鳥の学校「鳥類調査のための獣医学講座」に参加して

2016年7月26日
小林さやか(山階鳥類研究所)

山階鳥類研究所では研究用の標本を収集しており、その材料となる鳥の死体を受け入れるのが私の仕事で、日常的に鳥の死体を扱っています。死体に触れるだけではなく、解剖することも日常です。さらに自分で扱うだけではなく、窓に衝突したり、交通事故などで死亡した鳥を一般の方々からいただいたりすることもありますし、受け取ったこれらの死体をアルバイトさんに扱ってもらうこともありますので、今までの扱い方を確認するためにも今回参加することにしました。

前半は講師の葉山さんが野生動物の死体の安全な取り扱いについて、後半は高木さんが生きている鳥をケガさせた場合の処置の仕方をお話ししてくださいました。前半の葉山さんの話が私の業務にとっては関心事です。これまで自分たちがしてきた死体の扱い方、マスクや手袋、白衣を身につける、触った後は手洗い、うがい、特に手洗いは入念にする、ことで問題なさそうということが確認できて、安心しました。今まであまり気にしていなかったのが体調管理です。体調が悪いときには抵抗力が落ちているので、健康なときには感染しなくても、体調が悪いときには感染する可能性が高まるので要注意、と葉山さんのお話しにあり、その通りに思いました。皆さんもどうぞご注意ください。

後半の高木さんのお話についても、バンダーとして鳥を捕獲して標識し、山階鳥研の組織サンプル収集の目的で採血もしているので、興味深く拝聴しました。今まで私が見てきたケガした鳥の症状と高木さんのお話を頭の中で照らし合わせながら、「あの症状の時は、こんなことが起こっていたんだ」と納得することも多々ありました。今回、講演のなかで会場の関係で採血などの実習ができないと説明されていて、企画された方々のご苦労もしのばれるのですが、実習や見学がなかったのがちょっと残念に思いました。次の機会に期待したいと思います。

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鳥の学校報告(2015年):第7回テーマ別講習会「鳥類調査のための獣医学講習」

2016年7月26日
企画委員会(文責:吉田保志子)

鳥の学校-テーマ別講習会-では、鳥学会員および会員外の専門家を講師として迎え、会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っています。第7回は「鳥類調査のための獣医学講習」をテーマとして、2015年度大会の初日(9月18日)、兵庫県立大学神戸商科キャンパスで行われました。講師は、会員であり獣医師である高木(林)英子氏と葉山久世氏に担当いただきました。受講者は45名でした。

最初の講義は、葉山氏による「捕獲調査・サンプル採取・救護における衛生的な取り扱い ~自分と周囲の人の安全を守り,他に感染症などを広げないために~」で、捕獲、傷病鳥獣の世話、解剖、サンプリング等の、生体や死体を扱う、人獣共通感染症のリスクが伴う活動における衛生対策の知識と考え方について説明されました。実際の調査やボランティア活動等を想定した、危険度に応じた防護方法の例や、家庭用の塩素系漂白剤など身近で入手できる資材を使った実践的な対策方法も紹介され、受講者は自分が行っている活動と引き比べて理解を深めていました。

次の講義は、高木(林)氏による「現場でできる野鳥救護法 ~鳥の体の構造、現場で起こりうる事故や病気の概要とその応急処置法~」で、捕獲調査において起こりやすい事故について、鳥の体の構造に基づく発生理由と対処・治療の方法について、豊富な事例や写真を用いて詳しく説明されました。鳥の種類に応じた安全な保定方法、輸送時の収容方法、給餌方法などについても、獣医師が用いる手法が詳しく説明されました。事前アンケートで希望が多かった、鳥の採血の手技については、動画を用いた説明も行われました。受講者からは、専門的な内容を具体的な説明で知ることができ、自分の活動に役立ちそうという意見が多く寄せられました。

消毒薬や衛生資材等の実物も展示され、2つの講義の終了後には、受講者はそれらを手にとりつつ、講師を囲んで自由な質疑が行われました。

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講師のお二人からは、講義で使われたスライドを公開用に提供いただきました。当日の講義内容と、ほぼ同じものとなっています。野生動物の生体、死体、サンプルなどを扱うとき、自分や周囲の人の安全を確保するには具体的にどうしたらよいのか、鳥になるべく負担をかけない取り扱いや、鳥を傷つけてしまったときの対処方法など、当日参加されなかった方も、講義スライドからぜひ知識を得てください(上記文中の講義タイトルをクリック)。

受講者のなかからお二人が参加レポートを寄せてくださり(鳥の学校「鳥類調査のための獣医学講座」に参加して鳥の学校で学んだこと)、ご自分の仕事や研究との関わり、ためになった点などについて詳しく書いてくださいました。

なお、今年の鳥の学校-テーマ別講習会-は、2016年度大会の終了翌日の9月20日(火)に、「鳥類研究のためのGIS講習」を行います。鳥類の研究において、近年よく用いられるGIS(地理情報システム)について、無料のソフト「QGIS」を中心に、その基本的な使い方から応用例まで、専門家に詳しく解説していただきます。会場は、大会が行われる北海道大学札幌キャンパスから近い、酪農学園大学です。詳細は2016年度大会のサイトでお知らせしています。申し込み締め切りは2016年7月31日(日)です。

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日本鳥学会2016年度大会の講演申し込みの締め切りは本日(7月15日)です。

2016年7月15日
広報委員会

今年の鳥学会は9月16~19日に札幌で行われます。
講演の申し込み締め切りは本日(7月15日)です。
まだお申込みされていない方はお忘れなく。
http://osj-2016.ornithology.jp/

宿泊先は、普通のホテル検索サイトでは満室のところが多いようですが、大会サイトからいけばまだ空きがあるようです。

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ボランティアのススメ

2016年7月11日
日本鳥学会企画委員会 佐藤望

 企画委員では鳥学研究の促進を目的として、鳥類調査に関するボランティア募集の情報を収集し鳥学会のHPで公開しています。
http://ornithology.jp/volunteer.html
まだ始めたばかりの企画なのでご存じでない方もいらっしゃると思いますが、全国で調査を経験する事ができる場所を掲載しています。

この活動を始めた背景には、鳥の研究に興味があっても研究できる研究室や調査をする場所がなかなか見つからないといった状況があります。また、卒業研究で鳥類の研究をしたいと思っても、限られた期間のなかで一人で調査を0から覚えて実行するのはなかなか簡単ではありません。このような状況下にある鳥の研究を志す人にとって、ボランティアとして野外の鳥類調査に参加することは大きな意味があります。また、所属した研究室が鳥類の研究をしていない場合でも、調査地があってテーマがあれば、鳥類をテーマに卒業研究ができるかもしれません。

私はニューカレドニアなどで鳥類の野外調査をしてきましたが、その間、国内外の学生が参加してくれました。一部の国ではインターンとして海外の調査を経験することが博士課程に進学するために必要らしく、欧州や南米から問い合わせが来て、実際に何人かの学生を受け入れました。彼らは調査に参加することで調査能力や研究の方法を習得できたと思いますが、それだけではなく、毎日の生活の中で多くの議論をすることで受け入れた側にも新しい発見やモチベーションの向上などがありました。

鳥学用.jpg
ドイツからニューカレドニアにインターンで手伝いに来てくれました(著者は向かって右)

海外の若手研究者に負けないよう、特に日本の若手の皆さんにも是非このような場所に飛び込んでもらえればと考えています。もちろん、もう若手じゃない…という人も、きっと受け入れてくれると思いますので、老若男女問わず、積極的にこのボランティア募集情報を活用してもらえればと思います。

また、全国で鳥の調査をしている皆さま、ボランティアを受け入れてはいかがでしょうか。受け入れが可能であれば、佐藤(nozomu ATMARK liferbird.com)まで連絡を頂ければ幸いです。

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鳥学会前会長上田恵介先生の受賞

2016年7月11日

鳥学会の前会長の上田恵介先生が、今年度4月に、「みどりの日」自然環境功労者環境大臣表彰者(調査・学術研究部門)に選ばれました。
http://www.env.go.jp/press/102398.html

また、先月末に、第19回山階芳麿賞が贈呈されることが決定しました

第19回山階芳麿賞を、上田恵介・立教大学名誉教授に贈呈することを決定しました


http://www.rikkyo.ac.jp/news/2016/06/17913/

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自然史学会連合のご紹介

2016年7月4日
自然史学会連合鳥学会代表 濱尾章二

自然史学会連合をご存知でしょうか。「聞いたような気もするけど、よく知らない」「総会の決算報告で聞く、毎年分担金を払っている団体でしょ」というような方が多いのではないでしょうか。前任の西海さんに代わって、1月からこの連合の鳥学会代表を務めることになりました。この機会に、連合を紹介したいと思います。

自然史学会連合は、鳥学会など生物の分類群ベースの学会や、生態学会・行動学会のような学問分野ごとの学会、また地質関係の学会など、自然史科学関連の39学協会
http://ujsnh.org/societies/index.html
が加盟している連合体で、日本学術会議の協力学術研究団体の一つです。学会の間をつないで自然史科学の振興を図り、研究教育態勢の改善を目指すというのが、設立の理念です。
http://ujsnh.org/about/philosophy.html

設立理念の中には、「自然の正しい理解とその普及が人間教育とこれからの社会にとってきわめて重要」、また自然史研究の成果は「細分化された専門分野を横断した協力と総合によって得られる」と書いてあります。かつての役員の一人(小汐千春)は、「自然界の理解や自然観の形成に役立つということは、『文化』への貢献という点で非常に重要である。私たちの行っている科学とは、まさに『文化としての科学』なのである」と述べています。文化としての自然史科学が健全に育つよう社会に情報発信していくのが、連合の目指すところだと言えましょう。
http://ujsnh.org/activity/essay/useful.html

「なかなかいいことを言っているではないか」と思ってくださった方も多いことと思います。実際、運営に関わってみると、見識が高く、また仕事の速い人が多くて、舌を巻いています。

さて、その仕事の中身ですが、最近の仕事で特筆すべきなのは、「理科好きな子に育つ ふしぎのお話365」という一般書の刊行です。
https://www.seibundo-shinkosha.net/products/detail.php?product_id=4478
鳥学会員で協力した方もいますが、タイトルの通り、39学会の力が結集された力作です。この本は、第63回産経児童出版文化賞(JR賞)を受賞しました。

また、毎年、講演会を行っています。これは全国各地の博物館などを会場に行われているもので、鳥学会員で講演をしたり、協力したりした方もいると思います。
http://ujsnh.org/sympo/index.html
今年度は、詳細未定ですが、群馬県立自然史博物館で2017年1月21日(土)に行われます。

そのほか、自然史科学に関わる各種シンポ、イベントの後援、声明や要望書の提出などを行っているほか、近年は博物館学芸員資格の問題*についても情報交換がされています。

ぜひ一度、自然史学会連合ホームページをご覧下さい。
http://ujsnh.org/

* 学位を持っていても学芸員資格を持っていないと博物館に就職できない場合が多いことや、学芸員資格を得るための授業で自然科学が軽視されている問題などが指摘されています。

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日本鳥類標識協会誌のご紹介

2016年6月29日
日本鳥類標識協会編集委員会
森本 元・齋藤武馬

日本鳥学会誌をはじめ、日本国内には数多くの学術誌が存在しますが、「日本鳥類標識協会誌」もそんな雑誌の一つです。現在発行されている、鳥類学関係の他誌に比べると、最もマイナーな存在という印象を持たれる方もいるかもしれませんが、学協会発行のれっきとした学術誌です。掲載から2年を経過した論文はJ-Stage上にてどなたでも読むことが可能ですので、ぜひ一度、中身をご覧になっていただけると嬉しいです。また、会員内外のどなたでも投稿可能ですので、どんどんご投稿ください。

図・日本鳥類標識協会誌紹介用(jbba2015_vol27.jpg)枠.jpg
表紙は毎年変わります。上記は2015年のもの。

当誌の特徴といいますと、これまでの掲載論文の内容から、鳥種の形態や識別に関するものが多い雑誌であるといえます。日本鳥類標識協会誌は、誌名に「標識」とついていることからもわかるように、鳥類標識調査に関する団体である日本鳥類標識協会が発行しています。みなさん、鳥類標識調査はご存知でしょうか?鳥類標識調査(通称バンディング)は、鳥に足環や発信機等の標識を装着し、鳥の移動や寿命、個体数変動を調べる調査手法です。現在、世界中でこの標識調査は行われており、毎日のように、それら標識個体の情報が国内・国際的にやりとりされて、移動情報が蓄積されています。日本では環境省が事業を主導し、山階鳥類研究所が受託者となって実施されています。この活動を支えているのが、通称「バンダー」と呼ばれるボランティア調査者の方々です。日本鳥類標識協会の会員の大半はこのバンダーであり、それゆえ、鳥類の識別や移動に関する話題が多い雑誌となっているわけです。日本鳥学会の雑誌(和文誌・英文誌)や、バードリサーチ発行の「Bird Research」誌、日本野鳥の会発行の「Strix」誌、どれも鳥類の生態を扱った研究内容が掲載されることが多いと思いますが、日本鳥類標識協会誌は、それらとはちょっと毛色が違う、鳥学の中でも特定分野に特化した学術誌という印象を持っている方もいるかもしれません。

実は、日本鳥類標識協会誌はこうした分野のみに特化した雑誌というわけではありません。鳥学に関わることなら何でも投稿を受け付けており掲載しています。本誌は、バンディング関係の論文しか載せない雑誌という誤解を受けることがあるのですが、そんなことはないのです。例えば、生態研究でも構いませんし、寄生虫など鳥に関わる周辺的なテーマ、鳥類に関わる文系的テーマもOKです。和文論文が主ですが、英文論文も受け付けており、和英混合誌であるといえます。

本誌の編集委員の一部は鳥学会発行の雑誌の編集にも関わっている立場なので、申し上げにくいのですが、本誌への投稿も選択肢の1つとしてご検討していただければと思います。また、観察記録の公的な記録にも力を入れており、県初確認等の記録も積極的に掲載しています。さらに、論文の執筆相談も受け付けており、執筆経験が浅い方であっても、気負わずにご相談いただければと思います。学生やアマチュア研究者の方々が論文を執筆する手助けができれば幸いです。

さらに、持ち込みでの特集企画も歓迎です。若手研究者の方々の中には、何かやってみたいが、雑誌の敷居が高いと尻込みしてしまったり、足がかりが無くて困った思いを経験した方もあるかとおもいますが、本誌をうまく利用してください。日本鳥類標識協会誌の編集委員会は、30代を中心に若い編集委員で構成されており、カラー図表の多用や、カラー表紙、表紙付き別刷り、Editor’s choice、オンラインファースト(電子版の先行出版)等、他誌に無い様々な投稿者・読者サービスを試み、実践しています。新しい事柄に挑戦したい、論文執筆をチャレンジしてみたいとおもっている、学生、アマチュア、若手研究者の発表を行う場を拡げ、その手助けをしたいと私達は考えています。投稿してみたいとおもう方々は、ぜひ、お気軽にご相談くださればとおもいます。

日本鳥類標識協会誌ホームページ
http://birdbanding-assn.jp/J03_bulletin/index.html
日本鳥類標識協会誌J-Stageウェブページ
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jbba/-char/ja/

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最初のEditor's Choice「注目論文」は江口さんのカササギのモノグラフに決まりました

2016年5月30日
日本鳥学会誌編集委員長 植田睦之

今号より各号原則1編の注目論文を和文誌編集委員会の協議で選出することになりました。学会誌の論文は,発行から1年間のあいだ,非会員の人は読むことができませんが,注目論文は制限期間なしに読むことができます。

この制度は,投稿者の励みになることでの学会誌への投稿の増加と注目論文をすぐ読めるようにすることでの会員の増加を狙って実施しています。 

記念すべき最初の注目論文は,江口さんのカササギのモノグラフです。 

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日本鳥学会誌 65巻1号 注目論文
江口和洋 (2016) カササギ. 日本鳥学会誌 65: 5-30.

この論文は,江口さん自身の長期にわたる研究の成果に加え,古文書や各種調査報告書をあわせてまとめることで,九州北部のカササギの分布の変遷とその原因についてまとめた総説です。電柱を営巣場所として利用するという行動の獲得と,人間の開発による土地利用の変化が,それまで局所的にしか分布していなかったカササギの分布拡大や個体数の変動につながったのではないかというこの研究は生態学的に興味深いだけでなく,近年分布を広げて特定外来生物にも指定されているソウシチョウやガビチョウなどの外来種の分布拡大のメカニズムの解明などの応用面でも重要と考え,注目論文として選定しました。

以下のURLより,どなたでも読むことができます。
http://doi.org/10.3838/jjo.65.5

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シリーズ「鳥に関わる職に就く」:最後は起業って手も

2016年5月9日
NPO法人バードリサーチ 代表 植田睦之

シリーズ「鳥に関わる職に就く」では,嶋田さん,川上さん,濱尾さんがいろいろな立場から,研究者として就職するコツについて話してきました。でも「そうはいっても,そもそも自分に向いた公募が少ないんだよね」って思ったりしてません? そんな人にも最後の手があります。「職に就く」ではなく「職をつくる」起業です。ここは自由の国ジパング。誰でも社長になる自由があります。そして社長になれば自分のやりたいこと,好きにできます。でも,もちろん自由はただ(無料)ではありません。「社長という名の失業者」になりかねないリスクがもれなくついてきます。そうならないために,ぼくの経験を少し書きたいと思います。

ぼくが働いているバードリサーチは10年ほど前に3人でたちあげたNPOです。全国鳥類繁殖分布調査などの独自研究や環境省のモニタリングサイト1000カワウの保護管理や風車の影響や対策の委託研究などを行なっています。現在は,常勤スタッフ8名にまで増え,順調に活動しています。とは言っても小さい団体ですので,もちろん自転車操業。先はどうなるかはわかりません。

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バードリサーチの事務所。雑然としていますが,中央の机にはお菓子が,冷凍庫にはアイスが常備され,福利厚生もバッチリ。

こうして自転車をこぎ続けていくために,ぼくが重要だと思うことがいくつかあります。それは人脈,楽しんでもらうこと,そして楽しむことです。

起業して最初の壁が「最初の仕事」をとることです。下請け仕事をとるのは,それほど難しくはありませんが,将来を考えると役所や研究所など公的な機関から,1つ仕事をとって,それを実績に仕事を広げていきたいところです。けれども実績のない団体へ公的機関が最初の仕事を発注をするのは容易ではありません。かなり発注側の担当者が骨を折ってくれないと,難しいのです。ぼくらの場合は,当時某研究所にいたN田さんや某省のS木くんが最初の仕事を発注してくれたのがきっかけで,今があります。起業を目指す人は,「○○くんが起業したのなら,仕事任せてみようか」と思ってもらえるような人脈をつくっておくことが必要です。そのためには嶋田さんが書いたような普段からの姿勢が大切なような気がします。

さて,1つめの仕事ができました。そしてそれを継続したり広げていくためには,どうしたらよいでしょう。「植田くんに頼んで正解だったね」と次の仕事も発注してもらえるように「一芸を持つ」ことも重要ですし,新しい仕事を開拓していくためには「受け身の達人」であることも重要だと思います。そしてそれに加え,調査の関係者に楽しんでもらうこと,楽しく仕事することが重要な気がします。

新しいことをするために,そして調査を続けていくためには,たくさんの外部の人の協力が必要です。糸目をつけずに謝礼を払える身分ではありませんから,その分,楽しんで調査してもらわなければ続きません。得られた成果をみんなに知ってもらって「やってよかった」と感じてもらえるようにしたり,調査中には下ネタをちりばめたり,そんな工夫をしています(ぼくの話は,ただ幼稚なだけではないのです)。そしてやはり自分自身が仕事を楽しむこと。辛気臭いのと一緒に調査したくないですよね。そして仕事を頼む側だって同じするなら楽しく仕事したいものだからです。

さあ,自分も起業したいなと思ったあなた。人生の選択肢として悪くないですよ。多くの人と関わり,そんな人の喜ぶ顔も見られ,やりたい研究もできる。こんな楽しい仕事なかなかないです。

といっても未経験でいきなり起業してうまくいく人はわずかでしょう。「いつかは一国一城の主」。そんな野望をいだいている方は,ご相談ください。バードリサーチでインターンでもしてもらって,ノウハウを身に着けてもらうこともできるかもしれません。「安い労働力を確保しようなんてブラックなこと考えているでしょ」なんて思いました? 鋭いですね。あるかもしれません。

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お風呂もあります。事務所に入居するときに大家さんにお願いして造ってもらいました。自分が必須と思うものを事務所に組み込めるのも起業の良いところ。

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鳥の研究が出来る大学と大学院(Part-2)

2016年5月7日
上田恵介

前回の私の投稿に、「白木さん(東京農大)や岡ノ谷さん(東大)、藤田さん(東大)のところも鳥の研究できますよね?」というコメントがありました。すっかり忘れてた!白木さん、岡ノ谷さん、藤田さん、ごめん!ついでに(じゃないですが)江田さん(北大)、相馬さんと松島先生と和多先生(北大)、三上さん(北海道教育大)、森さん(酪農学園大)のところも鳥の研究室ですので、紹介します。

東京農大オホーツクキャンパス(生物生産学科) 白木彩子(さいこ)先生
北大の院生時代からオジロワシの研究を続けて来られた白木先生の研究室です。白木先生は知る人ぞ知る山女で(マッターホルン単独登頂)、ばりばりのフィールドワーカーです。最近はワシばかりではなく、ヒバリの分子系統研究も手がけておられます。網走の自然豊かなキャンパスで卒業研究をしたいという人にはおすすめ。

東京大学総合文化学院総合文化研究科 広域科学専攻 生命環境科学系(認知行動科学グループ) 岡ノ谷一夫先生
岡ノ谷先生の専門は「コミュニケーションの生物心理学」で、言語の起源、情動の進化、動物コミュニケーションなどをテーマに、ジュウシマツやキンカチョウを使って、鳥の囀りと脳の研究をしておられます。さらには鳥の囀り研究だけにとどまらず、人間の言語の進化までを視野に入れた、スケールの大きな研究者です。一般向けの本も多く、『言葉はなぜ生まれたのか』、『さえずり言語起源論』、『「つながり」の進化生物学』ほか多数があります。研究室の陣容(設備もスタッフも)整っており、世界的な鳥の研究室です。鳥の飼育が苦でなく、緻密な実験が得意という人にはおすすめです。東大は学部入試は難しいので、他大学で十分に学んでから、大学院入試で入学するという手もあります(が、研究する力がないとだめです)。

北海道大学総合博物館 江田真毅(まさき)先生
専門は考古動物学, 動物考古学, 系統地理学など。筑波大学人文学類で考古学を、東京大学大学院農学生命科学研究科で生態学を、九州大学大学院比較社会文化研究院で分子生物学を学び、就職した鳥取大学医学部では解剖学教育に携わるというマルチな研究者。大学に入るとき、恐竜の化石を研究したくて、考古学を専攻したら、考古学は化石は研究しないとわかってがっかりしたとか。しかしそれがきっかけで縄文遺跡のアホウドリの骨を調べることになり、DNA解析の手法を駆使して、アホウドリには2つの遺伝的に異なる集団があるなど、アホウドリについて面白い発見をたくさんしておられます。

博物館なので組織としての学部・大学院はありませんが、北大の他の研究室に所属して,指導を受けることはできます。

北海道大学理学部生物科学科(生物学) 相馬雅代先生、松島俊也先生、和多和弘先生
相馬先生は行動生態学、比較認知科学が専門です。先生の研究対象はスズメ目(鳴禽類)カエデチョウ科の鳥(セイキチョウやキンカチョウ)です。相馬先生のホームページのメッセージです。「鳥類の生活史特性,社会性,そしてそのコミュニケーション能力は,動物行動の多様性を考える上で極めて興味深い題材です.たとえば身近な世界に目を転じてみた時,なぜ私たちは特定の人を好きになり伴侶とするのでしょう? 恋人にはどのようにアプローチしますか? もうける子の数はどのように決まりますか? 息子と娘どちらが欲しいでしょうか? このような一見素朴にも見える問いを鳥類の生態に当てはめ,普遍的解を探すことによって,動物の社会行動の進化の真髄に迫りたいと考えています」。

同じ学科の行動神経科学研究室の松島先生はヒヨコや鳴禽(ヤマガラやハシブトガラも対象)を実験に用いて、採食のリスクを鳥たちが主観的にどう評価するか、資源をめぐる競争が意思決定にどのような影響を与えるか、研究しています。研究室として、認知脳科学と行動生態学をひとつのものとして、行動の進化を理解することがゴールのひとつだそうです。

分子神経行動研究室では和多先生が、動物が生成する行動に関して、遺伝と環境が具体的にどのようなタイミングでいかに脳内の遺伝子発現に影響を与えるのか?また発達過程の個体の行動そのものが脳内分子基盤にどのようにフィードバックされるのか?音声発声学習とその学習臨界期研究の動物モデルである鳴禽類ソングバードを用いて研究を進めています。立教の私の研究室の卒論生のF君は、カッコウのヒナが宿主の卵を巣外に押し出す行動の遺伝的基盤を解明しようと、大学院で和多先生の研究室に進学しました。

東京大学農学生命科学研究科(農学部)生物多様性科学研究室 藤田剛先生
かつて樋口広芳先生がおられた研究室で、今は宮下直先生(もともとはクモの研究者)が教授ですが、ツバメの研究をしていた藤田剛先生がおられます。研究室のテーマと目的は、「生態系のバランスの維持機構や崩壊機構を、生物と環境の相互作用の観点から説き明かす研究に取り組んでいる。その学問的基盤となるのは生態学である。生物の個体数、種数、食物網の構造、さらにそれらに関わる物理的・化学的要因が、どのような時間・空間スケールで変化(維持、崩壊)しているかについての仕組みを解明し、予想する研究に挑んでいるのである。こうした成果は、学術論文等を通して世界に発信するとともに、生態系や生物多様性の保全・管理のための具体的な提言として広く社会に発信している」そうです。

北海道教育大函館校国際地域学科 三上修先生
専門は鳥類の行動生態学 で、最近は都市における緑地の重要性の問題に取り組んでおられます。東北大から九大の大学院へ、そして立教大学で日本学術振興会の特別研究員をされていました。そのときのスズメ研究で、すっかり日本のスズメ研究の第一人者になってしまいましたが、数理生物学者としての一面もあり、数学、統計に強い研究者です。また学会の改革にも積極的に発言し、若い人には頼りがいのあるお兄さん先生かな。最新刊は筑摩書房からの「身近な鳥の生活図鑑」。
ツイッターは

酪農学園大学動物生態学研究室 森さやか先生
帯広畜産大学の修士を修了して、JICAの青年海外協力隊員としてマダガスカルへ。そのあと東京大学大学院農学生命科学研究科の樋口先生のところで博士課程を修了。一貫して、アカゲラの研究。現在はカササギも追いかけている。酪農学園大学に就職して今年で3年目(かな?)

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