ポスター賞を受賞して

2016年10月13日
東邦大学生物学科 松下浩也

(1)受賞時の心境
 人生初の学会参加ということもあり、学会がどのような場所なのかわからず、私のように形態学を学んでいる人間が果たして受け入れてもらえるのか不安だった。そのため、学会ではポスター賞のことは何も考えず、学会を楽しむことに専念しようと思っていた。最初にポスター賞の受賞を知った時には、「本当に僕でいいんですか?」と審査委員の方々に聞きたくなった。しかし、今となっては、自身の研究をこれだけ評価していただけたことは光栄であり、人生で最もうれしい出来事の一つであったと実感している。そして、今まで苦手であった人前での発表に対して自信がついた。これを励みにして、これからも新たな発見ができるように日々精進したいと思う。

(2)ポスターの概略
 鳥類の特徴といえば、嘴や翼、羽毛などの形態を想像する人が多いと思う。しかし、鳥類の特徴は足にも見られる。鳥類の足は生息環境や行動に対応して多様な形態が見られるが、多くの水鳥の足は水かきをもち、それは蹼足や全蹼足、弁足などに分類される。蹼足や全蹼足は水かきが趾どうしをつなぐ構造をもつ。一方で、弁足は独立した各趾の縁に弁膜と呼ばれる葉状の膜構造をもつ。弁足は現生鳥類のうちツル目クイナ科のオオバン属(Fulica)の全種、ツル目のヒレアシ科(Heliornithidae)の全種、カイツブリ目(Podicipediformes)の全種、チドリ目シギ科のヒレアシシギ属(Phalaropus)の全種の4系統のみで見られる珍しい形態である。しかし、弁足が形成される仕組みは未だ解明されていない。今回、私は弁足を持つツル目クイナ科のオオバン(Fulica atra)と、その近縁種で弁足を持たないツル目クイナ科のバン(Gallinula chloropus)の胚発生を調べた。趾の外部形態と内部形態を2種で比較し、オオバンの弁足形成で観察された新発見について報告した。

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弁足をもつオオバン
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ポスター賞を受賞した感想

2016年10月13日
総合研究大学院大学 加藤貴大

 この度は日本鳥学会のポスター賞を頂くことができ、嬉しく思います.私は研究を始めた2010年から鳥学会に参加しており,今大会で7回目の参加となります.その間に,鳥学会での発表を通して色々な方からアドバイスを頂き,お手伝いをして頂きました.学会の皆様のご助力があっての受賞だと思います.

 他の学会にも実質的に学生を対象としたポスター賞などがありますが,鳥学会が公式に執り行うポスター賞はこれまでにありませんでした.今回,鳥学会の変化に立ち会うとともに,第一回の受賞者となれたことが大変ありがたいです.今後,若手の鳥類研究者にとっては,鳥学会のポスター賞こそが最も身近な目標の1つとなるのではないかと思います.さらに,副賞として学会スタッフTシャツを,mont-bellさんからサンダーパスジャケットを頂きました!(写真1)。これほど豪華なポスター賞は鳥学会にしかないと思います.早く寒くならないかと,いつにも増して天気予報を気にするこの頃です.

 嬉しさがある一方で,少し戸惑うこともあります.もちろん賞を頂いたことは大変ありがたいのですが,ややプレッシャーでもあります.今回が第一回ということもあるので,より一層精進しなければと,身の引き締まる思いです.

 最後になりますが,ポスター賞を創設して下さった評議員の方々,2016年度大会を運営された方々,ポスター賞審査員の方々,そして研究協力して下さった方々にお礼申し上げます.ありがとうございました.

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写真1. mont-bellさんから頂いたレインジャケットを着て野外観察している様子.

発表内容
 スズメ Passer montanusの♂胚死亡率が繁殖条件とホルモンレベルに応じて変化する,という研究を発表しました.スズメの孵化率が6割程度であり,他の鳥類よりも孵化率が低いことが知られています(写真2).この孵化率の低さはイエスズメやスペインスズメなどのスズメ属鳥類でも報告されています.「なぜ,孵化率が低いのだろうか?」という単純な疑問が本研究の出発点です.

 研究を進めていくうちに,多くの未孵化卵は受精卵であり発生初期段階で死亡していること,また,死亡する胚のほとんどが♂であることが分かりました(性特異的死亡).そして,繁殖密度が高い場所や,巣場所競争が激しい場所で繁殖する場合,性特異的死亡が多く見られました.さらに、性特異的死亡の生理的な要因も調べました.性特異的死亡は,♀親や卵黄のステロイドホルモンレベルとの関連が報告されています.そこで,雛の糞中ホルモンなどからコルチコステロン量を測定し,性特異的死亡の関連を示唆しました(前後しますが,繁殖密度などに注目した理由はこれです).

 鳥類では発生段階の他に,巣内雛,巣立ち後段階などでも性特異的死亡が報告されていますが,どのような状況下で死亡率が高まるかについては不明でした.本研究は,繁殖条件に応じて性特異的死亡が起こることを明らかにしました.今後は性特異的死亡の生態学的機能についても調べたいと考えています.

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写真2. スズメの孵化雛と未孵化卵.多くの巣で,孵化しない卵(胚発生初期に死亡する卵)が見られる.

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日本鳥学会ポスター賞 初代受賞者は加藤さんと松下さんに

2016年10月13日
日本鳥学会企画委員会

2016年度大会より学会が表彰する「日本鳥学会ポスター賞」が始まりました。これまでにも各大会の実行委員会が主催したポスター賞が不定期に開催されてきましたが,今年からは学会が毎年,若手(30才以下)の優秀ポスターを表彰することになりました。

そして初代の受賞者が総研大の加藤さんと東邦大の松下さんに決まりました。おめでとうございました。受賞者の今後の活躍が「ポスター賞」の価値を決めていきます。プレッシャーをかけるわけではありませんが,今後も良い研究をつづけていってください。

最後になりましたが,審査をしていただいた6名の方,副賞をご提供いただいたモンベル,そして副賞のTシャツとともに,いろいろな事務手間をおかけした大会実行委員会の皆さま,ありがとうございました。
初めての審査ということもあり,審査員の皆さんに多大な負担をかけてしまいましたが,今回の反省をもとに,負担が軽くなるようにして来年以降実施していこうと思います。ポスター関係者,指導教官などを除くと,審査をお願いする人が限られていしまうことが賞実施の上の悩みどころでした。来年以降,審査員のお願いがいきましたら,学会を盛り上げるためにもぜひ,快くお引き受けいただけたらありがたいです。よろしくお願いします。

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初代受賞者 加藤貴大さん(左)と松下浩也さん(右)。上に着ているのはモンベルから副賞としていただいたジャケット

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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告:チュウヒ研究の〝今〟

2016年10月11日

企画者:多田英行(日本野鳥の会・岡山)、先崎理之(北大院・農)、高橋佑亮(伊豆沼・内沼環境保全財団)

(文責:多田英行)

チュウヒはヨシ原を代表するタカの仲間で、生態系の豊かさを象徴する生き物です。しかし、繁殖地が限定的であることなどから、これまであまり生態研究が行われてきませんでした。一方で、近年はメガソーラー開発などの新たな課題が発生しており、チュウヒの保全のためにも生態の解明が急がれています。
今大会は国内最大級のチュウヒの繁殖地である北海道での開催ということで、チュウヒの自由集会を開催するには最適な機会となりました。当日は60名を超える参加者に訪れていただき、みなさんのチュウヒへの関心の高さを感じることができました。

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【各講演の概要】
1.日本のチュウヒの生態~地域や季節による多様性~(多田英行)
 これまでに報告されている文献を基に、チュウヒの採餌環境や餌動物などが季節によって異なることや、行動圏の広さや営巣環境などが生息地によって異なることなどが紹介されました。

2.勇払原野のチュウヒ(先崎理之・河村和洋)
北海道勇払原野での営巣環境や繁殖成功率について発表されました。営巣地周辺の採食地や人工構造物の多さが、チュウヒのペア数や巣立ち雛数に影響するとの研究内容も紹介されました。

3.北海道のチュウヒの営巣環境について(一北民郎)
北海道で見られる営巣環境について、ササ環境の事例も含め、営巣地の植生や水深などのデータが発表されました。また、これまでの観察経験からチュウヒの営巣環境の選択に関する考察も紹介されました。

4.秋田県八郎潟干拓地のチュウヒ(高橋佑亮)
本州以南最大の繁殖地である八郎潟干拓地での繁殖状況や営巣環境、採食生態などが発表されました。また、遷移の進行によるヨシ原の衰退がチュウヒの繁殖を脅かしていることが紹介されました。

【まとめ】
 本集会では主に繁殖期のチュウヒについて最新の知見が報告され、チュウヒの生態を参加者と共有することができました。一方で、チュウヒの生息個体数や繁殖成功率などの基礎的な情報が未だに把握されていないことを再認識しました。チュウヒの生息地の減少要因として自然開発以外にも遷移の進行が課題であることが指摘され、チュウヒの保全のためには生息に適した代替環境を創出していく必要も議論されました。
各地のチュウヒについてまとまった形で情報交換がされる機会はまだまだ少ないので、本集会が今後のチュウヒの研究と保全に繋がる一助になれば幸いです。

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写真好きの研究者に朗報  自分の論文の掲載された学会誌の表紙を自分の写真で飾りませんか?

2016年10月11日
日本鳥学会誌編集委員会 植田睦之

デジカメで手軽に写真が撮れるようになり,研究の合間に鳥の撮影を楽しんでいる方も多いのではないのでしょうか? そんな写真で学会誌の表紙を飾りませんか?

最近の和文誌は,表紙写真を掲載論文に関係するものにしよう,と,編集サイドで表紙写真を探して掲載することが多くなっています。でも,自分の論文が掲載された学会誌の表紙写真も自分の写真だったら,ちょっとうれしいですよね。
そこで,論文の投稿時に表紙写真もあわせて投稿できるようにしました。

いい写真をお持ちで,論文をどこに投稿しようか迷っている方,ぜひ表紙写真とともに日本鳥学会誌へ投稿ください。投稿お待ちしています。
 
ただ,1つの号にはたくさんの論文が掲載されますが,表紙は1つ。複数の表紙写真希望者がいた場合は,希望されても表紙写真として掲載できない可能性があります。表紙掲載の可否については,入稿時に印刷幹事から連絡させていただきますので,その点はご了承ください。

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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「鳥の巣昆虫:10年の総括と今後の展望」

2016年10月6日
世話人:上田恵介・那須義次

鳥学会の自由集会で今まで我々が取り組んできた、鳥の巣と昆虫との研究について、何がどこまでわかったのか、何がわかっていないのか、今後の課題等について紹介しました。当日は午後6時30分の開始にも関わらず、28名もの方に参加いただきました。感謝申し上げます。以下に発表内容等について簡単に紹介します。

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1.鳥の巣と昆虫:これまでのまとめ 

那須義次・村濱史郎・松室裕之・上田恵介

この10年、我々が取り組んできた鳥の巣と昆虫について、昆虫は鳥の巣を繁殖、越冬および蛹化の場に利用していることを、フクロウ類、カラ類、カワウ、ブッポウソウ、コウノトリなどの巣の事例を紹介した。鳥と昆虫との関係では、昆虫は巣内の糞やペリット、食べ残し、巣材を摂食しており、巣内清掃に一定の役割を果たしていると考えられること、鱗翅類では非常に珍しい幼虫産出性(卵胎生)が見られ、その進化と鳥の巣に生息することとの関係が示唆されること、巣内温度は抱卵・育雛中に外気温よりも高く、このことが巣内共生者に有利に働いていることなどを紹介した。今後は鳥と巣、巣内共生者との相互関係の詳しい解明、幼虫産出性の進化、巣内共生者の適応行動の解明等および共同研究を進める必要性について述べた。

2.先島諸島の巣内昆虫 

村濱史郎・那須義次・上田恵介・松室裕之

石垣島・西表島など八重山諸島には樹上に球型や紡錘型のコロニーを形成するタカサゴシロアリが生息している。コロニーには長径で1メートルを超えるような巨大なものもある。同諸島に分布する亜種リュウキュウアカショウビンiはこのシロアリの巣に穴を穿って営巣する習性がある。一方、珊瑚隆起礁である宮古島にはタカサゴシロアリは生息せず、同島に分布しているリュウキュウアカショウビンは枯木に穴を穿って営巣している。

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筆者らは西表島および石垣島のタカサゴシロアリ巣に営巣するリュウキュウアカショウビンと宮古島の枯木に営巣するリュウキュウアカショウビンの繁殖済の巣の、巣内に生息する昆虫相に違いが見られるか調査を実施した。また宮古島では同じく枯木に営巣するリュウキュウコノハズクと樹上に開放巣をつくり営巣する亜種リュウキュウハシブトガラスの繁殖済巣の調査も実施した。さらに西表島と宮古島の林内に羽毛トラップとウールトラップを設置し両島および鳥類の巣、内外に生息するガ類の分布の違いについても調査を行った。

調査の結果、西表島でタカサゴシロアリの巣43巣を発見しそのうち16箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認した。石垣島では17のタカサゴシロアリの巣から2箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認できた。宮古島では枯木に穴を穿ってつくられたリュウキュウアカショウビン巣9巣、リュウキュウコノハズク巣5巣、リュウキュウマツに架巣されたリュウキュウハシブトガラス巣、1巣の調査を実施している。

これらの巣およびトラップからはガ類に限定して言えば、本州でも広く確認されている、フタモンヒロズコガ、マエモンクロヒロズコガなどのほか、Tinea subalbidella 、Ceratophaga sp.、Erechthias sp.など10種の蛾を確認し、そのうち6種は日本未記録種または新種と考えられるものであった。
今後継続して調査を進めサンプル数を増やし、宮古、八重山両諸島間、そして鳥類の巣の内外の昆虫相の相違を明らかにして行きたい。

3.ルリカケスとオオトラツグミの巣にすむ昆虫

上田恵介・石田健・水田拓

奄美大島には固有種のルリカケスと、固有亜種のオオトラツグミが生息しているが、これらの鳥の巣の昆虫相を調査した。

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オオトラツグミの自然巣は、コケ、土を主体にした清潔な巣で、ミミズ(餌のミミズの生き残り?)が生息していたものの、昆虫は少なかった。また鱗翅類幼虫はいたが、羽化しなかったので、同定できなかった。

ルリカケスの巣箱は,石田が系統的に調査をしている巣箱を調べた。ルリカケスが使用した巣箱の中には大量の枯れ枝が持ち込まれていて、比較的、乾燥した印象であった。出て来た昆虫は鱗翅目では、枯葉食・腐植食のヒロズコガ類、シマメイガ類、シマチビツマオレガ、キチン食もおこなうマダラマルハヒロズコガとキチン食性が考えられるアトボシメンコガなどであった。

鞘翅目昆虫ではリュウキュウオオハナムグリが特筆できる。この種は2005年にルリカケスの巣箱から採集され、本種と確認されたのが最初である。2014年9月の調査では3つの巣箱で50匹もの幼虫が採集され,本種がルリカケスの人工巣箱巣をよく利用していることがわかった。巣箱によって幼虫の大きさが異なり,同じ巣箱では大きさはそろっていたことから、同時期に産卵されたものと考えられた。このときは他に自然巣1個を調査したが幼虫はいなかった。

リュウキュウオオハナムグリがルリカケスの自然巣ではなく、巣箱を利用する理由は観察例数が少ないので断定は出来ないが、自然巣は湿度が高いことが原因している可能性がある。またリュウキュウオオハナムグリの生活史については、成虫は7月に巣箱に飛来し、産卵、幼虫は越冬後6-7月に羽化すると推定された。
ほかに、猛禽類やカラスの巣からはアカマダラハナムグリ、フクロウの天然巣や巣箱からはコブナシコブスジコガネとシラホシハナムグリ、リュウキュウコノハズクの自然巣からはミヤコオオハナムグリが見つかっている。

こうした調査から見えて来たものは、鳥の巣にはコガネムシ類(とくに数が少なく珍しいハナムグリ類)が多く生息していることが分かってきた。これらのハナムグリ類などは、鳥の樹洞巣を好む傾向があると考えられる。これまで鳥の樹洞巣の昆虫相については非常に情報が乏しかったので、これらコガネムシ類は希少と思われて来たのであろう。沖縄本島には樹洞性巣の環境エンジニアとして、ノグチゲラやリュウキュウアカショウビンが生息している。絶滅が危惧されているヤンバルテナガコガネもこうした樹洞を利用している可能性は高い。

4.虫のすみかとしての鳥の巣-まだわかっていないこと 

濱尾章二
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近年、いろいろな鳥の巣から多くの昆虫が見つかり記録されてきた。しかし、生態に関わる情報は不足している。鳥の巣をめぐる生物のネットワークを解明し、生態系における鳥の役割を明らかにするためには、巣から見いだされる昆虫の記録にとどまらない研究が必要だ。濱尾ら(2016,日鳥学誌 65: 37-42)は、シジュウカラの巣箱を用いた調査から、ヒナが巣立った巣で蛾類の発生が多いこと、巣立ち後巣材を採取するまでの日数が長いとケラチン食の蛾が発生しやすいことを明らかにし、昆虫が積極的に鳥の古巣に侵入し繁殖することを示唆した。今後は、鳥の巣が昆虫の繁殖場所としてどれほど重要であるのか(例えば、他の場所と鳥の巣を利用する割合)、また、鳥の巣を利用する昆虫の利益とコスト(例えば、湿度・温度の影響、捕食者・寄生者の影響)を明らかにしていくことが重要だろう。

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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「漁業による海鳥混獲の削減をめぐる国際動向と国内での取り組み」

企画者:越智大介・井上裕紀子 (水産研究・教育機構 国際水産資源研究所) ・佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)

2016年10月6日
文責:越智大介

皆さんは「混獲」という言葉をご存知でしょうか。「混獲」とは漁業で本来の漁獲対象生物以外のものが意図せず漁獲されてしまうことを意味します。一部の漁業では、海鳥が混獲されることがあり、しかもその中には絶滅が懸念される種が含まれるため、希少海鳥類の個体群保護の観点から大きなリスク因子となっています。本自由集会では鳥学会員にはあまりなじみがないと思われる「漁業による海鳥混獲」をテーマに、海鳥混獲削減対策に関する国際的な動向や混獲削減のための研究状況を紹介し、さらに現在日本国内で行われている海鳥混獲削減に向けた取り組みについて紹介し、海鳥混獲対策の今後について議論を行いました。

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【発表の概要】
1.最近の海鳥混獲をめぐる国内外の動向

越智大介(水産機構・国際水研)

越智からは、漁業による海鳥混獲問題についてこれまでの経緯と現在取られている対策について簡単な解説を行いました。海鳥混獲問題は1980年代ごろからまぐろはえ縄漁業による混獲を起因とする南半球のアホウドリ類繁殖個体群の減少という形で顕在し始め、その後も同様の問題が次々報告されるようになりました。こうした状況を受け、国連総会やFAOの場で規制や対策が打ち出され、その後現在に至るまでは地域漁業管理機関(国際条約により定められた、公海上の漁業を管理・規制する国際機関)や各漁業国において現状調査・混獲削減技術開発・混獲削減措置の順守などの海鳥混獲対策が取られるようになりました。また、希少海鳥の個体群保護については、海鳥混獲対策のみならず、繁殖地の保全・環境整備や、生態情報の調査研究も同様に重要であり、これらの分野と連携し、海鳥個体群保護を目指した包括的なアプローチをとる重要性についても説明を行いました。

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図 希少海鳥保護のための包括的アプローチのイメージ。青は漁業、緑は調査研究、赤は保全関連分野を示す

2.近年導入された混獲削減措置とその評価方法

井上裕紀子(水産機構・国際水研)

井上さんからは、国際海域で行われているまぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減措置について具体的な説明がありました。まぐろはえ縄漁業で用いられている主な混獲回避手法としてトリライン(海に投入されるはえ縄の上に吹き流し付きロープを渡して海鳥の釣り餌へのアクセスを防ぐ)、加重枝縄(釣り糸(枝縄)におもりを付け、釣り餌を海鳥の潜水深度より深い水深に早く沈める)、夜間投縄(海鳥の採餌活動が低下する夜間に操業する)の3種があげられ、この3種から2つの回避措置を選択して使用する規制が新たに導入されたことが紹介されました。また、その評価方法として、混獲率と総混獲数の推定が使用されることが説明されました。さらに、実際の漁船から得られた混獲情報を用いて、夜間投縄、加重枝縄に効果があったことが紹介されました。

3.まぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減手法の研究紹介

勝又信博(水産機構・国際水研)

勝又さんからは、まぐろはえ縄漁業で使われている海鳥混獲回避手法の研究及び実験結果の紹介をしていただきました。まず、海鳥がはえ縄に混獲される経路として、海に投入したはえ縄についた餌を表層や潜水により直接採餌して鈎に掛かる場合とその餌を横取りしようとして鈎に掛かる場合の二つのケースがあることが説明されました.これらの混獲を防ぐ方法として,上記のトリラインと加重枝縄を北半球のまぐろはえ縄漁業に適した形に改善した混獲回避装置を開発し、その効果を検証するために実際に操業を行うはえ縄漁船での実証実験の方法と、その結果が報告されました。

4.刺し網・流し網混獲の国際的な研究動向とバードライフの取り組み

佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)

佐藤さんからは、刺し網・流し網漁業で混獲される海鳥の問題について解説がありました。先に述べたとおり、北太平洋では公海流し網による海鳥混獲が90年代に全面禁止となった一方で、ロシア経済水域内では日本漁船も参加するサケ・マス流し網がその後も続いており、相当数の海鳥(ウミスズメ類・ミズナギドリ類)の混獲が報告されていましたが、昨年操業が全面禁止となったことが紹介されました。さらに沿岸で行われる固定型刺し網でも海鳥の混獲が懸念事項となっており、近年これに対して海鳥の視覚に訴える海鳥混獲回避手法が開発され、その有効性について実験が行われていることについて解説がありました。

5.北海道・天売島における刺し網混獲対策事業の紹介

山本 裕(日本野鳥の会)

山本さんからは、昨年より開始された刺し網海鳥混獲の削減手法に関する実験について紹介がありました。ウミガラスやウトウ、ウミウなどの海鳥の繁殖地となっている北海道の天売島において実施された、先に佐藤さんが紹介した海鳥の視覚を利用した混獲防止網の実証実験に関する説明がありました。実験では、混獲防止網と通常の網を同時に用いて混獲数や漁獲量などのデータ収集が行われており、混獲削減効果についてはまだ十分に情報が集積していないものの、漁獲量や漁業者の使い勝手の問題があるため、さらなる改善が必要であるという説明がありました。

6.総合討論

総合討論では、海鳥混獲の現在の状況や、国内漁業における混獲問題など様々なコメント、意見、情報提供など活発な議論が行われました。特に国内の沿岸漁業での混獲に関しては利害関係者の間で合意形成を根気強く行っていく必要があるという意見が印象的でした。

7.終わりに

本自由集会は初日の早い時間帯での開催であったにもかかわらず、多くの人に参加いただき、終了間際には廊下に人が立つほどとなりました。正直私としましては、比較的マイナーな「海鳥混獲」の話なのでそこまでの人の集まりは予測しておらず、関心のある人の多さに驚き、またうれしく思いました。今後もまたどこかで、海鳥混獲問題を議論する場ができればと思っています。私の発表パートの部分にも書きましたが、海鳥の個体群保護のためには漁業サイドで海鳥混獲対策をとるだけでは片手落ちで、調査研究に基づいた海鳥種の生活史情報をもとに、繁殖地での保護対策と同時に行うことでより有効な対策となるはずですので、今後はこういった包括的な連携をどう形成していくかということも重要になってくるのかな、と個人的には考えています。
最後に、海鳥混獲に興味を持たれた方への参考資料を紹介してレポートを終わりたいと思います。

8.参考資料

FAO (1999) International Plan of Action: Seabirds ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/006/x3170e/X3170E00.pdf
水産庁 (2007) はえ縄漁業における海鳥の偶発的捕獲を削減するための日本の国内行動計画 http://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/bunyabetsu/pdf/umidori_keikaku160315_a.pdf
Žydelis, R., Small, C., & French, G. (2013). The incidental catch of seabirds in gillnet fisheries: A global review. Biological Conservation, 162, 76-88.
Clarke, S., Sato, M., Small, C., Sullivan, B., Inoue, Y., & Ochi, D. (2014). Bycatch in longline fisheries for tuna and tuna-like species: a global review of status and mitigation measures. FAO fisheries and aquaculture technical paper, 588.

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喧嘩のあとにはフォローが大事 ~セキセイインコのなかなおり~

2016年10月4日
京都大学 物質―統合システム拠点(iCeMS)
科学コミュニケーショングループ
特定研究員 一方井祐子

突然ですが、友人と喧嘩してしまったらどうしますか?ごめんなさいと頭を下げたり、握手をしたり。ハグをしたりする人もいるかもしれません。では、喧嘩に負けてしょんぼりしている友人を見かけたら?肩をたたいて「元気出せ!」といったり、黙ってご飯に誘う人もいたりするかもしれません。

前者の行動は「なかなおり」、後者の行動は「なぐさめ」と呼ばれる行動です。私たちの研究 [1] によって、じつはセキセイインコもこれらの行動をするらしいということが分かってきました。

セキセイインコはおもしろい
私はセキセイインコ(図1)の視聴覚コミュニケーションを研究してきました。ペットとして広く知られているセキセイインコですが、ヒトによく似ているところがたくさんあることはご存じでしょうか。一夫一妻を長く続けるところ。オスとメスの両方が子育てに関わるところ。鳥類にはめずらしく、オスよりもメスの方が攻撃的(!)というところも面白いところです。

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図1 セキセイインコ

セキセイインコ同士であくびが伝染すること [2]、セキセイインコの発声パターン(=コンタクトコール)が群れやつがいで似てくること(e.g. [3][4])も報告されています。これらの行動もヒトとよく似ています。

セキセイインコの喧嘩とは?
今回、私たちが注目したのはセキセイインコの「喧嘩」と「喧嘩のあとに起こること」です。当時、私が所属していた研究室ではセキセイインコの集団飼育をしていました。セキセイインコは多くの時間をつがい相手の近くで過ごします。一方で、なぜだかよく喧嘩もしていました。

嘴を大きく開いて相手を威嚇したり、大きな声をあげながら相手を嘴でつついたり。つがい相手と喧嘩したり、つがい相手以外と喧嘩したりと、喧嘩の程度や相手はさまざまでした。

喧嘩のあとの行動
ある日、喧嘩のあとでセキセイインコがつがい相手のところへすぐにとんでいくことに気がつきました。喧嘩のあとではつがい相手とどんな行動をしているのだろう。もしかしてなかなおりやなぐさめといった行動が見られるかもしれない。

そこで、セキセイインコの様子をしばらく録画して観察してみることに。録画した映像を見ながら「いつ」「どの個体が」「どの個体に対して」「どのような行動をしていたか」を時系列に沿って書き出してみることにしました。

時系列に書き出してみただけでは何が起こっているのかはまだ分かりません。「喧嘩のあとになかなおりやなぐさめがおこるのか」ということを調べるには、書き起こしたデータの集計や統計を通して仮説を検証する作業が必要です。

ところで、なかなおりやなぐさめで見られるやりとりを親和(しんわ)交渉と言います。ヒトなら握手やハグなど、トリなら羽づくろいや、嘴を近づけるというやりとりが親和交渉です。

喧嘩のあとでは親和交渉が起こりやすい。つまり、喧嘩のあとでは親和交渉が起こるまでの時間が短くなるとの予測をもとに、実際のデータをつかって喧嘩から親和交渉までの時間を測定していきました。そして、シミュレーションによって(喧嘩が起きていない)平常時と比較しました。

その結果、喧嘩のあとでは親和交渉がおこるまでの時間が短くなっていたことが分かりました(図2)。

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具体的に言えば、

(1)つがい相手と喧嘩するとそのあとつがい相手となかなおりをする

(2)つがい相手以外と喧嘩するとそのあとつがい相手と親和交渉をする

ことが分かりました(ちなみに(2)の一部のやりとりがなぐさめに該当します)。

ただし、すべてのつがいがこのような行動をしたわけではありませんでした。その理由はまだよく分かっていませんが、もしかしたらつがいの「絆」の違いによって、喧嘩のあとのフォローの仕方も違ってくるのかも?

カラスでの報告
調べてみると、カラス科のトリでも同じような報告があることが分かりました。ミヤマガラスは、つがい相手以外と喧嘩したあとつがい相手と親和交渉を行っていました [5]。コクマルガラスでも同じような報告がありました [6]。でもカラス科のトリのつがいでは、なかなおりは報告されていないのです。セキセイインコのつがいとは違って、カラス科のトリのつがいではめったに喧嘩がおこらないそうです。このことが、なかなおりがみられない理由のひとつ、と考えられています。

つまり、セキセイインコもカラスも喧嘩のあとに同じようなやりとりをします。でもその方法はちょっとずつ違うのです。

実験室での研究のすすめ
さて、私はこれまで実験室で飼育下のセキセイインコを対象に研究を行ってきました。「トリの研究をしています」と言うと、野外に出て野鳥を追いかけるイメージを持たれることが多くあります。

野外で鳥類の研究をしている研究者はたくさんいます。実験室で鳥類の研究をしている研究者もたくさんいます。野外と実験室の両方で研究をしている研究者もたくさんいます。実験室の研究の利点とはなんでしょうか。例えば、個体数、個体の年齢、観察時間など、野外ではコントロールできない様々な条件をコントロールして観察・実験できるということがあります(そして楽しい)。

大学や大学院に進学して鳥類の研究をしたいと思っている人がいたら、ぜひ実験室での研究も視野に入れて研究テーマを探してみてください。実験室ならではの、面白いテーマが見つかるかも!

【引用文献】
[1] Ikkatai, Y., Watanabe, S., & Izawa, E. I. (2016). Reconciliation and third-party affiliation in pair-bond budgerigars (Melopsittacus undulatus). 153, 1173 – 1193.
[2] Gallup, A. C., Swartwood, L., Militello, J., & Sackett, S. (2015). Experimental evidence of contagious yawning in budgerigars (Melopsittacus undulatus). Animal cognition, 18(5), 1051-1058.
[3] Farabaugh, S. M., Linzenbold, A., & Dooling, R. J. (1994). Vocal plasticity in budgerigars (Melopsittacus undulatus): evidence for social factors in the learning of contact calls. Journal of Comparative Psychology, 108(1), 81-92.
[4] Hile, A. G., Plummer, T. K., & Striedter, G. F. (2000). Male vocal imitation produces call convergence during pair bonding in budgerigars, Melopsittacus undulatus. Animal Behaviour, 59(6), 1209-1218.
[5] Seed, A. M., Clayton, N. S., & Emery, N. J. (2007). Postconflict third-party affiliation in rooks, Corvus frugilegus. Current Biology, 17(2), 152-158.
[6] Logan, C. J., Emery, N. J., & Clayton, N. S. (2013). Alternative behavioral measures of postconflict affiliation. Behavioral Ecology, 24(1),98-112.

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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「ドローンを使った鳥類調査」

2016年9月25日
企画者 上野裕介(東邦大学)・時田賢一(岩手大学)
文責 上野裕介

ドローン(UAV)の進歩と低価格化によって,鳥の目線での空撮が身近になった。鳥類学の分野でも,ドローンを使った調査事例が増えつつあり,鳥類学の発展や保全での活用が期待されている。一方,昨年には航空法が改正され,ドローンを活用する上での制約も出てきた。

そこで実際の調査にドローンを活用している演者8名から,鳥類研究における活用法を紹介するとともに,ドローンの特徴や最新機器に関する情報,環境調査の技術,法制度や安全な運用方法などについて紹介する自由集会を開催することとした。

当日は,ドローンに対する期待の表れなのか,約70名の方々にご参加いただくことができ,鳥学会会員の関心の高さがうかがわれた。

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会場の様子

【各講演の概要】
1.チュウヒの繁殖状況調査におけるドローンの試用例
高橋佑亮(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)

 ドローンを使ったチュウヒの巣内雛数の把握,巣や雛の判読限界高度,ドローンに対する親鳥の反応について報告があった。DJI Phantom2 Vision+を用いた調査では,巣の直上100mからの撮影であれば巣の判読が可能であり,50mからの撮影では巣内雛数の判読が可能であった。親鳥の反応については,飛行高度○mであれば安全であるということは必ずしも言えないが,数十m離せば比較的影響は小さいと思われた。以上の結果から,上記機種を用いてチュウヒの巣内雛数を把握する場合,飛行高度は50m程度が目安であるとの報告であった。
 またドローンは,踏査での調査に比べて省力化できる点や営巣地の植生破壊を伴わない点で有効な調査方法になるとの考えが示された。とはいえ,ドローンはチュウヒにとってストレス以外の何物でもないため,ドローンによる調査の必要性をよく検討し,最小限の使用にとどめるべきとの指摘もあった。

2.ドローンを利用したマガンカウントの試み
神山和夫(NPO法人バードリサーチ)

 マガンのねぐらでのカウントを行うために,ドローンを用いた事例についての報告があった。課題として,出前~日の出直後の照度が大きく変化する時間帯の撮影であること,またマガンがねぐら出を迎えるまでのわずかな時間で撮影を終える必要があることなど,技術的な難しさが示された。

3.保護区域外のツル識別とカウントの試み
時田賢一(岩手大学農学部)

 飛来個体の増加により,保護区域の外(周辺圃場)で採餌する個体の把握に,ドローンを用いた事例の紹介があった。現行行われている総個体数カウントでは誤差の検証ができないため,個体数のカウントや,採餌地などのツルの土地利用の把握を行う上でドローンが役立つとの報告があった。
一方,ツルの群れへの接近は,低空(撮影高度付近)での水平方向からアプローチは避けた方が良く,離陸地点であらかじめ高度を十分に取ってから撮影地点上空に移動した後,ツルの反応を確認しながら徐々に高度を下げたほうが良いとの考えが示された。また,ドローンの音を気にしているようだとの指摘もあった。

4.釧路湿原におけるタンチョウの調査事例
松本文雄(釧路市動物園)・小林功・山田浩行(パシフィックコンサルタンツ株式会社)・上原裕世(酪農学園大学)

 アクセスが困難な湿原内の調査において,個体の発見や雛数のカウントに,ドローンが活用可能であることが示された。特に,ドローンにズームレンズ付きのカメラを搭載することで,より高高度での撮影が可能になり,個体への影響も小さくすることができそうだとの報告があった。

5.湿原性鳥類の営巣植生調査におけるドローンの試用例
中山文仁((一財)自然環境研究センター)
 
 湿原性鳥類の調査における課題として,背丈の高いヨシなどにより見通しが効かないこと,植生に覆われた水域の配置がわかりにくいことが挙げられる。そこでドローンによる空撮を行うことで,営巣場所や周辺環境(水域)を調査した事例が報告された。特に周辺環境(水域)の調査では,空撮画像のRGB情報をもとに簡易な画像処理を施すことで,およその範囲を抽出できることが示された。

6.モニタリングにおけるドローン技術の利用可能性
鈴木透(酪農学園大学)

 鳥類のモニタリングへの空撮の利用可能性を検討するために、飛行高度と画像の解像度による水鳥の判別の可能性を報告した。大小のカモ類の種判定,個体数のカウントを行う場合を想定し,原寸大のデコイを様々な条件で撮影することで必要な高度,画角を計算した結果、種の判別には約1cm程度の高い解像度が必要であることが明らかになった。

7.空撮・測量・環境調査の技術と法制度,安全管理
上野裕介(東邦大学)

 ドローンで空撮した画像は,個体や群れのモニタリングだけでなく,地形測量にも使うことができる。そこで,撮影位置を少しずつずらし連続撮影したオーバーラップ画像から対象物の3次元構造を復元する写真測量技術(Structure from Motion:SfM)と,SfMを用いた立体測量の技術について報告した。また野外での検証結果から,おおむね高さ方向の計測誤差が数cm~5cm程度に収まることを示した。またドローンにまつわる航空法の改正や損害賠償保険,安全な運用方法についてお話しした。

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講演の様子

8.ちょっと変わったドローンの活用法
山田浩之(北海道大学)

 ドローンとは,そもそも飛行機である。カメラを搭載すれば空撮機となり,気象観測やレーサープロファイラなど他のセンサーを積めば計測機になる。アタッチメントを装着すれば,サンプル採取や運搬が可能になる。その一例として,採水ボトルをぶら下げたドローンによって池の水を採取する方法を報告した。一方,不運にもドローンが墜落することもある。墜落したドローンの再利用法(プロペラ編,カメラ編)を紹介した。

【まとめと感想】
 これまで空撮画像を得るには,高額な航空写真や衛星写真を購入する他なかった鳥類研究者にとって,安価で簡単に空撮を行うことができるドローンは大変便利な道具である。簡単に空撮が行えるようになったことは,調査のために人が鳥の生息地に立ち入る回数を減らすことにつながり,調査圧の軽減に役立つ。一方,空撮による鳥への影響(特に撮影高度や撮影頻度との関係)は十分にわかっておらず,対象個体に十分に注意しながらの手探りでの調査が続けられている。そのため営巣地や塒の空撮などで,必要以上にドローンを接近させたり,頻繁に飛行を繰り返したりすることは慎むべきである。本自由集会のような調査事例や技術情報の共有から,ドローンによる鳥類調査を鳥にとっても人にとっても安全で快適なものにする必要があるだろう。
他方,今回の自由集会では鳥類を専門とする人たちが,個個別別に運用スキルを磨き,調査技術の改良・開発にも取り組んでいる現状があることがわかった。ライト兄弟が1903年に空を飛んでから,既に110年超が経過し,飛行機を用いた空撮や調査技術は大きく進歩している。またドローン調査についても,防災分野などでは10年以上前から実用化が試みられてきた。それらの技術の蓄積を導入することで,ドローンによる鳥類研究を大きく飛躍させることができるだろう。他分野の研究者や技術者と協力することで,鳥類の生態解明や生息環境の把握,保護・保全につながる新たな発見や気づきを,ドローンという鳥の目が私たちに与えてくれる日も近いと感じている。

※ドローンに関するご質問や共同研究のご相談は,随時受付けています。
 ご遠慮なくお問い合わせください。

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バードリサーチ調査研究支援プロジェクト 研究プラン募集中(10月末まで)

2016年9月23日
NPO法人 バードリサーチ 植田 睦之

下世話な話ですが,お金,欲しいですよね。世知辛い昨今,所属機関や家計からなかなか調査費用も出してもらえない場合に,少しでも調査費があると助かります。でも研究を続けていくうえで,もっと大切なのが,自分の研究をみんなに知ってもらうこと。知ってもらえたら,何かの際に共同研究など研究を拡げることができるかもしれないし,原稿依頼も来るかもしれず,これから研究機関への就職を目指す人は,その点でも有利になるかもしれません。
この2つ,一気に満たしたいと思いませんか? 深くうなずいたあなた,バードリサーチの「調査研究支援プロジェクト」の調査プランに応募しませんか?

バードリサーチの調査研究支援プロジェクトは,支援対象の研究プランを選定し,それに対して募金を募るプロジェクトです。もらえるお金は寄付金次第ですが,これまでの実績を見ると数万円から数十万円とそれほど大きな金額ではありません。でも,プラン選定の一次審査では大御所の研究者の方たちにじっくりプランを見てもらえますし,支援対象に選定されればバードリサーチの会員など数千人の人に研究を知ってもらえます。

プラン応募の締め切りは10月末。詳しくは 以下のホームページをご覧ください
http://www.bird-research.jp/1_event/aid/index.html

注意点としては,応募のためには,バードリサーチの会員になる必要があることです。「お金をもらうために,まず会費が必要なんて,典型的な詐欺の手口だな」と思いましたか? 会費の必要な有料会員になってもらうのは大歓迎ですが,会費無料の協力会員でも応募できるので,詐欺ではないと思います。きっと。

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