相関行列(距離行列)を用いた音声の分類・判別手法について

2016年9月6日
(国)農研機構 中央農業研究センター 虫・鳥獣害研究領域
百瀬 浩

あなたが、野外で見知らぬ鳥のさえずりを録音したとします。それが既知の種のさえずりのどれに近いのか、知りたい場合などがあると思います。あるいは、ある種類の鳥が色々なさえずりのパターンを持っていたとして、それを分類(タイプ分け)したい場合とかがあるかもしれません。本稿では、そんな時に使える手法として、異なる音声どうしの相関(Cross Correlation)を用いて分類や判別を行う手法を解説します。

※ブログ形式ですと表現しきれないところがありますので、続きは添付ファイルをご覧ください。

鳥学通信原稿百瀬_160906.pdf
サンプルデータ.zip

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86年ぶりに小笠原諸島のメジロの起源を調べた

2016年8月9日
独立行政法人 国立科学博物館
植物研究部多様性解析・保全グループ
杉田典正

小笠原諸島は、東京から南に約1000 kmから1200 kmの南の海上に浮かぶ小さな島々の集まりである(図1)。小笠原諸島は、父島、母島などを有する小笠原群島と北硫黄島、硫黄島、南硫黄島の3島から成る硫黄列島の2つの群島から構成される。小笠原諸島へは、およそ週に一度東京から出港するおがさわら丸に乗って24時間かけて行く方法しかない。母島へ行くには、父島で船を乗り換えてさらに2時間半かかる。もっと南の硫黄列島へは旅行で行くことはできない。小笠原諸島は日本で一番遠い場所のひとつかもしれない。

鳥学通信図1杉田.png

小笠原諸島は、海洋島である。海洋島は、島が出来てからほかの地域と一度も繋がったことがない島のことをいう。海洋島は、独自の生態系がつくられる。小笠原諸島も、他の地域では見られない独特の海洋島生態系ができている。例えば、オガサワラオオコウモリは小笠原諸島唯一の固有哺乳類で、小笠原で独特な行動と生態を進化させてきた。小笠原は、独自の生態系と進化を観察できることが評価され、2011年には世界自然遺産に登録された。

小笠原群島と硫黄列島は、どちらも海底火山に由来する。しかし、島の形成時期が全く異なる。小笠原群島は、約4500万年前の海底火山を起源にする古い島である。一方、硫黄列島は、数万年内に噴火した海底火山と隆起により形成された新しい島である。小笠原群島は、伊豆諸島やマリアナ諸島など周辺の島嶼地域の中でもっとも古い。

小笠原諸島で繁殖する陸鳥の数は少ない。10種の陸鳥が繁殖するのみである。過去にはオガサワラマシコやオガサワラガビチョウ、オガサワラカラスバトなど小笠原諸島固有の陸鳥が生息していたが、絶滅した。メグロは、母島列島で生き残っているが、父島列島と聟島列島で絶滅した。現在、小笠原群島と硫黄列島の両群島に共通して繁殖する陸鳥は、カラスバト、ヒヨドリ、ウグイス、カワラヒワ、トラツグミ、イソヒヨドリの7種類に過ぎない。カラスバトとカワラヒワは、本州の個体群と大きな遺伝的差異があり、ミトコンドリアDNAで別種レベルの深い分岐がある。ヒヨドリとウグイスは、日本列島の個体群のミトコンドリアDNAと比べて数塩置換の違いである。これら5種の小笠原諸島個体群は、亜種に分類されている。トラツグミは、1930年に初めて小笠原諸島で発見され、1960年代頃から増え始めた。ミトコンドリアDNAのCOI領域では、遺伝的差異は見つからなかった。モズは父島で1980年代から繁殖していたが、2000年代の中頃に絶滅したとみられる。

小笠原諸島の陸鳥は、大陸から遠く離れた島であるため個体群間の交流が少なく遺伝的に分岐が進んだ。一方、面積の小さい海洋島では、環境が不安定であり、人口学的要因などによって定着しにくいという特徴もある。小笠原諸島の陸鳥の鳥類相の変遷は、海洋島の特徴をよく表している。

問題のメジロである。日本鳥類目録第7版(2012)によると、小笠原諸島のメジロの分布は、硫黄列島のみresident breederとなっている。父島や母島に行ったことのある方は、「おや?」と思うかも知れない。小笠原諸島の父島や母島でメジロをたくさん見たはずだと。確かにメジロは、現在の小笠原群島にたくさん生息している。もっとも目に付きやすい鳥だ。しかし、今から約百数年前、1900年以前には小笠原群島にはメジロは生息しなかった(図2)。過去の記録でも明らかである。1827年イギリス軍艦ブロッサム号で父島に上陸したBeechey艦長は、ヒトを恐れない黄色いカナリアの様な鳥(おそらくメグロ)を観察したが、メジロは記録していない。1890年の研究でも、小笠原群島でメジロは採集されなかった。ところが1930年になると、メジロは父島で最もよく見られる鳥になっていた。籾山徳太郎は、1930年に発表した論文で、島民に聞き取り調査を行い、1900–1910年頃に硫黄列島と伊豆諸島からメジロが持ち込まれたと考えた。同時に、彼は、小笠原群島のメジロの形態形質に亜種イオウトウメジロとシチトウメジロの中間的特徴があることから、小笠原群島個体群は両亜種の交雑個体群であると示唆した。日本鳥類目録第7版では、小笠原群島のメジロはintroduced breederとされている。しかし、小笠原群島のメジロが本当に硫黄列島と伊豆諸島から持ち込まれたのか、DNA分析による証拠はまだ無かった。

鳥学通信図2.png

DNA分析に使える血液サンプルが硫黄列島のメジロで採られていなかった。硫黄列島は、北硫黄島と南硫黄島は無人島、硫黄島は自衛隊基地のために上陸調査が難しい。特に、南硫黄島は、原生自然環境保全地域に指定されていること、島の全周が切り立った崖で出来ており上陸しにくいことから、学術調査隊が長い間立ち寄っていなかった。だが、一連の硫黄列島の学術調査に参加してきた川上和人博士(森林総合研究所)によって、硫黄3島すべてからメジロ個体群の血液サンプルが得られた。小笠原諸島のメジロの遺伝分析と他の地域との比較が可能になった。

この記事では、小笠原諸島のメジロのミトコンドリアDNAを分析してその起源を調べた研究を紹介する。この記事は、Zoological Scienceで発表された小笠原諸島のメジロとヒヨドリのミトコンドリアDNA分析を行った研究内容にもとづく(Sugita et al. [2016] Zoological Science 33: 146–153)。小笠原諸島のヒヨドリのDNA分析の解説については、BIRDER 2016年7月号(文一総合出版)と森林総研プレスリリース資料をご覧頂きたい。本研究のすべての分子実験は、国立科学博物館の実験室で行った。

独自に進化した硫黄列島のメジロ

硫黄列島のメジロの解析のために、ミトコンドリアDNAのチトクロームオキシターゼcサブユニット1(COI)遺伝子のDNA配列を使用した。ミトコンドリアDNA多型をハプロタイプという(異なるハプロタイプ同士は配列が異なるということ)。図3に赤色で示されている部分が硫黄列島のメジロ個体群のハプロタイプで、4種類見つかった。硫黄列島のメジロ個体群のハプロタイプは、小笠原群島のメジロ個体群を除いて(後述)、他の地域から見つからなかった。硫黄列島の3島を詳しく見ると、南硫黄島の個体群のハプロタイプは他のどの島からも見つからない南硫黄島固有のハプロタイプであった(図4)。

鳥学通信図3.png

鳥学通信図4杉田.png

これらの結果は、硫黄列島のメジロ個体群は、伊豆諸島や琉球諸島のメジロと近縁の関係であることを示している。硫黄列島のメジロは、独自のハプロタイプをもった遺伝的に分化した個体群であることも示している。南硫黄島の個体群は、他のどの島とも遺伝的な交流のないもっとも孤立した個体群であることがわかった。硫黄列島のメジロは、祖先集団が硫黄列島に定着した後、それぞれの島で移動性を低下させて、交流のない独立した集団になったと考えられる。生物進化の見本として、小笠原諸島の世界自然遺産としての価値をさらに高める研究成果となった。

生物多様性は、外来種と在来種との交配などによって容易に低下する。硫黄列島で独自に進化したメジロ個体群は、小笠原諸島の海洋島生態系における取り替えの効かない重要な要素である。特に南硫黄島のメジロ個体群は、他のどの島とも遺伝的に異なる。硫黄列島のメジロの保全は、島単位で考えるべきだ。

連れてこられた小笠原群島のメジロ

小笠原群島のメジロ個体群に固有のハプロタイプは無かった(図3)。小笠原群島のメジロ個体群から3つのハプロタイプが発見されたが、これらは琉球諸島と伊豆諸島、硫黄列島の個体群と共通のハプロタイプであった(図5)。硫黄諸島では、固有ハプロタイプが見つかったことと対照的である。この結果は、メジロが小笠原群島に自然分布していたのではなく、近年外部からメジロが小笠原群島に移入されたことを示唆している。自然分布していたのなら、小笠原群島にも硫黄列島のメジロのように固有ハプロタイプが発見されるはずだ。この見方は、過去の記録とも一致する。

鳥学通信図5杉田.png

伊豆諸島のメジロ個体群は琉球諸島個体群の一部と同じハプロタイプを共有していたものの、籾山の聞き取り調査の結果などを考慮すると、籾山が1930年に発表した仮説の通り、小笠原群島のメジロ個体群は硫黄列島と伊豆諸島から来たと考えるのが妥当だろう。ただし琉球諸島のメジロの関与も否定できない。今回、籾山の仮説以来86年間謎であった、小笠原群島のメジロの起源を現代のDNA分析技術により検証することができた。籾山は、小笠原群島のメジロがシチトウメジロとイオウトウメジロの交雑個体群であるという仮説も提唱した。これについては、今後、核DNAによる詳細な研究が必要である。

様々なルートでやって来た小笠原の陸鳥

小笠原諸島の陸鳥の起源や島間の遺伝的関係性は種ごとに異なる。いくつかの種で小笠原群島と硫黄列島間の遺伝的関係が知れられている。ヒヨドリは、小笠原群島と硫黄列島の個体群でそれぞれ異なる起源をもつ(図6)。ウグイスは、琉球と伊豆諸島以北の個体群から小笠原群島に進出した。その個体群の一部が、さらに南の硫黄列島に進出したようだ。アカガシラカラスバトは、カラスバトと別種レベルの遺伝的差異がある。しかし、小笠原諸島内では、アカガシラカラスバトは、小笠原群島と硫黄列島を行き来している。小笠原群島のヒヨドリは八重山諸島を起源にする。一方、硫黄列島のヒヨドリは本州などの個体群を起源にする。それぞれ時間的にずれて小笠原諸島に定着した。その後互いに交流しなかったようだ。これらの研究結果は、島の形成時期、定着時期、生態的特性、島の群集構造などの違いにより、島によって異なる生物相が成立することを示している。

鳥学通信図6杉田.png

小笠原諸島の世界自然遺産への登録以来、自然再生事業が行われている。小笠原諸島では、鳥のような飛べる動物であっても、島や列島ごとに鳥類相や遺伝構造が異なることがわかった。この結果から、島や列島を単位とした保全計画が必要と言える。

参考文献
Ando H, Ogawa H, Kaneko S, Takano H, Seki S, Suzuki H, Horikoshi K, Isagi Y (2014) Ibis 156: 153–164.
Beechey F (1832) Narrative of a Voyage to the Pacific and Beering’s Strait, to Co-operate with the Polar Expenditions: Performed in His Majesty's Ship Blossom, under the Command of Captain F. W. Beechey, R. N. in the Years 1825, 26, 27, 28. Carey & Lea, Philadelphia, USA.
Emura N, Ando H, Kawakami K, Isagi Y (2013) Pacific Science 67: 187–196.
籾山徳太郎 (1930) 日本生物地理学会会報 1: 89–186.
日本鳥学会(2012)日本鳥類目録第7版, 日本鳥学会, 三田.
Seebohm H (1890) Ibis 32: 95–108.
Seki SI, Takano H, Kawakami K, Kotaka N, Endo A, Takehara K (2007) Conservation Genetics 8: 1109–1121.
森林総合研究所(2016)絶海の孤島、小笠原の鳥はどこから来たのか?2016. Apr. 7. URL: www.ffpri.affrc.go.jp/press/2016/20160407/
杉田典正(2016)BIRDER 30(7): 34–35.
Sugita N, Kawakami K, Nishiumi I (2016) Zoological Science 33: 146–153.

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研究オトコと研究オンナの生きざまを考える:ポスター発表のご報告

2016年8月8日
日本鳥学会企画委員会 堀江明香

鳥の研究に限らず、調査・研究は楽しいものです。知的好奇心は調べるほどに膨らんでいき、明らかにできたものの倍ほどの疑問が湧いてくる。そうして続く研究生活は、大変ではあるものの、大きな達成感と充実感をもたらしてくれます。私自身も、迷いを含みつつ、研究者として生きていきたいと希望しているひとりです。

研究者を目指す際に、志を貫くか諦めるか迷う最も大きな理由は「研究者として食っていけるか」分からないことだと思います。しかし、恋愛・結婚などの私生活も、実は研究生活と関連しています。若いうちは研究が最優先課題。自分の繁殖成功度より鳥の繁殖成功度の方が大事、となりがちですが、いざ、結婚や子供を望むようになると、夫婦の同居の難しさや安定収入の問題など、色んな壁が見えてきます。私のように、のんきに構えていて現実に阻まれてから煩悶するのではなく、研究人生を送る上での壁についてあらかじめ知っておけば、少なくとも覚悟をもって人生の選択ができます。

日本鳥学会は「男女共同参画学協会連合会」にオブザーバー参加しており、企画委員が毎年のシンポジウムにも参加していますが、学会員の方への情報提供はまだまだ不十分です。そこで、日本鳥学会2015年度大会において、「ヒト(鳥研究者)における婚姻形態と子育て-忘れられがちなもう一つの人生-」と題したポスター発表を行い、研究者の結婚事情を通して、「研究者として生きる」ことと、その陰に隠れがちな、「一人の男性・女性として豊かな人生を送る」ことの関係性に潜む問題について紹介しました。

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発表時、著者は妊娠8ヶ月。特別に椅子を用意してもらいました(撮影:高田みちよ氏)。

詳細は実際のポスター(下画像をクリック)をご覧いただきたいのですが、内容を大きくまとめると次のようになります。①就職事情には大きな男女差はないのに、既婚率・子供の数には男女差がある、②女性には生物学的な出産リミットがある。研究職についてから出産すれば産休・育休後に職場復帰が可能だが、職より出産が先だと研究に復帰しにくい、③夫婦どちらかに定職がないとそもそも子供をもうけにくい。④性別を問わず、ポストが少ないことが最も根本的な問題。ポストの拡充と出産・育児後の復帰支援が最も重要な課題。

人生と研究者の道のりが山で表されています。


内容が多少刺激的だったこともあり、当日はなんと、98名もの方に聞きに来ていただきました。どんな方が聞きに来てくださったか集計を行ったところ、男性57 名 女性41 名、その内訳は以下のようになりました。

①修士以下の学生で男性:8
女性:8 計16 名
②博士課程の学生で男性:3
女性:2 計5 名
③任期付き研究職の男性:4
女性:2 計6 名
④任期なし研究職の男性:11
女性:3 計14 名
⑤無給の研究員等の男性:1
女性:4 計5 名
⑥普及啓発教育職の男性:3
女性:2 計5 名
⑦調査員等、鳥関係職の男性:18
女性:11 計29 名
⑧その他の職業の 男性:9
女性:8 計17 名

もう少し学生の方に聞きに来て頂きたかったですが、やはり多くの学生は研究の方が大切、という、まっとうな姿勢を持っているようです。また、もっと女性が多いかとも思っていたのですが、意外と男性の方が多く、職業別の人数に関しても、おおよそ学会の構成員からまんべんなく聞きに来ていただいたような気がします。何名かの方からは貴重なご意見を頂きました。以下にご紹介します。

*大変たのしいテーマで異彩を放っていました。日本の科学の発展には女性の力は不可欠。生態学と社会学のリンクは大切です(男性)。

*本人の頑張りはものすごくて、とても大変だと思います。大会時に未就学児以上の子の面倒を見てくれるところも必要だと思います。また、お金ももっと下げるか無料にすべきです(女性)。

*女性研究者(現在求職中)、子供1 人、パートナー同業の者です。このような形で性別をこえて意識改革が進むような研究を応援しています。パートナーフェロー等をどんどん増やして頂ければと思います(女性)。

研究オトコとして、研究オンナとして、どう生きたいか。人生で大切にしたいものは何なのか。尽きない問いだとは思いますが、現実に阻まれてからでは動きが取りにくいものです。これから考えていかねばならない学生さんはもちろん(考えたくないのはよくよく分かりますが)、もう年配の方も、オトコとオンナの問題が学会や鳥学の活性化にも影響することを認識して、みんなでよい研究人生を歩むことを目指せればと思います。

発表時にお腹の中にいた私の娘はもう8ヶ月。未完成のハイハイで部屋を探検している娘の横でこの記事を書いていると、無上の喜びと尽きない希望と、大きな焦燥感と研究への思いとが混ざってとても複雑な心境です。現状では、オトコ・オンナとしてのよりよい人生と研究人生の両立には困難を伴いますが、個人として、学会として、国や地方・研究機関の制度として、できることがきっと色々あるはずです。みなさんも、ぜひ一緒に考えてくださればと思います。

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海鳥の体の大きさの種内地理変異

2016年7月11日
名古屋大学大学院環境学研究科
日本学術振興会特別研究員PD
山本誉士

はじめに、私は主にバイオロギングという手法を用いて動物の行動・生態を研究しています。バイオロギングでは、動物に小さな記録計(データロガー)を取り付けることにより、その個体の行動や周囲の環境などを測定・記録します(詳しくは、高橋 & 依田 2010 日本鳥学会誌 59, 3–19「総説・バイオロギングによる鳥類研究」をご覧ください)。大学院ではオオミズナギドリCalonectris leucomelas(写真1)という海鳥の渡り行動を調べるため、北は岩手から南は西表島まで、日本各地の繁殖地で野外調査をおこないました。その過程において、なんだか繁殖地によってオオミズナギドリの体の大きさが違うような気がする、、、ということを感覚的に思っていました。データロガーを装着するため鳥を捕まえるのですが、北に位置する繁殖地では両手でしっかりと鳥を持ちますが、南に位置する繁殖地では片手で楽々持つことができました。

一般的に、動物の体の大きさは寒い高緯度域では大きく、暖かい低緯度域では小さいことが知られており、このような地理変異をベルクマンの法則と呼びます(種内変異はネオ・ベルクマンの法則、Renschの法則、ジェームスの法則などと呼ばれます: Meiri 2011 Global Ecology and Biogeography 20, 203–207)。ベルクマンの法則やジェームスの法則は体温維持に関わる適応であり(体が大きいほど体重あたりの体表面積が小さくなるため熱を逃がしにくい)、多くは陸上動物で検証されてきました。一方、海洋動物、特に海鳥類や海棲哺乳類の繁殖地の多くはアクセスが困難な僻地や断崖に形成されるため、繁殖地間で体の大きさが異なることは経験的に知られていましたが、繁殖分布域を縦断して種内変異傾向を調べた研究はありませんでした。

そこで、2006〜2013年にかけてメイン調査の合間に成鳥の外部形態を測り(写真2)、8箇所の繁殖地(図1)から合計454羽の計測データを集めました(苦節8年!)。そして、主成分分析により体の大きさの総合的指標(PC1)を算出し、オオミズナギドリの体サイズと繁殖地が位置する緯度・経度・気温(1981〜2010年の7〜9月の平均気温:本種の抱卵・育雛期)との相関を調べました。

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写真1. オオミズナギドリは日本や朝鮮半島、台湾などの東アジア周辺の海域で繁殖する海鳥で、平均的な大きさはカラスより少し小さいくらいです。繁殖期には地中に掘った長さ数メートルの巣穴で営巣し、一夫一妻で1羽の雛を育てます。主な餌はカタクチイワシなどの魚で、洋上では多くの時間を滑空(羽ばたかずに飛ぶ)して移動します。非繁殖期にはパプアニューギニア北方海域、アラフラ海、南シナ海まで移動・滞在します(Yamamoto et al. 2010 Auk 127, 871–881; 2014 Behaviour 151, 683–701)。

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写真2. 繁殖地での調査風景(『生物時計の生態学〜リズムを刻む生物の世界〜(文一総合出版)』に海鳥の野外調査の様子を書いておりますので、よろしければご覧ください)。露出嘴峰長、鼻孔前端嘴高、全頭長、翼長、ふしょ長を計測。成鳥の体重は雛への給餌前後および採餌トリップに費やした時間で大きく変動するため、体重は主成分分析から除きました。

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図1. 調査を実施した繁殖地の位置。オオミズナギドリの主要繁殖地の北限から南限にかけて網羅的に調査を実施しました(北緯24¬–39°、東経123–142°)。

データを解析した結果、オオミズナギドリの体サイズは緯度と正の相関を示し(図2)、北の繁殖個体群ほど体が大きいという「感覚」が支持されました。なお、気温は緯度および経度と負の相関を示しました。つまり、北に位置する繁殖地ほど気温が低いため体が大きいという、ベルクマン(ジェームス)の法則に従うということです。全体的にみると高緯度ほどオオミズナギドリの体サイズは大きくなる傾向がある一方、いくつかの個体群間では、低緯度に位置する繁殖地の方が大きいという逆の傾向も見られました(例えば、御蔵島MIと男女群島DA、宇和島UWと冠島KA:図2)。

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図2. 各繁殖地のオオミズナギドリの体サイズと緯度の関係。青はオス、赤はメス。実線は一般化線形モデルで推定した回帰直線、破線は個体群の中で特に小さい仲ノ神島個体群NAを除いた場合(極端に小さい値に回帰が影響されている可能性を考慮)。北から、FO岩手県船越大島、SA岩手県三貫島、AW新潟県粟島、KA京都府冠島、MI伊豆諸島御蔵島、UW瀬戸内海宇和島、DA長崎県男女群島、NA南西諸島仲ノ神島。

海鳥では、形態的特徴が採餌行動と関連していることが報告されています。例えば、翼面荷重(つまり、翼の面積に対する体重の割合)が小さいと、長距離もしくは広範囲を移動する場合にエネルギー消費が少なくてすむと考えられています。相似の場合、体の大きさがa倍に拡大されると、体積はa3倍になるのに対し、表面積はa2倍になります。つまり、体が大きくなるほど、表面積に対する体積の割合(翼面荷重)が大きくなるということになります。先行研究により、御蔵島(MI)のオオミズナギドリは繁殖地から採餌域まで数百〜千kmも移動し、宇和島(UW)のオオミズナギドリは主に瀬戸内海内の狭い範囲で採餌することが知られています。この仮説に従えば、あまり移動しない宇和島の個体はより大きく、長距離移動する御蔵島の個体はより小さくなることになります。このことから、各繁殖地が位置する海洋環境と関連した採餌行動の特徴が、彼らの体サイズに影響している可能性が示唆されます。

本研究の結果は、体の大きさの地理変異傾向は海洋動物にもあてはまることを示しました。一方、形態的特徴の地理変異において、生息環境に適応した(採餌)行動的特徴を考慮する必要性を新たに提唱しました。野外調査では作業とデータまとめに追われる日々ですが、その合間に対象種やその生息環境をよく観察することで、研究アイデア(科学の芽)はフィールドに沢山転がっていることを実感しました。

【論文】Yamamoto T, Kohno H, Mizutani A, Yoda K, Matsumoto S, Kawabe R, Watanabe S, Oka N, Sato K, Yamamoto M, Sugawa H, Karino K, Shiomi K, Yonehara Y, Takahashi A (2015) Geographical variation in body size of a pelagic seabird, the streaked shearwater Calonectris leucomelas. Journal of Biogeography 43, 801–808.

論文の中では外部形態の性差強度(Sexual Size Difference)についても議論しております。その他の研究についてはhttps://sites.google.com/site/takasocegle/1をご覧頂ければ幸いです。

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鳥の学校・第8回テーマ別講習会「鳥類研究のためのGIS講習」

2016年7月26日
企画委員会

9月16日~19日に開かれる日本鳥学会2016年度大会に連結し、鳥の学校・第8回テーマ別講習会「鳥類研究のためのGIS講習」を9月20日(火)に開きます。席数にはまだ十分な余裕がありますので、皆様ぜひご参加ください。大会HPにも同様の案内を掲載しています。
http://osj-2016.ornithology.jp/lecture.html

日程:9月20日(火)10:00~15:30
会場:酪農学園大学(〒069-0836 北海道江別市文京台緑町582)A1号館3階304(PC5)
アクセスマップ:http://www.rakuno.ac.jp/outline/guide/access.html
定員:50名
講師:鈴木透 准教授(酪農学園大学農食環境学群・環境共生学類)

概要:
近年、鳥類の研究においてGIS(地理情報システム)がよく用いられます。個体のなわばり配置や営巣環境の把握といった小さな空間スケールから、ある種にとっての好適な生息環境の解明、渡りのルートの追跡といった大きな空間スケールまで、GISはさまざまな研究に適用することができます。最近は無料で使用できるソフトも機能が充実してきており、GISはもはや鳥類研究に欠くことのできないツールのひとつであるといっても過言ではないでしょう。本講習会では、特に無料のソフト「QGIS」を中心に、その基本的な使い方から応用例まで、専門家に詳しく解説していただきます。

講義内容:
・GISとは?
・QGISの基本操作「データの取得」「データの作成」
・QGISの応用操作「行動圏の作成」「環境選好性の分析」
など

受講対象:
GISを使ったことがなくこれから使いたいと考えている方、少し使ったことはあるけれど操作方法がよくわからない方など、GIS初心者を対象とします。ある程度使っているけれど基礎からもう一度勉強したいという方も受講していただいてかまいません。

準備するもの:
酪農学園大学のPCルームにあるQGISがインストールされたPCを使わせていただきますので、自分のPCを持ってくる必要はありません。ノート、筆記具等はご持参ください。

参加申込・問合せ先:
参加をご希望の方は、下記の申込先までメールでお申し込みください。
水田拓(鳥学会企画委員会) TAKU_MIZUTA(at)env.go.jp[(at)を@に換えてください]

参加申込締切:
7月31日(日)

・参加者は日本鳥学会会員に限ります。非会員の方は開催までにご入会ください。

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鳥の学校で学んだこと

2016年7月26日
中川寛子(鹿児島大学農学部5年)

私は昨年にバンダーの資格を頂き、初めて自分自身で標識調査を進めることになりました。その中で、調査方法や死体の保存など、これで衛生的に問題ないのだろうかとか、調査中に鳥に怪我を負わせてしまったらどうしよう、といった不安が出てきました。調査では研究目的で糞の採取も行っており、サンプルのコンタミを防ぐのはもちろん、研究方法が一般の人に誤解や疑念を与えるようなものではいけません。しかし現実的に何をどうすれば良いのか分からない、そんな折にちょうど鳥の学校でこの講義があることを知り、迷わず参加を決めました。

葉山先生の講義では正しい手洗いの仕方から、使用目的に合わせた消毒液の選択や、死体の処理や送付時の注意点、使用した衣類や器具の洗浄・消毒方法などまさに日ごろ疑問に思っていたことを細かく教えて頂けました。先生が実際に使用されている道具なども見せて頂け、具体的にイメージができ道具をそろえる際の参考になりました。

高木先生の鳥の救護方法は大変興味深く聞かせて頂きました。鳥にも人工呼吸できるなんて考えてもみませんでしたし、捕獲時筋障害という病態があることも初めて知りました。アロンアルファが骨折の治療に使えることは特に驚きでした。救護には丁寧な観察と様々な工夫がなされていることを感じると同時に、鳥の研究をさせてもらっている身として、もっと鳥のことを勉強しなくてはと思いました。

講義の後も調査方法についてアドバイスを頂き、他の参加者の方々のお話も勉強になることが多くたいへん内容の濃い講義で時間があっという間に感じられました。

鹿児島に戻ってから、さっそく感染・コンタミ防止のために調査の後には専用の服をすぐに洗い、鳥袋も個体ごとに替え使用後は洗浄・消毒するようにしました。鳥の怪我にも備えて、アロンアルファと綿棒、止血鉗子なども用意しています。技術など不十分な面もありますが、自分なりに対策や準備をしておくことで、今までの不安がかなり払拭されました。受講して本当に良かったと思います。お世話になった先生方と企画委員の皆様に、心から感謝申し上げます。

鳥の学校2015風景2.jpg
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鳥の学校「鳥類調査のための獣医学講座」に参加して

2016年7月26日
小林さやか(山階鳥類研究所)

山階鳥類研究所では研究用の標本を収集しており、その材料となる鳥の死体を受け入れるのが私の仕事で、日常的に鳥の死体を扱っています。死体に触れるだけではなく、解剖することも日常です。さらに自分で扱うだけではなく、窓に衝突したり、交通事故などで死亡した鳥を一般の方々からいただいたりすることもありますし、受け取ったこれらの死体をアルバイトさんに扱ってもらうこともありますので、今までの扱い方を確認するためにも今回参加することにしました。

前半は講師の葉山さんが野生動物の死体の安全な取り扱いについて、後半は高木さんが生きている鳥をケガさせた場合の処置の仕方をお話ししてくださいました。前半の葉山さんの話が私の業務にとっては関心事です。これまで自分たちがしてきた死体の扱い方、マスクや手袋、白衣を身につける、触った後は手洗い、うがい、特に手洗いは入念にする、ことで問題なさそうということが確認できて、安心しました。今まであまり気にしていなかったのが体調管理です。体調が悪いときには抵抗力が落ちているので、健康なときには感染しなくても、体調が悪いときには感染する可能性が高まるので要注意、と葉山さんのお話しにあり、その通りに思いました。皆さんもどうぞご注意ください。

後半の高木さんのお話についても、バンダーとして鳥を捕獲して標識し、山階鳥研の組織サンプル収集の目的で採血もしているので、興味深く拝聴しました。今まで私が見てきたケガした鳥の症状と高木さんのお話を頭の中で照らし合わせながら、「あの症状の時は、こんなことが起こっていたんだ」と納得することも多々ありました。今回、講演のなかで会場の関係で採血などの実習ができないと説明されていて、企画された方々のご苦労もしのばれるのですが、実習や見学がなかったのがちょっと残念に思いました。次の機会に期待したいと思います。

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鳥の学校報告(2015年):第7回テーマ別講習会「鳥類調査のための獣医学講習」

2016年7月26日
企画委員会(文責:吉田保志子)

鳥の学校-テーマ別講習会-では、鳥学会員および会員外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っています。第7回は「鳥類調査のための獣医学講習」をテーマとして、2015年度大会の初日(9月18日)、兵庫県立大学神戸商科キャンパスで行われました。講師は、会員であり獣医師である高木(林)英子氏と葉山久世氏に担当いただきました。受講者は45名でした。

最初の講義は、葉山氏による「捕獲調査・サンプル採取・救護における衛生的な取り扱い ~自分と周囲の人の安全を守り,他に感染症などを広げないために~」で、捕獲、傷病鳥獣の世話、解剖、サンプリング等の、生体や死体を扱う、人獣共通感染症のリスクが伴う活動における衛生対策の知識と考え方について説明されました。実際の調査やボランティア活動等を想定した、危険度に応じた防護方法の例や、家庭用の塩素系漂白剤など身近で入手できる資材を使った実践的な対策方法も紹介され、受講者は自分が行っている活動と引き比べて理解を深めていました。

次の講義は、高木(林)氏による「現場でできる野鳥救護法 ~鳥の体の構造、現場で起こりうる事故や病気の概要とその応急処置法~」で、捕獲調査において起こりやすい事故について、鳥の体の構造に基づく発生理由と対処・治療の方法について、豊富な事例や写真を用いて詳しく説明されました。鳥の種類に応じた安全な保定方法、輸送時の収容方法、給餌方法などについても、獣医師が用いる手法が詳しく説明されました。事前アンケートで希望が多かった、鳥の採血の手技については、動画を用いた説明も行われました。受講者からは、専門的な内容を具体的な説明で知ることができ、自分の活動に役立ちそうという意見が多く寄せられました。

消毒薬や衛生資材等の実物も展示され、2つの講義の終了後には、受講者はそれらを手にとりつつ、講師を囲んで自由な質疑が行われました。

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講師のお二人からは、講義で使われたスライドを公開用に提供いただきました。当日の講義内容と、ほぼ同じものとなっています。野生動物の生体、死体、サンプルなどを扱うとき、自分や周囲の人の安全を確保するには具体的にどうしたらよいのか、鳥になるべく負担をかけない取り扱いや、鳥を傷つけてしまったときの対処方法など、当日参加されなかった方も、講義スライドからぜひ知識を得てください(上記文中の講義タイトルをクリック)。

受講者のなかからお二人が参加レポートを寄せてくださり(鳥の学校「鳥類調査のための獣医学講座」に参加して鳥の学校で学んだこと)、ご自分の仕事や研究との関わり、ためになった点などについて詳しく書いてくださいました。

なお、今年の鳥の学校-テーマ別講習会-は、2016年度大会の終了翌日の9月20日(火)に、「鳥類研究のためのGIS講習」を行います。鳥類の研究において、近年よく用いられるGIS(地理情報システム)について、無料のソフト「QGIS」を中心に、その基本的な使い方から応用例まで、専門家に詳しく解説していただきます。会場は、大会が行われる北海道大学札幌キャンパスから近い、酪農学園大学です。詳細は2016年度大会のサイトでお知らせしています。申し込み締め切りは2016年7月31日(日)です。

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日本鳥学会2016年度大会の講演申し込みの締め切りは本日(7月15日)です。

2016年7月15日
広報委員会

今年の鳥学会は9月16~19日に札幌で行われます。
講演の申し込み締め切りは本日(7月15日)です。
まだお申込みされていない方はお忘れなく。
http://osj-2016.ornithology.jp/

宿泊先は、普通のホテル検索サイトでは満室のところが多いようですが、大会サイトからいけばまだ空きがあるようです。

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ボランティアのススメ

2016年7月11日
日本鳥学会企画委員会 佐藤望

 企画委員では鳥学研究の促進を目的として、鳥類調査に関するボランティア募集の情報を収集し鳥学会のHPで公開しています。
http://ornithology.jp/volunteer.html
まだ始めたばかりの企画なのでご存じでない方もいらっしゃると思いますが、全国で調査を経験する事ができる場所を掲載しています。

この活動を始めた背景には、鳥の研究に興味があっても研究できる研究室や調査をする場所がなかなか見つからないといった状況があります。また、卒業研究で鳥類の研究をしたいと思っても、限られた期間のなかで一人で調査を0から覚えて実行するのはなかなか簡単ではありません。このような状況下にある鳥の研究を志す人にとって、ボランティアとして野外の鳥類調査に参加することは大きな意味があります。また、所属した研究室が鳥類の研究をしていない場合でも、調査地があってテーマがあれば、鳥類をテーマに卒業研究ができるかもしれません。

私はニューカレドニアなどで鳥類の野外調査をしてきましたが、その間、国内外の学生が参加してくれました。一部の国ではインターンとして海外の調査を経験することが博士課程に進学するために必要らしく、欧州や南米から問い合わせが来て、実際に何人かの学生を受け入れました。彼らは調査に参加することで調査能力や研究の方法を習得できたと思いますが、それだけではなく、毎日の生活の中で多くの議論をすることで受け入れた側にも新しい発見やモチベーションの向上などがありました。

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ドイツからニューカレドニアにインターンで手伝いに来てくれました(著者は向かって右)

海外の若手研究者に負けないよう、特に日本の若手の皆さんにも是非このような場所に飛び込んでもらえればと考えています。もちろん、もう若手じゃない…という人も、きっと受け入れてくれると思いますので、老若男女問わず、積極的にこのボランティア募集情報を活用してもらえればと思います。

また、全国で鳥の調査をしている皆さま、ボランティアを受け入れてはいかがでしょうか。受け入れが可能であれば、佐藤(nozomu ATMARK liferbird.com)まで連絡を頂ければ幸いです。

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