東京農大北海道オホーツクキャンパス 野鳥研究会通信 その3

オホーツク野鳥研究会

日本鳥学会会員のみなさま、こんにちは。オホーツクキャンパス野鳥研究会です。この度の台風14号、網走では大きな影響はなかったようですが、大雨や暴風の被害に遭われた全国の方々には心よりお見舞い申し上げます。
さて、今週も引き続き気軽に訪れることのできる網走周辺の鳥見スポットをご紹介します。11月3日に開催される鳥学会大会公開シンポジウムのテーマは「流氷がくる海~オホーツクの海と生き物たち~」で、オホーツクの海鳥に関する講演も予定されています。そこで本シリーズ三回目となる今回は、海鳥観察に適した鳥見スポットをご案内します。

<網走市周辺鳥見スポット第三弾>
●能取岬
網走市街から約10km北に位置する、網走国定公園内にあるオホーツク海に突き出た岬には,白黒ボーダー模様の八角形の能取岬灯台が立っています。岬の周辺は切り立った海食崖で、崖下の岩礁が連なる荒々しい北の海の光景とは対照的に、崖上は平坦な台地に牧草地が広がり、北海道らしい牧歌的な雰囲気が漂います。東方には遠く知床連山が海に浮かび、眺望も最高です。
崖上に沿って柵が設置されており、その手前から海上や岩礁上にいる海鳥類を観察します。大会時期にあたる秋から冬はシノリガモがとても多く、その中にコケワタガモやホンケワタガモが見られたこともあります。ウミガラス類やウミスズメ類も比較的よく観察され、春・秋にはアビ類の大群が見られることもあります。海鳥観察をしていると、目の前をオジロワシやオオワシ、ハヤブサが通過し、台地上の草原や牧草地では、ハギマシコやツメナガホオジロ、ユキホオジロなどに遭遇することもあります。それ以外にも、ここでは渡り途中に立ち寄った思わぬ鳥に出会えるかもしれません。

<学会時期に観察される主な鳥>
シノリガモ・コオリガモ・アカエリカイツブリ・アビ・オオハム・シロエリオオハム・ハシボソミズナギドリ・ヒメウ・ウミウ・ミツユビカモメ・アカアシミツユビカモメ・カモメ・オオセグロカモメ・ハシブトウミガラス・ケイマフリ・ウミスズメ・ウトウ・オジロワシ・オオワシ・ハヤブサ・ハギマシコ など

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冬の能取岬(野鳥研究会部員撮影)

<能取岬へのアクセス>
市街から道道76号を北上して車で約15分。駐車場(無料)にはトイレがあるが、11月は閉鎖されている可能性が高い。

●網走港(網走川河口、港、親水防波堤ぽぽ260)
オホーツク海に注ぐ、一級河川網走川の河口部に位置する河口港。11月上旬は、港の内外と網走川の河口付近でカモやカモメをはじめとする沢山の海鳥類を観察することができます。とくにシノリガモやホオジロガモ、ヒメウが多く、近距離からの観察が可能です。天候に左右されますが、カモメ類は港内や周辺防波堤上で最も多く観察され、とくにミツユビカモメがたくさんいます。バスターミナル周辺のホテルからは徒歩圏内にある、河口や港に隣接する道の駅あばしり二階の食堂で、オホーツク海や海鳥を見ながら食事するのもお薦めです。
徒歩で行くのは厳しいですが、網走港の南側には、防波堤上を散策できる親水防波堤「ぽぽ260」があり、この防波堤上は沖にいる海鳥類の観察に適しています。学会時期には、アビ類を観察できるでしょう。上空には時折ヒシクイが通過するほか、海ワシ類の渡り時期でもあり、崖に沿って飛んでいる姿をよく目にします。

<学会時期に観察できる主な鳥>
ヒシクイ・オオハクチョウ・シノリガモ・ホオジロガモ・アビ・オオハム・シロエリオオハム・ヒメウ・ウミウ・ミツユビカモメ・ウミネコ・カモメ・オオセグロカモメ・ケイマフリ・ウミスズメ・オジロワシ・オオワシ など

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冬の網走川河口(野鳥研究会部員撮影)

3回にわたる野鳥研究会お薦めの鳥見スポットの紹介は、今回が最終回です。網走周辺にはさらに多くの野鳥観察地があります。網走市周辺に限らず、オホーツクエリアの探鳥地情報を知りたい方は、日本野鳥の会オホーツク支部web サイト「オホーツク探鳥マップ」をご覧になると良いと思います。
次回以降は、網走滞在に役立つ(かもしれない)耳より情報をお届け予定です。

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オーストラリアの研究環境について

皆さんこんにちは。クイーンズランド大学の天野と申します。

前回は私がイギリスからオーストラリアへ異動した経緯について紹介させていただきました。今回はクイーンズランド大学の研究環境やブリスベンの生活環境について少し書かせていただこうと思います。

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クイーンズランド大学

まず初めにクイーンズランド大学を選んだ理由についてです。私が現在受給しているFuture Fellowshipは受け入れ先を自分で決めることができます。オーストラリアにはGroup of Eightと呼ばれる研究で有力な大学が主要都市に存在しており、受け入れ先としてメルボルンやシドニー等、他の都市にある大学も候補として考えました。ただクイーンズランド大学にはCentre for Biodiversity and Conservation Science(CBCS)という世界的にも有数の保全科学の研究拠点があり、魅力を感じていました。また同大学のリチャード・フラー教授のグループからケンブリッジにも度々学生等が訪ねてきており、他の大学より親近感があったということも影響していたと思います。ブリスベンという都市については実はほとんど下調べはしませんでした。ただ、それなりの規模の都市で医療や教育、日本食材調達などの面でも困ることもなさそうでしたし、家族からも賛同を得たのでクイーンズランド大学に決めることとしました。

2019年3月、日本への一時帰国を経て、成田からブリスベン行きの便に乗りました。ちなみに空港では当時オーストラリアのクラブチームに所属しており試合で日本に来ていたサッカーの本田圭佑選手に遭遇し、当時サッカーをしていた娘が写真を撮ってもらうという幸運にも恵まれました!幸先がいいなと思ったのを覚えています。

ブリスベン空港に下降する機内からはマングローブ林が見えました。飛行機から降りると湿った空気が体にまとわりつき、夜に街を歩くと頭上をオオコウモリが悠々と舞っています。イギリスの気候に慣れた身としては亜熱帯の雰囲気がとても新鮮でした。

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近くの公園にあるオオコウモリのねぐら。夕方になると一斉に採餌場所へ飛び立っていく。

ブリスベンのあるクイーンズランド州はSunshine stateという愛称がつけられているように、年間の晴天率が非常に高いことで知られています。晴天率が低いイギリスと比較して、これが初めに衝撃を受けた点でした。渡豪間もない頃は人に会うたびに「天気がいいですね!」と言っていたのを覚えています。渡豪1年後に始まることになるコロナ禍を、小さい子供二人の育児をしながら乗り切っていくうえで、いつも見上げれば青く美しいブリスベンの空には正直救われたと思っています。同時に当時はそれほど気にしていなかったのですが、イギリスでは天候に由来するストレスを受けていたのかもしれないなと感じました。

ケンブリッジに比較して大学や街で見かける東アジア人が非常に多いことにも驚きました。ケンブリッジを含むイギリスでも中国など東アジアからの留学生は増えていると思いますし、ロンドンのような大都市ではアジア系を含むあらゆる人種の住民がいます。ただ私が所属していた当時、約500人の保全科学者が集っていたCambridge Conservation Initiative(CCI)では東アジア人は時折見かける程度でした。自分の所属するコミュニティに民族・文化的に近い人がいるだけで何となく気が楽になるということも新しい発見でした。

大学構内でもかつ丼、ラーメン、海苔巻き等が売られているように、ケンブリッジ滞在時に比較して、日本食を手に入れることもかなり容易になりました。一方で、スーパーで売られている魚の種類がケンブリッジでよりも少なかったことは想定外でした。主に売られているのはバラマンディと呼ばれるスズキに近い種と養殖サーモンで、その他は魚屋でないとなかなか手に入らず、もうちょっと何とかならないものかといつも思っています。

大学に着任し、居室をもらって様々な人に挨拶した後は、しばらくの間、研究プロジェクトを立ち上げるために四苦八苦しました。予算管理システムの理解や発注の仕方等は待っていても誰も教えてくれないので、様々な部署に出向いて教えを請わなければなりません。プロジェクトのリサーチアシスタントや博士課程の学生募集や採用の手続きにも相当の時間が取られました。Fellowshipで雇用されている間は講義負担は少ないのですが、それでも初年度は50分×8コマの講義をゼロから作らなければならず、準備にほぼ2か月を費やしました。

採用が決まった博士課程の学生は、渡豪予定直前に始まったコロナ禍の影響で、結局ブリスベンに来ることができたのは予定の2年後となりました。その結果しばらく指導する学生がいない状態が続きました。ただこの期間は自分の研究を進めながら研究室の運営について学ぶいい機会だったと思います。Fellowship申請時にもサポートしてもらったフラー教授から、しばらくは協同でラボミーティングを行わないかと声をかけてもらい、彼のグループの定期ミーティングに参加するようになりました。フラー教授は渡り鳥の保全や都市緑地が心身の健康にもたらす恩恵等の研究で世界的に有名ですが、研究指導はもちろん、メンバーのメンタルヘルスにまできめ細かな気配りをしていることがすぐに分かりました。またクイーンズランド大学では各学生が複数の指導教官をもつことになっています。フラー教授が指導している学生の副指導教官となることで、具体的なノウハウも学んでいくことができました。幸いにも渡豪3年目の2021年あたりから今年にかけては他にも2人の博士課程学生、1人の学部生を主任指導教官として指導することとなりました。

大学では生物科学部に籍を置く一方、学部を超えたセンターとして、生物多様性保全に関わる研究を行う34名の教員、15名のポスドク、106名の学生から構成されるCBCSにも所属しています。ケンブリッジで所属していたCCIほどの規模ではありませんが、やはり一つの目標を共有しつつ多様な専門やアプローチを用いて研究を行っている人材が集まっていることには、共同研究の構築や情報・経験の共有、外から人材を呼び込むための相乗効果等、利点は多いと感じています。

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家のベランダによくやってくるワライカワセミ

オーストラリアという国の特徴としては、まず良くも悪くも他国から地理的に孤立していることが挙げられます。ヨーロッパ諸国と日常的に人材の行き来があったイギリスに比較すると、やはり他国との人の行き来には一つ壁があるように感じます。オーストラリアの多くの大学は国外からの留学生を受け入れることで成り立っている面もあり、CBCSもアジアや南米からの留学生が多く国際色豊かです。ただ海外からポスドクや在外研究を行うビジターなどが来ることは少ないと感じています(コロナ禍の影響もあると思いますが)。コロナ禍ではリモートでの学会参加などが進み、地理的な障壁の影響は小さくなりましたが、ヨーロッパやアメリカと時差が大きいことも研究交流を阻害する壁の一つとなります。一方、日本とはほぼ時差がなく、二国間での研究助成金等も多いので、今後日本との研究交流は増えていきそうだと感じています。

研究分野としては、海洋生物学の存在感が抜きんでているのには驚きました。これはもちろんグレートバリアリーフを始めとした素晴らしいフィールドに恵まれているため、国内外から海洋生物学を志す人材が集まってくることに由来すると考えられます。ハンバーガーショップで買ったお子様セットに様々な職業の人形がついてくる付録があったのですが、学校の先生、美術家、ライフセーバー(これもオーストラリアらしい!)、科学者などと並んで、「海洋生物学者」だけ独立に人形があったのには驚きました!

最後に、オーストラリアに来て何よりも特徴的だと感じたのは、国が移民で支えられているという強い意識です。イギリスには計9年近く住みましたが、最後まで自分達はあくまで移民で国民との間には埋められない溝があるように感じていました。一方、オーストラリアは移民の割合も高く(豪:29.8%; 英:14.4%; 日:2.2%)、多数派であるイギリス系の人々も元をたどれば移民であるという事情からか、移民も一緒に国を作っていく社会の一員であるという意識をごく自然と持ちやすいように思います。そのため民族的なマイノリティーという立場で、子供の教育も含めて生活を営んでいくのにとても適した国だと感じています。

長女が通う小学校は特に民族的多様性が高く、約三分の一の児童がオーストラリア国外の出身で、その国籍は50か国以上に及びます。そんな学校に長女が通い始めてすぐに、印象に残ることがありました。児童が集まる朝礼に親も参加できるのですが、そこでまず学校の目標の一つとして教えられていたのが、平等・多様性の推進でした。また多様性を尊重するための手段として、人と考えが違った場合に折り合いをつける具体的な方法まで1年生に教えているのです。自分が受けた学校教育とは国も時代もまるで共通点がないため、子供が学校や保育園で学んでくることは私にとってもどれも新鮮で、今後一緒に新しい学校教育を体験できることを楽しみにしています。

終わりの見えないコロナ禍、益々顕在化する気候変動の影響、止まらない生物多様性の損失。周知の通り時代は混沌としています。そんな中、娘達は友人達と毎日新しいことを学んでスポンジのように吸収しながら、青空の下ではつらつと遊んでいます。そんな姿を見ていると、希望は本当にここにあるんだなと心の底から実感することができるのです。毎日そのことに救われるような思いがしています。

話は少しそれましたが、次回は私が現在主導しているプロジェクトについて紹介して、この短い連載を終わりとしたいと思います。

(次回に続く)
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鳥関連イベント動画の紹介 『Cinema未来館 「ズートピア」 ―ちがっていても、いっしょに、いきる。』

遠藤幸子(広報委員)

みなさん、こんにちは!
タカの渡りの季節ですが、いかがお過ごしでしょうか。
今回は、お家にいる時間でも楽しめる、鳥関連の動画についてご紹介いたします。

ご紹介するのは、7月10日(日)に日本科学未来館で開催された『Cinema未来館 「ズートピア」 ―ちがっていても、いっしょに、いきる。』というイベントです!こちらのイベントの現地開催はすでに終了しておりますが、トークセッションのパートの動画が現在公開されています。

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イラスト:日本科学未来館 科学コミュニケーター 小林沙羅

イベントが開催された日本科学未来館は、東京都のお台場にある国立の科学館です。こちらで「ズートピア」というディズニー映画の上映と動物行動学者である鈴木俊貴氏を迎えたトークセッションがセットとなったイベントが開催されました。鈴木さんは、2018年に日本鳥学会の黒田賞を受賞されており、シジュウカラの研究などで鳥学会会員のみなさんはご存じの方も多いかもしれません。

トークセッションでは、研究からみえてきた鳥の混群の世界や映画にでてきた動物たちの関係性に迫りながら、「それぞれちがう存在同士が、一緒に生きるってどういうことなんだろう?」というテーマについて、鈴木さん、科学コミュニケーターの竹下さん、手話通訳士の和田さん、そして会場のみなさんといったさまざまな観点からお話が展開されていました。

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左から、手話通訳士の瀧尾さん、研究者の鈴木さん、科学コミュニケーターの竹下さん。
写真提供:日本科学未来館

当日の様子はYoutubeで公開されていますので、興味のある方はぜひご覧ください!(*映画「ズートピア」はご覧いただけませんのでご注意ください。)

動画は下記URLからご覧いただけます。
URL:https://www.miraikan.jst.go.jp/events/202207102527.html

*日本科学未来館の科学コミュニケーター小林沙羅さんが描かれた、素敵な混群のイラストも必見です!

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東京農大オホーツクキャンパス 野鳥研究会通信 その2

オホーツク野鳥研究会

 日本鳥学会会員の皆様、こんにちは。野鳥研究会です。こちらはそろそろ秋の気配です。8月末には,網走市街地より北に位置する常呂丘陵に,V字型になったヒシクイの群れが渡来しました。キャンパス内の樹木は早くも色づいています。皆さんが来られる頃には,丸坊主ですね。
 さて今回は、気軽に訪れることのできる網走周辺の鳥見スポット(第二弾)です。

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<網走市周辺鳥見スポット第二弾>

●濤沸湖
 2005年にはラムサール条約にも登録された,白鳥の湖として有名。読み方は「とうふつこ」で,アイヌ語で沼の口を意味する「トープッ(to-put)」を語源とします。オホーツク海に面した遠浅の湾が成長し,砂州に塞がれて誕生した,周囲27.3㎞,総面積900haの汽水湖です。四季を通して約250種もの野鳥が訪れる国内有数の渡り鳥の中継地で,近年では特定地域への立ち入りを制限する自主ルールも策定され,水鳥類の楽園となっています。
 JR網走駅から網走バスで約30分「白鳥公園入口」下車,徒歩5分ほどで白鳥公園に隣接した濤沸湖水鳥・湿地センターに到着します。または,網走駅から白鳥公園まで徒歩10分ほどの「北浜駅」まで釧網線に乗車すると,北国情緒あふれる車窓からオホーツク海の眺めが楽しめます。水鳥観察は湖東の白鳥公園と,道道467号にある湖西の平和橋がお薦めです。

*濤沸湖水鳥・湿地センターhttps://www.city.abashiri.hokkaido.jp/230boen_kankyou/tofutsu-ko/

<学会期間に観察が期待される鳥>
ヒシクイ・マガン・ハクガン・シジュウカラガン・オオハクチョウ・ヒドリガモ・アメリカヒドリ・マガモ・オナガガモ・コガモ・ホシハジロ・オカヨシガモ、ヨシガモ・キンクロハジロ・スズガモ・シノリガモ・ホオジロガモ・ミコアイサ・カワアイサ・ウミアイサ・カイツブリ・ミミカイツブリ・ハジロカイツブリ・カワウ・アオサギ・タンチョウ・ハマシギ・ユリカモメ・カモメ・シロカモメ・オオセグロカモメ・トビ・オジロワシ・オオワシ・ハイイロチュウヒ・ノスリ・アカゲラ・ハヤブサ・ハシボソガラス・ハシブトガラス・ハシブトガラ・ヒガラ・エナガ・ゴジュウカラ・カワラヒワ・アトリなど

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オオハクチョウの親子(鳥研部員撮影)

●こまば木のひろば
 網走駅やバスターミナルよりも山側(農大側)にある,農大生の多く住む駒場地区を中心に広がる森林公園です。自然に溢れた園内には四季折々の草花が咲き乱れ、エゾヤマザクラをはじめとした様々な樹木を見ながら散歩やバードウォッチングを楽しめます。エゾリスやエゾモモンガ、キタキツネなどに出会うこともあります。すぐそばに大きな道路が通り、住宅や商業施設が立ち並んでいるとは思えない,自然豊かな素晴らしい公園です。段丘上にあるためオホーツク海や知床連峰を一望でき,天気がいい日だと、写真のような光景を見ることができるかもしれません。ぜひ足を運んでみてください。公園入口に隣接する「はぜや珈琲」さんで温かいコーヒーをテイクアウトし,ベンチで少しゆっくりするのもお薦めです。網走駅やバスターミナルから網走バス「駒場8丁目」下車,最寄りの入口までは徒歩約2分ですが,入口は複数存在しますので,下記のサイトから案内図が掲載されたパンフレットをダウンロードしてお出かけください。

*こまば木のひろば https://www.city.abashiri.hokkaido.jp/040shisetsu/050sports/420kinohiroba.html
*はぜや珈琲さん https://hazeya-coffee.com/

<学会期間に観察が期待される鳥>
トビ・オジロワシ・オオワシ・コゲラ・オオアカゲラ・アカゲラ・ヤマゲラ・ハシブトガラス・キクイタダキ・ハシブトガラ・ヒガラ・シジュウカラ・シマエナガ・
ヒヨドリ・ツグミ・マヒワ・ベニヒワ・シメなど

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こまば木のひろばからのオホーツク海(鳥研部員撮影)

 第二弾はこれで終わりです。次回は気軽に行ける、網走周辺の海鳥観察スポットをご紹介予定です。

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2021年度日本鳥学会大会自由集会報告:W5 加速する風力発電と日本鳥学会の対応

風間健太郎(早稲田大学)・浦達也(日本野鳥の会)
佐藤重穂(鳥類保護委員会)・綿貫豊(北海道大学)
記事執筆:風間健太郎
脱炭素社会実現を目指し、風力発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入はますます進んでいます。風力発電は鳥類に様々な影響をもたらします。近年、鳥類に対しとりわけ大きな影響が懸念されるいくつかの風力発電建設計画に対して環境大臣意見が出されたり、複数の生物系学会や自然保護団体による声明・意見書・要望書が提出されたりしています。日本鳥学会においてもこれまでいくつかの風力発電事業に対して要望書を提出してきました。

一方で、急増する建設計画の動向や鳥学会としての対応を把握している鳥学会会員は多くはなく、学会としての情報の収集・提供体制は十分に整備されていません。この集会では国内各地で加速する風力発電の動向や学会および関連機関の動きを紹介し、今後研究者や学会員としてどのような情報収集・提供をしていくべきか、学会としてどのような体制を構築すべきかを議論しました(図1)。

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集会の講演内容を以下に記しますが、その前に集会以降の動きについて紹介します。2021年度大会終了以降、本集会の企画者らが中心となり「日本鳥学会風力発電等対応ワーキンググループ」設立が提案され、評議員会において承認されました(日本鳥学会評議員会報告)。ワーキンググループは、①導入が加速する風力発電に対する学会の基本理念の策定、②鳥類研究者、行政あるいは電力事業者向けの鳥類影響評価に関する指針の作成、および③個別風力発電事業に対する意見書案の作成を主なタスクとしています。このうち①については2022年度総会での承認を目指し現在急ピッチで準備が進められています。

ワーキンググループの活動や学会基本理念の内容について会員の皆様から引き続き広く意見を募るべく、2022年度網走大会においてワーキンググループ主催の自由集会を開催します。ぜひご参加いただき貴重なご意見をお寄せいただければ幸いです。

2021年度集会講演内容

1. 趣旨説明:風間健太郎(早稲田大学人間科学学術院)
 
 地球温暖化をくい止めるためにエネルギーミックスによる化石燃料の使用量削減が世界的目標とされています。風力発電は有効な再生可能エネルギーとして導入が世界中で進んでいます。日本においては2000年代に入って導入が加速しており(NEDO、図2)、2021年8月時点で400以上の建設計画があります(経済産業省)。政府主導のもと風力発電の導入を促進するためにゾーニング事業(環境省)や導入促進(有望)区域の選定(資源エネルギー庁)も行われています。

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 風力発電はバードストライクや障壁効果、生息地の喪失・改変など鳥類に様々な影響を及ぼします。風力発電の健全な導入のためにはこうした影響をつぶさに評価・予測し、それを軽減するための措置が求められます。しかしながら国内における現状の環境アセスメントではそれらが十分に達成できていません。さらに、現在国は風力発電の導入促進を図るために環境アセスメントの短縮(簡略)化を推進しているほか、環境アセスメントを義務づける風力発電の事業規模を拡大する制度の改正(環境省)を行いました。環境省は「風力発電における鳥類のセンシティビティマップ」を作成し鳥類のリスクが高い場所をあらかじめ地図化し公開(環境省EADAS)していますが、地域によってデータが不足していたり情報の空間解像度が十分に高くなかったりするなど、既存情報を用いた鳥類へのリスク予測の不確実性は高い状況にあります。これらの状況を踏まえ、今後国内における風力発電の健全な導入のためには、鳥類の専門家集団たる日本鳥学会による積極的な情報収集・共有の体制構築が求められます。

2. 風力発電事業に対する日本野鳥の会の活動:浦 達也((公財)日本野鳥の会 自然保護室)

(公財)日本野鳥の会は全国の風力発電事業に対して2003年より、「風力発電は立地選択によっては鳥類の生息等に影響を与える」として様々な活動を行っています。柱となる活動は、①政策提言・意見要望活動、②国内外の情報収集と事例紹介、③調査研究の3つです。

 ①は、国や地方自治体が主催の検討会への出席と意見陳述、アセス図書に対する意見書提出と事業者や行政機関との協議、②は、国内外の現地視察や学会参加、シンポジウム等の開催、野鳥保護資料集の発行、③は、国内情報の取りまとめ、カウンターアセス(対抗調査)、独自調査とその結果の学会発表や機関誌等での紹介です。今後、風力発電が適正な立地で建設されるために、研究者や学生の皆さまには、③の調査研究の実施を期待するところです。それは、英国やドイツなどの風力発電先進国のように、科学的証拠をもって影響把握や立地選定等を行うべきだからです。

3. 石狩湾を利用する海鳥:綿貫豊(北海道大学水産科学研究院)
 
 2050年までに温室効果ガス実質排出量を0にすることを目指して、自然再生エネルギーを得る様々な手法が検討・実施されています。風力発電もその一つです。陸上での建設は頭打ちになりつつあり、代わって洋上風力発電の計画と建設が加速しています。今後20年間でその規模を2000倍にするという案も出されており、海鳥へのインパクトが懸念されています。海鳥がよく使う場所を避けること、建設する場合でも細かい場所選定、軽減手法の検討と事後評価が必要です。

 石狩湾では最大100基1000MW規模の洋上風力発電施設群の計画が複数出されています。環境省はEDASに鳥類センシティビティマップ海洋版を公表しており、それによると石狩湾は比較的低リスクで湾の奥にやや高い海域があります。ただし、海上センサスではカモメ類、ウ類、カモ・アビ類に加えミズナギドリ類が観察されており(南波、浦:北の海鳥11号)、また、GPSトラッキングにより天売島で繁殖するウトウが150kmほど離れた石狩湾の奥で頻繁に採食する年もあることがわかりました(環境研究総合推進費4-1803)。近くにはウミネコの繁殖地もあり、慎重な情報収集が必要です。

4. 苫東地域の現状:先崎理之(北海道大学大学院地球環境科学研究院)
 
 自然度の高い環境がまとまって残る苫小牧市東部から厚真町西部の海岸部において、Daigasガスアンドパワーソリューションズ株式会社による(仮称)苫東厚真風力発電事業が現在進行しています。本講演では、北海道産鳥類の約50%に相当する238種が事業地において記録されていること、その中には40種以上の環境省レッドリスト掲載種が含まれていることを紹介しました。

 続いて、演者らによる2012年以降のモニタリング調査によって事業地内部とその周囲において4~8つがいのチュウヒの繁殖が毎年確認されており、特に海岸部の湿地で営巣数が多いこと、事業地でタンチョウが過去2回繁殖に成功していること、事業地が勇払原野に残存する最後のアカモズ繁殖地の一つであることを紹介しました。

 最後に、上記稀少種を含む鳥類に対する当事業の悪影響を鑑み、当事業の中止を求めて鳥学会が提出を予定している要望書について、その作成過程、苦労した点、現在までの進捗状況を紹介しました。

5. 鳥学会からの要望書の提出状況:佐藤重穂(森林総合研究所四国支所)
 
 日本鳥学会には委員会の一つとして鳥類保護委員会があり、鳥類の保護や生息地の保全に関する活動を担当しています。鳥類保護に関する学会決議や意見書を関係機関へ提出する際には鳥類保護委員会で内容を審議しています。近年、風力発電については、以下のような要望書を提出しています。

 これらの要望書等は単に提出するだけでなく、添付資料として保全の必要性を示す根拠を提示するとともに、必要に応じて科学的な知見を提供する準備がある旨を伝えています。

(仮称)苫東厚真風力発電事業に関しては、2020年12月に風力発電事業者に対して道央で最大規模の低湿地で多くの鳥類の生息地であり、保全の必要性のきわめて高い場所であることを提示する意見書を提出したものの、事業計画の再検討が見られなかったため、2021年度鳥学会大会での総会決議を準備するに至った経緯を紹介しました。

6. 総合討論
 
 総合討論では、はじめに風間から国内外の学会等による再生可能エネルギー導入に対する方針が紹介されました。日本生態学会態学会英国鳥類保護協会英国鳥類学協会などはホームページ等で再生可能エネルギーに対する基本的な考え方をそれぞれ公開しています。

 今後、日本鳥学会においても風力発電導入に対する何らかの方針を示すべきであるとの考え方が集会主催者より提案されました。さらに、①この方針案の策定、②鳥類研究者、行政あるいは電力事業者向けの鳥類影響評価に関する指針の作成、および③個別風力発電事業に対する意見書案の作成など、急増する風力発電計画に即応するためのワーキンググループを日本鳥学会鳥類保護委員会の下部組織として設立することが提案されました。

 300名以上の参加があった会場からは、これらの提案に対して好意的な意見が寄せられました。風力発電を「真の環境調和型エネルギー」とするべく鳥類に対する影響評価が拡充されるよう積極的に情報発信すべきとの意見が多数ありました。一方、指針を公開しても事業者に適切に利用されない可能性もあるため、行政へ積極的にはたらきかけたり、行政機関が公開しているアセスメント手引きの中で参照されるよう促したりするなど、情報発信のやり方には工夫が必要であるとの指摘もありました。

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日本鳥学会2021年度大会自由集会W1報告:JOGA 第 25 回集会「新たな局面に入った!? 今後のガンカモ類研究の発展を目指して」

東アジア・オーストラリア地域渡り性水鳥重要生息地ネットワーク
(ガンカモ類)支援・鳥類学研究者グループ
企画者:澤祐介(山階鳥類研究所)・嶋田哲郎(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団)・牛山克己(宮島沼水鳥・湿地センター)・神山和夫(バードリサーチ)

1.はじめに

 近年、東アジアではガンカモ類研究が飛躍的に進んでいます。その一端となったのは、中国の研究者らが中心となり、およそ1,000羽にもおよぶガンカモ類、ハクチョウ類を東アジアの広域レベルで大規模に追跡した研究で、その成果は2020年12月にWildfowl 特集号第6巻にまとめられました。まさにこれまで「線」であった渡りルートが「面」となった瞬間でガンカモ類研究は、新たな局面に入ったと感じました。

 一方、上述の大規模追跡には、シジュウカラガンやハクガンなどは含まれていませんし、まだまだ残っている課題もあります。これらの研究から、日本の地の利や研究ネットワークを活かした日本ならではの研究課題も改めて見えてきます。それらへの取り組みを進めていくため、どのようなことが必要になってくるのだろうか。本自由集会では、日本での研究課題に取り組むために必要な技術としての「捕獲・標識」に着目した、「EAAFPガンカモ類作業部会国内科学技術委員会」、日本の強みである全国の調査ネットワークを基礎とした市民科学促進を目指す「渡り鳥CEPAワーキンググループ」の取り組みを紹介しつつ、どう今後のガンカモ類研究を盛り上げていくか考えました。

2.東アジアのガンカモ類研究界隈で、今、何が起こっているのか(牛山克巳)

 世界中に水辺に分布するガンカモ類は,生態的多様性に富み,人との関りも深く,分類や進化,行動,野生生物管理などのモデル生物として,様々な学問分野の発展に寄与しました.

 ガンカモ類研究は社会的な関心も高い欧米で発展しましたが,日本においても1900年代初頭から黒田長禮氏や羽田建三氏による先駆的な研究がされ,1970年代からは地域ごとの生態や環境要因の解析,衛星追跡による渡り調査などの形で研究の裾野が広がってきました.しかし,それでもまだ比較的研究事例は少なく,国内におけるガンカモ研究はまだ発展途上にあると言えます.

 一方で東アジアを見渡すと,近年ガンカモ類研究の界隈で大きな変革が起きています.その中心は中国で,高病原性鳥インフルエンザ対策のための豊潤な研究予算,渡り研究にイノベーションを起こしたGPS発信機の開発,湿地保全への国家的な取り組みなどに後押しされて数多くの研究がされています.

 研究素材として有用で,研究を進める社会的背景にもめぐまれているガンカモ類の研究を,今後日本国内でも発展させていくためには,研究者がより手軽にガンカモを捕獲し,研究対象としての可能性を広げることが重要と考えられます.また,身近で目立つガンカモ類の特性を活かして,市民科学を拡充することもガンカモ類研究の可能性を広げる上で重要です.それらに関わる「ガンカモ類作業部会国内科学技術委員会」と「渡り鳥CEPAワーキンググループ」が両輪となり,ガンカモ類研究に新たなウェーブを起こすことができるのか...ご注目ください.

3.誰かいい名前を考えて!ガンカモ類作業部会国内科学技術委員会の紹介(澤祐介)

 東アジアで盛り上がっているガンカモ類研究ですが、日本のフィールドの特徴を活かした研究とはなんでしょうか?日本にはマガン20万羽以上が越冬する安定的な越冬地をかかえ、個体数カウントなどの調査ネットワークも整っています。さらには、コクガン、ハクガン、シジュウカラガンなど、日本が重要な中継地、越冬地となっている種がおり、東アジアで減少が著しいカリガネに関してはその個体数が増加してきています。まさに、日本が東アジアのなかでも「主」フィールドとして活躍する研究課題がたくさんあります。

 日本でこれらの研究課題を進めていく上で、制限要因になっていることは何だろうか?そのうちの一つは、「ガン類を捕獲し、標識することの難しさ」であると考えています。ガン類の捕獲には、罠を扱う技術、罠を仕掛ける場所の見極め、誘引、許可関係などなど、クリアしなければならないことも多数あります。これまで、捕獲は一部の技術者に頼ったものが多かったですが、それでは大規模追跡や標識数を増やしていくことはなかなか難しいと感じています。

 そこで私たちは、「捕獲・標識できる人を増やし、中長期的に研究が持続していく体制を整えること」を目的に「EAAFPガンカモ類作業部会国内科学技術委員会」を立ち上げました。この委員会の中では、ガン類捕獲に関連するマニュアルを整備したり、ガン類の主要渡来地で捕獲研修会を実施したりして、ガン類の捕獲ができる技術者を増やしていきたいと考えています。さっそく、2021年10月、2022年4月に宮島沼での研修会を実施し、5羽のマガン捕獲にも成功しました。

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罠の設置方法の研修
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マガンを罠で捕獲した様子

 ガン類の捕獲は、罠の取扱技術だけでなく、どの場所にいつ集まるのか?といった事前の下見や情報が重要です。罠の特性を知ったうえで下見をすることで、捕獲チャンスは格段にあがります。鳥を触ったことが無い方でも貢献いただけることはたくさんありますので、ご興味のある方はぜひ、今後開催される研修会にご参加いただけますと幸いです。

活動内容の詳細は下記のHPへ!
https://miyajimanuma.wixsite.com/anatidaetoolbox/awgstcjapan

4.カラーマーキング報告フォーム、はじめました(神山和夫)

 移動を調べるために首輪や足環を装着された野鳥がいます。首輪はプラスチック製、足環にはプラスチック製と金属製のものがあり、プラスチック製は色が付いているのでカラーマーキングと呼ばれます。観察した種や場所、日時などの情報を簡単に登録できるフォームがあれば記録が集まりやすいだろうと考えて、「ガンカモ類作業部会国内科学技術委員会」の活動の一環として、バードリサーチのWebサイトで2020年12月にガンカモ類を対象にしたカラーマーキングの報告フォームを公開しました。

 バードウォッチャーやガンカモ調査ボランティアの皆さんから情報が届くと予想していましたが、他にも野鳥写真家の皆さんからも多くの記録が寄せられ、2020/21年の越冬シーズンだけで105件の記録が集まりました。カラーマーキング報告フォームには、こちらのURLでアクセスできます。
https://www.bird-research.jp/1_katsudo/gankamo_hyosiki/index.html

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2020/21年にカラーマーキング個体が観察された地点と種別報告件数
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カラーマーキング報告フォーム

5.CEPAってなんやねん(牛山克巳)

 CEPAとは,communication, education, participation, awarenessの略語で,生物多様性の保全や持続的利用に,人々の理解と参加を求めるための手段全般を指します.もともとはラムサール条約において生まれた用語で,今では生物多様性条約やEAAFPにおいても取り入れられていますが,ラムサール条約ではCにcapacity buildingが加わったり,生物多様性条約ではconnecting, change of behavior, empowerment, policy instrument, actionなどを関連する用語として加えたりしています.

 ガンカモ類の保全管理におけるCEPA活動は,市民科学の拡充,サイエンスコミュニケーションの深化,ステークホルダーとの合意形成など,あらゆる面で重要です.そこで,CEPAに関する情報交換と協働取組を実施するため,2021年に渡り性水鳥の重要飛来地における自然系施設職員,関連NGO,研究者などがあつまって「渡り鳥CEPAワーキンググループ準備会」が発足しました.

 活動は始まったばかりですが,まずはYou tubeチャンネルを立ち上げて,月一で勉強会の様子を配信したり,Facebookグループをつくって情報交換を図り,交流を深めたりしています.引き続き,ガンカモ研究の発展につながるような広報・普及啓発活動や,研究者と現場関係者と市民科学の相互連携の強化などを進めたいと考えていますので,興味がある方はぜひご参加ください.

「渡り鳥CEPAワーキンググループ」のページ
https://miyajimanuma.wixsite.com/anatidaetoolbox/cepawg-japan

6.ついにシジュウカラ物語の本がでましたが、シジュウカラガンもハクガンも本格的研究はこれからですよ(呉地正行)

●アジアのシジュウカラガン回復

 ⽇本雁を保護する会は、シジュウカラガンの復活を願う⽇⽶ロの⼈々と協働し、約40 年をかけて千島列島から⽇本へ渡る群れを復活させた。

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日本国内でのシジュウカラガンの分布(日本雁を保護する会まとめ( ~ 2019/20)

 「シジュウカラガン物語」(京都通信社, 2021)は、シジュウカラガンはどのような鳥か、なぜ絶滅に追いやられ、どのように復活したのか、今後の課題など、その全史をまとめたモノグラフである。

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シジュウカラガン物語
(京都通信社, 2021)

 多数生息したシジュウカラガンは、20世紀初頭に繁殖地のアリューシャンと千島で相次いで始まったキツネの大数放飼のため、絶滅の淵へ追いやられた。
 
 アジアのシジュウカラガン回復計画は、⽶国の支援を得て始まり、1992年からは日米ロ3 国共同で実施し、熱い思いが運も味⽅につけ、約10,000 ⽻の群れの復活へと結びついた。

 近縁種で特定外来種のオオカナダガンも関連団体と協働し、野外除去に成功。農業者と協働し、「ふゆみずたんぼ」の普及も⾏い、大型水鳥の⽣息地保全・回復に貢献した。

 今後の課題は、DNA分析による個体群レベルの分類、 実施中のGPS送信機による繁殖地、渡りの経路、ホットスポットの特定。

●アジアのハクガン復元

 これまでの取組で、2,000羽程度にまでに復元できた。収集情報の冊子化を準備中。今後の課題は、実施中のGPS送信機調査拡充による繁殖地等の特定、モノグラフの完成。

7.おわりに

 本自由集会には最大115名の方々にご参加いただき、様々なご意見をいただきました。

 特に、これまで呉地氏を中心として日本雁を保護する会で実施してきたガン類の保護、復元の取組は、世界に誇る日本の成果であり、それらが下地となって現在の研究の盛り上がりがあることが言及されました。
 
 現在は、モニタリング、標識、衛星追跡、市民活動などすそ野が広がってきていますが、研究や普及啓発をどのような方向に向かって推進していくのかを示していくことが重要との意見がありました。特にガンカモ類の多くは現在、個体数が増加しており、その中での保全をどのように位置づけて考えるのかは今後の課題となりそうです。また、農業被害や高病原性鳥インフルエンザとの関わりも深いため、保全だけでなく、「管理」を含めて考えていくことも重要になってくるように思います。

 ガンカモ類研究は、皆さんから話題提供いただいた通り、たくさんの研究課題があり、最新技術の取り込みも行われています。今後、さらに多くの方がたにガンカモ類研究に携わっていただき、発展させていくことができればと考えています。

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日本鳥類目録第8版の編集について

西海 功(目録編集委員長)

 日本鳥類目録は1922年の初版発行以来10年毎の改訂を目指してきた。第3版までは目標通り10年おきに改訂できたが、第4版以降は短い時でも12年、長い時には26年も改訂に年月を要した。最新の第7版は2012年に発行されたので、次の第8版は10年後の2022年、つまり今年の発行が目標であった。2018年に第8版編集のための目録編集委員会が組織され、今年の発行に向けて準備が進められてきた。第8版では新たな試みをいくつか取り入れたが、特に大きな試みとして次の2つを実施した。一つはパブリックコメント(以下、パブコメ)の実施、もう一つは海洋分布の追加である。不運なことに、この編集の後半の追い込み時期にコロナ禍に見舞われた。新たな試みが予想以上に時間を要したことにコロナ禍による作業の遅延が重なり、2022年中には発行ができなくなり、2023年9月まで発行を延期せざるを得なくなっている。会員はもちろん、出版関係者や行政など関係する諸機関にも多大なご迷惑をおかけすることをお詫びし、来年9月の発行をお約束したい。
 パブコメの実施もあり、今回の目録の編集にあたっては多くの方々から意見が寄せられている。第一回のパブコメは、採用種・亜種とその学名と和名に関して2021年2月から4月まで行われた。第二回のパブコメは分布も含めて全体のことについておこなうが、11月の網走大会までにリストを提示して、来年1月末まで意見を募りたい。これまでにいただいた意見のうち比較的大きなこととの関りで説明を要すると思われることを以下にご説明したい。

1.日本鳥類目録とは?
 鳥類目録(Checklist)とは、ある地域(または世界全体)の種・亜種の分類学的な包括的リストで、分布地やそのステータス(留鳥、越冬、通過、迷鳥など)が示されているが、通常、形態情報や写真、生態情報は示されていないものである。その日本地域版が日本鳥類目録であり、日本鳥学会が発行する日本鳥類目録は幸か不幸か現在では唯一の日本鳥類目録となっている。しかし歴史的には20世紀初頭まで複数の日本鳥類目録が存在した(森岡, 2012)。また世界の鳥類目録はIOC World Bird ListHoward and Moore Complete ChecklistBirds of the World, Cornell LaboratoryClements Checklistなど多数ある。日本鳥類目録が現在1つしかないことで、日本の鳥類フィールドガイドや行政が日本鳥学会の目録に沿って鳥の種の分類や呼び名(和名や学名)を使うことが通例となっている。
 しかしBrazil (2018) のように、IOC Listを基本にして著者の判断も加えながら独自の分類でフィールドガイドを作ることもできる。このような図鑑を良く思わない人もいるが、私はむしろ歓迎したい。鳥の正しい分類というものが自然界には存在していると私は考えているが、その正しい分類を人が完全に認識しつくせるとは思っていない。全ての目録は仮説であって、その時点での科学的知見から見て、最も妥当と思われる分類を編集者が組み立てて提唱しているのが目録ということになる。図鑑の編集者は分類を特定の目録に依拠して編集することもできるし、気に入った分類がどの目録にもないなら独自の分類をおこなって図鑑を編集することもできる。例えばオーストンヤマガラが日本鳥類目録では種ヤマガラの一亜種として扱われているのに、Brazil (2018)では独立種として扱われているというように、異なる分類が採用されることで、一般のバードウォッチャーもその種・亜種の分類が定まっていないことが理解できる。
 日本鳥類目録は日本産種の選定を文献主義に基づいておこなっているが、「目録は分類も含めて文献主義を取るべき」と考える人もいる。ある分類を示唆する結果が論文で示されたなら無条件でそれを全ての目録が採用すべきで、もしそれに異論があるなら反論を学術誌に投稿すべきという。これは無理難題というもので、理想としてはあり得ると思うが現実的ではない。もしそれが現実的であるなら世界の鳥類目録が多数存在することはなく、どの目録も同じ内容になるだろう。しかし、目録第8版の出版後には、できるかぎり分類の根拠についても説明していきたい。
 日本鳥学会の目録は、幸いにも現在では唯一の日本鳥類目録で、多くの図鑑や日本の行政がその分類を採用しており、その結果、鳥の分類や呼び名についての混乱は日本ではそれほど大きくないと思う。不幸な側面としては、利用者には選択の権利が用意されていないことであり、また上記のとおり、分類が定まっていない場合でも、それを知ることが少し難しい面があることだろう。

2.和名について
 鳥の標準和名を定着させることについては、歴史的にも日本鳥類目録が大きな役割を果たしてきたといえる(森岡, 2012)。その点からも日本鳥類目録は鳥類和名について大きな責任を負っている。鳥類和名の規則や慣習については別稿に譲るが(西海, 2018)、和名について日本鳥類目録は慎重な検討をおこなってきたし、第8版の編集でもいくつかの大きな検討が行われている。目録第6版「はじめに」で詳しく説明されているように、主要な亜種の和名は種和名と一致させるという原則を日本鳥類目録は採用してきた。ただ、第8版ではそうすることで不都合が生じる場合には例外を躊躇なく設けることとした。ニシセグロカモメの亜種をホイグリンカモメとし、メグロの基亜種をムコジマメグロとすることがその例外に該当する。
 オリイヤマガラやオガサワラカワラヒワなどこれまで亜種として扱われてきたものを種に格上げする場合には、オリイガラやオガサワラヒワと短い和名に変更することにした。このような和名の変更には、大きな危惧を表明される方も複数おられたが、短くする利点を優先させていただいた。ウチヤマセンニュウがかつてシマセンニュウの亜種とされていた時にはウチヤマシマセンニュウという亜種名で呼ばれていたが、種に格上げされた際に短い和名にしたことなど日本鳥類目録の伝統を継承したことになる。ただ、リュウキュウサンショウクイとホントウアカヒゲは同様に亜種から種に格上げされるが、適切な短縮ができず和名の変更はない。
 逆に種サンショウクイは、リュウキュウサンショウクイが独立種となることで、単形種(亜種がない種)になるが、その和名を変えてほしいという要望があり、検討することになった。IOC Listの英名は、Ashy Minivetと元々呼ばれており、Ryukyu Minivetが独立種となった後も変わっていないが、このように種の枠組みが変わる場合、IOC Listでの英名はより適切と思われるものに変わることがある。例えば、メジロの英名はJapanese White-eyeだったが、中国南部の亜種simplexhainanusが別種として独立し、フィリピンからインドネシアに分布するmontanusが加わることで、Warbling White-eyeという英名がIOC Listなどでは与えられている。対照的にこれまで日本鳥類目録は種の枠組みが変わることでは種和名を変えたことはないが、今回は例外的に狭義の種サンショウクイには新たな和名ウスサンショウクイを充てることが検討されている。
 第8版への改訂に向けた検討の中で、最も大きな検討が行われたのは、アホウドリの和名についてだった。この和名を蔑称と感じ、不快感を表明し、和名の変更を求める意見を複数いただいた。この件は目録委員会だけでなく、評議員会でも討議された。生物和名の蔑称に関する自然史系関連学会での扱いを調査したところ、差別的用語を理由に動物標準和名を改称したのは、関連学会の中で魚類学会の2007年の改称のみだった。メクラウナギをヌタウナギに、バカジャコをリュウキュウキビナゴに改称するなどした(松浦, 2007)。その際の目的として「人権に対する配慮」と「言い換えや言い控えによる混乱を収めること」の2点が挙げられた。現在までのところ「言い換えや言い控えによる混乱」が生じていない動物名については差別的用語を含むものでも改称せず、和名の安定性をより重視するというのがこの問題の扱いの標準となっていると判断された。アホウドリの和名については今回の指摘で人権の観点から不快に感じる人が少なからずいることははっきりしたと思うが、この呼称による「混乱」の例は今のところ知られていない。もしも鳥学会がアホウドリの和名を「人権配慮」を理由に改称すると、関連学会への影響も懸念され、事前の説明と議論が不可欠となる。少なくとも第8版の改訂に間に合わせることはできないし、改称の方向で学会が動くことも少なくとも当面は難しいという判断となった。

3.まとめ
 パブコメなどを通して諸方面からいただいたご意見は、当然ではあるが委員全員が理解するように努めた。どれも理解できる意見ばかりだったと私は感じている。しかし、「こちらを立てればあちらが立たず」ということが起きてどちらかを選択せざるを得ないことが多くあった。また現実と理想とのギャップや私個人も含む鳥学会の力量不足から第8版で取り入れられない意見も少なからずあったことは率直にお詫びしたい。ただ、労力を割いて意見を提出したことが無駄だったと無力感を感じる方がもしおられれば、それは違うと申し上げたい。すべての意見が少なからず当委員会や各委員の認識の向上に役立ったと思うし、今後の鳥類目録に多少なりとも影響していくことになるとご期待いただきたい。
 今年は日本鳥類目録初版が出版されてからちょうど100周年にあたる。この記念の年に改訂第8版が出版できず、来年に延期になるのは誠に残念で、かつ申し訳なく思うが、パブコメの意見を検討できた(第2回についてはこれから検討できる)ことと海洋分布情報が追加できることはこれまでの日本鳥類目録にない大きな進歩であり、来年9月の出版に大いにご期待いただきたい。

引用文献
Brazil, M., 2018. Birds of Japan. Christopher Helm, London.
松浦啓一, 2007. 差別的語を含む標準和名の改名とお願い.
森岡弘之, 2012. 日本鳥類目録の変遷. 日本鳥学会誌, 61 (Special Issue): 74-78.
西海 功,2018. 鳥の和名.海洋と生物, 40(2): 139-141.

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東京農大北海道オホーツクキャンパス 野鳥研究会通信 その1

オホーツク野鳥研究会

日本鳥学会会員のみなさま,こんにちは。
日本鳥学会2022年度大会の開催地となりました,北海道オホーツクキャンパスの野鳥研究会です。網走で会員のみなさまにお会いできること,鳥に関するさまざまな研究発表に触れられることをたいへん嬉しく思っています。学会中の網走滞在がより充実したものになるように,これから,農大生目線でみた網走周辺の鳥見スポットやおススメの観光名所,食事処,注意点など、役立つ(かもしれない)情報を連載で発信していきたいと思います。大会に先立ち旅程を立てる際の参考にしていただければ幸いです。
さて、初回の今回は,気軽に訪れることのできる網走市周辺の鳥見スポット第一弾です。

<網走市周辺鳥見スポット第一弾>
●東京農業大学北海道オホーツクキャンパスフットパス:通称ファイン・トレール

オホーツクキャンパス内に作られた全長約5kmの散策路で,森林やオホーツク海などの自然景観と,農業の生産現場風景との共生と調和に関するプロジェクトの一環として,2002年に学生と教職員により整備されました。パッチ状に構成されるさまざまなタイプの森林内を巡るほか,一部は農場や家畜の放牧場に隣接します。天気が良ければ知床連山やオホーツク海を臨むことができ,開拓時代の遺産もあります。野鳥のほか,エゾリスやキタキツネなどさまざまな野生動物の生息地でもあり,学生の実習や調査に利用されています。また,動植物の四季の変化を楽しむことのできる,地域住民の憩いの場や散歩道としても親しまれています。
野鳥研究会は定期的にファイン・トレールで観察会を実施しており,学会開催時期には一時的に滞在するものも含めて,以下のような鳥たちを見ることができます。

[ファイン・トレールで会期中に観察できる可能性のある主な種]
トビ・オジロワシ(たまにとまる)・オオワシ(上空通過)・コゲラ・アカゲラ・クマゲラ(採餌)・ミヤマカケス・ハシボソガラス・ハシブトガラス・キクイタダキ・ハシブトガラ・コガラ・ヒガラ・シジュウカラ・ヒヨドリ・シマエナガ・ゴジュウカラ・キバシリ・ムクドリ・ツグミ・ハクセキレイ・カワラヒワ・マヒワ・ベニマシコ・シメ・カシラダカ・エミュー(飼育・鳥インフル感染防止のため現在非公開)

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ファイン・トレールでの冬の自然観察実習

ファイン・トレールには,どなたでも自由に立ち入ることができますので,学会プログラムの空き時間などに森の散策やオホーツクの風景をお楽しみください。また,大会期間中にはプチ・エクスカーションとして、ファイン・トレールにて朝の探鳥会を行います。私たち野鳥研究会の学生がガイドしますので,興味のある方は大会ホームページのエクスカーションのページをご確認ください。

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イギリスからオーストラリアへの異動について

海外での研究シリーズとして、オーストラリアで研究されている天野達也さんの記事を数回に分けてお届けします。天野さんは鳥学通信で以前「アマノノニッキ in ケンブリッジ」を連載されており(その1その2 | その3)、その続編となります。お楽しみに。(広報委員 上沖)
皆さんこんにちは。オーストラリア・クイーンズランド大学の天野と申します。2019年3月にイギリスのケンブリッジ大学からこちらに異動して、既に3年以上が経過しました。そのうち2年半はコロナ禍ということもあって、何もかもバタバタしていてオーストラリアへの異動についてどこかでお話するような機会もありませんでした。
ところが先日、突然ブリスベンに現れた上沖さんから鳥学通信への寄稿のお話をいただきましたので、回想する形になってしまいますが、異動の経緯やオーストラリアの研究環境について、また現在のプロジェクトなどについて、数回に分けてお伝えできればと思います。
まず今回は、なぜオーストラリアに異動することにしたか、についてです。
これはもちろん様々な要因が組み合わさった結果なのですが、大きく分けて二つの理由がありました。
一つ目は、ケンブリッジに8年間滞在し、そろそろ環境を変えるタイミングなのかなと感じたことにあります。
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去る直前のケンブリッジの様子
ケンブリッジには2008年から一年間を在外研究として、また2011年から2019年まではJSPSの海外特別研究員European CommissionのMarie-Curie Fellowship、さらに他2つのポスドクという立場で滞在していました。その間本当に素晴らしい環境で研究ができ、家族共々ケンブリッジという美しい街のことを、離れて何年も経った今となってもとても気に入っています。ケンブリッジでは研究職も比較的多くあるので、選り好みしなければもっと長く滞在することができたかもしれません。
ただ一方で、自分の研究も続けつつそろそろ研究室主宰者(PI)になるという次のステージに移りたいとも思い始めていました。そこでNERC FellowshipRoyal Society Fellowshipという制度にも2回ずつ応募しましたが、採用されませんでした。ケンブリッジ大学では他に関連分野でのPIの応募は滞在中皆無で、PIになるためにはイギリスの他大学に移るか、他国に移るかのどちらかしか選択肢はありません。
そこでケンブリッジ滞在後期には日本でのポジションにもいくつか応募しました。ケンブリッジには世界各国から学生やearly-career researcher(ECR)が集まってきており、その多くは何年かすると自国でポジションを得て帰って行きます。そんな姿を見ていて、自分もまた日本で研究したいという意欲が高まった時期があったのですが、結果としてご縁はありませんでした。
一方で、ケンブリッジにとても愛着があったので、イギリスの他大学でのポジションへの応募にはなかなか踏ん切りがつきませんでした。
もう一つの理由としては、環境を大きく変えてでも追及してみたいアイディアが出てきたという点があります。
ケンブリッジではウィリアム・サザーランド教授という本当に素晴らしい共同研究者且つメンターと多くの時間を過ごすことができました。特に彼が始めたConservation Evidenceという一大プロジェクトの成長を計10年程も間近で見ることができたことは、私の研究者人生にとってのとてつもなく大きな財産です。
まだ彼のプロジェクトに1人か2人しかメンバーがいなかった時期に、彼の自宅の近くを散歩しながら、なぜこのプロジェクトを始めたのか尋ねたことがありました。彼の答えは、「ニック・ディビスはカッコー、ティム・クラットンブロックであればミーアキャット(共にケンブリッジ大の著名な教授)、といったように多くの研究者にはその人の強みというものがある。自分もそういったものが欲しかった。」といったものでした。その時はそんなものかと思ったのですが、その後10年をかけて、一つのアイディアに多くの人を巻き込んで、本当にコミュニティや社会に変化をもたらしていく姿を見て、プロジェクトというものはこうやって形にしていくんだなと実感したものです。
この時の会話がその後もずっと頭に残っていて、自分の強みとは、自分が10年や20年かけて形にしていきたいものとは何だろうと自問する日々が続きました。
当時私は世界規模の水鳥モニタリングデータを解析することで、生物多様性の変化を明らかにし、その駆動要因を特定するという研究に取り組んでいました。それ自体は大変重要な課題であり、自分としてもやりがいを持って取り組んでいましたし、今でも続けています。ただ一方で似たような研究を行っている人も多く、正直なところ自分がやらなくてもこの分野の研究は何の問題もなく進んでいくだろうなと感じていました。あのグループがこんな論文を出した、こちらのグループはこの雑誌で発表した、といったような目で自分が周囲を見てしまうことにも、自分自身が周囲からそのように見られることにも嫌気がさしていました。そんなこともあって、世界中で誰もやっていない重要な課題、そして自分でないとできないことに取り組みたいと強く感じるようになりました。
幸いなことにその「自分でないとできないこと」の目星はある程度ついていたのです。2016年に言葉の壁が科学に及ぼす影響について論じた論文を発表していたのですが、ちょっとした思いつきで始めたこの論文に対して、周囲から大きな反響があることは感じていました。この論文の延長として趣味的に始めた作業を核として、それなりの研究計画をまとめることもできました。その研究計画をサザーランド氏や同僚に話した感触も上々でした。
とすれば、あとはその計画をどう実行するかだけです。するとちょうどその頃、オーストラリアでFuture Fellowshipというmid-career researcher向けのフェローシップがあることを共同研究者から聞いていました。一般にフェローシップとは研究に重点を置きながら学生の指導なども行うPIポジションで、制度の特性も私の意図によく合致しています。ただ多くのフェローシップはECR向けで、学位取得から10年以上経過していた私が応募できるものはほぼなく、学位取得から5-15年の人を対象とするオーストラリアのFuture Fellowshipは珍しい例と言えます。余談ですが、私のように学位取得後何年か経ってから海外に出る(私の場合は5年後でした)ことの利点として、経験や技術、アプローチなどがある程度確立できていることがある一方、ECR向けのフェローシップのように応募できる制度が後々限られてくるという点は欠点として挙げられると思います。
妻とも相談し、英語圏でイギリスと文化的にも比較的近いオーストラリアであれば、医療や育児、治安の面でも安心だろうという結論になりました。
いずれにしても、相当の時間と労力をかけて渾身の申請書を書き上げ、Future Fellowshipに応募しました。数か月経って、採用が発表された日のことは今でもよく覚えています。イギリスにしては珍しく暑く寝苦しい夜から目覚めた朝、受け入れ先となったクイーンズランド大学・生物科学部の学部長と、後に同僚となる何人かの研究者から祝福のメールがあり、また大学のニュースサイトでも他の採用者と共に紹介されていました。
自分の提案した研究計画が評価されたという喜び、新しい国や環境に向かうという興奮と共に、長らく滞在したケンブリッジとイギリスを本当に離れるんだなという寂しさが同時にこみ上げてきました。ただやはり当時は、とても気に入っていたケンブリッジという環境を離れてでも、新たなステージでのチャレンジをしなければ進歩がないという危機感を抱いていました。そのため、何よりそのチャンスを、しかも言葉の壁という突拍子もない課題に対して与えてくれたAustralian Research Councilに感謝する気持ちが強かったのを覚えています。
既に保育園で友達もできていた当時3歳の娘が引っ越しにどう反応するか心配でしたが、ビーチやカンガルー、コアラ、クジラが出てくるプロモーション動画を見せ、この国に行くんだよと伝えると、想像以上にあっさりと「いいね!」の一言をもらい安心しました。
残されたケンブリッジでの日々は本当に貴重な時間でした。サザーランド氏を始め多くの人たちが新しい門出を祝福すると同時に私が去ることを残念がってくれましたし、あらゆる道端や建物に様々な思い出が染みついているこの小さく美しい街に別れを告げるのは、本当に寂しいものでした。
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送別会の様子
いつものように寒い2月のある日、機内から後ろへと流れていく”Heathrow”の文字を見納めとして、日本経由でオーストラリアはブリスベンへと向かいました。
今回のところはここまでとし、次の原稿ではオーストラリアでの研究環境について書きたいと思います。
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日本鳥学会2022年度大会:W6 みんなで作ろう!目録8版(その2)

西海 功*・金井 裕・山崎剛史・小田谷嘉弥・亀谷辰朗・齋藤武馬・平岡 考・池長裕史・板谷浩男・大西敏一・梶田 学・先崎理之・高木慎介
(目録編集委員会)
*E-mail: nishiumi[at]kahaku.go.jp
※送信の際は[at]を@に変えてください

 「日本鳥類目録」は,日本国内で記録されたすべての鳥類を列挙し,それぞれの分類上の位置づけを明らかにし,生息状況を記した目録です.市販の図鑑類や,各種の鳥類調査,行政や法律など各分野で参照される基本文献であり,分類や分布の新知見を反映して定期的に改訂することが,日本鳥学会の社会貢献のひとつとして重要です.第8版の2022年発行にむけて編集作業を進めていますが,従来とは違った次の改訂の方針の一つとして,できる範囲で学会員の意見を聞きながら改訂を進めています.2021年2月から4月には掲載種に関わる第1回パブリックコメントを実施しました.いただいた投稿数は18件で,意見総数は20以上となりました.様々な角度からの意見をいただき,編集作業では見落としていた情報の指摘もあり,編集への大きな力となりました.現在は地域記録の整理と各種の解説文の作成を進め,第2回パブリックコメントへの準備を行っています.そこで,2019年の自由集会に引き続き,2回目の自由集会を開催して,日本鳥類目録の意義と第8版に向けた改訂作業について多くの会員に知っていただくとともに,会員の皆さんからのご意見をうかがいました.

日本鳥類目録発行の意義と目的

西海 功(国立科学博物館)

 一言で意義と目的を述べれば,日本の鳥について分類・和名と分布・生息状況を示すことによって,生物学の基礎情報としての分類および分類群名の国内の統一を図って科学的議論をおこないやすくするとともに,生物多様性の観点から日本の鳥について把握し,評価しやすくすることと言えそうです.例えば,いつも庭に来る鳥が,何という名前の鳥でどんな分類なのかを決めて提唱していることになります.より実用的には,絶滅危惧種(亜種)に指定されたのがどの範囲なのかも示していることになります.例えば,「イイジマムシクイ」が伊豆諸島に繁殖分布する集団のみを指すのか,吐噶喇列島の集団も含むのかといったことです.さらには,日本には何種の鳥がいるのかといった生物多様性の基本的な疑問に答えるためにも不可欠な文献といえます.
 第7版の主な掲載内容は,分類(上位分類と学名),種と亜種の和名,種の英名,種と亜種の(世界の)分布域,亜種の国内分布と生息状況(ステータス)および生息環境ですが,掲載内容には一定の決まりはなく,初版(1922年)以降変遷があります(下表参照).例えば,初版では原記載情報やシノニムリスト(同物異名情報)がありましたが,世界分布や生息状況,生息環境は示されていませんでした.次の第8版では,第7版を引き継ぐ予定です.
 改訂の具体的な作業としては,大きく3つあり,1)上位分類と学名(種・亜種の名称や分布範囲)の検討,2)それらの標準和名の提唱と検討,3)日本での鳥の記録の検討です.前2者は分類担当委員が,3)は記録担当委員が主に検討しています.最新の研究成果に基づいて分類をアップデートする際に苦心しているのは,過去の版との継続性と世界のチェックリストとの整合性の兼ね合いです.

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掲載予定種の分類の検討結果

齋藤武馬(山階鳥類研究所)

 鳥類目録に掲載される掲載種の分類が,どのようにして委員会内で検討されているのか,その方法について一通り概要を説明したのち,検討結果について,種レベルの変更,属名の変更,亜種レベルの変更の順に説明を行いました.
 まず,種レベルでは,26種について種小名が変更されます.その中で注目すべき種として,キジ,シジュウカラ,トラツグミ等を取り上げ,詳細を説明しました.さらに,別種の亜種であることが分かった種や,近縁種と同種となった種など,4つの変更例について紹介しました.
次に,属レベルの再検討により,属名が変更となった77種について説明しました.そのうちの64種に関しては,新称の属和名が与えられます.
 亜種レベルの変更に関しては,亜種そのものが無くなり,単形種となったのが15種,そのほか,亜種が種に昇格したり,他種の亜種になった例など7つの変更事例について紹介しました.また,2亜種については和名が変更されます.
 最後に8版発行に向けての課題について言及しました.第一に,「種の分布域のチェック」です.これは,日本国外にも分布する種について,その分布域の一部で種の分割があった場合,種の分布域の記載を変更する必要が生じるという問題です.第二に,「新規掲載種の順番」ですが,これは新しく目録に加わった種をどの種との間にリストに差し込むかという問題などです.第三に,「記録に疑義のある種(亜種)の分類の検討」です.観察記録において,記録された個体がどの種や亜種と判定されるかについては,時としてその同定が困難な場合があります.その理由としては,記録そのものが不確実な場合と,その分類群の分類がまだ不確定なため,どの種(亜種)に同定してよいか判断が難しい場合があります.このような課題について,今後次版の出版までに検討しなければならない現状の問題点を紹介しました.

掲載予定種の記録の検討結果

小田谷嘉弥(我孫子市鳥の博物館)

 記録担当からは目録8版の掲載予定種の検討について,実際に行った作業の過程を説明し,今後の課題について議論しました.目録8版では正確性と検証可能性を重視する方針で,文献において十分な検討が行われていない観察例は認めないこととし,目録7版掲載種のうち31種を検討種に移すことを提案しました(これらの変更の詳細については,第一回パブリックコメントのファイルをご覧下さい).しかし,掲載種とならない見込みの種・亜種の中には,同定に誤りがないと考えられるものや,複数回の観察例があるものも含まれています.今後は,これらの種・亜種の記録について正確性と検証可能性を担保する文献として発表していくことが望まれます.

今後の進め方*

金井 裕(日本野鳥の会)

 目録8版は,来年の鳥学会大会前の9月初旬の発行を目指しています.現在は,分類について募集した意見の整理を終えて,10月末を目標に地域記録の集約を進めています.その後は1月末を目標として目録本文の原稿案を作成し,2月・3月で原稿内容の地域記録記載について,第2回目の意見募集(パブリックコメント)を予定しています.4月から7月にかけては,いただいた意見による記載の修正を行い,8月初めに原稿を完成させて印刷に入るというのが現在の予定です.スケジュールとしては,かなり厳しいのですが,来年の鳥学会大会の日程に合わせて作業を進めて行きますので,みなさんのご協力をお願いします.
(*「今後の進め方」でのスケジュールは2021年9月時点での予定を記しています.かなりの遅れが出て,現在第2回目の意見募集を鋭意準備中となっています.)

質疑応答
 以上,4名からの発表の後,発表内容あるいは目録全般に関してのご質問やご提案を参加者の皆さんから受けました。チャット機能を使って質問・提案をいただきつつ,できるだけ口頭でも補足いただきました.司会は平岡が務めました.
 分類に関連しては,目録改訂は現在10年ごとに更新されているが年々発表される分類変更に追いつかない場合があるため随時補遺を刊行することの提案,日本鳥類目録で用いている亜種の定義についての質問,シノニムリストの掲載の要望をいただきました.第8版出版後は目録編集委員会を常設委員会にして,目録の毎年のアップデートを和文誌等で示したいこと,亜種は形態的に区別できる異所的集団ととらえていること,シノニムリストの掲載は煩雑になるため古い版のPDFの公開でそれを補いたいことをそれぞれ説明しました.
 記録に関しては,目録の記録の目的は,「文献記録の整理」ではなく,「現在の日本の鳥類相を記録すること」なので,学術発表を原則としつつも,確実な記録は追加する柔軟性があるべきだとの指摘がありました.これについては,そもそも「確実な記録」かどうかを判断する際に文献主義を取るべきである,というのが目録編集委員会としての考えです.また,分布情報については全国鳥類繁殖分布調査の結果,博物館の標本情報も活用すべきという提案がありました.これについては,文献での検討が要求されるのは,国内初記録となるかの判断に関してであり,記録僅少種以外についてはそのようなソースも踏まえて都道府県別に収集した情報を反映していきたいと考えています.
 和名については,リュウキュウサンショウクイを別種とするに際して,新たな種サンショウクイの和名には修飾語をつけることが,従来からの観察記録との区別や,今後,分類変更が周知されるまでの観察記録を生かすために必要だという提案があり,再検討することになりました.また,タネコマドリでは,分類の改訂によって亜種和名が実際の分布と乖離することになるので,和名変更の提案があり,取り入れる方向で検討することになりました.さらにアホウドリという和名は蔑称にあたりふさわしくないとのご意見もいただきましたが,2021年3月の評議員会での議論の結果を紹介し,第8版では変更せず継続課題であることを説明しました.
目録における外来種の掲載位置について,キジやヤマドリなど,国内移入があって両方に分かれているのはわかりにくいとのご指摘があり,亜種不明の移入についても亜種が判明している移入(つまりIB)と同様にPart Aにも記載することを説明し,また,在来種と外来種を統一したリストの要望については,ホームページでの統一リストの公表を予定することにしました.
 分類,記録,その他の項目についてさまざまな質問や提案があり,時間を超過しての意見交換となりましたが,たいへん有意義なものでした.第8版で取り入れることが難しい提案についても今後継続して検討していきます.

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