我孫子市鳥の博物館 第93回企画展「山階芳麿博士の作った図鑑」のお知らせ

我孫子市鳥の博物館・山階鳥類研究所

我孫子市鳥の博物館 第93回企画展 「山階芳麿博士の作った図鑑」

山階鳥類研究所の創設者、山階芳麿博士が出版した「日本の鳥類と其の生態」の制作経緯、関わった人達などを紹介する展示を、我孫子市移転40周年記念として、我孫子市鳥の博物館で開催しています。

山階鳥類研究所からは、普段は公開していない図鑑の原稿、原画、木口木版画の版木などを、また、博物画家・小林重三の初公開原画もお借りして展示しています。ぜひお越しください。

我孫子市鳥の博物館 第93回企画展
「山階芳麿博士の作った図鑑」ー『日本の鳥類と其の生態』ができるまでー

【日時】2024年7月13日(土)〜11月4日(月・祝)
※一部展示の入れ替えがあります
前期:7月13日(土)~8月16日(金)
中期:8月17日(土)~9月20日(金)
後期:9月21日(土)~11月4日(月・祝)
【会場】我孫子市鳥の博物館
【入館料】一般300円、大学・高校生200円

 

イベント情報(詳細は鳥の博物館ウェブサイト


●鳥博セミナー「もう一つの木版画 木口木版画・西洋と日本の歴史と技法 山階図鑑のイラストに使用された版画」

日時:9/22(日) 13:00~15:00
場所:鳥の博物館定員:先着50名(電話予約)講師:長島 充さん(画家・版画家)
内容:木口木版画の技法や西洋・日本での歴史についてお話しします 。また版画の実演も行います。


●鳥のサイエンストーク「山階図鑑とはどういうものだったのか」

日時:8/17(土) 13:30~14:15
講師:鶴見みや古さん(山階鳥類研究所)オンライン開催・申し込み不要・参加無料


●企画展を担当した山階鳥類研究所所員によるギャラリートーク

日時:8/31(土)、10/6 (日) 13:30~14:30
場所:鳥の博物館企画展示

展示のチラシは以下から↓
https://www.yamashina.or.jp/hp/event/images/202404torihaku_kikaku93_paper.pdf
我孫子市鳥の博物館のwebサイト↓
https://www.city.abiko.chiba.jp/bird-mus/
山階鳥研のイベントページ↓
https://www.yamashina.or.jp/hp/event/event.html#torihaku_kikakuten93

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日本鳥学会 2023年度大会自由集会報告 - W06 野鳥観察をとりまく現状と課題

板谷浩男1),早矢仕有子2),渡部良樹3),富岡辰先4) ,須藤明子5),守屋年史6),高橋満彦7)

1)パシフィックコンサルタンツ株式会社(当時),2)北海学園大学,3)日本野鳥の会東京,4)財団法人日本野鳥の会,5)株式会社イーグレット・オフィス,6)NPO法人バードリサーチ,7)富山大学

 

1.趣旨説明,観察者の有無がオオタカの繁殖成功率に与えた事例紹介 板谷浩男

近年,デジタルカメラが普及したことにより,野鳥観察者の大半がカメラを保持し,野鳥を観察するだけではなく,野鳥を撮影することを目的にしている観察者が大多数を占めるようになりました.そして,撮影した画像や動画はSNSに投稿することで認証要求を得るということが一般化しています.鳥の生態を熟知していなおらず自らの力で発見したり識別したりする力がなくてもSNSで情報を得ることで,簡単に野鳥がいる場所を知ることができ,撮影できるという時代になりました,また,撮影者の中には,野鳥を生物としてではなく風景などと同様にとらえ,生き物を相手に撮影をしているという認識がなく撮影をしている人が出てきており,観察者(撮影者)の存在が野鳥達に対して必要以上に影響を与えることになる例も見受けられます.

結果として,観察者の存在が希少種の保全に悪影響を与えたり,撮影に対する欲求が過剰になることで社会的なルールを無視する行動が見受けられるようになり,野鳥観察自体が社会的な問題となりつつあります.私がオオタカの調査をしている東京都の都市公園では,オオタカは人に慣れているから繁殖期にむやみにオオタカに近づいて撮影をしても,繁殖に影響を与えないという誤った認識をSNSで発信する人も存在しており,危惧しているところです.調査結果でも,観察者に対して何らかの対策が講じられているところと,対策が何もされず観察者が営巣地付近を自由に行き来できる場所とでは,繁殖成績に大きな差が生じていました.

今回主催した自由集会では,いくつかの事例を参考に,野鳥観察が,希少種保全に与えている影響や,社会的にも問題を生じさせている現状について議論しました.また,総合討論では,参加者から情報や対処方法を求めながら,この問題に対して研究者や鳥に係る仕事をしている者がそれぞれの立場でどのような対応をすべきかを探りました.

写真1 犬を連れてオオタカの営巣地に接近するカメラマン

2.野鳥観察に関するトラブルの事例の報告 渡部良樹

野鳥観察に関するトラブルを,カメラマンや観察者によって1)長期的に問題が生じた事例と2)一時的に問題が生じた事例に分け,さらにa)鳥類(や自然環境)への影響とb)人への影響に分けて紹介しました.1)長期的に問題が生じた例として,八王子城跡の事例を紹介しました.ここはサンコウチョウなどのヒタキ類夏鳥の撮影地として有名で,5,6月は夏鳥の営巣前からバードウォッチャーやカメラマンが集まり,サンコウチョウ等の巣が常時カメラマンに覗かれる事態が発生しています.1-a)カメラマンや観察者が鳥類に対して与えた影響の結果の可能性があることとして,サンコウチョウ生息数の減少,営巣場所の変化(人から見づらい場所に造られる)が挙げられます.また,カメラマンが悪影響を与えたと考えられる事例として,オオルリの囀りの音声が流された事例がありました.1-b)人に対して与えた影響と考えられるものは,通行路に居座る,撮影機材を置くなどによる通行妨害,ゴミの廃棄,路上駐車などがあります.2)一時的に問題が生じた例として,2019年-2020年にコノドジロムシクイが越冬した八王子市館町の住宅街の事例と,2013年にセアカモズとアカモズの交雑個体が越冬した平塚市の耕作地の事例を紹介しました.2-a) 鳥類に対して与えた影響としては,前者では対象の鳥を見ていないため不明で,後者では対象の鳥への人の接近により,鳥が遠くへ逃避したことが挙げられます.2-b)人に対して与えた影響としては,前者では民家にレンズを向けることによるプライバシーの侵害と,路上に人が集まったことによる通行妨害が挙げられます.後者では多くの人や車が路上に集まったことによる通行妨害や,私有地(耕作地)への不法侵入が挙げられます.

カメラマンや観察者によるトラブルの性質は,長期的なものと短期的なものではやや異なり,長期的なトラブルは,毎年渡来する渡り鳥や留鳥の生息地で生じ,放置すると解決せずに続くことが挙げられます.一方,一時的なトラブルは迷鳥や珍鳥の情報が流れた場合に生じ,鳥類への影響は,個体に対するものがあったとしても,種や個体群レベルにまで及ぶことは少なく,鳥類,人への影響はともに放置しても自然解消する可能性があります.しかしこのような自然との接し方や認識は,影響の大小にかかわらず他の場所や人へ伝播拡大する可能性があり,放置すべきではないと考えています.

 

3.絶滅危惧種シマフクロウの見方と見せ方 早矢仕有子

絶滅危惧種のシマフクロウは、夜行性の留鳥で家族単位で暮らしています。国はシマフクロウの保護事業を始めた1984年からずっと、人の接近による繁殖や採餌の妨害を防ぐため,生息場所を非公開にしてきました.しかし,インターネットの普及に伴い,採餌場所や営巣地で撮影された野生個体の写真と生息地情報がウェブ上に拡散し,カメラマンによる生息地への入り込みが急増しています.シマフクロウを餌付けし集客に利用する宿泊施設も複数存在し、写真撮影の便宜を図っています.また、中には,立入禁止の看板や柵を無視し、国がシマフクロウ保護のために設置している巣箱や補助給餌場所への侵入を繰り返す者も現れ,保護増殖事業の継続に大きな支障が生じています.シマフクロウ個体および営巣地への過度の接近や営利目的の餌付けに法的規制が無い現状を改める必要があります.

その上で、野生個体に悪影響を与えず、生息地情報を隠したままで生態や保護の現状を知ってもらう取り組みとして、筆者は、繁殖巣からのライブ配信を試み、シマフクロウの子育ての様子をインターネットで見守る活動への参加を呼びかけてきました。参加者には、シマフクロウへの知識・愛着・保護活動への共感の高まりが確認できました。この取り組みを定着・拡大することで、営巣地への侵入防止にも貢献できると考えています。

 

4.イヌワシの営巣をYouTubeでライブ公開〜その経緯と課題 須藤明子

滋賀県の伊吹山のイヌワシ生息地では,1990年代からイヌワシの撮影を目的としたカメラマンによる樹木伐採や餌付けなどの問題が続いています.環境省,滋賀県,伊吹山自然再生協議会による看板設置やパトロールなどが行なわれてきましたが,効果は限定的でした.さらに近年になって,一部のカメラマンが巣に接近し,卵や雛が死亡する恐れが高まったため,「見守りによる監視」と「生息地保全への理解」を目的として,巣内でのようすをYouTubeでライブ配信する取り組みを2023年4月1日に開始しました.

イヌワシなど希少種の生息場所は,保全の観点から非公開が原則です.また普通種であっても営巣の写真や映像の公開は控えるべきだとされています.そこで,一般公開に先立って,希少種の研究者や保全の専門家に限定公開して意見を聞きました.その結果,これまでの保全に関する取り組みの実績や他に良い保全策が見当たらないこと等から,公開に賛同する意見が多数を占めたため,一般公開に至りました.

ライブ配信終了までの3カ月間の視聴回数は146万回を越え,多くの視聴者がイヌワシの育雛を見守り続けたことにより,巣に接近するカメラマンは見られず,大きな監視効果が得られました.

また,雛が食物不足により巣立ちできず,親鳥が育雛を断念する結果となり,視聴者はニーナと名付けた雛が,健気に親鳥の帰りを待つ姿を目の当たりにすることで,イヌワシが置かれた深刻な食物不足を痛感しました。ニーナを助けるために何ができるのか,チャット機能を活用して海外を含め視聴者同士が真剣に議論した結果,健全な自然環境や生物多様性を保全するための取り組みに共感し,自らもできることをやろうと考える視聴者が増えました.イヌワシの生息地保全を目的としたクラウドファンディングが,数時間で目標額200万円に到達し,さらに700万円を超える資金が集まったことも,これを反映していると思われました.視聴者の多くは,もともと野生動物や自然に無関心であったことから,希少種や生物多様性保全について,広く知ってもらう教育効果も大きかったと考えられました.

一方,巣から落下した雛の救護について,人による自然界への介入行為への批判をはじめ多様な意見が寄せられました.親鳥の育雛放棄等の場合に備え,域内保全から域外保全(飼育個体群への参入)への切り替え等について,関係者による情報共有と協議の場が必要と思われました.

写真8 伊吹山ドライブウェイの立ち入り禁止区域(道路交通法)でイヌワシを撮影するカメラマン

5.日本野鳥の会のマナー問題への対応について 富岡辰先

これまでに,日本野鳥の会では,①ホームページ等での撮影等のマナーの普及,②テレビ番組・新聞・写真コンテスト等でマナー違反があった場合に再発防止の要望書を送る等の再発防止等の申し入れ,③会員や一般の方から,支部の探鳥会のマナー違反や支部報でのマナー違反の報告があった場合に一般市民や各支部等に申し入れ,等の対処を実施してきました.また,「野鳥観察・撮影の初心者に向けた,マナーのガイドライン」(2022)の作成や,マナーガイドラインのパンフレット(2023)を作成し,探鳥会等で配布を実施するなどの活動をしています.

6.野鳥撮影の法的規制 高橋満彦

日本国内では,野鳥撮影等の一般的規制(広く適用されるもの)はありません.絶滅危惧種への撮影等に対する規制もありませんし,保護区における規制についても,法律で一定程度導入され始めましたが,適用されるのはわずかな面積に過ぎません.一方,海外ではイギリスのWildlife & Countryside Actは,保護鳥の繁殖行動の妨害を禁止し,巣の撮影には撮影ライセンスを発行しています.アメリカのEndangered Species Actでは,絶滅危惧種のハラスメント“harass”は,捕獲と同義として処罰され,写真家の訴追も発生しています.また,その他の国でも,国立公園等では過剰接近,餌付け,コールバック,立入り等の規制が実施されている例があります.

海外の国立公園や保護区は原則として国有地であるため圡地所有権等に基づいて規制ができますが,日本の自然公園制度(国立公園)は,土地の権原に基づかない公法的規制で,私有地を指定できる反面,厳しい規制がしづらい状況です.また,環境保全当局の取締り権限,機動力・能力の差もあります.山野で取締りが困難なのは,どの国でも同じですが,海外ではレンジャーに警察権限があるなどの差もあります.

7.総合討論 守屋年史

規制・マナーの問題について,科学的な議論を行うためのエビデンスの収集などが鳥学会として貢献できるポイントという意見を頂いたほか、規制やマナー普及のために野鳥の観察者や撮影者の関係者に適切に届く効果的な情報発信が,実装のために必要という意見,また,撮影を主体としない野鳥観察の魅力を普及するといった昨今のスタイル自体を見直すことも重要な視点ではないかとの意見を頂きました.

写真8 自由集会の様子

<参加者との意見交換>

  • 自然観察ツアーを開催するにあたり,マナーを教えることは大切だが,あまりマナーを強調すると楽しむところが無くなってしまう可能性があるので,そこは難しい.
  • マナー問題は避けて通れない問題であるため,ツアー会社は,関係する団体や組織と協力し情報を発信していく必要がある.届けたい人への効果的な情報発信が必要.
  • 説得力を持たせる方法としてエシカルフォト(倫理的な写真撮影)などの議論が足りないような気がする.
  • 鳥学会員としては,このような問題が鳥にどういった影響を与えているかを定量的に示していく必要がある.
  • 一方的にこういうことは悪いから止めろと言っても相手が反発するだけで難しい.鳥学会に属する研究者は,鳥に影響を与える行為について,科学として何が,どう影響するかを明確に示すことが大事だと思う.
  • 鳥の野外調査の倫理規定がないため,学会がバンディングなどの野外調査(研究)に対しても倫理的な観点と必要性をしっかりと示していくべき.
  • マナー問題には教育が重要だと感じる.子供達から教育を進めていくのがよい.
  • カメラを捨てたバードウォッチングを復活させた方がよいと思う.カメラで撮影することはとても楽しいことだが,あえてカメラを持たないで観察にシフトした鳥見をすることで,鳥との接し方などについて見直すきっかけになるのではないか.
  • 環境アセス関連の調査者には,調査圧について理解していない方がいる.今後,一般の方への啓発含め,業務としている方々への注意喚起も必要ではないか.

また,会場では以下のようなアンケートも実施したところ,問題事例把握や配慮を行っているとの意見も多く寄せられ,関心の高い事柄であることが実感できました.アンケートの質問は、以下のとおりです.

(質問1)野鳥観察や撮影に関わる問題事例を知っていれば教えてください.
(質問2)野鳥観察や撮影についてご自身で気をつけていることがあれば教えてください.
(質問3)自由集会の感想

なお,アンケート継続して実施しているため,この記事を読んだ方の中からもアンケートに回答頂けると幸いです.

アンケートのURL
https://docs.google.com/forms/d/1k-xCtbwWDEUn00EQpVyzTW2EKjDFyfzwui5_6rOtCvY

2024年大会でも自由集会を開催予定です.
皆様、是非ご参加ください.

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日本鳥学会2023年度大会自由集会報告 - W02 草原性希少鳥類と種の保存法

浦 達也((公財)日本野鳥の会)

 日本では過去100年間に1,000 km2 以上の湿地や草原が失われ,湿地や草原の乾燥化や埋立て,植生遷移による疎林化や樹林化,工業地域や農地,宅地への転用,最近は太陽光発電施設の設置などにより草原性鳥類の個体数が著しく減少していると言われる.近年,研究者や自然保護団体が国に働きかけたことにより,シマアオジ,シマクイナ,アカモズ,チュウヒなどの草原性または半草原性の鳥類が「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律 (種の保存法)」の「国内希少野生動植物種」に指定された.

種の保存法は,個体の取引規制,希少種の生息地保護や保護増殖に関して重要な法律である.しかし,希少野生動植物種の指定種やその生息地が適切に保護されているかは不明な点が多い.

そこで本集会では,国内希少野生動植物種に指定された草原性希少鳥類について,最近の生息状況等に加え,その種が指定された背景と指定後の種を取り巻く状況の変化について報告した.また,日本で希少鳥類が国内希少野生動植物種に指定されることの意義と,指定された鳥類に関する保護上の課題を確認し,今後,種の保存法が真に希少鳥類の個体や生息地を保護に貢献する法律にすべく,米国の種の保存法 (ESA: Endangered Species Act)と比較しながら議論した.


1.シマアオジの現状と国内希少野生動植物種指定

葉山政治((公財)日本野鳥の会)

 シマアオジは旧北区北部の草原で普通にみられた種で,繁殖地もカムチャツカからフィンランドまで広がっていたが,1980年代以降は急激な繁殖地の縮小と約90%の個体数の減少が確認された.環境省レッドリストでは 2007年に CR (絶滅危惧IA類),2017 年には国際自然保護連合 (IUCN)のレッドリストでCRに選定された.また2017年には国内希少野生動植物種に指定された.しかし,国内での繁殖つがい数の減少は継続している.

減少要因としては,国外の渡りの中継地における違法な捕獲や越冬地となる農地環境の変化が指摘されている.シマアオジの回復のために種の保存法の下では国内でできることは少ない.

しかし,国内希少野生動植物種に指定されたことで,重要な繁殖地や中継地のあるロシアや中国との二カ国間渡り鳥保護協定等の場での情報交換や保護の必要性の共有が行われた.その結果,中国では保護対象種へ指定されたことで,日中両国でモニタリングが行われている.渡り性の種では多国間モニタリングの体制が必要であり,国内希少野生動植物種の指定がこの取り組みを促進することを期待する.


2.シマクイナの現状と保全状況

先崎理之(北海道大学大学院・環境科学院)

 シマクイナは極東に分布する全長約15 cmの世界最小のクイナ科鳥類である.世界の生息個体数は少なく,減少していると思われることからIUCNのレッドリストではVU (危急種)に,環境省レッドリストでは絶滅危惧種IB類に選定されている.本種は日本では稀な冬鳥とされていたが,北海道と青森県の湿地で繁殖しており,関東以南の低地で越冬していることが近年明らかになり,2020年2月に国内希少野生動植物種に指定された.一方,我が国における本種の保全は,国内希少野生動植物種への指定の前後で特に変化はなく,前進していない.例えば,北海道の主要繁殖地である勇払原野や釧路湿原では,本種の繁殖確認前から国指定鳥獣保護区等であり,その他の生息地は保護区ではない.越冬地も耕作放棄地等の開発の脅威にさらされた土地に集中しており,しばしば開発により消失している.個体数の少ないシマクイナの保全には,繁殖地や越冬地の双方で生息地の保全を進めていくことが重要である.


3.アカモズの現状と国内希少野生動植物種指定

北沢宗大(国立環境研究所)

 過去 100 年間で亜種アカモズの国内の繁殖分布面積は約90%減少し,現存する個体数は300個体未満である.このような危機的状況により,本亜種は2020年に国内希少野生動植物種に指定された.本亜種の保全活動の取り組みは,環境省の生物多様性保全推進交付金等により,市町村および動物園が主体となった生息域内外の保全事業が実施されているほか,関係者の献身的なモニタリングが各地で実施されている.これらの活動によって,アカモズの現状と直近の脅威となる要因が把握されており,また保全体制の確立が進みつつある.しかしながら,現行の活動体制が資金的にも,人手不足の観点からも持続可能ではないこと,また,種の保存法の効力が及ばない国外の越冬地および中継地の状況把握が進んでいないことが主要な課題となっている.関係者の尽力により,活動の輪は広まっているものの,依然として亜種アカモズが絶滅の脅威にさらされている状況が続いている.


4.オオセッカの現状と保全の問題

高橋雅雄(岩手県立博物館)

 オオセッカは日本国内の生息個体数が約3,000羽と推定され,種の保存法の施行当初から国内希少野生動植物種に指定されている.東北地方北部の岩木川河口,仏沼,大潟草原,関東北部の利根川下流域,渡良瀬遊水地の計 5か所の湿性草原で繁殖するが,繁殖個体数の大多数を占める仏沼と利根川下流域では近年は減少傾向が続いている.越冬地は東北地方から九州地方で,東北地方 (福島県浜通り),関東地方 (利根川下流域,房総半島,渡良瀬遊水地),中部地方 (紀伊半島東部),九州地方 (薩摩半島)に多い.保全の問題として①湿性草原の植生環境の維持と②耕作放棄地への依存が挙げられ,①は乾燥化や疎林化などの湿性草原環境の劣化を防止し環境を回復させるために,繁殖地での火入れ,刈り取り,水位調整等の人為的管理が試みられている.②は特に越冬期で著しく,管理放棄や太陽光発電所建設による湿性草原環境の劣化や消失が進行している.


5.チュウヒの現状と国内希少野生動植物種指定
サンカノゴイの国内繁殖個体数推定結果

浦 達也( (公財)日本野鳥の会)

 チュウヒは北海道の湿地を中心に,本州の一部の埋立地等で繁殖する,推定繁殖つがい数が140つがいとされる希少猛禽類である.環境省により2017年に国内希少野生動植物種に指定されたが,湿地の乾燥化や疎林や樹林化による営巣環境の劣化や減少,太陽光発電所の建設や圃場整備などの開発行為,作為または不作為による繁殖地への人の接近により,近年も繁殖個体数が減少していると考えられる.一方,国内希少野生動植物種に指定されて以降,開発行為時にチュウヒの繁殖の有無が気にされるようになった.チュウヒが繁殖している場合には,工事開始時期を繁殖期終盤に遅らせるなどの保全措置が講じられるようになり,繁殖阻害を受ける事例が減少してきている.

ヨシ原に生息するサンカノゴイもまた,近年は繁殖個体数の減少が危惧される種である.そこで日本野鳥の会が 2020–2022年に全国で繁殖するサンカノゴイの個体数を現地調査やアンケートおよび文献調査を経て数えた結果,17羽しかいないことが分かった.


6.草原性希少種と種の保存法

髙橋満彦(富山大学・教育学部)

 種の保存法の概要を解説し,草原性希少鳥類の保護への寄与について議論した.種の保存法には,捕獲や譲渡等の規制 (個体等の取扱規制),生息地等保護区,保護増殖事業計画などのメニューが用意されているが,国内希少野生動植物種に指定されないと保護されない.国会の附帯決議もあって,国内希少野生動植物種の指定は増加しているが,鳥類では生息地等保護区の指定はなく,保護増殖事業計画の策定も追いついていない.

そもそも,草原性鳥類の絶滅危機要因は乱獲ではなく,生息地の保全が重要なので,希少野生動植物種に指定されても,捕獲等の規制だけでは守れず,生息地等保護区の指定や,保護増殖事業の展開が必要である.それでも種の保存法だけでは限界があり,他の法律による保全の展開,農政や河川行政との連携も考えなければならない.さらに,野焼き規制の見直しや,草原バンクなどの新しい仕組みも模索しながら,草原の減少を食い止めなければならない.


7.コメント :「国内希少野生動植物種」指定に一喜一憂するなかれ

玉田克巳(北海道立総合研究機構)

 本集会で焦点のあてられた草原性希少鳥類の6種は全て渡り鳥で,うち 4種は国外で越冬するものであった.国内希少野生動植物種への指定は種の保存法によって捕獲や譲渡が規制されるが,捕獲は鳥獣保護管理法によってすでに規制されている.発表では各種の深刻な状況が報告されたが,6種のうち4種は IUCNのレッドリストでNT (準絶滅危惧種)もしくはLC (軽度懸念種)であり,国際的にみて保全が必要な種にはみえない.国際的にこれらの種を保全していくためには,渡り鳥等保護条約や生物多様性条約の枠組みを活用することが賢明であるが,各発表者からは,この辺の取り組みについての説明がほとんどなかった.減少している渡り鳥の保護対策を進めることは,越冬地や中継地の国々にとっても生物多様性を守ることにつながるはずであり,東アジアの国々にとっても WIN-WINの関係になるため,この視点を持つことが大事だと思う.

 

会場の様子。法律をテーマとした集会にもかかわらず、多くの方にご参加いただいた。
会場の様子。法律をテーマとした集会にもかかわらず、多くの方にご参加いただいた。
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日本鳥学会2023年度大会自由集会報告 W04 ヨタカの生態 −これまでの研究とこれからの課題−

多田英行(日本野鳥の会岡山県支部)
河村和洋(森林総合研究所 野生動物研究領域)

ヨタカ
日没後に縄張り内のソングポストに現れたオス成鳥

ヨタカは童話「よだかの星」の題材になったように、昔から里山の夏鳥として馴染みのある鳥です。夜行性であり地上に営巣することなど、他の鳥とは少し違った生態が広く知られている一方で、夜行性のために直接の観察が難しいことや、親鳥の擬態により巣の発見が難しいことから、詳細な生態についてはこれまで研究報告が少ない状態でした。

ヨタカは2006年の環境省レッドリストで絶滅危惧Ⅱ類に指定されたことなどをきっかけに、研究対象としての注目度が上がりました。近年はICレコーダーやプレイバックなどの新しい調査方法の確立も後押しする形で、ヨタカに関する研究報告が増えつつあります。例えば、ヨタカは伐採された人工林や植生が疎らな二次林、二次草原などに営巣しますが、巣材を使わないなりに営巣場所に必要な条件があることが明らかになりつつあります。また、ヨタカの生息適地を確保する上で人工林の管理や草原の維持が重要な役割を果たすこと、広域的な分布には景観要因や気温、標高が影響することも示されています。

本集会では、全国各地のヨタカ研究者が集い、それぞれの研究とその成果について紹介しました。そしてヨタカに興味のある参加者も交えての情報共有と課題整理を行いました。


1.はじめ「ヨタカの概要」

多田英行(日本野鳥の会岡山県支部)

 ヨタカは4-5月に渡来してなわばりを形成し、6月頃に産卵のピークを迎えます。育雛期以降の生態はよく分かっておらず、渡去は12月頃まで続きます。生息環境は主に自然林、二次林、植林地などの森林環境で、渡りの時期には農地や都市公園などでも観察されます。1990年代の全国調査では分布の減少が見られましたが、現在は分布が回復しつつある一方で、草地、河川敷、人里などでは分布はあまり回復していない様子がみられます。鳴き声は状況に応じていくつかのバリエーションがあり、音声コミュニケーションも利用していると思われます。抱卵期間は17-19日で、ヒナは孵化後15日程度で飛べるようになり、17日以降は巣の周辺から姿を消し、独立ちするまではなわばりの周辺で過ごしていると思われます。夜行性のため目視観察が難しいこともあり、採食行動の詳細は明らかになっていません。


2.「ヨタカの営巣環境について」

多田英行(日本野鳥の会岡山県支部)

 ヨタカの営巣地といえば、近年は植林伐採跡のイメージが強いですが、実際には植林地以外での営巣も多く見られます。岡山県内ではヨタカの生息地の多くは植林地が占めていますが、個体数密度でいえば自然林と植林地とでは大きな違いは見られませんでした。また、営巣地としては伐採後間もない環境以外にも、植林地の急傾斜地、二次林地の小規模崩落地や稜線上の疎林、明るい林内など、幅広い森林環境が利用されていました。これらに共通する抱卵場所の環境は、傾斜地の一部にある平坦な場所で、地表は水捌けの良い裸地となっており、抱卵場所の近くにはヒナが身を隠せるような小規模な茂みがある場所でした。抱卵場所から林縁や高木までの距離は巣によってばらつきがあり、林内の抱卵場所では林冠にヨタカが出入りできる隙間がありました。


3.「溶岩草原で繁殖するヨタカの営巣環境」

水村春香(山梨県富士山科学研究所)

 富士山麓では二次草原(火入れ草原)でヨタカが営巣していますが、国内における二次草原での繁殖報告は少ない状態です。巣の近くに樹木のない二次草原に特化した営巣特性があるのかを調べるため、巣を中心とした植生や地表の状況と、非営巣地の状況を比較しました。その結果、ヨタカの巣は二次草地の中でも堆積地ではなく溶岩台地の上でのみで発見されました。また、営巣地は非営巣地と比べて裸地が広く、地表の石礫は大きく、地上から高さ0.5-1m程度の植生被覆が少なかった。さらに、ヨタカは溶岩台地の中でも営巣場所を厳選しているようで、溶岩台地の尾根地形や水はけの良さに加えて、溶岩台地にあるヨタカの体色に似た色の石礫の多さも営巣と関係しているのかもしれません。


4.「ヨタカの砂浴び、交尾、抱卵、育雛などの生態撮影」

吉村正則

 夜行性のため観察の難しいヨタカですが、トレイルカメラによる自動撮影を用いることで、生態の一端を撮影することができました。細かい砂粒が乾燥した場所では、スズメの砂浴び跡のような窪地がいくつか見られることがありますが、ヨタカはそのような場所に日没後に現れると、細かな砂を体に浴びていました。このような砂浴び場所は、年や季節によって変わっていました。巣の撮影では、抱卵中のメスがさえずる様子が観察されました。また、抱卵中の巣にヤスデが近づいた際には、親鳥が翼を広げて威嚇していました。育雛期の撮影では、帰巣した親鳥がヒナを安全な場所に誘導する様子や、夜明け後にヒナを直射日光の当たらない草陰に誘導する様子が撮影されました。交尾行動としては、オスが地上や柱上でメスの前で尾羽を広げて細かく振り、求愛を受け入れたメスがオスと地上で交尾する様子を撮影をしました。


5.「ヨタカのさえずり頻度の変異と効率的な生息調査法」

才木道雄(東京大学秩父演習林)

 ヨタカの広域スケールでの分布の把握や地域スケールでの生息地利用の確認には録音調査は有効な手段のひとつですが、音声の確認には録音時間と同等以上の時間が必要になります。そこで、データの一部をもちいてヨタカの在不在やさえずりの活発さを精度よく推定するため、さえずり頻度の季節的、時間的変異を考慮した効率的な生息調査法を検討しました。さえずり頻度の季節的変異は概ね二山型(つがい形成期、抱卵から育雛初期)となりましたが、さえずりの時間的変異には様々なパターンが見られ、薄明時のみの調査では在不在やさえずりの活発さを正確に把握できない可能性がありました。さえずり頻度の時間的変異を考慮した結果、さえずりが活発で時期を予測しやすいつがい形成期を調査対象時期とし、録音解析の努力時間を60分前後とした場合は、日没から日出までを1時間間隔に分割して5分ずつ確認するのが最も効率的で精度の高い調査法でした。


6.「人工林伐採による幼齢林の増加がヨタカの生息を促す」

河村和洋(森林総合研究所 野生動物研究領域)

 ヨタカなどの遷移初期種は各地で減少していますが、伐採後の幼齢林は遷移初期種の代替的な生息地になりうるため、ヨタカが高密度で生息する場所では伐採による保全が期待されます。北海道中部でのプレイバック調査では、ヨタカの生息確率は伐採直後の人工林で高い傾向があり、周囲500 m圏内の幼齢林面積から正の影響を、標高から負の影響を受けていました。これらのことから、北海道中部の標高が低い場所では人工林伐採による幼齢林の創出が効果的なヨタカの保全策となることが明らかになりました。なお、標高の影響は本州で行われた既往研究では確認されなかったことから、気温の影響が反映されたものと思われます。人工林伐採で効果的にヨタカの生息地を創出するには、事前に対象地の気候や標高を考慮することが重要であり、このような各生物種の保全効果の場所差を考慮した森林管理は生物多様性の保全と木材生産の両立につながると考えられます。


7.まとめ「ヨタカ研究-世界での隆盛、日本での課題」

河村和洋(森林総合研究所 野生動物研究領域)

 国内における近年のヨタカの研究は、調査手法の多様化、テーマの広がりと共に知見が増えつつあります。海外ではヨタカ研究のネットワークの形成や研究集会が行われています。未知の部分が多い上、特徴的な生態を有するヨタカは、様々な研究分野に展開できる魅力的な研究対象です。海外では既に、風と渡り経路の関係、月齢による渡り行動への影響、人工照明による夜間行動への影響、営巣場所の背景選択による隠蔽度の向上など、興味深い研究が進んでいます。一方、国内でのヨタカ研究の課題としては、捕獲、追跡調査の不足や、一般化できるだけの研究例がないことが挙げられます。これらの課題に対して、少しずつではありますが取り組みへの動きが出始めていることから、関係者の協力関係の構築も含めて、今後の研究の発展が期待されます。


 

本集会では上記の発表の後に、参加者も交えての質疑応答と情報交換を行ないました。営巣環境の条件や、生息調査の手法の確立、森林管理と生息状況の関係性など、近年明らかになってきたヨタカの基礎生態も多く、関係者が一同に会して情報共有することで、これまで不明な点が多かったヨタカの姿が明らかになりました。また、ヨタカの研究者でなくても、バンディングでヨタカを捕獲した際の個体情報や、カメラ等による撮影画像など、貴重な情報をもっている人がいることから、研究者と観察者が情報を共有することで、生態の更なる解明に繋がる可能性が見えてきました。一方で、海外のヨタカ類の研究と比較すると、国内ではGPSによる個体追跡や、暗視カメラ等による長時間撮影など、最新の調査機材を用いた研究が進んでいないという課題が見えてきました。また、国内外でのネットワーク作りも進んでいないことから、今後はこれらの基礎固めをすることで、ヨタカ研究の更なる発展が期待できると感じました。

お忙しい中、自身の研究内容を惜しげも無く共有してくださった発表者の皆様と、数々の魅力的な自由集会の中から本集会を選んでくださった参加者の皆様に、厚く御礼申し上げます。

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【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(1)留学のきっかけから渡航まで

片山直樹(農研機構 農業環境研究部門 農業生態系管理研究領域)

皆さま、こんにちは。私は今年の4月中旬から、オーストラリアのクイーンズランド大学において、1年間の研究留学を始めました。カワウを愛する熊田那央さんと、二人の子どもたち(7才・3才)も一緒に来ています。今回、鳥学通信で連載記事を書く機会をいただきました。そこで、私たち研究者夫婦それぞれの視点で、日々の研究や暮らしのこと、そしてオーストラリアの鳥についてもお伝えしたいと思います。第1回目の今回は、私が留学のきっかけから渡航までをお話しします。

私はこれまで、日本で田んぼの鳥やその他の生きものを研究してきました。今回の留学では、こうした生きものたちにとっての「田んぼ」という生息地の大切さを、世界中の論文やデータを使って明らかにしたいと考えています。田んぼはアジアを中心に世界中に広がっていますので、英語や日本語の論文はもちろんのこと、中国語・韓国語・スペイン語などで書かれた論文やデータが存在するかもしれません。また、世界各地の研究者との連携も欠かせません。そこで、多言語の研究に詳しいクイーンズランド大学の天野達也博士と協力して、研究を進めたいと考えたのがきっかけの一つです。

茨城県の田んぼでチュウサギの研究などをしていました

オーストラリアを選んだ理由は、それだけではありません。オーストラリアにも田んぼがあって、ニューサウスウェールズ州の田んぼには絶滅危惧種のオーストラリアサンカノゴイAustralasian Bitternなどの水鳥が生息しています。この鳥の保全プロジェクトを進めているMatthew Herring博士とお会いして、ぜひ共同研究を進めたいと考えています。実はすでに、この記事が完成する少し前に彼と会うことができて、12月頃に田んぼを案内してもらえることになりました。その様子についても、今後の記事でお伝えできればと思っています。

 

オーストラリア産のお米(2キロで7~800円)

さて当たり前といえばそうなのですが、オーストラリアでは基本的に英語で会話をしながら、日々の生活や研究をしなければなりません。海外留学に行くのだから、英語は問題なく話せるのだろうと思うかもしれませんが、私にとって「英語」は学生時代からとても苦手なものです。私はもうすぐ40才になりますが、海外経験も少ないし、国際会議での発表も片手で数えるほどしかありません。若い時から海外の研究室で活躍されている方々を見ると、本当にすごい努力を積み重ねたのだろうなぁと尊敬します。

そんな自分ですが、少しずつ英語学習(NHKラジオ英会話やレアジョブ英会話など)を続けたことで、学生の頃よりは英語への抵抗感もちょっと薄れてきました。そして一度きりの人生、一回くらい生まれ育った日本を離れてみたいと思うようになりました。今の自分の英語レベルでは、まだ海外で苦労することは分かり切っていますが、まぁそれも良い経験かなと思うようにもなってきました。

しかし、独身だった頃ならともかく、今は家族がいます。妻は国立環境研究所で働いていますし、子どもたちもいます。住み慣れた日本ですら子育てに右往左往している毎日なのに、海外で生活なんてできるのでしょうか。子どもたちは、現地の小学校や保育園に通えるのでしょうか。考えだすと、不安はつきません。こういう色々な思いを、妻に相談することにしました。彼女がもし反対すれば、留学は辞めようと思いました。ところがいざ相談してみると、「ぜひ挑戦してみたら?オーストラリアの鳥も見られるし」と言ってくれました。本当に勇気づけられました。もっとも内心では、色々な葛藤やトレードオフを考えたでしょうし、そのことは彼女自身が次の記事で話してくれるかもしれません。

オーストラリアの鳥についても、次回以降でお伝えします

私が働いている農研機構には、「在外研究制度」という留学制度があります。とはいっても誰でも自由に行けるわけではなく、理事の方々に研究留学の目的を理解していただくための書類やプレゼンが必須となります。農研機構は農業の研究所なので、農業における生物多様性の価値をきちんと伝えることが大切です。私も相当な時間をかけて資料を準備し、なんとか採択されました。採択者は、現地での滞在費と研究費の補助がもらえます。ただし、家族の費用は自腹となりますし、コロナ渦や円安によってオーストラリアの生活費は高騰しているので、相応の赤字は覚悟しています。

留学が決まってからは、たくさんの書類仕事が待っていました。何よりも大変だったのは、現地でのアパートの契約でした。近年のオーストラリアは、移住者がとても多く、空き部屋がすごく少ないです。そのため、人気の物件には数十人が内見にくるほどの競争率になっています(←内見しないと応募できない物件が多いです)。私の場合は、天野博士が代理で内見を行ってくれました。結局、7~8件ほど応募して、出発の二週間前になって、ようやく1つの物件が決まりました。入居可のメールが届いた時は、論文アクセプトのメールよりもうれしかったです。その後は、直前まで荷造りに追われました。子どもたちの持ち物が多いこともあって、スーツケース5個とバッグ2個の大荷物になってしまいました。

大荷物での移動は大変でした…

こうして4月15日の夜9時、成田空港からブリスベン空港に発ちました。最後に空港のレストランで食べた蕎麦が美味しくて、次においしい蕎麦を食べられるのは1年後かな…なんてことを考えました。機内では、家族4人がひと並びになる座席でしたが、子どもたち2人を少しでも広く寝かせてあげたいと思い、大人たちは狭いスペースに縮こまって、まともに寝ることができませんでした。それでも翌朝、快晴のブリスベンの地に降り立った瞬間、疲労感がどこかに飛んでいきました。これから、どんな出会いが待っているのでしょうか。長いようで短い1年間の、一日一日を大切にしたいと思います。

4月16日のブリスベンは快晴で、日中は汗ばむほどの暑さでした。
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日本鳥学会2023年度大会参加報告

日本鳥学会2023年度大会参加報告

北海道大学 文学院 博物館学研究室 修士1年
池田圭吾

2023年9月15日から18日にかけて,金沢大学で開催された日本鳥学会2023年度大会に参加しました.今年で2回目の参加となり本大会で私は,「江戸時代の北海道におけるワシの分布」という題目でポスター発表を行いました.また,3日目に行われた懇親会にも初めて参加し,非常に有意義な時間を過ごすことができました.

江戸時代のワシの分布に関するポスター発表では,幸いなことに歴史資料を用いた鳥類の研究に興味を持っていただくことができ,様々な分野を専門とする方々からご意見やご質問をいただき大変実りのある時間となりました.特にご質問が多かったのは,江戸時代の北海道におけるオジロワシやオオワシの個体数に関するものでした.私自身もその点には大きな関心がありますが,歴史的な史料に残されたデータには限りがあり,個体数を算出することは容易ではありません.しかし,私が考えていたこととは異なる視点から,当時の個体数を算出する手法についてご助言をいただくこともでき,研究を進めていくうえでの視野が広がりました.

江戸時代の北海道におけるワシ猟の様子
(東京国立博物館所蔵『蝦夷島奇観』を加工、http://webarchives.tnm.jp/)

初めて参加した懇親会では,歴史的,文化的な観点から鳥類を研究している方々と意見を交わすこともできました.歴史資料に記載された鳥類に関する研究を専門としている方は少ないので,普段そのような方々とお話できることは多くありません.そのため,本大会のような貴重な機会を提供していただけることは非常にありがたいです.また,それと同時に歴史的な視点から鳥類を研究するにあたっては,現代の鳥類の生態に関する知識を学ぶことが欠かせません.ポスター発表や口頭発表ではもちろんのこと,懇親会でもイヌワシやオジロワシなど猛禽類の生態に関するお話をお聞きすることができました.ほかにも,ここには書き尽くすことができないほど様々な貴重な話をお聞きすることができました.本当にありがとうございました.

余談ではありますが,個人的にはちょっとしたトラブルもありました.3日目の朝には,会場行のバスに乗ることができず,会場から金沢駅に戻るときには数人で話しているうちに乗り過ごしてしまったのです.しかし,初対面の参加者の方からタクシーの乗り合わせを提案していただいたり,金沢駅まで電車に乗って談笑しながら帰ったりとなんとか無事に日程を終えることができました.昨年度初めてポスター発表を行ったときにも感じたことですが,このような参加者の皆様の和やかな雰囲気のおかげで,学会全体の議論が活発になると同時に,歴史的な鳥類の研究をも受け入れていただける懐の深い学会になっているのだと思います.

また,他の参加者の方々の発表で個人的に興味深かったのは,野鳥をまもる防鳥ネットの展示や販売ブースでした.地元に帰省した際に野鳥を観察しにいくと,ハス田の防鳥ネットに多くの野鳥が絡まっている様子を頻繁に目撃します.そのような姿を見るのは悲しく,水鳥によるレンコンの被害を減らすことと,防鳥ネットを野鳥にとって安全なものにすることの両立はできないのか疑問に思っていました.そんななか,羅網事故が発生しにくい防鳥ネットを開発している方による展示や販売ブースを本大会で見かけ,嬉しく思いました.本大会では,このような実践的な取り組みに関する展示とともに,レンコンの食痕から食害のもととなる加害種を推定する方法に関するポスター発表もあり,様々な視点から研究が行われていることを学びました.今後,これらの研究成果が生かされ,防鳥ネットによる野鳥の被害が減少することへの期待が膨らみました.

羅網事故の様子(筆者撮影)

話題を歴史的な鳥類の研究に戻すと,2日目の午後の自由集会では「第5回標本集会 江戸時代の鳥を知ろう」が開催されました.明治時代の標本コレクションに関する説明の後,茶の湯で使用される羽箒,江戸時代の出来事が記録された古文書,遺跡から出土した骨をそれぞれ用いて,標本に残らない江戸時代の鳥類を研究する方々の発表を聞くことができました.まさに私が学んでいる時代に関する発表ですが,手法や対象とする鳥類が異なれば知らないことばかりで,非常に勉強になりました.また,羽箒に使われた羽の種類を特定するために奔走したり,古文書からひたすら「鶴」の字を探したり,様々な分析手法を用いたりと研究に対する熱意が伝わってくる発表でした.私自身も研究を進めていくことはもちろんですが,今後このような熱意が広まり,鳥類研究の1つの分野として,古文書に限らず幅広い歴史資料から鳥類を研究する分野がさらに発展していくことを期待しています.

最後に,2023年度の大会を開催し,無事に4日間の日程を終えるためにご尽力いただいた大会実行委員やスタッフの皆様と,どんな分野でも暖かい雰囲気で受け入れていただける参加者の皆様に御礼申し上げます.そして,2024年度の大会に参加できることを心待ちにしております.

 

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日本鳥学会2023年度大会の感想

日本鳥学会2023年度大会の感想

都立国分寺高校 生物部
納谷莉子

私達都立国分寺高校生物部はカラスバトについて音声分析班とGPS班を編成し,グループでカラスバト研究を行っています.その中で私はGPS班に所属しています。私達国分寺高校生物部がカラスバトの研究を始めたのは約12年前です.はじめはカラスバトの生息する伊豆大島の林道を中心に観察を進めていましたが,カラスバトは警戒心が強く,人前にめったに姿を現さないため調査は困難でした.そこで目を付けたのが羽でした.大島公園の飼育個体の羽を拾い,いつ抜けたのかなどを調べてカラスバトの羽の生え替わりなども解明しようとしたり,安定同位体比の調査を進めたりしました.しかし,これらのことはカラスバトの生態解明にはあまり繋がらないのではないか,と考え,他の調査が始まりました.

それが,音声分析班が行っているフィードバック実験です.島の林道でスピーカーを用いてカラスバトの鳴き声を流し,それに対して野生のカラスバトはどのように反応するのか,また,その時の行動などとも照らし合わせることでカラスバトはどのようなときに,どう鳴くかを調査しました.その結果,島内でカラスバトがよく鳴く,つまりカラスバトが多くいる場所が分かり,その場所は今ではカラスバト調査の定番の場所となっています.黒田治男先生による音声分析方法の指導や,株式会社リバネスによる録音機の貸し出し等の支援もあって音声分析班は今も調査を続けています.ドローンによってカラスバトの生息地等の環境を調べることでカラスバトがどのような環境を好むか,という調査も行いました.

約2年前,大島公園でケガを負って保護していたカラスバトが回復し,放鳥されることになりました.この時,本校生物部顧問の市石博先生へ,「可能な範囲であれば研究にご協力できます」との連絡が入りました.そこで日本野鳥の会会長である上田恵介先生を通じて,国立環境研究所の安藤温子博士と連絡をとり,保護個体にGPS発信機を取り付けて放鳥しました.こうして安藤博士,大島公園との共同研究に発展し,私達GPS班の活動が始まりました.

そして,今回鳥学会大会に参加し,同じように鳥を研究する同年代の仲間たちと研究結果を共有することができ,とても充実した2日間を過ごしました.同年代の仲間のみならず,研究者の方々からも様々な方面からのアドバイスが寄せられ,これからの研究を進めるにあたり私たちが注意するべき点,よりよい研究にするためのポイント等をメンバーの皆と改めて考えるきっかけにもなりました.さらにGPS班は今回科学賞を受賞させていただきました。このような光栄な賞をいただくことができ、とても嬉しかったです。この研究を進めていく上で、GPS発信機による位置情報を取得できずデータ数が少ないこと、カラスバトの行動観察が困難なことに悩まされたこともありましたが、私たちの研究が発表を聞いてくださった方々に評価していただけたことはこれからの研究に対する意欲を高めるものとなりました。今回いただいた意見を基にこれからの研究活動に真摯に向き合い,私たちを支えてくださる皆様への感謝を忘れずにカラスバトの生態解明に励み続けたいと考えています.

最後に国分寺高校生物部は,中谷医工計測財団から助成を受けて研究活動を実施しています。この場を借りて,お礼申し上げます.

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【署名ご協力のお願い】苫東厚真風力発電事業に対する事業中止要望について

澤 祐介(鳥類保護委員長)

日本鳥学会では、学会員の提案に基づき、鳥類の保護や生息環境の保全などに関する意見書・要望書等を提出しています。

日本鳥学会は、苫東厚真風力発電事業(以下、本事業と記載)に対し、風車の建設計画を中止も含めて全面的に再考するよう要望する(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する意見書(2020年11月1日付、鳥類保護委員長名)、続けて、事業の中止を求めた(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する事業中止要望書(2021年11月25日付、日本鳥学会長名)を提出してきました。しかし、日本鳥学会だけでなく、日本生態学会日本野鳥の会など、複数の団体からも同様の要望があったにも関わらず、本事業は現在、環境アセスメントの調査・予測・評価が終了し、準備書の手続きに入る段階にまで進んでいます。

本事業に対し、日本鳥学会が要望書提出時に共同記者発表を行った地元の市民団体「ネイチャー研究会inむかわ」が、タンチョウの営巣地保護を主眼とした事業中止を求める署名活動を開始しました。多くの希少種が生息する貴重な自然環境の保全にむけ、ご賛同頂ける方は、ぜひ署名にご協力ください。

■ 署名方法

オンライン署名

書面による署名

※お問い合わせは、書面による署名のpdfに記載のネイチャー研究会in むかわまでお願いします。

関連情報

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2030年までに陸域と海域の30%を保全する30by30目標と渡邊野鳥保護区フレシマ

2030年までに陸域と海域の30%を保全する30by30目標と渡邊野鳥保護区フレシマ

田尻浩伸(公益財団法人日本野鳥の会)

私たち(公財)日本野鳥の会は今年3月に創立90周年を迎えた自然保護団体で、「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に、全国各地にお住いの会員の皆さんと都内事務局に勤務する職員が連携しながら活動しています。活動は自然の大切さを伝える普及教育的な活動や開発問題等への対応、政策提言や調査活動まで様々ですが、特徴的なものに野鳥保護区の設置があります。野鳥保護区とは、鳥獣保護管理法や自然公園法など法や条例によって保護されていない民有地をご寄付によって買い取ったり、土地を所有する個人や企業と協定を結んだりすることで希少種とその生息地を保護する取組で、1985年に静岡県沼津市に最初の野鳥保護区となる小鷲頭山野鳥保護区を寄贈いただいたことから始まりました。2024年5月現在、北海道を中心に約4,000ヘクタールの野鳥保護区を設置しています。

渡邊野鳥保護区フレシマ
フレシマの看板に止まるオオジシギ(写真:古山 隆)

さて、2022年12月、カナダのモントリオールで開催された生物多様性条約締約国会議COP15において「昆明・モントリオール生物多様性枠組*、以下枠組」が採択されました。この枠組では、2050年ビジョンを「自然と共生する世界」、2030年ミッションを「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」、いわゆるネイチャーポジティブ(自然再興)とし、さらにその下に23の個別のターゲットが設定されています。その中のひとつが2030年までに陸域と海域及び沿岸域の少なくとも30%を保全するという30by30目標です(ターゲット3)。

30%を保全する手法として、前述のような法や条例で保護された鳥獣保護区や国立・国定・県立公園等の保護地域指定がありますが、その指定には利害関係者の合意形成などに時間がかかることも珍しくありません。そこで大きな期待を集めているのがOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)で、本来は保護を目的とした地域ではないものの結果的に高い生物多様性が残された地域を生物多様性の保全に活用していくというものです。OECMには自然観察の森やビオトープといった保全も目的とした地域はもちろん、企業緑地や里地里山、演習林や遊水地など本来は保全を目的としない様々な地域が含まれます。OECMに認定されると、国際的なデータベースに登録され、ウェブ上でその位置や様々な情報が公開されるようになります(https://www.protectedplanet.net/en/search-areas?filters%5Bdb_type%5D%5B%5D=oecm)。国内では、枠組採択に先駆けて2022年3月には2021年に英国で開催されたG7における約束に基づいて「30by30ロードマップ**」を閣議決定しており、2022年には自然共生サイトという名称で活動が本格化しました(当時は仮称)。2024年5月までに全国184か所が自然共生サイトとして環境大臣の認定を受けています。

タンチョウの営巣地を保護することを目的に当会が設置した渡邊野鳥保護区フレシマでは、タンチョウの営巣状況を把握するための繁殖状況調査、繁殖に影響を与える無断立ち入りなどに対応するための巡回監視や馬の放牧による植生管理などを継続しており、また過去には近隣での風力発電所建設計画に対応するためのオオワシ・オジロワシの調査などを行ってきました。生物多様性の高さと環境管理等を含めて自然共生サイトとして認定されたと考えています。

植生管理のため放牧を継続している馬
認定証を受け取った日本野鳥の会上田恵介会長。左は環境省白石自然環境局長。
令和5年度認定証授与式風景。関心の高さが分かる。

ここから少し分かりにくくなるのですが、自然共生サイトは必ずしもそのままOECMではありません。というのも、自然共生サイトは保護地域を含むことができる一方、OECMは保護地域を含まないものだからで、前述のデータベースに登録される範囲は「自然共生サイトのうち、保護地域を除いた範囲」になります。これは保護地域と重複する範囲を二重カウントしないようにするための措置です。

30by30目標達成のためには少しでも多くの地域がOECMとして保全されていく必要がありますが、自然共生サイトもしくはOECMに認定されると何かいいことがあるのでしょうか。もちろん、枠組の世界目標に貢献できる、生物多様性保全に貢献できる、そして貢献していることを対外的に広報できるといった側面もありますが、それだけでは多くの主体の参加は見込みにくいように思います。環境省が行った調査によると、企業の活用方法として自社技術の実証の場として活用しビジネスチャンスを期待する、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)による情報開示への活用を期待する、といった声があったようです。そのほか、企業が自然共生サイト申請主体を経済的に支援することで間接的に生物多様性保全に貢献する、いわゆる生物多様性クレジットとしての活用なども検討されています。この手法がグリーンウォッシュや開発の免罪符にならないよう、制度設計や運用状況に注視していく必要があると考えています。

現在召集されている第213回通常国会では、OECMに関連する取組を法に基づいたものとする「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律」が可決され(4月12日)、19日に公布、施行されました。今後(来年度?)、この法に基づいて、申請者は「増進活動実施計画(自治体の場合は連携増進活動実施計画)」を策定し、環境大臣ほかの主務大臣に認定を受けると、活動場所が自然公園法や鳥獣保護管理法、種の保存法、都市緑地法ほかの手続きが必要である場合、手続きの簡素化等の特例を受けることができるようになります。また、自然共生サイトは現時点で生物多様性が高いことが求められますが、増進活動実施計画では劣化した環境の回復や創出をする場合も含めることができ、計画を実施した結果、生物多様性が高まればOECMに認定されることもできるようになります。この回復や再生は2030年までに劣化した生態系の少なくとも30%で効果的な再生を行うという枠組のターゲット2の実現に貢献します。

これらOECMに関する特例などは、鳥学会会員が野外実験や捕獲等を行う場合にはメリットとなる場合もあるように思いますが、正直なところ、生物多様性保全に関心が高い層以外からより多くの参加を得るにはちょっと弱いのではないかと感じています。私たちはメリットとして税制優遇(不動産取得税や譲渡所得税、固定資産税、相続税など)があると良いと考えていますが、なかなか難しいようです。

批判的になってしまった感がありますが、まだ課題はあるものの30by30目標による生物多様性の保全には高い効果が見込まれています。自然共生サイトはその認定にあたって面積による制限がないことから、個人でも認定を受けることが可能で、実際に自然共生サイトに認定された個人住宅のお庭もあります。皆さんも、枠組の世界目標達成に参加、またネイチャーポジティブへの貢献のため、調査を行っているフィールド等の所有者とともに申請***してみてはいかがでしょうか。私個人としては、ブランド農産物のように生物多様性保全に貢献する農地で収穫された作物として、他の作物との差別化に使ってみたいと思っています。

 

*:環境省による昆明・モントリオール生物多様性枠組パンフレットは
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_pamph_jp.pdf

枠組仮訳は
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_ja.pdf

枠組原文(英文)は
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_en.pdf

**:30by30ロードマップは
https://www.env.go.jp/content/900518835.pdf

***:自然共生サイト申請(前期は受付終了、後期は9月ごろ募集開始予定)は
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/

 

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研究室紹介:鹿児島大学農学部 森林保護学研究室

研究室紹介:鹿児島大学農学部 森林保護学研究室

鹿児島大学農学部
助教 榮村奈緒子

鹿児島大学農学部農学科・森林保護学研究室について紹介させていただきます。私はこの研究室に2018年から助教として勤務しています。

鹿児島大学農学部のある郡元キャンパスは、鹿児島中央駅から徒歩15分にあり、生活には便利な場所ですが、キャンパス内には植物園や水田もあり、多くの鳥に出会えます。農学部は2024年度から1学科に改編され、森林保護学研究室のある環境共生学プログラムでは、生物多様性の保全から農林業資源に関する分野まで、幅広く学べます。環境共生学プログラムの学生は、高隈演習林や屋久島などに行く実習が多く、自然が好きな人には楽しめると思います。本研究室が担当している森林生態学実習では、県内各地で動植物を観察しますが、万之瀬川河口に行ってクロツラヘラサギなどの野鳥の観察を行います。

実は、私は鹿児島大学の卒業生で、学生時代には野鳥研究会という大学のサークルに入っていました。学生の頃は、バードウォッチングや鳥の調査バイトで、トカラ列島、奄美大島、徳之島、沖縄本島、甑島など、いろいろな島に行きました。本土でも、万之瀬川河口や国分・加治木の干拓地等に鳥を見に行きました。冬は出水のツル、秋は金峰山でタカの渡りが楽しめます。このように、鹿児島は南北600キロもあり、鳥を見るのによい場所がたくさんあるので、鳥が好きな人が大学生活をすごすのによい環境です。私は学生時代のサークル活動がきっかけとなり、野鳥だけでなく、島の生活にも興味を持つようになり、学部卒業後は鳥を見るために小笠原諸島に移住しました。その後、研究者を志すようになり、今に至ります。

森林保護学研究室は、鳥類専門の研究室ではありません。鳥や哺乳類をはじめとした森林に生息する野生動物の生態や管理について研究をしており、特に私は動物と植物の種子散布の関係に昔から興味をもっています。また、他の研究室や他大学の研究者と共同研究として、マダニやアマミノクロウサギなど、様々なテーマに取り組んでいます。鳥類に関しては、主にフィールドワークを中心とした研究に取り組んでいます。最近は、奄美のプロジェクトで、鳥類の音声モニタリングを行っています。他にも、海岸植物のクサトベラの果実二型などの種子散布に関する研究や、森林被害をもたらすシカの高隈演習林での分布状況を継続的に調べています。本研究室には、私以外にキノコや共生菌が専門の畑邦彦准教授が所属しており、セミナーなどを一緒に行っています。

卒業後の進路は、県の林業職や民間の林業職に就職する学生が多いですが、大学院に進学する学生もいます。卒業生には、本研究室での活動を含めた環境共生学プログラムでの経験を、生物多様性に配慮した持続的で安定的な森林管理に活かしてほしいと思っています。

郡元キャンパスからの桜島

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