日本鳥学会誌73巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

日本鳥学会誌73巻1号 注目論文 (エディターズチョイス) のお知らせ

出口智広 (日本鳥学会誌編集委員長)

和文誌では毎号、編集委員の投票によって注目論文 (エディターズチョイス) を選び、発行直後からオープンアクセスにしています。73巻1号の注目論文をお知らせします。

著者: 高橋佑亮・東淳樹
タイトル: 農耕地帯で繁殖するチュウヒの狩り場環境選択
DOI: https://doi.org/10.3838/jjo.73.23

湿地性猛禽類のチュウヒは、世界的に見た場合、個体数が安定傾向とみなされていますが、国内の繁殖個体群はわずか100番い程度の状況で、環境省のレッドリストランクでは、絶滅危惧IB類に指定されています。

本種の保全を進めるにあたっては、とりわけ生息地管理が重要となり、そのためには、生息環境選択の詳細な情報が求められます。本論文の著者の高橋さん達は、このような背景に基づいて、秋田県の八郎潟で繁殖するチュウヒの狩り場選択と、狩り場環境の指標となる餌動物密度と植生高を明らかにされました。

鳥屋さんはどうしても、心の大半が鳥に奪われがちで、彼らが暮らす環境の定量的な記録をついつい忘れてしまい、最後の考察に困るケースがよく見られます。高橋さん達の論文では、このような状況に陥ることなく、きちんとデータを集められており、これから投稿を目指す方にとって、間違いなくお手本となる1本と言えますね!

以下は高橋さんからいただいた解説文です.地道な努力が実を結んだ結果は励みになりますね!

 

日本のチュウヒの繁殖地における採食環境については、狩りが見られた環境タイプの列記といった報告はあったものの、個々の環境タイプが狩り場としてどの程度重要なのか評価した例はありませんでした。この点を研究した成果が今回の論文です。また、単に狩り場として選択される環境タイプを示しただけでなく、それらの環境タイプがなぜチュウヒに選択されるのか、すなわち選択要因についても検討し、獲物となる動物の密度や植生構造と対応付けられたことが、本研究のもう一つの意義だと思っています。
思えば、これら獲物となる動物(ネズミ、カエル、鳥類)の調査や植生調査は、主題であるチュウヒの観察調査よりもむしろ大変でした。とくに、9種類の環境タイプにそれぞれ10個の罠を設置し、計90個の罠を毎朝、毎夕に一人で見回るネズミの捕獲は大変でした。このようにして収集した獲物や植生のデータと、チュウヒの狩り場環境選択の傾向を突き合わせてみると・・・。おや期待通り対応しているではありませんか。苦労が報われたのでした。
今後、鳥類の採食環境に関する研究において、この論文が少しでも参考になれば幸いです。また、草地の創出といったチュウヒの生息地保全の取り組みに際し、この論文が一助となれば幸いです。

(高橋佑亮)

写真1 採草地はチュウヒの狩り場として強度に選択されていた。

 

写真2 用排水路沿いの草地も度々狩りが見られた。

 

写真3 大量のシャーマントラップ。チュウヒの主要な獲物であるハタネズミを調査。

 

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日本鳥学会2023年度大会自由集会報告 − W11 風力発電等WGが作成した「洋上風力発電建設に係る環境アセスメントガイドライン」

日本鳥学会2023年度大会自由集会報告 − W11 風力発電等WGが作成した「洋上風力発電建設に係る環境アセスメントガイドライン」

佐藤重穂(森林総合研究所)
風間健太郎(早稲田大学)
浦 達也(日本野鳥の会)
會田義明(環境省)

はじめに

近年,大規模な洋上風力発電施設の建設が各地で進められつつあり,さらに多くの洋上風力発電施設が計画されるようになっている.洋上の風力発電施設は陸上の風力発電施設と共通する課題もあるが,洋上ならではの課題もあり,それにどのように対応するかは再生可能エネルギー促進と鳥類の保全の両立のための重要な問題である.
日本鳥学会では2022年に鳥類保護委員会の下に風力発電等対応ワーキンググループを立ち上げて,こうした課題について議論を進めて,その結果,2023年8月に「洋上風力発電建設にかかる環境アセスメントガイドライン」を公表した.本集会ではこのガイドラインの作成と公表の経緯とその背景,および洋上風力発電と鳥類に関わる課題について,学会会員に対して説明することを目的として開催した.以下に各講演の要旨を記す.


1.主旨説明
風間健太郎

地球温暖化の一要因である温室効果ガスの削減は,全世界が取り組んでいる課題であり,その削減のためには再生可能エネルギーの利用が有効と考えられている.我が国では風力発電の導入が進められており,なかでも洋上風力発電の導入は今後加速することが予測される.現在,秋田県や長崎県で洋上風力発電が導入され,また,北海道から山形県の日本海沿岸と千葉県などで再エネ海域利用法に基づく促進区域および有望区域が多数設置されている.
総出力5万kW以上の風力発電事業は環境影響評価法の対象事業だが,事業の実施が環境にどのような影響を及ぼすか,あらかじめ事業者自らが調査,予測,評価する環境影響評価に際しては,できるだけ科学的根拠にもとづいてデータを取得し,鳥類への影響を適切に評価した上で,影響の回避や低減策を講ずるべきである.その実現を目指すために,日本鳥学会風力発電等対応ワーキンググループでは「日本鳥学会洋上風力発電建設にかかる環境アセスメントガイドライン」を作成,公開した*1.
このガイドラインでは,日本鳥学会員のほか,洋上風力発電導入に関わる電力事業者,環境コンサルタントやその調査者,あるいは自治体関係者等に向け,洋上風力発電が鳥類に及ぼす影響を適切に評価するために留意すべき点,導入すべき調査技術等について国内外の情報を収集,公開している.
本集会では,洋上風力発電が鳥類にどのような影響を与える可能性があるのかについて概説した上で,このガイドラインの内容について説明する.また,環境省で作成している「洋上風力発電所に係る環境影響評価手法の技術ガイド(案)」*2について環境省の担当職員から説明いただく.それらの講演を受けて,ワーキンググループで作成したガイドライン活用への期待や今後情報追加すべき点等について議論したい.


2.洋上風力発電が鳥類に与える影響
浦 達也

洋上風力発電所の建設適地と鳥類が好んで利用する場所は重なることが多く,立地選定によっては,そこを利用する鳥類にバードストライク(鳥衝突)や生息地放棄,障壁効果(風車が移動の妨げになることで,鳥が余計なエネルギーを消耗すること)などの影響を及ぼす可能性がある.日本では実験用のものを除けば洋上風車がほとんど建っておらず,鳥衝突等の発生に関する国内事例の蓄積は少ないため,ここでは海外事例を中心に,洋上風車における海鳥への影響事例を紹介する.
ベルギーのZeebrugge沿岸浅海域ではアジサシ類のコロニーと採餌海域の間の洋上に25 基の洋上風車が建っているが,2004 年から2014年の10年間調査を行った結果,のべでコアジサシ27羽,サンドイッチアジサシ100羽,アジサシ587羽が衝突死したと推測されている(Perrow 2019).バルト海で行われたBeoFINOプロジェクトでは,ヘリコプターで1年間に44回の死骸探索調査を行い,計442羽(風車1基あたり年間平均31.6羽)の死骸を回収した(Hüppop et al. 2006).イギリスのThanet洋上風力発電所では,ミツユビカモメ,オオカモメ,ニシセグロカモメなどが衝突していることが分かっている(Cook et al. 2014).日本でも政府の実証実験用の洋上風車および海岸に建つ風車において2023年1月時点で,アビ科15羽,ミズナギドリ科19羽,ウ科2羽,カモメ科68羽,ウミスズメ科26羽の海鳥の死骸が発見されている.
生息地放棄について,デンマークのHorns Rev洋上風力発電所では,発電所から半径2 -4km周辺海域で調査され,アビ科の鳥類とクロガモでは風車建設後3年間は風力発電施設周辺にはほとんど近寄らず,その後もアビ科は元の生息地に戻らなかった(Dong Energy 2006, Petersen & Fox 2007).同国のNysted洋上風力発電所では,発電所の建設予定海域内にあったコオリガモの生息分布が,建設後には建設海域から10–30km離れた4エリアに分散したと推測されている(Fox & Petersen 2019).
障壁効果について,Nysted洋上風力発電所ではホンケワタガモを中心とする渡り途中の水鳥が,天気の良い日には高い頻度で風車を避けて飛んでいた(Desholm & Kahlert 2005).イギリスのSheringham shoal洋上風力発電所がサンドイッチアジサシの繁殖コロニーと採餌海域の間に建設されたことで,建設海域での飛翔頻度が減少したことが報告されている(Perrow 2011).


3.「洋上風力発電建設に係る環境アセスメントガイドライン」内容説明
風間健太郎

本講演ではワーキンググループが策定した「洋上風力発電建設に係る環境アセスメントガイドライン」(以下,ガイドライン)の内容を説明した.ガイドラインの趣旨は以下の3点である.①鳥類研究者,電力事業者,環境コンサルタントや環境アセスメント調査者,自治体関係者等向けに策定,②洋上風力発電が鳥類に及ぼす影響を適切に評価するために留意すべき点や導入すべき調査技術等について国内外の情報を収集,公開,③ガイドラインの活用による適切な環境アセスメントの実現や生物多様性保全と温室効果ガス排出削減の両立を期待.
ガイドラインの内容は以下の通りである.1)洋上風力発電と鳥に関する国内外の法制度および環境アセスメント体制,2)鳥類や生態系への影響低減に向けた立地選定に関する情報,3)環境アセスメントのデザインと影響軽減策の検討体制,4)推奨される事前(建設前)アセスメントの手法,5)事後(建設後)アセスメントの必要性,6)事前影響予測の不確実性への対応策の提案と実施について.
アセスメントにおいては,衝突リスクや分布変化などの洋上風力発電事業実施区域内における個別の影響の評価だけでなく,それらが長期間蓄積することで顕在化する個体群への累積的影響を適切に評価すべきである.その実現のためには建設前だけでなく事後(稼働後)の評価も不可欠である.また,海洋生態系の高い変動性に対応するために,長期,広域,高頻度の現地調査が推奨される.海外においては風力発電施設から最低20 km外側まで,あるいは事業実施面積の6倍を調査範囲とすることが推奨されており,鳥類の洋上分布調査は月1回以上の頻度,1回に数度繰り返し,2年以上実施されることが推奨されている.海外では事業者や政府から独立して環境アセスメントの各工程を審査する第三者機関が存在するが,日本においては環境アセスメントの各工程を中立かつ客観的に審査するための体制が確立されていないために今後制度の改善が望まれる.当面は現行アセスの中で中立かつ客観的に審査する場を設けることが必要である.


4.「洋上風力発電所に係る環境影響評価手法の技術ガイド(案)」の内容
會田義明

我が国の洋上風力発電は,平成31年4月に施行された「再エネ海域利用法」により,一般海域において大規模な風力発電事業を継続的に導入していくための枠組みが整備され,候補となる海域において関係者による協議会が開催されるなどの取組が進められている.また,これと並行して事業者による環境影響評価の手続が進められており,①同一海域において複数事業者が環境影響評価手続を行うことによる地域の混乱や社会的コストの増加,②洋上風力発電に関する環境影響評価の知見の不足といった課題が顕在化している.
これを踏まえ,洋上風力発電に係る新たな環境アセスメント制度の検討が進められており,本年8月に有識者検討会による取りまとめが公表されたところである.*3
風力発電は平成24年に環境影響評価法の対象となって以降,陸上の風力発電の環境アセスメントが数多く実施され,鳥類調査の技術手法やバードストライクに関する知見等が蓄積されてきたところである.一方で,洋上の風力発電は事例も少なく,海域の環境は陸域の環境と大きく特性が異なること,海域では調査の手法に制約があること等により,陸域における調査手法やアセスメントの考え方をそのまま海域に適用することは難しい.このため,現時点で,現行制度に基づいて行われる環境アセスメントに活用できるよう,技術ガイドを取りまとめた.*2
技術ガイドでは,洋上風力発電について30年にわたる実績がある諸外国の環境影響評価に関する考え方や取扱いを参考にしつつ,我が国特有の海域の特性や,これまでに行われた海域における環境影響評価の知見等を踏まえて,洋上風力発電所の環境アセスメントの考え方や技術手法を取りまとめた.また,参考資料として,国内外の調査結果やモニタリング結果等の情報も収録した.
今後,洋上風力発電の新たな環境アセスメント制度の導入に向けて,ひきつづき科学的知見の収集や技術開発等の取り組みを進めていく.


 

以上の講演の後に会場の参加者と意見交換を行った.50名余りの参加者が熱心に講演に耳を傾け,意見が交わされたことに,環境保全や鳥類の保全と再生可能エネルギーの促進の両立という課題に多くの関心が向けられていることを実感した.時間が不足して質疑の時間を十分に確保できなかったのは集会世話人の不手際であり,反省したい.この集会で示された課題の解決に向けた研究が進展し,持続可能な社会の構築に寄与することを切に願うものである.

 

*1 日本鳥学会洋上風力発電建設にかかる環境アセスメントガイドライン (暫定版ver.01)(2023)
https://ornithology.jp/materials/Windfarm/gudeline_v1.pdf

*2 洋上風力発電所に係る環境影響評価手法の技術ガイド(環境省大臣官房環境影響評価課・経済産業省産業保安グループ電力安全課、2023年12月)
http://assess.env.go.jp/files/0_db/seika/1062_01/guide_1.pdf
http://assess.env.go.jp/files/0_db/seika/1062_02/sankou.pdf

*3 洋上風力発電に係る新たな環境アセスメント制度の在り方について(洋上風力発電の環境影響評価制度の最適な在り方に関する検討会、2023年8月)
http://assess.env.go.jp/files/0_db/seika/1055_03/report.pdf

 

図1.主旨説明の様子.

 

図2.自由集会の会場.

 

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世界自然遺産・知床における携帯電話基地局と太陽光パネルの設置計画の中止を求める意見への賛同について

鳥類保護委員会

標記の件につきまして、令和6年6月19日付で日本環境会議(JEC)より世界自然遺産・知床における携帯電話基地局と太陽光パネルの設置計画の中止を求める意見書が発出されました。日本鳥学会では、本意見書の趣旨に賛同することを表明しました。

世界自然遺産・知床における携帯電話基地局と太陽光パネルの設置計画の中止を求める意見への賛同について

 

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日本鳥学会 2023年度大会自由集会報告 - W06 野鳥観察をとりまく現状と課題

板谷浩男1),早矢仕有子2),渡部良樹3),富岡辰先4) ,須藤明子5),守屋年史6),高橋満彦7)

1)パシフィックコンサルタンツ株式会社(当時),2)北海学園大学,3)日本野鳥の会東京,4)財団法人日本野鳥の会,5)株式会社イーグレット・オフィス,6)NPO法人バードリサーチ,7)富山大学

 

1.趣旨説明,観察者の有無がオオタカの繁殖成功率に与えた事例紹介 板谷浩男

近年,デジタルカメラが普及したことにより,野鳥観察者の大半がカメラを保持し,野鳥を観察するだけではなく,野鳥を撮影することを目的にしている観察者が大多数を占めるようになりました.そして,撮影した画像や動画はSNSに投稿することで認証要求を得るということが一般化しています.鳥の生態を熟知していなおらず自らの力で発見したり識別したりする力がなくてもSNSで情報を得ることで,簡単に野鳥がいる場所を知ることができ,撮影できるという時代になりました,また,撮影者の中には,野鳥を生物としてではなく風景などと同様にとらえ,生き物を相手に撮影をしているという認識がなく撮影をしている人が出てきており,観察者(撮影者)の存在が野鳥達に対して必要以上に影響を与えることになる例も見受けられます.

結果として,観察者の存在が希少種の保全に悪影響を与えたり,撮影に対する欲求が過剰になることで社会的なルールを無視する行動が見受けられるようになり,野鳥観察自体が社会的な問題となりつつあります.私がオオタカの調査をしている東京都の都市公園では,オオタカは人に慣れているから繁殖期にむやみにオオタカに近づいて撮影をしても,繁殖に影響を与えないという誤った認識をSNSで発信する人も存在しており,危惧しているところです.調査結果でも,観察者に対して何らかの対策が講じられているところと,対策が何もされず観察者が営巣地付近を自由に行き来できる場所とでは,繁殖成績に大きな差が生じていました.

今回主催した自由集会では,いくつかの事例を参考に,野鳥観察が,希少種保全に与えている影響や,社会的にも問題を生じさせている現状について議論しました.また,総合討論では,参加者から情報や対処方法を求めながら,この問題に対して研究者や鳥に係る仕事をしている者がそれぞれの立場でどのような対応をすべきかを探りました.

写真1 犬を連れてオオタカの営巣地に接近するカメラマン

2.野鳥観察に関するトラブルの事例の報告 渡部良樹

野鳥観察に関するトラブルを,カメラマンや観察者によって1)長期的に問題が生じた事例と2)一時的に問題が生じた事例に分け,さらにa)鳥類(や自然環境)への影響とb)人への影響に分けて紹介しました.1)長期的に問題が生じた例として,八王子城跡の事例を紹介しました.ここはサンコウチョウなどのヒタキ類夏鳥の撮影地として有名で,5,6月は夏鳥の営巣前からバードウォッチャーやカメラマンが集まり,サンコウチョウ等の巣が常時カメラマンに覗かれる事態が発生しています.1-a)カメラマンや観察者が鳥類に対して与えた影響の結果の可能性があることとして,サンコウチョウ生息数の減少,営巣場所の変化(人から見づらい場所に造られる)が挙げられます.また,カメラマンが悪影響を与えたと考えられる事例として,オオルリの囀りの音声が流された事例がありました.1-b)人に対して与えた影響と考えられるものは,通行路に居座る,撮影機材を置くなどによる通行妨害,ゴミの廃棄,路上駐車などがあります.2)一時的に問題が生じた例として,2019年-2020年にコノドジロムシクイが越冬した八王子市館町の住宅街の事例と,2013年にセアカモズとアカモズの交雑個体が越冬した平塚市の耕作地の事例を紹介しました.2-a) 鳥類に対して与えた影響としては,前者では対象の鳥を見ていないため不明で,後者では対象の鳥への人の接近により,鳥が遠くへ逃避したことが挙げられます.2-b)人に対して与えた影響としては,前者では民家にレンズを向けることによるプライバシーの侵害と,路上に人が集まったことによる通行妨害が挙げられます.後者では多くの人や車が路上に集まったことによる通行妨害や,私有地(耕作地)への不法侵入が挙げられます.

カメラマンや観察者によるトラブルの性質は,長期的なものと短期的なものではやや異なり,長期的なトラブルは,毎年渡来する渡り鳥や留鳥の生息地で生じ,放置すると解決せずに続くことが挙げられます.一方,一時的なトラブルは迷鳥や珍鳥の情報が流れた場合に生じ,鳥類への影響は,個体に対するものがあったとしても,種や個体群レベルにまで及ぶことは少なく,鳥類,人への影響はともに放置しても自然解消する可能性があります.しかしこのような自然との接し方や認識は,影響の大小にかかわらず他の場所や人へ伝播拡大する可能性があり,放置すべきではないと考えています.

 

3.絶滅危惧種シマフクロウの見方と見せ方 早矢仕有子

絶滅危惧種のシマフクロウは、夜行性の留鳥で家族単位で暮らしています。国はシマフクロウの保護事業を始めた1984年からずっと、人の接近による繁殖や採餌の妨害を防ぐため,生息場所を非公開にしてきました.しかし,インターネットの普及に伴い,採餌場所や営巣地で撮影された野生個体の写真と生息地情報がウェブ上に拡散し,カメラマンによる生息地への入り込みが急増しています.シマフクロウを餌付けし集客に利用する宿泊施設も複数存在し、写真撮影の便宜を図っています.また、中には,立入禁止の看板や柵を無視し、国がシマフクロウ保護のために設置している巣箱や補助給餌場所への侵入を繰り返す者も現れ,保護増殖事業の継続に大きな支障が生じています.シマフクロウ個体および営巣地への過度の接近や営利目的の餌付けに法的規制が無い現状を改める必要があります.

その上で、野生個体に悪影響を与えず、生息地情報を隠したままで生態や保護の現状を知ってもらう取り組みとして、筆者は、繁殖巣からのライブ配信を試み、シマフクロウの子育ての様子をインターネットで見守る活動への参加を呼びかけてきました。参加者には、シマフクロウへの知識・愛着・保護活動への共感の高まりが確認できました。この取り組みを定着・拡大することで、営巣地への侵入防止にも貢献できると考えています。

 

4.イヌワシの営巣をYouTubeでライブ公開〜その経緯と課題 須藤明子

滋賀県の伊吹山のイヌワシ生息地では,1990年代からイヌワシの撮影を目的としたカメラマンによる樹木伐採や餌付けなどの問題が続いています.環境省,滋賀県,伊吹山自然再生協議会による看板設置やパトロールなどが行なわれてきましたが,効果は限定的でした.さらに近年になって,一部のカメラマンが巣に接近し,卵や雛が死亡する恐れが高まったため,「見守りによる監視」と「生息地保全への理解」を目的として,巣内でのようすをYouTubeでライブ配信する取り組みを2023年4月1日に開始しました.

イヌワシなど希少種の生息場所は,保全の観点から非公開が原則です.また普通種であっても営巣の写真や映像の公開は控えるべきだとされています.そこで,一般公開に先立って,希少種の研究者や保全の専門家に限定公開して意見を聞きました.その結果,これまでの保全に関する取り組みの実績や他に良い保全策が見当たらないこと等から,公開に賛同する意見が多数を占めたため,一般公開に至りました.

ライブ配信終了までの3カ月間の視聴回数は146万回を越え,多くの視聴者がイヌワシの育雛を見守り続けたことにより,巣に接近するカメラマンは見られず,大きな監視効果が得られました.

また,雛が食物不足により巣立ちできず,親鳥が育雛を断念する結果となり,視聴者はニーナと名付けた雛が,健気に親鳥の帰りを待つ姿を目の当たりにすることで,イヌワシが置かれた深刻な食物不足を痛感しました。ニーナを助けるために何ができるのか,チャット機能を活用して海外を含め視聴者同士が真剣に議論した結果,健全な自然環境や生物多様性を保全するための取り組みに共感し,自らもできることをやろうと考える視聴者が増えました.イヌワシの生息地保全を目的としたクラウドファンディングが,数時間で目標額200万円に到達し,さらに700万円を超える資金が集まったことも,これを反映していると思われました.視聴者の多くは,もともと野生動物や自然に無関心であったことから,希少種や生物多様性保全について,広く知ってもらう教育効果も大きかったと考えられました.

一方,巣から落下した雛の救護について,人による自然界への介入行為への批判をはじめ多様な意見が寄せられました.親鳥の育雛放棄等の場合に備え,域内保全から域外保全(飼育個体群への参入)への切り替え等について,関係者による情報共有と協議の場が必要と思われました.

写真8 伊吹山ドライブウェイの立ち入り禁止区域(道路交通法)でイヌワシを撮影するカメラマン

5.日本野鳥の会のマナー問題への対応について 富岡辰先

これまでに,日本野鳥の会では,①ホームページ等での撮影等のマナーの普及,②テレビ番組・新聞・写真コンテスト等でマナー違反があった場合に再発防止の要望書を送る等の再発防止等の申し入れ,③会員や一般の方から,支部の探鳥会のマナー違反や支部報でのマナー違反の報告があった場合に一般市民や各支部等に申し入れ,等の対処を実施してきました.また,「野鳥観察・撮影の初心者に向けた,マナーのガイドライン」(2022)の作成や,マナーガイドラインのパンフレット(2023)を作成し,探鳥会等で配布を実施するなどの活動をしています.

6.野鳥撮影の法的規制 高橋満彦

日本国内では,野鳥撮影等の一般的規制(広く適用されるもの)はありません.絶滅危惧種への撮影等に対する規制もありませんし,保護区における規制についても,法律で一定程度導入され始めましたが,適用されるのはわずかな面積に過ぎません.一方,海外ではイギリスのWildlife & Countryside Actは,保護鳥の繁殖行動の妨害を禁止し,巣の撮影には撮影ライセンスを発行しています.アメリカのEndangered Species Actでは,絶滅危惧種のハラスメント“harass”は,捕獲と同義として処罰され,写真家の訴追も発生しています.また,その他の国でも,国立公園等では過剰接近,餌付け,コールバック,立入り等の規制が実施されている例があります.

海外の国立公園や保護区は原則として国有地であるため圡地所有権等に基づいて規制ができますが,日本の自然公園制度(国立公園)は,土地の権原に基づかない公法的規制で,私有地を指定できる反面,厳しい規制がしづらい状況です.また,環境保全当局の取締り権限,機動力・能力の差もあります.山野で取締りが困難なのは,どの国でも同じですが,海外ではレンジャーに警察権限があるなどの差もあります.

7.総合討論 守屋年史

規制・マナーの問題について,科学的な議論を行うためのエビデンスの収集などが鳥学会として貢献できるポイントという意見を頂いたほか、規制やマナー普及のために野鳥の観察者や撮影者の関係者に適切に届く効果的な情報発信が,実装のために必要という意見,また,撮影を主体としない野鳥観察の魅力を普及するといった昨今のスタイル自体を見直すことも重要な視点ではないかとの意見を頂きました.

写真8 自由集会の様子

<参加者との意見交換>

  • 自然観察ツアーを開催するにあたり,マナーを教えることは大切だが,あまりマナーを強調すると楽しむところが無くなってしまう可能性があるので,そこは難しい.
  • マナー問題は避けて通れない問題であるため,ツアー会社は,関係する団体や組織と協力し情報を発信していく必要がある.届けたい人への効果的な情報発信が必要.
  • 説得力を持たせる方法としてエシカルフォト(倫理的な写真撮影)などの議論が足りないような気がする.
  • 鳥学会員としては,このような問題が鳥にどういった影響を与えているかを定量的に示していく必要がある.
  • 一方的にこういうことは悪いから止めろと言っても相手が反発するだけで難しい.鳥学会に属する研究者は,鳥に影響を与える行為について,科学として何が,どう影響するかを明確に示すことが大事だと思う.
  • 鳥の野外調査の倫理規定がないため,学会がバンディングなどの野外調査(研究)に対しても倫理的な観点と必要性をしっかりと示していくべき.
  • マナー問題には教育が重要だと感じる.子供達から教育を進めていくのがよい.
  • カメラを捨てたバードウォッチングを復活させた方がよいと思う.カメラで撮影することはとても楽しいことだが,あえてカメラを持たないで観察にシフトした鳥見をすることで,鳥との接し方などについて見直すきっかけになるのではないか.
  • 環境アセス関連の調査者には,調査圧について理解していない方がいる.今後,一般の方への啓発含め,業務としている方々への注意喚起も必要ではないか.

また,会場では以下のようなアンケートも実施したところ,問題事例把握や配慮を行っているとの意見も多く寄せられ,関心の高い事柄であることが実感できました.アンケートの質問は、以下のとおりです.

(質問1)野鳥観察や撮影に関わる問題事例を知っていれば教えてください.
(質問2)野鳥観察や撮影についてご自身で気をつけていることがあれば教えてください.
(質問3)自由集会の感想

なお,アンケート継続して実施しているため,この記事を読んだ方の中からもアンケートに回答頂けると幸いです.

アンケートのURL
https://docs.google.com/forms/d/1k-xCtbwWDEUn00EQpVyzTW2EKjDFyfzwui5_6rOtCvY

2024年大会でも自由集会を開催予定です.
皆様、是非ご参加ください.

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【連載】家族4人で研究留学 in オーストラリア(1)留学のきっかけから渡航まで

片山直樹(農研機構 農業環境研究部門 農業生態系管理研究領域)

皆さま、こんにちは。私は今年の4月中旬から、オーストラリアのクイーンズランド大学において、1年間の研究留学を始めました。カワウを愛する熊田那央さんと、二人の子どもたち(7才・3才)も一緒に来ています。今回、鳥学通信で連載記事を書く機会をいただきました。そこで、私たち研究者夫婦それぞれの視点で、日々の研究や暮らしのこと、そしてオーストラリアの鳥についてもお伝えしたいと思います。第1回目の今回は、私が留学のきっかけから渡航までをお話しします。

私はこれまで、日本で田んぼの鳥やその他の生きものを研究してきました。今回の留学では、こうした生きものたちにとっての「田んぼ」という生息地の大切さを、世界中の論文やデータを使って明らかにしたいと考えています。田んぼはアジアを中心に世界中に広がっていますので、英語や日本語の論文はもちろんのこと、中国語・韓国語・スペイン語などで書かれた論文やデータが存在するかもしれません。また、世界各地の研究者との連携も欠かせません。そこで、多言語の研究に詳しいクイーンズランド大学の天野達也博士と協力して、研究を進めたいと考えたのがきっかけの一つです。

茨城県の田んぼでチュウサギの研究などをしていました

オーストラリアを選んだ理由は、それだけではありません。オーストラリアにも田んぼがあって、ニューサウスウェールズ州の田んぼには絶滅危惧種のオーストラリアサンカノゴイAustralasian Bitternなどの水鳥が生息しています。この鳥の保全プロジェクトを進めているMatthew Herring博士とお会いして、ぜひ共同研究を進めたいと考えています。実はすでに、この記事が完成する少し前に彼と会うことができて、12月頃に田んぼを案内してもらえることになりました。その様子についても、今後の記事でお伝えできればと思っています。

 

オーストラリア産のお米(2キロで7~800円)

さて当たり前といえばそうなのですが、オーストラリアでは基本的に英語で会話をしながら、日々の生活や研究をしなければなりません。海外留学に行くのだから、英語は問題なく話せるのだろうと思うかもしれませんが、私にとって「英語」は学生時代からとても苦手なものです。私はもうすぐ40才になりますが、海外経験も少ないし、国際会議での発表も片手で数えるほどしかありません。若い時から海外の研究室で活躍されている方々を見ると、本当にすごい努力を積み重ねたのだろうなぁと尊敬します。

そんな自分ですが、少しずつ英語学習(NHKラジオ英会話やレアジョブ英会話など)を続けたことで、学生の頃よりは英語への抵抗感もちょっと薄れてきました。そして一度きりの人生、一回くらい生まれ育った日本を離れてみたいと思うようになりました。今の自分の英語レベルでは、まだ海外で苦労することは分かり切っていますが、まぁそれも良い経験かなと思うようにもなってきました。

しかし、独身だった頃ならともかく、今は家族がいます。妻は国立環境研究所で働いていますし、子どもたちもいます。住み慣れた日本ですら子育てに右往左往している毎日なのに、海外で生活なんてできるのでしょうか。子どもたちは、現地の小学校や保育園に通えるのでしょうか。考えだすと、不安はつきません。こういう色々な思いを、妻に相談することにしました。彼女がもし反対すれば、留学は辞めようと思いました。ところがいざ相談してみると、「ぜひ挑戦してみたら?オーストラリアの鳥も見られるし」と言ってくれました。本当に勇気づけられました。もっとも内心では、色々な葛藤やトレードオフを考えたでしょうし、そのことは彼女自身が次の記事で話してくれるかもしれません。

オーストラリアの鳥についても、次回以降でお伝えします

私が働いている農研機構には、「在外研究制度」という留学制度があります。とはいっても誰でも自由に行けるわけではなく、理事の方々に研究留学の目的を理解していただくための書類やプレゼンが必須となります。農研機構は農業の研究所なので、農業における生物多様性の価値をきちんと伝えることが大切です。私も相当な時間をかけて資料を準備し、なんとか採択されました。採択者は、現地での滞在費と研究費の補助がもらえます。ただし、家族の費用は自腹となりますし、コロナ渦や円安によってオーストラリアの生活費は高騰しているので、相応の赤字は覚悟しています。

留学が決まってからは、たくさんの書類仕事が待っていました。何よりも大変だったのは、現地でのアパートの契約でした。近年のオーストラリアは、移住者がとても多く、空き部屋がすごく少ないです。そのため、人気の物件には数十人が内見にくるほどの競争率になっています(←内見しないと応募できない物件が多いです)。私の場合は、天野博士が代理で内見を行ってくれました。結局、7~8件ほど応募して、出発の二週間前になって、ようやく1つの物件が決まりました。入居可のメールが届いた時は、論文アクセプトのメールよりもうれしかったです。その後は、直前まで荷造りに追われました。子どもたちの持ち物が多いこともあって、スーツケース5個とバッグ2個の大荷物になってしまいました。

大荷物での移動は大変でした…

こうして4月15日の夜9時、成田空港からブリスベン空港に発ちました。最後に空港のレストランで食べた蕎麦が美味しくて、次においしい蕎麦を食べられるのは1年後かな…なんてことを考えました。機内では、家族4人がひと並びになる座席でしたが、子どもたち2人を少しでも広く寝かせてあげたいと思い、大人たちは狭いスペースに縮こまって、まともに寝ることができませんでした。それでも翌朝、快晴のブリスベンの地に降り立った瞬間、疲労感がどこかに飛んでいきました。これから、どんな出会いが待っているのでしょうか。長いようで短い1年間の、一日一日を大切にしたいと思います。

4月16日のブリスベンは快晴で、日中は汗ばむほどの暑さでした。
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日本鳥学会2023年度大会参加報告

日本鳥学会2023年度大会参加報告

北海道大学 文学院 博物館学研究室 修士1年
池田圭吾

2023年9月15日から18日にかけて,金沢大学で開催された日本鳥学会2023年度大会に参加しました.今年で2回目の参加となり本大会で私は,「江戸時代の北海道におけるワシの分布」という題目でポスター発表を行いました.また,3日目に行われた懇親会にも初めて参加し,非常に有意義な時間を過ごすことができました.

江戸時代のワシの分布に関するポスター発表では,幸いなことに歴史資料を用いた鳥類の研究に興味を持っていただくことができ,様々な分野を専門とする方々からご意見やご質問をいただき大変実りのある時間となりました.特にご質問が多かったのは,江戸時代の北海道におけるオジロワシやオオワシの個体数に関するものでした.私自身もその点には大きな関心がありますが,歴史的な史料に残されたデータには限りがあり,個体数を算出することは容易ではありません.しかし,私が考えていたこととは異なる視点から,当時の個体数を算出する手法についてご助言をいただくこともでき,研究を進めていくうえでの視野が広がりました.

江戸時代の北海道におけるワシ猟の様子
(東京国立博物館所蔵『蝦夷島奇観』を加工、http://webarchives.tnm.jp/)

初めて参加した懇親会では,歴史的,文化的な観点から鳥類を研究している方々と意見を交わすこともできました.歴史資料に記載された鳥類に関する研究を専門としている方は少ないので,普段そのような方々とお話できることは多くありません.そのため,本大会のような貴重な機会を提供していただけることは非常にありがたいです.また,それと同時に歴史的な視点から鳥類を研究するにあたっては,現代の鳥類の生態に関する知識を学ぶことが欠かせません.ポスター発表や口頭発表ではもちろんのこと,懇親会でもイヌワシやオジロワシなど猛禽類の生態に関するお話をお聞きすることができました.ほかにも,ここには書き尽くすことができないほど様々な貴重な話をお聞きすることができました.本当にありがとうございました.

余談ではありますが,個人的にはちょっとしたトラブルもありました.3日目の朝には,会場行のバスに乗ることができず,会場から金沢駅に戻るときには数人で話しているうちに乗り過ごしてしまったのです.しかし,初対面の参加者の方からタクシーの乗り合わせを提案していただいたり,金沢駅まで電車に乗って談笑しながら帰ったりとなんとか無事に日程を終えることができました.昨年度初めてポスター発表を行ったときにも感じたことですが,このような参加者の皆様の和やかな雰囲気のおかげで,学会全体の議論が活発になると同時に,歴史的な鳥類の研究をも受け入れていただける懐の深い学会になっているのだと思います.

また,他の参加者の方々の発表で個人的に興味深かったのは,野鳥をまもる防鳥ネットの展示や販売ブースでした.地元に帰省した際に野鳥を観察しにいくと,ハス田の防鳥ネットに多くの野鳥が絡まっている様子を頻繁に目撃します.そのような姿を見るのは悲しく,水鳥によるレンコンの被害を減らすことと,防鳥ネットを野鳥にとって安全なものにすることの両立はできないのか疑問に思っていました.そんななか,羅網事故が発生しにくい防鳥ネットを開発している方による展示や販売ブースを本大会で見かけ,嬉しく思いました.本大会では,このような実践的な取り組みに関する展示とともに,レンコンの食痕から食害のもととなる加害種を推定する方法に関するポスター発表もあり,様々な視点から研究が行われていることを学びました.今後,これらの研究成果が生かされ,防鳥ネットによる野鳥の被害が減少することへの期待が膨らみました.

羅網事故の様子(筆者撮影)

話題を歴史的な鳥類の研究に戻すと,2日目の午後の自由集会では「第5回標本集会 江戸時代の鳥を知ろう」が開催されました.明治時代の標本コレクションに関する説明の後,茶の湯で使用される羽箒,江戸時代の出来事が記録された古文書,遺跡から出土した骨をそれぞれ用いて,標本に残らない江戸時代の鳥類を研究する方々の発表を聞くことができました.まさに私が学んでいる時代に関する発表ですが,手法や対象とする鳥類が異なれば知らないことばかりで,非常に勉強になりました.また,羽箒に使われた羽の種類を特定するために奔走したり,古文書からひたすら「鶴」の字を探したり,様々な分析手法を用いたりと研究に対する熱意が伝わってくる発表でした.私自身も研究を進めていくことはもちろんですが,今後このような熱意が広まり,鳥類研究の1つの分野として,古文書に限らず幅広い歴史資料から鳥類を研究する分野がさらに発展していくことを期待しています.

最後に,2023年度の大会を開催し,無事に4日間の日程を終えるためにご尽力いただいた大会実行委員やスタッフの皆様と,どんな分野でも暖かい雰囲気で受け入れていただける参加者の皆様に御礼申し上げます.そして,2024年度の大会に参加できることを心待ちにしております.

 

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日本鳥学会2023年度大会の感想

日本鳥学会2023年度大会の感想

都立国分寺高校 生物部
納谷莉子

私達都立国分寺高校生物部はカラスバトについて音声分析班とGPS班を編成し,グループでカラスバト研究を行っています.その中で私はGPS班に所属しています。私達国分寺高校生物部がカラスバトの研究を始めたのは約12年前です.はじめはカラスバトの生息する伊豆大島の林道を中心に観察を進めていましたが,カラスバトは警戒心が強く,人前にめったに姿を現さないため調査は困難でした.そこで目を付けたのが羽でした.大島公園の飼育個体の羽を拾い,いつ抜けたのかなどを調べてカラスバトの羽の生え替わりなども解明しようとしたり,安定同位体比の調査を進めたりしました.しかし,これらのことはカラスバトの生態解明にはあまり繋がらないのではないか,と考え,他の調査が始まりました.

それが,音声分析班が行っているフィードバック実験です.島の林道でスピーカーを用いてカラスバトの鳴き声を流し,それに対して野生のカラスバトはどのように反応するのか,また,その時の行動などとも照らし合わせることでカラスバトはどのようなときに,どう鳴くかを調査しました.その結果,島内でカラスバトがよく鳴く,つまりカラスバトが多くいる場所が分かり,その場所は今ではカラスバト調査の定番の場所となっています.黒田治男先生による音声分析方法の指導や,株式会社リバネスによる録音機の貸し出し等の支援もあって音声分析班は今も調査を続けています.ドローンによってカラスバトの生息地等の環境を調べることでカラスバトがどのような環境を好むか,という調査も行いました.

約2年前,大島公園でケガを負って保護していたカラスバトが回復し,放鳥されることになりました.この時,本校生物部顧問の市石博先生へ,「可能な範囲であれば研究にご協力できます」との連絡が入りました.そこで日本野鳥の会会長である上田恵介先生を通じて,国立環境研究所の安藤温子博士と連絡をとり,保護個体にGPS発信機を取り付けて放鳥しました.こうして安藤博士,大島公園との共同研究に発展し,私達GPS班の活動が始まりました.

そして,今回鳥学会大会に参加し,同じように鳥を研究する同年代の仲間たちと研究結果を共有することができ,とても充実した2日間を過ごしました.同年代の仲間のみならず,研究者の方々からも様々な方面からのアドバイスが寄せられ,これからの研究を進めるにあたり私たちが注意するべき点,よりよい研究にするためのポイント等をメンバーの皆と改めて考えるきっかけにもなりました.さらにGPS班は今回科学賞を受賞させていただきました。このような光栄な賞をいただくことができ、とても嬉しかったです。この研究を進めていく上で、GPS発信機による位置情報を取得できずデータ数が少ないこと、カラスバトの行動観察が困難なことに悩まされたこともありましたが、私たちの研究が発表を聞いてくださった方々に評価していただけたことはこれからの研究に対する意欲を高めるものとなりました。今回いただいた意見を基にこれからの研究活動に真摯に向き合い,私たちを支えてくださる皆様への感謝を忘れずにカラスバトの生態解明に励み続けたいと考えています.

最後に国分寺高校生物部は,中谷医工計測財団から助成を受けて研究活動を実施しています。この場を借りて,お礼申し上げます.

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【署名ご協力のお願い】苫東厚真風力発電事業に対する事業中止要望について

澤 祐介(鳥類保護委員長)

日本鳥学会では、学会員の提案に基づき、鳥類の保護や生息環境の保全などに関する意見書・要望書等を提出しています。

日本鳥学会は、苫東厚真風力発電事業(以下、本事業と記載)に対し、風車の建設計画を中止も含めて全面的に再考するよう要望する(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する意見書(2020年11月1日付、鳥類保護委員長名)、続けて、事業の中止を求めた(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する事業中止要望書(2021年11月25日付、日本鳥学会長名)を提出してきました。しかし、日本鳥学会だけでなく、日本生態学会日本野鳥の会など、複数の団体からも同様の要望があったにも関わらず、本事業は現在、環境アセスメントの調査・予測・評価が終了し、準備書の手続きに入る段階にまで進んでいます。

本事業に対し、日本鳥学会が要望書提出時に共同記者発表を行った地元の市民団体「ネイチャー研究会inむかわ」が、タンチョウの営巣地保護を主眼とした事業中止を求める署名活動を開始しました。多くの希少種が生息する貴重な自然環境の保全にむけ、ご賛同頂ける方は、ぜひ署名にご協力ください。

■ 署名方法

オンライン署名

書面による署名

※お問い合わせは、書面による署名のpdfに記載のネイチャー研究会in むかわまでお願いします。

関連情報

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2030年までに陸域と海域の30%を保全する30by30目標と渡邊野鳥保護区フレシマ

2030年までに陸域と海域の30%を保全する30by30目標と渡邊野鳥保護区フレシマ

田尻浩伸(公益財団法人日本野鳥の会)

私たち(公財)日本野鳥の会は今年3月に創立90周年を迎えた自然保護団体で、「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に、全国各地にお住いの会員の皆さんと都内事務局に勤務する職員が連携しながら活動しています。活動は自然の大切さを伝える普及教育的な活動や開発問題等への対応、政策提言や調査活動まで様々ですが、特徴的なものに野鳥保護区の設置があります。野鳥保護区とは、鳥獣保護管理法や自然公園法など法や条例によって保護されていない民有地をご寄付によって買い取ったり、土地を所有する個人や企業と協定を結んだりすることで希少種とその生息地を保護する取組で、1985年に静岡県沼津市に最初の野鳥保護区となる小鷲頭山野鳥保護区を寄贈いただいたことから始まりました。2024年5月現在、北海道を中心に約4,000ヘクタールの野鳥保護区を設置しています。

渡邊野鳥保護区フレシマ
フレシマの看板に止まるオオジシギ(写真:古山 隆)

さて、2022年12月、カナダのモントリオールで開催された生物多様性条約締約国会議COP15において「昆明・モントリオール生物多様性枠組*、以下枠組」が採択されました。この枠組では、2050年ビジョンを「自然と共生する世界」、2030年ミッションを「自然を回復軌道に乗せるために生物多様性の損失を止め反転させるための緊急の行動をとる」、いわゆるネイチャーポジティブ(自然再興)とし、さらにその下に23の個別のターゲットが設定されています。その中のひとつが2030年までに陸域と海域及び沿岸域の少なくとも30%を保全するという30by30目標です(ターゲット3)。

30%を保全する手法として、前述のような法や条例で保護された鳥獣保護区や国立・国定・県立公園等の保護地域指定がありますが、その指定には利害関係者の合意形成などに時間がかかることも珍しくありません。そこで大きな期待を集めているのがOECM(Other Effective area-based Conservation Measures)で、本来は保護を目的とした地域ではないものの結果的に高い生物多様性が残された地域を生物多様性の保全に活用していくというものです。OECMには自然観察の森やビオトープといった保全も目的とした地域はもちろん、企業緑地や里地里山、演習林や遊水地など本来は保全を目的としない様々な地域が含まれます。OECMに認定されると、国際的なデータベースに登録され、ウェブ上でその位置や様々な情報が公開されるようになります(https://www.protectedplanet.net/en/search-areas?filters%5Bdb_type%5D%5B%5D=oecm)。国内では、枠組採択に先駆けて2022年3月には2021年に英国で開催されたG7における約束に基づいて「30by30ロードマップ**」を閣議決定しており、2022年には自然共生サイトという名称で活動が本格化しました(当時は仮称)。2024年5月までに全国184か所が自然共生サイトとして環境大臣の認定を受けています。

タンチョウの営巣地を保護することを目的に当会が設置した渡邊野鳥保護区フレシマでは、タンチョウの営巣状況を把握するための繁殖状況調査、繁殖に影響を与える無断立ち入りなどに対応するための巡回監視や馬の放牧による植生管理などを継続しており、また過去には近隣での風力発電所建設計画に対応するためのオオワシ・オジロワシの調査などを行ってきました。生物多様性の高さと環境管理等を含めて自然共生サイトとして認定されたと考えています。

植生管理のため放牧を継続している馬
認定証を受け取った日本野鳥の会上田恵介会長。左は環境省白石自然環境局長。
令和5年度認定証授与式風景。関心の高さが分かる。

ここから少し分かりにくくなるのですが、自然共生サイトは必ずしもそのままOECMではありません。というのも、自然共生サイトは保護地域を含むことができる一方、OECMは保護地域を含まないものだからで、前述のデータベースに登録される範囲は「自然共生サイトのうち、保護地域を除いた範囲」になります。これは保護地域と重複する範囲を二重カウントしないようにするための措置です。

30by30目標達成のためには少しでも多くの地域がOECMとして保全されていく必要がありますが、自然共生サイトもしくはOECMに認定されると何かいいことがあるのでしょうか。もちろん、枠組の世界目標に貢献できる、生物多様性保全に貢献できる、そして貢献していることを対外的に広報できるといった側面もありますが、それだけでは多くの主体の参加は見込みにくいように思います。環境省が行った調査によると、企業の活用方法として自社技術の実証の場として活用しビジネスチャンスを期待する、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)による情報開示への活用を期待する、といった声があったようです。そのほか、企業が自然共生サイト申請主体を経済的に支援することで間接的に生物多様性保全に貢献する、いわゆる生物多様性クレジットとしての活用なども検討されています。この手法がグリーンウォッシュや開発の免罪符にならないよう、制度設計や運用状況に注視していく必要があると考えています。

現在召集されている第213回通常国会では、OECMに関連する取組を法に基づいたものとする「地域における生物の多様性の増進のための活動の促進等に関する法律」が可決され(4月12日)、19日に公布、施行されました。今後(来年度?)、この法に基づいて、申請者は「増進活動実施計画(自治体の場合は連携増進活動実施計画)」を策定し、環境大臣ほかの主務大臣に認定を受けると、活動場所が自然公園法や鳥獣保護管理法、種の保存法、都市緑地法ほかの手続きが必要である場合、手続きの簡素化等の特例を受けることができるようになります。また、自然共生サイトは現時点で生物多様性が高いことが求められますが、増進活動実施計画では劣化した環境の回復や創出をする場合も含めることができ、計画を実施した結果、生物多様性が高まればOECMに認定されることもできるようになります。この回復や再生は2030年までに劣化した生態系の少なくとも30%で効果的な再生を行うという枠組のターゲット2の実現に貢献します。

これらOECMに関する特例などは、鳥学会会員が野外実験や捕獲等を行う場合にはメリットとなる場合もあるように思いますが、正直なところ、生物多様性保全に関心が高い層以外からより多くの参加を得るにはちょっと弱いのではないかと感じています。私たちはメリットとして税制優遇(不動産取得税や譲渡所得税、固定資産税、相続税など)があると良いと考えていますが、なかなか難しいようです。

批判的になってしまった感がありますが、まだ課題はあるものの30by30目標による生物多様性の保全には高い効果が見込まれています。自然共生サイトはその認定にあたって面積による制限がないことから、個人でも認定を受けることが可能で、実際に自然共生サイトに認定された個人住宅のお庭もあります。皆さんも、枠組の世界目標達成に参加、またネイチャーポジティブへの貢献のため、調査を行っているフィールド等の所有者とともに申請***してみてはいかがでしょうか。私個人としては、ブランド農産物のように生物多様性保全に貢献する農地で収穫された作物として、他の作物との差別化に使ってみたいと思っています。

 

*:環境省による昆明・モントリオール生物多様性枠組パンフレットは
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_pamph_jp.pdf

枠組仮訳は
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_ja.pdf

枠組原文(英文)は
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/about/treaty/files/kmgbf_en.pdf

**:30by30ロードマップは
https://www.env.go.jp/content/900518835.pdf

***:自然共生サイト申請(前期は受付終了、後期は9月ごろ募集開始予定)は
https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/

 

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研究室紹介:鹿児島大学農学部 森林保護学研究室

研究室紹介:鹿児島大学農学部 森林保護学研究室

鹿児島大学農学部
助教 榮村奈緒子

鹿児島大学農学部農学科・森林保護学研究室について紹介させていただきます。私はこの研究室に2018年から助教として勤務しています。

鹿児島大学農学部のある郡元キャンパスは、鹿児島中央駅から徒歩15分にあり、生活には便利な場所ですが、キャンパス内には植物園や水田もあり、多くの鳥に出会えます。農学部は2024年度から1学科に改編され、森林保護学研究室のある環境共生学プログラムでは、生物多様性の保全から農林業資源に関する分野まで、幅広く学べます。環境共生学プログラムの学生は、高隈演習林や屋久島などに行く実習が多く、自然が好きな人には楽しめると思います。本研究室が担当している森林生態学実習では、県内各地で動植物を観察しますが、万之瀬川河口に行ってクロツラヘラサギなどの野鳥の観察を行います。

実は、私は鹿児島大学の卒業生で、学生時代には野鳥研究会という大学のサークルに入っていました。学生の頃は、バードウォッチングや鳥の調査バイトで、トカラ列島、奄美大島、徳之島、沖縄本島、甑島など、いろいろな島に行きました。本土でも、万之瀬川河口や国分・加治木の干拓地等に鳥を見に行きました。冬は出水のツル、秋は金峰山でタカの渡りが楽しめます。このように、鹿児島は南北600キロもあり、鳥を見るのによい場所がたくさんあるので、鳥が好きな人が大学生活をすごすのによい環境です。私は学生時代のサークル活動がきっかけとなり、野鳥だけでなく、島の生活にも興味を持つようになり、学部卒業後は鳥を見るために小笠原諸島に移住しました。その後、研究者を志すようになり、今に至ります。

森林保護学研究室は、鳥類専門の研究室ではありません。鳥や哺乳類をはじめとした森林に生息する野生動物の生態や管理について研究をしており、特に私は動物と植物の種子散布の関係に昔から興味をもっています。また、他の研究室や他大学の研究者と共同研究として、マダニやアマミノクロウサギなど、様々なテーマに取り組んでいます。鳥類に関しては、主にフィールドワークを中心とした研究に取り組んでいます。最近は、奄美のプロジェクトで、鳥類の音声モニタリングを行っています。他にも、海岸植物のクサトベラの果実二型などの種子散布に関する研究や、森林被害をもたらすシカの高隈演習林での分布状況を継続的に調べています。本研究室には、私以外にキノコや共生菌が専門の畑邦彦准教授が所属しており、セミナーなどを一緒に行っています。

卒業後の進路は、県の林業職や民間の林業職に就職する学生が多いですが、大学院に進学する学生もいます。卒業生には、本研究室での活動を含めた環境共生学プログラムでの経験を、生物多様性に配慮した持続的で安定的な森林管理に活かしてほしいと思っています。

郡元キャンパスからの桜島

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