広報委員長退任のご挨拶

森さやか(酪農学園大学)

2021年も残りわずかとなってまいりました.私は12月末をもって2期4年間勤めた委員長任期の満了を迎えることになりました.広報委員会では,学会Webサイトの日々の更新やエラー修正,サーバーおよびメーリングリストの管理,この鳥学通信の運営とSNSでの情報発信などをおこなっています.委員のみなさんにはそれぞれ本業でお忙しい中,委員会活動を円滑に進めるべくご協力いただき,誠にありがとうございました.

この4年の間に学会のWebサイトは,各種委員会ページの様式変更,会員マイページや役員選挙のサイドメニューの追加,リンクポリシーの掲載,SNSリンクボタンの設置などの仕様変更を進めてまいりました.任期の後半には広報委員会の活動にも少なからずコロナ禍の影響がありました.2020年度は大会が中止となり,総会も初めて書面総会となりました.それに伴い,Webサイトには例年とは異なった編集作業も生じました.鳥学通信には例年大会関連の報告記事が多かったのですが,それがなくなってしまったことから目標投稿数を大幅に下回ってしまいました.そのような状況下でも,鳥学通信には毎日100名を超えるユーザーのアクセスがあり,記事が連動投稿されるFacebookやTwitterのフォロワー数はこの2年間で大幅に増加し続けています.今年度は大会が初のオンライン開催となりましたが,報告をたくさん掲載することができ,読者のみなさんにもお楽しみいただいているようです.前例のないオンライン開催にご尽力いただいた大会事務局のみなさん,報告をご投稿いただいたみなさん,ありがとうございました.

鳥学通信では今年度は特に,大会報告だけでなく様々なトピックで積極的な記事集めに努めています.ニューノーマル時代に会員相互の情報交換や次世代の若者を含めた学会外への情報の発信を促進し,鳥学会の活動を盛り上げる一助となればと願っています.鳥学通信は委員からの依頼がなくても会員の方なら誰でもいつでもご自由に投稿していただけます(投稿先アドレスは本ブログのヘッダーに記載されています).調査・研究,教育活動の紹介や宣伝などにお気軽にご活用いただければ幸いです.

1月からは委員長は上沖正欣さんに交代しますが,私ももうしばらくは引き続き委員として活動してまいります.これをお読みのみなさんにも原稿執筆のご相談を差し上げることもあるかと思いますが,その際はご協力どうぞよろしくお願いいたします.

8170500F-A37D-464E-A768-A6F073A374AA.jpeg

画像がないとさみしいので,4年以内に見て最もうれしかった鳥の写真を上げておきます(ナキイスカ オス 2019年10月29日 利尻島).

この記事を共有する

鳥の学校(2019年):第11回テーマ別講習会「高病原性鳥インフルエンザと野鳥~最近の情勢と野鳥調査者のための基礎知識」の報告

吉田保志子(企画委員会)

 
 鳥の学校-テーマ別講習会-は、大会に接続した日程で、さまざまなテーマで開催しています。今年度は「鳥類調査のための法律講座~知っておきたい基礎知識」を、初めてのオンライン開催で行いました。 この報告は今後、和文誌学会記事や鳥学通信でお届けすることとし、今回は一昨年(2019年)のテーマ別講習会「高病原性鳥インフルエンザと野鳥~最近の情勢と野鳥調査者のための基礎知識」について報告します。
 
 2020年度冬シーズン(2020-2021)の国内では、2018年1月以来となる家きんでの高病原性鳥インフルエンザ発生がみられました。世界的にも発生が相次ぎ、ウイルスを保有する野鳥が多く、環境中のウイルス濃度が高い状況にあると考えられました。冬鳥の渡来時期を迎え、今年の状況が心配されるところです。
 
 今回の報告では、当日の配布資料もご覧いただけます。高病原性鳥インフルエンザと野鳥に関わる情報がコンパクトにまとめられており、感染を広げないために鳥類調査や野鳥観察においてとるべき具体的な消毒方法も知ることができますので、ぜひご一読ください。
 
 2019年のテーマ別講習会は、大会と連結して、大会初日の9月13日に帝京科学大学千住キャンパスで行われました。鳥インフルエンザウイルスはもともと野生の水鳥類を宿主とする病原性の低いウイルスですが、近年は高病原性に変異して野鳥や家きんに感染する例が増加しており、野外に高病原性鳥インフルエンザウイルスが存在することを前提とした対応が求められる状況となっています。この講習会では、野鳥と鳥インフルエンザに関わる最近の情勢や対策状況、野鳥観察や捕獲調査の際に気を付けるべき点など、野鳥と接触する機会の多い鳥学会会員として知っておきたいことを解説していただきました。

講義の様子.jpg
講義の様子

 
 講師は講演順に、金井 裕(日本野鳥の会)、森口紗千子(日本獣医生命科学大学)、安齊友巳(自然環境研究センター)、大沼 学(国立環境研究所)、牛根奈々(日本獣医生命科学大学)、原口優子(出水市ツル博物館クレインパークいずみ)の6氏をお迎えし、森口氏には講師代表として全体の構成や内容の相互調整などのとりまとめも担当いただきました。参加者は43名で、若手からベテランまでさまざまな立場の方々がおられました。
 
 最初の講演は金井氏による「拡散!! H5Nx高病原性鳥インフルエンザ」で、鳥インフルエンザとはどのような感染症なのか、野外でのウイルス拡散、北半球における野鳥の感染状況、養鶏業や野鳥の保全との関係などについて、幅広い視点から解説されました。昼食休憩を挟んで、午後から森口氏による「国内の高病原性鳥インフルエンザ検査体制における現状と課題 -野鳥から動物園まで-」で、自治体や地方環境事務所がとっている検査体制とその課題についての解説があり、安齊氏による「鳥インフルエンザに対する野鳥の緊急調査 -調査の現場から-」で、国内で高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された場合に行われる緊急調査の実際を紹介されました。大沼氏による「高病原性鳥インフルエンザウイルスの感受性種差を培養細胞で評価できるか?」では、希少鳥類への影響を評価するための培養細胞を用いた試験が紹介されました。
 
 つづいての実習では、7つの班に机を移動して分かれ、牛根氏による「フィールドでの注意点 -病原体に感染しないため、そして運び屋にならないために-」が行われました。消毒薬の種類別の特性と適用対象についての解説の後、各班に「観察時の携行品」として渡されたナップザック内の物品を使って、野外観察の後に何をどのように消毒するかを班メンバーで考えて発表するという実践的な課題が出されました。「観察時の携行品」は班によって異なっており、参加者は熱心に話し合って、適切な消毒について理解を深めました。最後に、原口氏による講演「出水市でツル類に発生した高病原性鳥インフルエンザの状況報告」があり、希少鳥類の集団越冬地と養鶏業が隣り合う立地における対応状況を解説されました。

実習(班ごとの結果発表)の様子.jpg
実習(班ごとの結果発表)の様子

 
 参加者からは、鳥インフルエンザの全体像を短時間で理解することができて良かった、幅広い話題が提供され、どれもわかりやすかった、実習の設定が身近で印象に残った、といった感想が寄せられ、有意義な機会となったことがうかがわれました。最新の情報をまとめた講義や、興味のわく実習を準備してくださった講師の方々、会場の確保や当日の進行を支えてくださった全ての方々に深く感謝申し上げます。

この記事を共有する

2019鳥の学校「高病原性インフルエンザと野鳥」に参加して

松井 晋(東海大学)

 この10数年で、渡り鳥が飛来する時期になると「高病原性鳥インフルエンザ」のニュースがたびたび取りあげられるようになりました。防護服を着た数百人以上の作業員が、養鶏場で大量のニワトリを殺処分して消毒作業を進めているニュースをみると誰しもが不安になります。これほど社会的にも経済的にも大きなインパクトを与えている高病原性鳥インフルエンザウイルスですが、インターネットで調べた情報だけでは、なかなかその全容を理解することができず、「今いったい何が起こっているのか?」、「どのような対策が進められているのか?」ということが気になっていました。今回の鳥の学校は、まさにこのような疑問に応えてくれる内容で、高病原性鳥インフルエンザの最近の情勢や対策、野鳥と接触する機会の多い私たちが気を付けるべきことなどを6名の分野の異なる講師陣から多角的に学ぶことができました。

班に分かれて実習.jpg
班に分かれて実習

 
 最初に、人と動物およびそれを取り巻く生態系をひとつとみなして包括的に問題を解決していくことを目指した「One World-One Health」の考え方が紹介されました。人と動物の両方がかかわる感染症の対策は、生態学でいう複雑な生物間相互作用の中に人や家畜も組み入れたようなマクロな視点をもちながら、病原体が伝播する特定の感染経路を絞りこんで適切に対処しなければいけないので、とても難しい課題だなと感じました。そしてこのような課題だからこそ、さまざまな関係者が分野横断的に連携する必要があるということを理解することができました。またH5N1亜型のウイルスがこの20年間で変異を繰り返して北半球に広がっていった状況などの説明を聞いて、高病原性の鳥インフルエンザの対策には国際協力が不可欠だということもよくわかりました。

 国内では高病原性鳥インフルエンザウイルスに対してどのように対応しているのか?ということいついても、その対応の流れや出水市の具体例について大変興味深い話を聞くことができました。まず野鳥については野鳥マニュアル(環境省2018)、飼養鳥については飼養鳥指針(環境省2017)に沿って行われる鳥インフルエンザの簡易検査、遺伝子検査、確定検査などの対応フローについて説明がありました。また早期警戒や飼養鳥の安楽殺等の重要な判断をする情報として確定検査結果を利用するためには検査時間の短縮が大きな課題であるという指摘も演者からありました。そして、いざ高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認された場合に、発生地点を中心とする半径10㎞の範囲で実施される緊急調査についても解説がありました。また高病原性鳥インフルエンザが過去に発生している出水市で環境省・鹿児島県・出水市・鹿児島県ツル保護会が合同で実施している監視活動についての説明もありました。出水市の一連の活動の中で最も印象に残ったのは、基幹産業となっている養鶏業者が高病原性鳥インフルエンザの発生を未然に防ぐ活動を自衛のために積極的に進めているという点でした。これはまさにワンヘルスのアプローチで様々な関係者が積極的に対策しているモデルケースのように感じました。

 高病原性鳥インフルエンザウイルスの各種鳥類に対する病原性に関する最新の研究も紹介されました。鳥インフルエンザウイルスの病原性はニワトリをもとに高病原性と低病原性が決定されているそうで、高病原性鳥インフルエンザウイルスに感染した際の死亡率は鳥類種によって異なるようです。そのため各種絶滅危惧種の細胞を活用して、さまざまな鳥類の高病原性鳥インフルエンザウイルスの感受性を評価するための手法が考案されているそうです。今後の研究成果が気になります。

 講演の間には、「フィールドでの注意点」と題する楽しいグループワークもありました。ここでは講師から「バードウォッチャーが病原体の運び屋になる可能性がある」という鳥好きの私たちにとっては衝撃的!?な事実が指摘されました。そしてフィールドで動物由来の病原体に感染しないためは、節度ある行動(むやみに生体・死体・痕跡に触れない)と昆虫対策(例:マダニ)が重要だという注意がありました。さらに私たちが病原体の運び屋にならないために、各グループに配られた持ち物を使って、フィールドに出かけた際に現地で靴、機材、皮膚などを消毒する方法や手順をグループのメンバーで話しあいました。このグループワークでは持ち物に含まれていたウィスキーを消毒のために使用するべきか、これは講師が仕組んだ引っ掛けではないのかということなどをメンバーであれこれ楽しく議論することができました。

バードウォッチング後の消毒として出された「お題」.jpg
バードウォッチング後の消毒として出された「お題」

 
 今回の鳥の学校で鳥インフルエンザについて総合的に学ぶための貴重な機会を提供していただいた鳥学会企画委員会の皆様、会場となった帝京科学大学の方々、そして興味深い話題を提供していただいた講師の皆様に感謝申し上げます。

この記事を共有する

女性リーダーが例外ではない社会を目指す ~第18回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム参加報告~

中原 亨・山本麻希・堀江明香(企画委員)

2020年10月17日、新型コロナウイルス感染症の影響で対面での大きな会議ができない中、第18回男女共同参画学協会連絡会シンポジウムがオンラインで開催された。鳥学会からは毎年オブザーバーとして企画委員が参加しており、本年度は山本・堀江・中原の3名が参加した。今回のテーマは「女性研究者・技術者の意思・能力・創造性を活かすために~女性リーダーが例外ではない社会をめざして~」であった。

当日は、午前中に分科会と特別企画が行われた後、午後に4題の基調講演が行われた。分科会では、JAMSTECの原田尚子氏から南極越冬隊におけるリーダー像模索の体験談、(株)協和発酵の神崎夕紀氏からキリングループの取り組みとキャリア形成における体験談、そして前日までワークショップを担当されたニューヨーク州立大学ストーニーブルック校のLily Cushenberry氏から、心理学的側面から考えるリーダー像、革新的な試みを進める上での環境づくり、科学・技術・工学・数学分野(STEM)での女性のキャリア形成における課題等についての話題提供があった。その後、特別企画として第18回連絡会における提言・要望と、コロナ禍における研究者の活動実態に関する調査報告が行われた。

午後の基調講演の最初の講演者は東京大学の上野千鶴子氏。「男女共同参画はゴールかツールか?」というタイトルのもと、男女共同参画の実態と課題について話題提供があった。まず2003年に提示された男女共同参画目標の「202030」(2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%程度になるよう期待する)の数値目標を達成できなかったこと、そして雇用の面では女性の就業率は増えてきているものの、その約6割が非正規であり、男女の賃金格差が生まれていることなどが紹介された。女性研究者を取り巻く問題にも触れ、婚姻率が低いことや、女性研究者の生存戦略として、先端的な、男性とかぶらないニッチの、小規模なテーマを突き詰めていくことを実践している方が多いことなどが紹介された。さらに、「女性を増やすこと」がどういう意味を持つのか、という点に関して、ジェンダーと密接にかかわる言語が変わることによって学問が変わるという人文科学系研究者の意見や、性差医学が向上するという生命科学的側面など、具体的なメリットについての言及があった。最後に、男女共同参画を目的達成のためのツールとして考えるならば、「社会的公正」「効率性の向上」「社会変革」がその目的となりうる可能性があることが述べられた。そして、様々な社会問題が存在する中で持続可能性が叫ばれる現代において、安心して弱者になれる社会を創りたい、という内容で締めくくられた。
2人目のElyzabeth Lyons氏(米国国立科学財団NSF)からは、NSFが実施した、女性がSTEMに参加できるようになるための取り組みについての話題提供があった。早い段階からSTEM分野に興味を持ってもらうための、大学生までの女性向け教育プログラムを長年にわたって実施するとともに、組織のトップの考え方を変えていくためのプログラムを開始したことによって女性の個人向け支援から組織向けの支援へと広がりを見せたことが紹介された。

3人目の渡辺美代子氏(科学技術振興機構)からは、世界から見た現在の日本の男女共同参画の状況と、さまざまな調査事例・研究事例が紹介された。世界から見て現在の日本は、教育面では高水準であるのに対し、創造的・主体的人材の育成や女性の参画が不足していること、SDGs達成目標の「ジェンダー平等」が「達成に程遠い」とされる3か国に含まれてしまっていることが指摘された。一方で、高水準とされる教育面においても学力到達度の男女差が近年拡大していることも指摘された。男女差や男女混合チームについての興味深いデータも提示され、点数で評価される科学オリンピックでは男子の、口頭発表で評価されるSSHでは女子の受賞率が高いという違いや、男女混合グループの研究論文の評価や特許の経済価値が相対的に高いことが紹介された。さらには、無意識のバイアスの存在を理解することの重要性と、無意識のバイアスにとらわれないための女性限定公募の必要性についても述べられた。

4人目の栗原和枝氏(東北大学)からはまず、学協会連絡会の歩みについての紹介があった。連絡会立ち上げの経緯や、連絡会が実施した大規模アンケートに基づいて様々な提言が提出されたこと、それらの貢献等によりRPD制度が創設されたことなどが紹介された。次にご自身の研究歴と体験談の紹介があった。最後には若い世代に対して自分で限界を作らずに活躍してほしいとのエールが送られ、世代にあった男女共同参画のための活動をおこなうとともに、社会貢献を考えた研究活動を行ってほしいというメッセージで締めくくられた。

すべての講演が終わった後には、講演者によるパネルディスカッションが実施され、高校における文理選択の問題点の指摘や、ワークライフバランスについての講演者の意見紹介、男女の壁を越えるための仕組みづくりに対する意見紹介、女性研究者が増加することによる科学技術分野への貢献は何か、といった議論がなされた。オンラインで参加者間の顔が見えないシンポジウムであったが、多岐にわたった話題提供と議論がなされ、盛況のうちに幕を閉じた。

以下、講演を通して考えたことや感じたことを各参加者の言葉で綴り、参加報告とさせていただきたい。

今回初めてシンポジウムに参加する機会を得たが、視聴した講演の内容は「無意識のバイアス」を強く意識するものであった。無意識のバイアスとは、自分でも気づかないような、ものの見方や捉え方の偏りのことであり、以前の堀江さん藤原さんの記事でも触れられている。今までの組織は過去の男性社会の中で構築されてきたものが多く、その根底には男性の無意識のバイアスが存在する可能性がある。そうした中で構築されたルールや評価軸には、女性に不利に働いてしまうものもあるかもしれない。いかに公平に判断を下そうとしても、その基準となるルールや評価軸に男性の無意識のバイアスが反映されてしまっていたら、それは公平とは言えないだろう。しかし男性のみで構成されている組織であったら、そのバイアスに気づかないかもしれない。組織運営において適切な男女比率を達成することは、こうした問題を解決し真の男女共同を実現するために必要不可欠である。そして男性は自分では気づきにくいからこそ、過去に男性社会の中で作られた組織内では特に、無意識のバイアスの存在可能性を意識しながら動くことが必要であると感じた(中原)

中原さんが午後の内容を中心に書いてくださったので、午前中の感想を書きたいと思います。最初の講演の原田氏のお話しは、南極観測の隊長という重責を果たされたご経験のお話だった。南極という極限環境のもと調整型リーダーシップは女性の方が向いているかもしれないというお話があった。一方で、女性リーダーの下で働きたくないという偏見もあるという。昨今のコロナを見ると優秀な女性リーダーが目立つように思うが、どこでも女性リーダーを熱望されているのに、なりたいという人がいない中、勇気をいただいた体験談でした。あと、キリンホールディングスが行っている“なりきりんパパ、ママ制度”はとても面白いと思いました。体験したことがないと子供がいる人の苦労はわからないということで、バーチャルであっても“いきなり子供が熱を出したから帰ってくださいというシチュエーションが発生し、保育所から電話がかかってきて、その体験者はその場で仕事を止めて帰らなくてはならないという体験を通して、パパママの苦労を身ともって知るのだとか。そこまでやるんだと思う一方で、会社全体としてそのようなユニークな取り組みをしているキリンの本気を見た気がします。(山本)

「彩度対比」あるいは「明度対比」という目の錯覚をご存じだろうか?同じ色でも、鮮やかな、あるいは明るい背景色に重ねた場合はくすんだ暗い色に、彩度の低い暗い背景色に重ねた時は鮮やかな明るい色に見える。今回のシンポジウムのパネルディスカッション中で議論された「女性限定枠の是非」について、科学技術振興機構の渡辺美代子氏は、男性の中に混じると女性は一段、低く評価されるため(無意識のバイアス)、そもそも公募の入り口から男女を分けるべきだ、と主張した。男性ばかりの組織では男性が選ばれやすい(無意識のバイアス)。女性限定公募も、女性割合の目標も、これらのバイアスを効果的に排除するために設けられている。強制力のあるやり方以外で、男女平等を達成できた社会はほとんどない、と渡辺氏は強調した。今回のシンポで一番、みなさんに伝えたいと思った点である。感想としては、「なりきりんパパママ」はとても面白い取り組みだと感じたし、渡部氏には女性研究者のロールモデルとして強い魅力を感じたし、上野千鶴子氏の「男女共同参画はゴールかツールか」という問いかけにはハッとさせられた。心新たに、今後の情報に注視していきたい。(堀江)

この記事を共有する

遅い思考「システム2」を意識せよ!意思決定にひそむバイアス-男女共同参画シンポジウム参加報告-

大阪市立自然史博物館 堀江明香(企画委員)

2002年、プリンストン大学の名誉教授ダニエル・カーネマンは心理学者でありながらノーベル経済学賞を受賞した。ダニエル・カーネマンの専門は意思決定論および行動経済学である。彼は、我々が日常的に下している意思決定のしくみを、直感的・感情的な「速い思考(システム1)」と、意識的・論理的な「遅い思考(システム2)」という比喩を使って説明した。大変面白いので、2012年に邦訳された彼の一般向け著書「ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?(早川書房)」の一読をお勧めするが、かいつまんで言うと、我々は通常、直感的な「システム1」を自動運転させて意思決定を行っており、違和感や熟慮を要する事態になると「システム2」が論理的思考を開始するらしい。本書に載っている、以下の問題を考えてみてほしい。

・バットとボールは合わせて1ドル10セントです。
・バットはボールより1ドル高いです。
・ではボールはいくらでしょう。
即座に10セントという答えがひらめくのは「システム1」のおかげだが、もちろんその答えは間違っている。本書に記載された「システム1」の重要な特長は以下のようなものだ。
*認知が容易なときにそれを真実だと錯覚し、心地よく感じ、警戒を解く
*信じたことを裏付けようとするバイアスがある
*感情的な印象ですべてを評価しようとする
*手元の情報だけを重視し、手元にない情報を無視する
*難しい質問を簡単な質問に置き換えることがある

最後の項目は例えば、難しい質問「応募者に賞を与えるべきか」という問いの代わりに、簡単な質問「応募者に好感が持てるか」という問いに答えることで難しい質問の答えとしてしまう、といった置き換えである。

「システム2」は、この便利だけれど少し困った「システム1」の行動や決定を監視して制御することができる。ただし、その思考にはより多くの労力を要するため、基本的に「システム2」は怠け者らしく、往々にして「システム1」の決定を安易に承認してしまう。少し「システム2」を働かせれば、バットとボール問題の答えが5セントであることはすぐ分かるのだが、我々は往々にして頭に浮かんだ10セントという答えで満足してしまう。特に、認知的に忙しい状況(考えねばならないことが多いような場合)、空腹時、疲れているときには「システム2」を十分に働かせることが難しい。その結果、思い込みや安易な結論への飛びつき等、無意識のバイアスが我々の意思決定に混入する。

ダニエル・カーネマンの本は、主に企業の経営陣に向けたものだが、大企業のCEOでなくとも、すべての組織は日々、多くの意思決定に追われている。特に、優良な人材確保はどの組織でも最重要課題であり、研究の分野でも、大学や研究機関での採用人事、大きな共同研究の公募、学会では評議員や会長の選定や各種の賞の受賞者決定など、枚挙に暇がない。2018年に私が参加した第16回男女共同参画学協会連絡会シンポジウムのタイトルは「今なお男女共同参画をはばむもの」、テーマセッションでは意思決定にひそむ「Unconscious bias(無意識のバイアス)」について講演が行われた。

男女共同参画に絡む「無意識のバイアス」については、男女共同参画学協会連絡会のHPで公開されている「無意識のバイアス-Unconscious Bias-を知っていますか?」というリーフレットに詳しい例が出ているし、すでに企画委員(当時)の藤原宏子さんが、このリーフレットの紹介記事を鳥学通信に書いておられるので、詳しい内容は割愛するが、私の印象に残った事例は、「シンポジウムのオーガナイザーが男性だけだった場合、招待講演者は男性に偏る」という事実であった。これは日本の学会での例である。慣れ親しんだものや、自分に似たものに好感を抱くのは人として当然である。しかし、それが雇用や受賞の機会、研究の評価等に偏りを生じさせてしまっては、組織の健全な成長にブレーキをかけることになる。少数派が全体の選択に影響を与えられる人数構成の目安は3割なのだそうだ。評議委員会、教授会、賞や新任採用の選考委員会のみなさま、構成員の女性比率は3割に届いていますか?

テーマセッションを通して伝えられたメッセージの中で最も重要だと感じたのは、「バイアスは誰もが持っているもので、無意識であるがゆえに取り除くことが困難であり、組織がそのバイアスを排除できるようなルールを作ることが重要である」ということであった。これはいわば、思い込みを取り除き、「システム2」を呼び起こすためのルール作りである。組織のトップに女性を含む企業のほうが、男性ばかりの企業よりもリーマンショックからの立ち直りが早かったという事実もあり、大きな企業ではダイバーシティ戦略を組み込んだ経営ルール作りが当たり前になってきている。一方、大学や学会ではそのような対策が遅れがちであり、取り組みの濃淡は各大学・学会によって大きく異なる。

2018年の男女共同参画シンポジウムでは、学協会連絡会のロゴマークの発表も行われた。地球の上に立つ男女が手を取り合い、同じ組織で共に交じり合いながら科学の屋根を支えている、という意味を持つマークで、素敵なものだった。大規模アンケートで「自身で研究室を主宰したい」と答える女性研究者は増えてきており、男女問わず、研究者の意識は確実によい方向へ変わってきている。学会にせよ大学・研究機関にせよ、この流れを受け止めるためのルール作りが進むことを切に願っている。最後に、バイアスを排除するためのルール作りに役立つ情報をふたつ紹介する。後者に関してはいずれ書籍紹介の記事を書きたいと思っている。

  • 北東北ダイバーシティ研究環境実現推進委員が作成した、研究者採用ガイド「ダイバーシティの観点からの研究者採用を実施するために」
  • Iris Bohnet 2016. WHAT WORKS: Gender Equality by Design. The Belknap Press of Harvard University Press. (イリス・ボネット(著), 池村千秋(訳). 2018. WORK DESIGN: 行動経済学でジェンダー格差を克服する. NTT出版).
この記事を共有する

科学・技術分野の次世代育成と環境づくりにおいて男女差をなくすために ―第17回男女共同参画学協会連絡会シンポジウムの内容を読んで―

上沖正欣(日本鳥学会企画委員)

 日本鳥学会は、自然科学系分野の男女共同参画を進めるために2002年に設立された男女共同参画学協会連絡会にオブザーバーとして参加しており、毎年開かれるシンポジウムに出席している。私は今年のシンポジウムに企画委員として出席予定だったが、2019年10月12日にお茶の水女子大学で開催予定だった「第17回男女共同参画学協会連絡会シンポジウム-科学・技術分野の次世代育成と環境づくり」は台風の接近に伴い中止となり、参加予定者への講演要旨集の送付と発表ポスター等の公開のみとなった。そのため、公開された資料についての所感を述べることで今年度の報告に代えたい。
 男女共同参画の実現が21世紀日本社会の最重要課題と位置づけられ、1999年6月に「男女共同参画社会基本法」が公布施行されてから20年以上経過しているが、日本における研究分野における女性研究者比率は15%程度と、30%を超える諸外国と比較して最低水準となっている。特にSTEM分野(Science, Technology, Engineering, Mathematics)と称される科学・技術・工学・数学分野において、学力や業績に男女差はないにもかかわらず女性研究者の比率が低いことが指摘されており、政府や大学、学会は採用方法の見直しや女性向け支援制度の創設、ワークショップ開催など様々な取り組みを進めている。女性比率の向上は、単純に性比が平等になるというだけではなく、女性をはじめとする多様な人材の活躍を推進し、社会構成や意思決定のダイバーシティが創出されるというメリットにもつながる。実際、企業においては、男性ばかりの均質な人材の組織よりも、女性がいる組織のほうがリスク管理能力や業績が向上し、イノベーションが起こりやすいという調査結果がある。
 発表資料を読んでいる中で、九州大学の女性枠採用のデータに目が留まった。年齢層の高い役職である教授は既婚率が高い(86%)反面、子供がいる割合が少ない(14%)が、准教授や助教クラスでは既婚率が50~70%程で子供がいる割合は50%前後ということだった。若い世代の職場環境やワークライフバランスが改善傾向にあることが指摘されていたが、恐らく社会的抑圧の緩和や女性自身の意識変化も関係しているだろう。その他、いずれの大学・学会の発表結果においても女性比率は年々増加する傾向が見て取れた。こうした流れは素直に喜ばしいし、今後も続いて欲しいと思う。しかし、全体の増加率は年1%前後とごく僅かであり、連絡会が掲げる2020年に女性研究者の比率を30%とする目標には遠く及ばず、更に10年以上かかってしまう計算になる。
 最大のボトルネックとなっていると思われるのが、大学院への女性の進学率の低さだ。科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2019」によると、学部生の男女比はほぼ半々なのだが、そのうち修士課程に進学する男性が15%なのに対し、女性は7.6%と約半数になっている(その後の博士課程への進学率や職業選択に顕著な男女差はない)。つまり、研究職の女性比率を増やしたいのであれば、学部生のうちから対策を考える必要があるということだ。ただ、男女平等社会が実現されるほど、女性は科学や数学の道を選ばなくなるという「男女平等パラドックス」という問題もあり、科学分野で性比の偏りを解消することはそれほど簡単ではない。
 鳥学会が過去に「科学技術系専門職の男女共同参画実態調査」へ提供した2006~2010年のデータを見ても、この傾向が見て取れる。つまり、鳥学会学生会員の男女比はほぼ半々であるのに、一般会員における女性会員の割合は1/4程度と明らかに少ないのだ。対象年内で継続して会員になっている割合も、男性会員はほぼ100%であるが、女性会員は65%と4割近くが退会してしまっている。これは2015年の同シンポジウム報告でも、川上和人氏が問題点として挙げている点である。鳥学会としても、退会する際にアンケートを取ったり、将来の人生設計や職業選択をテーマに女性同士の意見交換会などを実施したりするのもよいかもしれない。鳥学会においても、より積極的に女性に働きかけなければ、男女差を縮めることは難しいだろう。
 また、個人的に気になったのは男女の意識差である。連絡会のウェブサイトで閲覧することのできる過去の大規模アンケート結果を見てみると、男女共同参画のために今後必要なこととして、男女共に「男性の意識改革」と回答した割合が一番多くなっており、女性では「育児介護支援策等の拡充」「男性の家事育児への参加の増大」がそれに続く。いずれの項目においても男性の回答割合は約5~10%低く、特に「男性の家事育児への参加の増大」は男性49%・女性63%で、差が15%と最も大きくなっており、男女間の温度差が感じられる。仕事と子育ての両立に対する苦労や不安が女性側にだけ偏るのは明らかに不公平だが、私自身男性として、そして身近な人の話を聞いていても、職場における男性への期待や家庭における男性の「甘え」があるように感じている。女性の社会進出を促すのであれば、まずは男性の意識改革をおこなって無意識のバイアス等を排除し、職場の育児支援制度を充実させ、男性が積極的に家庭進出するという、男性側の働きかけが何よりも必要であると思う。
 近年、働き方改革や男性の育休取得、ワークライフバランスが頻繁に叫ばれるようになっているが、こうした社会潮流との相乗効果により、研究職に限らず様々な社会において男女差が今後益々改善され、「次世代育成と環境づくり」への大きな推進力となることを期待したい。そして近い将来には、男性だから女性だからと言われない、個々の能力が真っ当に評価される、真の意味で偏見の無いジェンダー平等・公平な社会が実現されればよいと、切に願う。

この記事を共有する

日本鳥学会津戸基金シンポジウム開催報告

宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
嶋田 哲郎

 日本鳥学会津戸基金シンポジウム「 新技術をもちいた鳥類モニタリングと生態系管理 」(主催:嶋田哲郎、山田浩之、牛山克巳)が10月26日に北海道大学で開催されました。多くの方にご参加いただき、活発な議論が交わされました。報告の詳細は下記をご覧下さい。
https://miyajimanuma.wixsite.com/anatidaetoolbox/post/report-osj-tsudo-fund-symposium

この記事を共有する

鳥の学校(2018年)「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告(3人目)

伊藤加奈(公益財団法人 日本野鳥の会)

 ジオロケーター、データロガー、衛星発信機。これまで何度か見聞きしたけど、自分で使ったことがないし、違いがどうもよく分からない。どの調査にどの手法が適しているのか?今回、実習付きの講習会に参加することで、色々学ぶことができました。
 今回の講習で良かった点は、2泊3日と時間が十分に確保されていたので、講義でバイオロギングとは何ぞやということから、それぞれの機器の仕組み、使用(研究)事例まで、一から解説してもらえたことでした。例えば、位置の記録というと一般的にGPSがよく知られていますが、照度や加速度、水深等の情報による記録方法があることや、データの取得方法は、ロガーに蓄積され、回収が必要なタイプとデータは発信されるので回収する必要がないタイプ(発信機)があること。また、ロガーの装着方法として、ハーネスと防水性テープがあり、それぞれの長所・短所など。今まで断片的だった情報がつながり、バイオロギングの全体像が見えてきました。このほか、機器の重さやバッテリーの持ち、価格等にも違いもあるので、実際にどの機器を使うかは、実施例や経験者に尋ねながら検討するのが良さそうでした。

Fig1.jpg

図1.今回使用したデータロガー。防水仕様になっているタイプ(消しゴムではない)

 もう一つ、良かった点は、実習で実際にロガーの装着ができたことでした。学ぶには、やっぱり実践が一番です。付け方としては、図2のように特別難しいわけではないのですが、実際にやってみると、私は羽の取りだしが不十分だったせいか、ロガーがぐらついていて、固定が甘いという結果に。もう1、2回練習すれば上手くできる気がしますが、それはこれまでの研究者の試行錯誤によって方法や資材が確立しているのであって、装着する鳥や機器が違うと、自分で別途工夫が必要だろうと思いました。ロガーの装着は参加者12人全員が経験することができました。オオミズナギドリの営巣地にも直接入り、巣穴を見たり、ヒナの計測をしたりできたこともなかなか出来ない経験で、講師陣の参加者に出来るだけ経験させてあげたいという思いを感じました。
 バイオロギングは、大型の海洋動物での研究が主流と思っていましたが、今ではそれに限らずに活用の場が広がっているようです。当会でも昨年よりアカコッコの利用地域を把握する調査で利用しています。今回、バイオロギングが調査手法の一つとして少し身近なものになったので、機会があれば積極的に使ってみたいと思います。

Fig2.jpg

図2.a)ロガーの装着方法:装着したい場所にガイドライン(ここでは枠を使用)をおく。その内側の羽毛をピンセットを使って取り出す。b)防水テープの粘着面を上にして羽毛の下に付ける。c)ロガーを羽の上において、テープを巻く d)完成。ロガーがしっかり装着されているか触って確認。

Fig3.jpg

図3. 計測のために巣穴からヒナを出す講師

この記事を共有する

鳥の学校「バイオロギング野外実習」に参加して

細田凜(日本獣医生命科学大学)

・はじめに
 ドラえもんの秘密道具とも言われるバイオロギング。その専門家に直接ご教授いただけることは大変貴重な機会であるため、この度参加することに決めた。

・バイオロギングとは 
 動物に小型の記録計(データロガー)をとりつけ、「動物自身に」行動や周囲の環境などを測定・記録させる画期的な技術だ。移動の記録に加え、様々なパラメータ(環境温度や、心拍数、採餌行動など)を同時に測定することも可能だ。これにより、生息域の特定や、渡り鳥のメカニズムの解明、環境モニタリングや生息海域の環境変化など種や生物多様性の保全に寄与することができる。
 ロガーには、防水機能付きものや再回収する必要のないもの、設定条件が揃うと自動で記録が開始されるものなど様々なタイプのものがある。また、パラメータの一つである「動き」を記録する加速度計は、XYZ軸の震えによって、その場所でどんな行動をしていたのかが分かる優れものだ。

図1.jpg
図1. 野外実習前にバイオロギングの基礎を学ぶ。

・実習
 舞台は、粟島。オオミズナギドリ有数の繁殖地だ。
オオミズナギドリの成鳥は、昼間沖合いで魚を捕り、夜になると巣に戻ってくるため、ロガーの装着・回収は真夜中に行われる。オオミズナギドリの営巣地では、オスの「ピーピー」、メスの「グワッ」という声が呼応し、月明かりに照らされた夜空を悠然と舞う姿は、神秘的なものであった。

1)ロガー装着
 実習一日目の夜は、成鳥にロガーを装着した。
ロガーの装着は、羽毛の上に直接接着材を付けて装着しているのかと思っていたが、実際はしっかりとテープで固定されていた。ロガーの装着方法は、背中の羽毛をめくってテサテープを敷き、同様に数枚並べていったら、その上にロガーを置いて丈夫なテサテープを巻き固定する。初めてのロガー装着は、テープから羽がはみ出てしまったが、良い体験だった。

2)ヒナの測定
 実習2日目の午後は、親鳥たちが海へ狩りに出かけている昼間に、巣穴にいるヒナの身体計測を行った。オオミズナギドリの巣穴は、海岸の急斜面にあるため、巣穴に行くのもかなりスリルがあった。巣穴からヒナを出すと、まだ灰色の綿毛に覆われてもふもふだった。ヒナを鳥袋に入れ、頭長や自然翼長など5項目と体重を計測した。

3)ロガー回収・解析
 実習2日目の夜は、装着したロガーの回収と解析を行った。
ちなみにもし再捕獲できなかったり、再捕獲する必要のないロガーの場合でも、羽に取り付けているロガーは換羽と共に外れるので、装着個体の永久的なストレスはないと考えられる。
 回収したロガーをPCにつなぎ、ロガー解析専用ソフトでデータをダウンロードした。地図に示されたオオミズナギドリが飛んだ軌跡を見たときには、こんなに飛んでいるのかと感心した。

図2.JPG
図2. 繁殖地内で捕獲した個体を計測する。

・まとめ
 バイオロギングは、その動物を通して様々なことを明らかにでき、それらを根拠に種や生物多様性の保全にも寄与することができる魅力的で興味深い技術だ。いつか鳥の研究ができる日が来たときには、ぜひともバイオロギングを使ってみたい。

・謝辞
 山本さま、松本さま、大学のみなさま、この度は大変お世話になりました。ご多忙の中、バイオロギングについて丁寧なご教授をいただき、誠に感謝申し上げます。
 川上さま、鳥の学校関係者の皆さま、このような貴重な実習の機会を与えていただき、誠に感謝申し上げます。

この記事を共有する

鳥の学校(2018年):第10回テーマ別講習会「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告

川上和人(企画委員会)

 今回の鳥の学校は、鳥学会2018年度大会と連結して、9月17日〜19日に新潟県の粟島にて実施された。講習会のテーマであるバイオロギングは、動物にGPSや加速度計、照度計、ビデオカメラなどのデータロガーを装着することにより、観察のみでは得られない情報を得る夢のような技術である。安楽椅子研究者を目標とする私は、この技術の習得という私利私欲を満たすため、講習会の企画を進めたのである。
 この講習会では、バイオロギングを用いて精力的に研究を進める統計数理研究所の山本誉士さんと名古屋大学の松本祥子さんを講師としてお迎えした。実習を行った粟島は、約4万つがいが利用するオオミズナギドリ繁殖地を擁し、名古屋大学や長岡技術科学大学が研究を進めているフィールドだ。講習会ではまさに現場で調査中の5名の名大生にサポートをいただいた。学会大会会場から電車と船に揺られての遠足企画というハードルにも関わらず、定員12名を超える参加申し込みがあり、バイオロギング研究への期待感がうかがわれた。参加者は5名の学生を含む10代から60代までの幅広い年齢層から集まった。

図2.jpg
図1. オオミズナギドリ繁殖地の環境。

 初日の集合時には雨がそぼ降る悪条件であったが、いつしか雨も上がりいよいよ講習が開始された。まずは山本さんによりバイオロギングを用いたオオミズナギドリ研究の概要についてのレクチャーを受ける。最近の技術発展により、様々な知見が得られていることが披露される。次に、松本さんによりデータロガーの解説が行われる。ロガーは小型高性能化されているが、精密機器ゆえに取り扱いには細心の注意が必要だ。海鳥に装着するということは、水中に叩き込まれることを意味する。万が一浸水すれば高価なロガーは壊れ、何よりも貴重なデータが失われる。ロガーの防水性を担保するため、時にはグリスとブチルテープで保護し、時にはサランラップと熱圧縮チューブで被覆する。実践により蓄積された実用的技術が、この分野の発展を支えているのだ。
 そしていよいよ夜間調査が始まる。夜間に繁殖地に飛来するオオミズナギドリが、講師により捕獲される。エキスパートの手ほどきを受けながら、全参加者がオオミズナギドリの背にロガーを装着する体験をさせていただいた。もちろん参加者には初めての体験であり、講師らのようにうまくはいかない。「俺はまだ本気出してないだけ」と臍をかみつつ、手際よく捕獲・装着する講師らに感心するばかりであった。

図1.jpg
図2. 講師によるロガー装着。

 24時まで続く実習明けに寝不足を漲らせた二日目、バイオロギング研究の発展についてのレクチャーを受ける。興味は疲れを上回り、参加者は脱落することなく講義を吸収する。講義の次は、繁殖地にて雛の計測実習を行う。ロガーから得られたデータのみでは、研究の面白さは半減する。繁殖地での雛の成長や親鳥のコンディションなどと組み合わせることで、情報の価値は高まるのだ。グニャグニャと動く雛の計測は初心者には難しいが、講師の粘り強い指導により全員がこれをマスターすることができた。

図3.jpg
図3. 繁殖地での雛の計測実習。

 二日目の夜間には再び繁殖地に向かう。足を滑らさぬよう、繁殖個体を撹乱しないよう、慎重に歩を進めて夜の繁殖地を経験する。講師は以前にロガーをつけた個体を再捕獲し、丁寧に機器を取り外す。これでようやくデータが得られるのだ。回収したロガーからデータを抽出し、結果がパソコン上で披露される。そこには、観察からは得られない海上の軌跡が美しく描かれていた。
 最終日には、サポート役を務めてくれた院生たちの研究成果が紹介される。バイオロギングにより得られる情報の利用方法は無限だ。知られざる移動軌跡、巣立ち後の死亡状況、年齢による行動変化、ビデオが捉える未知の採食生態。ロガーをつければデータは得られる。しかし、大切なのはそこからどのような情報を引き出すかという点だ。それぞれに工夫された視点で行動を解釈し、海鳥という特殊な生物の行動に新たな理解が加わる。
 さて、活字にすると簡単なように見えるが、バイオロギングでデータを得るのは大変なことである。暗い夜中に急斜面の繁殖地に通い、鳥を探して捕獲する。ロガーの電池はせいぜい数週間しかもたないため、1度つければ終わりというわけではない。多数の個体の行動を把握するため、夜の繁殖地に日参し、泥まみれになりながら捕獲、装着、計測を繰り返す。結果だけを見るとデータ解析が主要な仕事のようにも見えるが、そのデータを得るために調査者は何ヶ月も島に留まり、汗を額にフィールドワークをこなす。私たちが学んだのは、一方でバイオロギング研究の技術であり、一方で研究を支える地道な研鑽の必要性だった。安楽椅子研究などと口にしていた自分に恥ずかしさを覚えながら、講習は無事に終了した。
 参加者にとって、今回の講習は忘れがたいものになっただろう。綿密な計画と臨機応変な対処で講習を進めてくれた講師の山本さんと松本さん、そして名大の皆さん。現地での移動から名物わっぱ煮まで、あらゆる面で便宜を図っていただいた民宿松太屋さん。暖かい笑顔で出迎えてくれた粟島の方々。今回の講習を支えてくれた全ての方のホスピタリティに、心からお礼を申し上げたい。

図4.jpg
図4. 焼き石で煮立てた名物わっぱ煮。

*バイオロギングに興味のある方へ
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング−最新科学で解明する動物生態学」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging.html
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング2−動物たちの知られざる世界を探る」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging2.html

この記事を共有する