世界のどこで生物は減少しているのか?

天野達也(ケンブリッジ大学)

先月、Successful conservation of global waterbird populations depends on effective governance 「世界の水鳥保全の成否は各国のガバナンス有効性に依存する」と題した論文を発表しましたので、その内容と研究の経緯をここで紹介させていただきます。

論文の閲覧はこちらで、また日本語での解説はこちらもご覧ください。

「生物の数がどこでどのように変化しているのか」という問いは、研究を始めた学生の頃から一貫して興味の中心であったように思います。

私の生物保全に関する研究は、北海道の宮島沼でマガンの数を数えることから始まりました。その後研究を進めるにつれて、ヨーロッパではモニタリング調査で得られたデータの解析によって、様々な鳥類について詳細な個体数の変化が明らかにされていることを知りました。

このように生物の減少を明らかにすることは、科学者が生物多様性保全のために提供できる最も基礎的で根本的な知見のひとつと言えます。私も自然とそういった研究を志すようになりましたが、ヨーロッパ、特にイギリスで蓄積されたデータや知見は非常に豊富で、また当時は2010年目標に向けて世界の生物多様性変化に関する論文が盛んに発表されていたこともあり、「世界のどこでどのくらい生物が減少しているか」という問いは、既に解決済みのようにも感じられました。

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宮島沼に渡来するマガン

そのような認識を改めるようになったのは、世界の脊椎動物の個体数変化を示す指標であるLiving Planet Index(LPI)について、あるひとつの図(こちらのFig 5)を見たのがきっかけでした。この世界的な取組みでも、使われているデータは欧米のものに大きく偏っていて、他の多くの地域では未だ生物の数の変化は明らかにされていないということを、この時に強く実感しました。

そこでまず、日本の鳥類モニタリング調査から得られているデータを使って、鳥類の分布や数の変化を明らかにする研究を始めました。そしてこれらの研究を進めていく過程で、鳥類の中でも特に水鳥についてはInternational Waterbird Census(IWC)という枠組みのもと、世界規模で個体数の調査が長年継続されていることを知ったのです。とは言え、自分がこのデータに取り組むようになるとは、当時すぐには想像できなかったのですが、ちょうどこの頃イギリスで一年の在外研究を行っていたことで、共同研究者との議論や周囲からの刺激もあり、これまで自分が行ったことのない大きなことに取り組んでみたいという意欲も高まっていました。そうして、このIWCデータの解析に取組むプロジェクトを計画したのが2010年です。

Wetlands International(WI)が行っているIWCは、1967年にヨーロッパで始まり、今では世界180か国、5万地点にも及ぶ調査地で、毎年1月に水鳥の個体数をカウントする、まさしく「世界規模」の調査です。アジア、中東、南米など、先述したLPIでも十分にカバーされていない地域に多くの調査地が存在するのは驚異的で、このデータを用いれば「世界のどこでどのくらい生物が減少しているか」という、長年抱えていたシンプルな疑問への答えに、少しでも近づけるのでは、と直感したことをよく覚えています。

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IWCによる調査地(黄色:African-Eurasian Waterbird Census, ピンク:Asian Waterbird Census, 黄緑:Neotropical Waterbird Census, カリブ諸島で行われているCaribbean Waterbird Censusはここでは図示されていない)とChristmas Bird Countによる北米の調査地(水色)

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サウジアラビア(左)とオマーン(右)での水鳥調査の例(写真:Szabolcs Nagy)

共同研究者の紹介で、同年に行われたワークショップでWIとの共同研究の話を進め、翌2011年には同プロジェクトをテーマに掲げたJSPS海外特別研究員制度で本格的に渡英…と、ここまではとんとん拍子でした。しかしその後、何年にも渡って幾多の壁にプロジェクトの進行が阻まれることになります。

まず苦労したのは、世界中のデータを自分の手元に集めることでした。IWCはWIによって管理されてはいるものの、人員・資金不足などのため全てのデータが本部に集約化された形にはなっていませんでした。IWCを各地域で構成しているAsian Waterbird Census(アジア)、Neotropical Waterbird Census(南米)、Caribbean Waterbird Census(カリブ諸島)それぞれの担当者とデータ利用を交渉し、必要に応じて各国の責任者にも許可を取ってもらうというプロセスには膨大な時間がかかりました。さらにIWCではカバーされていない北米で利用できるデータを調べ、毎年IWCと同時期に行われているChristmas Bird Countのデータを用いるために、全米オーデュボン協会と共同研究を確立しました。

次に直面した壁は、手に入れたデータの質を管理する作業です。世界各国で集められた500以上もの種のデータを、一種ずつ既知の分布情報と照らし合わして明らかなエラーを排除し、また、国や団体によって異なる種名表記や亜種の扱いを統一していくといった過程は、地道で且つ時間のかかる作業でした。世界で絶滅に最も近いとされているある種が、とある国で数百羽も記録されていたのを見たときには、絶望的な気持ちになったものです…。

またそうして集めて生データには、年によって調査が行われていなかったり大きな測定誤差が含まれていたりという、長期モニタリングデータが抱える典型的な問題が含まれていました。そのため生データを眺めているだけではなかなか個体数の変化を捉えることはできません。

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マガモの生データの例。円のサイズは観察された個体数を表す。

これらの問題を考慮するために適切なモデリングが必須でしたが、このモデル計算を行う過程も非常に時間のかかるものでした。この時ばかりは世界中膨大な数の調査地で収集されている水鳥データの存在に感謝しながらも、同時に若干恨めしくも思いました。何せ最もデータ数の多いマガモ一種だけでも、世界1万以上の調査地で12万件以上ものデータが集められているのです。マガモ一種のモデル計算を終えるのには2週間近くかかり、全体の計算時間は数か月以上にも及びました。しかしこういった作業の結果、ついに461種について、世界のどこで、どのくらい数が減っているのか、また増えているのか、明らかにすることができたのです。

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マガモの例。その他の種はこちらで公開しています:https://doi.org/10.6084/m9.figshare.5669827.v1

この時、プロジェクトの着想から既に5年近くが経過していました。2015年、当時のオフィスで初めて全461種の個体数変化の地図を重ね合わせ、水鳥全体での変化を表す地図を作製した日のことは、今でも鮮明に覚えています。渡り鳥の減少がよく知られているオセアニアや、生物多様性全般のホットスポットである熱帯地域で水鳥の減少が著しいと考えていたものの、予想に反して最も深刻な減少が見られたのは、イランを中心とした西・中央アジアでした。

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解析に用いた全461種の平均個体数変化

次の自然なステップとして、明らかになった水鳥の増減を何が説明するのか探索しました。国間での生物多様性損失の違いを説明する要因としては、経済発展のレベル保全に費やした予算などが挙げられていますが、サハラ以南アフリカよりも西・中央アジアで減少が著しいなど、経済レベルのみでこのパターンが説明できないことは明らかです。一方、同時期に関わった学生のプロジェクトで、各国のガバナンス(法律の施行などを通してどれだけ効果的に各国が支配されているか)が生物多様性保全に関わる様々なパターンを説明することが明らかになってきていました。そこで、湿地環境の変化、農地の拡大、気候変動などの人為的な脅威、保護区の存在やガバナンスの程度といった保全の効果に関わる要因、そして渡りの有無や分布域の広さ、体重など各種の特性、という3種類に区分される要因の影響を検証することにしたのです。

解析の結果、ガバナンスの重要性は明らかでした。水鳥群集全体で見た場合、最も減少が著しかったのは経済レベルが低い国ではなく、ガバナンスの有効性が低い国でした。また種間の傾向を見ると、保護区によって保全されている種ほど増加していましたが、この傾向はガバナンスが効果的な国(ヨーロッパ諸国など)のみで見られたのです。一方、ガバナンスの有効性が低い国では、保護区による保全は水鳥の増加にはつながっていませんでした。これらの結果は、ガバナンスという社会政治的な要因が、今や世界全体の生物多様性変化のパターンを作り出すほどに大きな影響力を持っていること、そして、保護区が本来の目的を果たすためには、ただ設置されるだけではなく適切に管理される必要がある、ということを示しています。

これらの結果を様々な人と議論した結果、特にイランを中心とした西・中央アジアでの水鳥に関する情報を、多く手に入れることができました。この地域では歴史的に水鳥の資源利用が行われてきましたが、近年伝統的な猟法に大規模な狩猟がとってかわり、局所的な推定でも毎年数十万羽の狩猟圧が、保護区の内外や種の保全状態を問わずあることが報告されています。

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イラン、Fereydunkenarにおける大規模なかすみ網猟 (写真:Petri Lampila)

また過度の水資源利用による湿地環境の消失も知られており(保護区に設定されているイランのLake Urmia のうち、京都府全域に相当する面積が干上がった例)、保護区が設置されていてもこれら複数の直接的な脅威が水鳥の著しい減少につながっていることが推定されます。

ガバナンスが世界的な水鳥の個体数変化を説明するというのは私自身にとっても意外な結果で、当初はなかなか確信を持てないでいました。しかし、上述したような結果をサポートする情報や、2003年にアフリカでの生物多様性とガバナンスの関係を発表し、同じ研究室に所属しているBalmford教授からも心強い意見をもらい、自信をもって論文を書き上げることができました。

その後、完成した論文の投稿直前に共同研究者からデータに含まれたエラーを知らされ打ちひしがれたものの、何とか気持ちを奮い立たせ、さらに再解析に数か月を費やしたのが一年前の年末年始。半年ほどの査読・改訂の期間を経て、ついに着想から7年が経過した昨年末、この論文を発表するに至りました。

この論文は幸運にもNature誌で発表することができました。10年前には自分の論文がNature誌に掲載されるとは考えもしていなかったので、純粋に嬉しく思っています。一方で同じ10年の間に、これら著名な雑誌で発表される論文は、世の中に存在する多くの重要論文の中で氷山の一角のような存在であることも実感してきました。数多くの論文の中から「海上に露出」するためには、運のような自分では制御できない要因も一定の役割を果たすでしょう。また、「海面下」(もちろん論文は世に出ている時点で全て「海上」なのですが)には、同様に重要で新規性の高い論文も数多く存在しています。自分の周囲の人たちがこういった雑誌に論文を投稿している過程を見て、また自分でも何度かその過程を実際に経験することで、海面というただ一つの境界線がその後の見栄えを左右する問題、またそういった論文に付随する著者の様々な思いも、身をもって実感してきました。共同研究者のSutherland教授からは、以前から「(これらの雑誌も)所詮話題性が欲しい雑誌の一つに過ぎないから」と言われていたのですが、今後少しでもそういった境地に達し、氷山全体を見渡す目をもって研究を続けていきたいと思っています。

無論、今回の論文の発表がこの研究の終わりではありません。IWCデータの利点を活かした研究は、共同研究者も含めて今後も推進していくつもりです。また幸いなことに、共同研究を行ったWIはラムサール条約などの関連会議や、各国の調査コーディネーターとも強いコネクションを持っています。この研究の成果を土台とした各地での保全活動の普及や政策への提案、また更なるモニタリング体制の確立など、次の動きは既に始まっています。先述したイランのLake Urmiaでは、日本政府からのサポートも含めた国際的な保全活動の結果、近年その水位レベルは回復傾向にあります。この事例は、暗鬱とした話題が多い環境ニュースのなかで、国際的な保全活動が成功している好例として、もっと注目を集めるべきでしょう。今後、環境変化の影響だけでなく、こういった保全活動の効果を評価する際にも、全世界の水鳥モニタリング調査は重要な役割を果たしていくはずです。

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トルクメニスタンの研究者と本研究の結果について議論するSzabolcs Nagy氏。

2010年にWIのワークショップに参加して、ヨーロッパにおける生物多様性変化を評価する取り組みに改めて感銘を受け、「次の10年で、日本を初めとしたアジアでもこういった取組みを進めていくために少しでも貢献していければ」と感じました。その成果を出すのにこの10年の大半を費やしてしまいましたが、今回の成果を弾みとして、8年前に立てた目標をさらにつき進めていきたいと思います。

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天野さんの論文がNatureに掲載され、その苦労話を書いてくださいとお願いしたところ、引き受けてくださいました

広報委員会(三上修)

CNS(Cell, Nature, Science)など世界のトップジャーナルに論文が掲載されることは、研究者としてはやはり目指してみたい目標です。Cellは、分子レベルあるいは細胞レベルに関する研究を掲載する雑誌なので、鳥の分野(少なくとも野外鳥類を対象とするような分野)はお門違いといえるかもしれません。しかし、NatureとScienceであれば、可能性はあります。

この1月に、そのNatureに、鳥学会員である天野さんの論文が掲載されました。天野さんは東大で学位を取得後、農環研を経て、イギリスのケンブリッジ大学に海外学振の特別研究員として着任、今も同大学で研究を続けています。

天野さんは昨年も海外での研究事情の記事を掲載してくださっています。

鳥学会に属する人の中では、天野さんは珍しくマクロな視点で研究をしています。ひとまずわかりやすいので、「マクロな視点」と表現はしましたが、天野さんの実態を表すにはあまり適当ではありません。「マクロな視点」というと、マクロレベルで観察されるパターンに着目しているような印象を受けてしまいますが、天野さんの視点は、個体レベルから生態系レベルまでを貫き、そして、そこに時間の変化と空間スケールも加えて、たぶん、本来の形に近い生態系を把握しようとしている感じがします。我々は、観察や理解しやすいので、ついつい個体レベルの現象とか、空間を区切ってものを考えがちです。それはそれで意義深いと思うのですが、天野さんのような視点をもった方がいることで、我々の研究もまた違う価値を持ってくるような気がします。

さらにもう1つ天野さんの研究視点として特別なのは、保全という人間の行為を科学的に見ていることだと思います。それは一見、科学哲学者の領分のような気もします。ですが、一昔前に、科学哲学者がやっていたことは、あたかも「窓越しから、何を言っているかわからない夫婦喧嘩を見て、論評していた」ようなものでした。それはそれで、面白い論評だったかもしれませんが、あまり何も生み出さなかったような気がします。対して、天野さんは、夫婦喧嘩を仲裁することを目的として、冷徹でありながらも、妥協策や落としどころを見つけるために科学的な視点で観察をしている気がします(保全活動と夫婦喧嘩を同列に扱っては大変失礼だと思いますが、意図はなんとなくわかってもらえそうなので許してください)。

今回の論文は、その天野さんの持つ2つの視点が組み合わさってできた論文のような気がします。この論文では、それぞれの国におけるガバナンスの強さ(法律の施行などが実効的にいきわたる度合)が、生物多様性の保全の有効性に強く影響していることを議論しています。生物多様性の空間的時間的変化をデータから解析しつつ、それをもたらしている人間活動を分析しているわけです。おそらく天野さんにしかできない研究です。

そこに至るまでの苦労や裏話を鳥学通信に書いてもらうよう依頼したところ、快く引き受けてくださいました。記事はこちらです。

天野さんの裏話を読んでみていただければわかりますが、掲載に対する強い意志を感じます。もちろん、研究者としての気概のようなものもありますが、義務感あるいは正義感のようなものもそれを後押ししているような気がします。

海外で研究をしようと考えている若手(だけでなくてかまいませんが)の研究者、トップジャーナルを目指そうとしている研究者、保全にかかわっている研究者の方には、特に興味深い内容ではないかと思います。そして、そうではなくて、もっと局所的な場所で、特定の種について研究をしている人たちにとっても、自分たちの研究をいつもと違った視点で見てみるきっかけになるのではないかと思います。

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無意識のバイアスーUnconscious Biasーを意識してみませんか

企画委員会(文責:藤原宏子)

 日本鳥学会2017年度大会(筑波大学)の受付近くに、「無意識のバイアスーUnconscious Biasーを知っていますか?」というタイトルのリーフレットが置かれていました。この質問に対する皆さんのお答えはどうでしょうか?この質問へのお答えが「いいえ」だとしても、働き方についての昨今のキーワードである「ダイバーシティ推進」ならば、「はい、知っています」とお答えになる方も多いかもしれません。
企業や大学において、女性をはじめ多様な人々が能力を発揮し共に働くことを推進していこうという動きがみられます。ダイバーシティを推進している組織は活力があり、強いともいわれています。そのダイバーシティ推進において、今、「無意識のバイアス(unconscious bias)」が注目されています。大会の受付近くに置かれていたリーフレットは、男女共同参画学協会連絡会が2017年に作成したもので、連絡会のホームページ上でも見ることができます(http://www.djrenrakukai.org)。
「無意識のバイアス」は鳥の研究に直接は関係しないかもしれません。けれども、長い目でみると、「無意識のバイアス」や「ダイバーシティ推進」に目を向けることは、鳥研究そのものを発展させ、日本鳥学会に有益なことなのだろうと思っています。

無意識のバイアスとは
 「女性は理系より文系が得意だと思う」など、人はそれぞれ何らかの偏見(バイアス)をもっています。このように、誰もが潜在的にもっている偏見を「無意識のバイアス」といいます。無意識のバイアスにはいくつかのカテゴリーがありますが、その一例として、リーフレットには次のような説明があります。

「ある属性(ジェンダー、職業、学歴、人種等)に基づいて人々を集団に分け、各集団の代表的な特徴(例えば、科学に強い・弱い、信用できる・できない等)を想定し、そこに属するメンバーは誰もがその特徴をもつと短絡的に判断してしまうことです。」

「無意識のバイアス」に関する研究
 社会科学や認知科学等の分野では、「無意識のバイアス」に関する実験研究や調査研究が行われてきました。リーフレットでは、このような研究も紹介されています。ここでは、その中の2つだけを簡単にご紹介しましょう。

人種についてのバイアス:雇用主が、同じ内容で写真がない履歴書による書類審査を行い、面接試験を行う人を選ぶ場合、履歴書の名前がアフリカ系アメリカ人の名前(ラキーシャやジャーマル)よりも白人の名前(エミリーやグレッグ)のほうを優先的に選ぶという結果がでています。

母親についてのバイアス: 「Getting a Job: Is There a Motherhood Penalty?」と題する論文があります(S.J. Correll, et al., 2007, Am. J. Sociology, 112, 1297-1338)。能力、学歴、職歴が同じレベルで、子どもの有無だけが違う採用候補者の男女に対する評価を、雇用主(研究協力者)にしてもらったところ、「母親だから」とみなす「無意識のバイアス」の存在が明らかになったのです。子どものいる女性は、男性や子どものいない女性に比べ低く評価され、初任給の額も低く見積もられました。

「無意識のバイアス」と上手く付き合おう
 「アフリカ系アメリカ人は~~だ」、「母親は~~だ」という「無意識のバイアス」は、雇用主の行動に影響を及ぼすことをご紹介しました。さらに、このバイアスを彼女たちがもつことにより自身の行動を縛ることになる可能性もあります。バイアスを持つこと自体は、人間にとって自然なことでしょう。経験に基づいて獲得された「無意識なバイアス」は、各個人が自分にとって有利な判断を素早く行う際の助けになっていると考えられます。しかし、バイアスのせいで、より良い選択肢を見逃している可能性もあります。実際の能力に見合った評価がされないことで、人材の多様化が進まず、組織やコミュニティにもマイナスとなるでしょう。「〇〇は~~だ」で終わらせずに、もっとじっくりと相手や自分自身について細かく情報を吟味することで、より良い判断をすることができると考えられます。 皆さんはどう思いますか?

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第27回国際鳥類会議(IOC2018)の参加補助金を募集しています!

基金運営委員会

 2018年8月にカナダ,バンクーバーで開催される第27回国際鳥類会議(IOC2018)の参加登録が始まりました。日本鳥学会では、研究発表をする若手会員に補助金を交付します。補助金交付を希望される方は下記のウェッブサイトや和文誌にある要項に従い、ふるってご応募下さい。

伊藤基金によるIOC参加補助金の申請募集
 ウェッブサイト:http://ornithology.jp/iinkai/kikin/prizes.html#ito
 和文誌:66巻1号(2017年4月)学会記事

なお、補助金申請の締切は2017年12月28日(必着)、IOCへの要旨提出締切は2018年1月31日です。
お間違えのないようお申し込み下さい。

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鳥の学校「鳥類研究のためのDNAバーコーディング」に参加して

水村春香

 DNAバーコーディングは羽一枚、肉片一かけら、血液一滴からその持ち主を特定できる、夢のような種同定方法です。私は猛禽類のペリットや食痕からその食性を調べることがあるので、このDNAによる方法が使えれば、より精度高く餌の種同定ができるのではないかと考え、今回の鳥の学校に参加させていただきました。
 講習では講師の方々の説明を聞きながら、用意された謎の肉片の種同定を試みました。タンパク質の溶解、PCR、電気泳動、シーケンス反応、解析配列の決定を経て、世界中の生物のDNA配列がデータベース化されているBOLDシステムを用いて種同定するという一連の過程を体感することができました。実験過程は上記のように書くと短く感じられますが、これらの中にはさらに細かい過程がいくつもあり、DNA解析の苦労を実感しました。機械の問題で配列の解読ができないアクシデントもありましたが、用意されていた配列から無事に種同定できました。
 各種反応の待ち時間にはDNAバーコーディングの原理と応用、BOLDシステムの使い方を勉強しました。DNAバーコーディングにより形態では判別が難しい隠蔽種が発見され、バードストライクにおいては衝突を起こした種を血痕から同定し対策に役立てられているそうです。また、糞中の種子から種子散布する種を特定できるなど、様々な分野でこの技術が応用されていることがわかりました。そして全世界の鳥類のDNA解析を目標とし、世界中の研究者、研究機関が協力してBOLDシステムに標本とDNA配列を登録していることも初めて知りました。現在鳥類では4261種がBOLDシステムに登録されているそうです。今後さらに充実し、多様な分野で応用されていくのではないかと思います。
 DNAバーコーディングは設備や費用の問題もあり、誰でも今すぐに解析できるというわけではないと思います。しかしこの講習を受けて、手順を踏めば誰でも解析できること、そして何より分析の現場を体感することができました。時間の制約もあった中、数多くの実験内容をわかりやすく解説してくださった講師のみなさま、そして企画していただいた方々にこの場を借りて感謝申し上げます。

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各自のパソコンでBOLDシステムを参照

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「未知の肉片」の種同定の答え合わせ

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鳥の学校2017:DNAバーコーディング

黒沢令子

 2017年の鳥の学校は、筑波大学開催の鳥学会大会とシンポジウムが終わった9月18日から2日間、国立科学博物館の実験室で実習が行なわれた。受講生16人と聴講生6人に対して、講師4人と企画委員会から1人がついてくれるという恵まれた環境だった。
 まず、講師の齋藤さんから原理の説明があり、種名のわからない生物の体部からDNAを抽出して、種の同定をすることで、バンディングを含めて鳥類学、バードストライク対策、種子散布、また多くの人間活動の幅広い分野で応用が利く手法であるという話があった。
 実習では受講生は2つのテーブルに分かれて2~4人のチームを組み、サンプルからPCR、DNAの抽出、シークエンシング、完成した配列をBOLD systemsを使って種同定をする工程を行なった。
 受講生は2日目の昼食時に自己紹介をした。その後親睦を図る時間をとる予定だったが、自己紹介が熱心だったので時間が満ちるほどだった。年齢層は思ったよりも幅が広く、若い人は大学2年生から、年配の人は退職後、野外研究を続けている人まで、老若男女がいた。目的も野外で拾った羽を種同定したい、糞や胃内容物から食物同定したい、個体識別をしたい等々、多岐にわたっていた。
 実験の各過程でうまくいかない場合もあったが、講師陣が事前にそうした事態を見越して必要な資料を準備しておいてくれたので、最後まで作業を続けることができた。通常なら、3日ほどかかる工程を、2日間の計16時間で駆け足で行なったことになるが、配布資料が充実していたので、ついていくことができた。
 個人的に役に立ったと思う点は、分子生物学の手法について全く経験がないと、翻訳など一般の人向けに説明するときにうまく伝えられないが、今回のように一通りの過程を実物に触れて体験したことで、自信が付いた。今後、新しい用語や技術に出会ったときにも、この経験を元にすれば、自力で勉強することができるのではないかと思う。
 一方、機材や試薬が高価なので、一般人が簡単に自力で実験を行なえるものではないこともわかった。少数のサンプルならば、外注するという方法があることも学んだ。
 年齢がいってから新しい技術に接したわけだが、実体験できたことで、たいそうな充実感を覚えている。企画・主催してくれた鳥学会企画委員会、共催と場所提供をしてくれた国立科学博物館、および講師の皆さまにくれぐれもお礼を申し上げたい。

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慣れないサンプル操作に真剣

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シーケンサーの設定を見守っています

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鳥の学校報告(2017年):第9回テーマ別講習会「鳥類研究のためのDNAバーコーディング」

企画委員会(文責:吉田保志子)

 鳥の学校-テーマ別講習会-では、鳥学会員および会員外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っています。第9回は「鳥類研究のためのDNAバーコーディング」をテーマとして、2017年度大会の最終日午後から翌日にかけての1日半の日程で、国立科学博物館筑波研究施設で行われました(9月18-19日)。講師は、齋藤武馬(山階鳥研)、杉田典正(国立科博)、坂本大地(九大)、西海功(国立科博)の四氏に担当いただき、国立科学博物館との共催として実施されました。申込受付開始後まもなく16名の募集定員が一杯になってしまいましたが、実験機器の容量等の関係から増員はできないため、定員を超えた6名には聴講枠で参加していただき、合計22名が受講しました。
 通常であれば3日程度かかるDNA実験の操作手順を1日半にまとめるため、綿密な講習資料が用意され、実験操作がうまく進まなかった場合にも一通りの手順を体験できるように十分な準備がされていました。事前アンケートをもとに、DNA実験が初めての人と少し経験がある人を組み合わせたグループ編成がなされる等、よく練られた内容の濃い講習は、受講者にとって大変貴重な経験になったと思います。
 講習に使用された機器は実際に講師の方々が普段の研究に使用されているものであるとともに、受講者の様々な質問には複数の講師から即応の回答があり、DNAバーコーディング研究の最先端に触れる機会となっていました。実験器具の準備や機械の調整、施設の利用に関わる共催の手続き等、様々な手配をしてくださった講師の皆様、たいへんありがとうございました。
 受講者からは、概念のみで学習していたことを、今回の講習で実際の操作として体験でき、より深い理解につながった、近隣にある施設を利用して自分の研究にもDNAバーコーディングを取り入れることが出来そうだ、といった沢山の感想が寄せられました。
 講師の皆様から、当日の配付資料および参考資料を公開用に提供いただきました(資料[1][2][3][4][5][6]。今回参加されなかった方も、これらの資料からDNAバーコーディングに関する知識を得てください。
 鳥の学校-テーマ別講習会-は、今後も大会に接続した日程で、さまざまなテーマで開催していきます。案内は、ホームページや学会誌に掲載します。

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国立科博筑波研究施設の実験室で

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サンプルを遠心分離機にセット

 受講者のなかからお二人に参加レポートをお願いしました。ご自分の仕事や研究との関わり、ためになった点などについて詳しく書いてくださいました。お二人のレポートから、当日の様子を感じていただけると思います。

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66巻2号の注目論文は内田さんのコサギの減少についての論文に

和文誌編集委員長 植田睦之

アオサギ,ダイサギ,カワウ。こうした大型の水鳥は全国的に分布を拡げ,どこでも見られるようになってきています。反面,分布が狭くなっているのが小型の水鳥です。今回注目論文に選定された論文は,そうした水鳥の1つ,コサギの減少について示した論文です。

日本鳥学会誌 66巻2号 注目論文
内田博 (2017) 埼玉県東松山市周辺でのコサギの減少. 日本鳥学会誌 66: 111-122.

この論文は,1980年代から現在までの長期のデータに基づき,埼玉県東松山周辺でのコサギの減少について示し,その原因について検討した論文です。長期にわたる調査結果に基づきコサギの減少を示している点,原因について食物そして捕食者の両面から検討した点が興味深く,注目論文として選定しました。

なお,表紙写真も内田さんによるオオタカがチュウサギを捕らえたシーンです(コサギではないのが今号の表紙としてはちょっと残念ですが)。
オオタカに足環がついていることで「かご脱け」のオオタカじゃないかとネットで話題になっていましたが,調査のために個体識別された野生のオオタカです。

論文は以下のURLより,どなたでも読むことができます。
http://doi.org/10.3838/jjo.66.111

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2018年度学会賞募集のお知らせ

日本鳥学会では内田奨学賞、黒田賞を設けていますが、来年度からこれに中村司奨励賞が加わります。この度、この3つの学会賞の募集が始まりました。

・内田奨学賞:アマチュアの会員を励ます賞。過去3年間に発表した論文から審査。
・黒田賞:優れた業績を挙げ、これからの日本の鳥類学を担う若手・中堅会員に授ける賞。
・中村司奨励賞(新賞):国際誌に優れた論文(1編)を発表した30歳以下の若手会員に授ける賞。

いずれの賞についても、対象者、応募方法等の詳細は、日本鳥学会誌66巻2号の学会記事、あるいは学会Webサイト(http://ornithology.jp/)の「学会賞・助成」に掲載された募集要項をご覧下さい。

ぜひ、積極的な応募、あるいは推薦をお願い致します。

また、2018年にカナダで開催される国際鳥類学会議(IOC2018)に参加、発表する若手会員に対する補助金の申請も募集しています。日本鳥学会誌66巻1号、学会Webサイトを参照の上、こちらにも積極的に応募して下さい。

基金運営委員会

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日本鳥学会ポスター賞を受賞した感想

2017年10月16日
西條未来(総研大)

ポスター賞を受賞できてとても嬉しく思います。
私はまだまだ鳥に関して知らないことが多いので、今回の学会ではたくさんのアドバイスをいただけて、とても勉強になりました。来年の発表に活かしたいと思っています。ありがとうございました。
初めての鳥学会での受賞なので、来年の発表にプレッシャーを感じますが、来年以降も面白い成果を残せるように頑張ります。
副賞として、学会Tシャツとmont-bellのマウンテンパーカーをいただきました!ありがとうございます!去年のポスター賞受賞者で研究室の先輩でもある加藤さんと、うっかり色が被ってしまいました。

ポスターの概略
チドリ目の多くは、河原や砂浜などの開けたところで、地面に巣を作ります。そのため、チドリ目の雛や卵は強い捕食圧に晒されることになります。親鳥は雛や卵を守るために、様々な対捕食者行動を進化させてきました。
チドリ目の対捕食者行動は、大きく2つに分けることができます。1つ目は、モビングなど直接捕食者を攻撃する攻撃行動です。2つ目は、擬傷行動など、捕食者の注意を引き付けるはぐらかし行動です。多くの種は攻撃行動、はぐらかし行動のどちらかの行動をとります。しかし、行動どちらの行動を行うか、その生態学的・進化的な決定要因は明らかになっていませんでした。
本研究では、チドリ目の対捕食者行動の決定要因について、文献調査と系統種間比較を用いて、以下の点を明らかにしました。

① 体サイズ
体サイズが大きい種は攻撃行動、小さい種ははぐらかし行動をとる種が多いことが分かりました。これは、体サイズが大きい種は卵、雛の防衛成功率が高いが、小さい種は防衛成功率が低く、怪我をする可能性があるためだと考えられます。はぐらかし行動は捕食者との距離が保てるので、攻撃行動に比べて安全であると考えられます。

② コロニー性
コロニー性の種は攻撃行動をとり、はぐらかし行動をとらなくなるような進化的推移があることがわかりました。これは、コロニー性の種は集団でモビングが出来るので、効率的に捕食者に攻撃ができるためだと考えられます。

③ 営巣場所
樹上・崖の上に巣を作る種は、攻撃もはぐらかしもほとんどしません。樹上や崖は利用できる空間が限られていますが、地上に比べて捕食圧は低いと考えられます。そのため、樹上や崖に営巣すること自体が一つの対捕食者行動になっていると考えられます。

本研究では、チドリ目の対捕食者行動の種間差を生み出す生態学的・進化的な決定要因について明らかにしました。今後はフィールドに出て、行動観察から新しい発見をしたいと思っています。
来年もよろしくお願いします!

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