シリーズ「鳥に関わる職に就く」:タイミング,求めよさらば与えられん

2016年1月25日
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団 上席主任研究員
嶋田 哲郎

鳥学で仕事をする,本当に狭き門です.少ない席をめぐって熾烈な競争があります.私の話は,上には上がいる,と思ってもなおかつ鳥学で仕事をしたい人のための話です.私の同期(40代半ば)には優秀な鳥学者がたくさんいます.あいつにはかなわないなあ,と思う人が頭に浮かびます.また,和文誌編集委員などいくつかの学会役員をやらせていただきましたが,みなさん頭の回転が速く,仕事が速すぎます.

さて,こういう上には上がいる状況で,どうしたら鳥学の仕事につけるのでしょうか?それはタイミングです.最初から身も蓋もない言葉で申し訳ありません.でも続きがあります.タイミング,求めよさらば与えられんです.

修士2年の頃,博士課程にすすんで自分の研究を極める覚悟がなかったこと,経済的な事情もあり,修士で終えて就職しようと思っていました.鳥学会には学部のときから参加していました.私の同期の鳥学者は繁殖期の鳥をやっている人が多かったのですが,非繁殖期でガンカモというのは当時私くらいでした.そういう意味では競争相手は少なかったといえます.ガンカモをやっている数少ない若手として,学会を通じて多くの水鳥研究者と深く交流できたことは,就職につながる背景のひとつでした.

伊豆沼内沼サンクチュアリセンター.jpg
宮城県伊豆沼にある職場の伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター

もうひとつ,どんなにつまらない内容でもできるだけ論文を書くようにしていました.自分が新しい発見しているのだという高揚感,そしてそれを論文にすれば自分の仕事が永遠に残るという事実は私にはたいへんな魅力でした.論文として少しずつでも結果を積み重ねていけば,見てくれている人は見てくれているものです.日本雁を保護する会の呉地正行さんから財団で職員を探しているよ,という連絡をいただき,その話に飛びついてから今に至ります.

私は学位よりも就職を選びました。一方で,同期がすばらしい業績を上げて博士号を次々に取得していく中,早く学位をとらなければという焦燥感にかられました.また,研究員という肩書きをもちながら博士号をもっていないことに引け目を感じていました.ようやくホッとできたのは,論文博士として博士号を取得できた,就職してから10年後のことでした.

鳥学で仕事をするにはいろいろな道があります.私の場合,就職はタイミングがよかったというしかありません.しかし,振り返ってみると,結果的にではありますが,タイミングをつかむための努力はしていたように思います.上には上がいる,という事実に幾度となく自信をなくしつつも自分のオリジナリテイを常に探っていました.そして,学会に出て見識を広めること,自分の実績を着実に残すこともしていました.そういうことが鳥学で仕事をするためのタイミングを引き寄せたのだろうと思います.見ている人は必ず見ています.

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シリーズ:「鳥に関わる職に就く」の刊行

2016年1月24日
広報委員会 三上修

広報委員会からの新しい鳥学通信のシリーズの紹介です。
それは、タイトルのとおり「鳥に関わる職に就く」というものです。

現在、鳥学に関わらず、若手研究者の就職が厳しくなっています。
大きな理由は、1.不況、2.少子化、3.ポストポスドク問題の3つでしょう。
簡単に説明します。

1.不況によって、あらゆるところに余裕がなくなっていて、これまであったポストが、職についていた方が去ると同時にポストそのものが無くなる傾向にあります。
2.少子化に伴い、教育関連のポスト、とくに大学のポストが減少しています。
3.ポスドクを増やす政策が行われたあと、その受け皿がないままポスドクが増え、とてつもない競争状態に陥っています。

と、なかなか大変なことはありますが、鳥に関わる仕事で生きていく、それが楽しい、ということを若手研究者、あるいはもっと若い世代である学部生や、さらには高校生に伝えて、進学したり、進学せずとも鳥の分野に入ってきて欲しいという思っています。

そこで、鳥に関わる多様な職についている方に、どうやって、その業種に入ったのか、その苦労、楽しみ、職をつかむコツなど、書いてもらおうと思いました。

それによって、若手の希望になったり、なにか作戦を考えてもらえばと思っています。
これから、不定期に掲載していきます。

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原稿募集:口頭発表で質問をする際に、所属と名前を言うべきか?

2016年1月23日
広報委員長 三上修

鳥学会大会の口頭発表において、昔と違った慣習が広まり始めているのを感じる。何かといえば、口頭発表の発表に対して質問をする際、所属と名前をいう人が増えてきたということだ。たとえば、「○○大学の○○です。おもしろい発表をありがとうございました。ところで・・・」と質問を始めるのである。

私の気のせいでなければ、昔は、所属や名前を言うことはなかったように思う。そもそもなぜ、それを言う必要があるのだろうか。同じような疑問を持つ人はいるようで、ネットでみると、さまざまな意見がある。以下は、さまざまな分野の学会の方の意見を集約したものである。

名前と所属を言うのに肯定派の意見
・発表者は、所属と名を明かしているのだから、質問者もそれらを明かすのは礼儀。
・名乗ってもらうことで今まで論文でしか知らなかった研究者の名前と顔が一致するので、学術交流の場として学会を機能させる助けになる。
・名乗ることで、質問者をセレクションにかける(質問者にも覚悟をもってもらう)。
・発表者が質問者に連絡をとりたいことがあるので便利。
・セッション報告を書く人が後で困らない。
・妙な質問をする人を司会者がブラックリスト扱いできる。

否定派の意見
・知りたいのは質問の内容だから、そんなことに時間をかけず本題を早く言って欲しい。
・所属を言うのは、権威づけになってしまう。
・科学の質問には、所属や上下関係は不要だ。

中間派の意見
・所属は要らなくて、名前だけでいいのでは。

「セッション記事をまとめないといけない」ような場合は、名乗りは有用だろうし、また学会によっては、「所属と名前を言ってから質問してください」と、決まっているところもあるようだ。純粋科学の分野の学会ほど、このあたりがいい加減らしく、「物理が一番ひどく、次に生物系がひどく、対して化学、工学、薬学、医学などは、きっちりしている」という意見も見られた。私は他の分野をよく知らないが、個人的経験からいえば、生物系においても、遺伝や発生関係の学会などは、わりかしきっちりしていたような記憶がある。

鳥学会に関してどうかというと、「名乗り」は少なくとも20年位前までは不要だったのだろう。規模が小さく、みんな顔見知りだからである。だが、学会の規模が大きくなってきて、そうも行かなくなってきたし、いろんな学会を経験している人が増えてきたので、「名乗り」をする人が出てきたのだろう。

私、個人の意見としては、質問時に所属や名前を言わない方が良いと思っている。なぜなら、私にとっては、誰が質問したかはどうでもよくて、発表内容やそれに対する答えを知りたいからである。それに、1つでも多くの質問、解答があると良いと思う方だからである。

実際に「名乗り」に、どれくらい時間をとられるかを、試しに言ってみると8秒ほどかかることがわかる。おおむね2分(120秒)の質問時間のうち6%を占める。2人が質問し、両者とも所属と名前をいえば、2分間の12%も占めてしまう。消費税の8%でも大きいと思うのに(でも、しかたないとも思っている)、12%は多すぎる。それから杞憂かもしれないが、所属が無い人の中には、質問をしにくくなっている雰囲気があったりしないだろうか。

このように、個人的には、「名乗り」は無い方が良いというのが本音のところだが、名乗りたいという人を規制するつもりはない。ただ、学会としては決めておいて欲しい。「そういったことに、決まりごとは作らない」と。

質問における「名乗り」は無い方がいいと言っておきながら、教員の立場として学生に指導する場合には名前を言うように義務付けている。なぜなら「名乗りが必要無い」と感じる人は、それがあっても許容できるが、「無ければ失礼にあたる」と感じている人にとっては、許容できないだろうからである。学生は、いろんな分野にいく可能性があるので、安全策を教えているわけだ。

「名乗り」の話をしたので、ついでに、拍手の話もしておこう。鳥学会の大会においても、発表の後に拍手がある年とない年があるのをご存知だろうか? 同じ年でも、A会場とB会場によって拍手があったり、なかったりすることもある。私の知っている先生は、拍手は「ブラボー」の意味だから、本当にいい発表のときだけすべきだ、とおっしゃっている方もいた。こういう違いを見るのも、大会の楽しみの一つかもしれない。

さて、いろいろ書いたが、この文章の目的は何かといえば、「こんなくだらないことでも掲載して構わない」ということです。あっ、遅くなりましたが、私は、2016年1月から、広報委員長になりました。基本、社会的に問題があるような発言でなければどんどん掲載していく予定でいます。固い意見は、日本鳥学会誌のフォーラムがありますので、そちらに集約し、こちらの鳥学通信では、もう少しやわらかい、または、即時性の必要な情報を掲載していこうと思います。

内容はなんでもかまいません。
自著の宣伝、自分の研究紹介、鳥学に関する行事連絡、技術的なこと、研究室紹介などなど。

みなさまからの原稿お待ちしております。

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バードリサーチの発行物のご紹介

2016年1月14日
バードリサーチ
植田睦之

寒いですね。ぼくにとってはフィールドワークがいちばん忙しい時期なのですが,普通の人は,家や研究室にこもって論文読んだり,論文書いたり,デスクワークしている時期なのではないかと思います。

そこでちょっと,バードリサーチの出版物をご紹介。デスクワークの合間に読んでみてください。

研究誌 Bird Research
まずは学会員の皆さんのニーズの一番高そうな論文誌から。その名もBird Research。
研究誌表紙2013.jpg
ぼくは日本鳥学会誌の編集にも関わっているので,「投稿して!」とは言いにくいのですが,ぜひ,読んでみてください。最新号はバードリサーチの会員でないと全文は読めませんが(要約は読めます),2014年に発行した10巻以前の論文はどなたでも読むことができます。

ダウンロード数の多い人気の論文は人気順に
1. 森林におけるスポットセンサスとラインセンサスによる鳥の記録率の比較
2. 全国規模の森林モニタリングが示す5年間の鳥類の変化
3. 最近記録された日本における野生鳥類の感染症あるいはその病原体概要
4. 近年建てられた住宅地におけるスズメの巣の密度の低さ
5. 日本に生息する鳥類の生活史・生態・形態的特性に関するデータベース
といったところです

いろいろな論文が掲載されていますが,他誌と違う特徴としては調査手法に関する論文や,個体数の増減に関する論文が多いところかなと思います。
http://www.bird-research.jp/1_kenkyu/

生態図鑑
次にご紹介するのは,それぞれの種を研究している研究者の方々に執筆してもらっている生態図鑑です。
生態図鑑.png
これまでに129種掲載されています。姿かたちや大きさといった,普通の図鑑にあるような記載もありますが。この図鑑のウリは,研究者の皆さんが自身で研究した興味深い生態や保護上の課題などについて書いていることです。

論文になっている情報はもちろんのこと,まだ論文になっていないことも書いてあります。現鳥学会会長も前会長も執筆してます。執筆者もそうそうたるメンバーです。このサイトをみるような人なら,きっと気に入ってもらえると思います。
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/seitai.html

このコンテンツは無料ではありません。バードリサーチ普通会員以外の方の購入は2000円です。「読みたいけど,そんなに払いたくないなぁ」お気持ちわかります。ぼくもケチと呼ばれる一族ですから。そんなあなたに朗報。執筆いただけたら,ダウンロード権が手に入ります。それも未来永劫。まだ書かれていない種のうち「この種ならかけるよ」という方,ぜひ,植田までご連絡ください。

そのほかにニュースレターも発行しています。こちらから概要を読むことができます。
http://db3.bird-research.jp/news/

また,バードリサーチのホームページには以下のコンテンツもありますので、ぜひ訪問ください。

鳴き声図鑑
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/nakigoe.html

鳴き声識別練習ページ
http://www.bird-research.jp/1_shiryo/koeq/

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会長退任のご挨拶

2015年12月31日
鳥学会会長 上田恵介

暮れも押し詰まり、いよいよあと少しで新しい年の始まりです。私の任期もあと数時間ですが、この場をお借りして、一言、ご挨拶を申し上げます。

会員の皆さま、この2年間、どうもありがとうございました。去年はIOCがあったので、学会のことをあまりじっくり考えるヒマもなく、1年が過ぎてしまいました。今年も大したこともできないまま、あっという間に過ぎてしまいました。

しかしいまあらためて鳥学会を眺めてみると、私や上の世代はもうほとんど運営メンバーにはいなくて、評議員会も各種委員会も、若い方々が活発に活動しています。この2年間、たしかに短い期間でしたが、私が会長をしたことで、少しは学会の若返りに弾みをつけることが出来たかなと思います。選挙制度の改革は、プロセスに少しごたごたがありましたが、それなりに新しい制度が発足し、新会長が民主的に選出されたことは喜ばしいことです(今後、毎回、複数の立候補者が出て、会長選挙が活発になるとうれしいのですが)。

大会規則の改定と若手向けの賞の創設もしたかったのですが、どうも私の段取りの悪さで、来年度に持ち越してしまったことについてはもうしわけなく思っています。西海新会長、どうかよろしくお進めください。

つい先日、元会長の山岸哲さんとお話ししました。「なんで鳥学会に出てこないんですか」という私の問いに、自分が出て行くと、どうしても若い人たちが発言を遠慮してしまうので、学会の運営にはよくないとおっしゃっていました。私も学会運営には今後は関わりませんが、研究は続けるので,若い方々に負けないようないい研究発表をしようと考えています(ポスター賞も年齢制限がなければ狙おうと思っていたのに・・・)。もちろん、私でお役にたてそうなこと(論文査読とか)はいくらでもお手伝いしますので、お申し付けください。

では、西海新会長と早矢仕副会長、新評議員のみなさま、それから山口事務局長と新しい事務局メンバーの皆さん。あとはお任せしますので、よろしくお願いします。

よいお年を。

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和文誌編集委員会の新たな試み

2015年12月14日
和文誌編集委員会委員長
日野輝明

会員の皆様には、日本鳥学会誌の論文の投稿や査読等でお世話になっております。

和文誌編集委員会では、今年から来年にかけて新しい試みをいくつか始めます。すでに開始しているものも含めて、まとめて紹介いたします。これからも、和文誌をより良い雑誌にしていけるよう会員の皆様からのご協力をいただければ幸いです。

1.日本鳥学会誌への投稿の際に共著者からの投稿の同意書が必要になりました。

すでにホームページ等でお知らせしていますように、責任著者は、和文誌への論文投稿の際に、共著者全員から投稿への同意が得られていることを示す同意書が必要になりました。同意書を論文査読・投稿システムからダウンロードいただき(http://ornithology.jp/osj/japanese/wabun/toko_doisho.pdf)、共著者全員による署名もしくは捺印の上、投稿原稿と一緒にPDFファイルや画像ファイルなどでお送りいただくか、郵送をお願いいたします(複数枚にわたってもかまいません)。この同意書がない投稿論文は受け付けませんので、ご留意ください。

この変更に合わせて、投稿規定の改正を行いました。「第2条 投稿資格」において、共著者の要件として「すべての共著者から、内容並びに投稿への同意が明示的に得られている必要がある」の条文を追加しました。

2.投稿の手引きに「著者の倫理的責任」を明記しました。

データのねつ造や論文の盗用などの学術論文の不正問題が次々と発覚し、研究者のモラルへの世間の目が厳しくなっています。本来あってはならないことですが、不正とは気づかずに無意識に行っていることもあるかもしれません。そこで、和文誌編集委員会では、「投稿の手引き」に「著者の倫理的責任」の項目を新たに設けて、科学規範についての記述を、下記の通り明記いたしました(10月発行の2号において、手引きの追加・修正の形で掲載し、来年4月発行の1号において改訂)。上記の共著者の同意書も、この規範に従って行うものです。一度目を通していただき、研究者としての責任を再度ご認識いただければと思います(http://ornithology.jp/osj/japanese/wabun/toko_tebiki.html#sofu)。

著者の倫理的責任
 著者は、研究とその公表についての誠実性を保つために、以下の科学規範に従わなければならない。
・原稿を2つ以上の学術誌に同時に投稿しない。
・原稿はその一部または全体が、過去に出版されたものではない。ただし、以前の研究を発展させた新たな研究の場合は除く。
・投稿数を増やすために、単一の研究を複数に分割していない。
・データ(画像を含む)は、ねつ造や操作されていない。
・他人のデータや文章、学説を、盗用していない(盗用)。他の研究の引用(要約・意訳したものを含む)は明記され、逐語的な転記には引用符が用いられている。
・著作権のある資料については、使用許可が確保されている。
・投稿前に、共著者全員、場合によっては研究実施機関の責任者から、投稿への同意が明示的に得られている。
・投稿原稿に名前が掲載されるいずれの著者も、その科学的研究に対して十分に寄与しており、従って研究成果に対する連帯責任と説明責任を共有している。

3. 電子版ダウンロード制限期間を1年間に短縮します。

和文誌に掲載された論文PDFのJ-stageでの公開は、平成19年より開始されて今年で9年目になります。その間、会員の方の権利を守るために、非会員による全文ダウンロードが可能となる制限期間を発行後2年間に設定してきました。しかしながら、論文は会員に限らず非会員も含めてできるだけ多くの人に読まれてこそ、その価値が発揮されるものと考えられます。また、和文誌に掲載された論文が、他雑誌で引用される頻度が増えていくことで、知名度も向上し、会員の増加にもつながることが期待されます。このような理由より、来年の1号から、和文誌では全文ダウンロード制限期間を1年間に短縮いたします。

4. EDITOR'S CHOICEによる注目論文を毎号選定します。

来年以降に発行される和文誌掲載論文のうち、1号につき原則1編の注目論文を編集委員会の協議に基づいて選出します(あくまでも原則のため、号によっては2編選出される場合もあれば、選出なしの場合もあり)。選出論文については、鳥学通信で紹介するほか、特典として、J-stageでのダウンロード制限期間なしに公開いたします。注目論文の性質上、発行前の選出が望ましいのですが、編集・印刷スケジュールの都合もあり、当面は発行後に1ヶ月くらいかけて編集委員全員で選考していく予定です。注目論文に選出されることは、論文を投稿する者にとって励みとなると考えられ、質のより高い論文が増えていくことが期待されます。

5. J-stage公開論文の年間アクセス件数ベスト10の論文タイトルを紹介します。

編集委員会では、2年前からJ-stageでの搭載論文について、アクセスの多い国、分類群、テーマ等を集計した結果を、総会において口頭で報告してきました。それによると、毎年1万件を超えるアクセスがあり、その半分は国外からであることなどが分かりました。要旨と図表の説明を和英併記していることの効用といえます。これらの分析結果については、これまで概要しか紹介できませんでしたが、来年からは鳥学通信で前年1年分の詳細な分析結果を紹介していく予定です。さらに、アクセス上位論文ベスト10も合わせて公表して行きます。ちなみに、昨年のベスト10については、ホームページの和文誌のページで紹介していますので、関心のある方は是非ご覧になってください(http://ornithology.jp/osj/japanese/wabun/top_access.html)。

6. 受理論文は、次号掲載予定論文としてHPに掲載します。

受理された論文は、次号掲載予定論文として、ホームページの和文誌のページに直ちに紹介いたします。これによって、著者は公表の時期を知ることができ、会員は次号の内容をあらかじめ知ることができます。この試みはすでに開始していますので、関心のある方は是非ご覧になってください(http://ornithology.jp/osj/japanese/wabun/next_issue.html)。

7. 和文誌でモノグラフ掲載を再開します。

しばらくお休みしていましたが、執筆依頼によるモノグラフの掲載を再開します。モノグラフは、ある鳥もしくは一つのテーマを対象にして、著者が長年に携わってきた研究成果をまとめたものです。すでに公表されている複数論文の成果を、未発表データも含めて、一気に読むことができることで、その分類群やテーマの総説として読むことができるばかりでなく、著者の研究史としても読むことができます。再開第1号は、江口和洋氏によるカササギ研究のモノグラフで、来年中に掲載される予定です。編集委員会から執筆の依頼がありましたら、ご辞退なさらずに、研究の集大成の良い機会と捉えて、お引き受けいただけると幸いです。もちろん、自主投稿も大歓迎です。

8. 投稿論文の統計については、専門の編集委員がチェックしています。

近年の統計分析方法の進展はめざましいものがあり、査読者だけではチェックできないものが増えてきています。そのため、統計の分析結果については、専門の編集委員が、査読者とは別に2年前からチェックを行っています。このプロセスによって、和文誌掲載論文の統計分析の甘さについては、解消されてきています。ただし、このことは統計分析が不十分でも投稿できることを意味している訳ではありません。逆に、統計分析の内容次第でリジェクトされる可能性が高まったということができます。論文投稿の際には、統計分析を適切な方法で誤りなく行っていただくようお願いいたします。

9. 大会時にも論文作成相談を行っています。

編集委員会では、周囲に論文作成の指導をしてくれる人がいない会員の方を対象にして、和文誌への投稿を条件に、論文作成相談を行っています。しかしながら、利用しづらかったのか、十分に活用されてきていませんでした。そこで、2年前から大会前に案内をして、大会時に担当の編集委員と直接会って相談を行う機会を設けました。その結果、すでに3編の論文が投稿され掲載されています。現在も2編の論文が進行中です。相談の依頼は、もちろん大会時でなくてもかまいません。研究成果をまとめて論文にしたいけど、相談する人がいなくて困っている会員の方、編集委員が懇切丁寧に指導いたしますので、遠慮なくご利用ください。

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本の紹介「身近な鳥の生活図鑑」

2015年12月7日
北海道教育大学 三上修

身近な鳥の生活図鑑 画像.jpg

本を新しく書きました。

これまで、2012年に「スズメの謎」(誠文堂新光社)を、2013年に「スズメ-つかずはなれず二千年」(岩波書店)に出しており、それにつづく本です。

今回は、新書です。新しく書いたのだから、新書で当たり前じゃないかと言われそうです。新書という言葉は、どうも紛らわしい言葉です。中古書の反対語としての新書という意味もあるし、版のサイズというかジャンルとしての新書という意味もあります。最近は、「新書=新書版」という気もしますが、広辞苑第六版によると、第一項目は、新しい本の意味で、新書版としての意味は第二項目でした。

それはさておき、今回のことを両方の意味で使えば、「新書を新書で出します」=「新しく書いた本を、新書版で出します」ということです。

肝心の内容は、町の中にいる鳥がテーマになっています。

町のなかで、ふと見る鳥を楽しんで欲しいという思いがあります。それから、町のなかの「奇妙さ」を知ってもらえればという思いがあります。普段、我々は町の中で生活しているので、これが日常だと思っていますが、町という環境は地球上の他の環境と比べて、とても「変てこ」なところです。「変てこ」なところで、どんな風に、鳥たちがうまく生活しているかということを知ってもらればと思います。

本書の紹介を「カラスの教科書」の松原始さんに書いてもらいました。残念ながら、その文章が読めるのは1月になってからです。

2012年に「スズメの謎」を出した時も、「カラスの教科書」とほぼ同時期でした。今回も「カラスの補習授業」と同時期ということになります。片利共生的に、私の本も売れると良いのですが。

前回は、松原さんと物々交換で、サイン入り「カラスの教科書」を入手したんですが、今回は書評のお礼で出版社から送っちゃったので、物々交換できそうにありません。自分で買って、サインしてもらうことにします。

そういえば、「カラスの教科書」は、雷鳥社でしたよね。私の今回の本にも「らいちょう」がでてきます。町のなかの鳥なのに、なぜ、「らいちょう」が出てくるかは、本書を読んでのお楽しみです。

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第6回黒田賞をいただいて~私の垣間見た「考古鳥類学者」黒田長久博士~

2015年11月30日
北海道大学総合博物館
江田真毅

今回、このような名誉ある賞をいただき身に余る光栄です。ことあるごとに「考古学者」をアピールしていろいろなものから逃げてきた私がいただいて良い賞なのか?正直、今でも疑問に思っています。が、日本鳥学会の懐の深さに甘えさせてください。改めて関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。

「考古鳥類学」という言葉は今回の受賞講演にあたって作った造語です。遺跡から出土した鳥骨から鳥類の生態を復原できること、そして復原された生態は分類や保全の研究にも生かしうることを認識していただきたいとの想いからでした。今回、私がこの賞をいただけたのは「遺跡資料を用いた鳥類学」という目新しさに起因するところが大きいものと思います。

しかし、日本における「考古鳥類学」の歴史はそれほど新しいものではありません。実は、黒田賞にお名前が冠されている黒田長久博士は遺跡から出土した鳥骨を分析した論文を執筆されており[1]、日本海におけるアホウドリの分布などについて考察されています。さらに、この論文は日本の考古学にも大きな足跡を2つ残しています。受賞講演でも少し触れましたが、私は黒田博士が逝去された後に畏れ多くもこの2つの足跡を再検討させていただきました。そして、同じ資料を分析することを通じて、黒田博士を垣間見てきました。

足跡の1つは、日本最古のニワトリの骨を同定されたことです。ともに壱岐島に所在する弥生時代中期~後期(今から約2,000年前)の遺跡である原の辻遺跡と唐神遺跡。両遺跡から出土した鳥骨を分析されたのが黒田博士でした。博士はこれらの資料群中にアホウドリやウミウ、オオミズナギドリなどとともにニワトリの骨を見出し、報告していました。

ニワトリの初期の拡散史を研究する中で、私はキジ科の骨標本を多数調査して同定基準を作成し、実際に黒田博士が分析されたニワトリの骨も再検討しました[2]。結果は、哺乳類の肋骨が1点混入していたのを除けば、黒田博士の同定を支持するものでした。
写真1.JPG
再検討した原の辻遺跡および唐神遺跡出土の鳥骨が包まれていた新聞紙

黒田博士が資料を分析された当時、国内の鳥類の比較骨標本は現在よりも著しく少なく、また遺跡からニワトリが出土した例はほとんどありませんでした。このような状況下で、キジ科のごく限られた標本と比較して種間の形態差を見出し、遺跡出土骨をニワトリと同定された黒田博士。その観察眼は目を見張るものがあります。今日では考古学界の定説となっている弥生時代におけるニワトリの日本への導入。その根拠となっているのは、紛れもなく黒田博士の同定したニワトリの骨なのです。

もう1つの足跡は「鵜を抱く女」の「鵜」の同定です。「鵜を抱く女」は山口県下関市豊北町(当時の豊浦郡神玉村)の弥生時代の墓地遺跡、土井ヶ浜遺跡から出土した1号人骨の別名です。この女性人骨が「鵜を抱く女」と呼ばれる由縁は、胸部から出土した鳥骨が黒田博士によってウミウの雛と同定されたことでした。女性人骨は「鵜」を伴って埋葬されたシャーマンとみなされてきました。2013年度末にこの遺跡の発掘調査報告書が刊行されることになったとき、この「鵜」の骨も再検討されることになりました。白羽の矢が立ったのは私でした。

結論から言えば、1号人骨に伴って出土した鳥骨が何の骨なのか、私には特定できませんでした[3]。ただし、ウ科の骨も幼鳥の骨も資料中に含まれてはいないことは分かりました。さらに、動物考古学的なアプローチから、黒田博士が前提とされていた人骨に伴って埋葬された1個体の鳥に由来するという点にも疑問が生じました。

1個体の鳥に由来するという前提と十分な比較標本がないという制約の中、著しく骨表面の風化が進んだ骨を分析された黒田博士。特徴の一致しない骨が資料中に含まれることや比較標本が足りないことなどが論考中に記されており、苦心の跡が読み取れます。その後、結果のみが一人歩きして定着していった女性人骨の「シャーマン」としての位置づけや「鵜を抱く女」という別称。黒田博士はどのようにご覧になっていたのでしょうか。私の知る限り、1959年の論文以外に黒田博士が手がけた考古資料の分析はありません。その意味するところは一人の「考古学者」として今一度考え直すべきことと思っています。

黒田博士が十分な比較標本がない中で考古資料を分析した論文を執筆されてから、すでに55年以上が経過しました。今日までの日本の各博物館における学芸員の皆様のご努力を否定する意図はまったくありませんが、残念ながら鳥類の骨標本のコレクションはアメリカやイギリス、ドイツといった国々のものに比べて非常に少ないこともまた事実です。縁あって、私は大学博物館に職を得ることができました。担当は考古学です(本当です!)が、スタッフの不足のおかげ(?)で脊椎動物のコレクションも管理できる立場にあります。今後、次代の考古鳥類学者が比較骨標本の不足に悩まされることのないよう、精力的に骨標本を収集していきたいと考えています。

・・・そして何の因果か、来年度の鳥学会は北大で開催されます。私は、例によって「考古学者」をアピールして逃げようと画策していたのですが、事ここに至っては逃げ切れそうにないと覚悟しています。黒田賞受賞をお祝いして下さった皆さんからいただいたインディ・ジョーンズ公認のカウボーイ・ハットを被って(!?)、大会運営をお手伝いしていきたいと考えています。
写真2.JPG
お祝いとしていただいたカウボーイ・ハット(インディ・ジョーンズ公認)を樋口広芳先生に被せていただく筆者(三上修氏撮影)

来年9月、皆様の札幌へのお越しを心待ちにしています!!

[1] 黒田長久 1959 「壱岐島及び山口県から出土の鳥骨について」日本生物地理学会会報 21:67-74
[2] 江田真毅・井上貴央 2011 「非計測形質によるキジ科遺存体の同定基準作成と弥生時代のニワトリの再評価の試み」動物考古学28:23-33
[3] 江田真毅・井上貴央 2014 「土井ヶ浜遺跡1号人骨に伴う鳥骨の再検討について」『土井ヶ浜遺跡 第1次~第12次発掘調査報告書 第3分冊 特論・総括編』下関市教育委員会・土井ヶ浜遺跡・人類学ミュージアム、pp137-146

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全国鳥類繁殖分布調査に参加しませんか?

2015年11月18日
植田睦之(バードリサーチ)
1、新たて正式日英4C.png

最近,鳥が増えたり,減ったりといった変化を感じることありませんか? 日本鳥学会誌にも八ヶ岳でジョウビタキの繁殖が定着していることスズメの減少など鳥の生息状況の変化について報告した論文が掲載されています。

地域の鳥の変化については,いろいろな研究がされていますが,全国的な鳥の分布の変化を示した唯一の情報が環境省が行なった鳥類繁殖分布調査です。この調査は1970年代と1990年代に行なわれ,アカモズやチゴモズ,ヨタカやシロチドリなどがレッドリストに選定されることにつながりました。またこのデータは研究の上でも重要な情報で,日本で減少している鳥の特性の解析(Amano & Yamaura 2007)土地利用が鳥へ及ぼす影響(Yamaura et al 2009)などこの情報を使って書かれた論文がいくつもあります。

1990年代に行なわれた最後の調査から,もう20年が経とうとしています。その間に,外来鳥の増加や,シカの増加による植生の変化,震災の影響など,鳥の状況には変化がおきていそうです。そろそろ3回目の全国調査が必要です。しかし,残念なことに,これまで調査を行なってきた環境省には,もうそれを行なう体力がないそうです。

では,どうするのか? 「みんなでやるしかないでしょ」ということで,NGO,省庁,大学,地方の研究機関,野鳥関係団体の合同調査として,第3回目の全国鳥類繁殖分布調査を実施しようと準備をはじめました。

期間は来年2016年から5年間。全国に約2,300あるコースでの現地調査や任意定点調査,アンケート調査の結果をまとめて日本で繁殖している鳥の分布図を描きます。

この調査に皆さんも参加しませんか? 現地調査を担当していただくのも歓迎ですし「この種は任せて」ということで種の情報収集やとりまとめを担当いただくのも歓迎です。また,解析WGグループというのもつくっていますので,調査全体の解析に係わりたいという方も歓迎いたします。

詳細は,全国鳥類繁殖分布調査のホームページをご覧ください。現地調査への参加はホームページから参加登録いただき,取りまとめに係わりたいという場合は,植田まで直接お問い合わせください。

皆様のご参加,お待ちしています。

主催団体:バードリサーチ,日本野鳥の会,日本自然保護協会,日本鳥類標識協会,山階鳥類研究所,環境省 生物多様性センター

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日本鳥学会2015年度大会自由集会報告:カワウを通じて野生生物と人との共存を考える(その18). - 河川における生息地環境管理 -

2015年11月2日
カワウワーキンググループ  
世話人 加藤ななえ(バードリサーチ)

カワウワーキンググループでは、1998年に北九州大学で開催された鳥学会大会から毎年継続して自由集会を企画し、新しい研究成果も盛り込みながら、カワウの保護管理の現況を鳥学会会員に提供してきました。2010年からは、マネージメントの3本柱である「被害対策」、「個体数調整」、「生息環境管理」をテーマとして取り上げることとしました。当時は鳥類では初めてカワウが対象となった「特定鳥獣保護管理計画技術マニュアル」が作成されてから7年が経ったところで、その後、このマニュアルは「特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン及び保護管理の手引き」として2013年に改訂されました。この企画は、間にいくつかのテーマを挟んだことで5年かかってしまいましたが、今年で完結します。今回はこのシリーズの最後のテーマです。カワウと人との共存を視野に入れた「河川における生息地環境管理」について、山本麻希さんと徳島から浜野龍夫さんをお迎えして、おふたりに話題を提供していただきました。

A:粗朶(そだ)を使った魚の隠れ家とは?
山本麻希(長岡技術科学大学)

「粗朶」とは、広葉樹の間伐材の枝を束ねたもので、北陸地方にはこの粗朶を用いて河川の護岸や河床の洗掘を防ぐ伝統工法があります。

カワウの遊泳速度は多くの川魚よりも速いため、コンクリート護岸されて魚にとって逃げ場のない河川環境下では、カワウによる魚への捕食圧はかなり大きくなります。このため、「魚の隠れ家」の提供は、魚にとってカワウの捕食を免れる機会を増やすことに繋がることから漁業被害の軽減にむけた対策として効果があるのではないかと期待されます。

これらを検証するために、粗朶沈床と木工沈床を組み合わせて作った魚の隠れ家(図)を、新潟県を流れる魚野川中流域に設置し、①隠れ家の物理的な強度や土砂の堆積状況、②魚の利用状況、③バイオマスを増加させるか?について調査をおこないました。

結果です。
①急流では隠れ家が崩壊し、流れが緩いと埋まってしまう。
② 多用な魚種が隠れ家周辺で確認された。
③ 流速の早いところでは底生生物の蝟集効果が高く、隠れ家があることでバイカモなどが繁茂する。
また、カワウの死体を隠れ家の近くを通らせてみると、魚が素早く隠れ家に入ることを観察することができ、魚の忌避反応も確かめられました。
図1.jpg
(図1)魚の隠れ家平面図

B:「水辺の小さな自然再生」でカワウと共存
浜野 龍夫(徳島大学)

「水辺の小さな自然再生」とは、生きものにやさしい水辺づくり活動のことです。ここでは次のような点に留意する必要があります。
(1)自己調達できる資金規模であること。
発案者や実施する団体が資金を調達できる範囲である。メンバーが無理なく(あるいはちょっと無理をして?)供出できる範囲のもの。大富豪がいればラッキーかも。
(2)多様な主体による参画と協働が可能であること。
みんなに発案チャンスがあり、ちょっとだけ手伝う人、がっちり参加する人など多様な関わり方がある。
(3)修理とか撤去が容易であること。

筋書き通りにできないことも多く、やってみないとわからないこともあるので。

たとえば、川底に浅い穴を掘ってそこに石を山のように積み重ねた「石ぐろ」を作ります。もとはウナギを獲るための漁法のひとつなのですが、カワウの食害を防ぐ方法として利用できるのではないかという意見が後押しとなり、平坦な河床に起伏をつける「小さな自然工法」として期待が広がってきました。

このような小さな工法は、地元の関係者を結びつけるだけでなく、すこぶる後味が良いワクワク感を得ることができるのです。
図2.jpg
(図2)水辺の小さな自然再生事例集

山本さんと浜野さんにはそれぞれの現場で多くのご苦労があったはずですが、その語り口からは、「楽しい!」「ワクワクする!」という気持ちがたくさん伝わってきました。
今回の自由集会の参加者は65名でした。なお、私事ではありますが、今回をもって私はカワウの自由集会の企画運営から卒業いたします。これからは若い方々が新しい発想でこの集会を継続されていくことを期待します。今までありがとうございました。
図3.jpg
(図3)会場のようす

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