いコアジの方が多いかなと思っていたのですが、シロチも同じくらいでした。防潮堤が予想より少なかった。。。)

Q砂浜のメーリスがあったら入りたいか?
参加希望:18人
参加したくない:0人
参加したいがメーリスが多すぎる:4人

Q感想、意見
シロチドリ、コアジサシの減少具合と、仙台の海岸の現状に驚いた等の感想がありました。他の地域の情報が知りたいとか、ネットワークに入りたい、自分の地域の情報を提供してくれたり、より関心を持ったというような感想がありました。

企画者個人の感想としては、予想以上に参加者が多かったので開催してよかったと思いました。少数かもしれませんが、全国各地に関心のある人もいそうですし、また、他の地域の情報を求めている方が多いような感じがしました。砂浜の保全の問題は、鳥だけでなく、砂浜を利用する様々な方と協力していかなければならず、なかなか大変な事だという共有もできたと思いました。演者の方、参加者の方、ありがとうございました。

次回学会でも、何か違う地域の話、話題で、砂浜の集会があっても良いかなと思いました。砂浜の話をしたい方、一緒に砂浜について考えたい方、調査したい方、シロチドリ、コアジサシについて相談したい方、メーリス(今後作成予定?)に入りたい方は奴賀(nuka*bird-research.jp *を@に変換)までご連絡ください。

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日本鳥学会2015年度大会自由集会報告:鳥好きのためのGIS入門(その3)

2015年10月12日
企画者 上野裕介(国土交通省国土技術政策総合研究所)
文責 上野裕介・吉井千晶・前田義志

3回目を迎えた「鳥好きのためのGIS入門」,今回も60名を超える方々に参加いただき,GIS(地理情報システム)に対する学会員の関心の高さが感じられた。

冒頭で企画者から,今回の趣旨説明と過去2回の自由集会の内容について,過去の演者のスライドも交えた紹介を行った。最初に,第1回の2013年度大会(名城大学)で扱った“GISを使った環境データの集計・加工”と“植生図や地形図などのデータ入手法”,2014年度大会(立教大学)で扱った“様々な空間解析法を用いた鳥類の生息適地推定”の概略について,GISに触れたことのない方々にも伝わりやすいよう丁寧に説明した。その上で今回は「GISを使った鳥類研究を一歩先へ!」と題し,“脱”入門を目指すべく,GISでの研究をより深く,豊かにする最新技術や活用法について各演者から発表した。集会風景.jpg


GISを使った希少鳥類の保全策

「動的分布モデルを用いたシマフクロウの分散と生息地の将来変化予測」
吉井千晶(北海道大学大学院・農学院/現(株)建設技術研究所)

演者は,第1回の鳥好きのためのGIS入門(2013年度大会)時には,GISに触れたことすらなかった「超初心者」であった。しかし講演を聞き,第2回時には,なんとか鳥類の生息適地推定を行うことが出来るようになり,初心者の立場からGISの面白さや難しさについて発表する機会を得た。

今大会では,昨年発表した鳥類の生息適地推定の“続き”として,研究を発展させ実際の保全に役立てるにはどのような方法があるのか,一例として希少鳥類の将来的な個体群分散と保全策の提示について話題提供をした。

講演では,まず生息適地推定によって得られた「生物の生息ポテンシャルマップ」が,現在その環境に生物が飽和しているという前提で描かれるものであり,分散前の希少種や外来生物にはその前提が当てはまらないことを説明した。そのうえで,その前提が当てはまらない生物種の生息ポテンシャルマップを得るためには,生物の分散のタイムラグを考慮した“動的分布モデル”が有用であることを説明し,シマフクロウの分散を材料として,動的分布モデルを用いた分散予測の紹介を行った。

演者は,本自由集会での経験や研究室の諸先輩方の協力もあって, 2年間で生息適地推定から成果の提示,希少種保護の実務への活用まで進むことができた。一般に,未経験者にはGISは難しいという印象を持たれがちだが,講演を通じて多くの人に「はじめてでもここまでできるんだ」という安心感や希望をもっていただけたのではないかと思う。今後,一人でも多くの方々にGISを利用した鳥類研究に取組んでいただき,研究の発展と鳥類の保全につながることを願っている。

GIS技術の基礎と最新動向
「GISとリモートセンシングの裏と表,お話しします」
前田義志((株)パスコ)

GISを使った鳥類研究を進めるために,詳細な植生図や地形図を作成する上で不可欠ながら馴染みの薄いリモートセンシング(衛星・航空測量)技術の基礎と最新動向について話題提供した。

講演では,リモートセンシングとはどういうもので,どんな技術を用い,どのように測っているのかについて,リモートセンシングの基礎的な内容と,身の回りにあるリモートセンシング技術の活用例(天気予報など)を簡単に説明した。特に,リモートセンシングで得られるマルチスペクトル写真を例に,光学的に波長を分けてデータを取得することの利点を解説し,実際の利用例として地図や植生図の作成における簡易な植生判読や土地利用区分データの自作手法について紹介した。

あわせてリモートセンシングの最新動向として,衛星光学写真の高解像度化が進んでいることや,衛星からのマイクロ波や航空機からの地上レーザー,水中レーザーを用いた地上と水中地形の計測技術,これらのデータの入手法等を紹介するとともに,準天頂衛星やドローンなどの導入による更なる精度向上の可能性について言及した。

今後,リモートセンシングで得られるデータやGISを活用することにより,鳥類研究における解析精度の向上や保全技術の向上,訴求性の高いビジュアル資料の作成など,研究や実務の発展につながることを願っている。
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GISと“鳥の目”で世界を測る

「UAV(ドローン)を用いた空撮・3次元環境測量の紹介と鳥類学研究への応用」
上野裕介(国土交通省・国土技術政策総合研究所)

近年の急速な小型UAV(ドローン)の進歩と普及は,研究や実務の現場を変えつつある。国内では特に防災分野での導入が進んでいる一方で,環境分野での活用は,まだまだ手探り状態にある。その原因の一つが,UAVに関する情報不足にあると考え,今回の話題を企画した。

講演では,まずUAVの歴史から構造,機種ごとの特徴と価格,国内外の開発動向を簡単に紹介した。次に,最新のUAVには,4kカメラと高性能のジンバル(カメラ取付用のアタッチメント),姿勢の自動制御機能(IMU)を搭載したものもあり,ラジコン初心者でも扱いやすく,簡単に空撮が可能なことを説明した。また演者が撮影した空撮画像をスライドに示し,高解像度のデジタル写真と滑らかな動画を撮影できること,それらの画像や動画を用いて植生判読や林冠図の作成,調査地などの現況把握を簡易に出来ることを紹介した。さらに,UAVで空撮した連続写真から,対象物の3次元構造を復元する写真測量技術(Sfm:Structure from Motion)を用いた立体測量の技術について解説し,野外での精度検証の結果を紹介した。最後に,UAV関する昨今の法規制の動向や運用ルールについてお話しした。

これまで空撮画像を得るには,高額な航空写真や衛星写真を購入する他なかった鳥類研究者にとって,安価で簡単に空撮を行うことができるUAVは大変便利な道具である。UAVという鳥の目を手に入れることで,新たな鳥類の生態解明や生息環境の把握,保護・保全につながることを願っている。
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