2019鳥の学校「高病原性インフルエンザと野鳥」に参加して
この10数年で、渡り鳥が飛来する時期になると「高病原性鳥インフルエンザ」のニュースがたびたび取りあげられるようになりました。防護服を着た数百人以上の作業員が、養鶏場で大量のニワトリを殺処分して消毒作業を進めているニュースをみると誰しもが不安になります。これほど社会的にも経済的にも大きなインパクトを与えている高病原性鳥インフルエンザウイルスですが、インターネットで調べた情報だけでは、なかなかその全容を理解することができず、「今いったい何が起こっているのか?」、「どのような対策が進められているのか?」ということが気になっていました。今回の鳥の学校は、まさにこのような疑問に応えてくれる内容で、高病原性鳥インフルエンザの最近の情勢や対策、野鳥と接触する機会の多い私たちが気を付けるべきことなどを6名の分野の異なる講師陣から多角的に学ぶことができました。
最初に、人と動物およびそれを取り巻く生態系をひとつとみなして包括的に問題を解決していくことを目指した「One World-One Health」の考え方が紹介されました。人と動物の両方がかかわる感染症の対策は、生態学でいう複雑な生物間相互作用の中に人や家畜も組み入れたようなマクロな視点をもちながら、病原体が伝播する特定の感染経路を絞りこんで適切に対処しなければいけないので、とても難しい課題だなと感じました。そしてこのような課題だからこそ、さまざまな関係者が分野横断的に連携する必要があるということを理解することができました。またH5N1亜型のウイルスがこの20年間で変異を繰り返して北半球に広がっていった状況などの説明を聞いて、高病原性の鳥インフルエンザの対策には国際協力が不可欠だということもよくわかりました。
国内では高病原性鳥インフルエンザウイルスに対してどのように対応しているのか?ということいついても、その対応の流れや出水市の具体例について大変興味深い話を聞くことができました。まず野鳥については野鳥マニュアル(環境省2018)、飼養鳥については飼養鳥指針(環境省2017)に沿って行われる鳥インフルエンザの簡易検査、遺伝子検査、確定検査などの対応フローについて説明がありました。また早期警戒や飼養鳥の安楽殺等の重要な判断をする情報として確定検査結果を利用するためには検査時間の短縮が大きな課題であるという指摘も演者からありました。そして、いざ高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された場合に、発生地点を中心とする半径10㎞の範囲で実施される緊急調査についても解説がありました。また高病原性鳥インフルエンザが過去に発生している出水市で環境省・鹿児島県・出水市・鹿児島県ツル保護会が合同で実施している監視活動についての説明もありました。出水市の一連の活動の中で最も印象に残ったのは、基幹産業となっている養鶏業者が高病原性鳥インフルエンザの発生を未然に防ぐ活動を自衛のために積極的に進めているという点でした。これはまさにワンヘルスのアプローチで様々な関係者が積極的に対策しているモデルケースのように感じました。
高病原性鳥インフルエンザウイルスの各種鳥類に対する病原性に関する最新の研究も紹介されました。鳥インフルエンザウイルスの病原性はニワトリをもとに高病原性と低病原性が決定されているそうで、高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した際の死亡率は鳥類種によって異なるようです。そのため各種絶滅危惧種の細胞を活用して、さまざまな鳥類の高病原性鳥インフルエンザウイルスの感受性を評価するための手法が考案されているそうです。今後の研究成果が気になります。
講演の間には、「フィールドでの注意点」と題する楽しいグループワークもありました。ここでは講師から「バードウォッチャーが病原体の運び屋になる可能性がある」という鳥好きの私たちにとっては衝撃的!?な事実が指摘されました。そしてフィールドで動物由来の病原体に感染しないためは、節度ある行動(むやみに生体・死体・痕跡に触れない)と昆虫対策(例:マダニ)が重要だという注意がありました。さらに私たちが病原体の運び屋にならないために、各グループに配られた持ち物を使って、フィールドに出かけた際に現地で靴、機材、皮膚などを消毒する方法や手順をグループのメンバーで話しあいました。このグループワークでは持ち物に含まれていたウィスキーを消毒のために使用するべきか、これは講師が仕組んだ引っ掛けではないのかということなどをメンバーであれこれ楽しく議論することができました。
今回の鳥の学校で鳥インフルエンザについて総合的に学ぶための貴重な機会を提供していただいた鳥学会企画委員会の皆様、会場となった帝京科学大学の方々、そして興味深い話題を提供していただいた講師の皆様に感謝申し上げます。