日本鳥学会誌73巻2号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

日本鳥学会誌73巻2号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。73巻2号の注目論文をお知らせします。

著者: 北川達朗・綿貫豊
タイトル: オオセグロカモメによるカモメ属雛捕食の個体差とその影響
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.73.207

北海道の天売島では、集団営巣する海鳥の利点を活かして、生態や生理的特徴の個体差と、環境変動、生活史戦略、種間関係などとの関わりについて、長年研究が進められています。
本論文の著者の北川さん達は、オオセグロカモメの食性の個体差と営巣位置に着目して研究した結果、本種には海鳥を専門的に捕食する個体が存在し、本種の近くで営巣したり、繁殖開始が遅れたウミネコは、本種の捕食に遭いやすいことを明らかにしました。
集団営巣性(coloniality)の適応進化は、海鳥を材料に数多く取り組まれてきた興味深いテーマであり、北川さん達が地道に調べられた成果は、この現象の理解をより深めてくれるに違いありません!また、私も、天売島のウトウの個体差を学生時代の研究テーマとしていたため、これまでのお家芸?が後輩たちに引き継がれていることを、とても嬉しく感じた次第です。
以下、北川さんからいただいた解説文です。

注目論文に選んでいただきありがとうございます。オオセグロカモメの食性に関する研究は、共著者である綿貫豊先生が学生の頃に取り組まれていた研究テーマの一つで、これまでにいくつもの関連論文が発表されています。この研究では、先行研究で明らかとなっているオオセグロカモメの食性の個体変異に加え、これまであまり注目されてこなかった営巣位置に着目しました。そして、海鳥を専門的に捕食するオオセグロカモメの営巣位置が、ウミネコの捕食リスクに異質性をもたらす場合があることを、食性・繁殖調査と捕食行動の直接観察から示しました。
調査地である北海道天売島では、毎年多くの研究者と学生が海鳥の調査研究をおこなっています。天売島の海鳥を対象とした研究成果は、国内外の学術誌に多数発表されており、今回、自身の研究成果を新たに加えることができたことを大変嬉しく思います。本論文が海鳥研究の発展に寄与する一助となれば幸いです。今後も引き続き、地道に研究活動を続けていきたいと思います。

(北川達朗)

写真1.ウミネコの巣内雛を丸呑みにしたオオセグロカモメ

 

写真2.ウミネコの巣立ち雛を捕食するオオセグロカモメ

 

写真3.巣立ち成功したウミネコの親子
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日本鳥学会誌73巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

日本鳥学会誌73巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。73巻1号の注目論文をお知らせします。

著者: 高橋佑亮・東淳樹
タイトル: 農耕地帯で繁殖するチュウヒの狩り場環境選択
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.73.23

湿地性猛禽類のチュウヒは、世界的に見た場合、個体数が安定傾向とみなされていますが、国内の繁殖個体群はわずか100番い程度の状況で、環境省のレッドリストランクでは、絶滅危惧IB類に指定されています。

本種の保全を進めるにあたっては、とりわけ生息地管理が重要となり、そのためには、生息環境選択の詳細な情報が求められます。本論文の著者の高橋さん達は、このような背景に基づいて、秋田県の八郎潟で繁殖するチュウヒの狩り場選択と、狩り場環境の指標となる餌動物密度と植生高を明らかにされました。

鳥屋さんはどうしても、心の大半が鳥に奪われがちで、彼らが暮らす環境の定量的な記録をついつい忘れてしまい、最後の考察に困るケースがよく見られます。高橋さん達の論文では、このような状況に陥ることなく、きちんとデータを集められており、これから投稿を目指す方にとって、間違いなくお手本となる1本と言えますね!

以下は高橋さんからいただいた解説文です.地道な努力が実を結んだ結果は励みになりますね!

 

日本のチュウヒの繁殖地における採食環境については、狩りが見られた環境タイプの列記といった報告はあったものの、個々の環境タイプが狩り場としてどの程度重要なのか評価した例はありませんでした。この点を研究した成果が今回の論文です。また、単に狩り場として選択される環境タイプを示しただけでなく、それらの環境タイプがなぜチュウヒに選択されるのか、すなわち選択要因についても検討し、獲物となる動物の密度や植生構造と対応付けられたことが、本研究のもう一つの意義だと思っています。
思えば、これら獲物となる動物(ネズミ、カエル、鳥類)の調査や植生調査は、主題であるチュウヒの観察調査よりもむしろ大変でした。とくに、9種類の環境タイプにそれぞれ10個の罠を設置し、計90個の罠を毎朝、毎夕に一人で見回るネズミの捕獲は大変でした。このようにして収集した獲物や植生のデータと、チュウヒの狩り場環境選択の傾向を突き合わせてみると・・・。おや期待通り対応しているではありませんか。苦労が報われたのでした。
今後、鳥類の採食環境に関する研究において、この論文が少しでも参考になれば幸いです。また、草地の創出といったチュウヒの生息地保全の取り組みに際し、この論文が一助となれば幸いです。

(高橋佑亮)

写真1 採草地はチュウヒの狩り場として強度に選択されていた。

 

写真2 用排水路沿いの草地も度々狩りが見られた。

 

写真3 大量のシャーマントラップ。チュウヒの主要な獲物であるハタネズミを調査。

 

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日本鳥学会誌72巻2号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。

72巻2号の注目論文をお知らせします。

 著者: 川路則友・上沖正欣・川路仁子
 タイトル: センダイムシクイの繁殖生態とツツドリによる托卵
 DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.72.181

 この論文は、なんと17年にわたるセンダイムシクイの繁殖生態に関する詳細な研究の報告です。札幌市にある森林総合研究所北海道支所の実験林で4月から5月にかけほぼ毎朝、日の出前から行なった調査の成果です。たくさんの個体を個体識別していますし、巣のビデオ撮影も行なっています。これをよんだだけで、ぼくはちょっとドキドキします。センダイムシクイと本種へのツツドリの托卵のきめ細かなデータが蓄積されていく様子が浮んできます。同じフィールドで17年という年月通いつづけ明らかにした成果を粛々と報告されている著者をうらやましく思います。電子付録の貴重な動画もぜひご覧ください。

 私事ですが、この12月で日本鳥学会誌和文誌の編集委員長の任期4年を終えます。その最後にこの論文を注目論文として紹介できることを誇りに感じています。鳥学に興味をもちはじめたばかりの皆さん、忙しい盛りの中堅の皆さん、そしてベテランの皆さん、それぞれの方々によんでいただきたい論文と思っています。

 以下は、著者である川路さんの言葉です。元気目盛りが上がります。

 注目論文に選んでいただきありがとうございます。身近な鳥であるはずのセンダイムシクイの繁殖生態を詳細に調べた論文は意外にもこれまで皆無と言ってよく、ましてやツツドリによる托卵率や繁殖成功率などに至ってはまったく手つかずの状態です。そこで始めた研究ですが、まずは目標を最低100個以上の活動巣発見に定めたものの、敵も然る者、なかなか一筋縄ではいきません。おまけに私自身がかつてヤブサメを追った若い頃と異なり、密生したチシマザサに分け入ることを躊躇する年齢になってしまっていたことも想定外でした。幸い、第三著者が巣探しのスキルを徐々に向上させてくれたおかげもあり、時間はかかりましたが、何とか目標を達成でき、形にすることができました。なお、研究の過程で得られた興味深いビデオ映像の一部を、電子付録として動物行動映像DBのURLで示しました。読むだけでなく、クリックして見ても楽しめる論文になったのではないか、と自負しています。元職場の実験林という恵まれた調査地環境を与えられたことに感謝するとともに、次はどの種に迫ろうかと、年甲斐もなく考えてしまいます。(川路則友)

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ツツドリヒナにより巣の外へ押し出されたセンダイムシクイの卵4個。メス親は知らん顔でツツドリヒナを抱いている。こののち何日も放置される白い卵は、いかにも捕食者に巣の存在までも教えていそうだが、不思議とやられない。
(川路則友撮影)
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宿主の巣からはみ出しそうなツツドリヒナ。翌日、無事巣立ちした。
(川路則友撮影)
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巣立ち直前のセンダイムシクイヒナたち。
(ビデオ映像より)(川路則友録画)
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日本鳥学会誌72巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。

さて、72巻1号は「ペンギン特集」。そして、注目論文も特集論文のひとつが選ばれました。

著者: 高橋晃周
タイトル: 気候変動がペンギンに与える影響
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.72.3

ペンギンなど極地方にくらす生きものたちは、「地球温暖化」とよばれる気候変動の影響を受ける生物の中でもとくに象徴的な存在ですよね。この総説は、そのペンギンたちが体験している気候変動の影響を、著者高橋さんならではの視点で、複雑な研究成果が分かりやすい形に按配された力作レビューです。ペンギンファンでないあなたにも、ご一読をオススメします。

以下は、著者である高橋さんの言葉です。心洗われるようなすばらしい写真と一緒にお楽しみください。

エディターズ・チョイス論文に選んでいただきありがとうございます。私は南極昭和基地近くで繁殖するアデリーペンギンを対象として、気候変動がペンギンに与える影響を研究しています。自分自身が関わる一つの調査地の結果だけで、気候変動の影響の全体像を捉えるのは難しいことを常々感じており、2019年の鳥学会大会シンポジウムで気候変動とペンギンについて講演させていただいたことをきっかけに、今回の総説論文に取り組みました。もっとも苦労した点は、「気候変動がペンギンに与える影響は、時と場合によって正でも、負でも、非線形でもある」というわかりにくい内容を、いかにわかりやすく整理して伝えるか、という点です。最初の投稿から改訂稿の受理まで1年以上もかかってしまいましたが、もしなんとかうまく整理できていたとしたら、厳しくも的確な査読者や編集委員の方々のコメントのおかげです。和文誌に総説論文を書かせていただいたのは今回で3回目となりますが、毎回執筆を通じて私自身が一番勉強になったと感じています。他の研究者の論文を読むのは大分「お腹いっぱい」になりましたので、また気持ちを新たにアデリーペンギンのデータ解析に取り組んでいます。

(高橋晃周)
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写真1.南極昭和基地近くのアデリーペンギンの繁殖地

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写真2.アデリーペンギンの親子

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写真3.氷の浮かぶ海へエサ取りに出発

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日本鳥学会誌71巻2号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では、号ごとに編集委員の投票によって注目論文を決め、その発行直後からオープンアクセスにしています。

今号は、以下の論文が選ばれました。

 著者: 藤巻 裕蔵
 タイトル: 北海道における鳥類の繁殖期の分布
 DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.71.121

多くの研究者がもつ夢のひとつは、自分の人生をとおして取り組みつづけられる研究テーマをもつことではないでしょうか。そして、日本で生まれ育った多くのフィールドワーカーのあこがれのひとつは、広大な北海道の自然を自分のフィールドとすることではないでしょうか。

このモノグラフは、私たちの研究者としての夢が単なる夢ではなく現実のものにできること、それが多くの研究や保全活動に貢献するすばらしいランドマークとして具体的な形にできることを示してくださった論文だと、私は思っています。この論文をよんで元気づけられる読者は、私だけではないと思います。

藤巻先生からも、熱いメッセージが届いています。先生の研究者としての半生が濃縮された400字です。

 北海道の鳥が見たくて1957年に北海道の住人となったのだが,大学では「鳥では飯は食えないぞ」という教授の一言で.卒論から博士論文まではノネズミの生態をテーマとすることになった.
 
 就職した北海道立林業試験場ではノネズミの研究の傍ら細々と鳥の調査もしていたが,1975年帯広畜産大学に異動したのを機会に,おもな研究対象を鳥にすることにした.翌1976年から何処で,どのような環境で,どのような鳥が見られるかを調べ始めた.調査地は低地の住宅地,農耕地,湖沼周辺の草原から山地の森林,高山に及んだ(写真参照).登山道の少ない日高山脈の調査では川の渡渉や沢登りも経験した.
 
 これまでに自分で調査できたのは北海道の約3分の1であるが,未調査の地域については,論文・報告書,探鳥会記録,個人の未発表記録で補い,約50種の分布について発表した.これらの成果のまとめが今回の分布に関する総説である.今後も体力の続く限り調査を続けるつもりである.

藤巻裕蔵
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1. 十勝地方の農耕地,防風林が特徴的(撮影:藤巻裕蔵).
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2. 湧洞沼とその周辺の草原(撮影:藤巻裕蔵).
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3. 北海道中央部の針広混交の天然林(撮影:藤巻裕蔵).
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4. 日高山脈北戸蔦別岳(撮影:藤巻裕蔵).
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鳥学会誌の新しい投稿・査読システムのおしらせ

藤田 剛
日本鳥学会誌編集委員長

日本鳥学会誌の投稿や査読、編集のためのシステムが変わりました。

以下のページが、投稿をしていただく著者の皆さん、そして査読にご協力いただいている査読者の方々の入り口のページになります。

日本鳥学会誌ログインページ
https://mc.manuscriptcentral.com/jjo

初めてこのページからログインされる時 (できたばかりですから、多くの方が初めてですね) は、左上のログイン枠の上にあるユーザーID窓の右上にある「アカウントを作成」をクリックしてください (図1)。

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図1.鳥学会誌の新しい投稿・査読システムのログイン画面

アカウント作成に必要な情報は、以下になります。姓名と所属機関 (ご住所) は、日本の文字とアルファベット、どちらでも大丈夫です。

1. 名、姓
2. メールアドレス
3. 所属機関 (住所でもOK)
4. パスワード (アルファベットと数字2文字以上)

アカウント作成後、そのままログインされます。ログインされなかった場合は、メールアドレスとパスワードを入力して、ログインしてください。

ログインしたら上のバーにある「著者」の文字をクリックし、現われた画面右にある「投稿の開始」をクリックすると、具体的な投稿作業がはじまります (図2)。

gofujita_fig2b.jpg

図2.ログイン後に「著者」ボタンをクリックしてあらわれる画面

ログインできない、ログイン後の作業がうまくできない場合、あるいはシステムの不具合になどお気づきの点がありましたら、お気軽に私まで (go[at]es.a.u-tokyo.ac.jp) メールでご連絡ください。

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日本鳥学会誌71巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

今号の注目論文が決まりました。

著者: 濱尾 章二, 那須 義次
タイトル: 鳥の巣と昆虫の関係:鳥の繁殖活動が昆虫の生息場所を作り出す
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.71.13

鳥が新しい生息地をつくりだしたり、つくり変えたりする生態系エンジニアの役割を担っている可能性がある、というアイディアは比較的古くからありました。たとえば、この論文でも引用されている Sekercioglu (2006) もそのひとつと理解しています。しかし、その実証、とくに鳥の巣がもつ生態学的機能に注目した実証研究は遅れています。

今回、注目論文に選ばれた濱尾さんと那須さんの論文は、その実証に挑戦した興味深い論文です。ぜひ、ご一読を。

以下は、著者のひとり、濱尾さんのことばです。

 私たちの論文を注目論文に選んで下さり、ありがとうございます。鳥の巣からいろいろな昆虫が見つかることについては多くの報文が出ていますが、鳥と昆虫それぞれの利益や生態系エンジニアとしての鳥の役割についてはまだほとんど調べられていません。この研究ではタイトルのテーマに迫ろうと、できるだけ明確な疑問を立て、計画的にデータを集めるよう努めました。共著者の那須さんの対応が素晴らしく早くて的確なので、解析、原稿執筆を含め、力を尽くすことができたと思っています。

 注目論文に選ばれ、オープンアクセスで多くの人に見てもらえるということは嬉しいとともに、やはりいい仕事をしなくてはいけないなと思わされます。励みにもなり感謝しています。

(濱尾章二)
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巣の中で抱卵、育雛が進むうちに昆虫の生息環境が作り出される (撮影: 濱尾氏)
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巣立った後の巣材。白く蓄積しているのは羽鞘屑 (撮影: 濱尾氏)

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ケラチン食の昆虫、マエモンクロヒロズコガ (撮影: 濱尾氏)

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日本鳥学会誌70巻2号 注目論文のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

今号の注目論文が決まりました。

著者:山路公紀・宝田延彦・石井華香
タイトル:八ケ岳周辺と高山市におけるジョウビタキの繁殖環境の選好性

DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.70.139

国内で冬鳥とされていたジョウビタキが、国内で繁殖しはじめたことをご存知の方も多いと思います。そのジョウビタキの国内での繁殖場所選択の研究です。ぜひご一読を。

この論文の謝辞を見ていただければ分るように、ほんとうにたくさんの方たちの協力によって、実現した研究です。

以下は、鳥学会編集委員のひとりとして、うれしくなるような著者のお一人からのメッセージ

この論文の掲載は、日本鳥学会に、アマチュアがプロの丁寧な指導を受けながら原著論文を発表できる場があることを証明してくれました。掲載に加えて、エディターズチョイスに選定されたことは光栄であり、感謝しております。ジョウビタキは人の生活に近い場所で繁殖します。地域の人々の生活の場から寄せられた一つ一つの情報とコミュニケーションを大切にすることで、広い調査地に感動の輪を広げることができました。この鳥は、環境順応性が高いこともあり、今後、林縁に近い住宅地や緑被の多い都市部への繁殖拡大が予想されます。しかし、まだ分かっていないことが多いです。解決のために、より多くの方々が研究されることを希望します。(山路公紀)

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市街地の住宅のベランダで営巣 2020年5月8日 長野県諏訪市(巣立ち後撮影)撮影: 山路公紀

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店舗前の郵便受けで営巣 2020年4月27日 山梨県北杜市 撮影: 山路公紀

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換羽が始まった雄が巣に餌を運ぶ 2017年8月20日 長野県茅野市(標高1,760m)撮影: 山路公紀

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巣立ち雛への給餌 2015年7月13日 長野県霧ヶ峰高原 撮影: 野中 治

(* 日本鳥学会誌では、毎号の掲載論文から編集委員全員の投票で注目論文を毎号選んでいます。選ばれた論文は、掲載直後から J-stage でダウンロード可能になります)

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日本鳥学会誌70巻1号 注目論文のお知らせ

藤田 剛 (日本鳥学会誌編集委員長)

日本鳥学会誌では、毎号の掲載論文から編集委員全員の投票で注目論文を毎号選んでいます。選ばれた論文は、掲載直後から J-stage でダウンロード可能になります。

で、今回は70巻1号の注目論文の紹介。

著者:藤井忠志さん
タイトル:クマゲラの生態と本州における研究小史
https://doi.org/10.3838/jjo.70.1

白神山地のニュースなどから、クマゲラが本州の森にもくらしているのをご存知の方も多いと思います。この論文は、本州に生息するクマゲラの研究の歴史をふり返りつつ、これまでの研究によって、本州に生息するクマゲラの生態と現状、保全上の課題などをまとめた力作です。

以下は、著者藤井さんからの熱いメッセージ。

本州では幻のキツツキ・クマゲラと関って40年が経過しようとしている。その間、小笠原暠先生からご教示を得て、先輩の(故)泉祐一氏からは生態や調査法の手ほどきを受け、白神山地を中心とする北東北のブナ林を駆け回った。白神山地が世界自然遺産指定になる前の調査では、私はじめ調査仲間が危うく命を失いかけたこともあった。そんな命がけの調査のデータや想いを70巻第1号に掲載できたことは大変うれしく、光栄に思う。

クマゲラの減少も去ることながら、クマゲラ研究の後継者がほとんどいないことに危惧する昨今である。

NPO法人本州産クマゲラ研究会 理事長 藤井忠志
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クマゲラがすむブナ林 2015年5月9日 (撮影: 藤井忠志. 青森県鯵ヶ沢)

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巣口の雄 2010年6月12日(撮影: 藤井忠志. 秋田県森吉山))

ぜひ、ご一読を。

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68巻2号の注目論文は江田さんの「考古鳥類学」の総説に

和文誌編集委員長 植田睦之

2019年10月発行の日本鳥学会誌68巻2号の注目論文は江田さんの「考古鳥類学」の総説になりました。

江田真毅 (2019) 遺跡から出土する鳥骨の生物学,「考古鳥類学」の現状と展望. 日本鳥学会誌 68: 289-306.

黒田賞受賞の総説であるこの論文は,遺跡から出土する骨により,人がどんな鳥を利用していたかということだけでなく,過去からの鳥の分布,形態,集団構造や遺伝的多様性などがわかること,そして今後の研究の展望についてまとめたものです。鳥学の新しい分野を開き,発展を促す論文と考え,注目論文とし選定しました。

論文は以下のURLより,どなたでも読むことができます。
http://doi.org/10.3838/jjo.68.289

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