骨を折って編集した「奄美群島の自然史学 亜熱帯島嶼の生物多様性」の紹介

2016年3月3日
環境省奄美野生生物保護センター 水田拓

私の職場である環境省奄美野生生物保護センターには多くの研究者が来訪します。さまざまな研究者にお会いし、そのお話を聞くにつけ、自然史研究の面白さ、奥深さを実感し、こんな話を内輪にとどめておくのはもったいない、広く一般の人々に、例えば本などにして紹介することができれば、と、以前から考えていました。

とはいえ、本など簡単にできるものではありません。気になりつつも、出版はなかば妄想のように頭の中にとどまっているだけでした。ところが。妄想が実現するきっかけとなる出来事が2年前に起こりました。2月のある雨の晩に、職場から自宅に歩いて帰る途中、水たまりで足を滑らせ転倒し、あろうことか左足を骨折してしまったのです。全治3か月。野外調査が始まろうという大切な時期に、山歩きはおろか日常生活もままならない事態に陥りました。

意に反して机の前から動けない時間が3か月できたとき、くだんの妄想が浮かび上がってきました。これを機に、出版に向けて動き始めよう。幸い東海大学出版部の編集者、稲英史氏を紹介してくださる方がいて、稲氏に出版を引き受けてもらえることになりました。またうれしいことに、原稿を依頼した全ての方から執筆承諾の返事をいただけました。こうして多くの方々の協力のもとにできあがったのが、この「奄美群島の自然史学 亜熱帯島嶼の生物多様性」です。骨折したのが2014年の2月19日、出版されたのが2016年2月20日ですから、まるまる2年をかけて、妄想が現実のものとなったことになります。

「奄美群島の自然史学」表紙.jpg

まあそんな個人的な経験はさておき、この本では総勢23名におよぶ研究者が分担執筆して、奄美群島を舞台に自身が行っている自然史研究について紹介しています。研究対象や研究分野は幅広く、内容は単なる一地方の自然の紹介にとどまっていません。奄美群島という地方を軸としながらも「自然史研究とはなにか」を具体的に示した、教科書としても読める本になっているのではないかと自負しています。また、研究内容が面白いだけでなく、それぞれの著者の文章からは、野外調査の苦労や喜び、奄美群島の自然に対する熱い思いなども伝わってきます。そこはかとないユーモアさえ感じられる対象生物への愛情表現も見逃せません。生き物が好き、自然史研究が好きな人には、きっと面白く読んでいただけると思います。

ところで、著者は23名いるのに表紙に「水田拓編著」とだけ書かれているのは、なんとも面はゆい気がします。しかしこれは、内容に関する責任は全て水田が負う、ということの現れでもあります。誤りは、編集段階で何度見直しても次から次へと見つかりました。もしかしたらまだあるかもしれません。いやきっとあるでしょう。誤りの指摘は真摯に受け止め、批判は甘んじて受けたいと思っています。しかしそれ以上に、賞賛には手放しで喜びます。文字通り骨を折って編集したこの本、ぜひお読みいただき、感想などもらえればありがたく思います。

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シリーズ「鳥に関わる職に就く」:受け身の達人

2016年2月17日
森林総合研究所 川上和人
バイクにまたがる筆者.jpg
黒いのがバイクで、赤いのが著者。

「このジョルノ・ジョバァーナには夢がある!」
彼は夢に向けて進み、見事ギャングのボスになる。海賊王、天下一武闘会、主人公達は熱い目的意識で未来に向かっていく。

しかしそんな明確で壮大な夢に突き進む主役級の人材は、現実には一握りだ。主人公への視線は憧憬であって共感ではない。私も大それた野望もなく、破廉恥なことばかり考えながら受動的で器用貧乏な半生を過ごしてきた。

受動的も器用貧乏も、ニュアンスは悪口である。しかしこれも処世術と心得たい。中途半端な受け身は身を滅ぼすが、とことん受けて立てばいつか達人の域に達し、器用大富豪になるはずだ。

大学三年の私は、恩師となる樋口広芳先生の研究室の門を叩いた。
「鳥類について學びたく、何卒御指導賜りたい」
「では君、小笠原でメグロを研究してみ給へ」
名前も場所もとんと聞いたことがない地名だったが、大志を抱かぬ私にとって師の導きは宇宙の真理である。
「仰せのままに」

さも自らの意志であるかのような顔で小笠原の土を踏み、以来20余年間そこで研究を続けている。同じく小笠原で研究を進める森林総合研究所のスタッフと出会うまで、長い時間は要しなかった。
メグロ.jpg
メグロ。この鳥のおかげで,今の私がある。

「君、森林総研で小笠原の研究をする気はあるかね」
3年ほど経った頃である。大学院在学中の私には、就職なぞまだ現実感のない2001年宇宙の旅のようなもので、とっくりと考えたこともない。
「それはもちろんでございます」
突如の質問にはとりあえずイエスで答える。ノーと言えない由緒正しい日本男児の姿を確と見よ。

急遽公務員試験を受け博士課程を中退し、現職に至る扉を開く。森林総合研究所は林野庁傘下の研究開発法人である。爾来、世のため人のため林野庁のため自分のため、鳥学に身を委ねる毎日である。
「君、カタツムリの調査をしてくれ給へ」
「君、予算をとってきてくれ給へ」
「君、恐竜の本を書いてくれ給へ」
「君、バイク雑誌の原稿を書いてくれ給へ」

依頼や勧誘を承諾し続けると、経験値も選択肢も拡大する。断り続けると縮小する。鳥学分野での就職難は最近始まったことではない。選択肢の拡大は重要な戦略だ。私が現職に誘われたのも、何でもやりますと二枚舌と八方美人を駆使していたからに他ならない。

今もって具体的な目標はない。しかし、具体ではないが明確な目標がある。長期的に明るく楽しく鳥学に励むことだ。その経路もゴールも問うつもりはない。汚名も謹んで拝命しよう。

大志の成就を目論む者は、賢明にその道を進むがよかろう。しかし流され人生も恥じ入る必要は皆目ない。私と同じく破廉恥で自堕落な、ただし鳥学をこよなく愛する後進達には、受け身の達人を目指して八方美人な鳥学道を歩んでほしい。

そしていつか、上手に断れずにこんな原稿を引き受けてもらいたい。

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「ポスター賞、始めました」

2016年2月15日
企画委員長 川上和人

2016年、鳥学の新たな歴史が始まります。
新賞「日本鳥学会ポスター賞」の誕生です。

今年は、記念すべき第一回目の賞を得る未来永劫唯一のチャンスです。この栄誉に向け、多数の応募をお待ちしております。

いや、過去にもポスター賞があったではないかというご意見もありましょう。確かにその通りです。しかし、これらは各大会の事務局により独自に運営されたものでした。これからは、鳥学会公認の正式な賞として毎年の募集が決定したのです。

賞の最大の目的は、若手の独創的な研究を奨励することです。ここで鳥学の魅力を語ることは、釈迦に説法、孔子に論語、文明堂にカステラの美味を説くような愚行ですので、あえては申し上げません。賞の新設により、この魅力あふれる鳥学の将来を担う若手を、学会として応援したいと考えているのです。

当たり前の話ですが、賞の主役は授与する側ではなく応募者です。まだ実績が少なくとも、オリジナリティの高い研究を展開する若人の参加をお待ちしております。100年の歴史を持つ鳥学会に未来の歴史を紡ぐのは、他の誰でもない皆さんなのです。

さて申し上げにくいことですが、目的に照らし応募資格を30歳以下に限定させていただきました。この点を平にご容赦下さい。若い若いと思っていても、月日の流れは速いものです。資格のある方はお早めに!

詳細は特設サイトをご覧下さい。
では、鳥学会大会の授賞式でお待ちしております。

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故郷の北海道で,鳥の研究室はじめました

2016年2月8日
酪農学園大学 環境共生学類
環境動物学研究室 森さやか

1月に広報委員に任命されると共に,三上修委員長からこの原稿を書くよう,最初の任務を拝命いたしました.ブログ化以前の鳥学通信には,「飛び立つ!」という,就職したての研究者のコーナーがありました.私は就職してから既に2年が経とうとしていますが,近況について紹介させていただきたいと思います.

私は2014年4月から,北海道の江別市にある酪農学園大学に准教授として勤務しています.江別市は札幌市の隣にあり,札幌駅から大学最寄り駅まではJRで15分ほどです.ただし,酪農学園大学と言う名の通り,大学の前には畑や牧草地が広がっています.そのため,最寄駅から大学の建物に至るまでには,徒歩でさらに15分ほどかかります.大学の裏手には,クマゲラやフクロウも繁殖する野幌森林公園が広がっています.私の研究室は公園側に面しているので,窓を開けると居ながらにして,さわやかな鳥たちの声が聞こえてきます.
環境動物学研究室のベランダからの風景.奥が野幌森林公園に続く森林_R.JPG
環境動物学研究室のベランダからの風景.奥が野幌森林公園に続く森林

私は札幌市出身なのですが,18年ぶりに落ち着いて故郷に生活拠点を置くことになりました.研究活動では,学生時代からずっと北海道を主なフィールドとしてきましたので,北海道に戻ってこられたのは幸運だと思っています.

さて,酪農学園大学は,学部・学科の代わりに学群・学類制を採用しており,獣医学群と農食環境学群があります.私の所属する環境共生学類は農食環境学群に属し,理系・文系の多様な視点から,環境と調和・共生する社会の実現に向けた教育と研究活動を展開しており,博士課程まで進学も可能です.野生動物関係では,特にシカやクマ等の哺乳類の管理や狩猟に関わる研究や活動に力を入れており,GISやリモートセンシング関連の設備も充実しています.昨年からは,DNAの解析設備も整いつつあります.40代の教員が多く,研究分野の近い教員には,学部時代からお世話になってきた方や,出身研究室の先輩方もいます.そのため,いろいろと相談や協力はしやすい雰囲気です.
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環境動物学研究室のDNA実験室

私は,環境動物学研究室という研究室を開設しました.他に鳥類を専門とする教員がいないため,当面は鳥類専門の研究室として運営していくことにしました.学生は1学年定員8名で,3年生から研究室に配属されます.昨春の着任とほぼ同時に定員一杯の3年生が配属され,道筋をつけるのに苦労をしてきましたが,彼らも現在は卒論をまとめているところです.今年は研究室運営も少し軌道に乗ってきて,来年度の4年生は,今年度よりもレベルの高い課題に取り組む意欲を見せています.毎年徐々に研究室の活動を盛り上げていければよいかなと思っています.
昨年秋に学類で導入したDNAシーケンサー_R.JPG
昨年秋に学類で導入したDNAシーケンサー

このところ,北海道には,鳥学会で活躍する研究者が集まりつつあるようです.全国的に鳥の研究を出来る大学が減っている印象でしたが,北海道での活動は,今後ますます活発になりそうです.私もその一翼を担えるように,教育活動も研究活動も一層責任と意欲を持って取り組んでいかなくてはならないと思っています.とりあえずは,今年の札幌大会を,札幌近郊勢のみなさんと力を合わせて盛り上げていきたいと思います.

最後に,大学教員として教育にあたる立場になり,過去に自分が受けてきた指導や経験してきたことを振り返ることが多くなりました.これまでいろいろなご指導,ご支援をいただいてきたみなさまに,改めて感謝いたします.今後ともどうぞよろしくお願いいたします.

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シリーズ「鳥に関わる職に就く」:タイミング,求めよさらば与えられん

2016年1月25日
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団 上席主任研究員
嶋田 哲郎

鳥学で仕事をする,本当に狭き門です.少ない席をめぐって熾烈な競争があります.私の話は,上には上がいる,と思ってもなおかつ鳥学で仕事をしたい人のための話です.私の同期(40代半ば)には優秀な鳥学者がたくさんいます.あいつにはかなわないなあ,と思う人が頭に浮かびます.また,和文誌編集委員などいくつかの学会役員をやらせていただきましたが,みなさん頭の回転が速く,仕事が速すぎます.

さて,こういう上には上がいる状況で,どうしたら鳥学の仕事につけるのでしょうか?それはタイミングです.最初から身も蓋もない言葉で申し訳ありません.でも続きがあります.タイミング,求めよさらば与えられんです.

修士2年の頃,博士課程にすすんで自分の研究を極める覚悟がなかったこと,経済的な事情もあり,修士で終えて就職しようと思っていました.鳥学会には学部のときから参加していました.私の同期の鳥学者は繁殖期の鳥をやっている人が多かったのですが,非繁殖期でガンカモというのは当時私くらいでした.そういう意味では競争相手は少なかったといえます.ガンカモをやっている数少ない若手として,学会を通じて多くの水鳥研究者と深く交流できたことは,就職につながる背景のひとつでした.

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宮城県伊豆沼にある職場の伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター

もうひとつ,どんなにつまらない内容でもできるだけ論文を書くようにしていました.自分が新しい発見しているのだという高揚感,そしてそれを論文にすれば自分の仕事が永遠に残るという事実は私にはたいへんな魅力でした.論文として少しずつでも結果を積み重ねていけば,見てくれている人は見てくれているものです.日本雁を保護する会の呉地正行さんから財団で職員を探しているよ,という連絡をいただき,その話に飛びついてから今に至ります.

私は学位よりも就職を選びました。一方で,同期がすばらしい業績を上げて博士号を次々に取得していく中,早く学位をとらなければという焦燥感にかられました.また,研究員という肩書きをもちながら博士号をもっていないことに引け目を感じていました.ようやくホッとできたのは,論文博士として博士号を取得できた,就職してから10年後のことでした.

鳥学で仕事をするにはいろいろな道があります.私の場合,就職はタイミングがよかったというしかありません.しかし,振り返ってみると,結果的にではありますが,タイミングをつかむための努力はしていたように思います.上には上がいる,という事実に幾度となく自信をなくしつつも自分のオリジナリテイを常に探っていました.そして,学会に出て見識を広めること,自分の実績を着実に残すこともしていました.そういうことが鳥学で仕事をするためのタイミングを引き寄せたのだろうと思います.見ている人は必ず見ています.

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シリーズ:「鳥に関わる職に就く」の刊行

2016年1月24日
広報委員会 三上修

広報委員会からの新しい鳥学通信のシリーズの紹介です。
それは、タイトルのとおり「鳥に関わる職に就く」というものです。

現在、鳥学に関わらず、若手研究者の就職が厳しくなっています。
大きな理由は、1.不況、2.少子化、3.ポストポスドク問題の3つでしょう。
簡単に説明します。

1.不況によって、あらゆるところに余裕がなくなっていて、これまであったポストが、職についていた方が去ると同時にポストそのものが無くなる傾向にあります。
2.少子化に伴い、教育関連のポスト、とくに大学のポストが減少しています。
3.ポスドクを増やす政策が行われたあと、その受け皿がないままポスドクが増え、とてつもない競争状態に陥っています。

と、なかなか大変なことはありますが、鳥に関わる仕事で生きていく、それが楽しい、ということを若手研究者、あるいはもっと若い世代である学部生や、さらには高校生に伝えて、進学したり、進学せずとも鳥の分野に入ってきて欲しいという思っています。

そこで、鳥に関わる多様な職についている方に、どうやって、その業種に入ったのか、その苦労、楽しみ、職をつかむコツなど、書いてもらおうと思いました。

それによって、若手の希望になったり、なにか作戦を考えてもらえばと思っています。
これから、不定期に掲載していきます。

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原稿募集:口頭発表で質問をする際に、所属と名前を言うべきか?

2016年1月23日
広報委員長 三上修

鳥学会大会の口頭発表において、昔と違った慣習が広まり始めているのを感じる。何かといえば、口頭発表の発表に対して質問をする際、所属と名前をいう人が増えてきたということだ。たとえば、「○○大学の○○です。おもしろい発表をありがとうございました。ところで・・・」と質問を始めるのである。

私の気のせいでなければ、昔は、所属や名前を言うことはなかったように思う。そもそもなぜ、それを言う必要があるのだろうか。同じような疑問を持つ人はいるようで、ネットでみると、さまざまな意見がある。以下は、さまざまな分野の学会の方の意見を集約したものである。

名前と所属を言うのに肯定派の意見
・発表者は、所属と名を明かしているのだから、質問者もそれらを明かすのは礼儀。
・名乗ってもらうことで今まで論文でしか知らなかった研究者の名前と顔が一致するので、学術交流の場として学会を機能させる助けになる。
・名乗ることで、質問者をセレクションにかける(質問者にも覚悟をもってもらう)。
・発表者が質問者に連絡をとりたいことがあるので便利。
・セッション報告を書く人が後で困らない。
・妙な質問をする人を司会者がブラックリスト扱いできる。

否定派の意見
・知りたいのは質問の内容だから、そんなことに時間をかけず本題を早く言って欲しい。
・所属を言うのは、権威づけになってしまう。
・科学の質問には、所属や上下関係は不要だ。

中間派の意見
・所属は要らなくて、名前だけでいいのでは。

「セッション記事をまとめないといけない」ような場合は、名乗りは有用だろうし、また学会によっては、「所属と名前を言ってから質問してください」と、決まっているところもあるようだ。純粋科学の分野の学会ほど、このあたりがいい加減らしく、「物理が一番ひどく、次に生物系がひどく、対して化学、工学、薬学、医学などは、きっちりしている」という意見も見られた。私は他の分野をよく知らないが、個人的経験からいえば、生物系においても、遺伝や発生関係の学会などは、わりかしきっちりしていたような記憶がある。

鳥学会に関してどうかというと、「名乗り」は少なくとも20年位前までは不要だったのだろう。規模が小さく、みんな顔見知りだからである。だが、学会の規模が大きくなってきて、そうも行かなくなってきたし、いろんな学会を経験している人が増えてきたので、「名乗り」をする人が出てきたのだろう。

私、個人の意見としては、質問時に所属や名前を言わない方が良いと思っている。なぜなら、私にとっては、誰が質問したかはどうでもよくて、発表内容やそれに対する答えを知りたいからである。それに、1つでも多くの質問、解答があると良いと思う方だからである。

実際に「名乗り」に、どれくらい時間をとられるかを、試しに言ってみると8秒ほどかかることがわかる。おおむね2分(120秒)の質問時間のうち6%を占める。2人が質問し、両者とも所属と名前をいえば、2分間の12%も占めてしまう。消費税の8%でも大きいと思うのに(でも、しかたないとも思っている)、12%は多すぎる。それから杞憂かもしれないが、所属が無い人の中には、質問をしにくくなっている雰囲気があったりしないだろうか。

このように、個人的には、「名乗り」は無い方が良いというのが本音のところだが、名乗りたいという人を規制するつもりはない。ただ、学会としては決めておいて欲しい。「そういったことに、決まりごとは作らない」と。

質問における「名乗り」は無い方がいいと言っておきながら、教員の立場として学生に指導する場合には名前を言うように義務付けている。なぜなら「名乗りが必要無い」と感じる人は、それがあっても許容できるが、「無ければ失礼にあたる」と感じている人にとっては、許容できないだろうからである。学生は、いろんな分野にいく可能性があるので、安全策を教えているわけだ。

「名乗り」の話をしたので、ついでに、拍手の話もしておこう。鳥学会の大会においても、発表の後に拍手がある年とない年があるのをご存知だろうか? 同じ年でも、A会場とB会場によって拍手があったり、なかったりすることもある。私の知っている先生は、拍手は「ブラボー」の意味だから、本当にいい発表のときだけすべきだ、とおっしゃっている方もいた。こういう違いを見るのも、大会の楽しみの一つかもしれない。

さて、いろいろ書いたが、この文章の目的は何かといえば、「こんなくだらないことでも掲載して構わない」ということです。あっ、遅くなりましたが、私は、2016年1月から、広報委員長になりました。基本、社会的に問題があるような発言でなければどんどん掲載していく予定でいます。固い意見は、日本鳥学会誌のフォーラムがありますので、そちらに集約し、こちらの鳥学通信では、もう少しやわらかい、または、即時性の必要な情報を掲載していこうと思います。

内容はなんでもかまいません。
自著の宣伝、自分の研究紹介、鳥学に関する行事連絡、技術的なこと、研究室紹介などなど。

みなさまからの原稿お待ちしております。

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バードリサーチの発行物のご紹介

2016年1月14日
バードリサーチ
植田睦之

寒いですね。ぼくにとってはフィールドワークがいちばん忙しい時期なのですが,普通の人は,家や研究室にこもって論文読んだり,論文書いたり,デスクワークしている時期なのではないかと思います。

そこでちょっと,バードリサーチの出版物をご紹介。デスクワークの合間に読んでみてください。

研究誌 Bird Research
まずは学会員の皆さんのニーズの一番高そうな論文誌から。その名もBird Research。
研究誌表紙2013.jpg
ぼくは日本鳥学会誌の編集にも関わっているので,「投稿して!」とは言いにくいのですが,ぜひ,読んでみてください。最新号はバードリサーチの会員でないと全文は読めませんが(要約は読めます),2014年に発行した10巻以前の論文はどなたでも読むことができます。

ダウンロード数の多い人気の論文は人気順に
1. 森林におけるスポットセンサスとラインセンサスによる鳥の記録率の比較
2. 全国規模の森林モニタリングが示す5年間の鳥類の変化
3. 最近記録された日本における野生鳥類の感染症あるいはその病原体概要
4. 近年建てられた住宅地におけるスズメの巣の密度の低さ
5. 日本に生息する鳥類の生活史・生態・形態的特性に関するデータベース
といったところです

いろいろな論文が掲載されていますが,他誌と違う特徴としては調査手法に関する論文や,個体数の増減に関する論文が多いところかなと思います。
http://www.bird-research.jp/1_kenkyu/

生態図鑑
次にご紹介するのは,それぞれの種を研究している研究者の方々に執筆してもらっている生態図鑑です。
生態図鑑.png
これまでに129種掲載されています。姿かたちや大きさといった,普通の図鑑にあるような記載もありますが。この図鑑のウリは,研究者の皆さんが自身で研究した興味深い生態や保護上の課題などについて書いていることです。

論文になっている情報はもちろんのこと,まだ論文になっていないことも書いてあります。現鳥学会会長も前会長も執筆してます。執筆者もそうそうたるメンバーです。このサイトをみるような人なら,きっと気に入ってもらえると思います。
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/seitai.html

このコンテンツは無料ではありません。バードリサーチ普通会員以外の方の購入は2000円です。「読みたいけど,そんなに払いたくないなぁ」お気持ちわかります。ぼくもケチと呼ばれる一族ですから。そんなあなたに朗報。執筆いただけたら,ダウンロード権が手に入ります。それも未来永劫。まだ書かれていない種のうち「この種ならかけるよ」という方,ぜひ,植田までご連絡ください。

そのほかにニュースレターも発行しています。こちらから概要を読むことができます。
http://db3.bird-research.jp/news/

また,バードリサーチのホームページには以下のコンテンツもありますので、ぜひ訪問ください。

鳴き声図鑑
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/nakigoe.html

鳴き声識別練習ページ
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koeq/

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会長退任のご挨拶

2015年12月31日
鳥学会会長 上田恵介

暮れも押し詰まり、いよいよあと少しで新しい年の始まりです。私の任期もあと数時間ですが、この場をお借りして、一言、ご挨拶を申し上げます。

会員の皆さま、この2年間、どうもありがとうございました。去年はIOCがあったので、学会のことをあまりじっくり考えるヒマもなく、1年が過ぎてしまいました。今年も大したこともできないまま、あっという間に過ぎてしまいました。

しかしいまあらためて鳥学会を眺めてみると、私や上の世代はもうほとんど運営メンバーにはいなくて、評議員会も各種委員会も、若い方々が活発に活動しています。この2年間、たしかに短い期間でしたが、私が会長をしたことで、少しは学会の若返りに弾みをつけることが出来たかなと思います。選挙制度の改革は、プロセスに少しごたごたがありましたが、それなりに新しい制度が発足し、新会長が民主的に選出されたことは喜ばしいことです(今後、毎回、複数の立候補者が出て、会長選挙が活発になるとうれしいのですが)。

大会規則の改定と若手向けの賞の創設もしたかったのですが、どうも私の段取りの悪さで、来年度に持ち越してしまったことについてはもうしわけなく思っています。西海新会長、どうかよろしくお進めください。

つい先日、元会長の山岸哲さんとお話ししました。「なんで鳥学会に出てこないんですか」という私の問いに、自分が出て行くと、どうしても若い人たちが発言を遠慮してしまうので、学会の運営にはよくないとおっしゃっていました。私も学会運営には今後は関わりませんが、研究は続けるので,若い方々に負けないようないい研究発表をしようと考えています(ポスター賞も年齢制限がなければ狙おうと思っていたのに・・・)。もちろん、私でお役にたてそうなこと(論文査読とか)はいくらでもお手伝いしますので、お申し付けください。

では、西海新会長と早矢仕副会長、新評議員のみなさま、それから山口事務局長と新しい事務局メンバーの皆さん。あとはお任せしますので、よろしくお願いします。

よいお年を。

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和文誌編集委員会の新たな試み

2015年12月14日
和文誌編集委員会委員長
日野輝明

会員の皆様には、日本鳥学会誌の論文の投稿や査読等でお世話になっております。

和文誌編集委員会では、今年から来年にかけて新しい試みをいくつか始めます。すでに開始しているものも含めて、まとめて紹介いたします。これからも、和文誌をより良い雑誌にしていけるよう会員の皆様からのご協力をいただければ幸いです。

1.日本鳥学会誌への投稿の際に共著者からの投稿の同意書が必要になりました。

すでにホームページ等でお知らせしていますように、責任著者は、和文誌への論文投稿の際に、共著者全員から投稿への同意が得られていることを示す同意書が必要になりました。同意書を論文査読・投稿システムからダウンロードいただき(http://ornithology.jp/osj/japanese/wabun/toko_doisho.pdf)、共著者全員による署名もしくは捺印の上、投稿原稿と一緒にPDFファイルや画像ファイルなどでお送りいただくか、郵送をお願いいたします(複数枚にわたってもかまいません)。この同意書がない投稿論文は受け付けませんので、ご留意ください。

この変更に合わせて、投稿規定の改正を行いました。「第2条 投稿資格」において、共著者の要件として「すべての共著者から、内容並びに投稿への同意が明示的に得られている必要がある」の条文を追加しました。

2.投稿の手引きに「著者の倫理的責任」を明記しました。

データのねつ造や論文の盗用などの学術論文の不正問題が次々と発覚し、研究者のモラルへの世間の目が厳しくなっています。本来あってはならないことですが、不正とは気づかずに無意識に行っていることもあるかもしれません。そこで、和文誌編集委員会では、「投稿の手引き」に「著者の倫理的責任」の項目を新たに設けて、科学規範についての記述を、下記の通り明記いたしました(10月発行の2号において、手引きの追加・修正の形で掲載し、来年4月発行の1号において改訂)。上記の共著者の同意書も、この規範に従って行うものです。一度目を通していただき、研究者としての責任を再度ご認識いただければと思います(http://ornithology.jp/osj/japanese/wabun/toko_tebiki.html#sofu)。

著者の倫理的責任
 著者は、研究とその公表についての誠実性を保つために、以下の科学規範に従わなければならない。
・原稿を2つ以上の学術誌に同時に投稿しない。
・原稿はその一部または全体が、過去に出版されたものではない。ただし、以前の研究を発展させた新たな研究の場合は除く。
・投稿数を増やすために、単一の研究を複数に分割していない。
・データ(画像を含む)は、ねつ造や操作されていない。
・他人のデータや文章、学説を、盗用していない(盗用)。他の研究の引用(要約・意訳したものを含む)は明記され、逐語的な転記には引用符が用いられている。
・著作権のある資料については、使用許可が確保されている。
・投稿前に、共著者全員、場合によっては研究実施機関の責任者から、投稿への同意が明示的に得られている。
・投稿原稿に名前が掲載されるいずれの著者も、その科学的研究に対して十分に寄与しており、従って研究成果に対する連帯責任と説明責任を共有している。

3. 電子版ダウンロード制限期間を1年間に短縮します。

和文誌に掲載された論文PDFのJ-stageでの公開は、平成19年より開始されて今年で9年目になります。その間、会員の方の権利を守るために、非会員による全文ダウンロードが可能となる制限期間を発行後2年間に設定してきました。しかしながら、論文は会員に限らず非会員も含めてできるだけ多くの人に読まれてこそ、その価値が発揮されるものと考えられます。また、和文誌に掲載された論文が、他雑誌で引用される頻度が増えていくことで、知名度も向上し、会員の増加にもつながることが期待されます。このような理由より、来年の1号から、和文誌では全文ダウンロード制限期間を1年間に短縮いたします。

4. EDITOR'S CHOICEによる注目論文を毎号選定します。

来年以降に発行される和文誌掲載論文のうち、1号につき原則1編の注目論文を編集委員会の協議に基づいて選出します(あくまでも原則のため、号によっては2編選出される場合もあれば、選出なしの場合もあり)。選出論文については、鳥学通信で紹介するほか、特典として、J-stageでのダウンロード制限期間なしに公開いたします。注目論文の性質上、発行前の選出が望ましいのですが、編集・印刷スケジュールの都合もあり、当面は発行後に1ヶ月くらいかけて編集委員全員で選考していく予定です。注目論文に選出されることは、論文を投稿する者にとって励みとなると考えられ、質のより高い論文が増えていくことが期待されます。

5. J-stage公開論文の年間アクセス件数ベスト10の論文タイトルを紹介します。

編集委員会では、2年前からJ-stageでの搭載論文について、アクセスの多い国、分類群、テーマ等を集計した結果を、総会において口頭で報告してきました。それによると、毎年1万件を超えるアクセスがあり、その半分は国外からであることなどが分かりました。要旨と図表の説明を和英併記していることの効用といえます。これらの分析結果については、これまで概要しか紹介できませんでしたが、来年からは鳥学通信で前年1年分の詳細な分析結果を紹介していく予定です。さらに、アクセス上位論文ベスト10も合わせて公表して行きます。ちなみに、昨年のベスト10については、ホームページの和文誌のページで紹介していますので、関心のある方は是非ご覧になってください(http://ornithology.jp/osj/japanese/wabun/top_access.html)。

6. 受理論文は、次号掲載予定論文としてHPに掲載します。

受理された論文は、次号掲載予定論文として、ホームページの和文誌のページに直ちに紹介いたします。これによって、著者は公表の時期を知ることができ、会員は次号の内容をあらかじめ知ることができます。この試みはすでに開始していますので、関心のある方は是非ご覧になってください(http://ornithology.jp/osj/japanese/wabun/next_issue.html)。

7. 和文誌でモノグラフ掲載を再開します。

しばらくお休みしていましたが、執筆依頼によるモノグラフの掲載を再開します。モノグラフは、ある鳥もしくは一つのテーマを対象にして、著者が長年に携わってきた研究成果をまとめたものです。すでに公表されている複数論文の成果を、未発表データも含めて、一気に読むことができることで、その分類群やテーマの総説として読むことができるばかりでなく、著者の研究史としても読むことができます。再開第1号は、江口和洋氏によるカササギ研究のモノグラフで、来年中に掲載される予定です。編集委員会から執筆の依頼がありましたら、ご辞退なさらずに、研究の集大成の良い機会と捉えて、お引き受けいただけると幸いです。もちろん、自主投稿も大歓迎です。

8. 投稿論文の統計については、専門の編集委員がチェックしています。

近年の統計分析方法の進展はめざましいものがあり、査読者だけではチェックできないものが増えてきています。そのため、統計の分析結果については、専門の編集委員が、査読者とは別に2年前からチェックを行っています。このプロセスによって、和文誌掲載論文の統計分析の甘さについては、解消されてきています。ただし、このことは統計分析が不十分でも投稿できることを意味している訳ではありません。逆に、統計分析の内容次第でリジェクトされる可能性が高まったということができます。論文投稿の際には、統計分析を適切な方法で誤りなく行っていただくようお願いいたします。

9. 大会時にも論文作成相談を行っています。

編集委員会では、周囲に論文作成の指導をしてくれる人がいない会員の方を対象にして、和文誌への投稿を条件に、論文作成相談を行っています。しかしながら、利用しづらかったのか、十分に活用されてきていませんでした。そこで、2年前から大会前に案内をして、大会時に担当の編集委員と直接会って相談を行う機会を設けました。その結果、すでに3編の論文が投稿され掲載されています。現在も2編の論文が進行中です。相談の依頼は、もちろん大会時でなくてもかまいません。研究成果をまとめて論文にしたいけど、相談する人がいなくて困っている会員の方、編集委員が懇切丁寧に指導いたしますので、遠慮なくご利用ください。

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