東京農大北海道オホーツクキャンパス 野鳥研究会通信 その1

オホーツク野鳥研究会

日本鳥学会会員のみなさま,こんにちは。
日本鳥学会2022年度大会の開催地となりました,北海道オホーツクキャンパスの野鳥研究会です。網走で会員のみなさまにお会いできること,鳥に関するさまざまな研究発表に触れられることをたいへん嬉しく思っています。学会中の網走滞在がより充実したものになるように,これから,農大生目線でみた網走周辺の鳥見スポットやおススメの観光名所,食事処,注意点など、役立つ(かもしれない)情報を連載で発信していきたいと思います。大会に先立ち旅程を立てる際の参考にしていただければ幸いです。
さて、初回の今回は,気軽に訪れることのできる網走市周辺の鳥見スポット第一弾です。

<網走市周辺鳥見スポット第一弾>
●東京農業大学北海道オホーツクキャンパスフットパス:通称ファイン・トレール

オホーツクキャンパス内に作られた全長約5kmの散策路で,森林やオホーツク海などの自然景観と,農業の生産現場風景との共生と調和に関するプロジェクトの一環として,2002年に学生と教職員により整備されました。パッチ状に構成されるさまざまなタイプの森林内を巡るほか,一部は農場や家畜の放牧場に隣接します。天気が良ければ知床連山やオホーツク海を臨むことができ,開拓時代の遺産もあります。野鳥のほか,エゾリスやキタキツネなどさまざまな野生動物の生息地でもあり,学生の実習や調査に利用されています。また,動植物の四季の変化を楽しむことのできる,地域住民の憩いの場や散歩道としても親しまれています。
野鳥研究会は定期的にファイン・トレールで観察会を実施しており,学会開催時期には一時的に滞在するものも含めて,以下のような鳥たちを見ることができます。

[ファイン・トレールで会期中に観察できる可能性のある主な種]
トビ・オジロワシ(たまにとまる)・オオワシ(上空通過)・コゲラ・アカゲラ・クマゲラ(採餌)・ミヤマカケス・ハシボソガラス・ハシブトガラス・キクイタダキ・ハシブトガラ・コガラ・ヒガラ・シジュウカラ・ヒヨドリ・シマエナガ・ゴジュウカラ・キバシリ・ムクドリ・ツグミ・ハクセキレイ・カワラヒワ・マヒワ・ベニマシコ・シメ・カシラダカ・エミュー(飼育・鳥インフル感染防止のため現在非公開)

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ファイン・トレールでの冬の自然観察実習

ファイン・トレールには,どなたでも自由に立ち入ることができますので,学会プログラムの空き時間などに森の散策やオホーツクの風景をお楽しみください。また,大会期間中にはプチ・エクスカーションとして、ファイン・トレールにて朝の探鳥会を行います。私たち野鳥研究会の学生がガイドしますので,興味のある方は大会ホームページのエクスカーションのページをご確認ください。

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イギリスからオーストラリアへの異動について

海外での研究シリーズとして、オーストラリアで研究されている天野達也さんの記事を数回に分けてお届けします。天野さんは鳥学通信で以前「アマノノニッキ in ケンブリッジ」を連載されており(その1その2 | その3)、その続編となります。お楽しみに。(広報委員 上沖)
皆さんこんにちは。オーストラリア・クイーンズランド大学の天野と申します。2019年3月にイギリスのケンブリッジ大学からこちらに異動して、既に3年以上が経過しました。そのうち2年半はコロナ禍ということもあって、何もかもバタバタしていてオーストラリアへの異動についてどこかでお話するような機会もありませんでした。
ところが先日、突然ブリスベンに現れた上沖さんから鳥学通信への寄稿のお話をいただきましたので、回想する形になってしまいますが、異動の経緯やオーストラリアの研究環境について、また現在のプロジェクトなどについて、数回に分けてお伝えできればと思います。
まず今回は、なぜオーストラリアに異動することにしたか、についてです。
これはもちろん様々な要因が組み合わさった結果なのですが、大きく分けて二つの理由がありました。
一つ目は、ケンブリッジに8年間滞在し、そろそろ環境を変えるタイミングなのかなと感じたことにあります。
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去る直前のケンブリッジの様子
ケンブリッジには2008年から一年間を在外研究として、また2011年から2019年まではJSPSの海外特別研究員European CommissionのMarie-Curie Fellowship、さらに他2つのポスドクという立場で滞在していました。その間本当に素晴らしい環境で研究ができ、家族共々ケンブリッジという美しい街のことを、離れて何年も経った今となってもとても気に入っています。ケンブリッジでは研究職も比較的多くあるので、選り好みしなければもっと長く滞在することができたかもしれません。
ただ一方で、自分の研究も続けつつそろそろ研究室主宰者(PI)になるという次のステージに移りたいとも思い始めていました。そこでNERC FellowshipRoyal Society Fellowshipという制度にも2回ずつ応募しましたが、採用されませんでした。ケンブリッジ大学では他に関連分野でのPIの応募は滞在中皆無で、PIになるためにはイギリスの他大学に移るか、他国に移るかのどちらかしか選択肢はありません。
そこでケンブリッジ滞在後期には日本でのポジションにもいくつか応募しました。ケンブリッジには世界各国から学生やearly-career researcher(ECR)が集まってきており、その多くは何年かすると自国でポジションを得て帰って行きます。そんな姿を見ていて、自分もまた日本で研究したいという意欲が高まった時期があったのですが、結果としてご縁はありませんでした。
一方で、ケンブリッジにとても愛着があったので、イギリスの他大学でのポジションへの応募にはなかなか踏ん切りがつきませんでした。
もう一つの理由としては、環境を大きく変えてでも追及してみたいアイディアが出てきたという点があります。
ケンブリッジではウィリアム・サザーランド教授という本当に素晴らしい共同研究者且つメンターと多くの時間を過ごすことができました。特に彼が始めたConservation Evidenceという一大プロジェクトの成長を計10年程も間近で見ることができたことは、私の研究者人生にとってのとてつもなく大きな財産です。
まだ彼のプロジェクトに1人か2人しかメンバーがいなかった時期に、彼の自宅の近くを散歩しながら、なぜこのプロジェクトを始めたのか尋ねたことがありました。彼の答えは、「ニック・ディビスはカッコー、ティム・クラットンブロックであればミーアキャット(共にケンブリッジ大の著名な教授)、といったように多くの研究者にはその人の強みというものがある。自分もそういったものが欲しかった。」といったものでした。その時はそんなものかと思ったのですが、その後10年をかけて、一つのアイディアに多くの人を巻き込んで、本当にコミュニティや社会に変化をもたらしていく姿を見て、プロジェクトというものはこうやって形にしていくんだなと実感したものです。
この時の会話がその後もずっと頭に残っていて、自分の強みとは、自分が10年や20年かけて形にしていきたいものとは何だろうと自問する日々が続きました。
当時私は世界規模の水鳥モニタリングデータを解析することで、生物多様性の変化を明らかにし、その駆動要因を特定するという研究に取り組んでいました。それ自体は大変重要な課題であり、自分としてもやりがいを持って取り組んでいましたし、今でも続けています。ただ一方で似たような研究を行っている人も多く、正直なところ自分がやらなくてもこの分野の研究は何の問題もなく進んでいくだろうなと感じていました。あのグループがこんな論文を出した、こちらのグループはこの雑誌で発表した、といったような目で自分が周囲を見てしまうことにも、自分自身が周囲からそのように見られることにも嫌気がさしていました。そんなこともあって、世界中で誰もやっていない重要な課題、そして自分でないとできないことに取り組みたいと強く感じるようになりました。
幸いなことにその「自分でないとできないこと」の目星はある程度ついていたのです。2016年に言葉の壁が科学に及ぼす影響について論じた論文を発表していたのですが、ちょっとした思いつきで始めたこの論文に対して、周囲から大きな反響があることは感じていました。この論文の延長として趣味的に始めた作業を核として、それなりの研究計画をまとめることもできました。その研究計画をサザーランド氏や同僚に話した感触も上々でした。
とすれば、あとはその計画をどう実行するかだけです。するとちょうどその頃、オーストラリアでFuture Fellowshipというmid-career researcher向けのフェローシップがあることを共同研究者から聞いていました。一般にフェローシップとは研究に重点を置きながら学生の指導なども行うPIポジションで、制度の特性も私の意図によく合致しています。ただ多くのフェローシップはECR向けで、学位取得から10年以上経過していた私が応募できるものはほぼなく、学位取得から5-15年の人を対象とするオーストラリアのFuture Fellowshipは珍しい例と言えます。余談ですが、私のように学位取得後何年か経ってから海外に出る(私の場合は5年後でした)ことの利点として、経験や技術、アプローチなどがある程度確立できていることがある一方、ECR向けのフェローシップのように応募できる制度が後々限られてくるという点は欠点として挙げられると思います。
妻とも相談し、英語圏でイギリスと文化的にも比較的近いオーストラリアであれば、医療や育児、治安の面でも安心だろうという結論になりました。
いずれにしても、相当の時間と労力をかけて渾身の申請書を書き上げ、Future Fellowshipに応募しました。数か月経って、採用が発表された日のことは今でもよく覚えています。イギリスにしては珍しく暑く寝苦しい夜から目覚めた朝、受け入れ先となったクイーンズランド大学・生物科学部の学部長と、後に同僚となる何人かの研究者から祝福のメールがあり、また大学のニュースサイトでも他の採用者と共に紹介されていました。
自分の提案した研究計画が評価されたという喜び、新しい国や環境に向かうという興奮と共に、長らく滞在したケンブリッジとイギリスを本当に離れるんだなという寂しさが同時にこみ上げてきました。ただやはり当時は、とても気に入っていたケンブリッジという環境を離れてでも、新たなステージでのチャレンジをしなければ進歩がないという危機感を抱いていました。そのため、何よりそのチャンスを、しかも言葉の壁という突拍子もない課題に対して与えてくれたAustralian Research Councilに感謝する気持ちが強かったのを覚えています。
既に保育園で友達もできていた当時3歳の娘が引っ越しにどう反応するか心配でしたが、ビーチやカンガルー、コアラ、クジラが出てくるプロモーション動画を見せ、この国に行くんだよと伝えると、想像以上にあっさりと「いいね!」の一言をもらい安心しました。
残されたケンブリッジでの日々は本当に貴重な時間でした。サザーランド氏を始め多くの人たちが新しい門出を祝福すると同時に私が去ることを残念がってくれましたし、あらゆる道端や建物に様々な思い出が染みついているこの小さく美しい街に別れを告げるのは、本当に寂しいものでした。
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送別会の様子
いつものように寒い2月のある日、機内から後ろへと流れていく”Heathrow”の文字を見納めとして、日本経由でオーストラリアはブリスベンへと向かいました。
今回のところはここまでとし、次の原稿ではオーストラリアでの研究環境について書きたいと思います。
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日本鳥学会2022年度大会:W6 みんなで作ろう!目録8版(その2)

西海 功*・金井 裕・山崎剛史・小田谷嘉弥・亀谷辰朗・齋藤武馬・平岡 考・池長裕史・板谷浩男・大西敏一・梶田 学・先崎理之・高木慎介
(目録編集委員会)
*E-mail: nishiumi[at]kahaku.go.jp
※送信の際は[at]を@に変えてください

 「日本鳥類目録」は,日本国内で記録されたすべての鳥類を列挙し,それぞれの分類上の位置づけを明らかにし,生息状況を記した目録です.市販の図鑑類や,各種の鳥類調査,行政や法律など各分野で参照される基本文献であり,分類や分布の新知見を反映して定期的に改訂することが,日本鳥学会の社会貢献のひとつとして重要です.第8版の2022年発行にむけて編集作業を進めていますが,従来とは違った次の改訂の方針の一つとして,できる範囲で学会員の意見を聞きながら改訂を進めています.2021年2月から4月には掲載種に関わる第1回パブリックコメントを実施しました.いただいた投稿数は18件で,意見総数は20以上となりました.様々な角度からの意見をいただき,編集作業では見落としていた情報の指摘もあり,編集への大きな力となりました.現在は地域記録の整理と各種の解説文の作成を進め,第2回パブリックコメントへの準備を行っています.そこで,2019年の自由集会に引き続き,2回目の自由集会を開催して,日本鳥類目録の意義と第8版に向けた改訂作業について多くの会員に知っていただくとともに,会員の皆さんからのご意見をうかがいました.

日本鳥類目録発行の意義と目的

西海 功(国立科学博物館)

 一言で意義と目的を述べれば,日本の鳥について分類・和名と分布・生息状況を示すことによって,生物学の基礎情報としての分類および分類群名の国内の統一を図って科学的議論をおこないやすくするとともに,生物多様性の観点から日本の鳥について把握し,評価しやすくすることと言えそうです.例えば,いつも庭に来る鳥が,何という名前の鳥でどんな分類なのかを決めて提唱していることになります.より実用的には,絶滅危惧種(亜種)に指定されたのがどの範囲なのかも示していることになります.例えば,「イイジマムシクイ」が伊豆諸島に繁殖分布する集団のみを指すのか,吐噶喇列島の集団も含むのかといったことです.さらには,日本には何種の鳥がいるのかといった生物多様性の基本的な疑問に答えるためにも不可欠な文献といえます.
 第7版の主な掲載内容は,分類(上位分類と学名),種と亜種の和名,種の英名,種と亜種の(世界の)分布域,亜種の国内分布と生息状況(ステータス)および生息環境ですが,掲載内容には一定の決まりはなく,初版(1922年)以降変遷があります(下表参照).例えば,初版では原記載情報やシノニムリスト(同物異名情報)がありましたが,世界分布や生息状況,生息環境は示されていませんでした.次の第8版では,第7版を引き継ぐ予定です.
 改訂の具体的な作業としては,大きく3つあり,1)上位分類と学名(種・亜種の名称や分布範囲)の検討,2)それらの標準和名の提唱と検討,3)日本での鳥の記録の検討です.前2者は分類担当委員が,3)は記録担当委員が主に検討しています.最新の研究成果に基づいて分類をアップデートする際に苦心しているのは,過去の版との継続性と世界のチェックリストとの整合性の兼ね合いです.

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掲載予定種の分類の検討結果

齋藤武馬(山階鳥類研究所)

 鳥類目録に掲載される掲載種の分類が,どのようにして委員会内で検討されているのか,その方法について一通り概要を説明したのち,検討結果について,種レベルの変更,属名の変更,亜種レベルの変更の順に説明を行いました.
 まず,種レベルでは,26種について種小名が変更されます.その中で注目すべき種として,キジ,シジュウカラ,トラツグミ等を取り上げ,詳細を説明しました.さらに,別種の亜種であることが分かった種や,近縁種と同種となった種など,4つの変更例について紹介しました.
次に,属レベルの再検討により,属名が変更となった77種について説明しました.そのうちの64種に関しては,新称の属和名が与えられます.
 亜種レベルの変更に関しては,亜種そのものが無くなり,単形種となったのが15種,そのほか,亜種が種に昇格したり,他種の亜種になった例など7つの変更事例について紹介しました.また,2亜種については和名が変更されます.
 最後に8版発行に向けての課題について言及しました.第一に,「種の分布域のチェック」です.これは,日本国外にも分布する種について,その分布域の一部で種の分割があった場合,種の分布域の記載を変更する必要が生じるという問題です.第二に,「新規掲載種の順番」ですが,これは新しく目録に加わった種をどの種との間にリストに差し込むかという問題などです.第三に,「記録に疑義のある種(亜種)の分類の検討」です.観察記録において,記録された個体がどの種や亜種と判定されるかについては,時としてその同定が困難な場合があります.その理由としては,記録そのものが不確実な場合と,その分類群の分類がまだ不確定なため,どの種(亜種)に同定してよいか判断が難しい場合があります.このような課題について,今後次版の出版までに検討しなければならない現状の問題点を紹介しました.

掲載予定種の記録の検討結果

小田谷嘉弥(我孫子市鳥の博物館)

 記録担当からは目録8版の掲載予定種の検討について,実際に行った作業の過程を説明し,今後の課題について議論しました.目録8版では正確性と検証可能性を重視する方針で,文献において十分な検討が行われていない観察例は認めないこととし,目録7版掲載種のうち31種を検討種に移すことを提案しました(これらの変更の詳細については,第一回パブリックコメントのファイルをご覧下さい).しかし,掲載種とならない見込みの種・亜種の中には,同定に誤りがないと考えられるものや,複数回の観察例があるものも含まれています.今後は,これらの種・亜種の記録について正確性と検証可能性を担保する文献として発表していくことが望まれます.

今後の進め方*

金井 裕(日本野鳥の会)

 目録8版は,来年の鳥学会大会前の9月初旬の発行を目指しています.現在は,分類について募集した意見の整理を終えて,10月末を目標に地域記録の集約を進めています.その後は1月末を目標として目録本文の原稿案を作成し,2月・3月で原稿内容の地域記録記載について,第2回目の意見募集(パブリックコメント)を予定しています.4月から7月にかけては,いただいた意見による記載の修正を行い,8月初めに原稿を完成させて印刷に入るというのが現在の予定です.スケジュールとしては,かなり厳しいのですが,来年の鳥学会大会の日程に合わせて作業を進めて行きますので,みなさんのご協力をお願いします.
(*「今後の進め方」でのスケジュールは2021年9月時点での予定を記しています.かなりの遅れが出て,現在第2回目の意見募集を鋭意準備中となっています.)

質疑応答
 以上,4名からの発表の後,発表内容あるいは目録全般に関してのご質問やご提案を参加者の皆さんから受けました。チャット機能を使って質問・提案をいただきつつ,できるだけ口頭でも補足いただきました.司会は平岡が務めました.
 分類に関連しては,目録改訂は現在10年ごとに更新されているが年々発表される分類変更に追いつかない場合があるため随時補遺を刊行することの提案,日本鳥類目録で用いている亜種の定義についての質問,シノニムリストの掲載の要望をいただきました.第8版出版後は目録編集委員会を常設委員会にして,目録の毎年のアップデートを和文誌等で示したいこと,亜種は形態的に区別できる異所的集団ととらえていること,シノニムリストの掲載は煩雑になるため古い版のPDFの公開でそれを補いたいことをそれぞれ説明しました.
 記録に関しては,目録の記録の目的は,「文献記録の整理」ではなく,「現在の日本の鳥類相を記録すること」なので,学術発表を原則としつつも,確実な記録は追加する柔軟性があるべきだとの指摘がありました.これについては,そもそも「確実な記録」かどうかを判断する際に文献主義を取るべきである,というのが目録編集委員会としての考えです.また,分布情報については全国鳥類繁殖分布調査の結果,博物館の標本情報も活用すべきという提案がありました.これについては,文献での検討が要求されるのは,国内初記録となるかの判断に関してであり,記録僅少種以外についてはそのようなソースも踏まえて都道府県別に収集した情報を反映していきたいと考えています.
 和名については,リュウキュウサンショウクイを別種とするに際して,新たな種サンショウクイの和名には修飾語をつけることが,従来からの観察記録との区別や,今後,分類変更が周知されるまでの観察記録を生かすために必要だという提案があり,再検討することになりました.また,タネコマドリでは,分類の改訂によって亜種和名が実際の分布と乖離することになるので,和名変更の提案があり,取り入れる方向で検討することになりました.さらにアホウドリという和名は蔑称にあたりふさわしくないとのご意見もいただきましたが,2021年3月の評議員会での議論の結果を紹介し,第8版では変更せず継続課題であることを説明しました.
目録における外来種の掲載位置について,キジやヤマドリなど,国内移入があって両方に分かれているのはわかりにくいとのご指摘があり,亜種不明の移入についても亜種が判明している移入(つまりIB)と同様にPart Aにも記載することを説明し,また,在来種と外来種を統一したリストの要望については,ホームページでの統一リストの公表を予定することにしました.
 分類,記録,その他の項目についてさまざまな質問や提案があり,時間を超過しての意見交換となりましたが,たいへん有意義なものでした.第8版で取り入れることが難しい提案についても今後継続して検討していきます.

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鳥学会誌の新しい投稿・査読システムのおしらせ

藤田 剛
日本鳥学会誌編集委員長

日本鳥学会誌の投稿や査読、編集のためのシステムが変わりました。

以下のページが、投稿をしていただく著者の皆さん、そして査読にご協力いただいている査読者の方々の入り口のページになります。

日本鳥学会誌ログインページ
https://mc.manuscriptcentral.com/jjo

初めてこのページからログインされる時 (できたばかりですから、多くの方が初めてですね) は、左上のログイン枠の上にあるユーザーID窓の右上にある「アカウントを作成」をクリックしてください (図1)。

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図1.鳥学会誌の新しい投稿・査読システムのログイン画面

アカウント作成に必要な情報は、以下になります。姓名と所属機関 (ご住所) は、日本の文字とアルファベット、どちらでも大丈夫です。

1. 名、姓
2. メールアドレス
3. 所属機関 (住所でもOK)
4. パスワード (アルファベットと数字2文字以上)

アカウント作成後、そのままログインされます。ログインされなかった場合は、メールアドレスとパスワードを入力して、ログインしてください。

ログインしたら上のバーにある「著者」の文字をクリックし、現われた画面右にある「投稿の開始」をクリックすると、具体的な投稿作業がはじまります (図2)。

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図2.ログイン後に「著者」ボタンをクリックしてあらわれる画面

ログインできない、ログイン後の作業がうまくできない場合、あるいはシステムの不具合になどお気づきの点がありましたら、お気軽に私まで (go[at]es.a.u-tokyo.ac.jp) メールでご連絡ください。

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日本鳥学会2022年度大会:標本集会へのお誘いと2021年度大会第4回標本集会報告

加藤ゆき(神奈川県立生命の星・地球博物館)

11月3日から東京農業大学北海道オホーツクキャンパスで開催される日本鳥学会2022年度大会で、第5回となる標本集会を企画しております。本集会へのお誘いとこれまでの復習を兼ねて、過去の集会報告を掲載いたします。 詳細は要旨集にて。皆様、ぜひお越しください!
第1回「標本史研究っておもしろい―日本の鳥学を支えた人達」
第2回「標本を作って残すってどういうこと?―実物証拠としての標本」
第3回「収蔵庫は宝の山!―標本の収集と保存を考える―」
――
日本鳥学会2021年度大会自由集会報告

初めてのオンライン開催となった本集会では、全国の博物館、研究施設の共通の悩みである「収蔵庫」について話し合いました。標本の収蔵スペースが不足している、収蔵庫の適切な温湿度調整が難しいなど、設備的な問題はどの施設でも抱えています。それを解消するにはどうすれば?参加者が意見交換を行いました。

第4回「収蔵庫ってどういうところ?-標本収蔵施設の現状と問題点」
はじめに

 自然史標本は,生き物がその時,その場所に生息していた証拠である.良い状態で長く保存できる標本は,時間が経過してもなお,多くの情報を私たちにもたらしてくれる重要な研究資源である.標本の重要性は承知していながらも,管理する立場になると,増えていく標本にスペースが足りない,標本を整理するマンパワーが足りない,剥製に害虫・カビが発生したなど,悩みも多い.そして,これらの問題を担当者だけで抱え込んでいる施設等は多い.本集会は,標本の収蔵管理についての問題や対応方法を参加者と共有することを主目的に,5名の演者の事例を紹介した.(加藤)

1.神奈川県立生命の星・地球博物館事例
収蔵庫ってどういうところ? ―標本収蔵施設の現状と問題点
加藤ゆき(神奈川県立生命の星・地球博物館)

 神奈川県立生命の星・地球博物館は自然史の総合博物館であり,岩石や化石,動植物標本など約70 万点を収蔵している(2020年3月現在).しかし,開館から26年経過し収蔵スペース不足が懸念されるようになり,収蔵棚の充足率は 70%以上となり,分野によっては収蔵棚に置ききれずに,廊下や作業場所等に仮置きをせざるを得ない状態となっている.また,様々な標本種が混在して置かれており,標本害虫の生物標本への影響も懸念される.しかし,標本の保存のためにはその種類に応じた置き場所を確保,管理をすることが望ましい.当館では年1回の収蔵庫燻蒸,年数回の燻蒸装置での燻蒸(ともにエキヒュームを使用)と併用してIPM(総合的有害生物管理)により標本害虫やカビへの対策を行っている.また,標本の再配架や物品倉庫等を収蔵スペースとして活用している.分野によっては標本の形状変更や寄贈標本の受け入れ制限等を行っている.

2.山階鳥類研究所の事例
収蔵庫ってどういうところ?山階鳥類研究所の収蔵庫
岩見恭子(山階鳥類研究所)

 山階鳥類研究所は鳥類学専門の学術機関であり,鳥類学の拠点として基礎的な調査・研究を行うとともに,環境省の委託を受けて鳥類標識調査を行っている.研究用の標本の収集と活用を進めており,現在,約8万点の鳥類標本を収蔵している.標本害虫やカビ対策として,燻蒸は二酸化炭素及びエキヒュームを使用,小型のものはチャック付ビニール袋に脱酸素剤を入れて対応している.標本の表面に発生したカビは,70%エタノールを使用して,手作業で除去している.

本発表では,動画を用いて前室での標本受け入れ作業や収蔵庫内での保管のための作業を紹介した.標本数は年々増加の傾向にあり,最近は展示用剥製の寄贈も多い.このように急増する標本の収蔵スペース確保は急務であり,引き出しの中を整理することで収蔵量を増やしたり,収蔵棚の上も活用したりするなど対策を進めている.さらに,インターメディアテク等の外部施設に標本の一部を寄託している.しかし,収蔵スペースは絶対的に不足しており,新しい収蔵施設の設置が望まれる.

3.豊橋市自然史博物館の事例
お隣は動物園!豊橋市自然史博物館の収蔵庫
安井謙介(豊橋市自然史博物館)

 1988年に開館した豊橋市自然史博物館は「豊橋総合動植物公園(のんほいパーク)」内にあり,動物園,植物園,遊園地が併設されている.演者はここで,哺乳類を中心に鳥類,両生爬虫類の標本を20名のボランティアと共に作製しており,年間約100点ずつ資料が増加している.豊橋市内はもとより愛知県内各地から野生動物の死亡個体を受け入れるとともに,併設している動物園の死亡飼育個体の受け入れも行っている.なお,動物園とは同一部局であるため,死亡飼育個体の譲渡は行政的障害なくスムーズに行われている.全館や収蔵庫の単位での燻蒸は,入園者への安全を考慮し実施しておらず,標本収蔵前に小型滅菌装置で酸化エチレンを用いた燻蒸を行っている.

当館でも所蔵資料が収蔵庫の収容力を大幅に超えているため,収蔵庫内レイアウトの変更や収蔵棚の増設を2018年度から逐次実施し,収容力向上に努めている.加えて収蔵スペース確保のため,新収蔵庫の増築,常設展示室の閉鎖とその収蔵庫への転用,プレハブ建築での代用など様々なケースに対応した予算要求を毎年行っているが,残念ながら未だ実現していない.

4.インターメディアテクの事例
商業施設内の展示空間 ~あなたが思うより無茶振りです~
松原 始(東京大学総合研究博物館)

 インターメディアテクはJPタワー/KITTE内にある公共施設で,東京大学総合研究博物館(UMUT)のブランチ施設として開館した.KITTEには80店舗が入り,うち飲食店は31店である.そのような商業施設にあるため,博物館事業を行うにあたり様々な制限がある.例えば搬入口が狭い,自由に使える空間が限定される,他店舗があるため燻蒸などの薬品類が使えない,照明や空調が個別に設定できないなどである.また標本の搬出入のための車両は地下の駐車場を使用しなければならず,利用時間も考慮しなければならない.さらに,KITTE の位置する旧東京中央郵便局舎は外装に手を加えることがほぼ不可能で,展示室には外光の入る作りとなっている.さらに,もともと収蔵という発想がなく,収蔵庫は2,996m2の施設全体に対し130m2と狭い.そのため,庫内にレコードと鳥類のはく製が同居する,といった状態になっている.

しかし,東京大学で使われた古い什器等を活用した展示空間としてデザインされた結果,KITTEの利用者がインターメディアテクにも入るようになり,結果として来館者増につながった.ここは,山階鳥類研究所の標本の一部を寄託されている.ガラス越しにそれらを閲覧できるようになっており,隙間スペースを利用して企画展も開催している.しかし棚が作り付けで,標本の交換や展示準備に技を要する.また,週に1回は清掃を行っている.

5.ドイツ ケーニヒ動物学研究博物館の事例
古いシステムの中で
相川 稔(ケーニヒ動物学研究博物館)

 1900年に開館したケーニヒ動物学研究博物館は,総面積18,048m2,スタッフ144名の大規模な博物館であり,現在も拡張工事が行われている.多くのヨーロッパの博物館施設と同様,ここでも剥製を含む標本作製は標本士が担当し,剥製の管理や研究は学芸員が行っている.施設で受け入れている検体は原則研究用であるが,教育目的の標本も必要に応じて作成される.受け入れた検体も,状態やデータの不備もしくは処理能力との関係でかなりの割合廃棄される.ドイツの法律の関係から,個人による死骸の持ち込みはない.骨格標本のうち交連骨格はごくわずかで近年製作されることはほぼない.タイプ標本は特別な場所で保管されている.標本作製には標本士6人が作業にあたっているが3年来新しい展示作成のため標本作製は滞りがちである.骨格の処理には晒骨機に分解酵素を用いて作製し,脱脂はジクロロメタンを入れた脱脂釜を使用する.小型動物は虫を使用することもある.燻蒸は薬剤ではなく冷凍(-40°C)で行っている.

収蔵庫はゆったりとした作りで,引き出しに仮剥製が並んでいる.一部入っていないところもあるが,これは収蔵棚制作時に「これから収集する」標本のためにあえて空けてあったところで,そのためわずかながらもスペースに余裕がまだある.本剥製は棚に入れているが,展示ケースを作り直したガラスケースに収蔵しているものもある.

おわりに

 今回の自由集会はZoomを利用して行われ,質問,意見等は随時チャットに入れていただき,発表後に意見交換の時間を設けた.参加者からは,収蔵施設の新設が難しいのであれば,プレハブ倉庫や貨物用のコンテナを利用してはどうだろうかといった意見が出された.また標本の寄贈の受け入れはすべて行っているのか,標本の脱脂方法や標本害虫・カビ対策の具体的な方法について教えてほしいといった質問が寄せられた.

プレハブ倉庫の活用例は,いくつかの研究施設,博物館施設でも実際に行われている.しかし,建物外に置くためセキュリティ面や調湿・調温を考慮すると,配架できる標本種が限られるだろう.寄贈標本に関しては,各施設がそれぞれの収蔵スペースを考慮しながら判断しており,またその標本の希少性,重要性,標本の状態等とも関連するため,ケースバイケースとなることが多いようだ.脱脂は密閉してジクロロベンゼン溶剤に標本を入れる,アセトンに浸すなど,有機溶剤を活用した方法が紹介された.この話題に関連して,ケーニヒ動物学研究博物館で使用されている脱脂釜にも高い関心が寄せられた.

標本を残すことは自然史の情報を後世に残し,未来の研究を支えることである.それぞれの館で抱える問題は多く,標本を残すための環境が劇的に良くなる兆しはなかなか見えない.しかし,より多くの標本を良い状態で残していく志を持ち続け,研究施設や博物館,そして鳥類学に関心のある人々が情報を共有し,互いに助け合える関係を構築していくことが大切だと考えている.本集会のようにそれぞれの情報や問題を出し合って,それらを共有することを続けていくことがその第一歩となるであろう.鳥学会大会は鳥類の専門家だけではなく,博物館関係者も集うため自然史資料について考える良い機会であると考える.最後に他の集会が平行して開催されるなかで,本集会に参加いただいた62名の方々にこの場を借りてお礼申し上げる.今後も引き続き「標本」に関心を寄せていただければ幸いである.

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ヨーロッパの大学院に留学してみた ②フランスでの生活

前回「①留学のきっかけ」 はこちら

フランスでの生活を一言で表すなら、暗黒時代だ。中二病みたいなことを言っていると思うがウルトラスーパーダークナイトメアという気持ちで日々を過ごしていた。
さて、すべてがわからない。文字通り、すべてである。スーパーの買い物の仕方、洗濯機の使い方、交通機関の乗り方。銀行口座を作ろうにも予約の取り方がわからないし、ようやく銀行にたどり着いたと思えば銀行のドアは閉まっていて入れない(後に、ブザーを押せば開けてもらえることが判明した)。とにかく本当に些細なことで何度も躓いて何一つ予定通りに進まないので自分に嫌気がさした。

授業が始まると強いフレンチアクセントの英語に、そしてグループワークに苦しんだ。毎週の成績は最低ライン。自分だけなら良いが、グループでは私の拙い英語のせいで皆の足を引っ張っているのがとても苦痛だった。クラスメートは7割方フランス人で、留学生もヨーロッパ圏から来た英語が超堪能な優秀な人ばかり。皆母国語で講師とディスカッションができたし、そうでなくても英語で素晴らしいプレゼンテーションやエッセイを披露した。自分にはどちらもできなかった。

カルチャーショックにも苦しんだ。道路の状況や食品管理など、潔癖症の日本人が見たら気が狂いそうな違いだった。複数人の会話では他人の話に割り込むくらいの勢いで話さないと、何時間たっても発言の機会は一向に回ってこない。そして彼らはお酒をよく飲んだ。授業は9時から18時まであってそのあと課題をこなしていたら一日が終わるはずなのに、クラスメートは毎日のように夜の街に繰り出していた。その余裕とお金は一体どこから出てくるのか!

私は黒い虫がたくさん出るかつ北向きという条件の悪い部屋に住んでいたことも重なって、日照時間が短くなるとともに私のライフも削られていった。

1.5週間くらいの長期休暇があったので、気分転換に地中海沿いの街へ行ってみた。波の音を聞きながら紺碧に透き通った地中海と空を眺めていると、心が洗われる気がした。もうずっと一生このまま海を見ているだけでもよい。夢心地な地中海の誘惑であった。しかし目が覚めると、今度は勉強や課題をしていない自分の状況により焦ってしまって結局逆効果だった。

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(写真左)コートダジュールの名にふさわしい青(写真右)バルセロナではオキナインコが大繁殖していた

 

そんな私の精神に重くのしかかってきたのはインターンシップの受入先探しだった。私のコースでは、修了要件として、世界中どこの生物音響学の研究室でもよいから6か月間インターンとして働いてそこで修士論文を書いてきなさい、となっていた。しかし、まずもってどうやって受入れ先を探せば良いかもわからない。面白そうだと思った研究者に必死なメールを送ってみたが、研究資金も業績もない学生を誰が受け入れてくれるというのか。7割方無視されるか断られた。前向きな返事をくださった先生方も数人いたが、はっきりとした返事はまだもらえていなかった。一方で周りのクラスメートは南アフリカやらカリフォルニアやらスペインやらに行く準備をし始めていて、私は焦りを感じていた。

そこで私を救ってくださったのはまたしても相馬先生だった。先生の紹介のおかげで運良く、私はドイツのマックスプランク鳥類学研究所にインターン先を見つけることができた。まるで空から垂れてきた蜘蛛の糸であった。また私は相馬先生のお世話になってしまった。自分の力なさに呆れた。しかし、どうにもならない時には、助けを求めれることも大事だ。このご恩はこれから研究を頑張ってお返ししなければならない。

そして12月のどんよりしたフランスに、救世主のごとく颯爽と現れたのは、休暇にいらしていた太田菜央(マックスプランク鳥類学研究所)さん。同じ研究分野の先輩と母国語で話せるというのはなんとありがたいことか。この時私は数か月ぶりに対面で日本語を話したので、非常に変な感じがした。内容が同じでも、英語で話すのと日本語で話すのとでは得られる充足感が全く違う。思っていることを思うままの表現を用いて吐き出せる。自分の意図した話のオチのところで相手も笑ってくれる。なんて話しやすいんだ!太田さんの優しい人柄も大いに関係していると思うが、会話のノリというか、同じ文化のバックグラウンドをもっているというのは会話において意外と重要な要素かもしれない。太田さんとはドイツでまた会いましょうということでその場を別れた。

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(写真右)クリスマス一色のコルマールの街(写真左)クリスマスツリーのなかにいたイエスズメ。

 

クリスマス直前、五藤を乗せた列車はイルミネーションの輝くサンテティエンヌの街を後にした。彼女はフランスの大学での授業の単位を取り終えたので、ドイツでのインターンシップに向かうのだ。新しい環境に不安そうな顔をしているかのように見えるが、どうやら頭の中はキラキラふわふわしたものでいっぱいだ。どうせクリスマスマーケットのことしか考えていないのだろう。全くのんきなことである。

だがもうこれでウルトラスーパーダークナイトメアにはAdieu!

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日本鳥学会誌71巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

今号の注目論文が決まりました。

著者: 濱尾 章二, 那須 義次
タイトル: 鳥の巣と昆虫の関係:鳥の繁殖活動が昆虫の生息場所を作り出す
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.71.13

鳥が新しい生息地をつくりだしたり、つくり変えたりする生態系エンジニアの役割を担っている可能性がある、というアイディアは比較的古くからありました。たとえば、この論文でも引用されている Sekercioglu (2006) もそのひとつと理解しています。しかし、その実証、とくに鳥の巣がもつ生態学的機能に注目した実証研究は遅れています。

今回、注目論文に選ばれた濱尾さんと那須さんの論文は、その実証に挑戦した興味深い論文です。ぜひ、ご一読を。

以下は、著者のひとり、濱尾さんのことばです。

 私たちの論文を注目論文に選んで下さり、ありがとうございます。鳥の巣からいろいろな昆虫が見つかることについては多くの報文が出ていますが、鳥と昆虫それぞれの利益や生態系エンジニアとしての鳥の役割についてはまだほとんど調べられていません。この研究ではタイトルのテーマに迫ろうと、できるだけ明確な疑問を立て、計画的にデータを集めるよう努めました。共著者の那須さんの対応が素晴らしく早くて的確なので、解析、原稿執筆を含め、力を尽くすことができたと思っています。

 注目論文に選ばれ、オープンアクセスで多くの人に見てもらえるということは嬉しいとともに、やはりいい仕事をしなくてはいけないなと思わされます。励みにもなり感謝しています。

(濱尾章二)
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巣の中で抱卵、育雛が進むうちに昆虫の生息環境が作り出される (撮影: 濱尾氏)
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巣立った後の巣材。白く蓄積しているのは羽鞘屑 (撮影: 濱尾氏)

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ケラチン食の昆虫、マエモンクロヒロズコガ (撮影: 濱尾氏)

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ヨーロッパの大学院に留学してみた ①留学のきっかけ

コロナやウクライナ侵攻の影響で海外渡航しにくい情勢が続いていますが、そうした中でも特に若い世代には外の世界に目を向けて、将来の可能性を広げて欲しいと感じています。前回の太田菜央さんの記事に続き、同じくヨーロッパにて留学中の五藤花さんから留学体験記が届きました。実際に海外で活躍する方の様子を知ることで、今後の進路を考えている方々への刺激となれば幸いです。第1回目は「留学のきっかけ」で、月1程度のシリーズとして数回に分けて掲載予定です。お楽しみに。(広報委員 上沖)
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私の大学があるサンテティエンヌの街並み。これは街のうち綺麗な一部の切り抜きである。

 

2021年9月1日。フランスの玄関口、パリ・シャルルドゴール空港は、いつも通り大荷物を抱えた外国人でごった返していた。トリコロールを背負ったフランスのオリンピック・パラリンピック選手団は迎えの人々とビズを交わしている。そのなかに、周りより明らかに小さい日本人がぽつんと立っていた。名前は五藤花。彼女はこれからフランスの大学院に通って、生物音響学の修士号を取るのだ。さぞかし夢と希望でいっぱいに輝いているであろうと思われたその顔は、汗と涙でぐちゃぐちゃであった。

時はさかのぼって2021年2月。雪の降りつもる北海道大学札幌キャンパス。吹雪に耐え聳え立つ理学部棟の一室で、私は相馬先生と向かい合って座っていた。当時自分の卒業研究の限界にショックを受け、今後の方向性を見失っていた私は、高校生のときから憧れ尊敬していた相馬先生を頼った。先生ならきっと何かよいアドバイスをくれるだろうと。

「五藤さん留学とか興味ある?」
「あります!」(食い気味に)
「ちょうど数日前メーリングリストで回ってきたところで、フランスで生物音響学のコースが今年から始まるみたい」

やはり先生は私に希望の光を投げかけてくださった。研究室に帰って、教えてもらった募集要項を見ているうちに、体中の血が湧きたつような感覚に襲われた。コースの名前は「International Master of Bioacoustics」。Bio(生物)acoustics(音響学)という名前だけあって、鳥の歌の講義はもちろん、爬虫類、哺乳類、昆虫、両生類、魚、ありとあらゆる動物が作り出す音についての講義が毎日開かれる。使用言語は英語で、講師はフランスだけでなく欧米諸国のあらゆるところからやってくるようだ。講義だけではない。実習も豊富で、毎日午後は実際に音響解析ソフトに触れてみたり、なんと一週間もスイス国境の山に行って野外実習をさせてもらえたりするらしい。

美しい写真を添えて描かれる魅力的なプログラムに、私は一気に魅了された。その上授業料は日本の国立大の5分の1だった。フランスに詳しい知人に聞いてみると、大学が位置するサンテティエンヌは比較的治安の良い街らしいし、生活費もパリほど高くないようだ。

コロナがどうなるか不安ではあったが、知人に背中を押され、家族に了承をとってアプライすることにした。生まれて初めてCV(履歴書)とapplication letterを書くことになった。それはアルバイトのために書いたことのある履歴書や志望動機とは全く違った。書き方はネットや本を参考に、たくさんの人に添削してもらって、研究業績もなければ大した英語力や成績の証明もないところを、未来のポテンシャルと情熱で補うようにしてなんとか書き上げた。ところでこれは後日談だが、私がフランスに行くと言い出したときは、あまりの唐突さに誰も私が本気だと思っていなかったらしい。勧めてくれた相馬先生でさえ私がアプライしたことに驚いていた。

アプライから2か月ほど過ぎた5月末、ようやく合否通知のメールが来た。長文の英語に目が滑った。そしてやっと意味を飲み込んだ時、北大のセイコーマートで烏龍茶を飲んでいた私は、驚きと興奮のあまり危うく持っているものをこぼしかけた。

その時から怒涛のように日々が過ぎ去った。授業が始まるのは9月上旬だ。あと3か月しかない。切れていたパスポートの申請、入学書類のやり取り、フランスのビザの申請、東京のフランス大使館での面接、フランスでの住居探し、北大の休学届、引っ越しの準備やワクチン接種と証明書の準備など、やったことを挙げればきりがない。ましてや、やり取りは慣れない英語やフランス語がほとんどである。その間も授業や研究は並行していたので日々頭の中はこんがらがり、身体的にも疲労困憊であった。

しかしこんなのは今の私にはお茶の子さいさいだ。全部日本でできたのだから。

そして9月、パリの空港で私は途方に暮れていた。飛行機は2時間近く遅れ、空港のWi-Fiはつながらず、コロナの陰性証明が必要だと言われて空港内で大荷物を振り回しながらあたふた駆け回り、やっと鉄道駅に着いたと思えば予約していた高速列車を2回も逃し、数万円(学生にはかなりの金額だ)を無駄にしたうえ助けてくれる人は皆無であった。英語もなんとか通じるが、たどたどしいフランス語には誰もまともに取り合ってくれない。

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空港の鉄道駅。大勢の旅客がマスクをして、大荷物両手に改札へ向かう

 

そしてこんなのはまだ序の口だった。それはそれは大変なフランスでの生活が、私を待ち受けていた。

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「若手生態学者が見ている世界-研究者支援写真展-」に研究者として参加して

東京大学大学院 農学生命科学研究科
水村春香

 野外で調査研究をしていると、必ず写真を撮る機会がある。その多くは調査現場や対象種の生態の記録のためだが、私は調査地とさせていただいていた富士山麓に5年通ううちに、目にした多くの生き物や千変万化する風景を、たくさん写真に残していた。おそらく研究をしていなければ、見ることはなかった景色や生き物である。このような写真をどこかで表現、共有できたらいいなと前々から思っており、もし今年博士課程が無事に修了できたら、大学の展示スペースとかで写真展でもやってみようかと朧げに考えていた。しかし、私が知っていた学内のスペースは誰もが見に来られない場所のため、この案は消えそうになっていた。
 そんな中、「若手研究者の写真展しようかと思ってるんだけど興味ある?」との連絡を主催者の清水拓海さんからいただいた。内容を聞くと、単純に研究者が調査中に撮った写真を並べるだけでなく、各研究者の研究内容の紹介とともに写真が展示され、さらに写真の販売を行い、その収益は展示した各研究者へ全額寄付され各自の研究活動に活用されるというものだった。今までにはない研究支援や研究発信の形であると思い、そして何より、死蔵しそうになっていた写真を展示できるまたとないチャンスと感じた。
 出展した写真は、メッセージ性の強いものや調査中の風景といったものを中心に選んだ。また、鳥に関心がなくても興味を持ってもらえるよう、間違い探しとして鳥を探してもらうものも入れた。

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どこに鳥がいるでしょう?(ヨタカが隠れています)

開催中にはお客様とお話する機会があり、研究の内容や展示写真の背景、野外調査の実態などたくさんお話した。私の研究内容は二次草原の鳥類の保全を目的としたものだったが、その大切さに共感してくださる方も多く、また「研究頑張ってくださいね!」と応援のお言葉をいただき非常に励みになった。普段の学会や講演会にはないギャラリーという雰囲気やお客様の反応に、新鮮な気持ちで研究を見つめなおすきっかけとなった。
 今回の企画に参加して、研究者の支援や研究内容の発信方法として写真展という方法があることに、私自身初めて気づいた。これはもし自分で写真展を企画していたらまったく意識していなかったことである。その可能性は写真展に限らず、絵画などアート全般に反映できると考えられ、今後様々な活動が展開され、多くの研究者が参加していくことが期待される。最後に、このような機会を与えていただいた企画者の清水さんに厚くお礼申し上げるとともに、一緒に研究者として出展し、写真展を作り上げた北沢宗大さん、高田陽さん、田谷昌仁さん、湯浅拓輝さんに心より感謝いたします。

(写真の正解は、真ん中の右端です。わかりましたでしょうか?)

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「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展- 」を企画して

慶應義塾大学 政策・メディア研究科
清水拓海

「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展- 」を開催した第一の目的は一般の人に「研究者」そして「研究」について知ってもらうことでした.

 近年の日本における研究者を取り巻く環境は厳しいと言わざるを得ません.「 博士課程進学に自身の資産が求められる点」「限られた助成金に対して激しい競争率」「 博士号取得者に対する日本企業の消極的な採用状況」など日本で研究を行なっていくことや,博士号の取得には多くの壁が存在すると感じていました.実際に日本において博士号取得者数は2006年を境に減少傾向にあります.

 生物多様性の保全やSDGsが話題になっていますが,それらの実現のためには地道に研究を続けている研究者の活動が必要不可欠です.しかし自然環境や野生の動植物を対象として研究を行う「生態学」と呼ばれる分野の研究の実態や内容,その意義などに関して一般の人々が知る機会はほとんどありません.そんな研究者を少しでも応援したいと思い,写真展開催の着想に至りました.研究者が調査の合間に撮影している景色や動物,それらに伴う事象について写真を通じて一般の人に見てもらい,研究内容やその意義に関してわかりやすく紹介することで,[研究者]を身近に感じ,彼らの研究内容にも関心を持ってもらえるような場所作りを目指しました.同時に寄付と,展示写真やポストカードの販売を行い,その売上の一部を参加してくれた研究者に研究費として寄贈するという形を取りました.

 2021年11月29日から12月5日の7日間開催した写真展では100枚程の写真と5人の研究者の研究紹介パネルを展示しました.合計で130人以上の人々が訪れ,実際に写真や研究紹介を見てもらいました.「研究者とその研究について一般の人に知ってもらう」という目的はある程度達成できたのではないかと自負しています.加えて,印象的だったのが研究者を目指す若者(高校生や大学生など)が幾人も見にきてくれたことです.進学などの相談に乗るだけでなく,研究者の大変さや面白さを伝えることもできたので,そういった点でも開催した意義があったと感じています.また「写真を撮ることが目的ではなく,研究のための写真なので清々しい.独特な味が出ていて楽しめました.」「私達がいつまでも住める環境を残していきたいですね.研究,頑張ってください!また企画を楽しみにしています.」「写真のタイトルと一言が面白くてついつい全部読んでしまいました.」といったコメントを一般の方々からもらうことができました.

 それぞれの写真にタイトルと,撮影した研究者による一言をつけたことで,多くの人がじっくりと一つ一つ読んでくださっていたのも嬉しく思いました.「若手生態学者が見ている世界 -研究者支援写真展-」に参加してくれた水村春香さん,北沢宗大さん、高田陽さん、田谷昌仁さん、湯浅拓輝さん,そして写真展を実際に見にきてくださった方々,写真展を紹介してくださったマスコミの皆様を始め,SNSなどで情報を拡散してくださった皆様,本当にありがとうございました.2022年5月9日から5月15日には第二回研究者支援写真展をart gallery OWL にて企画しております.次は写真だけでなく,アーティストとのコラボ作品として「研究者支援アート」の展示も予定しておりますので,是非遊びにきてください.

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写真展の様子(B1展示スペース).
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写真展の様子(2F展示スペース).

生態学者アート支援プロジェクトHP:http://scientist-support-by-art.com/
Art gallery OWL HP: https://gallery-owl-yamate.com/

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