日本鳥学会誌72巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。

さて、72巻1号は「ペンギン特集」。そして、注目論文も特集論文のひとつが選ばれました。

著者: 高橋晃周
タイトル: 気候変動がペンギンに与える影響
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.72.3

ペンギンなど極地方にくらす生きものたちは、「地球温暖化」とよばれる気候変動の影響を受ける生物の中でもとくに象徴的な存在ですよね。この総説は、そのペンギンたちが体験している気候変動の影響を、著者高橋さんならではの視点で、複雑な研究成果が分かりやすい形に按配された力作レビューです。ペンギンファンでないあなたにも、ご一読をオススメします。

以下は、著者である高橋さんの言葉です。心洗われるようなすばらしい写真と一緒にお楽しみください。

エディターズ・チョイス論文に選んでいただきありがとうございます。私は南極昭和基地近くで繁殖するアデリーペンギンを対象として、気候変動がペンギンに与える影響を研究しています。自分自身が関わる一つの調査地の結果だけで、気候変動の影響の全体像を捉えるのは難しいことを常々感じており、2019年の鳥学会大会シンポジウムで気候変動とペンギンについて講演させていただいたことをきっかけに、今回の総説論文に取り組みました。もっとも苦労した点は、「気候変動がペンギンに与える影響は、時と場合によって正でも、負でも、非線形でもある」というわかりにくい内容を、いかにわかりやすく整理して伝えるか、という点です。最初の投稿から改訂稿の受理まで1年以上もかかってしまいましたが、もしなんとかうまく整理できていたとしたら、厳しくも的確な査読者や編集委員の方々のコメントのおかげです。和文誌に総説論文を書かせていただいたのは今回で3回目となりますが、毎回執筆を通じて私自身が一番勉強になったと感じています。他の研究者の論文を読むのは大分「お腹いっぱい」になりましたので、また気持ちを新たにアデリーペンギンのデータ解析に取り組んでいます。

(高橋晃周)
高橋写真1.jpeg
写真1.南極昭和基地近くのアデリーペンギンの繁殖地

高橋写真2.jpeg
写真2.アデリーペンギンの親子

高橋写真3.jpeg
写真3.氷の浮かぶ海へエサ取りに出発

この記事を共有する

第13回日本学術振興会育志賞を受賞して

本学会推薦により育志賞を受賞された北沢さんに研究紹介の記事を寄稿していただきました。今年度の推薦受付は2023年4月28日(金)までとなっています。推薦を希望される方、候補者をご存じの方は事務局までご連絡ください。(広報委員 上沖)
Picture1.jpg
授賞式は東京都日本学士院にて秋篠宮皇嗣同妃両殿下御臨席のもと行われました。

 

この度は、日本鳥学会からのご推薦を経て、日本学術振興会育志賞という身に余る賞を戴き、畏れ多くもありながら大変嬉しく思っております。改めて、これまでに研究や野鳥観察の場でお世話になった皆様に深く感謝申し上げます。

育志賞では、博士課程の一連の研究が審査されました。私は博士課程期間を通して「農地景観における鳥類多様性の広域・長期評価:農地の拡大と放棄に着目して」という課題に取り組みました。この場をお借りして、私の研究概要について軽く紹介いたします。

農地は陸地の3分の1以上の面積を占めるため、農地景観における生物多様性保全策を検討することは、陸上生態系の保全を進める上で必要不可欠です。特に私は、「湿原や森林を農地に転換したことで、鳥類の種数・個体数がどの程度減ったのか?」「人口減少によって拡大している耕作放棄地は、鳥類の生息地として機能しているのか?」「圃場整備されていない水田には、圃場整備された水田と比較して、どれほどの鳥類が生息しているのか?」といったテーマに着目して研究してきました。その結果、湿原や森林が広がっていた1850年頃の北海道石狩平野には、200万個体近くの鳥類が生息していたものの、農地への開拓によって、現在では50万個体近くまで減少してしまったことを明らかにしました。また、長崎県から北海道までの日本全国199地点の農地を調査して、耕作放棄地や圃場整備されていない水田が鳥類の重要な生息地として機能していることを明らかにしました(写真1)。

Picture2.jpg
写真1. 棚田での調査風景 繁殖期と越冬期に、2年間でのべ1000回以上の調査を実施しました。

 

さらに、これらの研究と並行して、アカモズ(写真2)やシマクイナなどの絶滅危惧種の保全研究・活動を行ったほか、日本野鳥の会茨城県支部の方々と一緒に草原性鳥類の保全に関する研究も実施しました。特にアカモズについては、繁殖地で行われている開発行為に対して、行為実施者に対して配慮のお願いに伺ったり、複数の行政担当者に対して、情報共有や森林管理策のご提案に伺ったり、また森林保護に関連する委員会に、新たな保護策の提案などを行ってまいりました。このような、研究と保全活動を両立してきた点を、賞審査にあたり評価して頂いたのかもしれません。保全活動を「研究者の業績」として評価頂く機会は多くないため、この観点からも今回の受賞を嬉しく思いました。

Picture3.jpg
写真2. アカモズ 学部2年から博士課程3年まで継続して研究を続けてきた種です。

 

今後の生物多様性保全を進めるためには、農地における取組の重要性が更に増すだろうと思っています。農地における鳥類の研究については、国内で既にたくさんの蓄積があるところではありますが、より保全を効果的に進める上では、更なる研究の蓄積が必要です。例えば、農地に生息している鳥たちの個体数はどの程度減ってきたでしょうか。和田(1922)は青森県のヒクイナについて、「極めて多く分布し、水田稲株間に営巣するが故に小児等のため卵を捕らわるること多し」と記述しています。兼常(1922)もヒクイナについて、「稲田にてふつうにみる種類なり。常に稲田の間に在り。」と述べています。1920年代には、東京都羽田で200-300個体のチュウサギや、ヨシゴイが繁殖していたようです(黒田 1915; 1920)。現在の青森ではヒクイナを、羽田ではヨシゴイを、繁殖の確認どころか観察することすら難しいでしょう。バンやオオヨシゴイ、クイナ、ウズラなどもこの期間にきっと個体数を大きく減らしたはずです。

保全を進める上での第一歩は、「個体数がどのように変化してきたか」を定量化し、その原因を明らかにすることだと考えています。トキやコウノトリでは、個体数変遷や減少原因について詳しく整理されており、それらが農地景観における保全活動にむすびついています。私たちの研究グループでは、日本の繁殖鳥類ほぼ全種の、過去170年間の個体数変化を全国規模で定量化することを目指しています。現在、そして未来の鳥を守るためには、過去の情報が欠かせません。そのために、「過去の鳥類の記録」を集めるプロジェクトを現在計画しております。

最後になりますが、博士課程研究を様々な方に評価頂ける形までまとめ上げることができたのは、特に指導教官の山浦悠一氏、中村太士教授、そして先輩の先崎理之さんと河村和洋さんのおかげであると考えています。私は考えていることや感情を言語化することが苦手だったのですが、山浦さんは私がどんなにしょうもないことを考えている場合でも、私の発言内容を正確に理解できるまで何度も何度も聞き取って頂き、私の考えを尊重して頂きました。「相手の考えを理解することに可能な限り努め、それを尊重する」―至極当たり前のことではあるものの、この姿勢を山浦さんに学んだことで、研究や保全の重要な場で物事を前に進めることができた場面が多くありました。わたし一人で研究をどんなに頑張ったところで、生物多様性保全を進めることは難しいでしょう。様々な分野や立場の方々の意見や考えを汲みながらともに研究・活動する仲間を増やすことが保全のために欠かせないと思っています。

また、育志賞の授賞式ではほかの受賞者の方々と交流する機会もあり、中には臨床医を続けながら研究をされている方もおりました。このような方の存在は、研究と保全活動のどちらも続けたい自分にとって、大きな刺激となりました。他の受賞者や日本鳥学会の皆様をはじめとして、今後も様々な方々に教えて頂きながら、研究を進めて参りたいと思います。

この記事を共有する

ヨーロッパの大学に留学してみた④ 研究の話

(前回の③ドイツでの生活はこちら)
よくハリーポッターになった夢を見てしまう私にとって、マックスプランク鳥類学研究所はホグワーツ城と言ってもいい(ちなみに悪夢では、7割方ヴォルデモートにアバダケダブラされる)。建物の形こそ違えど、迷子になるほどの広さ、湖のほとり、フクロウ小屋ならぬ数々の鳥小屋、第一線で活躍する研究者の先生方、世界からやってくる人々。研究を志すひとにとって素晴らしい環境であることは間違いない。

Picture1.jpg
ラボの皆で鳥を見に行ってナベコウを見つけたとき。ドイツでは珍しいらしい。

私が所属していた研究室はHenrik Brumm先生のグループで、動物のコミュニケーションと都市の生態学をメインに研究している。メンバーは、先生、ポスドクの方、研究アシスタントの方と私のなんと4人だけ!というミニグループだった。つまり学生より指導者の数のほうが多い。おかげでそれはそれは手厚い教育を受けさせてもらっていた。

閉じた狭いコミュニティでは人間関係の円滑さが気になるところだが、私がここにきて最初の日に先生が「少しでも不快なことがあったら何でも言いなさい。全部解決しよう。」と言ってくださったのが本当に心強かった。言葉通り先生は違う文化圏からきた私のことを非常に気遣ってくださり、そして同時に素晴らしい指導者であり研究者であって、非常に尊敬できる人だ。来た時から私は先生のことを密かにダンブルドア先生のようだと思っている(というと先輩にそこまでお爺さんではないでしょうと言われてしまうのだが)。

Picture2.jpg
ドイツに熱波が来た日。皆で隣町まで行ってアイスクリームを食す。南ドイツは札幌並みに涼しいので、名古屋出身の私にとってはそれほどでもない。

さて、私がBrumm先生の元に来たのは、車や飛行機など都市の騒音のなかで、鳥がどのように音声コミュニケーションを行っているのかに興味があったからだ。きっかけは、留学前に『都市で進化する生物たち “ダーウィン”が街にやってくる』(メノ・スヒルトハウゼン著,草思社,2020)という本を読んだことである。

その本の第16章は「都市の歌」。2003年の研究によると、都市にすむヨーロッパシジュウカラのさえずりは、そうでない場所のものとは異なっているらしかった。街の騒音は、車の音に代表されるように、音程が低いことが多い。都市にすむシジュウカラは、自分のさえずりの音程を高くすることで街の低音ノイズにかき消されないようにしているとのことだった。

その辺にいるシジュウカラでも、実はその辺に「いられる」理由があってのこと。自分が住んでいるまちの周辺だからこそ面白い動物の現象が転がっているかもしれない。その章を読んでいた私の顔は、ハリーがはじめて箒に乗った時のようにキラキラしていたに違いない。あるいは最近のマイブームで例えるならば「アーニャ、わくわくっ!!」顔である。

Picture3.jpg
ヨーロッパシジュウカラ。日本のシジュウカラとは特にお腹の色が違う印象。

修論では騒音に対する歌行動の変化を研究することにした。カナリアを対象に、次々と離着陸する飛行機や往来する車をラフに模した断続的なノイズを聞かせてみた。予想としては、彼らはノイズが途切れるタイミングを学習して・あるいはノイズは待っていれば途切れるということを学習して、ノイズとノイズの間の静かな時間に歌うようになる、と考えていた。

ところが、ことごとくカナリアが予想に反した行動を示した。グラフを描き全体像としてはっきりとその結果を見たときには、俄かには信じがたいものがあった。驚いたと同時に、私は絶望した。ああ、はやく一本目の論文が欲しかったけど、これでは書けないのだろう、と。しかしBrumm先生は言った。「論文化しよう!」

ということで現在はその結果を絶賛投稿中である。レビュアーからの厳しいご指摘を読んでいると凹んでしまうこともあるが、大好きな共著者のみなさん、つまりマックスプランクの研究室メンバーに支えられてなんとか持ちこたえている。どうにかそのうち世に出せることを祈っている。

(続く?)
この記事を共有する

イベント紹介 〜インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』〜

広報委員 遠藤 幸子

みなさん、こんにちは!
春が感じられる日々ですが、いかがお過ごしでしょうか。

私は先日、現在開催中の「インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』」に行ってきました。こちらは、東京駅から徒歩で行ける、KITTE の2・3階にあるインターメディアテク(IMT)において2023年1月20日から開催されています。

鳥の標本、絵画、そして鳥をモチーフとした宝石などがコラボレーションして展示されているという、とてもユニークな展示でした。自然や科学、文化などの様々な観点から「鳥」をみつめることができ、鳥に秘められた、新たな魅力に気づくことできました。また、ひとつずつをとってみても、とても綺麗に輝く鳥のかたちのブローチや、尾の長さに圧巻されるオナガドリの標本など、魅了される展示がたくさんありました。

20230328.jpg
とても素敵な展示のパンフレットもいただけました。

こちらの特別展示の開催期間は2023年5月7日までで、入館料は無料だそうです。期間中には、研究者の方々のレクチャー・トークも開催されています。4月に開催される回には、カラスの研究でお馴染みの松原始さんもご登壇されるようです。
いつもは野外で鳥を観察されている皆さんも、屋内でいつもとは違った視点から鳥を眺めてみませんか?

展示に関する詳しい情報は、下記のインターメディアテクさんのHPをご確認ください。
インターメディアテク開館十周年記念特別展示『極楽鳥』
http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0257
レクチャー・シリーズ『極楽鳥展を巡って』
http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0258

この記事を共有する

鳥類学若手の会の活動

飯島 大智1・山﨑 優佑2・水村 春香3・姜 雅珺1・田谷 昌仁4・犬丸 瑞枝5・井上 遠6
1 千葉大学大学院 融合理工学府
2 特定非営利活動法人バードリサーチ
3 東京大学大学院 農学生命科学研究科
4 東北大学大学院 生命科学研究科
5 国立感染症研究所 昆虫医科学部
6 一般社団法人バードライフ・インターナショナル
OGP画像_20230307.jpg

鳥類学若手の会は2018年に発足した「若手」で「鳥の研究に興味がある」人なら誰でも参加できる団体です。本会の活動の目的は、鳥類の研究に興味がある若者同志の専門分野や所属を超えた交流を促進することであり、1年を通してオンラインや実地でのイベントを開催しています。会員の人数は2023年1月時点で80人を超え、大学生や大学院生だけでなく、社会人や高校生も参加し、多様性に富むグループになってきました。今回は鳥類学若手の会、そして行っている活動について、紹介していきます。なお本稿の最後に、入会のための手段および若手の会のウェブサイト情報を記載していますので、気になる場合にはぜひご確認ください。

参加条件
はじめに本会への参加の条件を紹介します。本会は入会を35歳以下に限定しています。その理由は、世代が近い者同士の自由な交流の場を設けたいためです。また、一見すると研究者によって構成される団体のようにも見えますが、決して鳥の研究をしている必要はありません。必須条件は「鳥の研究に興味があること」であり、高校生や、卒業研究のテーマが決まっていない大学生、社会人の参加も大歓迎です。また、各学会に所属している必要はありません。

イベントについて
2020年のコロナ禍以降、鳥類学若手の会は主にオンラインで活動を行っています。まず2020年以降のオンラインイベントについて概説します。次に、2020年以前の対面を中心として行われていたイベントについても簡単に紹介していきます。対面イベントは、今後コロナ禍以前の日常が取り戻された場合には実施したいと考えています。

オンラインイベント
鳥類学若手の会は年に数回のウェブセミナー(以下、ウェビナー)を開催しています。鳥類学ウェビナーでは、若手の会のメンバーをはじめ、鳥類を材料とした研究を行っている方を演者としてお招きし、オンラインで講演していただきます。発表後の質問タイムは、きっと学会よりも和やかな雰囲気のなか、気になる内容についてじっくりと話を聞くことができるはずです。また3月から4月にかけては、会員の希望者が発表する形で卒業論文・修士論文・博士論文の内容についての発表会も開催しています。新規性のある興味深い研究内容に耳を傾け、もし今後研究を開始する方であれば、どんな研究をしていこうか考える良いきっかけになるでしょう。また発表者も鳥を専門とする会員からの意見を、ご自身の研究の発展に生かすことができるかもしれません。
また、会員のなかの希望者を対象として、論文や専門書の輪読会も行っています。鳥類という共通点のもと、専門外の分野の論文の解説を聞き、議論する機会は研究室などではなかなか得られないかもしれません。また共通の本を参加者で読み、意見交換する機会は、その内容について深い理解と洞察を得られると期待できます。ほかにも2022年には、自分の研究を3分間で紹介するライトニングトークイベントや、研究手法についての勉強会や雑談会を、2021年までは日本鳥学会大会で自由集会の開催(参加者の年齢制限なし)などをしてきました。
さらに、会員はオンラインチャットツール「Slack」に参加することができます(図1)。Slackでは、鳥類学関連のイベント情報、就活情報、解析に関する質問、研究に使う試料収集の依頼など、イベント以外でも会員と繋がり、様々な鳥類学情報を発信・収集ですることができます。最初の投稿の敷居は高いかもしれませんが、どんな些細な質問や相談、雑談でも、投稿してくれればそこから新しい視点や研究のアイデアが得られるかもしれませんし、他に気になっていた人の役にたつかもしれません。ぜひお気軽に投稿をお願いします!

図1.png
図1 会員はオープンチャットツール「Slack」で、鳥類学関連の情報を発信・収集することができます。*写真をクリックすると、拡大してご覧いただくことができます。

対面イベント
コロナ禍前はオンラインだけではなく、対面とオンラインを組み合わせる形で活動を行っていました。活動内容としては、輪読会、研究報告会、論文合宿、解析ツールの勉強会などを実施していました。具体的には、関東に住んでいる会員が都内に集まり、現地で輪読を進行し、遠方に住む会員はオンラインで参加するような形でイベントを運営していました(図2)。

図2_20230307.png
図2 コロナ禍以前は、対面での輪読会や研究報告会を行っていた。現在はオンラインで同様のイベントを開催していました。

論文合宿では、大学の合宿施設を借り、各々が2日間で論文執筆の目標をたて(例えば、1章を書き切るなど)、進捗を報告しあい、疑問点を議論しながら執筆を進めました。コロナ禍以前の日常が取り戻されれば、こういった現地でのイベントも開催できるようになるかもしれません。

入会について
会での活動を通して、研究仲間を見つけることができるかもしれません。お互いに切磋琢磨しながら研究を進めたり、異分野の研究に触れたり、将来の進路を考えるために現役の若手研究者と交流することは、きっとご自身の研究や活動に良い影響があると信じています。本会に興味をもっていただけた方は、本会ホームページ(図3; https://ornithologywakate.wixsite.com/home)から活動の詳細を確認いただき、ホームページの ”About Us” から ”入会・退会・MLについてはこちら” をクリックし、入会申し込みをお願いします。ぜひ一緒に、鳥類学を楽しみましょう!

図3_20230307_サイズ小.png

 

図3 若手の会ホームページのQRコード

 

この記事を共有する

translatEプロジェクトについて

海外での研究シリーズ、オーストラリアでの研究の様子を3回に分けて紹介していただいた天野達也さんの記事は、今回で最終回となります。天野さんは本記事でも触れられている研究内容で第18回学術振興会賞を授賞されています(授賞理由等詳細(PDF)クイーンズランド大学のニュース記事)。

英語での論文執筆や発表で苦労されている方は多いと思いますし(私も現在オーストラリアにいますが、英語がペラペラになれる気はしません・・・)、英語ができて当たり前だから・・・と諦めてしまった経験がある人はいないでしょうか。その「当たり前」にあえて疑問を投げかける天野さんの論文を読むと、苦労しているのは私だけじゃないんだ、という気づきと、特に最後の考察と結論の文章、英語ネイティブの人たちに訴えかける力強い言葉に、英語を母国語としない世界中の研究者が勇気を貰える気がしています。是非、リンク先の論文にも(英語ですが、DeepLGoogle翻訳など一昔前より飛躍的に向上している技術を活用しつつ)目を通してみてください。(広報委員 上沖)

連載の第一回ではオーストラリアへの異動の経緯を、第二回では私が感じたオーストラリアの研究・生活環境について書かせていただきました。

最終回となる今回は、私がオーストラリアに来てから立ち上げたtranslatEというプロジェクトについて紹介させていただこうと思います。

translatEプロジェクトでは、人によって母語が異なることによって生じるコミュニケーション上の障害、「言語の壁」に注目し、それが生物多様性の保全や、科学全体にどのような影響を及ぼすかを明らかにすること、またその問題を解消していくことを目的としています。詳しくはウェブサイトもご覧ください。

2008年に在外研究のために渡英して、当初は自分の言いたいことが全く英語で表現できなかった経験から、英語の壁の存在は個人的にずっと感じていました。ただし、その英語の壁が生物多様性保全や科学全体に及ぼす影響を意識するようになったのは、2011年頃にLiving Planet Index(LPI)に使われているデータの分布図を見たのがきっかけでした。アフリカのデータ分布が明らかにケニア、タンザニアなど一部の国に偏っていたのです。当時所属していた研究室の学生がこれらの国でのフィールドワークは英語が通じて便利と話していたこともあり、LPIのデータ分布と英語が公用語の国を見比べてみると驚くほど似通っていて、「英語が公用語の国のデータしか使われていない…?」と衝撃を受けました。

そこで生物多様性に関わる複数の国際的なデータベースを用いて、収蔵されているデータの分布と各国の英語話者数の割合を比較すると、やはりどのデータベースでも英語話者数の割合が高い国ほど収蔵されているデータ数も多いことが分かりました(Amano & Sutherland 2013)

Image3-1.jpg
オーストラリア生態学会・国際保全生物学会オセアニア支部合同年次大会での発表
コピーライトマーク Ecological Society of Australia

このパターンが生まれる原因は二つ考えられます。一つは、英語が公用語でない国の方が実際にデータが少ないこと、もう一つは、英語が公用語でない国のデータが国際的に利用されていないこと、です。もちろん実際には両方影響しているのでしょう。ただ日本の研究やデータがしばしば日本語でしか得られず、国際的には使われにくいことを知っていた私としては、後者が少なくとも日本には当てはまることを知っていました。問題はそれが他の国にも当てはまるかでした。

そこで英語以外の言語でそもそもどのくらいの科学的知見が出版されているのか調べてみることにしました。幸い、非常に多くの国籍の研究者と知り合える環境にいたため、ターゲットとした16言語のほとんどについて、知り合いの中から文献検索に協力してくれる人を見つけることができました。フランス語は協力者がすぐには見つからなかった言語の一つで、受け入れ研究者だったビルに頼んだところフランス生態学会の会長(!)を紹介され、「フランス語でconservationは何というのですか?」と聞いたところ、「ええと… conservation… だね。」と返信が返ってきたのは今となっては笑い話です。

その結果、生物多様性保全に関わる文献の約3分の1は英語以外の言語で発表されている可能性が明らかになり、2016年に論文として発表しました(Amano et al 2016)。メディアでの取り上げられ方や研究者コミュニティからの反応に見るこの論文への反響は予想以上に大きく、もっと掘り下げてみる価値のある課題だと感じました。

そこでその後すぐ2017年から、各言語の話者から正式な共同研究者を募って、特定の基準に当てはまる学術論文が各言語でどのくらい存在しているかを明らかにする研究を始めました。当時所属していたグループが主導していたConservation Evidenceプロジェクトで生物多様性保全の対策の効果を科学的に検証した論文を検索・収集していたので、同じプロトコルを用いて、検索を他の16言語に拡張することで、同様の論文が英語以外の言語でどのくらい得られるかを明らかにすることにしました。

さらに2018年には言語の障壁が生物多様性保全に及ぼす影響として、世界規模でのエビデンス集約への影響(英語以外の言語で得られるエビデンスが国際的には利用されない問題)、また各地でのエビデンス利用への影響(英語でしか得られないエビデンスが非英語圏では利用されない問題)、という二つの問題に注目した研究計画をまとめ、獲得したfellowshipで2019年からオーストラリアへ移り、本格的なプロジェクトとしてこれらの課題に取り組むようになりました。

Image3-2.jpg
クイーンズランド大学セントルシアキャンパス

Fellowshipを獲得したことで、これらの研究に集中して取り組むことができ、言語の障壁が生物多様性保全に及ぼす影響について様々な成果を発表することができました。2021年には50人以上の共同研究者との3年以上にわたる共同研究の成果として、英語による保全対策の効果に関するエビデンスが少ない地域や種において、特に英語以外の言語で得られるエビデンスが多いという成果を発表することができました(Amano et al 2021a)。これはすなわち、英語以外で発表されている科学的知見を国際的に有効活用することで、英語だけでは情報が得られない種や地域について保全上重要な情報が手に入るということを示しています。

Image3-3.JPG
クイーンズランド大学セントルシアキャンパス

またNegret et al (2022)では、鳥類の絶滅危惧種では分布域内で特に多くの言語が使われていること、Chowdhury et al (2022)では、生物多様性保全に関わる文献の発表が英語だけでなく他の多くの言語でも毎年増え続けていることを示しました。どちらの結果も、言語の障壁を克服することが保全において重要であることを示しています。これらを踏まえてAmano et al (2021b)では、科学における様々なタイプの言語の障壁を克服するための解決策を提案しました。また以下の研究はまだプレプリントの段階ですが、英語が公用語でない国における生物多様性に関する報告書で英語以外の言語の文献が重要な役割を果たしていることを示した研究(Amano et al 2022a)、また日本を含む世界8か国、908人の環境科学者を対象とした調査によって、英語を母語としない研究者が被る不利益を定量化した研究(Amano et al 2022b)も発表することができました。博士課程の学生やポスドクと行っている研究も複数進行中です。

これら一連のプロジェクトの始まりはほんのちょっとした思いつきだったのですが、その後継続して取り組むことで、言語の壁という切り口から、エビデンスに基づいた保全や意思決定、科学コミュニケーション、学術界における不平等という問題など、様々なトピックに取り組みを発展させてくることができました。結果論ではありますが、その過程では、英国でのポスドク時代にあった、突拍子もないアイディアを実行に移す時間的・金銭的・精神的余裕、またこの研究でフェローシップが獲得できたことが示しているように、型にはまらない研究でも評価される環境が、それぞれ重要な役割を果たしていたと思います。また自分が重要だと思ったことに継続して取り組み、科学コミュニティ内外で機を見てその重要性を主張し続けることも、Conservation Evidenceプロジェクトを始め、様々な研究者の取り組みから学び、実行していることです。

今後もさらにプロジェクトを発展させ、生物多様性保全のために世界中で得られたあらゆる科学的知見が、言語や社会経済的背景に関わらず誰にでも利用できるような仕組みを実現していくために、少しでも貢献していければと思っています。

Image3-4.jpg
Centre for Biodiversity and Conservation Scienceのオフィス

translatEプロジェクト、及びクイーンズランド大学における私の研究グループKaizen Conservation Groupでは、共同研究者やJSPS海外特別研究員、また博士課程の学生として一緒に研究してくれる方を常に受け付けています。私達のグループはCentre for Biodiversity and Conservation Scienceという生物多様性保全を目標とした国際的にも著名な研究センターに属しており、様々な専門を持つ多くの研究者と交流することができます。興味のある方は是非ご一報ください。

この記事を共有する

鳥の学校「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」に参加しました

中島京也(日本ワシタカ研究センター)

 日本鳥学会2022年度大会は新型コロナウイルス対策に配慮しながら3年ぶりの現地開催となり、13回目となるテーマ別講習会「鳥の学校」も「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」として実施されました。2014年に日本鳥学会大会と同時に開催された国際鳥類学会議ではRound Table DiscussionでDr. David BirdとDr. Juan José Negroから鳥類調査への無人航空機の利用例が紹介されましたが、その後国内でも高画質の映像が撮影できるマルチコプター型ドローンの普及が進み、鳥類の調査や研究に空撮画像やそれらの解析データが利用されるようになってきました。近年はドローンが小型化して携帯性が向上し、機体の価格も下がってきましたので、撮影用機材として利用される機会はさらに増えると思われます。このような状況の中で「鳥の学校」としてドローンに関する講座が企画され、酪農学園大学環境共生学類環境空間情報学研究室の小川健太先生から専門的な内容を学べる機会が得られたのは効果的だと感じました。

 講座ではドローンを飛行させる際の注意点や関連する法律などの基本的な事項から撮影した画像の処理方法などの具体的な事項まで紹介され、これからドローンを使用する事を検討している参加者にとっては大変参考になったと思います。また、大きさの異なる3種類のドローンの実機も用意され、参加者による屋外での操縦体験の他に事前に設定した範囲を自動で飛行するドローンが地上の画像を連続撮影する様子やその撮影画像をデータ解析に利用する過程も確認することができ、座学だけではない「鳥の学校」の特色が活かされていました。既にドローンを調査等で使用している経験者の方も参加者に含まれていたため、冬期にドローンを使用する際のバッテリー保温方法など製品のマニュアルには載っていない具体的な対策例が参加者側から紹介されたのも参考になったと思います。

 講座で使用する参考資料のご準備の他にドローンの実機展示と多数の参加者による操縦体験にもご対応いただいたので、機体の運搬や複数の予備バッテリーの準備など小川先生と環境空間情報学研究室の皆様には通常の講義よりもお手数をおかけしたと思います。そのご協力に対しまして改めて厚く御礼申し上げます。また、「鳥の学校」の開催にご尽力いただいた日本鳥学会企画委員会の森口紗千子様をはじめとした関係者の皆様、講座終了後に路線バスを利用して公開シンポジウム会場へ向うと開始時間に間に合わないのでご自身の車両に関係者を乗せて移動していただいた参加者の皆様にも感謝申し上げます。

この記事を共有する

鳥の学校第13回「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」体験記

中村晴歌(北海道大学)

 空撮や農薬散布、荷物運搬まで幅広い分野で活躍するドローンを、鳥類研究に応用するための入門講座となる「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」が、鳥学会2022年度の鳥の学校で開催されました。私自身は特にドローンを使った研究をしているわけではなく、ドローンの操縦体験に惹かれて参加を決めました。
 
 今回講座を担当してくださったのは、酪農学園大学農食環境学群環境共生類准教授の小川健太先生です。先生のご専門はリモートセンシングによる環境モニタリングで、北海道ドローン協会会長も務めておられます。

 講座は室内での講義パートと屋外での操縦体験パートがあり、午前中の方が天気が良いとのことでまずは操縦体験から始まりました。

ドローン操縦体験
 経験者と初心者に分かれ、東京農業大学網走キャンパスの広大な学生用駐車場で操縦体験を行いました。私はもちろん初心者チームに入り、PHANTOM RRO V2(図1)という白くて比較的小型の機体を数分間操縦させていただきました。短時間ではありましたが、参加者全員がドローン操縦を体験できました。

中村図2_PHANTOM4.JPG
図1 PHANTOM RRO V2 右が機体で左がコントローラー。コントローラーについた液晶でドローンが撮影している動画を確認できます。

操縦した率直な感想としましては、

・スティックの操作が複雑で慣れるまで時間がかかる
 私が操作したモードでは、右スティックで上昇・下降・横移動、左スティックで前進・後退・回転ができるのですが、これを正確に把握して操作するのは初心者だとかなり難しかったです(逆に、普段からシューティングゲームなどでゲーム機のコントローラーを握っているような人はかなり得意かもしれません)。

・奥行きの正確な感覚が必要
 地面に置かれた直径1mほどのシートから離発着をしたのですが、このシートの中に着陸させるのが難しかったです。左右のブレはそこまで出ないのですが、シートよりだいぶ手前や奥に着陸させてしまう方が私含め多い印象でした。

 経験者チームはINSPIRE2 X5S(図2)という黒くて大きな機体を使って駐車場側の畑の撮影を行っていました。途中カラスがそばを飛んだりしていましたが、目立ったモビング行動などは取らず。操縦体験前にはオオワシが2羽上空を飛ぶところを観察できるという嬉しいサプライズもありました。

中村図2_INSPIRE.jpg
図2 INSPIRE2 X5S 経験者チームが操縦体験をしていた機体。機体が大きい分、近づかれた時の威圧感や飛行中の音がPHANTOM4より大きいような気がしました。調査環境や対象種によって適した機体は違ってきそうですね。

ドローンについての講義
 午後からは北海道ドローン協会が作成したドローン教科書基礎編を用いた講義をしていただきました。操縦する際の天候や機体の管理方法から2021年航空法の改正、操縦に国家資格が必要になったことなどまで幅広く学ぶことができました。

 印象に残ったのは実際の研究への応用例です。以下興味深かった部分を簡単に紹介します。

・広大な面積をもつ湖沼などでの水鳥のモニタリング
水鳥のドローンへの反応は種によって、また水面か陸上かで反応性が異なり、例えば水面での垂直接近の下限高度はカモ類>ハクチョウ>マガンの順で大きく、単純に鳥の大きさで決まるわけではない。
(詳しくは2019年に公益財団法人宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団より発行されたドローンを活用したガンカモ類調査ガイドラインhttp://izunuma.org/pdf/drone_gideline.pdfを参照)

・鳥の捕獲に使用できるかもしれない
 実際にドローンに捕虫網を取り付けて昆虫を捕獲して調査研究を行った例がある(Madden et al. 2022)。飛行能力が高い種では難しそうですが、地上性で長距離を飛べないような種では可能だったりするのでしょうか。

・送電線鉄塔の鳥の巣モニタリング
 ディープラーニングを用いて自動的に鳥の巣を発見できる(Dong et al. 2022)。送電線鉄塔だけでなく、人が直接アクセスしづらいような場所で繫殖する種のモニタリングがドローンによってどんどん可能になっていくのでしょう。すごく楽しみです。

全体を通しての感想
 今回の鳥の学校でドローンについて事前に学習したおかげで、鳥学会を聴講する際ドローンを用いた多くの研究発表をより深く理解することができました。そしてとても便利なように思えるドローンですが、実際はバッテリーの持続時間や天候の問題、高度な操作技術の必要性など鳥の研究に応用する上でまだまだ難しい点がたくさんあることを初めて知りました。発想次第ではまだまだ新しい応用方法がこれからいくらでも出てきそうなので、今回のようなそれまでドローンに触れたことのない人でも気楽に操縦体験ができる機会が今後もっと増えていくことを願います。

この記事を共有する

鳥の学校(第13回テーマ別講習会)「鳥類研究のための空飛ぶドローン講座」報告

企画委員会 森口紗千子

 
 鳥の学校-テーマ別講習会-では,専門家を講師として迎え,会員のレベルアップに役立つ講演や実習を行っている.第13回は,2年ぶりに対面で開催された2022年度大会と連結して,大会初日の11月3日に大会会場である東京農業大学網走オホーツクキャンパスで行われた.近年,鳥類の野外調査でも使用され始めたドローンを使う上で,ドローンを鳥類調査に用いるために必要な知識と技術を養ってもらうため,機種,法令,安全管理,データ解析,鳥類への影響等に関する座学と,操縦実習まで,小川健太氏(酪農学園大学)を講師にお迎えし,26名の会員が参加した.

 天候が午後から悪化する予報であったため,講師の紹介と簡単な説明の後,さっそくドローンの野外実習を大会会場の駐車場で行った.講師らによる2種類のドローンの操縦や撮影の実演に加え,経験者と初心者にグループ分けされた参加者も操縦を体験した.

森口図1_座学風景.JPG
図1_座学風景

 後半は座学で,ドローンの一般的な知識や使用方法,国家資格化の動向などの最新情報に加え,鳥類の調査研究のための水鳥類の自動カウントなどの実践的な手法を学んだ.さらに,野外実習で撮影した画像データを用いた解析のデモンストレーションへと続いた.座学では,ドローンの使用経験のある参加者と講師の間をはじめ,活発な情報交換が行われ,低温下でのバッテリーの保管方法など,使用時のポイントが議論された.

森口図2_参加者のドローン操縦体験.jpg
図2_参加者のドローン操縦体験

 事後アンケートによると,参加者のうちドローン経験者からは,悩みの共有や新しい知見の情報交換ができた,ドローン初心者からは,操縦体験だけでなく新しい技術にも触れられた,ドローンを用いた研究発表への理解が深まったなどの感想が寄せられ,質問できる機会が多くてよかったなど,参加者の満足度も高かった.ドローンの準備から始まり,幅広い内容にわたる座学と,参加者との相互のやり取りを重視して講義を進めてくださった講師,野外実習を補助していただいた助手の方々,コロナ禍の大会開催という困難の中,会場準備にご尽力いただいた大会実行委員会の方々,そして円滑な進行にご協力いただいた参加者の方々に,深くお礼申し上げる.

森口図3_ドローンからの撮影.JPG
図3_ドローンからの撮影

 鳥の学校-テーマ別講習会-は,今後も大会に接続した日程で,さまざまなテーマで開催する予定である.鳥の学校の案内は,大会ホームページや学会誌に掲載する.

この記事を共有する

第6回日本鳥学会ポスター賞「生態系管理・評価・保全・その他」部門を受賞して

徳長ゆり香 (日本獣医生命科学大学)

 この度は、日本鳥学会2022年度大会において、「生態系管理・評価・保全・その他」部門のポスター賞に選んでいただき、誠にありがとうございます。研究の指導をして下さった先生方や共著者の皆様に良い報告ができたことを嬉しく思います。

 初めて発表者として参加した鳥学会でしたが、沢山の参加者の皆様から様々な意見をいただいたりディスカッションをしたりすることができたため、自身の研究を多角的な視点で捉え直すきっかけとなりました。コロナ禍が続く中、対面開催の準備・運営をしてくださった大会関係者の皆様に、心より御礼申し上げます。貴重な機会をいただきありがとうございました。今後も良い研究成果が得られるよう、研究に邁進してまいります。

ポスター発表の概要
 マイクロプラスチック(MPs)による汚染問題は地球規模に広がっています。大気中マイクロプラスチック(AMPs)は、MPsの中でも小さく、都市部だけでなく自由対流圏、さらに、ヒトの肺からも検出されており、MPsを吸入することによる健康被害が懸念されています。鳥類は哺乳類よりも呼吸効率が良いため大気汚染の影響を受けやすいことで知られていますが、これまで鳥類がMPsを吸入し、それが肺に到達・蓄積するかどうかは解明されていませんでした。
本研究では、野生鳥類の肺における MPs の存在を明らかにするため、日本国内で有害鳥獣として捕獲され安楽死させられたカワラバト、ツバメ、トビの肺サンプルを、顕微フーリエ変換赤外分光光度計のATRイメージング法で分析しました。

画像6.jpg
感染症対策を講じて検体を解剖し肺を採材する

 その結果、3種22羽のうち、2羽のカワラバトと1羽のツバメから計6個の破片状MPsが検出されました。MPsのポリマー材質はレジ袋、ラップ、バケツなどの原料であるポリエチレン(PE)、ストロー、医療器具、自動車部品などの原料であるポリプロピレン(PP)、スニーカーやランニングシューズのソール、クロッグサンダル、建築資材にも使われるエチレン酢酸ビニル(EVA)の3種類であり、いずれも日本の大気から検出事例のあるポリマーでした。日本においてカワラバトは留鳥であり、ツバメは夏鳥ですがMPsが検出された個体は幼鳥であったことから、いずれのMPsも日本で吸入されたものであることが判明しました。

 本研究は、一部の野生鳥類が摂食だけでなく吸入によってもMPsに汚染されていること、吸入したMPsが肺に到達することを初めて証明しました。MPsは有害な化学物質を含んでいたり吸着したりしている場合があるだけでなく、小さなMPsは肺から血流に入り全身臓器に到達する可能性があるため、摂取量が少なくても重大な健康影響を及ぼす恐れがあります。今後は、気嚢を含む呼吸器系や循環系におけるMPs の汚染実態と健康影響を解明するために研究を続けていきたいと考えています。

この記事を共有する