驚きの佐渡トキ復活 2018年鳥学会エキスカーション報告

 須川恒(龍谷大深草学舎・京都市在住)

21年前に佐渡を訪問
 私は山階芳麿・中西悟堂(監修)(1983)「トキ 黄昏に消えた飛翔の詩」教育社.という写真集を持っている。その本の帯には「もう見ることはできない ケージの中で飼育される3羽-彼らがふたたび大空を翔(かけ)る日はくるだろうか」とある。野外のトキをネットで捕獲する写真などが多数掲載されているが、どちらかというと、もうまもなく見られなくなるトキは、かつてこのように日本の空を飛んでいたと記念する写真集というニュアンスを感じた。
 21年前の1997年9月23-24日に新潟大であった日本鳥学会大会後のエキスカーションで佐渡を訪問した。9月22日のシンポジウムは猛禽類保護に関するものだった。この時は新潟大学の佐渡北部海岸にある新潟大学の演習林の施設に泊めていただいた(施設の前に海岸があった)。今回エキスカーションに参加した人の中で21年前に参加した人は北海道の玉田克巳さんと滋賀の天野一葉さんだけだった。
 この時はケージの中で飼われている最後のトキの「キン」(ゆっくりと歩いていた)を近辻宏帰さんに紹介していただいた(近辻さんはトキの飼育・増殖にずっとかかわっておられたがトキの初放鳥があった2008年の翌年2009年に66歳で亡くなられた)。また広く佐渡をまわり、かつてこういった地域にトキが住んでいたと紹介を受けた記憶がある。
 この時点で、後につながる中国との交流などははじまっていたが、雰囲気としては写真集で感じていたのとほとんど変わらない未来のみえないトキだった。当時、いつかキンも亡くなるが、その際に未来に向けキンの細胞をどう保存するかが話題となっていた。
 1997年の佐渡のエキスカーションの際に、一緒に行った成末雅恵さん・加藤七枝さん(当時日本野鳥の会)と全国的にも見えてきたカワウ問題を扱う自由集会を来年からやらないかと相談し、1998年から現在まで毎年開催されている会のきっかけとなったことが私にとっての一番の思い出だった。
 新潟にはガン類や湿地保全、鳥類標識調査の会合に参加する機会が多くよく訪問していたが、佐渡のトキプロジェクトのその後の進展については伝え聞くだけで、あれから一度も訪問していなかったので、今回のエキスカーションに参加して佐渡の現場を見るのが楽しみだった。

佐渡訪問の予習となった再導入シンポジウム
 2018年9月17日午前中は日本鳥学会新潟大会の公開シンポジウム『トキ放鳥から10年:再導入による希少鳥類の保全』が朱鷺メッセであった。
 私の前の席には、野鳥画家の谷口高司さん夫妻や羽箒研究者の下坂玉起さんら早稲田大学生物同好会につながる人々が座っていて、並んで座っている近辻宏帰さん夫人の道子さんを紹介いただいた。
 環境省佐渡自然保護官事務所の岡久雄二さんが「トキの野生復帰の取り組み」の講演で、野外個体群の絶滅、人工繁殖成功の過程、2008年の初放鳥(今年は10年目)、2012年から野生化でも成功し、延べ308羽を放鳥して、現在佐渡で野生下のトキが305羽となっていること、トキのための採食地として多様な水田農業の取り組み、地域社会の維持・活性化まで視野にいれた「佐渡モデル」について語った。
 新潟大学の永田尚志さんは「トキの再導入はどこまで達成したのか」の講演で、繁殖個体群が順調に増加している中味について語り、今後の見通しと課題について問題提起があった。いずれも、トキの最新情報についての予習となった。会場からの質問で、私がした質問は「今後佐渡から日本国内に分布を拡げていく勢いだが、海外へ分布を拡げていく可能性についてどう考えるか」であった。永田さんが「すぐにはないだろうが、国内分布が九州へと進むとその可能性は高くなる。」だった。
 トキ復活プロジェクト中国・日本における進展に加えて、韓国やロシアでも計画がある。特に放鳥が近いと聞く韓国における放鳥が始まると日本への渡来や日本の個体群との交流の可能性が高まり、トキのかつての分布域が復活するきざしもできると思った。
 私は日本鳥類標識協会のホームページ委員をしていて、ホームページの中にカラーマーキング調査をしている調査者からの情報を掲載しているポータルサイトをつくって各種のカラーマーキング情報を掲載して、必要な種には英語版も掲載していただいている。トキもそろそろ英語版情報の掲載も必要ではと思っての質問であった。

トキが「普通に」飛んでいる!
 シンポジウムが終わって朱鷺メッセから渡り廊下で佐渡へ行く佐渡汽船の待合室へ向かうとエキスカーションの参加者31名が集まっていた。ジェットフォイルに乗船して50分ほどで佐渡へ渡った。帰りはフェリーで2時間半ほどかかった。岡久さんによると、波が高いと、まずジェットフォイルが出港しなくなり、佐渡には確実に行って欲しいけれど、帰りに波が高くなって本土に戻れなくなるのも困るので、帰り便はフェリーにしたとのこまかい配慮をうかがった。
 ジェットフォイルの隣の席には豊岡市立コウノトリ文化館の栗山広子さんが座っていて望遠動画ができる準備をしていた。コウノトリの採食地や採食行動に関心があるので、トキにもついても同様に採食地と採食行動をしっかり見たいとのこと。
 両津港からチャーターしたバスに乗って宿泊施設であるトキ交流会館へ行った。右側に汽水湖の賀茂湖が広がり、左側の刈跡の水田に数羽のトキが採食しているのをすんなり見ることができた。事前に「トキのみかた」というパンフレットをいただいていた。小型の乗用車はとめて室内から観察することが可能だが、大型のバスをとめると驚くそうなので、わたしにとってトキの初観察だったが、あっという間に通りすぎた。
 トキ交流会館の宿泊する部屋で、畳縁(たたみべり)がトキのデザインであるのに感心した(写真1)。

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写真1 トキの畳縁

 周辺でトキ観察。ねぐらに入る前によくとまる枯木だそうだがその日はとまらなかった。宿舎から歩いてすぐ行ける温泉(新穂潟上温泉)の利用券をいただいたので、さっそくタオルを持って出かけた。
 温泉のすぐ南側には水田が拡がっていて、温泉の窓から飛んでいるトキが見えることもあるそうだ。湯上りで気持ちよい気分で、近くの山林につぎつぎと入っていくトキのねぐら入りを見ることができた。
 18:00夕食をするお迎えのバス2台で両津港の街へでかけた。18:15割烹ふじわら着。なかなかおいしく満足できる夕食だった。あとから持ってこられるお皿もなかなか楽しく、鯛の塩窯焼きが2尾。高木昌興さんら2人が塩を割ったものを頂いた。
 宿に戻って、トキ交流会館の2階の部屋で、永田さんにトキの羽を数タイプ見せていただいた。繁殖羽の黒くなったタイプなど手触りで確認させていただいた。天然記念物であるトキの羽毛を野外で拾って持つことは可能だが、他人に譲ってはいけないとのこと。
 9月18日5:10野生トキのねぐら立ちの観察(希望者だけだがほとんどの人が参加)。どのタイミングで起きてくるか(参加者のほう)で観察内容に大きな差ができた。新潟大の中津弘さんの予測通り5:20頃に「かぁー」と鳴いた後に数羽ずつ飛びだした。中津さんの無線機には別のねぐらで観察している人からの情報が次々と入ってくる。ねぐらに入っていた総計は30羽ほどだった。
 多くは南の水田刈跡に向かってとび、ほかの場所からやってきたトキも含め舞い降りるとほとんど見えなくなってしまった。わたしたちが観察している近くの上空を何羽も飛ぶ際がフォトハンターの腕の見せ所で、撮影できたカラーリングの画像を中津さんに見せて、何番の個体なのかを確認していた。
 朝食は、トキ牛乳とサンドイッチ。永田さんや中津さんらと食べた(写真2)。
 トキ牛乳は、最初は瓶だったらしいが、トキをデザインしたパッケージとなったところよく売れるようになったとのこと(あとでもう少し大きいパッケージを買って、箱を持って帰り、切り抜いて飾ってある)。

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写真2 永田さん中津さん

 今朝までトキを見て、トキが普通に見られるようになった驚きについて永田さんや中津さんに聞く。トキの採食地である多様な生物多様性を保つ水田環境の改善への努力が広く行われており、特にこの近辺は丁寧に行われている。
 中津さんが新潟大の調査チームに入った頃(2012年頃)に、ちょうど山階鳥研からJICA専門家として西安に滞在していた米田重玄さん、中国の環境政策への関心からパンダやトキ保護区をよく訪問している龍谷大学政策学部谷垣岳人さんらとスカイプを通して中国の洋県などの様子についてやりとりをしたことがある。谷垣さんによると洋県にはトキが京都の鴨川のコサギのように群れていると話していたことが印象に残っている。
 8:10宿舎を出発した。まずトキの森公園に向かった。ここはトキと2㎝まで近づけるという不思議な宣伝をしている。反射鏡の裏から観察をするしかけがある。実際にそのしかけでとても近くでトキの採食をみることができた(写真3)。
 大きなケージの中に巣台があり親2羽と幼鳥1羽が巣台の上にとまっていた。給餌者が入ってきて、地上の餌小屋に餌を置く。その後、観察舎の前の反射鏡の前の池にどじょうを入れる。幼鳥1羽が餌小屋に降りてきて採食し、すぐに観察者の前の池にやってきた。窓は二ヶ所あって、左側の窓からは少し池は離れているが、もう一つの右の窓からは池が接していて水中も見えるしかけになっている。左側の窓から見える小さな池にトキがやってきてドジョウをとる姿をみることができるも驚きだが、しばらくすると右側の窓前に行って、それこそかぶりつき(2㎝よりは離れていたが…)で採食するトキを観察することができた。

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写真3 かぶりつきトキ

 その後資料館に行った。途中の道にはキンの黄金のレリーフ像の石碑があり資料館の中にはキンの剝製や骨格標本があった。佐渡は2011年6月の世界農業遺産(GIAHS)に「トキと共生する佐渡の里山」として認定された。里山から佐渡中央部に広がる国中平野へ拡がる水田環境をトキの採食環境としてどのように改善していくかについての説明があった。
 資料館中には佐渡のトキ現在地マップがあって、マグネットでトキの個体の現在地を示していた。岡久さんはトキの位置を毎日チェックして全個体の位置が頭に入っているとのことで、マグネットを最新の位置に直していた(写真4)。

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写真4 岡久さんマグネット

 資料館の廊下では近辻道子さんが佐渡トキファンクラブへの加入の呼びかけをしていた。無料のメールマガジンがいただけるとのことなので申し込み、トキの風船などをいただいた。佐渡トキファンクラブは、トキ交流会館に事務所のある佐渡生きもの語り研究所が企画していて、トキの生息環境形成支援につながるさまざまな活動をしている。
 10:00野生復帰センターに向かった。ここでは10月の10周年放鳥式に向けて準備が行われているとのこと。そばにある環境省関東地方環境事務所佐渡自然保護官事務所で若松徹首席保護官によるトキを国として保護する経過、どの時期にどういったことを重点として保護施策をすすめてきたかの講演を聞いた。 
 環境省が国としてトキに取り組む選択をしたことが大きい(種の保存法の希少野生動植物としての対象種としてである)。国の保全戦略計画の対象種となったとしても、手掛かりが少ない状況からの出発だった。
 朝から早かったのできちんとした話は眠気をさそうものではあったが、国の保全戦略計画の対象種となっても、手掛かりが少ない状況からの出発だったことをあらためて理解した。放鳥まではトキの過去の分布から里山の谷津田のような環境を想定した保全計画だったが、2008年の放鳥以降は、トキが佐渡の平野の水田地帯を広く採食地として利用するために、水田をどう生物多様性豊かなものに変えていくか、またそのための農家を支援するシステム、さらに幅広くトキと共生できる社会へと模索していく計画が展開していることが判った。最後に、「いつまで続けるのか」といった各方面からのいろいろな発言を示したスライドも示して、今後の方向については、国民から幅広い理解を得ることが大切と訴えられた。
 そのためでもあるが、多くの来訪者にトキに影響をあたえずにトキの野生の姿をみてもらえる施設にむけての計画も聞いた。棚田のような場所を採食地として利用しているトキの群れを影響を受けない斜面の上から観察できる施設とのこと。
 最後の訪問地である国見荘は、この計画されている施設のイメージを知ることができる場でもあった。国見荘はかつて旅館だったが、現在は許可を得た観察グループのみ利用させてもらえる。広間から斜面下の池のほとりにいるトキの群れを見ることができて、みな満足であった(写真5)。もっと近くの棚田でも採食中の群れをみることができる時期もあるとのこと。
 国見荘は放浪の天才画家山下清の母親山下ふじさんの生家でもあってその関係の展示もあり、説明をしていた本多栄さんから、観察している広間は、明治時代にはじまった人形浄瑠璃の舞台でもあるということを聞き、幕を拡げて本多さんが操っている人形や、牛若丸の場面となる五条の橋の背景の風景を見せていただき、海外公演をした際の話もうかがった。

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写真5 国見荘からのトキ

 わたしたちが見せてもらった範囲は広い佐渡のほんの一区域だったが、佐渡のトキプロジェクトに関し鳥学的に最高のスタッフで短期間に現状を見せていただけた。一方で、トキの採食環境としての水田に関する取り組みや、それともつながる佐渡のさまざまな文化といった部分については改めて訪問しないと判らないと感じた。

再導入活動とは何か?
 私は豊岡のコウノトリについては本格的に再導入がはじまる前から定期的に訪問する機会もあって関心を持っていた。また千島列島へのシジュウカラガンの再導入プロジェクトは、京都の鴨川で越冬するユリカモメがらみで知ったカムチャツカの鳥学者ニコライ・ゲラシモフ氏がカムチャツカで増殖施設をつくって進めたため、深いかかわりができていた。鳥ではないが、現在鴨川では、大阪湾から淀川経由で遡上する海産アユが四条や三条を越えて下賀茂神社あたりでも釣ることができるようにする市民活動が、漁協や研究者、行政との連携で進んでいる。
 これらの諸活動は、再導入の規模、国のかかわりという点ではさまざまだが、共通するものがあるように思う。
 それは、豊岡で数年おきに開催されている「コウノトリ未来・国際会議」の2001年の会(コウノトリの初放鳥は2005年)における基調講演や海外ゲストの発言から得たイメージである。
 なぜトキやコウノトリ、シジュウカラガンは極東の地域からいなくなっていたのか、なぜ海から遡上していたアユは京都の街中まで登って来なくなっていたのか。
 地球環境や生物多様性は無視して、切り分けられた狭い分野の効率を最大化する技術の発展(農業生産、河川管理など)が原因であった。再導入をはかるということは、そのような20世紀型の文明のありかたをどうするかにかかわってくる。
 再導入をはじめるということは、小さな雪だるまを雪の斜面にころがしはじめるようなことである。雪だるまは、斜面を転がる間にどんどんと大きくなっていく。
 雪だるまが大きくなるのはトキやコウノトリ、シジュウカラガン、海産アユの生き物としての勢いのためであり、その分布の拡大や活動を通して幅広くさまざまな分野の人々のかかわりがはじまるためでもある。トキにかかわる活動もこれから10年、20年とどのように展開をしていくのか注目したい。

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訃報

日本鳥学会事務局

日本鳥学会重鎮のお一人であった中村司さんが11月24日に91歳で亡くなられました。27、28日にはお通夜、ご葬儀が執り行われました。

中村さんは1990−1991年に日本鳥学会会頭を務められました。また、学会は中村さんより多くの寄付をいただき、これらを1997年に中村司基金としました。この基金は当初シンポジウム等開催費に充当していましたが、現在では若手会員を奨励する中村司奨励賞の副賞に充てられています。

ご高齢になられても積極的に学会へご参加いただき、若い会員の方でもよくご存じの方が多いと思います。そのお姿も見られないのは残念です。

ここに謹んでご冥福をお祈りします。

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鳥の学校(2018年)「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告(3人目)

伊藤加奈(公益財団法人 日本野鳥の会)

 ジオロケーター、データロガー、衛星発信機。これまで何度か見聞きしたけど、自分で使ったことがないし、違いがどうもよく分からない。どの調査にどの手法が適しているのか?今回、実習付きの講習会に参加することで、色々学ぶことができました。
 今回の講習で良かった点は、2泊3日と時間が十分に確保されていたので、講義でバイオロギングとは何ぞやということから、それぞれの機器の仕組み、使用(研究)事例まで、一から解説してもらえたことでした。例えば、位置の記録というと一般的にGPSがよく知られていますが、照度や加速度、水深等の情報による記録方法があることや、データの取得方法は、ロガーに蓄積され、回収が必要なタイプとデータは発信されるので回収する必要がないタイプ(発信機)があること。また、ロガーの装着方法として、ハーネスと防水性テープがあり、それぞれの長所・短所など。今まで断片的だった情報がつながり、バイオロギングの全体像が見えてきました。このほか、機器の重さやバッテリーの持ち、価格等にも違いもあるので、実際にどの機器を使うかは、実施例や経験者に尋ねながら検討するのが良さそうでした。

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図1.今回使用したデータロガー。防水仕様になっているタイプ(消しゴムではない)

 もう一つ、良かった点は、実習で実際にロガーの装着ができたことでした。学ぶには、やっぱり実践が一番です。付け方としては、図2のように特別難しいわけではないのですが、実際にやってみると、私は羽の取りだしが不十分だったせいか、ロガーがぐらついていて、固定が甘いという結果に。もう1、2回練習すれば上手くできる気がしますが、それはこれまでの研究者の試行錯誤によって方法や資材が確立しているのであって、装着する鳥や機器が違うと、自分で別途工夫が必要だろうと思いました。ロガーの装着は参加者12人全員が経験することができました。オオミズナギドリの営巣地にも直接入り、巣穴を見たり、ヒナの計測をしたりできたこともなかなか出来ない経験で、講師陣の参加者に出来るだけ経験させてあげたいという思いを感じました。
 バイオロギングは、大型の海洋動物での研究が主流と思っていましたが、今ではそれに限らずに活用の場が広がっているようです。当会でも昨年よりアカコッコの利用地域を把握する調査で利用しています。今回、バイオロギングが調査手法の一つとして少し身近なものになったので、機会があれば積極的に使ってみたいと思います。

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図2.a)ロガーの装着方法:装着したい場所にガイドライン(ここでは枠を使用)をおく。その内側の羽毛をピンセットを使って取り出す。b)防水テープの粘着面を上にして羽毛の下に付ける。c)ロガーを羽の上において、テープを巻く d)完成。ロガーがしっかり装着されているか触って確認。

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図3. 計測のために巣穴からヒナを出す講師

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67巻2号の注目論文は白井さんの落葉広葉樹林再生過程における鳥相変化の論文に

和文誌編集委員長 植田睦之

2018年10月発行の日本鳥学会誌67巻2号の注目論文は白井さんの落葉広葉樹林再生過程における鳥相変化の論文になりました。

白井聡一 (2018) 針葉樹林ギャップ地を落葉広葉樹林に再生する過程における鳥相の変化. 日本鳥学会誌 67: 227-235

この論文は,人工林内に雪害で生じたギャップに広葉樹を植林し,その後の鳥相を10年にわたって追跡したものです。
現在,全国の森林は成熟が進み,鳥相が変わってきています。また,荒れた植林を再生する試みも行なわれており,その生物多様性への効果も注目されています。本研究はこうした今後の日本の鳥の変化を考える上での貴重な情報を提供しており,また,アマチュアによる長期の研究という日本鳥学会誌らしい論文でもあり,注目論文とし選定しました。

論文は以下のURLより,どなたでも読むことができます。
http://doi.org/10.3838/jjo.67.227

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鳥の研究を始めたい人によい本が出ました

国立科学博物館動物研究部 濱尾章二

「鳥の研究をしてみたいけど、どうすればいいの?」という若い方は多いことと思います。また、「そもそも鳥の『研究』ってなに?」という疑問を感じている方もあるのではないでしょうか。そんな方によい本が出たので、紹介したいと思います。
『はじめてのフィールドワーク③日本の鳥類編』(武田・風間・森口・高橋・加藤・長谷川・安藤・山本・小林・岡久・武田・黒田・松井・堀江著、東海大学出版会)です。

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この本の著者は14人の若手研究者です。全員ほぼ30歳台、多くが博士号をとったばかりの人です。スズメ、ツバメといった普通種からコウノトリや海鳥までいろいろな鳥について、市街地・高山・離島などさまざまな場所で調査をした人たちが1章ずつを担当し、自分の調査経験と研究を紹介しています。

頭が切れる人、体力・ど根性の人、ふつうの人、いずれが書いた章も引き込まれるおもしろさですが、暗中模索の学生さんがフィールドに出、自分の観察から学問的テーマを見つけ出し、研究を発展させていく過程が手にとるようにわかる風間さんの章と堀江さんの章が、私には特におもしろく、読みごたえがありました。研究には、最初から課題を定めそれを解いていこうという仮説検証型のスタイルと、観察事実をつみあげて何がわかったかを考えるデータ先行型のスタイルがあります(前者は長谷川さんの章、後者は山本さんの章を読むとよくわかります)。この本の著者たちはどうやって自分の「研究」を作っていったのかが、私には最大の読みどころでした。「よい疑問(仮説)を立てよ」「データは料理次第」とは言われますが、それにはどうすればよいのか? その答えも、この本の中には複数含まれています。

アマチュア研究者であった私は、当時「個々の論文には書かれていない、ある人が博士号取得に至る研究の全貌」を思い描くことができずにいました(山岸哲さんの受け売りですが、私も本当にそう感じました)。この本は、そういう「全貌」を知りたい人にも歓迎されることと思います。

一方、この本の最大の特徴は、研究そのものにもまして、研究以前の段階から研究をなしとげるまでの若者の姿がたっぷりと描かれていることです。高校や学部学生時代の経験から研究を始めるに至る過程、そして本格的な調査から論文をまとめるまでが、飾らない生き生きとした文章で綴られています。進学先のさがし方、指導教員とのやり取り、フィールドでの苦労(トイレ、木登り、職務質問等々)、安全対策、研究上の悩みなど、笑ってしまうケッサクな話もなるほどと感心する話しも、正直に書かれているのがこの本の魅力であり、後に続く人の糧となることでしょう。

読んだ後には、「こうやれば自分もできるかも知れない」「いい研究をした人でも悩んだんだ」「やっぱり凄い人は最初からよく考えてるなー」といろいろな感想がありそうですが、これから研究を始めようとする人に役立ち、そういう人を励ます本であることは間違いありません。内容に比べて値段も安く、学会員ではない方を含め、広くお薦めします。

最後に、編者とはなっていませんがとりまとめの労をとられた北村亘さん、そして東海大学出版部に「グッジョブ!」の言葉を送ります。

(参考)鳥の研究をしてみようという方に、以下もお薦めします。
伊藤嘉昭 (1986) 大学院生・卒研生のための研究法雑稿.生物科学 38: 154–159.
上田恵介(編) (2016) 野外鳥類学を楽しむ.海游舎.
佐藤宏明・村上貴弘(編) (2013) パワー・エコロジー.海游舎.
上田恵介 (2016) 鳥の研究が出来る大学と大学院.鳥学通信.
上田恵介 (2016) 鳥の研究が出来る大学と大学院 (Part-2).鳥学通信.
調査ボランティア紹介(日本鳥学会企画委員会)

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鳥の学校「バイオロギング野外実習」に参加して

細田凜(日本獣医生命科学大学)

・はじめに
 ドラえもんの秘密道具とも言われるバイオロギング。その専門家に直接ご教授いただけることは大変貴重な機会であるため、この度参加することに決めた。

・バイオロギングとは 
 動物に小型の記録計(データロガー)をとりつけ、「動物自身に」行動や周囲の環境などを測定・記録させる画期的な技術だ。移動の記録に加え、様々なパラメータ(環境温度や、心拍数、採餌行動など)を同時に測定することも可能だ。これにより、生息域の特定や、渡り鳥のメカニズムの解明、環境モニタリングや生息海域の環境変化など種や生物多様性の保全に寄与することができる。
 ロガーには、防水機能付きものや再回収する必要のないもの、設定条件が揃うと自動で記録が開始されるものなど様々なタイプのものがある。また、パラメータの一つである「動き」を記録する加速度計は、XYZ軸の震えによって、その場所でどんな行動をしていたのかが分かる優れものだ。

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図1. 野外実習前にバイオロギングの基礎を学ぶ。

・実習
 舞台は、粟島。オオミズナギドリ有数の繁殖地だ。
オオミズナギドリの成鳥は、昼間沖合いで魚を捕り、夜になると巣に戻ってくるため、ロガーの装着・回収は真夜中に行われる。オオミズナギドリの営巣地では、オスの「ピーピー」、メスの「グワッ」という声が呼応し、月明かりに照らされた夜空を悠然と舞う姿は、神秘的なものであった。

1)ロガー装着
 実習一日目の夜は、成鳥にロガーを装着した。
ロガーの装着は、羽毛の上に直接接着材を付けて装着しているのかと思っていたが、実際はしっかりとテープで固定されていた。ロガーの装着方法は、背中の羽毛をめくってテサテープを敷き、同様に数枚並べていったら、その上にロガーを置いて丈夫なテサテープを巻き固定する。初めてのロガー装着は、テープから羽がはみ出てしまったが、良い体験だった。

2)ヒナの測定
 実習2日目の午後は、親鳥たちが海へ狩りに出かけている昼間に、巣穴にいるヒナの身体計測を行った。オオミズナギドリの巣穴は、海岸の急斜面にあるため、巣穴に行くのもかなりスリルがあった。巣穴からヒナを出すと、まだ灰色の綿毛に覆われてもふもふだった。ヒナを鳥袋に入れ、頭長や自然翼長など5項目と体重を計測した。

3)ロガー回収・解析
 実習2日目の夜は、装着したロガーの回収と解析を行った。
ちなみにもし再捕獲できなかったり、再捕獲する必要のないロガーの場合でも、羽に取り付けているロガーは換羽と共に外れるので、装着個体の永久的なストレスはないと考えられる。
 回収したロガーをPCにつなぎ、ロガー解析専用ソフトでデータをダウンロードした。地図に示されたオオミズナギドリが飛んだ軌跡を見たときには、こんなに飛んでいるのかと感心した。

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図2. 繁殖地内で捕獲した個体を計測する。

・まとめ
 バイオロギングは、その動物を通して様々なことを明らかにでき、それらを根拠に種や生物多様性の保全にも寄与することができる魅力的で興味深い技術だ。いつか鳥の研究ができる日が来たときには、ぜひともバイオロギングを使ってみたい。

・謝辞
 山本さま、松本さま、大学のみなさま、この度は大変お世話になりました。ご多忙の中、バイオロギングについて丁寧なご教授をいただき、誠に感謝申し上げます。
 川上さま、鳥の学校関係者の皆さま、このような貴重な実習の機会を与えていただき、誠に感謝申し上げます。

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日本鳥学会ポスター賞を受賞して

2018年10月2日
北海道大学理学院 青木 大輔

 この度2018年度大会でポスター賞を頂くことができ、大変うれしく思います。
 私の学会ポスター発表デビューは3年前、ポスター賞が設立された年でした。ポスター賞受賞者の方々を見て、自分もいつか賞を頂けるような研究ができれば、と夢見てきました。そんなポスター賞を受賞できたことを光栄に思います。私の研究はいつも周りの人から「難しい」と言われるので、今回、少しは面白く分かりやすく伝えることができたのかなと思っています。ポスター賞に恥じない様、今後も研究に精進できればと思います。
 本研究は共同研究者の方々無しにはできませんでした。ありがとうございました。また、ポスター賞に選考してくださった委員の皆様、お礼申し上げます。
 ポスター賞の記念品としてmont-bellマウンテンパーカーをいただきました、ありがとうございます。授賞式では青を着ましたが、実際にいただいたのは私の調査のお供であるハスラーと同色のオレンジにしました。来年の調査も捗りそうです。

ポスターの概略
 鳥類はみな集団で生きています。個体は繁殖し、元気な雛を巣立たせることで、集団が維持されます。しかし、海洋島など本来その鳥がいない土地に偶然住むことになった時はどうでしょうか?最初は個体数が少ないと考えられるので、数世代後には集団構成員が皆家族同士になってしまう可能性があります。こうした集団は病気(近交弱勢)が蔓延して絶滅するのではないか?このような集団維持の阻害要因は、理論や外来種の研究から予測されてきました。しかし、生物は自然環境の中で必然的にその土地にいるので、自然集団を用いた研究が必要です。

 私たちに身近なモズは幸運にも、過去数十年に次々と島嶼に集団を形成しました。そのうち小笠原諸島の父島では集団維持に失敗し絶滅しましたが、南大東島では現在も集団が維持されています。遺伝情報は集団構成員の情報を教えてくれるため、この2つの自然集団の遺伝的な比較から、集団維持の阻害要因を探索できると私は考えました。

 結果、絶滅した集団は遺伝構造の劇的変化(ボトルネック)を経験し非常に低い遺伝的多様性をもっていました。一方、維持できた集団は他集団からの移入個体との交雑により多様性が高く保たれていました。また、絶滅集団の個体のみに強い近交弱勢の症状が認められました。遺伝的多様性の違いが近交弱勢の程度に差を生んだことが推察されたのです。

 この結果から低い遺伝的多様性に由来する近交弱勢が、集団維持を阻害する一要因となることを鳥類の自然集団で明らかにできました。これは遺伝的多様性の低下がありながらも近交弱勢を回避するメカニズムが新規集団形成にまつわる進化生態学で重要なことも示唆します。今後はこの多様性の低下と近交弱勢の関係をより直接的に理解できるような研究に発展させたいと思っています。

モズ写真_2018青木大輔.JPG
小樽市で捕獲されたモズ
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日本鳥学会ポスター賞を受賞した感想

慶應義塾大学 清水拓海

 栄誉ある日本鳥学会のポスター賞を頂きまして,誠にありがとうございます.私はこれまで主にアカハライモリの研究をしていたため,今年初めて鳥学会に参加しました.猛禽専門の友人にイモリの研究内容を応用しないかと勧められ,トラフズクのペリット解析に共同で取り掛かったのが始まりです.解析から興味深い結果を得ることができたので,ポスター発表を決めました.受賞を知った時には大変驚きましたが,同時にとても嬉しく感じたのを覚えています.私を鳥の研究の世界に引き込んでくれた友人や,ペリット採取を手伝ってくれた研究室の後輩達,そして意見をくださった先生方のお陰で,ポスター賞を受賞することができました.本当に感謝しています.
 今回参加したことで多くの方と議論することができ,今後の鳥の研究について明確な計画性を持たせることができました.記念品としていただいたmont-bellのジャケットを着て,フィールドワークに出るのが楽しみです.来年度以降も鳥学会で発表できるよう,研究をより一層頑張りたいと思います.
 最後に日本鳥学会2018の運営に携わった方々にこの場を借りて御礼申し上げます.とても有意義で楽しく,多くを学ぶことができた学会でした.

ポスターの概略
 食性は対象となる種の生態的特性を把握するために必須の情報であり,捕食-被食の相互作用の解明は生態学の基礎情報としても有用であると言えます.トラフズクなどの猛禽類は消化しきれない骨などをペリットとして吐き出すことが知られており,これまでにも多くの先行研究があるものの,餌動物の同定には技術と時間が必要でした.また損傷が激しいものや,消化作用によって目視では検出しにくい餌動物もペリットには多く含まれている可能性があります.そこで,近年急速に発展しているDNAメタバーコーディング技術を用いて,ペリットに含まれるDNAから餌動物を網羅的に検出する研究に取り組みました.サンプルには神奈川県で越冬しているトラフズクのペリットを使用しました.
 その結果,実際に捕食していると考えられる餌動物(哺乳綱2種:ハツカネズミ,アブラコウモリ,鳥綱5種:カワセミ,ツグミ,スズメ,ホオジロ,ヒヨドリ)を種レベルで同定することができました.骨や羽から餌動物を同定する技術がなくても,DNAメタバーコーディング技術によって,ペリットから小型哺乳綱,小型鳥綱を網羅的に検出し,種の特定も可能であることが判明しました.
 今後はコンタミネーションなどの課題解決に取り組みます.また,季節や周辺環境によってどのように食性が変化するのかについても,解明していきたいと考えています.

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解析に用いたペリットを吐き出してくれたトラフズク
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第3回日本鳥学会ポスター賞 清水さんと青木さんが受賞しました

日本鳥学会企画委員会
佐藤望

 若手の独創的な研究を推奨する目的で設立された日本鳥学会ポスター賞。今年は清水拓海さん(生態・行動分野)と青木大輔さん(保全・形態・遺伝・生理・その他分野)が受賞しました。おめでとうございます。
 ポスター賞は今回が3回目となりますが、毎年40名ほどの応募があり、今年も40名(生態・行動が23名、その他が17名)の方がチャレンジしてくれました。今年も完成度の高いポスターが多く、審査員で議論に議論を重ねて賞を決定しました。また、今年からは次点や2次審査に通過した方も総会で公表する形を取りました。あと一歩だった方や今回、2次審査に通らなかった方も、是非、来年も挑戦してください。ポスター賞は30歳を超えるまで何度でも応募できます。
 最後になりますが、ポスター賞の審査をご快諾して頂いた6名の方、記念品をご提供頂いた株式会社モンベル、大会実行委員にこの場をお借りして御礼申し上げます。

2018年日本鳥学会ポスター賞
《生態・行動》分野

トラフズクのペリットに対するメタバーコーディング技術の応用
 清水拓海(慶應義塾大学)・夏川遼生(横浜国立大)・湯浅拓輝(慶應義塾大学)・一ノ瀬友博(慶應義塾大学)・黒田裕樹(慶應義塾大学)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
絶滅した自然集団のDNAから生物が新しい集団形成を可能にする条件を探る
 青木大輔(北大院・理)・松井晋(東海大・生物)・永田純子(森林総研)・千田万里子(山階鳥研)・野間野史明(総研大・先導科学)・髙木昌興(北大院・理)

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左から,清水さん,尾崎学会長,青木さん

次点
《生態・行動》分野
巣内カメラを用いた内陸ミサゴの餌内容解析 ―外来魚利用の実態―
 榊原貴之(岩手大・院)・野口将之(魚鷹研究チーム)・吉井千晶((株)建設技術研究所)・東淳樹(岩手大・農)

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
風車への衝突リスク低減を目指したオオヒシクイの三次元的センシティビティマップの提案
 佐藤一海・向井喜果・鎌田泰斗(新潟大・院・自然科学)・森口紗千子(日獣大・獣医)・関島恒夫(新潟大・農)

一次審査通過者
《生態・行動》分野
ハリオアマツバメ(Hirundapus caudacutus)の巣内雛への給餌物
 千葉舞(酪農学園大・環境動物),米川 洋・和賀大地(エデュエンス・フィールド・プロダクション),森さやか(酪農学園大・環境動物),山口典之(長崎大・院・水環),樋口広芳(慶應大・自然科学研教セ)
モズのオスのさえずりは、父親としての給餌能力の高さを示す正直な指標である
 西田有佑(バードリサーチ)・高木昌興(北海道大)
春日山原始林における被食散布型樹種と鳥類の種子散布ネットワーク
 岡本 真帆・大矢 樹・田原 大督・伊東 明・名波 哲 (大阪市立大学・院理) 

《保全・形態・遺伝・生理・その他》分野
形態的に異なる2タイプのチュウジシギGallinago megalaの遺伝的関係
 小田谷嘉弥(我孫子市鳥の博物館)・山崎剛史・齋藤武馬(山階鳥類研究所)
リンゴ果樹園におけるアカモズの分布と栽培・管理方法との関係
 松宮裕秋(信州大)・原星一(元信州大)・堀田昌伸(長野県環境保全研)・泉山茂之(信州大)

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鳥の学校(2018年):第10回テーマ別講習会「鳥類研究のためのバイオロギング野外実習」の報告

川上和人(企画委員会)

 今回の鳥の学校は、鳥学会2018年度大会と連結して、9月17日〜19日に新潟県の粟島にて実施された。講習会のテーマであるバイオロギングは、動物にGPSや加速度計、照度計、ビデオカメラなどのデータロガーを装着することにより、観察のみでは得られない情報を得る夢のような技術である。安楽椅子研究者を目標とする私は、この技術の習得という私利私欲を満たすため、講習会の企画を進めたのである。
 この講習会では、バイオロギングを用いて精力的に研究を進める統計数理研究所の山本誉士さんと名古屋大学の松本祥子さんを講師としてお迎えした。実習を行った粟島は、約4万つがいが利用するオオミズナギドリ繁殖地を擁し、名古屋大学や長岡技術科学大学が研究を進めているフィールドだ。講習会ではまさに現場で調査中の5名の名大生にサポートをいただいた。学会大会会場から電車と船に揺られての遠足企画というハードルにも関わらず、定員12名を超える参加申し込みがあり、バイオロギング研究への期待感がうかがわれた。参加者は5名の学生を含む10代から60代までの幅広い年齢層から集まった。

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図1. オオミズナギドリ繁殖地の環境。

 初日の集合時には雨がそぼ降る悪条件であったが、いつしか雨も上がりいよいよ講習が開始された。まずは山本さんによりバイオロギングを用いたオオミズナギドリ研究の概要についてのレクチャーを受ける。最近の技術発展により、様々な知見が得られていることが披露される。次に、松本さんによりデータロガーの解説が行われる。ロガーは小型高性能化されているが、精密機器ゆえに取り扱いには細心の注意が必要だ。海鳥に装着するということは、水中に叩き込まれることを意味する。万が一浸水すれば高価なロガーは壊れ、何よりも貴重なデータが失われる。ロガーの防水性を担保するため、時にはグリスとブチルテープで保護し、時にはサランラップと熱圧縮チューブで被覆する。実践により蓄積された実用的技術が、この分野の発展を支えているのだ。
 そしていよいよ夜間調査が始まる。夜間に繁殖地に飛来するオオミズナギドリが、講師により捕獲される。エキスパートの手ほどきを受けながら、全参加者がオオミズナギドリの背にロガーを装着する体験をさせていただいた。もちろん参加者には初めての体験であり、講師らのようにうまくはいかない。「俺はまだ本気出してないだけ」と臍をかみつつ、手際よく捕獲・装着する講師らに感心するばかりであった。

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図2. 講師によるロガー装着。

 24時まで続く実習明けに寝不足を漲らせた二日目、バイオロギング研究の発展についてのレクチャーを受ける。興味は疲れを上回り、参加者は脱落することなく講義を吸収する。講義の次は、繁殖地にて雛の計測実習を行う。ロガーから得られたデータのみでは、研究の面白さは半減する。繁殖地での雛の成長や親鳥のコンディションなどと組み合わせることで、情報の価値は高まるのだ。グニャグニャと動く雛の計測は初心者には難しいが、講師の粘り強い指導により全員がこれをマスターすることができた。

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図3. 繁殖地での雛の計測実習。

 二日目の夜間には再び繁殖地に向かう。足を滑らさぬよう、繁殖個体を撹乱しないよう、慎重に歩を進めて夜の繁殖地を経験する。講師は以前にロガーをつけた個体を再捕獲し、丁寧に機器を取り外す。これでようやくデータが得られるのだ。回収したロガーからデータを抽出し、結果がパソコン上で披露される。そこには、観察からは得られない海上の軌跡が美しく描かれていた。
 最終日には、サポート役を務めてくれた院生たちの研究成果が紹介される。バイオロギングにより得られる情報の利用方法は無限だ。知られざる移動軌跡、巣立ち後の死亡状況、年齢による行動変化、ビデオが捉える未知の採食生態。ロガーをつければデータは得られる。しかし、大切なのはそこからどのような情報を引き出すかという点だ。それぞれに工夫された視点で行動を解釈し、海鳥という特殊な生物の行動に新たな理解が加わる。
 さて、活字にすると簡単なように見えるが、バイオロギングでデータを得るのは大変なことである。暗い夜中に急斜面の繁殖地に通い、鳥を探して捕獲する。ロガーの電池はせいぜい数週間しかもたないため、1度つければ終わりというわけではない。多数の個体の行動を把握するため、夜の繁殖地に日参し、泥まみれになりながら捕獲、装着、計測を繰り返す。結果だけを見るとデータ解析が主要な仕事のようにも見えるが、そのデータを得るために調査者は何ヶ月も島に留まり、汗を額にフィールドワークをこなす。私たちが学んだのは、一方でバイオロギング研究の技術であり、一方で研究を支える地道な研鑽の必要性だった。安楽椅子研究などと口にしていた自分に恥ずかしさを覚えながら、講習は無事に終了した。
 参加者にとって、今回の講習は忘れがたいものになっただろう。綿密な計画と臨機応変な対処で講習を進めてくれた講師の山本さんと松本さん、そして名大の皆さん。現地での移動から名物わっぱ煮まで、あらゆる面で便宜を図っていただいた民宿松太屋さん。暖かい笑顔で出迎えてくれた粟島の方々。今回の講習を支えてくれた全ての方のホスピタリティに、心からお礼を申し上げたい。

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図4. 焼き石で煮立てた名物わっぱ煮。

*バイオロギングに興味のある方へ
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング−最新科学で解明する動物生態学」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging.html
日本バイオロギング研究会編「バイオロギング2−動物たちの知られざる世界を探る」(京都通信社)
http://www.kyoto-info.com/kyoto/books/wakuscience/biologging2.html

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