鳥の学校第15回テーマ別講習会:標本製作講習 開催報告

澤祐介(企画委員)

2024年度の鳥の学校は、9月17日に山階鳥類研究所で標本製作講習が行われた。岩見恭子氏(山階鳥類研究所)を講師に迎え、10名の受講者が参加した。講習でははじめに、標本製作の意義について説明があった。標本はその時代の生物相・自然史を反映した貴重な記録であること、過去に遡って標本を集めることはできないこと、そして大きな博物館だけでなく、各地の博物館や大学などで、地域の生物を集めて標本として保存する価値などについて説明があった。また標本製作時には、仮剥製の他、胸筋からのDNAおよび安定同位体用サンプルの取得、胴体部分の骨標本作成など、ひとつの鳥体を余すことなく活用されており、鳥学の発展の基礎を支えていることを強く感じた。
講習では、ウミネコを材料に、受講者1人につき1羽の仮剝製を製作した。限られた時間内で全工程を学ぶため、前半と後半にパートをわけて講習が進められた。前半は、半解凍にしてある鳥の外部計測、性別判定、皮むき、肘関節・膝関節の取り外し、尾椎の切断、大まかな除肉、頸椎の切断と頭骨内の処理、胸筋サンプルの採取までを行った。この後、本来であれば、脂肪除去、精密な除肉、羽毛の洗浄と乾燥となるが、この工程は時間がかかるため、講師による実演と解説が行われた。
後半では、講師陣があらかじめ洗浄乾燥まで済ませた別個体の「皮」が受講者1人につき1羽配られ、これを仮剥製に組む作業を行った。講師をはじめ、3名の講師補助によるサポート体制がとても充実していたため、受講者全員、仮剝製の組み上げまで無事に完成することができた。その後の質疑応答でも各工程の詳細な内容、技術についての質問が飛び交い、内容の濃い講習となった。参加者の事後アンケートでも、「これまで仮剥製を作っていて、曖昧だったことが明確になった」「本やネットには載っていないような標本づくりのコツや工夫を教えていただけた」などの感想があり、有意義な講習となったことが覗えた。
今回の鳥の学校のために、事前の冷凍鳥体、作業工程途中の鳥体等を準備し、会場や作業道具等を提供いただいた山階鳥類研究所の皆さまに深く御礼申し上げる。今回製作した標本は、製作者として受講者の名前を記録し、山階鳥類研究所に保管されるとのことである。未来の鳥類研究者がいつかこの標本を活用する時がくると思うと、感慨深いものがある。今回の受講者は全国各地の大学や博物館、自然観察施設などの関係者が多く参加されていた。各地での標本の蓄積に、今回の鳥の学校の内容が少しでも貢献できれば幸いである。

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2024年度黒田賞を受賞して

森口紗千子(日本獣医生命科学大学 獣医学部 野生動物学研究室

このたびは、栄誉ある黒田賞を受賞させていただき大変光栄です。
今大会では、受賞講演に加え、大会実行委員の仕事と公開シンポジウムのコーディネーター、企画委員の仕事など、大会中は忙しなく動いていましたが、お会いする方々から口々にお祝いのお言葉をいただき、とても幸せな時間を過ごさせていただきました。また、今大会はハイブリッド開催であったため、会場に来られない方たちにも、講演を聞いていただくことができました。講演会場だけでなく、休憩室でのサテライト配信やオンライン配信にご尽力いただいた大会実行委員のみなさまに、重ねて御礼申し上げます。同じ大会実行委員として頼もしく、安心して講演することができました。

受賞対象となった研究内容は、「鳥類生態学で拓く鳥インフルエンザ研究」と題して講演しました。私は、鳥インフルエンザウイルスの本来の自然宿主とされる、ガンカモ類の一種であるマガンの生態研究で学位を取得したのちに、鳥インフルエンザの研究を始めました。学生時代より培った知識や技術、人とのつながりなどを拠り所として鳥インフルエンザ研究を進められたことは事実ですが、不安定なポスドクの職を転々としながらも、「これだ!」と自ら選びとって続けてきた研究を日本鳥学会に認めていただけたことは、大変意義深いものでした。

対象となった研究は、野生鳥類における鳥インフルエンザのリスクマップ作成や野生鳥類の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)サーベイランスおよび飼養鳥のHPAI防疫体制の構築に向けたアンケートなどです。これらに加え、農林水産省の高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム委員としての疫学調査や疫学報告書執筆といった社会的活動を、業務研究の傍らで行ってきました。このような鳥類学以外の獣医疫学などの他分野とも深く関わり合い、鳥類学者が担う社会的責任を果たしてきたことを評価いただきました。

鳥インフルエンザ研究の対象としたカモ類

鳥インフルエンザは動物の疾病であるため、獣医学が中心となる研究分野です。しかし、野生鳥類がHPAIウイルスを運ぶキャリアとして機能している以上、野生鳥類の生態の理解が進まなければ、その感染拡大リスクの予測や対策を効果的に進めることはできません。HPAIウイルスの知識が必要であることは言うまでもありませんが、どのような場所で、どの鳥類が感染しやすそうなのか、どんなサーベイランスをすればHPAIウイルスの国内侵入や感染の広がりを検知できるのか、宿主側の情報から予測が立てられるのは、鳥類生態学者の強みだと感じています。

そして、人、動物、環境の健康を一つとみなすというOne Healthの理念に基づき、獣医学など他分野の研究者と鳥類生態学者が協働することで、互いの研究分野を理解し合い、個々の研究分野だけでは成しえない目標が達成されていく実感を得てきました。さらに、バードウォッチャーや野生鳥類研究に携わる人々に近い鳥類学者が鳥インフルエンザ研究に関わることで、野生鳥類関係者の協力や理解を得られやすいのでは、とも感じています。研究を進めていく中で、国内外の検査機関や行政担当者、動物園関係者、野生鳥類の救護施設や野生鳥類生息地の管理者など、様々な立場の方々をお話する機会をいただきました。野生鳥類、家きん、飼養鳥、そして人のくらしから、HPAIによる被害を減らしたいという関係者の願いに少しでも応えてゆけるよう、引き続き鳥類研究者としての責務を果たしていきます。

今年で14名となった黒田賞受賞者のうち、女性は私で3人目です。講演では、大学院の同期たちの協力を得て、生態学者の現状を紹介しました。博士課程進学時から学位取得まで、男女比はほぼ1:1であったものの、その後女性研究者だけが減少し続け、回復することもありませんでした。性別にかかわらず、鳥類学を含む生態学の分野で研究職を続けていくことは、博士号を取得することよりもずっと厳しいです。そして残念ながら、少なくとも日本においては、女性であればなおさらです。

授賞講演の様子(2024年度大会、令和6年9月13日)

黒田賞は、私よりも少し年上の方々が日本鳥学会に働きかけたことをきっかけに、創設されました。受賞対象となった鳥インフルエンザに関わる研究や社会的活動を私が続けてこられたのは、研究環境を整え背中を押してくださった上司たちをはじめ、周りの方々のおかげです。一方で、若い研究者が研究職をあきらめなくていいように、まだポスドクの立場にあった日本鳥学会員の先輩方が動いてくださったおかげで、黒田賞があります。受け取る側から与える側へ。今度は私も、鳥類学を志す若い世代にバトンを渡せるよう、日本鳥学会をより良い方向に変えていけるよう、力を尽くしていきます。

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2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント (水越 かのん)

2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント (水越 かのん)

筑波大学 森林生態環境学研究室
水越 かのん

この度は、日本鳥学会第2024年度大会において『生態系管理/評価・保全・その他』部門のポスター賞にお選びいただき、誠にありがとうございます。鳥類の研究を志した時からずっと目標であり、憧れていた賞を頂き、嬉しい驚きと喜びで胸がいっぱいです。節足動物の同定にご尽力下さった自然環境研究センターの森英章先生、卒業研究から長きにわたり熱心なご指導と小笠原諸島での調査全般における手厚いサポートを頂いております森林総合研究所の川上和人先生、そして指導教員としてこの研究を支え、導いて下さった森林生態環境学研究室の上條隆志先生に、心より感謝申し上げます。
また、ポスター発表に足を運んでくださった方々にもこの場をお借りして御礼申し上げます。大会参加を通じ、多くの気付きや研究を発展させるためのヒントを得ることができました。今回の受賞を励みに、今後も調査研究に邁進する所存でございます。

研究の概要
ミズナギドリ類は土中に巣穴を形成しますが、その内部には巣材や羽毛、卵殻などの有機物が蓄積します。更に巣穴は直射日光や風雨の影響を直接受けることもありません。こうした巣穴は家主である海鳥以外に、特にケラチンや枯死植物を摂食し、乾燥や高温に弱い節足動物類に対しても潜在的なハビタットとして機能している可能性があります。生息地を新たに創出する生物を生態系エンジニアと呼びますが、本研究ではミズナギドリ類の生態系エンジニアとしての機能を検討するため、小笠原諸島西島・南島で採集したオナガミズナギドリとアナドリの巣材を分析し、その巣内共生節足動物相を明らかにしました。

巣穴から顔を出すオナガミズナギドリの幼鳥

分析の結果、両種の巣材から39種以上の節足動物の出現を確認しました。分類群ごとにまとめると、ケラチンを摂食するチョウ目(ヒロズコガ類)幼虫とワラジムシ目の出現が過半数を占め、次いでハチ目(アリ)、ゴキブリ目の割合が高いことが分かりました。海鳥の巣穴は節足動物、特に分解者にとって好適なハビタットであると考えられます。

巣材から出現した節足動物(左上:ヒロズコガ類幼虫ケース, 左下:オガサワラゴキブリ,
右上:コヒゲジロハサミムシ, 右下:コガタコシビロダンゴムシ)

海鳥は数百から数十万羽に及ぶ大規模な集団営巣地を形成するため、一羽一羽が掘った巣穴は全体として繁殖地の陸上生態系に大きな影響を発揮するはずです。ところが、これまで海鳥の営巣に伴う環境形成作用が注目されることはほとんどありませんでした。本研究は世界で初めて海鳥巣穴内の節足動物共生系を網羅的に明らかにし、巣穴形成による海鳥の生態系エンジニアとしての機能にスポットライトを当てた事例です。
穴を掘ったり、樹木に穴をあけたり、枝を集めたりして鳥類は『巣』という構造物を新たに創出します。鳥類は営巣を通じ生態系エンジニアとして重要な機能を担っていると考えられますが、現状、それを実証する研究はほとんど進んでいません。今後は海鳥巣穴内の温湿度環境の測定や巣材から出現した節足動物の食性分析を行い、営巣というプロセスが果たす機能について実証的なデータを収集していきたいと考えています。

 

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2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント(田上結大)

2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント(田上結大)

愛媛大学大学院 理工学研究科理工学専攻 博士前期課程2年
田上結大

愛媛大学大学院博士前期課程2年の田上結大と申します。この度は、日本鳥学会2024年度大会におきまして、「行動・進化・形態・生理」部門のポスター賞を授与していただき、誠にありがとうございます。
ポスター発表を聞きに来てくださった皆様に御礼申し上げます。貴重なご意見やアドバイスをいただき、非常に良い刺激となりました。また、大会を企画運営していただいた関係者の皆様、貴重な場を設けていただきありがとうございます。

研究の概要
スズメ目は鳥類の約60%を占める多様な分類群で、その多様化の一因として営巣能力が挙げられます。スズメ目は巣材として、コケや草本、獣毛、菌類など様々な材料を利用して巣を作ります。特にコケは多くの鳥類によって利用されています。
先行研究においてツバメ科が泥を利用した営巣行動が分布域の拡大に寄与した可能性が示唆されています。しかし、どういった巣材を選択して巣を作るかの進化要因の研究は少ないです。
そこで本研究では、コケの巣材利用行動の進化要因を解明する第一歩として、ヒタキ科の巣材と地理的分布に着目し、系統比較法を用いて解析を行いました。ヒタキ科は約50属303種と多様性が高く、巣材としてコケを利用する種数が最も多い科です。

オオルリ(ヒタキ科)の古巣。コケが大量に使用されている。

巣材の種類と、分布域が含む生物地理区の情報をオンラインのデータベースを中心に収集したところ、45属243種についての情報を集めることができました。それらの種の系統樹を作成し、ヒタキ科の共通祖先がどこに分布していたか、また、巣材としてコケを利用していたかどうかを、祖先形質復元の解析を行い推定しました。
繁殖地の分布域の祖先形質復元の結果、ヒタキ科では独立に3回、アフリカ区への進出が起こっていることが分かりました。また、巣材の祖先形質復元に関して、ヒタキ科では巣材にコケを利用する行動が祖先的であり、それが大きな2つのクレードを含む、多数のクレードで独立して失われていたと推定されました。
上記の解析の結果、砂漠を含むアフリカ区への進出と巣材の変化が起きたと推定されたノードが一致していたため、繁殖地と巣材の進化には相関があるのではないかと考え、相関進化についての解析を行いました。その結果、巣材に使う植物の種類の進化と、砂漠を繁殖地とするという進化の間に、相関があることが確かめられました。さらに、巣材と繁殖地の形質状態間の遷移率から、特定の巣材選択が進化した後に、砂漠を繁殖地とする進化が起こる確率が高いことが示唆されました。本研究の結果は、巣材の選択が変化してから新たな繁殖地に進出した可能性を示しています。

 

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2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント(天野孝保)

2024年度日本鳥学会 ポスター賞 受賞コメント(天野孝保)

長崎大学大学院 水産・環境科学総合研究科
天野孝保

日本鳥類学会2024年度大会にて、「繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用」部門のポスター賞を受賞でき、大変光栄です。本研究は大学院研究ではなく、休学期間に個人研究として実施したものです。私はかねてから、高速道路のSA/PAに多くのツバメの巣があることに興味を持っており、今回その利用状況を知るために全国規模での調査を実施しました。自由時間が十分にある休学期間を活用することで、このような調査を行うことができました。調査期間中は、早稲田大学の風間健太郎准教授、指導教員の山口典之教授、その他大勢の方のご指導、ご協力をいただきながら、安全第一で調査を実施いたしました。厚く御礼申し上げます。また、記念品をいただきました株式会社モンベル様にもこの場をお借りしてお礼申し上げます。そしてなにより、私のポスター発表を見てくださり、たくさんのご意見やコメントをいただいた皆様、本当にありがとうございました。今後は、より一層研究活動に従事し、研究成果としてこれまでお世話になった方々や調査対象種であるツバメ、その他環境保全に還元できるように取組んでいきたいと思います。
さらに、本大会では私にとって初めての大会実行委員を務めさせていただき、非常に大きな経験となりました。大会運営関係者の皆様にもこの場をお借りして感謝申し上げます。

 

成長に差のある雛たち。高速道路では防犯カメラの上にもよく営巣している。

ポスター発表の概要
都市鳥と呼ばれる鳥類種は都市に適応し、繁殖・生息をしています。高速道路は都市間の移動時間の短縮、物流支援や災害時の対応にも幅広く活用され、多くの人々の生活を支える役割を果たし、そこに建設される人工物はツバメもよく利用します。そのため、日本全国を繋ぐ高速道路はツバメの全国繁殖分布調査を行うのに最適な環境であると考え、本研究では日本の高速道路のSA/PA(北海道士別剣淵ICから鹿児島県鹿児島IC)におけるツバメの繁殖状況について可能な限り踏査しました。総走行距離は、約13,000km、停車SA/PAは(上下)約400ヶ所でツバメの巣の有無とその数をカウントし、GLMMを用いて解析しました。

半年間で北海道から九州を2回往復。撮影地は青森県。北海道行きの船を待つ。

その結果、高速道路はツバメにとってSA/PAが集団繁殖の場として利用されており、特にPAよりも人や車の出入りが多いSAが好適環境となっていました。また、中日本エリアのNEO PASA・EX PASAと呼ばれる独自の新ブランドは、ハイウェイオアシスなども含めて人間の休憩施設を充実させるだけでなく、ツバメの住みやすい商業施設にもなっていました。高速道路は、一般国道よりも空間的に高い位置に建設され、山間部や起伏の激しい環境を跨ぐ形で建設されます。本来ツバメが繁殖不可能な山間部上空などでもSA/PAなどの建造物があることで営巣を可能にしていました。今後は、高速道路がある程度独立した「高速道路生態系」となっている可能性について評価し、都市鳥と人間活動の関係性について研究を進めていきたいと考えています。

 

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第8回日本鳥学会ポスター賞 天野さん・田上さん・水越さんが受賞しました

第8回日本鳥学会ポスター賞 天野さん・田上さん・水越さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会 本多 里奈

 日本鳥学会ポスター賞は、若手の独創的な研究を推奨する目的で設立されたものです。対面形式で開催された日本鳥学会2024年度大会では、第8回ポスター賞を実施いたしました。厳正なる審査の結果、本年度は、天野孝保さん(長崎大学)、田上結大さん(愛媛大学)、水越かのんさん(筑波大学)が受賞しました。おめでとうございます。
応募総数は、過去最多の63件でした。応募数が多いだけでなく、地道に行われた調査や高度な解析技術を用いた研究など、忍耐力や向上心の高さが見て取れる内容が多かったのも印象的でした。来年度もポスター賞を実施予定ですので、たくさんの方に挑戦していただけると嬉しいです。
最後に、ポスター賞の審査を快諾して頂いた9名の皆様、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル様にこの場をお借りして御礼申し上げます。

日本鳥学会2024年度大会ポスター賞
応募総数:63件
繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用:18件
行動・進化・形態・生理部門        :26件
生態系管理/評価・保全・その他部門     :19件

【受賞】
《繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用》部門
「日本の高速道路SA/PAにおけるツバメの繁殖分布とその特徴」
天野孝保

天野さん(左)と綿貫会長(右)

《行動・進化・形態・生理》部門
「スズメ目におけるコケを巣材に利用する行動の進化と機能」
田上結大・今田弓女

田上さん(左)

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
「ミズナギドリの巣穴は節足動物の生息地を創出する」
水越かのん・森英章・川上和人・上條隆志

水越さん(左)

【次点】
《繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用》部門
「石狩湾におけるトウネンの通過個体数推定」
内田耕平・先崎理之

《行動・進化・形態・生理》部門
「鳥類のクチバシ定量化と形状多様性に寄与する遺伝的基盤の探索」
荒井颯太・牧野能士

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
「奄美大島における野生鳥類のトキソプラズマ感染状況」
鈴木遼太郎・吉村久志・常盤俊大・伊藤圭子・鳥本亮太・新屋惣・山本昌美

【一次審査通過者】
《繁殖・生活史・個体群・群集・生物間相互作用》部門
「北海道周辺海域におけるウトウの雛の餌種と親の食ニッチサイズの時空間変化」
小島達樹・小澤光莉・大門純平・綿貫豊・ 白井厚太朗・新妻靖章・桑江朝比呂・渡辺謙太・ 松本和也・伊藤元裕

《行動・進化・形態・生理》部門
「繁殖期のウミネコにおける年齢による採餌戦略の変化」
杉山響己・水谷友一・成田章・後藤佑介・依田憲

《生態系管理/評価・保全・その他》部門
・「レーダを用いた鳥類の観測手法の開発」
河村佳世・鎌田泰斗・佐藤雄大・河口洋一・島田泰夫・黒田幸夫・関島恒夫
・「深層学習による長時間録音からの高精度な鳥類音声の自動抽出」
水村春香・安田泰輔・松山美恵・塚田安弘・瀧口千恵子

 

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【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(3)クイーンズランド大での日々

【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(3)クイーンズランド大での日々

片山直樹(農研機構 農業環境研究部門 農業生態系管理研究領域)

こんにちは、片山です。今年の4月半ばにオーストラリアに来てから、約6ヶ月が過ぎました。1年間の在外研究の半分がもう終わってしまったことになります・・・そんなに月日が経ったの!?と驚きを隠せないこの頃です。

この半年を振り返ってみると、たしかに色々なことがありました。研究のこと、人との出会い、オーストラリアの鳥たち、そして思わぬハプニング・・・渡航前には想像もしなかったことばかりでした。できるだけ多くの出来事を、全5~6回の連載の中でお話ししたいと思います。

今回は、大学での日々について紹介します。私が今通っているのは、クイーンズランド大学のセントルシアキャンパスです。キャンパスの入り口にあたる場所には、大学名が大きく掲げられています。これを初めて見た時、いよいよ来たんだなという実感がわきました。

芝生にはいつもズグロトサカゲリMasked Lapwingがいます(写真右下)。

キャンパス内には緑地や水場が多く、色々な鳥が暮らしています。なかでもUQ Lakesという小さな湖にはキバタンSulphur-crested Cockatoo、セイケイ Purple SwamphenやオオバンEurasian Cootなど多くの鳥を見ることができます。大学内だけでも、きちんと鳥見をすれば数十種は見られるのではないでしょうか。

絵画のような素敵な光景ですが、冬でも日差しが強いです。

私が所属するCentre for Biodiversity and Conservation Science(通称CBCS)は、Goddard buildingという建物の5階にあります。見晴らしも良く、気持ちのいい場所です。

左の建物がGoddard Buildingです。右手の芝生でランチ会もします。

この階に天野達也博士もいます。オーストラリアで彼と久しぶりの再会を果たすというのはなんとも不思議な気分でしたが、彼は昔と変わらず暖かく出迎えてくれました。

子どもたちも天野さんにとても懐いていました(許可を得て掲載)。

私はポスドク用の4人部屋を借りて、もう一人のポスドクのVioleta Berdejo-Espinola博士と使っています。彼女から大学の色々なことを教わったり、一緒にランチをすることもあります。彼女は今、世界中の脊椎動物の個体数変化を調べる研究プロジェクトを主導しています。私もこれに参加して、日本の論文収集を担当しています。この論文収集のプロトコルが自分の研究の参考になり、さっそく在外研究のありがたみを感じています。

CBCSには数十名以上の研究者や学生が所属しているようです。そうした方々との交流のために、毎週火曜日に開催される研究セミナーに参加しています。その日はまず朝10時半から、モーニングティー(お茶会)が始まります。無料で提供されるコーヒーや紅茶を片手に、多い時で20名以上の先生や学生が集まって会話を楽しんでいます。天野さんもご多忙で不在のことも多く、自分から積極的に誰かに話しかけていかないと何も始まりません。すこし緊張しますが、いざ話しかけてみると皆さんとてもフレンドリーです。鳥を研究している人も多いので、オススメのバードウォッチング場所を聞けるなど、話しかけて良かったなと思うことが多いです。この会話はもちろん英語で行うわけですが、ガヤガヤと賑わう中で相手の英語を聞き取るのは難しく、いつも脳が疲弊しています。お茶会とセミナーは誰でもウェルカムで、最近では熊田さんも参加しています。

多様なバックグラウンドを持っていても、生きもの好きなのは同じです。

モーニングティーの時間は30分ですが、合間にこの一週間の出来事を皆で共有する時間もあります。受理された論文がある人、博士論文の審査にパスした人、予算を獲得した人、外部のセミナーで講演する人、などが簡単な報告をしていきます。おめでたいことがあると、皆が拍手やお祝いの言葉をかけていて、そういう明るい雰囲気がとても良いなと思います。初めて参加した人は、ここで自己紹介をします。私も一分ほど自己紹介をしましたが、なんとか伝わったと思いたいです。

モーニングティーが終わるとセミナールームに移動して、質疑込みで1時間のセミナーが始まります。私も5月にセミナーをして、日本の農地生態系の生物多様性やその保全についてお話しました。そうやって書くと一行で終わってしまうのですが、30分近い時間を英語で話すのは初めてでした。セリフも用意して、何度も練習をしました。おかげで発表は何とかなりましたが、質疑応答は聞き取れない部分もあり、理想の自分にはほど遠いなぁと感じました。そういう経験も含めて、貴重な時間を過ごさせてもらっています。このセミナーをきっかけに、牧草地の鳥を研究している方のフィールドワークに11月に同行できることになりそうです。実現すれば、次回の記事でご紹介したいと思います。

それっぽく話しているように見えますが、内心はいっぱいいっぱいです。

さて、私にはオーストラリアでどうしても会いたい鳥の研究者がいました。その方はMatthew Herring博士と言って、オーストラリアの田んぼや湿地に生息する絶滅危惧種のオーストラリアサンカノゴイAustralasian BitternやオーストラリアタマシギAustralian Painted-Snipeを研究されています。これまでメールでしか連絡を取ったことのなかった彼に、ついに会うことができました。メールでもZoomでも交流できる時代ですが、彼と向かい合って、握手をして、言葉を交わした時間は忘れられない思い出になりました。12月には、彼の調査地の田んぼを視察して、現地の研究者や生産者にセミナーをする予定です。余談ですが、彼のお子さんの一人は日本が好きで空手を習ったり、ドラゴンボールを見ているそうです。そう聞くと嬉しくなりますね。

まさにナイスガイでした(本人の許可を得て掲載)。

さてまだまだ話したいことはあるのですが、この辺りでちょうどよい文字数になってしまいました。次回以降は、以下の話をしたいと思います:

・鳥のおかげ?あるオーストラリア人との出会い

・買った車が2か月で壊れる

・入居したアパートで様々なトラブルが発生

最後に、特に意味はありませんがセアカオーストラリアムシクイRed-backed Fairywrenを紹介します。ブリスベン近郊の森林や湿地で出会うことのできる美しい鳥です。

それではまた次回の記事でお会いしましょう。
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日本鳥学会2024年度大会公開シンポジウム 「野生鳥類と高病原性鳥インフルエンザ:大規模感染に立ち向かう」を終えて

日本鳥学会2024年度大会公開シンポジウム 「野生鳥類と高病原性鳥インフルエンザ:大規模感染に立ち向かう」を終えて

森口紗千子(日本獣医生命科学大学 獣医学部 野生動物学研究室

餌付け場所に集まるオナガガモやユリカモメ

日本鳥学会2024年度大会の公開シンポジウムでは、高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)をテーマとしました。日本で2003-2004年の冬、79年ぶりに発生したHPAI以降、日本鳥学会大会では、HPAIに関する口頭発表やポスター発表、自由集会、鳥の学校はあるものの、公開シンポジウムのような大きなイベントは初めてのことでした。

本シンポジウムを企画したきっかけは、北海道網走市で開催された2022年度大会の折に、本シンポジウムの講演者でもある外山雅大さん(根室市歴史と自然の資料館)から、根室市でHPAIによるカラス類の大量死が発生した際の対応について伺ったことです。HPAIによる大量死に初めて遭遇したにもかかわらず、地元の方たちで協力して監視体制を整備し、希少鳥類を守るための注意喚起まで実施した流れは、日本全国にあるカラスのねぐらを対象としたHPAIサーベイランスの見本となるだろう、と直感しました。その時一緒に話を聞いていた、本シンポジウムのコメンテーターでもある金井裕さん(日本野鳥の会)に、翌年(2023年)の金沢大会で自由集会でも企画しませんかと提案したところ、HPAIをテーマにするなら、ウイルスの専門家(獣医学者)も呼んだ方がいいからシンポジウムでないとね、と(いい意味で)一蹴されました。自由集会の講演者には、自腹で来てもらうしかありません。非会員の獣医学者をご招待するならば、交通費や謝金を支払えるシンポジウムを企画するしかない、ということです。

日本獣医学会野生動物医学会獣医疫学会などの獣医学系の学会では、毎年のようにHPAIに関するシンポジウムが開催されています。日本鳥学会でHPAIをテーマにする意義は、野生鳥類の観察や捕獲だけでなく、死体を拾い標本を作るような、野生鳥類に触れる機会の多い学会員の方々に、HPAIの問題や実際にHPAIサーベイランスに関わっている人たちの取り組みについて知ってもらうこと。そして、被害を受ける野生鳥類や、家きんや、動物園の鳥たちを少しでも減らすために、HPAI発生時の対応で大変な思いをする人を減らすために、力を貸してほしいという思いからです。幸い、その次の2024年度東京大会で大会実行委員となり、実行委員の皆さんにHPAIに関するシンポジウムの企画を受け入れてもらえたことで、実現に向けて始動することになりました。

本シンポジウムを開催することが決まり、もう一人のコーディネーターである牛根奈々さん(山口大学)に声をかけました。牛根さんは、私が所属する日本獣医生命科学大学出身の獣医学者です。彼女が博士課程の大学院生だった4年間、私が雇用されていた鳥インフルエンザと鉛汚染に関する環境研究総合推進費のプロジェクトで、野生鳥類専門の獣医師として支えてもらった仲です。大会実行委員に加わることも、二つ返事で承諾してくれました。そして、同プロジェクトでご一緒させていただいた、獣医学者の迫田義博先生(北海道大学)と山口剛士先生(鳥取大学)を講演者として招待しました。お二人は、環境省による野鳥HPAIサーベイランスで、ウイルスの病原性や亜型を確定する検査機関の責任者です。迫田先生からは、鳥インフルエンザの基礎について、ウイルスの特徴から北海道大学構内でのHPAIサーベイランス、HPAIに感染した希少鳥類の治療にいたるまで、様々な視点でやさしく解説していただきました。曝露されるウイルスが一定量に満たないと感染が成立しないため、感染防止にはウイルス量をいかに減らすかが大事であることを教えていただきました。山口先生からは、家きん農場に侵入するネコ、イタチ、スズメなど、養鶏場でHPAIを防ぐことが難しい現状について発表いただきました。HPAIウイルス(HPAIV)は、ニワトリに対して病原性が高いことで定義される、家きんの病気であることを強調されました。そして、野生鳥類の大規模なHPAI発生現場の声として、シンポジウム企画のきっかけとなった外山雅大さんに根室での取り組みを、そして以前より地域ぐるみでツル類をはじめとする野生鳥類のHPAIサーベイランスを続けている原口優子さん(出水市ツル博物館クレインパークいずみ)より、鹿児島県出水市における取組みと、出水市で発生したツル類の大量死について報告していただきました。私は、獣医学者と野生鳥類関係者をつなぐ役割として、鳥類生態学による鳥インフルエンザ研究事例について講演しました。総合討論では、鳥類学者代表として樋口広芳先生(慶應義塾大学)、野生鳥類関係者として鳥インフルエンザに精通する金井裕さん(日本野鳥の会)、家きんの鳥インフルエンザを担当されている唯野剛史さん(農林水産省)、過去に出水市でツル類の大量死が発生したシーズンに現場の環境省職員として対応にあたり、現在は本省で野生鳥類の鳥インフルエンザを担当されている木富正裕さん(環境省)もコメンテーターとして加わり、活発な議論が繰り広げられました。しかし、総合討論は当初予定していた30分では収まり切らず、1時間に及びました。それでも伝えきれなかったことがたくさんありましたので、この場を借りて残しておきます。

オオワシ

総合討論では、出水市のツル類の餌付けが大量死の引き金となったのではないか、根室でもワシ類が観光目的で餌付けされているため、禁止できないのかということが話題の中心でした。出水市におけるツル類の大量死の前年に、イスラエルで発生したHPAIによる10,000羽ともいわれるクロヅルの大量死も、ツル類が餌付けされているフラ湖で発生しました(Lublin et al. 2023)。フラ湖で越冬するクロヅルの個体数は約50,000羽なので、越冬個体群の約20%が死亡したことになります(Pekarsky et al. 2021)。餌付けは過度に群れを集中させ、HPAIなどの感染症まん延のリスクを高めます。希少鳥類が大量に集まるほどの餌付けは避けるべきですが、出水市のツル類の餌付けは、観光目的だけでなく、周辺の農地における農業被害を防ぐ役割もあると考えられており、長年中止できなかった経緯もあります。一方で産・官・民・学の連携により、毎日ツル類を監視し、迅速に死亡鳥や衰弱鳥を回収し、ねぐら水の検査を定期的に実施するなど、ツル類の生息地を維持し、カラス類やトビをはじめとする腐肉食性の鳥類等への感染拡大を防止するとともに、多くのシーズンで周辺に散在する養鶏場でのHPAI発生を抑制してきたことも事実です。大量死が発生したシーズンに出水市のツル類から検出されたHPAIVの特徴として、ツルからツルへと感染が広がりやすかった可能性も指摘されています(Okuya 2023)。そして、同時期に出水市とその周辺地域の養鶏場で続発したHPAIのウイルス株は、当時出水市のツル類で大流行していたウイルス株とは異なっていました(高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム 2023)。

カモメ類

趣旨説明で紹介したとおり、近年世界中でHPAIによる野生鳥類の大量死が発生しています。被害を受けている種は、越冬期のガン類やツル類だけでなく、真夏の海鳥の集団繁殖地や海獣類にまで拡大しています。大きな被害が報告されているのは、海鳥類ではカツオドリ類、トウゾクカモメ類、ウ類、アジサシ類、ペンギン類、ペリカン類、ウミスズメ類、海獣類ではオタリアやゾウアザラシの仲間など、多様な種の数百~数万単位での大量死が発生しています(CMS FAO Co-convened Scientific Task Force on Avian Influenza and Wild Birds 2023)。大量死が発生した海鳥には、カツオドリ類、ウ類、アジサシ類、ウミスズメ類など、日本に生息する分類群も含まれています。また、大量死の報告が少ないカモメ類は、カモ類と同様にHPAIに感染してもほとんど症状を示さず、遠くまでHPAIVを運び、他の海鳥類に感染を広げていると考えられています(Hill et al. 2022)。しかし、日本における海鳥類の鳥インフルエンザウイルス全般に関する研究事例は、ユリカモメなどごくわずかです(Ushine et al. 2023)。加えて、日本に生息する海鳥類の集団繁殖地の多くは無人島です。海鳥類を調査研究する鳥類学者が気づかなければ、HPAIによる被害があったのかどうかもわかりません。国内で繁殖する海鳥類の感染状況を明らかにするためには、海鳥類の調査に携わるみなさんに、対象種を注意深く観察し、調査していただくことが大切になります。また、カモメ類をはじめとする海鳥類の抗体検査を実施し、鳥インフルエンザウイルス全般がどの程度浸潤しているのか調査することも大切です。ご理解とご検討をお願い申し上げます。

人、動物、環境の健康を一つとみなす理念に基づくOne Healthアプローチでは、人獣共通感染症や薬剤耐性菌などの問題に取り組むため、関係各所が連携し、協力して対応にあたることが必要不可欠になっています。その第一歩として、関係者が同じ場所に集まり、顔を合わせて対等な立場で話をしていくことだと私は考えています。本シンポジウムも、獣医学者、鳥類学者、鳥類生息地の管理者、農林水産省、環境省という、HPAIの問題に実際に携わるそれぞれの現場の人たちが集まり、議論する場を作るべく、開催しました。登壇いただいた講演者やコメンテーターの方々はじめ、大会実行委員など多くの方々にご協力いただき実現できたことは、それだけでも一つの成果と思っています。

会場では229名、オンラインでは262名、合計491名にご参加いただきました。そのうち、234名(47.7%)よりアンケートの回答をいただきました。アンケート回答者の122名(52%)は非会員の方々です。そして223名(96.6%)の方から、本シンポジウムが有意義だったと回答いただきました。

総合討論では会場からの質問時間が十分にとれなかったため、大会ウェブサイトに、アンケートに記入いただいた参加者の質問に講演者らが回答したQ&Aを公開いたします。本シンポジウムが、野生鳥類にまつわるHPAI問題について理解を深め、得た知識をだれかに伝えたり、サーベイランスに協力するなど、HPAI問題の解決に向けた活動を始める一助となりましたら、これほど嬉しいことはありません。

本報告を執筆するにあたり、牛根奈々さんには多くの助言をいただきました。厚くお礼申し上げます。


引用文献

  1. CMS FAO Co-convened Scientific Task Force on Avian Influenza and Wild Birds (2023) Scientific task force on avian influenza and wild birds statement on: H5N1 high pathogenicity avian influenza in wild birds - unprecedented conservation impacts and urgent needs.
  2. Hill, N. J., Bishop, M. A., Trovão, N. S., Ineson, K. M., Schaefer, A. L., Puryear, W. B., Zhou, K., Foss, A. D., Clark, D. E., MacKenzie, K. G., Gass, J. D., Jr., Borkenhagen, L. K., Hall, J. S., Runstadler, J. A. (2022) Ecological divergence of wild birds drives avian influenza spillover and global spread. PLOS Pathogens, 18: e1010062.
  3. 高病原性鳥インフルエンザ疫学調査チーム (2023) 2022 年~2023 年シーズンにおける高病原性鳥インフルエンザの発生に係る疫学調査報告書.
  4. Lublin, A., Shkoda, I., Simanov, L., Hadas, R., Berkowitz, A., Lapin, K., Farnoushi, Y., Katz, R., Nagar, S., Kharboush, C., Perry Markovich, M., King, R. (2023) The history of highly-pathogenic avian influenza in Israel (H5-subtypes): From 2006 to 2023. Israel Journal of Veterinary Medicine, 78: 13-26.
  5. Okuya K. (2023) High Pathogenicity Avian Influenza Outbreak among Vulnerable Crane Species in the Izumi Plain, Kagoshima, Japan. The 8th meeting of East Asia Wildlife Health Network.
  6. Pekarsky, S., Schiffner, I., Markin, Y., Nathan, R. (2021) Using movement ecology to evaluate the effectiveness of multiple human-wildlife conflict management practices. Biological Conservation, 262: 109306.
  7. Ushine, N., Ozawa, M., Nakayama, S. M. M., Ishizuka, M., Kato, T., Hayama, S. (2023) Evaluation of the effect of Pb pollution on avian influenza virus-specific antibody production in black-headed gulls (Chroicocephalus ridibundus). Animals, 13: 2338.
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2024年度中村司奨励賞を受賞して

飯島大智(東京都立大学大学院都市環境科学研究科)

東京都立大学の飯島大智です。2024年度中村司奨励賞をいただき誠にありがとうございました。栄誉ある賞で、大変光栄に思っております。本賞の審査選考を行っていただいた鳥学会基金運営委員のみなさま、評議員のみなさま、ならびに本記事執筆の機会を下さった広報委員のみなさまに感謝を申し上げます。本記事では、受賞論文研究について概説するとともに、受賞論文にて使用されている系統・形質解析の魅力を紹介させていただきます。

受賞論文の概要
生物群集の地理的勾配を形作るプロセスの解明は生態学の中核を担う課題であり、それらのプロセスの解明は、気候変動や人間による土地改変が生物群集に与える影響を理解し予測するために重要です。生物群集の地理的勾配を形作るプロセスを研究するうえで、標高と共に気温や植生などの環境が劇的に変化する山岳域は理想的な研究場所です。しかしながら、低山域から高山帯までを含む広い標高範囲を野外調査によって研究した例は乏しく、特に亜高山帯や高山帯に成立する生物群集構造がどのような要因によって決定されているのかを、後に述べる系統・形質アプローチから検証した例は大陸の山脈や熱帯域の島嶼で実施されたごく少数の研究に限られ、さらなる研究が求められていました。さらに、高山帯を含む広い標高範囲の群集構造の標高勾配に対して、自然環境と人間による土地利用の改変が与える相対的な影響も未解明でした。
そこで本研究では、温帯の島国である日本において、長野県乗鞍岳の標高700mから3,026mにかけて野外調査を実施し、標高100mごとに鳥類群集構造を調べました。各群集を、種数に加えて、構成種の系統や形質から特徴づけ、無機的環境、植生、人間の土地利用との対応を解析しました(研究手法の詳細は過去の鳥学通信の記事:https://ornithology.jp/newsletter/articles/646/ で紹介されていますので、ぜひこちらもご参照ください)。その結果、高山帯では低温、樹木のない環境、乏しい餌資源が、亜高山帯上部では亜高山帯針葉樹林が鳥類群集構造に対する強い環境フィルターとして機能していることがわかりました。この発見は、気候によるフィルター効果が弱い熱帯のボルネオ島での研究結果とは対照的であり、大陸の山岳における発見と一致するものでした。すなわち、一般に気候が穏やかである島嶼部であっても、温帯では気候によるフィルターが強い影響を与えることを示唆しています。さらに、人間活動が営まれている低山域において、撹乱地を好む種が群集中に追加され、群集の系統・機能構造が変化していました。しかし、勾配の約半分が国立公園に指定され大規模な都市化が行われていない乗鞍岳においては、人間による土地改変の影響は自然環境と比較して相対的に弱いことも発見しました。以上の成果から、高山帯は気候変動に対して高い脆弱性を有するとともに、現在はほとんど撹乱されていない亜高山帯では針葉樹林の破壊がその場に成立する鳥類群集に対して深刻な影響を与えうることを示唆しました(図1)。


図1. (a)高木のない高山帯と(b)数種の樹種が優占する亜高山帯の景観。

系統・形質解析の魅力
以上の研究成果を得るにあたり、群集を構成種の系統や形質から特徴付ける解析が大きな役割を担っています。これらの解析は、系統アプローチ(Phylogenetic approach)および機能アプローチ(Functional approach)と呼ばれ、近年、群集生態学の分野で研究数が増えています。従来、生物群集の構造は種数によって特徴づけられることが多く、種数の緯度勾配や標高勾配に関する研究論文が多数出版されてきました。しかし、種数という指標では、種のもつ生態や進化的な背景を考慮できません。例えば、キジバトも、ジョウビタキも、オオミズナギドリも、生態や系統が顕著に異なるにも関わらず、等しく1種です。このように、種数に基づく解析は、種がもつ情報を過度に単純化してしまうという欠点があります。その一方で、系統アプローチでは、公開されている(例えば、Jetz et al. 2012)または自身で構築した分子系統樹を参照し、機能アプローチでは、公開されている種の形質に関するデータベース(例えば、Tobias et al. 2022)や自身で収集した形質データを参照し、それぞれ解析することで、種の系統や機能といった情報を考慮して群集構造を解析し、解釈することができます。野外で得た着想を解析に明示的に組み込めることは、フィールドワークをベースとして生物群集の研究に取り組む研究者にとってこれ以上ない魅力だと感じています。今後も、系統・形質アプローチを駆使し、生態学および鳥学の発展に貢献していきたいです。

受賞論文
Iijima D, Kobayashi A, Morimoto G & Murakami M (2023) Drivers of functional and phylogenetic structures of mountain bird assemblages along an altitudinal gradient from the montane to alpine zones. Global Ecology and Conservation 48: e02689. https://doi.org/10.1016/j.gecco.2023.e02689

引用文献
Jetz W, Thomas GH, Joy JB., Hartmann K & Mooers AO (2012) The global diversity of birds in space and time. Nature 491: 444-448. https://doi.org/10.1038/nature11631
Tobias JA, Sheard C, Pigot AL, Devenish AJ, Yang J et al. (2022) AVONET: morphological, ecological and geographical data for all birds. Ecology Letters 25: 581-597. https://doi.org/10.1111/ele.13898

授賞式の様子(2024年度大会、令和6年9月13日、撮影:基金運営委員会)

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【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(2)子連れ家族の鳥見事情

【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(2)子連れ家族の鳥見事情

熊田那央(バードリサーチ嘱託研究員)

皆さま、こんにちは。カワウを愛する熊田です。この連載は片山さんがオーストラリアに留学するにあたってその体験を綴るようにと依頼されたものですが、せっかく家族で渡っているのだからと、私も記事を書く機会をいただきました。研究の話は片山さんがたっぷり書かれると思いますので、私からは主に鳥好きの家族が子連れでブリスベンに行ったら、どんな暮らしをしているのかということを紹介させていただきます。

当地のカワウ愛が伝わる像

その前に、前回の記事の中で片山さんから渡航を決断するにあたって葛藤があったのでは、との話題が振られていましたのでそちらについてまず回答します。結論から言うと、特段の葛藤はありませんでした。片山さんのように職場の審査があるわけでもなく、ただついていけば海外で鳥見ができる、そんな美味しい話ですから、一も二もなく賛成です。私の雇用形態や職場の理解という面での状況的幸運はもちろんありましたが、それ以外の子供たちのことやお金のことといった心配事については、我が家の真面目に考える係(もちろん私ではありません)がいろいろ検討するでしょうしなんとかなるでしょ、という適当さです。海外旅行も数えるほどしか経験がなく、特に南半球には行ったことがなかったので、いくつかの留学先候補を聞いてはそこではどんなウや鳥たちが見られるかを夢想するくらいでなんとも気楽なものです。

そんなお気楽な人間ですので、自分1人だけ、もしくは大人だけの留学でしたら思いっきり現地の暮らしを適当に満喫していたのかな、と思いますがなにせ7歳と3歳の子供たちとの暮らしです。突然連れてこられた彼らにはできるだけストレスなく過ごしてほしいと考えています。鳥のこととは少し離れてしまいますが、彼らの暮らしについても少し紹介します。

7歳の長女は徒歩で通える地元の小学校に通っています。多様な人種が暮らす町にある学校のため、英語が話せない子の対応も慣れており、英語補習クラスの実施や、週に1度の日本人の先生のサポートなど手厚く対応してくださっています。とはいっても本人には大きな試練で、入った当初はほとんどの時間は全く理解できずぼーっと時がたつのをまっていたとのことでした。幸いにもクラスの友達が大変親切にしてくれ、学校にいる間はずっとついて回って面倒をみてくれているようです。数ヶ月がたった今では単語を少しずつ覚え、友達と遊ぶのを楽しんでいます。親としては日本と大きく違う点は毎日お弁当を持参する必要があることです。なんと、昼食の時間の前後におやつの時間があり、3食分用意する必要があります。こちらの学校の登校時間は日本の時より1時間遅く、帰ってくるのは早いので、学校にいる間の半分くらいは食べている時間なのでは、と疑いたくなりますが、1回の食事の時間は日本の給食に比べて圧倒的に短いらしいので、そこまでではないようです。そのため持っていくものはおにぎりと簡単なおかず、といった昼食におやつとして果物やお菓子を追加するといった適当弁当です。とはいっても日本の完全給食に甘やかされてきたので毎朝ひいこら言いながら用意しています。おかずが何品も入って、しかも日替わりで違う種類が詰められていたお弁当を当然のように毎日用意してくれていた親につくづく感謝、というかどういう修行をすればそうなれるのか。子供が日本で必要となってもとても用意できる気がしません。

制服にリュックと日本と異なる出で立ち。中には教科書はおろか筆記用具さえ入っておらずお弁当のみ!

次女はクイーンズランド大学の敷地内の保育園に通っています。日本の公立の保育園はどこも値段は共通でしかも大変安価に通わせていただいていましたが、こちらの保育園はそれぞれの園によって値段が違い、かつ短期間の滞在の外国人ということで全く補助がない我が家の場合、保育料はどんなに安くても1日1万円以上となかなかのものです。とても毎日預けるわけには行かないものの、次女は1人で遊んでくれるタイプではなく保育園に行っていただかないことには大人が仕事をする時間がとれないですし、こちらの暮らしにも慣れてもらいたい。葛藤の末現在は週3日通ってもらっています。大学内の保育園ということで先生が話せる言語の幅が広く、日本人の先生も何人かいらっしゃる恵まれた環境ですが、日本の保育園でもなかなか慣れず苦労した彼女にとっては大した助けにはならないようで、数ヶ月たった現在でもほぼ毎朝泣いてしがみついているのを先生に引き剥がされています。とはいうものの、少しずつ順応してきてはいるようです。登園するとすぐに最初のおやつの時間があるのですが、そこでは彼女の大好きな様々な果物が提供されることがよくあります。逆に全く食べたくない蒸し野菜がおやつの日もあり、好きなものはたくさん食べたい、いらないものは自分のお皿に乗せられたくない、という思いから、果物、野菜の名前はバッチリ覚えておかわりも要求しているようです。

保育園最寄りの駐車場にあるイシチドリの鳥注意看板

自分で望んだわけでもなく、英語が全くわからないまま小学校、保育園に放り込まれて頑張っている娘達。行っていない日や週末はストレスなく暮らしてもらいたいとは(実際はともかく)気持ちの上では思っています。そのため基本的に子供がいる時間は子供優先に対応し、残りの可処分時間を、まず現地の人との会話機会、次に日本から持ってきた仕事、最後が鳥見、という優先順位で振り分けています。これだと真面目に仕事をしているとなかなか鳥見にいけないので、仕事はほっておいて鳥見に行くのですね。というのは冗談としても(本当か?)、工夫しないとなかなか鳥見のチャンスがありません。

さて、小さい子供がいて両親とも鳥見が趣味の方達、どうやって鳥見していますか?各家庭でさまざまな葛藤や綱引きをしながら工夫されていらっしゃることと思います。是非その話題で盛り上がりたいところですが、キリがないので、現状我が家がオーストラリアでどうしているか結論だけいうと、基本的には全員で行けるところに子供と一緒に行くという方法で落ち着いています。それだと長距離を歩く場所や、早朝や夕暮れといった鳥見のゴールデンタイムでの実施は難しいですが、1年しかない滞在期間、少しでも見る機会を増やすには選り好みをしている場合ではないですからね。子供達にはお出かけして楽しく遊んだと思っていただきつつ、大人は鳥見ができる場所をいつもgoogle mapと相談しています。

ということで、以降は「超ニッチ!特に鳥に興味のない子供といくブリスベン近郊鳥見スポット3選」をお送りします。マニアックなようですが、子供2人をつれてのハンデ戦は、基本的に真っ昼間、時間を短く、大して歩かず、トイレがある、といった条件となるので、旅行にきて少しだけでも鳥見をしたい、といった人にも最適な場所選びになるのではないでしょうか。我が家があるToowongの街からどの場所も車で20分前後の距離にあり、公共交通機関を使ってもアクセス可能な近場の鳥見スポットです。

Sandy Camp Road Wetland Reserve

私はまずここから紹介しないといけないでしょう。ウが見たいというと必ずおすすめされる場所です。海辺の工業地帯の中にある小さな保護区ですが、いくつかの池と、その周りの草地やユーカリ林に囲まれた多様性の高い環境のおかげで少し歩くだけでたくさんの種類の鳥が見られます。池とその周囲の木ではブリスベン近郊でみられるウとヘビウの5種全てが見られるだけでなく、サギ類、トキ類、バン類、カモ類やトサカレンカクなど多くの水鳥をみることができます。池にはベンチが置いてあり、運が良いとモリショウビン、ヒジリショウビンがすぐ近くにとまります。子供にそこで昼食やおやつを食べさせている間に親も鳥見の時間が稼げる素晴らしい場所です。体サイズの大きい水鳥は子供でも見つけやすく、鳥にあまり興味がない彼らもそれなりに楽しんでくれるようです。周囲の林では森林性の小鳥も数多くみられるので、普通種でよいからとにかく短時間でたくさんの種類を見たい場合にはとてもおすすめの場所です。

昼食を食べながら鳥見ができる。この日は定番のお持ち帰りFish & Chips

Oxley Creek Common

小川沿いに広がる放牧地と林、湿地からなる場所で、行くとなんとなく日光戦場ヶ原を思い出します。広大な放牧地のほとんどは立ち入りできないのですが、草地を横に見ながら林の中のトレイルを進むと様々なミツスイやハト、カッコウの仲間を見ることができます。林を抜けた先には放牧地と池が広がり、数多くの水鳥に加えてこちらのアイドル的立ち位置のオーストラリアムシクイの仲間が多い時で3種類見ることができます。オスが鮮やかな青や赤の装いで動きもかわいい小鳥達は(カワウびいきの私としては悔しいですが)人気があるのも納得です。草地、林、川、池と様々な環境が揃っているため多様性が高く、我々にウチワヒメカッコウの場所を教えてくれたおじいさんはこれで今日は70種目だと特別多いと思っている風でもなくおっしゃっていたので、しっかり早朝から見ればさぞかし充実した鳥見ができる良い場所だと思います。ただ、子供と行くには少々歩く距離が長く、知らずに行った初回は折り返し地点で疲れ果てた30kgと15kgをそれぞれずっと肩車して帰ることとなりなかなかハードな鳥見となりました。それでも何度も再訪しているくらい魅力的な場所です。

テコでも歩かない割に乗せると元気になる15kg

Mt. Coot-tha Reserve

標高300m弱の山とその周辺の保護区では、多くの森林性の鳥を見ることができます。バスでも行ける山頂はブリスベン全体が見渡せる眺望の良い場所で、売店やカフェもある観光地です。近くにねぐらがあるのかキバタンの群れが大声で鳴きながら上空を飛ぶのをみたり、ワライカワセミの笑い声を聞いたりしながらトレイルを下っていくと、ヒタキやミツスイの仲間の混群とところどころで会うことができます。山の小鳥は子供達にはなかなか難易度が高いのですが、ワライカワセミは声も存在感も大きくコミカルで、人をあまり恐れないのか近くに来ることもよくあるので喜んで見ています。この周辺はコアラの生息域でもあり、地元の人によるとトレイルが通っているようなところはほぼみられないとのことではあるのですが、もしかしたらいるかもね?という話をしながらの山下りはそれなりに子供も頑張ってくれるのがありがたいところです。降りた先にはおあつらえむきに遊具のある公園もあり、子供達に満足いただきながらも山で鳥見ができる良い場所です。

私でも写真がとれるワライカワセミ

まだまだ子連れ鳥見の良い場所を開拓していきたいと思っているので、他にも耳寄り情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら是非教えていただけるとありがたいです。

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