日本鳥学会2022年度大会 高校生プログラム(小中学生も可!)のご報告

牛山克巳・山本麻希(企画委員会)

 
 例年大会を盛り上げてくれる高校生によるポスター発表ですが、それだけでは高校生のみなさんにせっかく網走まで来てもらうのに申し訳ない!と、今年はキャンパスツアー「突撃!東京農業大学北海道オホーツクキャンパス!」、さらにはキャリア育成ワークショップ「高校生のための鳥学講座」を実施しました。
 
 キャンパスツアーでは、東京農業大学家畜生産管理学研究室の大久保先生と大学院生の目黒さんから、学部のことやエミューの研究を紹介していただきました。エミューって2カ月もオスが飲まず食わずで抱卵し続けるのですね…。また、白木先生のもとで研究を行っていたお二人のOGにもいらしていただき、大学選びの過程からキャンパスライフ、今の職業に至った道筋などについて紹介していただきました。座学のあとはエミューの飼育施設を遠目から見学し、エゾシカの飼育施設にも行ってササをあげて癒されました。
 
 ポスター発表は一般のポスター発表が行われている体育館とは離れた教室で実施したので、大会参加者のみなさまに聞きに来てもらえるか心配でしたが、ふたを開けてみたら換気に追われるほどたくさんのみなさまにいらしていただきました。中高生のみなさんも自信を持って発表しているのが印象的でした。

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ポスター発表の様子1
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ポスター発表の様子2
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林内散策路で野鳥観察
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サケがたくさん泳いでいる網走川

 なお、今年度の高校生ポスター賞は以下の通りです。

● 最優秀賞
 「フクロウの給餌食物解明に向けたペリット分析と映像分析の比較」
  緒方 捷悟、坂井 智洋、門脇 優依、多湖 由海、田中 来瞳、
  藤田 直花(三重県立桑名高等学校 MIRAI研究所)

● 表現賞
 「フクロウが好む巣箱って知ってる?」
  丹下 翠(三重大学教育学部付属中学校)

● 科学賞
 「柳瀬地区におけるカラスの大量発生の原因について」
  角島 凪(中央大学附属高等学校)

● 努力賞
 「みや林における鳥類定点観察からの考察」
  西田 康平(桐朋高等学校 生物部 鳥類班)

 キャリア育成ワークショップでは、越智大介さん(水産研究・教育機構)と須藤明子さん(株式会社イーグレット・オフィス)から、それぞれ「日和見主義的鳥学生活~「楽しく」研究活動を続けるために~」、「野鳥をまもりたい獣医、野鳥を狙撃するのはなぜ?」と題してお話しいただきました。その後、キャリア形成に関わる疑問,将来に関する悩みなどについて考えるワークショップを行う予定でしたが、講師陣の熱の入ったプレゼンでタイムアップ!それでも普段聞けない面白い話しがたくさん聞けたと思います。

  最後に、参加者からの参加報告を紹介します!

「日本鳥学会感想文」 

角島凪(中央大学附属高等学校 3 年)

 この度、有難い事に高校生の部で科学賞を頂くことができました。ありがとうございました。
 私は当学会を通して多くの学びを得ました。公開シンポジウムで印象に残っているのは、アイスアルジーによる海底への餌の供給、シャチのサドルパッチの違いと食性の違いの二つです。また、私の研究対象と同じカラスを研究対象としている研究を多く拝見しました。特に私が自分の研究でつまずいていた、カラスによる農作物被害の対策案について、緑色のレーザー光が赤色レーザーに比べて効果的で、更には動かして放射した方が効果的であること。さらに、1305㎡以下の農地面積であれば「くぐれんテグスちゃん」(農研機構 吉田さん)を、それ以上であれば緑色レーザー(長岡技大 山本さん・笹野さん)を使用するのがコストの観点では良いという話がありました。私の調査地域の所有農地面積はバラバラであるため、所有面積に適した対策案を提示できる可能性に期待が膨らみました。
 高校生ポスター発表では、多くの方々 から多岐にわたる視点で助言を頂きました。
 このような機会を作ってくださった日本鳥学会の役員の皆様、私の研究に助言を下さいました研究者、学生の皆様、心より感謝申し上げ ます。

「日本鳥学会2022年度大会でポスター発表をしました!」

都立国分寺高等学校

 11月5日(土)~6日(日)、「日本鳥学会」に参加しました。会場は、北海道網走市の「東京農業大学 北海道オホーツクキャンパス」です。本校からは下記の2組(2年生3名,1年生1名)が校生ポスター部門で発表を行いました。
・ 「カラスバトの音声コミュニケーションについて」(久保・相田)
・ 「カラスバトのGPSを使ったその生態の解明」(石井・大野)
 また、受賞記念講演や高校生のための鳥学講座を聴講したり、野鳥研究会の学生さんの案内でキャンパス内の林内散策路を歩いて野鳥を探したり、飼育されているエゾシカやエミューを見せていただいたりして、とても充実した時間を過ごしました。

【生徒の感想】
・参加者の方々とたくさんディスカッションすることができて楽しかったです。
・発表を聞いてくださった研究者の方々から様々な視点でアドバイスをいただいたので、それらを今後の研究に活かして行きたいです。
・他校生の研究発表にも大変刺激を受けました。

【生徒が撮影した写真】

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朝の散策(オホーツク海)1
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早朝の散策(オホーツク海)2
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早朝の散策(オホーツク海)3
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キャンパス内の林道からの景色
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アカゲラ
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シノリガモ
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オオワシ
(撮影者:久保光次郎)
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2022年度日本鳥学会黒田賞を受賞して

国立環境研究所 生物多様性領域
安藤温子

 この度、日本鳥学会黒田賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄に思います。改めて、これまで研究を支えてくださった全ての方に感謝申し上げます。また、今年の鳥学会大会は3年ぶりの現地開催ということで、対面形式での受賞講演をさせていただきました。開始前の緊張感や、会場の皆さんが笑ったり驚いたり、私の講演にさまざまな反応をしてくださることで生まれる一体感は、やはり体面形式の講演でしか味わえない醍醐味であり、そのような場に身を置けたことを大変嬉しく感じました。コロナ禍の困難な状況の中、準備に当たってくださった事務局の皆様にも深く感謝申し上げます。

 私は黒田賞の受賞に当たり、遺伝子解析を用いた島嶼に生息する鳥類に関する一連の研究業績を評価していただきました。私は卒業研究と修士研究において、マイクロサテライトなど種内多型を示す遺伝マーカーを用いて、鳥類の遺伝的多様性や集団構造を評価しました。博士後期課程からは、DNAメタバーコーディングと呼ばれる手法を用いて、鳥類の糞に含まれるDNAの塩基配列を次世代シーケンサー用いて解読することで、対象種の食物を明らかにする研究に取り組みました。修士課程から対象とした、小笠原諸島の固有亜種アカガシラカラスバトについては、対象種自身とその糞両方の遺伝子解析を行うことで、保全に必要な遺伝的多様性や集団遺伝構造、食物利用に関する情報を得ることができました。DNAメタバーコーディングを用いた食性解析においては、手法の精度に関する検証を行い、実験手法の解説などを行いました。当時最新機器だった次世代シーケンサーをいち早く研究に取り入れたことでも注目していただき、多くの方から共同研究の話もいただきました。

八丈小島_R.jpeg
調査地のひとつである伊豆諸島八丈小島の風景

 様々な遺伝子解析に取り組む一方で、私が研究を続ける上で強く意識してきたのは、積極的に野外調査に出ることでした。鳥の研究に伝統のある研究室であれば、野外に出るなど当たり前のことなのでしょうが、私が所属していた研究室に鳥を専門とする教員はおらず、遺伝子解析以外の研究手法については、ほぼ独学で学ばなければなりませんでした。遺伝子解析を行なった対象を野外で実際に見たい、調査したい、というのは鳥学会では一般的に理解してもらえる心理だと思います。しかし、私は鳥に関する野外調査のノウハウも伝手も乏しい環境にいましたので、この当たり前のような目的を達成するためにも、確固たる意思と時間が必要だったのです。

カラスバト_R.jpeg
大学院から対象としてきたカラスバト

 野外調査をするにも、初めのうちは何をどうしたら良いかわからず、とりあえず現地に行こうと、アホウドリの再導入プロジェクトのボランティアに応募したり、遺伝子解析の依頼をしてきたNPOの研修生として調査手伝いをしたりしていました。調査をするためにどうやって計画を立てて、許可申請などどのような段取りを経て現地に行き、データをどうまとめるのか…誰も教えてくれないので、極めて要領の悪い試行錯誤を繰り返していました。捕獲や計測の方法も全く知らなかったので、バンダーさんに師事し、2年かけて技術を身につけました。結局、論文に使える野外データを自分で取ることができたのは、観察データについては博士後期過程に入ってから、捕獲を伴うものについては、就職して3年経った2018年のことでした。

 遺伝子解析技術の確立自体も重要な研究テーマになりますし、何もしなくても分析の依頼がどんどん降ってくるような環境にいましたから、野外に出ず実験室に籠っていた方が、より多くの論文業績を上げていたかもしれません。しかし、自分にはやはり野外調査をベースにした研究がしたいという欲求があり、いわゆる分析屋からの軌道修正をすべく無理やり調査に出続けていました。結果として、自分独自のテーマや研究スタイルにたどり着くことができ、今回の受賞にも繋がったように思います。不安定だった研究者としての軸が、漸く落ち着いてきたという感じでしょうか。効率は悪かったですが、自分の意思で野外調査に取り組む過程で、調査の技術はもちろん、研究のアイディアや現地の人々との繋がりなど、かけがえのない財産を得ることができました。これまで、なんとなく義務感から遺伝子解析を続けていたのですが、一連の研究活動を通して、他者のニーズに応えるよりも自分自身が本心からやりたいこと、面白いと感じることをする方が長続きするし、結果的に自分も周りも幸せになるのではないかと思うようになりました。というわけで、これからは手法にこだわらず、島の鳥の研究を地道に続けていくつもりです。

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2022年度大会終了のご報告とお礼

日本鳥学会2022年度大会 大会長 白木 彩子

 早いもので,今年も残すところ一ヶ月を切ってしまいました。日本鳥学会会員の皆様には益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 去る11月3日~6日,東京農業大学北海道オホーツクキャンパスで開催された日本鳥学会2022年度大会は,天候にもめぐまれ,盛会のうちに終了しました。接種証明の提示などコロナ感染対策や,運営をスムースにするためのアンケートにご協力を頂いた参加者の皆様,大会の運営に多方面からご支援くださった関係者の皆様には心よりお礼申し上げます。
 今回の大会参加者および公開シンポジウムの参加者はそれぞれ350名,216名で,口頭発表64題,ポスター発表98題,高校生ポスター発表8題,自由集会9題,受賞講演1題,公開シンポジウム講演5題と,各プログラムとも充実した講演・発表と活発な討論が行われました。ランチタイムを拡大し,アルコール抜きで行った異例の懇親会では,応援団学生による大根踊りをお楽しみいただけたかなと思います。エクスカーションのクルーズツアーは満員御礼にて催行,オホーツクキャンパス野鳥研学生による朝の鳥見ツアーにも大勢の方がご参加くださいました。
 本大会は現地と遠隔の混成実行委員会によるはじめての,さらにはコロナ禍での対面開催となり,先が見えない状況での意思決定では苦しむこともありましたが,参加者の方々から「楽しかった」,「あたたかい大会だった」,「よく配慮されていた」等のお言葉を頂戴し,中止となった2020年度大会から足かけ3年間にわたる準備が報われた気がいたしました。また,対面で語り,議論できることの素晴らしさを再認識した大会でもありました。一方では,不行届きの点も多々あったかと存じます。遠隔地やコロナ禍における大会運営を通しての気づきや課題については,今後の大会の在り方や改善の検討にむけた一資材となるよう改めて整理し,皆様との共有を図って参りたいと思います。
 次回2023年度大会は,9月15日(金)~18日(月・祝日)に金沢大学角間キャンパスにて対面開催の予定です。どうぞ奮ってご参加ください。

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2022年度大会運営スタッフ
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日本鳥学会誌71巻2号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では、号ごとに編集委員の投票によって注目論文を決め、その発行直後からオープンアクセスにしています。

今号は、以下の論文が選ばれました。

 著者: 藤巻 裕蔵
 タイトル: 北海道における鳥類の繁殖期の分布
 DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.71.121

多くの研究者がもつ夢のひとつは、自分の人生をとおして取り組みつづけられる研究テーマをもつことではないでしょうか。そして、日本で生まれ育った多くのフィールドワーカーのあこがれのひとつは、広大な北海道の自然を自分のフィールドとすることではないでしょうか。

このモノグラフは、私たちの研究者としての夢が単なる夢ではなく現実のものにできること、それが多くの研究や保全活動に貢献するすばらしいランドマークとして具体的な形にできることを示してくださった論文だと、私は思っています。この論文をよんで元気づけられる読者は、私だけではないと思います。

藤巻先生からも、熱いメッセージが届いています。先生の研究者としての半生が濃縮された400字です。

 北海道の鳥が見たくて1957年に北海道の住人となったのだが,大学では「鳥では飯は食えないぞ」という教授の一言で.卒論から博士論文まではノネズミの生態をテーマとすることになった.
 
 就職した北海道立林業試験場ではノネズミの研究の傍ら細々と鳥の調査もしていたが,1975年帯広畜産大学に異動したのを機会に,おもな研究対象を鳥にすることにした.翌1976年から何処で,どのような環境で,どのような鳥が見られるかを調べ始めた.調査地は低地の住宅地,農耕地,湖沼周辺の草原から山地の森林,高山に及んだ(写真参照).登山道の少ない日高山脈の調査では川の渡渉や沢登りも経験した.
 
 これまでに自分で調査できたのは北海道の約3分の1であるが,未調査の地域については,論文・報告書,探鳥会記録,個人の未発表記録で補い,約50種の分布について発表した.これらの成果のまとめが今回の分布に関する総説である.今後も体力の続く限り調査を続けるつもりである.

藤巻裕蔵
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1. 十勝地方の農耕地,防風林が特徴的(撮影:藤巻裕蔵).
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2. 湧洞沼とその周辺の草原(撮影:藤巻裕蔵).
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3. 北海道中央部の針広混交の天然林(撮影:藤巻裕蔵).
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4. 日高山脈北戸蔦別岳(撮影:藤巻裕蔵).
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第6回日本鳥学会ポスター賞 大泉さん・JIANGさん・徳長さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会 中原 亨

久々に対面形式で開催された日本鳥学会2022年度大会では、前回大会に引き続きポスター賞を実施いたしました。日本鳥学会ポスター賞は、若手の独創的な研究を推奨する目的で設立されたものです。第6回となる本年度は、厳正なる審査の結果、大泉龍太郎さん(岩手大・農)、JIANG YAJUNさん(千葉大・融)、徳長ゆり香さん(日獣大)が受賞しました。おめでとうございます。
 
応募総数はオンライン開催だった昨年度大会よりも15件増加し、その分、受賞は狭き門となりました。

どのポスターも興味深く、甲乙つけがたかったというのが実状です。部門によっては受賞者と次点者の間の差はほんの僅かなものでした。一方で、審査で上位となったものであっても、改善の余地が見られる部分もありました。発表内容をもう一度見直すことで、より魅力的なものとなることを期待しています。ポスター賞は30歳まで、受賞するまで何度でも応募できますので、あと一歩だった方も、2次審査に残れなかった方も、是非来年再挑戦してください。

最後に、ポスター賞の審査を快諾して頂いた9名の皆様、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

2022年日本鳥学会ポスター賞
 応募総数:48件
  繁殖・生活史・個体群・群集部門:12件
  行動・進化・形態・生理部門:19件
  生態系管理/評価・保全・その他部門:17件

【受賞】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
 「盛岡市におけるコムクドリの渡り時期の把握と生息環境の要因解析」
 大泉龍太郎・池田小春・山内貴義

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大泉さん(左)

《行動・進化・形態・生理》部門
 「鳥類の翼先端形質は飛翔特性と生息環境に対応する」
 JIANG YAJUN・村上正志

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JIANGさん

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
 「野生鳥類の肺から検出された大気中マイクロプラスチック」
 徳長ゆり香・大河内博・谷悠人・新居田恭弘・橘敏雄・
 西川和夫・片山欣哉・森口紗千子・加藤卓也・羽山伸一

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徳長さん(画面)

【次点】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
 「都市―農村間の環境勾配におけるツバメの営巣地選択と最適環境の評価」
 天野孝保・山口典之

《行動・進化・形態・生理》部門
 「カワウ・アオサギ混合コロニーにおける非対称な『盗聴』行動」
 本多里奈・末武かや・東信行

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
 「非繁殖地におけるヘラサギ類の干潟と周辺環境利用」
 清水孟彦

【一次審査通過者】
《繁殖・生活史・個体群・群集》部門
 「鳥類の共同繁殖の推進力は何か?
         ―リュウキュウオオコノハズクを用いたケーススタディー」
 江指万里・熊谷隼・宮城国太郎・外山雅大・高木昌興

 「佐賀平野におけるハシブトガラスとハシボソガラスの営巣特性」
 新宮 仁大・徳田 誠

 「網走周辺のオホーツク海域に生息する海鳥類の生息状況と分布に関わる要因」
 木村智紀・白木彩子

《行動・進化・形態・生理》部門
 「メスのブンチョウの,聞き馴染みのある求愛歌に対する選好性の検討」
 牧岡洋晴・Rebecca Lewis・相馬雅代

 「千葉県およびその周辺地域に特異的な眉斑の薄いエナガの分布」
 望月みずき・大庭照代・箕輪義隆・平田和彦・桑原和之

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
 「繁殖期に耕作放棄水田を利用するヒクイナの行動圏」
 大槻恒介

 「知床半島における観光船の与える魚類と
         自然の餌生物の海ワシ類による利用実態」
 谷星奈・白木彩子

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2022年度内田奨学賞を受賞して

藤岡健人

この度は、2022年度内田奨学賞をいただけたことを大変光栄に思います。ご指導いただいた共著者の方々や、査読や選考に携わったすべての方々に、この場をお借りして感謝申し上げます。

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網走大会で綿貫会長から賞状を頂く様子

研究紹介

都市は自然が少ない環境です。そのような中で、人は公園などに残された自然に触れることにより、さまざまな恩恵を受けています。たとえば、四季を感じるといった精神的恩恵や、血圧降下などの肉体的恩恵を受けています。また、児童の自然観を育成し、環境教育にも効果があります。世界的に生物多様性が減少するなか、都市の面積は拡大しており、都市においてどのように自然環境を維持するかは重要な問題です。

一方で、都市に動植物が生息することにより、動植物と人との間に軋轢が生じることもあります。その1つとして、カラス類による電柱への営巣があります。カラス類が電柱に営巣すると、停電を引き起こすことがあり、電力会社は、停電を未然に防ぐために、多大なコストをかけて見回りをし、巣を撤去しています。しかし、電気事故の発生は減少しておらず、むしろ巣の撤去数は増加傾向にあります。今後、人口が減少していくなか、少ないコストで、電力インフラをいかに保守していくかは重要な社会的課題です。

そこで私は、都市部で問題となっているカラス類と人間生活との軋轢解消を目的として、次の研究を行いました。まず、電力会社が保有する電柱へのカラス類の営巣記録を提供いただいて、北海道における営巣リスクの高い環境要素の抽出と、撤去費用の推定をしました。次に、函館市において、カラス類はどのような場所にある電柱に営巣しているのかを明らかにしました。

北海道において、カラス類がどのような地域の電柱に営巣しやすいかを明らかにするために、各事業所の撤去巣数に対して、次の6つの変数を解析に用いました:人口、気温、海岸線の長さ、農地面積、年、事業所。一般化線型混合モデルにより解析した結果、人口が多く、気温が高く、海岸線の長さが長い地域において、撤去巣数が多いことが明らかになりました。また、北海道全体で、撤去にかかる人件費は、年間約4000万円であると推定しました。

次に、函館市において、カラス類が営巣しやすい電柱を調べるために、都市緑地との関係に着目しました。なぜなら、カラス類は公園などの都市緑地に好んで営巣をするので、都市緑地があることで、その近くの電柱には営巣しない可能性があるからです。そこで、実際に営巣されたことのある電柱と、その電柱までの都市緑地の距離を調べ、都市緑地の存在が、周辺の電柱への営巣を抑える効果を持つかどうかを解析しました。その結果、カラス類の巣があった電柱は、都市緑地から離れていたことが明らかになりました。

以上の結果から、次のような提言ができると考えています。都市緑地にあるカラスの巣を撤去すると、なわばりの防衛効果がなくなり、周辺の電柱への営巣を助長する可能性があるため、巣を残しておく方が良いかもしれません。しかし、都市緑地にカラス類の巣があると、人が襲われるリスクもあります。そこで、巣を撤去する場合は、人への攻撃性の高いハシブトガラスの巣を優先的に撤去するという選択肢があります。また、撤去により周辺の電柱への営巣を助長する可能性が高まることを、電力会社と共有することが有効だと考えます。

当初の予定では、野外調査も行い研究の信頼性を高める予定でしたが、コロナ禍によってそれが叶いませんでした。修士課程を修了し、現在は札幌市で中学校の理科教員をしていますが、今後も鳥類学とのつながりを続けたいと考えています。そのために、身近に学ぶことができる鳥類学を生徒たちに教え、鳥好き、鳥類学好きの生徒を増やしていきたいと考えています。最近では、「藤岡といえばカラス」という認識が広まっていたり、私に野鳥クイズを挑んでくる生徒が出てきたりしました。ゆくゆくは、鳥学会の大会で生徒たちに発表させて、学問に触れる機会をつくってあげたいと考えています。

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ヨーロッパの大学院に留学してみた ③ドイツでの生活

前回「②フランスでの生活」はこちら

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冬のブロッケン鉄道。蒸気機関車でブロッケン山を駆け上がる。

ドイツに来た瞬間のことは今でもよく覚えている。
フランスから来る鉄道との乗り換え駅であるシュトゥットガルト。12月下旬の凍てつく空気のなか、鉄道のホームで1時間半ほど待っていた私の身体は芯まで冷え切っていた。大荷物を抱えて高速列車ICEに乗り込み、その席に座った瞬間、もわもわした生地の座席にふわっと包み込まれた感じがした。「ああ私は帰ってきたんだ」とかいう妙に格好つけた台詞とともに不思議な安心感を味わった。(たぶん座席が温かかっただけ)

順調な滑り出しで、私のドイツ生活は始まった。マックスプランク鳥類学研究所は自然のなかにぽつんと建物が落ちてきたのかと思うほど周りが緑にかこまれている。自然好きには素晴らしいロケーションだった。そこで研究している人たちはみな温かく、太田さんの記事でも以前言及されていたように皆が英語で話してくれるので、意思疎通がとりやすくて安心して生活できた。

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研究室のメンバーでバードソンに参加。朝から晩まで鳥を探して自転車で走り回った。

しかし研究はなかなか思い通りにいかなかった。日本の研究室で相手にしていたのは動物の標本や分子実験道具、コンピューターの画面だった。しかし行動を知りたいと思ったら対象になるのは生きている動物だ。計画通り・予想通りにいかないことが多くて、研究の締切が決まっている身としては焦る。先生たちに何度「彼らは機械じゃないから、心配しすぎないで」と言われたことだろう。

そしてコロナ禍の留学で一番つらいこと、孤独が降りかかってきた。日本との時差は夏時間で7時間、冬の時間で8時間ある。こちらが仕事終わりにさぁ家族や友達と話したいとおもっても向こうは深夜である。悲しいことがあっても、嬉しいことがあっても、共有できる人がいなくてため込んでしまう。そして現地の友達も多くない上に皆多忙だ。研究所は大学ではないから修士の学生が自分を除いて一人もおらず、6月までパーティーなんてひとつもなかったので人と知り合う機会がない。感染予防のために研究室の部屋も個室を与えてもらっているので、過ごそうと思えば一度も言葉を発しなくても一日過ごせてしまう。話す人がいないので言語も上達しない。研究のディスカッションが思うようにできない。恥ずかしい。悔しい。だんだんヒトと話すのが怖くなって、そのままディプレッションのなかへずぶずぶと。残る話し相手は実験対象のカナリアたちだけだ。

そんな私をみてフランス人の先輩がはっきりと一言。「ハナ、土日は休みなさい!」

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研究室の先輩と初めてのアルプス登山。私は滑って転んで帰りは半泣きだった。

先輩のアドバイスに従って、週末は山にいったり、サイクリングしてみたり、電車で少し遠い街に出かけてみたりと頭をすっからかんにして遊ぶようになった。小さいときから運動神経のかけらもない私だが、出かけるための体力をつけようと思って筋トレと運動も少し始めてみた。鳥を見に行く体力もついて、ヨーロッパの食事でだらしなくなっていたお腹も健康的になり、ストレス発散もできて、一石二鳥どころではない。そうして充実した週末を過ごしてから月曜日を迎えると、びっくりするくらい気持ちよく、さあ頑張ろう!という気になれる。お昼にキッチンで人と会えば、週末の楽しかったことで盛り上がれるので話題にも困らず自然に会話ができてありがたい。

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ローテンブルクの可愛らしい街並み。電車と自転車で行くのに6時間かかったが、その価値がある街だった。実はシュバシコウの巣が写っている。
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ドイツとオーストリアの国境からアルプスを望む。

フランス人の先輩曰く「フランスは世界で一番時間を効率良くつかう国」らしい。休むときはしっかり休み、働く時は時間を決めて集中して取り組む。このやり方は私もとても気に入った。先輩に、おかげでとても調子がいいですと伝えると、「ハナが良い働き方を学んでくれて嬉しい」とにっこり笑って言ってくれた。

Netflixのドラマ「エミリー、パリへ行く」に出てくるフランス人が言った “I think the Americans have the wrong balance. You live to work. We work to live.” という言葉にとても共感した。自分の生活と研究とは別のところにあるという認識で過ごすことが大事なように思う。

あんなにフランスから脱出したかったのに、結局私にはフランスが必要らしい。

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東京農大北海道オホーツクキャンパス 野鳥研究会通信 その3

オホーツク野鳥研究会

日本鳥学会会員のみなさま、こんにちは。オホーツクキャンパス野鳥研究会です。この度の台風14号、網走では大きな影響はなかったようですが、大雨や暴風の被害に遭われた全国の方々には心よりお見舞い申し上げます。
さて、今週も引き続き気軽に訪れることのできる網走周辺の鳥見スポットをご紹介します。11月3日に開催される鳥学会大会公開シンポジウムのテーマは「流氷がくる海~オホーツクの海と生き物たち~」で、オホーツクの海鳥に関する講演も予定されています。そこで本シリーズ三回目となる今回は、海鳥観察に適した鳥見スポットをご案内します。

<網走市周辺鳥見スポット第三弾>
●能取岬
網走市街から約10km北に位置する、網走国定公園内にあるオホーツク海に突き出た岬には,白黒ボーダー模様の八角形の能取岬灯台が立っています。岬の周辺は切り立った海食崖で、崖下の岩礁が連なる荒々しい北の海の光景とは対照的に、崖上は平坦な台地に牧草地が広がり、北海道らしい牧歌的な雰囲気が漂います。東方には遠く知床連山が海に浮かび、眺望も最高です。
崖上に沿って柵が設置されており、その手前から海上や岩礁上にいる海鳥類を観察します。大会時期にあたる秋から冬はシノリガモがとても多く、その中にコケワタガモやホンケワタガモが見られたこともあります。ウミガラス類やウミスズメ類も比較的よく観察され、春・秋にはアビ類の大群が見られることもあります。海鳥観察をしていると、目の前をオジロワシやオオワシ、ハヤブサが通過し、台地上の草原や牧草地では、ハギマシコやツメナガホオジロ、ユキホオジロなどに遭遇することもあります。それ以外にも、ここでは渡り途中に立ち寄った思わぬ鳥に出会えるかもしれません。

<学会時期に観察される主な鳥>
シノリガモ・コオリガモ・アカエリカイツブリ・アビ・オオハム・シロエリオオハム・ハシボソミズナギドリ・ヒメウ・ウミウ・ミツユビカモメ・アカアシミツユビカモメ・カモメ・オオセグロカモメ・ハシブトウミガラス・ケイマフリ・ウミスズメ・ウトウ・オジロワシ・オオワシ・ハヤブサ・ハギマシコ など

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冬の能取岬(野鳥研究会部員撮影)

<能取岬へのアクセス>
市街から道道76号を北上して車で約15分。駐車場(無料)にはトイレがあるが、11月は閉鎖されている可能性が高い。

●網走港(網走川河口、港、親水防波堤ぽぽ260)
オホーツク海に注ぐ、一級河川網走川の河口部に位置する河口港。11月上旬は、港の内外と網走川の河口付近でカモやカモメをはじめとする沢山の海鳥類を観察することができます。とくにシノリガモやホオジロガモ、ヒメウが多く、近距離からの観察が可能です。天候に左右されますが、カモメ類は港内や周辺防波堤上で最も多く観察され、とくにミツユビカモメがたくさんいます。バスターミナル周辺のホテルからは徒歩圏内にある、河口や港に隣接する道の駅あばしり二階の食堂で、オホーツク海や海鳥を見ながら食事するのもお薦めです。
徒歩で行くのは厳しいですが、網走港の南側には、防波堤上を散策できる親水防波堤「ぽぽ260」があり、この防波堤上は沖にいる海鳥類の観察に適しています。学会時期には、アビ類を観察できるでしょう。上空には時折ヒシクイが通過するほか、海ワシ類の渡り時期でもあり、崖に沿って飛んでいる姿をよく目にします。

<学会時期に観察できる主な鳥>
ヒシクイ・オオハクチョウ・シノリガモ・ホオジロガモ・アビ・オオハム・シロエリオオハム・ヒメウ・ウミウ・ミツユビカモメ・ウミネコ・カモメ・オオセグロカモメ・ケイマフリ・ウミスズメ・オジロワシ・オオワシ など

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冬の網走川河口(野鳥研究会部員撮影)

3回にわたる野鳥研究会お薦めの鳥見スポットの紹介は、今回が最終回です。網走周辺にはさらに多くの野鳥観察地があります。網走市周辺に限らず、オホーツクエリアの探鳥地情報を知りたい方は、日本野鳥の会オホーツク支部web サイト「オホーツク探鳥マップ」をご覧になると良いと思います。
次回以降は、網走滞在に役立つ(かもしれない)耳より情報をお届け予定です。

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オーストラリアの研究環境について

皆さんこんにちは。クイーンズランド大学の天野と申します。

前回は私がイギリスからオーストラリアへ異動した経緯について紹介させていただきました。今回はクイーンズランド大学の研究環境やブリスベンの生活環境について少し書かせていただこうと思います。

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クイーンズランド大学

まず初めにクイーンズランド大学を選んだ理由についてです。私が現在受給しているFuture Fellowshipは受け入れ先を自分で決めることができます。オーストラリアにはGroup of Eightと呼ばれる研究で有力な大学が主要都市に存在しており、受け入れ先としてメルボルンやシドニー等、他の都市にある大学も候補として考えました。ただクイーンズランド大学にはCentre for Biodiversity and Conservation Science(CBCS)という世界的にも有数の保全科学の研究拠点があり、魅力を感じていました。また同大学のリチャード・フラー教授のグループからケンブリッジにも度々学生等が訪ねてきており、他の大学より親近感があったということも影響していたと思います。ブリスベンという都市については実はほとんど下調べはしませんでした。ただ、それなりの規模の都市で医療や教育、日本食材調達などの面でも困ることもなさそうでしたし、家族からも賛同を得たのでクイーンズランド大学に決めることとしました。

2019年3月、日本への一時帰国を経て、成田からブリスベン行きの便に乗りました。ちなみに空港では当時オーストラリアのクラブチームに所属しており試合で日本に来ていたサッカーの本田圭佑選手に遭遇し、当時サッカーをしていた娘が写真を撮ってもらうという幸運にも恵まれました!幸先がいいなと思ったのを覚えています。

ブリスベン空港に下降する機内からはマングローブ林が見えました。飛行機から降りると湿った空気が体にまとわりつき、夜に街を歩くと頭上をオオコウモリが悠々と舞っています。イギリスの気候に慣れた身としては亜熱帯の雰囲気がとても新鮮でした。

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近くの公園にあるオオコウモリのねぐら。夕方になると一斉に採餌場所へ飛び立っていく。

ブリスベンのあるクイーンズランド州はSunshine stateという愛称がつけられているように、年間の晴天率が非常に高いことで知られています。晴天率が低いイギリスと比較して、これが初めに衝撃を受けた点でした。渡豪間もない頃は人に会うたびに「天気がいいですね!」と言っていたのを覚えています。渡豪1年後に始まることになるコロナ禍を、小さい子供二人の育児をしながら乗り切っていくうえで、いつも見上げれば青く美しいブリスベンの空には正直救われたと思っています。同時に当時はそれほど気にしていなかったのですが、イギリスでは天候に由来するストレスを受けていたのかもしれないなと感じました。

ケンブリッジに比較して大学や街で見かける東アジア人が非常に多いことにも驚きました。ケンブリッジを含むイギリスでも中国など東アジアからの留学生は増えていると思いますし、ロンドンのような大都市ではアジア系を含むあらゆる人種の住民がいます。ただ私が所属していた当時、約500人の保全科学者が集っていたCambridge Conservation Initiative(CCI)では東アジア人は時折見かける程度でした。自分の所属するコミュニティに民族・文化的に近い人がいるだけで何となく気が楽になるということも新しい発見でした。

大学構内でもかつ丼、ラーメン、海苔巻き等が売られているように、ケンブリッジ滞在時に比較して、日本食を手に入れることもかなり容易になりました。一方で、スーパーで売られている魚の種類がケンブリッジでよりも少なかったことは想定外でした。主に売られているのはバラマンディと呼ばれるスズキに近い種と養殖サーモンで、その他は魚屋でないとなかなか手に入らず、もうちょっと何とかならないものかといつも思っています。

大学に着任し、居室をもらって様々な人に挨拶した後は、しばらくの間、研究プロジェクトを立ち上げるために四苦八苦しました。予算管理システムの理解や発注の仕方等は待っていても誰も教えてくれないので、様々な部署に出向いて教えを請わなければなりません。プロジェクトのリサーチアシスタントや博士課程の学生募集や採用の手続きにも相当の時間が取られました。Fellowshipで雇用されている間は講義負担は少ないのですが、それでも初年度は50分×8コマの講義をゼロから作らなければならず、準備にほぼ2か月を費やしました。

採用が決まった博士課程の学生は、渡豪予定直前に始まったコロナ禍の影響で、結局ブリスベンに来ることができたのは予定の2年後となりました。その結果しばらく指導する学生がいない状態が続きました。ただこの期間は自分の研究を進めながら研究室の運営について学ぶいい機会だったと思います。Fellowship申請時にもサポートしてもらったフラー教授から、しばらくは協同でラボミーティングを行わないかと声をかけてもらい、彼のグループの定期ミーティングに参加するようになりました。フラー教授は渡り鳥の保全や都市緑地が心身の健康にもたらす恩恵等の研究で世界的に有名ですが、研究指導はもちろん、メンバーのメンタルヘルスにまできめ細かな気配りをしていることがすぐに分かりました。またクイーンズランド大学では各学生が複数の指導教官をもつことになっています。フラー教授が指導している学生の副指導教官となることで、具体的なノウハウも学んでいくことができました。幸いにも渡豪3年目の2021年あたりから今年にかけては他にも2人の博士課程学生、1人の学部生を主任指導教官として指導することとなりました。

大学では生物科学部に籍を置く一方、学部を超えたセンターとして、生物多様性保全に関わる研究を行う34名の教員、15名のポスドク、106名の学生から構成されるCBCSにも所属しています。ケンブリッジで所属していたCCIほどの規模ではありませんが、やはり一つの目標を共有しつつ多様な専門やアプローチを用いて研究を行っている人材が集まっていることには、共同研究の構築や情報・経験の共有、外から人材を呼び込むための相乗効果等、利点は多いと感じています。

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家のベランダによくやってくるワライカワセミ

オーストラリアという国の特徴としては、まず良くも悪くも他国から地理的に孤立していることが挙げられます。ヨーロッパ諸国と日常的に人材の行き来があったイギリスに比較すると、やはり他国との人の行き来には一つ壁があるように感じます。オーストラリアの多くの大学は国外からの留学生を受け入れることで成り立っている面もあり、CBCSもアジアや南米からの留学生が多く国際色豊かです。ただ海外からポスドクや在外研究を行うビジターなどが来ることは少ないと感じています(コロナ禍の影響もあると思いますが)。コロナ禍ではリモートでの学会参加などが進み、地理的な障壁の影響は小さくなりましたが、ヨーロッパやアメリカと時差が大きいことも研究交流を阻害する壁の一つとなります。一方、日本とはほぼ時差がなく、二国間での研究助成金等も多いので、今後日本との研究交流は増えていきそうだと感じています。

研究分野としては、海洋生物学の存在感が抜きんでているのには驚きました。これはもちろんグレートバリアリーフを始めとした素晴らしいフィールドに恵まれているため、国内外から海洋生物学を志す人材が集まってくることに由来すると考えられます。ハンバーガーショップで買ったお子様セットに様々な職業の人形がついてくる付録があったのですが、学校の先生、美術家、ライフセーバー(これもオーストラリアらしい!)、科学者などと並んで、「海洋生物学者」だけ独立に人形があったのには驚きました!

最後に、オーストラリアに来て何よりも特徴的だと感じたのは、国が移民で支えられているという強い意識です。イギリスには計9年近く住みましたが、最後まで自分達はあくまで移民で国民との間には埋められない溝があるように感じていました。一方、オーストラリアは移民の割合も高く(豪:29.8%; 英:14.4%; 日:2.2%)、多数派であるイギリス系の人々も元をたどれば移民であるという事情からか、移民も一緒に国を作っていく社会の一員であるという意識をごく自然と持ちやすいように思います。そのため民族的なマイノリティーという立場で、子供の教育も含めて生活を営んでいくのにとても適した国だと感じています。

長女が通う小学校は特に民族的多様性が高く、約三分の一の児童がオーストラリア国外の出身で、その国籍は50か国以上に及びます。そんな学校に長女が通い始めてすぐに、印象に残ることがありました。児童が集まる朝礼に親も参加できるのですが、そこでまず学校の目標の一つとして教えられていたのが、平等・多様性の推進でした。また多様性を尊重するための手段として、人と考えが違った場合に折り合いをつける具体的な方法まで1年生に教えているのです。自分が受けた学校教育とは国も時代もまるで共通点がないため、子供が学校や保育園で学んでくることは私にとってもどれも新鮮で、今後一緒に新しい学校教育を体験できることを楽しみにしています。

終わりの見えないコロナ禍、益々顕在化する気候変動の影響、止まらない生物多様性の損失。周知の通り時代は混沌としています。そんな中、娘達は友人達と毎日新しいことを学んでスポンジのように吸収しながら、青空の下ではつらつと遊んでいます。そんな姿を見ていると、希望は本当にここにあるんだなと心の底から実感することができるのです。毎日そのことに救われるような思いがしています。

話は少しそれましたが、次回は私が現在主導しているプロジェクトについて紹介して、この短い連載を終わりとしたいと思います。

(次回に続く)
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鳥関連イベント動画の紹介 『Cinema未来館 「ズートピア」 ―ちがっていても、いっしょに、いきる。』

遠藤幸子(広報委員)

みなさん、こんにちは!
タカの渡りの季節ですが、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、お家にいる時間でも楽しめる、鳥関連の動画についてご紹介いたします。

ご紹介するのは、7月10日(日)に日本科学未来館で開催された『Cinema未来館 「ズートピア」 ―ちがっていても、いっしょに、いきる。』というイベントです!こちらのイベントの現地開催はすでに終了しておりますが、トークセッションのパートの動画が現在公開されています。

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イラスト:日本科学未来館 科学コミュニケーター 小林沙羅

イベントが開催された日本科学未来館は、東京都のお台場にある国立の科学館です。こちらで「ズートピア」というディズニー映画の上映と動物行動学者である鈴木俊貴氏を迎えたトークセッションがセットとなったイベントが開催されました。鈴木さんは、2018年に日本鳥学会の黒田賞を受賞されており、シジュウカラの研究などで鳥学会会員のみなさんはご存じの方も多いかもしれません。

トークセッションでは、研究からみえてきた鳥の混群の世界や映画にでてきた動物たちの関係性に迫りながら、「それぞれちがう存在同士が、一緒に生きるってどういうことなんだろう?」というテーマについて、鈴木さん、科学コミュニケーターの竹下さん、手話通訳士の和田さん、そして会場のみなさんといったさまざまな観点からお話が展開されていました。

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左から、手話通訳士の瀧尾さん、研究者の鈴木さん、科学コミュニケーターの竹下さん。
写真提供:日本科学未来館

当日の様子はYoutubeで公開されていますので、興味のある方はぜひご覧ください!(*映画「ズートピア」はご覧いただけませんのでご注意ください。)

動画は下記URLからご覧いただけます。
URL:https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202207102527.html

*日本科学未来館の科学コミュニケーター小林沙羅さんが描かれた、素敵な混群のイラストも必見です!

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