日本鳥学会2016年度大会自由集会報告:チュウヒ研究の〝今〟

2016年10月11日

企画者:多田英行(日本野鳥の会・岡山)、先崎理之(北大院・農)、高橋佑亮(伊豆沼・内沼環境保全財団)

(文責:多田英行)

チュウヒはヨシ原を代表するタカの仲間で、生態系の豊かさを象徴する生き物です。しかし、繁殖地が限定的であることなどから、これまであまり生態研究が行われてきませんでした。一方で、近年はメガソーラー開発などの新たな課題が発生しており、チュウヒの保全のためにも生態の解明が急がれています。
今大会は国内最大級のチュウヒの繁殖地である北海道での開催ということで、チュウヒの自由集会を開催するには最適な機会となりました。当日は60名を超える参加者に訪れていただき、みなさんのチュウヒへの関心の高さを感じることができました。

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【各講演の概要】
1.日本のチュウヒの生態~地域や季節による多様性~(多田英行)
 これまでに報告されている文献を基に、チュウヒの採餌環境や餌動物などが季節によって異なることや、行動圏の広さや営巣環境などが生息地によって異なることなどが紹介されました。

2.勇払原野のチュウヒ(先崎理之・河村和洋)
北海道勇払原野での営巣環境や繁殖成功率について発表されました。営巣地周辺の採食地や人工構造物の多さが、チュウヒのペア数や巣立ち雛数に影響するとの研究内容も紹介されました。

3.北海道のチュウヒの営巣環境について(一北民郎)
北海道で見られる営巣環境について、ササ環境の事例も含め、営巣地の植生や水深などのデータが発表されました。また、これまでの観察経験からチュウヒの営巣環境の選択に関する考察も紹介されました。

4.秋田県八郎潟干拓地のチュウヒ(高橋佑亮)
本州以南最大の繁殖地である八郎潟干拓地での繁殖状況や営巣環境、採食生態などが発表されました。また、遷移の進行によるヨシ原の衰退がチュウヒの繁殖を脅かしていることが紹介されました。

【まとめ】
 本集会では主に繁殖期のチュウヒについて最新の知見が報告され、チュウヒの生態を参加者と共有することができました。一方で、チュウヒの生息個体数や繁殖成功率などの基礎的な情報が未だに把握されていないことを再認識しました。チュウヒの生息地の減少要因として自然開発以外にも遷移の進行が課題であることが指摘され、チュウヒの保全のためには生息に適した代替環境を創出していく必要も議論されました。
各地のチュウヒについてまとまった形で情報交換がされる機会はまだまだ少ないので、本集会が今後のチュウヒの研究と保全に繋がる一助になれば幸いです。

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写真好きの研究者に朗報  自分の論文の掲載された学会誌の表紙を自分の写真で飾りませんか?

2016年10月11日
日本鳥学会誌編集委員会 植田睦之

デジカメで手軽に写真が撮れるようになり,研究の合間に鳥の撮影を楽しんでいる方も多いのではないのでしょうか? そんな写真で学会誌の表紙を飾りませんか?

最近の和文誌は,表紙写真を掲載論文に関係するものにしよう,と,編集サイドで表紙写真を探して掲載することが多くなっています。でも,自分の論文が掲載された学会誌の表紙写真も自分の写真だったら,ちょっとうれしいですよね。
そこで,論文の投稿時に表紙写真もあわせて投稿できるようにしました。

いい写真をお持ちで,論文をどこに投稿しようか迷っている方,ぜひ表紙写真とともに日本鳥学会誌へ投稿ください。投稿お待ちしています。
 
ただ,1つの号にはたくさんの論文が掲載されますが,表紙は1つ。複数の表紙写真希望者がいた場合は,希望されても表紙写真として掲載できない可能性があります。表紙掲載の可否については,入稿時に印刷幹事から連絡させていただきますので,その点はご了承ください。

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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「鳥の巣昆虫:10年の総括と今後の展望」

2016年10月6日
世話人:上田恵介・那須義次

鳥学会の自由集会で今まで我々が取り組んできた、鳥の巣と昆虫との研究について、何がどこまでわかったのか、何がわかっていないのか、今後の課題等について紹介しました。当日は午後6時30分の開始にも関わらず、28名もの方に参加いただきました。感謝申し上げます。以下に発表内容等について簡単に紹介します。

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1.鳥の巣と昆虫:これまでのまとめ 

那須義次・村濱史郎・松室裕之・上田恵介

この10年、我々が取り組んできた鳥の巣と昆虫について、昆虫は鳥の巣を繁殖、越冬および蛹化の場に利用していることを、フクロウ類、カラ類、カワウ、ブッポウソウ、コウノトリなどの巣の事例を紹介した。鳥と昆虫との関係では、昆虫は巣内の糞やペリット、食べ残し、巣材を摂食しており、巣内清掃に一定の役割を果たしていると考えられること、鱗翅類では非常に珍しい幼虫産出性(卵胎生)が見られ、その進化と鳥の巣に生息することとの関係が示唆されること、巣内温度は抱卵・育雛中に外気温よりも高く、このことが巣内共生者に有利に働いていることなどを紹介した。今後は鳥と巣、巣内共生者との相互関係の詳しい解明、幼虫産出性の進化、巣内共生者の適応行動の解明等および共同研究を進める必要性について述べた。

2.先島諸島の巣内昆虫 

村濱史郎・那須義次・上田恵介・松室裕之

石垣島・西表島など八重山諸島には樹上に球型や紡錘型のコロニーを形成するタカサゴシロアリが生息している。コロニーには長径で1メートルを超えるような巨大なものもある。同諸島に分布する亜種リュウキュウアカショウビンiはこのシロアリの巣に穴を穿って営巣する習性がある。一方、珊瑚隆起礁である宮古島にはタカサゴシロアリは生息せず、同島に分布しているリュウキュウアカショウビンは枯木に穴を穿って営巣している。

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筆者らは西表島および石垣島のタカサゴシロアリ巣に営巣するリュウキュウアカショウビンと宮古島の枯木に営巣するリュウキュウアカショウビンの繁殖済の巣の、巣内に生息する昆虫相に違いが見られるか調査を実施した。また宮古島では同じく枯木に営巣するリュウキュウコノハズクと樹上に開放巣をつくり営巣する亜種リュウキュウハシブトガラスの繁殖済巣の調査も実施した。さらに西表島と宮古島の林内に羽毛トラップとウールトラップを設置し両島および鳥類の巣、内外に生息するガ類の分布の違いについても調査を行った。

調査の結果、西表島でタカサゴシロアリの巣43巣を発見しそのうち16箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認した。石垣島では17のタカサゴシロアリの巣から2箇所でリュウキュウアカショウビンの利用痕跡を確認できた。宮古島では枯木に穴を穿ってつくられたリュウキュウアカショウビン巣9巣、リュウキュウコノハズク巣5巣、リュウキュウマツに架巣されたリュウキュウハシブトガラス巣、1巣の調査を実施している。

これらの巣およびトラップからはガ類に限定して言えば、本州でも広く確認されている、フタモンヒロズコガ、マエモンクロヒロズコガなどのほか、Tinea subalbidella 、Ceratophaga sp.、Erechthias sp.など10種の蛾を確認し、そのうち6種は日本未記録種または新種と考えられるものであった。
今後継続して調査を進めサンプル数を増やし、宮古、八重山両諸島間、そして鳥類の巣の内外の昆虫相の相違を明らかにして行きたい。

3.ルリカケスとオオトラツグミの巣にすむ昆虫

上田恵介・石田健・水田拓

奄美大島には固有種のルリカケスと、固有亜種のオオトラツグミが生息しているが、これらの鳥の巣の昆虫相を調査した。

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オオトラツグミの自然巣は、コケ、土を主体にした清潔な巣で、ミミズ(餌のミミズの生き残り?)が生息していたものの、昆虫は少なかった。また鱗翅類幼虫はいたが、羽化しなかったので、同定できなかった。

ルリカケスの巣箱は,石田が系統的に調査をしている巣箱を調べた。ルリカケスが使用した巣箱の中には大量の枯れ枝が持ち込まれていて、比較的、乾燥した印象であった。出て来た昆虫は鱗翅目では、枯葉食・腐植食のヒロズコガ類、シマメイガ類、シマチビツマオレガ、キチン食もおこなうマダラマルハヒロズコガとキチン食性が考えられるアトボシメンコガなどであった。

鞘翅目昆虫ではリュウキュウオオハナムグリが特筆できる。この種は2005年にルリカケスの巣箱から採集され、本種と確認されたのが最初である。2014年9月の調査では3つの巣箱で50匹もの幼虫が採集され,本種がルリカケスの人工巣箱巣をよく利用していることがわかった。巣箱によって幼虫の大きさが異なり,同じ巣箱では大きさはそろっていたことから、同時期に産卵されたものと考えられた。このときは他に自然巣1個を調査したが幼虫はいなかった。

リュウキュウオオハナムグリがルリカケスの自然巣ではなく、巣箱を利用する理由は観察例数が少ないので断定は出来ないが、自然巣は湿度が高いことが原因している可能性がある。またリュウキュウオオハナムグリの生活史については、成虫は7月に巣箱に飛来し、産卵、幼虫は越冬後6-7月に羽化すると推定された。
ほかに、猛禽類やカラスの巣からはアカマダラハナムグリ、フクロウの天然巣や巣箱からはコブナシコブスジコガネとシラホシハナムグリ、リュウキュウコノハズクの自然巣からはミヤコオオハナムグリが見つかっている。

こうした調査から見えて来たものは、鳥の巣にはコガネムシ類(とくに数が少なく珍しいハナムグリ類)が多く生息していることが分かってきた。これらのハナムグリ類などは、鳥の樹洞巣を好む傾向があると考えられる。これまで鳥の樹洞巣の昆虫相については非常に情報が乏しかったので、これらコガネムシ類は希少と思われて来たのであろう。沖縄本島には樹洞性巣の環境エンジニアとして、ノグチゲラやリュウキュウアカショウビンが生息している。絶滅が危惧されているヤンバルテナガコガネもこうした樹洞を利用している可能性は高い。

4.虫のすみかとしての鳥の巣-まだわかっていないこと 

濱尾章二
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近年、いろいろな鳥の巣から多くの昆虫が見つかり記録されてきた。しかし、生態に関わる情報は不足している。鳥の巣をめぐる生物のネットワークを解明し、生態系における鳥の役割を明らかにするためには、巣から見いだされる昆虫の記録にとどまらない研究が必要だ。濱尾ら(2016,日鳥学誌 65: 37-42)は、シジュウカラの巣箱を用いた調査から、ヒナが巣立った巣で蛾類の発生が多いこと、巣立ち後巣材を採取するまでの日数が長いとケラチン食の蛾が発生しやすいことを明らかにし、昆虫が積極的に鳥の古巣に侵入し繁殖することを示唆した。今後は、鳥の巣が昆虫の繁殖場所としてどれほど重要であるのか(例えば、他の場所と鳥の巣を利用する割合)、また、鳥の巣を利用する昆虫の利益とコスト(例えば、湿度・温度の影響、捕食者・寄生者の影響)を明らかにしていくことが重要だろう。

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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「漁業による海鳥混獲の削減をめぐる国際動向と国内での取り組み」

企画者:越智大介・井上裕紀子 (水産研究・教育機構 国際水産資源研究所) ・佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)

2016年10月6日
文責:越智大介

皆さんは「混獲」という言葉をご存知でしょうか。「混獲」とは漁業で本来の漁獲対象生物以外のものが意図せず漁獲されてしまうことを意味します。一部の漁業では、海鳥が混獲されることがあり、しかもその中には絶滅が懸念される種が含まれるため、希少海鳥類の個体群保護の観点から大きなリスク因子となっています。本自由集会では鳥学会員にはあまりなじみがないと思われる「漁業による海鳥混獲」をテーマに、海鳥混獲削減対策に関する国際的な動向や混獲削減のための研究状況を紹介し、さらに現在日本国内で行われている海鳥混獲削減に向けた取り組みについて紹介し、海鳥混獲対策の今後について議論を行いました。

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【発表の概要】
1.最近の海鳥混獲をめぐる国内外の動向

越智大介(水産機構・国際水研)

越智からは、漁業による海鳥混獲問題についてこれまでの経緯と現在取られている対策について簡単な解説を行いました。海鳥混獲問題は1980年代ごろからまぐろはえ縄漁業による混獲を起因とする南半球のアホウドリ類繁殖個体群の減少という形で顕在し始め、その後も同様の問題が次々報告されるようになりました。こうした状況を受け、国連総会やFAOの場で規制や対策が打ち出され、その後現在に至るまでは地域漁業管理機関(国際条約により定められた、公海上の漁業を管理・規制する国際機関)や各漁業国において現状調査・混獲削減技術開発・混獲削減措置の順守などの海鳥混獲対策が取られるようになりました。また、希少海鳥の個体群保護については、海鳥混獲対策のみならず、繁殖地の保全・環境整備や、生態情報の調査研究も同様に重要であり、これらの分野と連携し、海鳥個体群保護を目指した包括的なアプローチをとる重要性についても説明を行いました。

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図 希少海鳥保護のための包括的アプローチのイメージ。青は漁業、緑は調査研究、赤は保全関連分野を示す

2.近年導入された混獲削減措置とその評価方法

井上裕紀子(水産機構・国際水研)

井上さんからは、国際海域で行われているまぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減措置について具体的な説明がありました。まぐろはえ縄漁業で用いられている主な混獲回避手法としてトリライン(海に投入されるはえ縄の上に吹き流し付きロープを渡して海鳥の釣り餌へのアクセスを防ぐ)、加重枝縄(釣り糸(枝縄)におもりを付け、釣り餌を海鳥の潜水深度より深い水深に早く沈める)、夜間投縄(海鳥の採餌活動が低下する夜間に操業する)の3種があげられ、この3種から2つの回避措置を選択して使用する規制が新たに導入されたことが紹介されました。また、その評価方法として、混獲率と総混獲数の推定が使用されることが説明されました。さらに、実際の漁船から得られた混獲情報を用いて、夜間投縄、加重枝縄に効果があったことが紹介されました。

3.まぐろはえ縄漁業における海鳥混獲削減手法の研究紹介

勝又信博(水産機構・国際水研)

勝又さんからは、まぐろはえ縄漁業で使われている海鳥混獲回避手法の研究及び実験結果の紹介をしていただきました。まず、海鳥がはえ縄に混獲される経路として、海に投入したはえ縄についた餌を表層や潜水により直接採餌して鈎に掛かる場合とその餌を横取りしようとして鈎に掛かる場合の二つのケースがあることが説明されました.これらの混獲を防ぐ方法として,上記のトリラインと加重枝縄を北半球のまぐろはえ縄漁業に適した形に改善した混獲回避装置を開発し、その効果を検証するために実際に操業を行うはえ縄漁船での実証実験の方法と、その結果が報告されました。

4.刺し網・流し網混獲の国際的な研究動向とバードライフの取り組み

佐藤真弓(バードライフ・インターナショナル)

佐藤さんからは、刺し網・流し網漁業で混獲される海鳥の問題について解説がありました。先に述べたとおり、北太平洋では公海流し網による海鳥混獲が90年代に全面禁止となった一方で、ロシア経済水域内では日本漁船も参加するサケ・マス流し網がその後も続いており、相当数の海鳥(ウミスズメ類・ミズナギドリ類)の混獲が報告されていましたが、昨年操業が全面禁止となったことが紹介されました。さらに沿岸で行われる固定型刺し網でも海鳥の混獲が懸念事項となっており、近年これに対して海鳥の視覚に訴える海鳥混獲回避手法が開発され、その有効性について実験が行われていることについて解説がありました。

5.北海道・天売島における刺し網混獲対策事業の紹介

山本 裕(日本野鳥の会)

山本さんからは、昨年より開始された刺し網海鳥混獲の削減手法に関する実験について紹介がありました。ウミガラスやウトウ、ウミウなどの海鳥の繁殖地となっている北海道の天売島において実施された、先に佐藤さんが紹介した海鳥の視覚を利用した混獲防止網の実証実験に関する説明がありました。実験では、混獲防止網と通常の網を同時に用いて混獲数や漁獲量などのデータ収集が行われており、混獲削減効果についてはまだ十分に情報が集積していないものの、漁獲量や漁業者の使い勝手の問題があるため、さらなる改善が必要であるという説明がありました。

6.総合討論

総合討論では、海鳥混獲の現在の状況や、国内漁業における混獲問題など様々なコメント、意見、情報提供など活発な議論が行われました。特に国内の沿岸漁業での混獲に関しては利害関係者の間で合意形成を根気強く行っていく必要があるという意見が印象的でした。

7.終わりに

本自由集会は初日の早い時間帯での開催であったにもかかわらず、多くの人に参加いただき、終了間際には廊下に人が立つほどとなりました。正直私としましては、比較的マイナーな「海鳥混獲」の話なのでそこまでの人の集まりは予測しておらず、関心のある人の多さに驚き、またうれしく思いました。今後もまたどこかで、海鳥混獲問題を議論する場ができればと思っています。私の発表パートの部分にも書きましたが、海鳥の個体群保護のためには漁業サイドで海鳥混獲対策をとるだけでは片手落ちで、調査研究に基づいた海鳥種の生活史情報をもとに、繁殖地での保護対策と同時に行うことでより有効な対策となるはずですので、今後はこういった包括的な連携をどう形成していくかということも重要になってくるのかな、と個人的には考えています。
最後に、海鳥混獲に興味を持たれた方への参考資料を紹介してレポートを終わりたいと思います。

8.参考資料

FAO (1999) International Plan of Action: Seabirds ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/006/x3170e/X3170E00.pdf
水産庁 (2007) はえ縄漁業における海鳥の偶発的捕獲を削減するための日本の国内行動計画 http://www.jfa.maff.go.jp/j/koho/bunyabetsu/pdf/umidori_keikaku160315_a.pdf
Žydelis, R., Small, C., & French, G. (2013). The incidental catch of seabirds in gillnet fisheries: A global review. Biological Conservation, 162, 76-88.
Clarke, S., Sato, M., Small, C., Sullivan, B., Inoue, Y., & Ochi, D. (2014). Bycatch in longline fisheries for tuna and tuna-like species: a global review of status and mitigation measures. FAO fisheries and aquaculture technical paper, 588.

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喧嘩のあとにはフォローが大事 ~セキセイインコのなかなおり~

2016年10月4日
京都大学 物質―統合システム拠点(iCeMS)
科学コミュニケーショングループ
特定研究員 一方井祐子

突然ですが、友人と喧嘩してしまったらどうしますか?ごめんなさいと頭を下げたり、握手をしたり。ハグをしたりする人もいるかもしれません。では、喧嘩に負けてしょんぼりしている友人を見かけたら?肩をたたいて「元気出せ!」といったり、黙ってご飯に誘う人もいたりするかもしれません。

前者の行動は「なかなおり」、後者の行動は「なぐさめ」と呼ばれる行動です。私たちの研究 [1] によって、じつはセキセイインコもこれらの行動をするらしいということが分かってきました。

セキセイインコはおもしろい
私はセキセイインコ(図1)の視聴覚コミュニケーションを研究してきました。ペットとして広く知られているセキセイインコですが、ヒトによく似ているところがたくさんあることはご存じでしょうか。一夫一妻を長く続けるところ。オスとメスの両方が子育てに関わるところ。鳥類にはめずらしく、オスよりもメスの方が攻撃的(!)というところも面白いところです。

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図1 セキセイインコ

セキセイインコ同士であくびが伝染すること [2]、セキセイインコの発声パターン(=コンタクトコール)が群れやつがいで似てくること(e.g. [3][4])も報告されています。これらの行動もヒトとよく似ています。

セキセイインコの喧嘩とは?
今回、私たちが注目したのはセキセイインコの「喧嘩」と「喧嘩のあとに起こること」です。当時、私が所属していた研究室ではセキセイインコの集団飼育をしていました。セキセイインコは多くの時間をつがい相手の近くで過ごします。一方で、なぜだかよく喧嘩もしていました。

嘴を大きく開いて相手を威嚇したり、大きな声をあげながら相手を嘴でつついたり。つがい相手と喧嘩したり、つがい相手以外と喧嘩したりと、喧嘩の程度や相手はさまざまでした。

喧嘩のあとの行動
ある日、喧嘩のあとでセキセイインコがつがい相手のところへすぐにとんでいくことに気がつきました。喧嘩のあとではつがい相手とどんな行動をしているのだろう。もしかしてなかなおりやなぐさめといった行動が見られるかもしれない。

そこで、セキセイインコの様子をしばらく録画して観察してみることに。録画した映像を見ながら「いつ」「どの個体が」「どの個体に対して」「どのような行動をしていたか」を時系列に沿って書き出してみることにしました。

時系列に書き出してみただけでは何が起こっているのかはまだ分かりません。「喧嘩のあとになかなおりやなぐさめがおこるのか」ということを調べるには、書き起こしたデータの集計や統計を通して仮説を検証する作業が必要です。

ところで、なかなおりやなぐさめで見られるやりとりを親和(しんわ)交渉と言います。ヒトなら握手やハグなど、トリなら羽づくろいや、嘴を近づけるというやりとりが親和交渉です。

喧嘩のあとでは親和交渉が起こりやすい。つまり、喧嘩のあとでは親和交渉が起こるまでの時間が短くなるとの予測をもとに、実際のデータをつかって喧嘩から親和交渉までの時間を測定していきました。そして、シミュレーションによって(喧嘩が起きていない)平常時と比較しました。

その結果、喧嘩のあとでは親和交渉がおこるまでの時間が短くなっていたことが分かりました(図2)。

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具体的に言えば、

(1)つがい相手と喧嘩するとそのあとつがい相手となかなおりをする

(2)つがい相手以外と喧嘩するとそのあとつがい相手と親和交渉をする

ことが分かりました(ちなみに(2)の一部のやりとりがなぐさめに該当します)。

ただし、すべてのつがいがこのような行動をしたわけではありませんでした。その理由はまだよく分かっていませんが、もしかしたらつがいの「絆」の違いによって、喧嘩のあとのフォローの仕方も違ってくるのかも?

カラスでの報告
調べてみると、カラス科のトリでも同じような報告があることが分かりました。ミヤマガラスは、つがい相手以外と喧嘩したあとつがい相手と親和交渉を行っていました [5]。コクマルガラスでも同じような報告がありました [6]。でもカラス科のトリのつがいでは、なかなおりは報告されていないのです。セキセイインコのつがいとは違って、カラス科のトリのつがいではめったに喧嘩がおこらないそうです。このことが、なかなおりがみられない理由のひとつ、と考えられています。

つまり、セキセイインコもカラスも喧嘩のあとに同じようなやりとりをします。でもその方法はちょっとずつ違うのです。

実験室での研究のすすめ
さて、私はこれまで実験室で飼育下のセキセイインコを対象に研究を行ってきました。「トリの研究をしています」と言うと、野外に出て野鳥を追いかけるイメージを持たれることが多くあります。

野外で鳥類の研究をしている研究者はたくさんいます。実験室で鳥類の研究をしている研究者もたくさんいます。野外と実験室の両方で研究をしている研究者もたくさんいます。実験室の研究の利点とはなんでしょうか。例えば、個体数、個体の年齢、観察時間など、野外ではコントロールできない様々な条件をコントロールして観察・実験できるということがあります(そして楽しい)。

大学や大学院に進学して鳥類の研究をしたいと思っている人がいたら、ぜひ実験室での研究も視野に入れて研究テーマを探してみてください。実験室ならではの、面白いテーマが見つかるかも!

【引用文献】
[1] Ikkatai, Y., Watanabe, S., & Izawa, E. I. (2016). Reconciliation and third-party affiliation in pair-bond budgerigars (Melopsittacus undulatus). 153, 1173 – 1193.
[2] Gallup, A. C., Swartwood, L., Militello, J., & Sackett, S. (2015). Experimental evidence of contagious yawning in budgerigars (Melopsittacus undulatus). Animal cognition, 18(5), 1051-1058.
[3] Farabaugh, S. M., Linzenbold, A., & Dooling, R. J. (1994). Vocal plasticity in budgerigars (Melopsittacus undulatus): evidence for social factors in the learning of contact calls. Journal of Comparative Psychology, 108(1), 81-92.
[4] Hile, A. G., Plummer, T. K., & Striedter, G. F. (2000). Male vocal imitation produces call convergence during pair bonding in budgerigars, Melopsittacus undulatus. Animal Behaviour, 59(6), 1209-1218.
[5] Seed, A. M., Clayton, N. S., & Emery, N. J. (2007). Postconflict third-party affiliation in rooks, Corvus frugilegus. Current Biology, 17(2), 152-158.
[6] Logan, C. J., Emery, N. J., & Clayton, N. S. (2013). Alternative behavioral measures of postconflict affiliation. Behavioral Ecology, 24(1),98-112.

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日本鳥学会2016年度大会自由集会報告「ドローンを使った鳥類調査」

2016年9月25日
企画者 上野裕介(東邦大学)・時田賢一(岩手大学)
文責 上野裕介

ドローン(UAV)の進歩と低価格化によって,鳥の目線での空撮が身近になった。鳥類学の分野でも,ドローンを使った調査事例が増えつつあり,鳥類学の発展や保全での活用が期待されている。一方,昨年には航空法が改正され,ドローンを活用する上での制約も出てきた。

そこで実際の調査にドローンを活用している演者8名から,鳥類研究における活用法を紹介するとともに,ドローンの特徴や最新機器に関する情報,環境調査の技術,法制度や安全な運用方法などについて紹介する自由集会を開催することとした。

当日は,ドローンに対する期待の表れなのか,約70名の方々にご参加いただくことができ,鳥学会会員の関心の高さがうかがわれた。

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会場の様子

【各講演の概要】
1.チュウヒの繁殖状況調査におけるドローンの試用例
高橋佑亮(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)

 ドローンを使ったチュウヒの巣内雛数の把握,巣や雛の判読限界高度,ドローンに対する親鳥の反応について報告があった。DJI Phantom2 Vision+を用いた調査では,巣の直上100mからの撮影であれば巣の判読が可能であり,50mからの撮影では巣内雛数の判読が可能であった。親鳥の反応については,飛行高度○mであれば安全であるということは必ずしも言えないが,数十m離せば比較的影響は小さいと思われた。以上の結果から,上記機種を用いてチュウヒの巣内雛数を把握する場合,飛行高度は50m程度が目安であるとの報告であった。
 またドローンは,踏査での調査に比べて省力化できる点や営巣地の植生破壊を伴わない点で有効な調査方法になるとの考えが示された。とはいえ,ドローンはチュウヒにとってストレス以外の何物でもないため,ドローンによる調査の必要性をよく検討し,最小限の使用にとどめるべきとの指摘もあった。

2.ドローンを利用したマガンカウントの試み
神山和夫(NPO法人バードリサーチ)

 マガンのねぐらでのカウントを行うために,ドローンを用いた事例についての報告があった。課題として,出前~日の出直後の照度が大きく変化する時間帯の撮影であること,またマガンがねぐら出を迎えるまでのわずかな時間で撮影を終える必要があることなど,技術的な難しさが示された。

3.保護区域外のツル識別とカウントの試み
時田賢一(岩手大学農学部)

 飛来個体の増加により,保護区域の外(周辺圃場)で採餌する個体の把握に,ドローンを用いた事例の紹介があった。現行行われている総個体数カウントでは誤差の検証ができないため,個体数のカウントや,採餌地などのツルの土地利用の把握を行う上でドローンが役立つとの報告があった。
一方,ツルの群れへの接近は,低空(撮影高度付近)での水平方向からアプローチは避けた方が良く,離陸地点であらかじめ高度を十分に取ってから撮影地点上空に移動した後,ツルの反応を確認しながら徐々に高度を下げたほうが良いとの考えが示された。また,ドローンの音を気にしているようだとの指摘もあった。

4.釧路湿原におけるタンチョウの調査事例
松本文雄(釧路市動物園)・小林功・山田浩行(パシフィックコンサルタンツ株式会社)・上原裕世(酪農学園大学)

 アクセスが困難な湿原内の調査において,個体の発見や雛数のカウントに,ドローンが活用可能であることが示された。特に,ドローンにズームレンズ付きのカメラを搭載することで,より高高度での撮影が可能になり,個体への影響も小さくすることができそうだとの報告があった。

5.湿原性鳥類の営巣植生調査におけるドローンの試用例
中山文仁((一財)自然環境研究センター)
 
 湿原性鳥類の調査における課題として,背丈の高いヨシなどにより見通しが効かないこと,植生に覆われた水域の配置がわかりにくいことが挙げられる。そこでドローンによる空撮を行うことで,営巣場所や周辺環境(水域)を調査した事例が報告された。特に周辺環境(水域)の調査では,空撮画像のRGB情報をもとに簡易な画像処理を施すことで,およその範囲を抽出できることが示された。

6.モニタリングにおけるドローン技術の利用可能性
鈴木透(酪農学園大学)

 鳥類のモニタリングへの空撮の利用可能性を検討するために、飛行高度と画像の解像度による水鳥の判別の可能性を報告した。大小のカモ類の種判定,個体数のカウントを行う場合を想定し,原寸大のデコイを様々な条件で撮影することで必要な高度,画角を計算した結果、種の判別には約1cm程度の高い解像度が必要であることが明らかになった。

7.空撮・測量・環境調査の技術と法制度,安全管理
上野裕介(東邦大学)

 ドローンで空撮した画像は,個体や群れのモニタリングだけでなく,地形測量にも使うことができる。そこで,撮影位置を少しずつずらし連続撮影したオーバーラップ画像から対象物の3次元構造を復元する写真測量技術(Structure from Motion:SfM)と,SfMを用いた立体測量の技術について報告した。また野外での検証結果から,おおむね高さ方向の計測誤差が数cm~5cm程度に収まることを示した。またドローンにまつわる航空法の改正や損害賠償保険,安全な運用方法についてお話しした。

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講演の様子

8.ちょっと変わったドローンの活用法
山田浩之(北海道大学)

 ドローンとは,そもそも飛行機である。カメラを搭載すれば空撮機となり,気象観測やレーサープロファイラなど他のセンサーを積めば計測機になる。アタッチメントを装着すれば,サンプル採取や運搬が可能になる。その一例として,採水ボトルをぶら下げたドローンによって池の水を採取する方法を報告した。一方,不運にもドローンが墜落することもある。墜落したドローンの再利用法(プロペラ編,カメラ編)を紹介した。

【まとめと感想】
 これまで空撮画像を得るには,高額な航空写真や衛星写真を購入する他なかった鳥類研究者にとって,安価で簡単に空撮を行うことができるドローンは大変便利な道具である。簡単に空撮が行えるようになったことは,調査のために人が鳥の生息地に立ち入る回数を減らすことにつながり,調査圧の軽減に役立つ。一方,空撮による鳥への影響(特に撮影高度や撮影頻度との関係)は十分にわかっておらず,対象個体に十分に注意しながらの手探りでの調査が続けられている。そのため営巣地や塒の空撮などで,必要以上にドローンを接近させたり,頻繁に飛行を繰り返したりすることは慎むべきである。本自由集会のような調査事例や技術情報の共有から,ドローンによる鳥類調査を鳥にとっても人にとっても安全で快適なものにする必要があるだろう。
他方,今回の自由集会では鳥類を専門とする人たちが,個個別別に運用スキルを磨き,調査技術の改良・開発にも取り組んでいる現状があることがわかった。ライト兄弟が1903年に空を飛んでから,既に110年超が経過し,飛行機を用いた空撮や調査技術は大きく進歩している。またドローン調査についても,防災分野などでは10年以上前から実用化が試みられてきた。それらの技術の蓄積を導入することで,ドローンによる鳥類研究を大きく飛躍させることができるだろう。他分野の研究者や技術者と協力することで,鳥類の生態解明や生息環境の把握,保護・保全につながる新たな発見や気づきを,ドローンという鳥の目が私たちに与えてくれる日も近いと感じている。

※ドローンに関するご質問や共同研究のご相談は,随時受付けています。
 ご遠慮なくお問い合わせください。

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バードリサーチ調査研究支援プロジェクト 研究プラン募集中(10月末まで)

2016年9月23日
NPO法人 バードリサーチ 植田 睦之

下世話な話ですが,お金,欲しいですよね。世知辛い昨今,所属機関や家計からなかなか調査費用も出してもらえない場合に,少しでも調査費があると助かります。でも研究を続けていくうえで,もっと大切なのが,自分の研究をみんなに知ってもらうこと。知ってもらえたら,何かの際に共同研究など研究を拡げることができるかもしれないし,原稿依頼も来るかもしれず,これから研究機関への就職を目指す人は,その点でも有利になるかもしれません。
この2つ,一気に満たしたいと思いませんか? 深くうなずいたあなた,バードリサーチの「調査研究支援プロジェクト」の調査プランに応募しませんか?

バードリサーチの調査研究支援プロジェクトは,支援対象の研究プランを選定し,それに対して募金を募るプロジェクトです。もらえるお金は寄付金次第ですが,これまでの実績を見ると数万円から数十万円とそれほど大きな金額ではありません。でも,プラン選定の一次審査では大御所の研究者の方たちにじっくりプランを見てもらえますし,支援対象に選定されればバードリサーチの会員など数千人の人に研究を知ってもらえます。

プラン応募の締め切りは10月末。詳しくは 以下のホームページをご覧ください
http://www.bird-research.jp/1_event/aid/index.html

注意点としては,応募のためには,バードリサーチの会員になる必要があることです。「お金をもらうために,まず会費が必要なんて,典型的な詐欺の手口だな」と思いましたか? 会費の必要な有料会員になってもらうのは大歓迎ですが,会費無料の協力会員でも応募できるので,詐欺ではないと思います。きっと。

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相関行列(距離行列)を用いた音声の分類・判別手法について

2016年9月6日
(国)農研機構 中央農業研究センター 虫・鳥獣害研究領域
百瀬 浩

あなたが、野外で見知らぬ鳥のさえずりを録音したとします。それが既知の種のさえずりのどれに近いのか、知りたい場合などがあると思います。あるいは、ある種類の鳥が色々なさえずりのパターンを持っていたとして、それを分類(タイプ分け)したい場合とかがあるかもしれません。本稿では、そんな時に使える手法として、異なる音声どうしの相関(Cross Correlation)を用いて分類や判別を行う手法を解説します。

※ブログ形式ですと表現しきれないところがありますので、続きは添付ファイルをご覧ください。

鳥学通信原稿百瀬_160906.pdf
サンプルデータ.zip

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86年ぶりに小笠原諸島のメジロの起源を調べた

2016年8月9日
独立行政法人 国立科学博物館
植物研究部多様性解析・保全グループ
杉田典正

小笠原諸島は、東京から南に約1000 kmから1200 kmの南の海上に浮かぶ小さな島々の集まりである(図1)。小笠原諸島は、父島、母島などを有する小笠原群島と北硫黄島、硫黄島、南硫黄島の3島から成る硫黄列島の2つの群島から構成される。小笠原諸島へは、およそ週に一度東京から出港するおがさわら丸に乗って24時間かけて行く方法しかない。母島へ行くには、父島で船を乗り換えてさらに2時間半かかる。もっと南の硫黄列島へは旅行で行くことはできない。小笠原諸島は日本で一番遠い場所のひとつかもしれない。

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小笠原諸島は、海洋島である。海洋島は、島が出来てからほかの地域と一度も繋がったことがない島のことをいう。海洋島は、独自の生態系がつくられる。小笠原諸島も、他の地域では見られない独特の海洋島生態系ができている。例えば、オガサワラオオコウモリは小笠原諸島唯一の固有哺乳類で、小笠原で独特な行動と生態を進化させてきた。小笠原は、独自の生態系と進化を観察できることが評価され、2011年には世界自然遺産に登録された。

小笠原群島と硫黄列島は、どちらも海底火山に由来する。しかし、島の形成時期が全く異なる。小笠原群島は、約4500万年前の海底火山を起源にする古い島である。一方、硫黄列島は、数万年内に噴火した海底火山と隆起により形成された新しい島である。小笠原群島は、伊豆諸島やマリアナ諸島など周辺の島嶼地域の中でもっとも古い。

小笠原諸島で繁殖する陸鳥の数は少ない。10種の陸鳥が繁殖するのみである。過去にはオガサワラマシコやオガサワラガビチョウ、オガサワラカラスバトなど小笠原諸島固有の陸鳥が生息していたが、絶滅した。メグロは、母島列島で生き残っているが、父島列島と聟島列島で絶滅した。現在、小笠原群島と硫黄列島の両群島に共通して繁殖する陸鳥は、カラスバト、ヒヨドリ、ウグイス、カワラヒワ、トラツグミ、イソヒヨドリの7種類に過ぎない。カラスバトとカワラヒワは、本州の個体群と大きな遺伝的差異があり、ミトコンドリアDNAで別種レベルの深い分岐がある。ヒヨドリとウグイスは、日本列島の個体群のミトコンドリアDNAと比べて数塩置換の違いである。これら5種の小笠原諸島個体群は、亜種に分類されている。トラツグミは、1930年に初めて小笠原諸島で発見され、1960年代頃から増え始めた。ミトコンドリアDNAのCOI領域では、遺伝的差異は見つからなかった。モズは父島で1980年代から繁殖していたが、2000年代の中頃に絶滅したとみられる。

小笠原諸島の陸鳥は、大陸から遠く離れた島であるため個体群間の交流が少なく遺伝的に分岐が進んだ。一方、面積の小さい海洋島では、環境が不安定であり、人口学的要因などによって定着しにくいという特徴もある。小笠原諸島の陸鳥の鳥類相の変遷は、海洋島の特徴をよく表している。

問題のメジロである。日本鳥類目録第7版(2012)によると、小笠原諸島のメジロの分布は、硫黄列島のみresident breederとなっている。父島や母島に行ったことのある方は、「おや?」と思うかも知れない。小笠原諸島の父島や母島でメジロをたくさん見たはずだと。確かにメジロは、現在の小笠原群島にたくさん生息している。もっとも目に付きやすい鳥だ。しかし、今から約百数年前、1900年以前には小笠原群島にはメジロは生息しなかった(図2)。過去の記録でも明らかである。1827年イギリス軍艦ブロッサム号で父島に上陸したBeechey艦長は、ヒトを恐れない黄色いカナリアの様な鳥(おそらくメグロ)を観察したが、メジロは記録していない。1890年の研究でも、小笠原群島でメジロは採集されなかった。ところが1930年になると、メジロは父島で最もよく見られる鳥になっていた。籾山徳太郎は、1930年に発表した論文で、島民に聞き取り調査を行い、1900–1910年頃に硫黄列島と伊豆諸島からメジロが持ち込まれたと考えた。同時に、彼は、小笠原群島のメジロの形態形質に亜種イオウトウメジロとシチトウメジロの中間的特徴があることから、小笠原群島個体群は両亜種の交雑個体群であると示唆した。日本鳥類目録第7版では、小笠原群島のメジロはintroduced breederとされている。しかし、小笠原群島のメジロが本当に硫黄列島と伊豆諸島から持ち込まれたのか、DNA分析による証拠はまだ無かった。

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DNA分析に使える血液サンプルが硫黄列島のメジロで採られていなかった。硫黄列島は、北硫黄島と南硫黄島は無人島、硫黄島は自衛隊基地のために上陸調査が難しい。特に、南硫黄島は、原生自然環境保全地域に指定されていること、島の全周が切り立った崖で出来ており上陸しにくいことから、学術調査隊が長い間立ち寄っていなかった。だが、一連の硫黄列島の学術調査に参加してきた川上和人博士(森林総合研究所)によって、硫黄3島すべてからメジロ個体群の血液サンプルが得られた。小笠原諸島のメジロの遺伝分析と他の地域との比較が可能になった。

この記事では、小笠原諸島のメジロのミトコンドリアDNAを分析してその起源を調べた研究を紹介する。この記事は、Zoological Scienceで発表された小笠原諸島のメジロとヒヨドリのミトコンドリアDNA分析を行った研究内容にもとづく(Sugita et al. [2016] Zoological Science 33: 146–153)。小笠原諸島のヒヨドリのDNA分析の解説については、BIRDER 2016年7月号(文一総合出版)と森林総研プレスリリース資料をご覧頂きたい。本研究のすべての分子実験は、国立科学博物館の実験室で行った。

独自に進化した硫黄列島のメジロ

硫黄列島のメジロの解析のために、ミトコンドリアDNAのチトクロームオキシターゼcサブユニット1(COI)遺伝子のDNA配列を使用した。ミトコンドリアDNA多型をハプロタイプという(異なるハプロタイプ同士は配列が異なるということ)。図3に赤色で示されている部分が硫黄列島のメジロ個体群のハプロタイプで、4種類見つかった。硫黄列島のメジロ個体群のハプロタイプは、小笠原群島のメジロ個体群を除いて(後述)、他の地域から見つからなかった。硫黄列島の3島を詳しく見ると、南硫黄島の個体群のハプロタイプは他のどの島からも見つからない南硫黄島固有のハプロタイプであった(図4)。

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これらの結果は、硫黄列島のメジロ個体群は、伊豆諸島や琉球諸島のメジロと近縁の関係であることを示している。硫黄列島のメジロは、独自のハプロタイプをもった遺伝的に分化した個体群であることも示している。南硫黄島の個体群は、他のどの島とも遺伝的な交流のないもっとも孤立した個体群であることがわかった。硫黄列島のメジロは、祖先集団が硫黄列島に定着した後、それぞれの島で移動性を低下させて、交流のない独立した集団になったと考えられる。生物進化の見本として、小笠原諸島の世界自然遺産としての価値をさらに高める研究成果となった。

生物多様性は、外来種と在来種との交配などによって容易に低下する。硫黄列島で独自に進化したメジロ個体群は、小笠原諸島の海洋島生態系における取り替えの効かない重要な要素である。特に南硫黄島のメジロ個体群は、他のどの島とも遺伝的に異なる。硫黄列島のメジロの保全は、島単位で考えるべきだ。

連れてこられた小笠原群島のメジロ

小笠原群島のメジロ個体群に固有のハプロタイプは無かった(図3)。小笠原群島のメジロ個体群から3つのハプロタイプが発見されたが、これらは琉球諸島と伊豆諸島、硫黄列島の個体群と共通のハプロタイプであった(図5)。硫黄諸島では、固有ハプロタイプが見つかったことと対照的である。この結果は、メジロが小笠原群島に自然分布していたのではなく、近年外部からメジロが小笠原群島に移入されたことを示唆している。自然分布していたのなら、小笠原群島にも硫黄列島のメジロのように固有ハプロタイプが発見されるはずだ。この見方は、過去の記録とも一致する。

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伊豆諸島のメジロ個体群は琉球諸島個体群の一部と同じハプロタイプを共有していたものの、籾山の聞き取り調査の結果などを考慮すると、籾山が1930年に発表した仮説の通り、小笠原群島のメジロ個体群は硫黄列島と伊豆諸島から来たと考えるのが妥当だろう。ただし琉球諸島のメジロの関与も否定できない。今回、籾山の仮説以来86年間謎であった、小笠原群島のメジロの起源を現代のDNA分析技術により検証することができた。籾山は、小笠原群島のメジロがシチトウメジロとイオウトウメジロの交雑個体群であるという仮説も提唱した。これについては、今後、核DNAによる詳細な研究が必要である。

様々なルートでやって来た小笠原の陸鳥

小笠原諸島の陸鳥の起源や島間の遺伝的関係性は種ごとに異なる。いくつかの種で小笠原群島と硫黄列島間の遺伝的関係が知れられている。ヒヨドリは、小笠原群島と硫黄列島の個体群でそれぞれ異なる起源をもつ(図6)。ウグイスは、琉球と伊豆諸島以北の個体群から小笠原群島に進出した。その個体群の一部が、さらに南の硫黄列島に進出したようだ。アカガシラカラスバトは、カラスバトと別種レベルの遺伝的差異がある。しかし、小笠原諸島内では、アカガシラカラスバトは、小笠原群島と硫黄列島を行き来している。小笠原群島のヒヨドリは八重山諸島を起源にする。一方、硫黄列島のヒヨドリは本州などの個体群を起源にする。それぞれ時間的にずれて小笠原諸島に定着した。その後互いに交流しなかったようだ。これらの研究結果は、島の形成時期、定着時期、生態的特性、島の群集構造などの違いにより、島によって異なる生物相が成立することを示している。

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小笠原諸島の世界自然遺産への登録以来、自然再生事業が行われている。小笠原諸島では、鳥のような飛べる動物であっても、島や列島ごとに鳥類相や遺伝構造が異なることがわかった。この結果から、島や列島を単位とした保全計画が必要と言える。

参考文献
Ando H, Ogawa H, Kaneko S, Takano H, Seki S, Suzuki H, Horikoshi K, Isagi Y (2014) Ibis 156: 153–164.
Beechey F (1832) Narrative of a Voyage to the Pacific and Beering’s Strait, to Co-operate with the Polar Expenditions: Performed in His Majesty's Ship Blossom, under the Command of Captain F. W. Beechey, R. N. in the Years 1825, 26, 27, 28. Carey & Lea, Philadelphia, USA.
Emura N, Ando H, Kawakami K, Isagi Y (2013) Pacific Science 67: 187–196.
籾山徳太郎 (1930) 日本生物地理学会会報 1: 89–186.
日本鳥学会(2012)日本鳥類目録第7版, 日本鳥学会, 三田.
Seebohm H (1890) Ibis 32: 95–108.
Seki SI, Takano H, Kawakami K, Kotaka N, Endo A, Takehara K (2007) Conservation Genetics 8: 1109–1121.
森林総合研究所(2016)絶海の孤島、小笠原の鳥はどこから来たのか?2016. Apr. 7. URL: www.ffpri.affrc.go.jp/press/2016/20160407/
杉田典正(2016)BIRDER 30(7): 34–35.
Sugita N, Kawakami K, Nishiumi I (2016) Zoological Science 33: 146–153.

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研究オトコと研究オンナの生きざまを考える:ポスター発表のご報告

2016年8月8日
日本鳥学会企画委員会 堀江明香

鳥の研究に限らず、調査・研究は楽しいものです。知的好奇心は調べるほどに膨らんでいき、明らかにできたものの倍ほどの疑問が湧いてくる。そうして続く研究生活は、大変ではあるものの、大きな達成感と充実感をもたらしてくれます。私自身も、迷いを含みつつ、研究者として生きていきたいと希望しているひとりです。

研究者を目指す際に、志を貫くか諦めるか迷う最も大きな理由は「研究者として食っていけるか」分からないことだと思います。しかし、恋愛・結婚などの私生活も、実は研究生活と関連しています。若いうちは研究が最優先課題。自分の繁殖成功度より鳥の繁殖成功度の方が大事、となりがちですが、いざ、結婚や子供を望むようになると、夫婦の同居の難しさや安定収入の問題など、色んな壁が見えてきます。私のように、のんきに構えていて現実に阻まれてから煩悶するのではなく、研究人生を送る上での壁についてあらかじめ知っておけば、少なくとも覚悟をもって人生の選択ができます。

日本鳥学会は「男女共同参画学協会連合会」にオブザーバー参加しており、企画委員が毎年のシンポジウムにも参加していますが、学会員の方への情報提供はまだまだ不十分です。そこで、日本鳥学会2015年度大会において、「ヒト(鳥研究者)における婚姻形態と子育て-忘れられがちなもう一つの人生-」と題したポスター発表を行い、研究者の結婚事情を通して、「研究者として生きる」ことと、その陰に隠れがちな、「一人の男性・女性として豊かな人生を送る」ことの関係性に潜む問題について紹介しました。

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発表時、著者は妊娠8ヶ月。特別に椅子を用意してもらいました(撮影:高田みちよ氏)。

詳細は実際のポスター(下画像をクリック)をご覧いただきたいのですが、内容を大きくまとめると次のようになります。①就職事情には大きな男女差はないのに、既婚率・子供の数には男女差がある、②女性には生物学的な出産リミットがある。研究職についてから出産すれば産休・育休後に職場復帰が可能だが、職より出産が先だと研究に復帰しにくい、③夫婦どちらかに定職がないとそもそも子供をもうけにくい。④性別を問わず、ポストが少ないことが最も根本的な問題。ポストの拡充と出産・育児後の復帰支援が最も重要な課題。

人生と研究者の道のりが山で表されています。


内容が多少刺激的だったこともあり、当日はなんと、98名もの方に聞きに来ていただきました。どんな方が聞きに来てくださったか集計を行ったところ、男性57 名 女性41 名、その内訳は以下のようになりました。

①修士以下の学生で男性:8
女性:8 計16 名
②博士課程の学生で男性:3
女性:2 計5 名
③任期付き研究職の男性:4
女性:2 計6 名
④任期なし研究職の男性:11
女性:3 計14 名
⑤無給の研究員等の男性:1
女性:4 計5 名
⑥普及啓発教育職の男性:3
女性:2 計5 名
⑦調査員等、鳥関係職の男性:18
女性:11 計29 名
⑧その他の職業の 男性:9
女性:8 計17 名

もう少し学生の方に聞きに来て頂きたかったですが、やはり多くの学生は研究の方が大切、という、まっとうな姿勢を持っているようです。また、もっと女性が多いかとも思っていたのですが、意外と男性の方が多く、職業別の人数に関しても、おおよそ学会の構成員からまんべんなく聞きに来ていただいたような気がします。何名かの方からは貴重なご意見を頂きました。以下にご紹介します。

*大変たのしいテーマで異彩を放っていました。日本の科学の発展には女性の力は不可欠。生態学と社会学のリンクは大切です(男性)。

*本人の頑張りはものすごくて、とても大変だと思います。大会時に未就学児以上の子の面倒を見てくれるところも必要だと思います。また、お金ももっと下げるか無料にすべきです(女性)。

*女性研究者(現在求職中)、子供1 人、パートナー同業の者です。このような形で性別をこえて意識改革が進むような研究を応援しています。パートナーフェロー等をどんどん増やして頂ければと思います(女性)。

研究オトコとして、研究オンナとして、どう生きたいか。人生で大切にしたいものは何なのか。尽きない問いだとは思いますが、現実に阻まれてからでは動きが取りにくいものです。これから考えていかねばならない学生さんはもちろん(考えたくないのはよくよく分かりますが)、もう年配の方も、オトコとオンナの問題が学会や鳥学の活性化にも影響することを認識して、みんなでよい研究人生を歩むことを目指せればと思います。

発表時にお腹の中にいた私の娘はもう8ヶ月。未完成のハイハイで部屋を探検している娘の横でこの記事を書いていると、無上の喜びと尽きない希望と、大きな焦燥感と研究への思いとが混ざってとても複雑な心境です。現状では、オトコ・オンナとしてのよりよい人生と研究人生の両立には困難を伴いますが、個人として、学会として、国や地方・研究機関の制度として、できることがきっと色々あるはずです。みなさんも、ぜひ一緒に考えてくださればと思います。

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